(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
製鉄所では、鉄鋼を製造する際の副産物として製鋼スラグが多量に発生する。この製鋼スラグは、未滓化の酸化カルシウム(f−CaO)や未滓化の酸化マグネシウム(f−MgO)等を含有しており、これらが水分と反応すると、それぞれ水酸化カルシウム[Ca(OH)
2]や水酸化マグネシウム[Mg(OH)
2]を生成して体積が増大するといった膨潤現象が生じる。よって製鋼スラグを、例えば路盤材として用いると、上記膨潤現象により表層アスファルトの亀裂や隆起が経時的に生じる原因となる。
【0003】
この様な使用中の膨潤現象を抑えるべく、予め、製鋼スラグ中の上記f−CaO等をCa(OH)
2等へ水和処理すること(いわゆるエージング)が行われている。
【0004】
上記水和処理は、屋外暴露により自然に行うと長期間を要することから、より短期間で人工的に行う方法が従来より検討されている。その方法の一つとして、例えば圧力容器(オートクレーブ)を利用した加圧蒸気エージング処理がある。この方法では、スラグを表面湿潤状態または乾燥状態で圧力容器に装入し、圧力容器を密閉した後に、該容器内に加圧蒸気を供給して、エージングを促進させる。
【0005】
この様な方法を用いた技術として、例えば特許文献1が挙げられる。この特許文献1には、転炉、電気炉等により排出される未滓化石灰(フリーライム)を含有する製鋼スラグを、道路用の路盤材として適用可能な製品にエージングするため、水蒸気を利用して短時間で人工的に膨張させることが示されている。詳細には、粒径25mm以下のものが80%以上となるように破砕した常温の製鋼スラグを、圧力容器に装入し、圧力容器を密閉して該容器内に加圧水蒸気を供給し、同時に、圧力容器内およびスラグを加圧することによって凝縮した熱水を圧力容器内から排出し、これを継続することによって圧力容器内を昇温・昇圧して、該容器内を2〜10kg/cm
2−Gの飽和水蒸気雰囲気に1〜5時間保持することが示されている。尚、この処理方法では、f−CaOの水和反応に必要な水分は蒸気(気体)の状態で供給されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記方法では短時間で水和処理を完了させることができるが、長期間経過後の膨張がより抑えられた製鋼スラグ水和処理物を得るには、更なる検討を要するものと思われる。本発明は、この様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、長期間経過後にも膨張の十分に抑えられた製鋼スラグ水和処理物を、より短期間で得ることのできる方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し得た本発明の製鋼スラグ水和処理物の製造方法は、
耐熱耐圧密閉容器に製鋼スラグを入れ、この製鋼スラグを水に浸漬した状態で該容器内を減圧する脱気工程;次いで、
前記容器内を加熱および加圧し、水和処理を行う水和工程;
を含むところに特徴を有する。
【0009】
前記水和工程で、前記製鋼スラグを浸漬させた水は100℃超であることが好ましい。また前記水和工程では、前記製鋼スラグを浸漬させた水が100℃超の状態で、10時間以上48時間以下保持することが好ましい。
【0010】
前記水和工程で前記容器内を加熱および加圧する実施形態として、前記容器内に加圧気体を供給することによって、該容器内を加圧すると共に加熱することが挙げられる。
【0011】
本発明の製造方法で得られる製鋼スラグ水和処理物は、路盤材に使用すれば、本発明の効果が十分に発揮されるので好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水和処理後に長期間経過した後も、膨張の十分に抑制された製鋼スラグ水和処理物を得ることができる。得られた製鋼スラグ水和処理物は、土木・建築用材等のみならず、膨張に関して規定の厳しい路盤材にも十分適用することができる。また本発明の方法によれば、水和処理をより短期間で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述したとおり、スラグの膨張を人工的に促進させる方法の一つとして、オートクレーブ(圧力容器)を利用した加圧蒸気エージング処理がある。本発明者らも、この方法で電気炉酸化スラグの水和処理を試みた。詳細には、電気炉酸化スラグに水を散布して表面を湿潤状態とした後、これを圧力容器内に装入し、該容器を密閉後にこの容器内に加圧水蒸気を供給し、容器内の雰囲気を、温度:180℃、かつ9kg/cm
2−Gの飽和水蒸気雰囲気にして24時間保持し、水和処理を行った。しかしこの様な処理を行った場合にも、長期間経過後の膨張を十分に抑えることは難しかった。
【0015】
長期間経過後の膨張を十分に抑えるための手段として、水和処理の温度(以下、単に「処理温度」ということがある)を高めることや、この処理温度での保持時間(以下、単に「処理時間」ということがある)を長くすることなどが挙げられる。しかし処理温度が180℃よりも高くなると、飽和水蒸気圧も10atm以上と高圧になるが、この場合、高圧ガス保安法などの制約や設備費、維持費などの負荷が増大するため、実用的とは言い難い。また処理時間を長くするには、容器の処理能力を維持すべく容器サイズを大きくする必要があることから、設備的な負担が大きい。よって、処理温度は上限180℃とし、かつ処理時間はより短いことが望まれる。
【0016】
本発明者らは、この様な制約がある中で、長期間経過した後にも膨張が十分に抑制された製鋼スラグ水和処理物を得るべく、鋭意研究を重ねた。
【0017】
その結果、製鋼スラグ水和処理物を得るにあたり、
(A)耐熱耐圧密閉容器に製鋼スラグを入れ、この製鋼スラグを水に浸漬した状態で該容器内を減圧する脱気工程、次いで、
(B)前記容器内を加熱すると共に加圧して、水和処理を行う水和工程
を経ることが重要であることを見出し、本発明に想到した。
【0018】
以下、上記(A)および(B)の各工程について詳述する。
【0019】
(A)脱気工程について
スラグを水に浸漬したのみでは、製鋼スラグの微細な凹部まで水分が浸入しにくいと思われる。しかし上記の通り、製鋼スラグを水に浸漬した状態で耐熱耐圧密閉容器内を減圧することによって、製鋼スラグの細孔内に存在するガスが抜けて水に置換され、水が細孔内部にまで行き渡り、その結果、製鋼スラグと水との接触面積が増大して水和反応量が増大するため、水和反応が促進されるものと思われる。
【0020】
本発明では、この脱気工程における上記減圧の程度まで規定するものではないが、ほぼ真空となるまで脱気することが望ましい。
【0021】
尚、上記「耐熱耐圧密閉容器に製鋼スラグを入れる」実施形態として、後述する実施例3に示す通り、水浸状態の製鋼スラグを入れたスラグ保持容器(上面開放)を、この容器よりも大きい耐熱耐圧密閉容器に入れる形態の他、耐熱耐圧密閉容器内に直接、製鋼スラグと水を装入する形態であってもよい。
【0022】
(B)水和工程について
特許文献1も含めて、従来より行われている常圧蒸気エージングや加圧蒸気エージングでは、水和反応に必要な水分が蒸気として供給されるが、本発明では、水和反応に必要な水分を、蒸気として供給するのではなく液体の水として供給し、この水を製鋼スラグと接触させる。この様に液体の水を用いることによって、水和反応に寄与する水分子の存在密度が高まり、水和反応が促進されると考えられる。
【0023】
また本発明では、好ましくは上記製鋼スラグと接触させる水の温度(処理温度)が、高温であることが好ましく、具体的には上記水が100℃超であることが好ましい。尚、本発明においては、耐熱耐圧密閉容器内の雰囲気温度と製鋼スラグが浸漬している水の温度とはほぼ同じであることから、実施例においては、処理温度として、耐熱耐圧密閉容器内の雰囲気温度を測定している。
【0024】
本発明では、処理温度が高ければ高いほど好ましいが、上述の通り、実用上、飽和水蒸気圧の上限が10atmであることから、処理温度の上限は180℃となる。
【0025】
本発明では、加圧前(更には減圧前)から水和処理後まで、連続して、製鋼スラグが水浸状態(特には100℃超の高温水に浸漬した状態)にある点で、水蒸気雰囲気とした特許文献1等の加圧蒸気エージング法や、常圧蒸気エージング法とは異なっている。
【0026】
上記処理温度での保持時間(処理時間)は10時間以上とするのがよい。詳細には、所望とする特性(水浸膨張比)レベルに応じて処理時間を調整することができる。一例として挙げると、後述する実施例で得られた
図3の実施例3(本発明例)の傾向から、次の様に調整することができる。即ち、実施例3のデータ(
図3中の◆)の傾きから、63日後の水浸膨張比を1.0%以下に抑えるには、処理時間を少なくとも約10時間とするのがよいが、63日後の水浸膨張比を0.9%以下に抑えるには、保持時間を少なくとも約15時間、63日後の水浸膨張比を0.8%以下に抑えるには、保持時間を少なくとも約20時間、また63日後の水浸膨張比を0.7%以下に抑えるには、保持時間を少なくとも約25時間とすればよいことがわかる。
【0027】
尚、処理時間が、24時間程度であれば水浸膨張比を1%以下に十分抑えることができる。より高レベルの特性(長期間経過後も、より低い水浸膨張比を示すこと)が要求される場合には、より長時間の処理を行うこともできるが、本発明では、従来技術よりも短期間で処理して製鋼スラグ水和処理物を得る観点から、処理時間の上限を48時間とした。
【0028】
上記処理温度を実現させるには、前記容器内を加熱および加圧する。この「加熱および加圧」には、(a)加圧を行う結果、容器内が加熱される場合、(b)加熱を行う結果、容器内が加圧される場合、(c)加熱および加圧の両方を行う場合が含まれる。
【0029】
上記(a)の実施形態として、例えば、加圧容器とは別個に設けた設備(例えば、蒸気生成用水タンク)で加熱により生成させた加圧水蒸気を、耐熱耐圧密閉容器内に供給し、加圧によりこの容器内の温度を上昇させる方法が挙げられる。また上記(b)の実施形態として、耐熱耐圧密閉容器ごとヒーターで加熱する等して、該容器自体の温度を上げる(結果として、製鋼スラグの浸漬している水が蒸発し、容器内が加圧状態となる)方法などが挙げられる。
【0030】
製鋼スラグとしては、製鉄所で発生する予備処理スラグ、転炉スラグ、電気炉スラグ(電気炉酸化スラグ等)、鋳造スラグなどが挙げられる。
【0031】
本発明は、用いる製鋼スラグのサイズについてまで問わず、例えば後述する実施例で用いたような粒径10mm以下(目開きが10mmのふるいを通過したもの)の製鋼スラグの他、例えば路盤材用として、JIS A 5015(1992)の「4.品質」の表2に示された、HMS−25、MS−25、CS−40、CS−30、またはCS−20の各粒度を満たすものを用いることが挙げられる。
【0032】
本発明の方法は、体積膨張に関して規定の厳しい路盤材に用いた場合に、その効果が存分に発揮される。その他、例えば土木・建築用材料等にも用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0034】
[実施例1]
実施例では、
図1に示す装置を用いて処理を行った。即ち、粒径10mm以下(目開きが10mmのふるいを通過したもの)にまで破砕した電気炉酸化スラグ(100kg)(以下、製鋼スラグ、または単にスラグということがある)を、上面開放で側面および底面が鉄製の網板(網目のサイズは、前記破砕したスラグは通過しないが下記の水分は通過する大きさ)から成るスラグ保持容器1(サイズ:高さ30cm×奥行30cm×幅100cm)に充填し、スラグ表面全体が湿潤状態となるように上部から水を散布した。詳細には、水分がスラグに十分行き渡るように、スラグの充填および水の散布を交互に行った。尚、余分な水分は容器の網目から流れ出た。
【0035】
上記湿潤状態のスラグが装入された容器(スラグ保持容器)1を、耐熱耐圧密閉容器2(サイズ:内径50cm×長さ150cm)内に装入し、該容器2を密閉した。そしてこの容器2内に、蒸気生成用水タンク3の水を蒸発させて生成した加圧水蒸気を供給し、耐熱耐圧密閉容器2内の雰囲気温度(水蒸気の温度)が180℃でかつ飽和水蒸気圧が10atmになるまで昇温・昇圧した。そして、この雰囲気温度(処理温度)・飽和水蒸気圧で、処理時間:24時間(h)保持(水和処理)した後、該容器2内を常温・常圧まで降温・降圧してから、製鋼スラグ水和処理物を取り出した。
【0036】
取り出した製鋼スラグ水和処理物を用い、JIS A 5015で規定の水浸膨張試験を行って、水浸膨張比を求めた。その結果を後述する
図2に示す。
【0037】
[実施例2]
耐熱耐圧密閉容器2に加圧水蒸気を供給する前に、真空ポンプ(図示せず)を用いて耐熱耐圧密閉容器2内を、−0.088MPa−Gまで減圧する工程を追加した以外は、上記実施例1と同様にして、スラグの水和反応を行い、得られた製鋼スラグ水和処理物を用いて、JIS A 5015に記載の水浸膨張試験を行い、水浸膨張比を求めた。その結果を後述する
図2に併記する。
【0038】
[実施例3]
粒径10mm以下(目開きが10mmのふるいを通過したもの)にまで破砕した電気炉酸化スラグ(100kg)を、上面開放で側面および底面が鉄板(網目なし)から成るスラグ保持容器1(サイズ:高さ30cm×奥行30cm×幅100cm)に充填し、該容器1内のスラグが水浸状態となるよう上部から水を供給した。
【0039】
これを耐熱耐圧密閉容器2(サイズ:内径50cm×長さ150cm)に装入し、この耐熱耐圧密閉容器2を密閉した。そして、真空ポンプを用いて該耐熱耐圧密閉容器2内を−0.088MPa−G程度にまで減圧した後、該容器2に、蒸気生成用水タンク3の水を蒸発させて生成した加圧水蒸気を供給し、該容器2内の雰囲気温度(水の温度)が180℃でかつ飽和水蒸気圧が10atmになるまで昇温・昇圧した。そしてこの雰囲気温度(処理温度)・飽和水蒸気圧で、処理時間:24時間保持(水和処理)した後、該容器2内を常温・常圧まで降温・降圧してから、製鋼スラグ水和処理物を取り出した。
【0040】
尚、本実施例では、処理温度として耐熱耐圧密閉容器内の雰囲気温度を測定しているが、該雰囲気温度とスラグが浸漬している水の温度はほぼ同じであることから、上記雰囲気温度を上記水の温度とみなした。
【0041】
取り出した製鋼スラグ水和処理物を用い、JIS A 5015で規定の水浸膨張試験を行って、水浸膨張比を求めた。その結果を後述する
図2に併記する。
【0042】
図2より、次のように考察することができる。即ち、実施例3のように、スラグを水浸状態とし、耐熱耐圧密閉容器2内に装入後、該容器2内を真空引きしてから、加圧水蒸気を供給する方法で処理した場合には、スラグを水浸状態にしないか、加圧前に圧力容器内の減圧を行わない場合(実施例1、2)に比べ、経過日数が長くなっても水浸膨張比が低いままであることが分かる。
【0043】
この様な効果が得られた理由について次の様に考えられる。即ち、スラグを水浸状態とすることでスラグの水和に必要な水の存在密度を高めることができ、かつ耐熱耐圧密閉容器2内を加熱・加圧する前に該容器2内の減圧を行うことによって、スラグの細孔に存在するガスが抜けて水に置換され、そして、細孔にまで水が行き渡り、スラグと水の接触面積が増大することによって、水和反応量が増大したものと考えられる。
【0044】
特に、実施例2と実施例3を対比すると、実施例3は、スラグを180℃の水に浸漬させているのに対し、実施例2では、スラグを180℃の水蒸気に接触させた状態にあり(いずれも、加熱・加圧前の減圧あり)、同じ温度の水分を製鋼スラグと接触させている。しかし、水(実施例3)と水蒸気(実施例2)で接触形態が異なることによって、上記
図2に示す通り、経過日数が長くなったときの水浸膨張比が明らかに異なり、製鋼スラグを180℃の水に浸漬させた実施例3では、上記水浸膨張比が十分に抑えられていることがわかる。
【0045】
尚、前記実施例2,3では、いずれも処理時間を24時間としたが、前記実施例2,3において、処理時間を変化させて(前記実施例2については15〜72時間、前記実施例3については24時間の他に36時間)、水和処理を行った。そして、得られた製鋼スラグ水和処理物の水浸膨張比(63日経過後)を、JIS A 5015に記載の水浸膨張試験を行って求めた。その結果を
図3に示す。
【0046】
この
図3から、例えば24時間処理した場合、実施例2では水浸膨張比(63日経過後)が0.9%程度であるのに対し、実施例3では約0.7%程度と低く抑えられている。また水浸膨張比(63日経過後)を0.7%程度とするには、実施例3の場合、処理時間が24時間程度であるのに対し、実施例2の場合は80時間以上要することがわかる。