特許第5993323号(P5993323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993323
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】研磨材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20160901BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20160901BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
   H01L21/304 622B
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-40110(P2013-40110)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-167079(P2014-167079A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年12月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・部材イノベーションプログラム/環境安心イノベーションプログラム/希少金属代替材料開発プロジェクト」における委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 隆行
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】須田 聖一
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−122042(JP,A)
【文献】 特開平10−237425(JP,A)
【文献】 特開2007−061989(JP,A)
【文献】 未来材料,2013年 1月10日,Vol.13, No.1,p.48-52 (2013).
【文献】 Journal of the Ceramic Society of Japan,Vol.120, No.7,p.295-299 (2012).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 3/00− 3/60
B24B 21/00− 39/06
H01L 21/304
H01L 21/463
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともストロンチウム(Sr)及びジルコニウム(Zr)を含むペロブスカイト型酸化物を含む第1の相と、少なくともセリア(CeO)を含む蛍石型酸化物を含む第2の相と、を含む、粒子を含む研磨材料。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型酸化物は、SrZrOであり、前記蛍石型酸化物は、CeOである、請求項1に記載の研磨材料。
【請求項3】
SrZrOとCeOとのモル比がx:(10−x)(ただし、1≦x≦9)である、請求項1又は2に記載の研磨材料。
【請求項4】
前記粒子は、前記第1の相における前記ペロブスカイト型酸化物を含む第1の粒子と、前記第2の相における前記蛍石型酸化物を含む第2の粒子と、が複合化した二次粒子である、請求項1〜3のいずれかに記載の研磨材料。
【請求項5】
前記二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上3μm以下であり、前記二次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で前記研磨材料を5000倍に拡大した画像によって測定される、200個の前記二次粒子それぞれの粒子径の相加平均である、請求項4に記載の研磨材料。
【請求項6】
前記第1の粒子及び第2の粒子のそれぞれの平均粒子径が10nm以上200nm以下であり、前記第1の粒子及び第2の粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で前記研磨材料を10万倍に拡大した画像によって測定される、200個の第1の粒子及び前記第2の粒子のそれぞれの粒子径の相加平均である、請求項4又は5に記載の研磨材料。
【請求項7】
研磨用組成物であって、請求項1〜6のいずれかに記載の研磨材料を含有する、組成物。
【請求項8】
研磨材料の製造方法であって、少なくともSr及びZrを含むペロブスカイト型酸化物の第1の原料と、少なくともCeOを含む蛍石型酸化物の第2の原料と、を準備する工程と、前記第1の原料と前記第2の原料とを用いて、前記ペロブスカイト型酸化物を含む第1の粒子と、前記蛍石型酸化物を含む第2の粒子と、が複合化した二次粒子を合成する工程と、
を備える製造方法。
【請求項9】
前記合成工程は、噴霧熱分解法で実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
被研磨体の生産方法であって、請求項7に記載の研磨用組成物を用いてワークを研磨する工程、を備える、方法。
【請求項11】
研磨材料のスクリーニング方法であって、1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物の原料と、セリア(CeO)の原料とを含む原料液を準備する工程と、前記原料液から前記ペロブスカイト型酸化物と前記セリアを合成する条件下で、前記ペロブスカイト型酸化物相とセリア相とをそれぞれ含む粒子の合成を評価する工程と、
を備え、セリアとの複合化に適したペロブスカイト型酸化物をスクリーニングする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、研磨材料、研磨用組成物、研磨方法及び研磨材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子デバイスや半導体デバイスにおけるガラス、セラミックス、金属など各種材料の研磨、特に精密研磨に用いる砥粒(研磨材料)としては、セリアを含む研磨材料が用いられている。セリアは、研磨において、化学作用性及び機械作用性を併せ持つ。こうした研磨材料として、セリア以外に、ペロブスカイト型酸化物からなる研磨材料(特許文献1)、セリウム及びジルコニウムを含む研磨材料(特許文献2)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ケイ素からなる研磨材料(特許文献3)、酸化セリウム、ランタン、アルカリ土類金属、及びジルコニウムを含む研磨材料(特許文献4)が知られている。
【0003】
さらに、特定の鉄系ペロブスカイト型酸化物がセリアに替わる新たな研磨材料として開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−107028号公報
【特許文献2】特開平10−237425号公報
【特許文献3】特開2007−61989号公報
【特許文献4】特表2012−524129号公報
【特許文献5】特開2012−224745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の研磨材料は、研磨速度が低いという問題がある。また、特許文献2〜4に係る製造方法によっては、ジルコニウム又は酸化ジルコニウムがセリア中に固溶、もしくはセリウム又は酸化セリウムが酸化ジルコニウム中に固溶するために、材料設計が複雑になり、研磨材料の化学作用性及び機械作用性を制御することは困難である。また、特許文献5に開示される研磨材料も更なる研磨速度の向上が求められていた。
【0006】
本明細書は、化学作用性及び機械作用性のバランスに優れた研磨材料を提供することを1つの目的とし、表面平滑性能や研磨速度に優れた研磨材料を提供することを他の1つの目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決するため、ペロブスカイト型酸化物を含む相と蛍石型酸化物を含む相とを含む粒子を含む研磨材料を作製し、当該研磨材料が高い研磨速度及び表面平滑性を有することを見出し、化学作用性及び機械作用性のバランスに優れることを見出した。即ち、本明細書によれば以下の手段が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)少なくともストロンチウム(Sr)及びジルコニウム(Zr)を含むペロブスカイト型酸化物を含む第1の相と、少なくともセリア(CeO)を含む蛍石型酸化物を含む第2の相とを含む、粒子を含む研磨材料。
(2)前記ペロブスカイト型酸化物は、SrZrOであり、前記蛍石型酸化物は、CeOである、(1)に記載の研磨材料。
(3)SrZrOとCeOとのモル比がx:(10−x)(ただし、1≦x≦9)である、(1)又は(2)に記載の研磨材料。
(4)前記粒子は、前記第1の相における前記ペロブスカイト型酸化物を含む第1の粒子と、前記第2の相における前記蛍石型酸化物を含む第2の粒子と、が複合化した二次粒子である、(1)〜(3)のいずれかに記載の研磨材料。
(5)前記二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上3μm以下であり、前記二次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で前記研磨材料を5000倍に拡大した画像によって測定される、200個の前記二次粒子それぞれの粒子径の相加平均である、(4)に記載の研磨材料。
(6)前記第1の粒子及び第2の粒子のそれぞれの平均粒子径が10nm以上200nm以下であり、前記第1の粒子及び第2の粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡で前記研磨材料を10万倍に拡大した画像によって測定される、200個の第1の粒子及び前記第2の粒子のそれぞれの粒子径の相加平均である、(4)又は(5)に記載の研磨材料。
(7)研磨用組成物であって、(1)〜(6)のいずれかに記載の研磨材料を含有する、組成物。
(8)研磨材料の製造方法であって、少なくともSr及びZrを含むペロブスカイト型酸化物の第1の原料と、少なくともCeOを含む蛍石型酸化物の第2の原料と、を準備する工程と、前記第1の原料と前記第2の原料とを用いて、前記ペロブスカイト型酸化物を含む第1の粒子と、前記蛍石型酸化物を含む第2の粒子と、が複合化した二次粒子を合成する工程と、を備える製造方法。
(9)前記合成工程は、噴霧熱分解法で実施する、(8)に記載の方法。
(10)被研磨体の生産方法であって、(7)に記載の研磨用組成物を用いてワークを研磨する工程、を備える、方法。
(11)研磨材料のスクリーニング方法であって、1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物の原料と、セリア(CeO)の原料とを含む原料液を準備する工程と、前記原料液から前記ペロブスカイト型酸化物と前記セリアを合成する条件下で、前記ペロブスカイト型酸化物相とセリア相とをそれぞれ含む粒子の合成を評価する工程と、
を備え、セリアとの複合化に適したペロブスカイト型酸化物をスクリーニングする、方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1において、噴霧熱分解法により合成したセラミックス粉末の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
図2】噴霧熱分解法により合成した砥粒のX線回折パターンを示す図である。
図3】試料1〜5の研磨速度及び平均面粗さRaを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の開示は、研磨材料、研磨用組成物、研磨材料の製造方法、及び研磨方法に関する。本明細書に開示される研磨材料は、ペロブスカイト型酸化物を含む第1の相と蛍石型酸化物を含む第2の相とを含む粒子であり、研磨速度及び表面平滑性に優れている。これは、化学作用性と機械作用性とのバランスがよいことに基づいている。本明細書の開示を拘束するものではないが、ペロブスカイト型酸化物が蛍石型酸化物に固溶するのではなく、これらがそれぞれ個別の結晶として複合化されており、セリアの持つ化学機械研磨性にペロブスカイト酸化物の持つ化学研磨性がさらに付与されることによって、研磨特性が向上したものと考えられる。さらに、セリアの使用量を低減することができる。
【0011】
なお、研磨材料は、通常2種の成分を併存させると、それぞれ単独の成分による研磨性能と同等、もしくはより低い研磨性能しか発揮しないのが通例である。本明細書の開示によれば、特定の酸化物を有する第1の相と第2の相とを含む粒子とすることで、2種の酸化物のそれぞれの効果を相乗的に発揮させることができる。
【0012】
また、本明細書に開示される研磨材料を用いることで、研磨特性に優れた研磨用組成物が提供される。こうした研磨用組成物を用いることで、安定的にかつ効率的に研磨工程を実施できる研磨方法や研磨製品の生産方法も提供される。さらに、本明細書の開示によれば、当該研磨材料の製造方法も提供される。
【0013】
以下、本明細書の開示の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
(研磨材料)
本明細書に開示される研磨材料(以下、単に本研磨材料という。)は、ペロブスカイト型酸化物を含む第1の相と蛍石型酸化物を含む第2の相とが複合化された粒子(以下、単に本粒子ともいう。)を含んでいる。こうした粒子は、研磨速度及び/又は表面平滑性能に優れており、結果として、化学研磨性能と機械研磨性能とに優れた研磨材料を提供できる。本研磨材料は、こうした本粒子を主体とするが、複合化されていない、第1の相からなる粒子(第1の粒子)や第2の相からなる粒子(第2の粒子)を含んでいてもよい。
【0015】
本粒子の典型形態は、第1の相からなる第1の粒子と第2の相からなる第2の粒子を一次粒子とする二次粒子の形態である。
【0016】
(本粒子)
本粒子は、ペロブスカイト型酸化物を含む第1の相と蛍石型酸化物を含む第2の相を含み、粒子を構成している。
【0017】
(第1の相)
第1の相は、ペロブスカイト型酸化物を含んでいる。ペロブスカイト型酸化物は、少なくともSr及びZrを含んでいる。このようなペロブスカイト型酸化物として、SrZrOが好ましく用いられる。
【0018】
ペロブスカイト型酸化物は、Sr及びZr以外の元素として、例えば、Y、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd等を含んでいてもよい。これらの元素は、Zrと同様に、4d遷移元素である。また、SrZrO以外のペロブスカイト型酸化物(例えばCaTiO等)を含んでいてもよい。ペロブスカイト型酸化物は、SrZrOを主体とすることが好ましく、より好ましくは、SrZrOからなる(99.9質量%以上)ことが好ましい。
【0019】
蛍石型酸化物は、CeO以外の蛍石型酸化物として、例えば、ZrO、(ZrO1−y(Y、(ZrO1−y(CaO)、CaFを含んでいてもよい(ただし、0<y<1)。蛍光型酸化物は、CeOを主体とすることが好ましく、より好ましくは、CeOからなる(99.9質量%以上)ことが好ましい。
【0020】
粒子の外形形態は特に限定しないで、各種形態を採ることができるが、好ましくは球状である。球状であると、研磨傷の発生を抑制できるからである。粒子は、外皮形状であってもよいが、好ましくは中実状である。中実状であることにより、研磨材料として要求される砥粒の硬度を確保しやすくなり、研磨によって構成する一次粒子の脱落が生じても継続的に研磨作用を発揮しやすくなる。
【0021】
(粒子の平均粒子径)
粒子の平均粒子径は、0.5μm以上3μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。粒子の平均粒子径が0.5μm未満であると、研磨速度が低くなる可能性があり、3μmを超えると、研磨傷の原因となり、表面平滑性が低下するおそれがある。粒子の平均粒子径は、個数換算であり、具体的には以下の手順で算出される。
【0022】
走査型電子顕微鏡によって、粒子の表面を5000倍に拡大し、例えば写真などの画像を取得する。該画像上で目視可能な200個の粒子の粒子径を測定する。これらの粒子径の相加平均が粒子の平均粒子径である。本粒子の粒子径は、本粒子の画像上の形態が円形又は球形)であるときには、画像で確認できる最大直径とし、円形等以外の場合には、画像で確認できる最大差し渡し径とする。なお、粒子の平均粒子径は、走査型顕微鏡による方法と同等の正確性と精度を確保できるのであれば、レーザ回折方式の粒度分布測定装置、沈降式粒度分布計を使用して求めることもできる。
【0023】
(一次粒子の平均粒子径)
本粒子が、第1の粒子と第2の粒子とを含む二次粒子であるとき、第1の粒子及び第2の粒子の平均粒子径は、10nm以上200nm以下であることが好ましい。平均一次粒子径が10nm未満であると、研磨速度が低くなる可能性があり、200nmを超えると、第1の粒子と第2の粒子が独立に研磨に作用し、複合効果が得られなくなるおそれがある。さらに好ましくは30nm以上100nm以下である。なお、ここでいう一次粒子の平均粒子径は、個数換算であり、具体的には以下の手順で算出される。また、一次粒子径の算出の場合には、第1の粒子であるか第2の粒子であるかを区別しないで算出するものとする。
【0024】
走査型電子顕微鏡によって、一次粒子の表面を10万倍に拡大し、例えば写真などの画像を取得する。該画像上で目視可能な200個の一次粒子の粒子径を測定する。これらの一次粒子の粒子径の相加平均が一次粒子の平均粒子径である。一次粒子の粒子径は、一次粒子の画像上の形態が円形又は球形であるときには、画像で確認できる最大直径とし、円形等以外の場合には、画像で確認できる最大差し渡し径とする。
【0025】
本粒子における第1の相と第2の相とのモル比は、x:(10−x)(0<x<10)は特に限定されないが、好ましくは、xは1以上9以下である。この範囲であると、セリアに比較して同等以上の高い表面平滑性能及び/又は研磨速度を得ることができる。より好ましくは、xは2以上であり、さらに好ましくはxは3以上である。また、好ましくは4以上である。また、xは好ましくは8以下であり、より好ましくは7以下である。さらに好ましくは6以下であり、一層好ましくは5以下である。
【0026】
本粒子は、公知のセラミックス合成方法で取得することができる。第1の相と第2の相とは、本発明者らによれば、互いに固溶せずに、独立した結晶相を形成できることがわかっている。例えば、第1の相の原料と第2の相の原料とを含む原料液から、共沈法等を用いて合成してもよいし、噴霧熱分解法を用いて合成してもよい。好ましくは、粒子径分布が良好である点、及び球状の二次粒子を得ることができる点において、噴霧熱分解法を用いる。噴霧熱分解法は、原料を含む溶液あるいは分散液を、焼成ガス流が流れる加熱炉に液滴状態で導入し、乾燥、熱分解を経て、合成セラミックス粒子を得ることができる。各種方法で得られた合成セラミックス粉末は、必要に応じて仮焼あるいは解砕されてもよい。
【0027】
また、本粒子は、公知のセラミックス合成法で独立して合成した第1の粒子と第2の粒子とを、混合、必要に応じて粉砕することで、複合化して二次粒子化することもできる。例えば、メカノケミカル結合法などを用いることができる。
【0028】
本研磨材料は、通常、砥粒という形態で用いられ、粉末形態となっている。本研磨材料は、ガラスに好ましく適用でき、光学レンズ用ガラス基板、光ディスクや磁気ディスク用ガラス基板、プラズマディスプレー用ガラス基板、薄膜トランジスタ(TFT)型LCDやねじれネマチック(TN)型LCDなどの液晶用ガラス基板、液晶テレビ用カラーフィルター、LSIフォトマスク用等のガラス基板などの、各種光学、エレクトロニクス関連ガラス材料や一般のガラス製品等の仕上げ研磨に用いられる。
【0029】
本研磨材料は、各種の研磨方法及び研磨対象に適用できる。例えば、従来、セリアが研磨材料として用いられていた研磨方法及び研磨対象に適用できる。例えば、本研磨材料を適用する研磨方法としては、通常の研磨のほか、化学機械研磨が挙げられる。また、本研磨材料を適用する研磨対象(ワーク)は特に限定されないで、ガラス、金属、セラミックス等が挙げられる。
【0030】
(研磨材料の製造方法)
上記のとおり、本明細書によれば、研磨材料の製造方法も提供される。本製造方法は、少なくともSr及びZrを含むペロブスカイト型酸化物の第1の原料と、少なくともCeOを含む蛍石型酸化物の第2の原料と、を準備する工程と、前記第1の原料と前記第2の原料とを用いて、前記ペロブスカイト型酸化物を含む第1の相と、前記蛍石型酸化物を含む第2の相と、が複合化した二次粒子を合成する工程と、を備える。合成工程では、好ましくは噴霧熱分解法を用いる。噴霧熱分解法によると、比較的均一な粒子形状及び粒子径分布をもった複合粒子を得ることができ、研磨材料として好適である。
【0031】
噴霧熱分解法における原料の調製方法は、当業者において公知であり、当業者であれば、特定のペロブスカイト型酸化物と蛍石型酸化物に対応する原料(溶液又は分散液)を準備、合成条件を設定することができる。
【0032】
(研磨用組成物)
本明細書に開示される研磨用組成物(以下、単に、本組成物という。)は、本研磨材料を含有する組成物である。本組成物の形態は特に限定されない。本組成物は、粉末等の固形であっても、スラリー形態であってもよい。また、本組成物は、そのままワークの研磨に用いられるあるいは適当な媒体に適宜分散しあるいは当該媒体で適宜希釈してワークの研磨に用いられるように構成されていてもよい。研磨材料は、通常、研磨時にスラリーとして使用される。本組成物は、本研磨材料と同様の研磨方法及び研磨対象に適用することができる。
【0033】
本組成物は、研磨材料としては、本研磨材料のほか、本研磨材料以外の他の研磨材料を含むことができる。こうした研磨材料としては、例えば、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化クロム、炭化ケイ素、ダイヤモンドが挙げられる。なお、これらの他の研磨材料の本組成物における含有比率は特に限定されない。
【0034】
本組成物がスラリー形態を採るとき、本研磨材料を本組成物の全質量に対して1質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは3質量%以上である。また、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0035】
本組成物がスラリー形態を採るとき、研磨材料を分散する媒体は、特に限定されないで、公知の研磨スラリーに用いられる媒体を用いることができる。例えば、水、水溶性有機溶媒及びこれらの混液から選択される水性媒体を用いることができる。
【0036】
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数が1以上10以下程度の1価アルコール類、エチレングリコール、グリセリン等の炭素数3以上10以下程度の多価アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。なかでも、水、アルコール及びグリコールが好ましく用いられる。
【0037】
本組成物は、本研磨材料及び他の研磨材料を含む場合には、これらを媒体に良好に分散させるために分散剤を含むことができる。かかる分散剤としては、トリポリリン酸塩のような高分子分散剤、ヘキサメタリン酸塩等のリン酸塩、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子などの添加剤を添加することもできる。これらの添加剤の添加量は、研磨材に対して、0.05質量%以上20質量%以下の範囲内であることが一般的に好ましく、特に好ましくは0.1質量%以上10質量%以下の範囲である。なお、分散剤としては、このほか、アルカリ、無機塩類が挙げられる。
【0038】
また、本組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等や両性イオン界面活性剤が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
さらに、本組成物は、研磨対象や研磨方法に応じた各種の成分を含んでいてもよい。例えば、化学機械研磨の場合には、ワーク表面を改質するための酸やアルカリを含んでいてもよい。また、金属研磨の場合には、キレート剤を含んでいてもよい。
【0040】
本組成物は、本研磨材料ほか、上記した成分等公知の研磨用組成物に用いられる材料を用いて、公知の方法で製造することができる。たとえば、スラリー形態の本組成物は、本研磨材料等の研磨材料を水性媒体に分散させて得ることができる。必要に応じて、湿式粉砕を組み合わせてもよい。あるいは、本研磨材料を乾式粉砕後に、水性媒体に分散させてもよい。
【0041】
(被研磨体の生産方法)
本明細書によれば、本研磨用組成物を用いてワークを研磨する工程、を備える、被研磨体の生産方法も提供される。本生産方法によれば、効率的に表面平滑性の良好な被研磨体を得ることができる。本生産方法は、従来、セリアが研磨材料として用いられていた被研磨体の生産方法並びに研磨対象に適用できる。例えば、本生産方法は、通常の研磨のほか、化学機械研磨が挙げられる。また、本研磨材料を適用するワークは特に限定されないで、ガラス、金属、セラミックス等が挙げられる。
【0042】
(研磨材料のスクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、
1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物の原料と、セリア(CeO)の原料とを含む原料液を準備する工程と、前記原料液から前記ペロブスカイト型酸化物と前記セリアを合成する条件下で、前記ペロブスカイト型酸化物相とセリア相とをそれぞれ含む粒子の合成を評価する工程と、を備えることができる。本方法によれば、セリアとの複合化に適したペロブスカイト型酸化物をスクリーニングすることができる。
【0043】
本スクリーニング方法は、2種以上の成分を同時に合成して複合化するとき、セリア相と独立した結晶相を形成できるペロブスカイト型酸化物をスクリーニングできる。本発明者らによれば、こうしたスクリーニング方法で抽出されたペロブスカイト型酸化物の相とセリア相との複合化により、新たな研磨材料を提供できる可能性がある。なお、合成評価工程は、噴霧熱分解法を含む公知のセラミックス合成法で行うことができる。
【0044】
以上、本明細書の開示の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【実施例1】
【0045】
以下、本明細書の開示を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本明細書の開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例2】
【0046】
Sr源として硝酸ストロンチウム、Zr源として硝酸ジルコニルを用いて、SrZrOの酸化物換算で0.4mol/Lの原料溶液を調製した。また、Ce源として硝酸セリウムを用いて、CeOの酸化物換算で0.4mol/Lの原料溶液を調製した。次いで、これらの各原料溶液から算出されるSrZrOとCeOとのモル比が表1に示す各種比率となるように、各原料液を混合して噴霧熱分解用の原料溶液(試料1〜5、比較試料1、2)を調製した。これらの各種噴霧熱分解用の原料溶液を噴霧熱分解法に適用して、SrZrOとCeOとの複合粒子を得た。合成にあたって、加熱温度は、加熱炉の入り口付近を200℃とし、さらに400℃、800℃とし、出口温度を1000℃と段階的に上げ、キャリアガスとして空気を3L/分で流した。
【0047】
得られた粒子の硬度を向上させる目的で、1000℃、4時間の仮焼を行った。
【0048】
また、仮焼後の各合成粉末につき、以下の項目について試験を行った。結果を併せて表1に示す。また、これらの項目のうち、研磨速度及び平均面粗さRaの結果を図3に表した。なお、研磨速度及び表面平滑性については、対照試料として市販のセリア系砥粒を用いて試験を行った。
【0049】
(1)二次粒子及び一次粒子の平均粒子径
(二次粒子の平均粒子径の測定方法)
走査型電子顕微鏡によって、粒子を5000倍に拡大し、画像を取得した。該画像上で目視可能な200個の二次粒子の粒子径(直径)を測定し、これらの粒子径の相加平均を二次粒子の平均粒子径とした。
(一次粒子の平均粒子径の測定方法)
粒子を10万倍に拡大し、画像を取得した。該画像上で目視可能な200個の一次粒子の粒子径を測定し、これらの一次粒子の粒子径の相加平均を一次粒子の平均粒子径とした。
【0050】
なお、図1に、合成した試料1の合成セラミックス粉末の走査型電子顕微鏡像を示す。
【0051】
(2)(X線粉末回折スペクトル)
各粉末につき、X線回折パターンを取得した。結果を図2に示す。
【0052】
(3)研磨速度
各種合成セラミックス粉末15gと蒸留水300gを混ぜ、濃度5質量%のスラリーとした。研磨試験には片面研磨機(テグラシステム、丸本ストルアス製)を用いた。研磨スラリーはダイヤフラムポンプを用いて循環した。その他、研磨試験は以下の条件で行った。
研磨対象:37.5 mm×30 mm LCD用ガラス
研磨パッド:発泡ポリウレタンパッド(MH-C15A、ニッタ・ハース製)
定盤径:300 mm
定盤回転数:150 rpm
スラリー供給量:100 mL / min
研磨圧力:102 g / cm2
研磨時間:30分
【0053】
研磨速度試験に供する研磨前のLCDガラスにつき、その厚さ(各5点)及び研磨前後の重量を測定し、重量減少分を厚み換算し、研磨速度を計算した。
【0054】
(4)表面平滑性
研磨後のガラス表面性状は原子間力顕微鏡(SPM−9600、島津製作所)を用いて評価した。原子間力顕微鏡により研磨面の30μm四方の領域の平均面粗さRaを測定した。
【0055】
【表1】
【0056】
表1において( )内の数字は、比較試料3の研磨速度に対するそれぞれの試料の研磨速度の割合を百分率及び比較試料2の研磨速度に対するそれぞれの試料の研磨速度の割合を百分率で示す。
【0057】
図1に示すように、合成したセラミックス粉末を構成する粒子は、一次粒子が凝集して複合化した二次粒子であった。また、図2に示すように、二次粒子には、双方の粒子がそれぞれ個別の結晶を構成して粒子として含まれていることがわかった。
【0058】
また、表1及び図3からも明らかなように、比較試料1のSrZrOは、研磨速度に劣るが表面平滑性能に優れ、比較試料2及び3のCeO2は、SrZrOに比較して研磨速度に優れ表面平滑性能に関し、SrZrOにやや劣る。しかしながら、実施例1〜5によれば、表面平滑性能が向上し、特に、実施例1〜4においては、表面平滑性能と研磨速度との双方が向上している。このように、これらの成分が互いの特性を維持又は向上された状態で複合化できたことは、当業者といえども予測できないことであった。
【0059】
さらに、表1及び図3に示すように、試料1〜5の合成粉末を用いたスラリーは、平均面粗さRaが比較試料3(市販セリア系砥粒)の場合よりも最も小さくて半分程度(試料1)であり、最大でも、90%未満(試料2)であった。また、これらの試料は、市販セリア系砥粒(比較試料3)よりも表面平滑性能に優れる単独合成粉末(比較試料1、2)と同等あるいはより小さかった。即ち、試料1〜5のスラリーは、表面平滑性能に優れた研磨材料となっている。
【0060】
さらにまた、試料1〜4はいずれも市販セリア系砥粒(比較試料3)由来のスラリーの研磨速度の約90%以上、単独合成セリア粉末(比較試料2)の研磨速度の110%以上120%程度が確保されていた。このことから、試料1〜4は、化学機械研磨特性及びそのバランスに優れた研磨材料となっていることがわかった。
図2
図1
図3