特許第5993451号(P5993451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993451
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】殺生物性汚損除去コーティング系
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20160901BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160901BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20160901BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20160901BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20160901BHJP
   B63B 59/04 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   B32B27/00 101
   B05D7/24 302Y
   B05D5/00 H
   C09D5/16
   C09D183/04
   B63B59/04 Z
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-516298(P2014-516298)
(86)(22)【出願日】2012年6月19日
(65)【公表番号】特表2014-519978(P2014-519978A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】EP2012061625
(87)【国際公開番号】WO2012175459
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2014年2月14日
(31)【優先権主張番号】11170712.1
(32)【優先日】2011年6月21日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/499,430
(32)【優先日】2011年6月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500286643
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,フィリップ キース
(72)【発明者】
【氏名】ホーキンズ,イアン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】カリー,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】リ,ツィー
(72)【発明者】
【氏名】フィニー,アリステアー アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】シンクレアー−デイ,ジョン デビッド
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−306242(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第01409048(GB,A)
【文献】 特開昭52−063225(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/040738(WO,A1)
【文献】 特開2001−002515(JP,A)
【文献】 特表平10−501272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
B32B 1/00− 43/00
C09D 1/00− 10/00
C09D101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺生物性汚損除去コーティング系によってコーティングされた構造物であって、
a.海洋構造物または水産養殖構造物である基材を提供すること、
b.一次コーティング層で前記基材をコーティングすること、
c.前記一次コーティング層の上面に少なくとも1つの二次コーティング層を塗工すること
により得られ、
前記一次コーティング層がバイオサイドを含むコーティング組成物から形成され、
前記二次コーティング層が、前記一次コーティング層を形成するコーティング組成物よりもバイオサイドが少なく、かつバイオサイドを含まないかまたは実質的に含ないコーティング組成物から形成され、
前記一次コーティング層および前記二次コーティング層が殺生物性汚損除去コーティング系を形成し、
前記一次コーティング層および前記二次コーティング層がポリオルガノシロキサンおよびヒュームド・シリカを含む、構造物。
【請求項2】
前記コーティングの塗工後5日の前記汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度(R)と、前記コーティングの塗工後30日のバイオサイドの放出速度(R30)との比R/R30が1.5以下である、請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記比R/R30が、1.33以下である、請求項2に記載の構造物。
【請求項4】
前記基材が防食コーティングによってコーティングされ、前記一次コーティング層が前記防食コーティングを覆うタイコートとして使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項5】
前記バイオサイドは、トラロピリルのような5位および場合により1位で置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体、1,4−ジチアアントラキノン−2,3−ジカルボニトリル(ジチアノン)、ピリチオン銅、ピリチオン亜鉛、トリルフルアニド、ジクロフルアニド、および、N−シクロプロピル−N’−(1,1−ジメチルエチル)−6−(メチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミンのうちの1種以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項6】
前記一次コーティング層中の前記バイオサイドが有機系または金属有機系のバイオサイドである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項7】
前記バイオサイドが、5位および場合により1位において置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体、または1,4−ジチアアントラキノン−2,3−カルボニトリルのうちの1種以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項8】
前記二次コーティング層が非適合性流体を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項9】
前記基材が、船殻、ボートの船体、ブイ、掘削基地、オイルリグ、浮遊式生産貯蔵出荷設備(FPSO)、パイプ、発電所の冷却水取水口、漁網または魚籠である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項10】
前記構造物は船またはボートの船体であり、前記一次コーティング層が塗工されて100〜200μmの範囲の乾燥膜厚をもたらし、前記二次コーティング層が塗工されて100〜200μmの範囲の乾燥膜厚をもたらす、請求項1〜9のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項11】
汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度を制御する方法であって、前記コーティングの塗工後5日の前記汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度(R)と、前記コーティングの塗工後30日のバイオサイドの放出速度(R30)との比R/R30が、1.5以下であり、
a.海洋構造物または水産養殖構造物である基材を提供すること、
b.一次コーティング層で前記基材をコーティングすること、
c.前記一次コーティング層の上面に少なくとも1つの二次コーティング層を塗工すること
を含み、
前記一次コーティング層がバイオサイドを含むコーティング組成物から形成され、
前記二次コーティング層が、前記一次コーティング層を形成するコーティング組成物よりもバイオサイドが少なく、かつバイオサイドを含まないかまたは実質的に含まないコーティング組成物から形成され、
前記一次コーティング層および前記二次コーティング層は、ポリオルガノシロキサンおよびヒュームド・シリカを含む、方法。
【請求項12】
前記基材は、防食コーティングによってコーティングされ、前記一次コーティング層が前記防食コーティングを覆うタイコートとして使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バイオサイドは、トラロピリルのような5位および場合により1位で置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体、1,4−ジチアアントラキノン−2,3−ジカルボニトリル(ジチアノン)、ピリチオン銅、ピリチオン亜鉛、トリルフルアニド、ジクロフルアニド、N−シクロプロピル−N’−(1,1−ジメチルエチル)−6−(メチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミンのうちの1種以上である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記二次コーティング層が非適合性流体を含む、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記基材が、船殻、ボートの船体、ブイ、掘削基地、オイルリグ、浮遊式生産貯蔵出荷設備(FPSO)、パイプ、発電所の冷却水取水口、漁網もしくは魚籠、または、全体若しくは一部が水に浸かった他の水産養殖および海洋装置若しくは構造体である、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚損除去コーティングおよび殺生物性下層コーティングを含むコーティング系からのバイオサイドの浸出を制御するための汚損除去コーティングの使用に関する。本発明は、さらに、このようなコーティング系、基材上への汚損を防止するためのその使用、およびコーティング系によりコートされた基材に関する。
【背景技術】
【0002】
水に浸けられる人工の海洋構造物、例えば、船舶およびボートの船体、ブイ、掘削基地、乾ドック設備、オイル産出リグおよびパイプは、水生生物、例えば、緑藻および褐藻、フジツボ、イガイ等により汚損されがちである。このような構造物は一般的に金属製であるが、他の構造材料、例えばコンクリートを含む場合もある。この汚損は、ボートの船体にとって迷惑である。なぜなら、汚損により、移動中に水による摩擦抵抗が増加し、その結果として、速度が低下し、燃料コストが増加するためである。汚損は、静的構造物、例えば、掘削基地およびオイル産出リグの脚部にとって迷惑である。第一に、波および流れに対する汚損の厚い層の抵抗が、構造物における予期できない、潜在的に危険な応力の原因となり得るためであり、第二に、汚損により、不具合、例えば、応力クラックおよび腐食について、構造物を調査するのが困難にさせるためである。汚損は、パイプ、例えば、冷却水取水口および排出口にとって迷惑である。なぜなら、有効断面積が汚損により減少し、その結果として流速が低下するためである。
【0003】
汚損は、バイオサイドを含む防汚塗料により伝統的に防止されてきた。このバイオサイドは塗料から徐々に浸出される。商業的に最も成功している汚損防止方法は、水生動物に有毒な物質、例えば、トリ有機スズ化合物を含む防汚コーティングを使用することに関している。しかしながら、このようなコーティングは、一部のこのような毒素がある環境下で水生環境に放出された場合に有し得る有害な作用のため、次第に忌避されている。である。
【0004】
長年、例えば、英国特許第1,307,001号(特許文献1)および米国特許第3,702,778号(特許文献2)に開示のように、特定のコーティング、例えば、エラストマー、例えば、シリコーンゴムが、水生生物による汚損に耐性であることが公知である。このようなコーティングは、非殺生物性であり、一般的に疎水性であり、定着を物理的に防止する表面、および/または、前記生物が容易に付着できない表面を提供すると考えられる。このため、前記コーティングは、防汚コーティングというよりむしろ汚損除去コーティングと言うことができる。汚損除去特性は、フジツボ付着測定、例えば、ASTM D5618−94により特徴付けられ得る。この方法により、以下:シリコーン表面(0.05MPa)、ポリプロピレン表面(0.85MPa)、ポリカーボネート表面(0.96MPa)、エポキシ表面(1.52MPa)およびウレタン表面(1.53MPa)のフジツボ付着値が記録されている(J.C. Lewthwaite, A.F. Molland and K. W. Thomas, 「An Investigation into the variation of ship skin fictional resistance with fouling」, Trans. R.I.N.A., Vol. 127, pp. 269-284, London (1984)(非特許文献1))。コーティングが汚損除去するかどうかを検討される場合の指標として、汚損除去コーティングは通常0.4MPa未満の平均フジツボ付着値を有する。
【0005】
シリコーンゴムおよびシリコーン化合物は、一般的に、非常に低毒性である。この汚損除去系の不利益は、ボートの船体に塗工される場合、汚損生物の蓄積は低減されるが、全ての汚損種を除去するために、比較的高船速が必要になることである。このため、一部の例では、このようなコーティングで処理された船体から汚損を十分に除去するために、少なくとも10ノットの速度で航行する必要があることが示されてきた。この理由のために、シリコーンゴムは、今までのところ、限定的な商業的成功しか得られていない。
【0006】
防食コーティングに対するシリコーン汚損除去コーティングの接着は、適切なタイコートまたはリンクコートが使用されて、十分な接着が確保されない場合、一般的に乏しいことが昔から知られている。このようなタイコートは、多くの場合、シリコーンを含む。シリコーン含有タイコートの例示は、欧州特許第521983号(特許文献3)および欧州特許第1832630号(特許文献4)に記載されている。
【0007】
適切なタイコートと第2のコーティング層との組み合わせは、「二重」汚損除去系と呼ばれることがある。これまでに、このような二重系におけるタイコートとして使用するための従来技術に記載の組成物には、一般的には、添加されたバイオサイドが含まれていない。国際公開第2008/013825号(特許文献5)には、これらの系の一部としてバイオサイドの使用を避けることが、明確に教示されている。
【0008】
英国特許第1409048号(特許文献6)には、殺生物性防汚コーティング上に塗工される、自重の30から300%の海水を吸収可能な、海洋性ポリウレタントップコート組成物が開示されている。英国特許第1409048号の前記ポリウレタントップコートは、本発明の文脈内の汚損除去コーティングではない(参照:「Redefining antifouling coatings」, Journal of Protective Coatings and Linings, September 1999, pages 26-35(非特許文献2)、同文献には、ポリウレタンが、シリコーンと比較して、極端に高いフジツボ付着強度を有していることが開示されている)。これに続く汚損除去コーティング層については、英国特許第1409048号には開示も示唆もされていない。
【0009】
欧州特許第0313233号(特許文献7)には、海洋生物に対する毒性物質を含む防汚防食海洋性塗料の一次層と、前記一次層に接着した多孔質有機ポリマー膜の第2の層とを含む防汚海洋性コーティングが記載されている。前記多孔質有機ポリマー膜は、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(EPTFE)である。多孔質有機ポリマー膜は、液体混合物として塗工され、次いで乾燥または硬化されて、乾燥した連続的な薄膜を形成しないため、本発明の文脈におけるコーティングではない。さらに、ポリテトラフルオロエチレンは、汚損除去表面として使用するのに不適切な材料である(参照:上記の「Redefining antifouling coatings」、同文献には、高いフジツボ付着強度が示されている。)。これに続く汚損除去コーティング層の使用について、欧州特許第0313233号には開示も示唆もされていない。
【0010】
米国特許第4,129,610号(特許文献8)には、ビニルコポリマーおよび水溶性エポキシ化合物を含む、船底用水溶性コーティング組成物が記載されている。前記水溶性コーティング組成物は、有毒物質を有するプライマーコーティング層上に塗工される。米国特許第4,129,610号の前記水溶性コーティング組成物は、本発明の文脈内の汚損除去コーティングとは考えられない(参照:上記「Redefining antifouling coatings」、同文献では、エポキシコーティングのフジツボ付着強度が極端に高いことが報告されている。)。二次汚損除去コーティング層の使用について、開示も示唆もされていない。
【0011】
仏国特許発明第2636958号(特許文献9)には、シリコーンエラストマー用の塩素化接着プライマーが記載されている。この公報に基づいて、トリ有機スズの酸化物もしくはハロゲン化物のバイオサイドまたは銅酸化物が、前記プライマーに添加される場合がある。トリブチルスズ酸化物またはフッ化物および銅酸化物は、このような系に対する適切なバイオサイド添加物としてのみ言及されており、任意のバイオサイドを含むプライマーの例示またはさらなる記載はない。この文献は、バイオサイドの浸出について全くふれておらず、また任意のバイオサイドを含むプライマーを有する汚損除去系についての可能性ある教示はない。
【0012】
国際公開第95/32862号(特許文献10)には、海洋生物による汚損に対抗するために、基材上に使用され得る、二重汚損除去系が開示されている。前記二重系は、結合層と、放出層とからなり、3−イソチアゾロンバイオサイドが、前記結合層または放出層のいずれかに埋め込まれている。前記文献は、3−イソチアゾロンがバイオサイドとして使用されるべきであること、および、前記結合層からのバイオサイドの浸出速度が時間の平方根に反比例し、水におけるバイオサイドの溶解性以外には潜在的に浸出速度を制御する他の因子がないことを排他的に教示している。したがって、前記バイオサイドの浸出は、このような系ではほとんど制御されず、本発明の枠組み内でのバイオサイドの制御された浸出速度を有する、殺生物性汚損除去コーティング系として適していない。海水への基材の浸漬後すぐに、前記結合層からのバイオサイドの浸出速度が時間の平方根に反比例する、国際公開第95/32862号に開示のもの等の系でコートされた基材は、実質的に汚損がない状態のままであり、バイオサイドを含まない汚損除去コーティング系でコートされた基材と比較して、優れた性能を示すことが見出された。しかしながら、前記優れた性能は持続的でなく、前記コートされた基材は、次第に生物付着に覆われ、4〜6か月以内に、国際公開第95/32862号の系は、バイオサイドを含まない汚損除去コーティング系でコートされた基材と同程度の激しい汚損を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】英国特許第1,307,001号明細書
【特許文献2】米国特許第3,702,778号明細書
【特許文献3】欧州特許第521983号明細書
【特許文献4】欧州特許第1832630号明細書
【特許文献5】国際公開第2008/013825号
【特許文献6】英国特許第1409048号明細書
【特許文献7】欧州特許第0313233号明細書
【特許文献8】米国特許第4,129,610号明細書
【特許文献9】仏国特許発明第2636958号明細書
【特許文献10】国際公開第95/32862号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J.C. Lewthwaite, A.F. Molland and K. W. Thomas, 「An Investigation into the variation of ship skin fictional resistance with fouling」, Trans. R.I.N.A., Vol. 127, pp. 269-284, London (1984)
【非特許文献2】「Redefining antifouling coatings」, Journal of Protective Coatings and Linings, September 1999, pages 26-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
驚くべきことに、バイオサイドの制御された浸出を示す殺生物性汚損除去コーティング系でコートされた構造物が製造され得ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に基づいて、このような構造物は、
a.基材を提供すること、
b.一次コーティング層で前記基材をコーティングすること、および
c.前記一次コーティング層の上面に少なくとも1つの二次コーティング層を塗工すること
により得ることができ、前記一次コーティング層および前記二次コーティング層が殺生物性汚損除去コーティング系を形成し、前記一次コーティング層がバイオサイドを含み、前記二次コーティング層が前記一次コーティング層よりもバイオサイドが少なく、かつ前記二次コーティング層がバイオサイドを含まないかまたは実質的に含まない。
【0017】
本願に規定の殺生物性汚損除去コーティング系は、バイオサイドの制御型浸出を示す。
【0018】
前記バイオサイドの制御型浸出を示すことは、前記コーティングの塗工後5日の本発明の汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度(R)と、前記コーティングの塗工後30日のバイオサイドの放出速度(R30)との比R/R30が、1.5以下(≦1.5)であり、好ましくは≦1.33、より好ましくは≦1.11であることを意味する。
【0019】
本発明の殺生物性汚損除去コーティング系は、前記基材を海水に浸漬した後の短期および長期の両方において優れた汚損耐性を示す。
【0020】
本発明の枠組み内で、殺生物性汚損除去コーティング系は、物理的に定着を防止し、および/または、水生/海洋生物が容易に付着できない表面を有し、かつバイオサイドが前記コーティング系から放出される、コーティング系である。
【0021】
前記基材への前記第1の一次コーティング層の接着性を改善するために、前記基材と前記第1のコーティング層との間にタイコートまたは接着促進層が存在してもよい。前記基材の耐食性を改善するために、前記一次コーティング層が塗工される前に、前記基材上に塗工される防食コーティングが存在してもよい。より一般的には、前記バイオサイドを含む一次コーティング層が前記基材に塗工される前に、前記基材上に1またはそれ以上の層が存在してもよい。
【0022】
コーティング層を調製するために、コーティング組成物は、前記表面(例えば、基材または別のコーティング層)に、液体混合物として塗工される。ついで、前記コーティング組成物は、乾燥または硬化されて、乾燥した連続的なコーティング膜/層を、その表面の上に形成する。
【0023】
本発明者らは、殺生物性汚損除去コーティング系からのバイオサイドの浸出速度が、一次コーティング層の上面に、1またはそれ以上の二次コーティング層を塗工することにより制御され得ることを実現した。ここで、前記一次コーティング層はバイオサイドを含み、前記二次コーティング層は、前記一次コーティング層よりもバイオサイドが少なく、かつバイオサイドを含まないか、または実質的に含まない。このことの利点は、前記バイオサイドの浸出速度が調整でき、時間への依存を低下でき、実際に時間とのより直線的な相関が維持できることである。したがって、所望のより一定の速度のバイオサイド浸出が実現できる。これは、延長された性能寿命、前記バイオサイドのより効率的な使用、および、低減された環境への影響をもたらすのに有利である。さらに、バイオサイド浸出は、汚損除去コーティング系が低速または静止条件下で汚損を防止する能力が特に向上されるように制御され得る。
【0024】
本発明の文脈において、バイオサイド浸出(バイオサイド放出として知られる場合もある)およびバイオサイド浸出速度(バイオサイド放出速度)は、汚損除去とは明確に区別されるべきである。浸出速度は、前記バイオサイドが、前記コーティング系により、周囲の水に放出される速度であり、典型的には、単位面積、単位時間あたりのバイオサイドの量として表される。汚損除去は、汚損の防止および/または、浸された基材の表面からの非殺生物的手段による除去の容易性に関する。例えば、汚損除去特性は、ASTM D5618−94を使用して行われ得る、フジツボ付着測定により特徴付けることができ、この測定は、せん断におけるフジツボ付着強度の測定用の標準試験法または関連する方法である。両方は、汚損を抑制するためのメカニズムを補完し合うが、互いに独立している。
【0025】
より具体的に、本発明者らは、浸出速度が、二次コーティング層の組成を変化させることにより制御できることを実現させた。一次コーティング層は、放出されるための即時供給のバイオサイドを収容するバイオサイドのレザバとして振る舞う。前記バイオサイドの浸出速度は、前記一次コーティング層および二次コーティング層のある特性を変化させることにより、制御され得る。これらの特性としては、制限されず、顔料の体積濃度、架橋密度、顔料サイズおよび形状、ポリマーの分子量、非適合性流体の存在および量、二次コーティング層の架橋の化学的特性ならびに膜厚があげられる。
【0026】
二次コーティング層の制御メカニズムと組み合わせられる前記バイオサイドのレザバは、最終用途に対するバイオサイドの浸出速度を調節できる。
【0027】
本発明の枠組み内で、バイオサイドの制御型放出を示すコーティング系は、水への浸漬後30日のバイオサイドの放出速度(R30)が、水への浸漬後5日の放出速度(R)の少なくとも67%である系である。すなわち、バイオサイドの制御型浸出を示すコーティング系は、R/R30が、1.5以下の系である。
【0028】
本発明の一実施形態では、R/R30は、1.5以下である。本発明のさらなる実施形態では、R/R30は、1.33以下である。本発明のさらにさらなる実施形態では、R/R30は、1.11以下である。
【0029】
国際公開第95/32862号には、二重汚損除去系が、時間の平方根に反比例する前記結合層からのバイオサイドの浸出速度を有すること、および、水におけるバイオサイドの溶解性以外の潜在的に浸出速度を制御する他の因子がないことが記載されている。この系に関して、前記バイオサイドの放出速度は、F(t)〜36/t0.5と記載され、Fは、μg/cm/日(μgcm−2−1)の浸出速度であり、tは、日の時間である。この系に関して、R/R30=F(5)/F(30)=300.5/50.5=2.45である。国際公開第95/32862号には、基材が、まずバイオサイドを含むコーティング層でコートされ、ついで、実質的にバイオサイドを含まない二次層でオーバーコートされる、殺生物性汚損除去コーティング系が、前記汚損除去コーティング表面からのバイオサイドのより段階的で、より持続的な放出特性をもたらすであろうことは、教示されていない。
【0030】
本発明に基づいて、前記一次コーティング層の上面に塗工される前記二次コーティング層は、前記一次コーティング層よりバイオサイドが少ない。さらに、前記二次コーティング層は、バイオサイドを含まないか、または、実質的に含まない。バイオサイドを実質的に含まないとは、前記二次コーティング層が、(前記コーティング組成物の合計重量に基づいて)1.0wt%未満のバイオサイドを含むことを意味する。好ましくは、前記二次コーティング層は、0.5wt%未満、より好ましくは0.1wt%未満のバイオサイドを含む。誤解を避けるために、重量パーセント(wt%)は、前記コーティング組成物の合計重量に基づく重量パーセントである。
【0031】
一実施形態では、前記二次コーティング層は、さらに、非適合性流体を含む。
【0032】
前記二次コーティング層中の非適合性流体は、改善された汚損除去性能を達成するのに役立つ。理論に拘束される訳ではないが、前記流体は、前記バイオサイドの輸送への影響を有し得ると考えられる。
【0033】
さらなる実施形態では、前記バイオサイドは、部分的または全体的のいずれかに、被包、または吸着または支持または結合される。
【0034】
前記バイオサイドの被包、吸着、支持または結合は、さらにより段階的な放出および長く続く効果を達成するための、前記コーティング系からのバイオサイドの浸出についての第2のメカニズムを提供し得る。
【0035】
本発明は、(i)殺生物性汚損除去コーティング系および(ii)前記殺生物性汚損除去コーティング系でコートされた構造物に関し、前記殺生物性汚損除去コーティング系は、
a.基材、
b.一次コーティング層、
c.前記一次コーティング層の上面に少なくとも1つの二次コーティング層を含み、
前記一次コーティング層は、バイオサイドを含み、前記二次コーティング層は、前記一次コーティング層よりバイオサイドが少なく、および、前記二次コーティング層は、バイオサイドを含まないか、または、実質的に含まない。前記殺生物性汚損除去コーティング系は、前記バイオサイドの制御された浸出を示す。
【0036】
本発明の一実施形態は、上記規定の殺生物性汚損除去コーティング系でコートされた構造物である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
バイオサイドを含む一次コーティング層
前記一次コーティング層の組成は、特に制限されないが、好ましくは、前記一次コーティング層の組成物は、ポリマーを含む。前記ポリマーは、好ましくは、エラストマーを形成する。より好ましくは、これは、ポリオルガノシロキサンである。さらにより好ましくは、これは、ポリジメチルシロキサンである。さらに、前記ポリオルガノシロキサンは、2またはそれ以上の異なる粘度のポリオルガノシロキサンを含んでもよい。
【0038】
好ましくは、前記ポリオルガノシロキサンは、1またはそれ以上、より好ましくは2またはそれ以上の反応性官能基、例えば、ヒドロキシル、アルコキシ、アセトキシ、カルボキシル、ヒドロシリル、アミン、エポキシ、ビニルまたはオキシムの官能基を有する。
【0039】
好ましくは、前記ポリマーは、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、5から50wt%の量で存在する。より好ましくは、これは、8から20wt%の量で存在する。
【0040】
好ましくは、前記ポリマーは、架橋性である。架橋性ポリマーの種類に応じて、前記コーティング組成物は、架橋剤を必要とする場合がある。架橋剤の存在の必要性は、前記ポリマーに存在する官能基の種類および数により決まる。前記ポリマーがアルコキシ−シリル基を含む場合、一般的には、少量の水および場合により縮合触媒の存在があれば、塗工後にコーティングの完全な硬化を達成するのに十分である。これらの組成物に関して、大気水分は硬化を誘導するのに一般的に十分であり、通常は塗工後にコーティング組成物を加熱する必要はない。
【0041】
場合により存在する本架橋剤は、官能性シランおよび/または1またはそれ以上の任意のアセトキシ、アルコキシ、アミド、アルケノキシおよびオキシムの基を含む架橋剤であり得る。このような架橋剤は、例えば、国際公開第99/33927号、第19頁9行目から第21頁17行目に示される。異なる架橋剤の混合物も使用され得る。
【0042】
好ましくは、前記架橋剤は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、0.1%から20wt%の量で存在する。
【0043】
一次コーティング層は、バイオサイドを含む。「含む/含有(contains/containing)は、バイオサイドがコーティング層の本体に存在することを意味する(バイオサイドが、硬化/乾燥前のコーティング組成物中に混合されることを意味する。)
【0044】
本発明のバイオサイドは、海洋生物または淡水生物用の1またはそれ以上の無機、有機金属、金属−有機または有機のバイオサイドであり得る。無機バイオサイドとしては、例えば、銅の塩、例えば、銅酸化物、銅チオシアン酸塩、銅粉、炭酸銅、塩化銅、銅ニッケル合金、ならびに、銀の塩、例えば、銀の塩化物または硝酸塩があげられる。有機金属および金属−有機のバイオサイドとしては、ピリチオン亜鉛(2−ピリジンチオール−1−オキシドの亜鉛塩)、ピリチオン銅、ビス(N−シクロヘキシル−ジアゼニウムジオキシ)銅、エチレン−ビス(ジチオカルバミン)亜鉛(すなわち、ジネブ)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ジラム)および、亜鉛塩と複合体化したエチレン−ビス(ジチオカルバミン酸)マンガン(すなわち、マンゼブ)があげられる。有機バイオサイドとしては、ホルムアルデヒド、ドデシルグアニジン塩酸塩、チアベンダゾール、N−トリハロメチルチオフタルイミド、トリハロメチルチオスルファミド、N−アリールマレイミド、例えば、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(ジウロン)、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、2−メチルチオ−4−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ(cyclopopylamine)−s−トリアジン、3−ベンゾ[b]チエン−イル−5,6−ジヒドロ−1,4,2−オキサチアジン 4−オキシド、4,5−ジクロロ−2−(n−オクチル)−3(2H)−イソチアゾロン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、トリルフルアニド、ジクロフルアニド、ジヨードメチル−p−トシルスルホン、カプサイシン、N−シクロプロピル−N’−(1,1−ジメチルエチル)−6−(メチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミン、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバミン酸塩、メデトミジン、1,4−ジチアアントラキノン−2,3−ジカルボニトリル(ジチアノン)、ボラン、例えば、ピリジントリフェニルボラン、5位および場合により1位で置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体、例えば、2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール(トラロピリル)、ならびに、フラノン、例えば、3−ブチル−5−(ジブロモメチリデン)−2(5H)−フラノン、ならびにそれらの混合物、マクロ環状ラクトン、例えば、アベルメクチン、例えば、アベルメクチンB1、イベルメクチン、ドラメクチン、アバメクチン、アマメクチンおよびセラメクチンならびに、四級アンモニウム塩、例えば、ジデシルジメチルアンモニウム塩化物およびアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩化物があげられる。一実施形態では、前記バイオサイドは、3−イソチアゾロンでもよい。ただし、本発明では、このバイオサイドは、好ましくは、被包、吸着または結合された形態であるべきであることが見出された。別の実施形態では、前記バイオサイドは、3−イソチアゾロンではない。
【0045】
好ましくは、バイオサイドは有機または金属−有機である。理論に拘束される訳ではないが、バイオサイドの浸出は、前記一次コーティング層から二次コーティング層を介した、受動輸送プロセスによるバイオサイドの物理的な拡散に関係すると考えられる。したがって、コーティング系からのバイオサイドの流れは、部分的には、二次コーティング層を介したバイオサイドの拡散、および二次コーティング層との相溶性により、制御されるであろう。有機金属バイオサイド、例えば有機スズ等について予測されるように、拡散または相溶性が本質的に高い場合、結果として浸出速度も本質的に高く制御が困難となり、コーティングの寿命が短くなり、望ましくない環境への影響が生じる場合がある。無機バイオサイド、例えば銅の無機塩等について予測されるように、拡散または相溶性が本質的に低い場合、浸出速度も本質的に低くなり、汚損が生じる場合がある。一般的に、有機または金属性有機性のバイオサイドを使用する場合、本発明のコーティング系の使用により、浸出速度を適切に制御することが可能になり、許容し得ない環境被害を防ぐことが可能となる。
【0046】
本発明の文脈において、無機バイオサイドは、化学構造に金属原子を含み、炭素原子を含まないバイオサイドである。有機金属バイオサイドは、化学構造に金属原子、炭素原子および金属−炭素結合を含むバイオサイドである。金属−有機バイオサイドは、化学構造に金属原子、炭素原子を含み、金属−炭素結合を含まないバイオサイドである。有機バイオサイドは、化学構造に炭素原子を含み、金属原子を含まないバイオサイドである。
【0047】
好ましくは、優れた防汚特性のために、前記バイオサイドは、1またはそれ以上の、5位および場合により1位において置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体、例えば、トラロピリル、1,4−ジチアアントラキノン−2,3−カルボニトリル(ジチアノン)、ピリチオン銅、ピリチオン亜鉛、トリルフルアニド、ジクロフルアニドおよびN−シクロプロピル−N’−(1,1−ジメチルエチル)−6−(メチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミンである。
【0048】
好ましくは、前記バイオサイドは、一次コーティング層組成物中に、一次コーティング層の組成物における合計重量に基づいて0.05から50wt%、より好ましくは3から30wt%、最も好ましくは10から20wt%の量で存在する。どのような場合でも、一次コーティング層中に存在するバイオサイドの量は、コーティング層が基材に塗工された時点で、少なくとも1つの二次コーティング層中のバイオサイドの量より多くなければならない。
【0049】
さらに、前記バイオサイドは、場合により、全体的にまたは部分的に、被包、吸着または支持または結合されていてもよい。特定のバイオサイドは取扱いが困難または危険であり、カプセル充填または吸着または支持または結合された形態にて有利に使用される。さらに、前記バイオサイドのカプセル充填、吸着または支持または結合は、コーティング系からのバイオサイド浸出速度を制御してさらにより段階的な放出および長く続く効果を達成するための第2のメカニズムを提供し得る。
【0050】
前記バイオサイドの被包、吸着または支持または結合をする方法は、本発明に関して特に制限されない。本発明に使用するための被包されたバイオサイドが調製され得る方法としては、例えば、欧州特許第1791424号に記載の、単層壁および二重層壁を有する、アミノ−ホルムアルデヒドまたは加水分解されたポリビニルアセテート−フェノール樹脂カプセルまたはマイクロカプセルが挙げられる。適切な被包バイオサイドは、例えば、Sea−Nine CR2海洋性防汚剤としてDow Microbial Controlより市販されている、被包された4,5−ジクロロ−2−(n−オクチル)−3(2H)−イソチアゾロンである。
【0051】
吸着または支持または結合されたバイオサイドが調製され得る方法としては、例えば、ホスト−ゲスト錯体、例えば欧州特許第0709358号に記載のキレート、欧州特許第0880892号に記載のフェノール樹脂、炭素ベースの吸収剤、例えば欧州特許第1142477号に記載のもの、または無機微細孔キャリア、例えば欧州特許第1115282号に記載の非結晶質シリカ、非結晶質アルミナ、擬ベーマイトまたはゼオライトの使用があげられる。
【0052】
前記殺生物性の一次コーティング層組成物のポリマーは架橋性である。前記組成物は、場合により触媒を含む。適切な触媒は、例えば、種々の金属、例えばスズ、亜鉛、鉄、鉛、バリウムおよびジルコニウムのカルボン酸塩である。前記塩は、好ましくは長鎖カルボン酸の塩、例えばジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ステアリン酸鉄、スズ(II)オクトエートおよび鉛オクトエートである。適切な触媒のさらなる例示としては、有機ビスマスおよび有機チタンの化合物、ならびに有機リン酸、例えばビス(2−エチル−ヘキシル)リン酸水素があげられる。他の可能性のある触媒としては、キレート、例えばジブチルスズアセトアセトネートがあげられる。さらに、前記触媒は酸基に対してα位にある炭素原子に少なくとも1つのハロゲン置換基、および/もしくは、酸基に対してβ位にある炭素原子に少なくとも1つのハロゲン置換基を有するハロゲン化有機酸、または縮合反応の条件下でこのような酸を形成するために加水分解性の誘導体を含んでもよい。
【0053】
または、前記触媒は、国際公開第2007122325号、同第2008055985号、同第2009106717号、同第2009106718号、同第2009106719号、同第2009106720号、同第2009106721号、同第2009106722号、同第2009106723号、同第2009106724号、同第2009103894号、同第2009118307号、同第2009133084号、同第2009133085号、同第2009156608号および同第2009156609号のいずれかに記載のものでもよい。
【0054】
前記殺生物性の一次コーティング層組成物の触媒は、好ましくはコーティング組成物の合計重量に基づいて、0.01から4wt%の量で存在する。
【0055】
好ましくは、本発明に基づく殺生物性の一次コーティング層組成物は、1またはそれ以上の充填剤、顔料、さらなる触媒および/または溶媒も含む。適切な充填剤は、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカまたはケイ酸塩(例えば、タルク、長石およびカオリン)、アルミニウムペースト/フレーク、ベントナイトまたは他のクレイである。一部の充填剤、例えばヒュームド・シリカは、前記コーティング組成物において、チキソトロピー作用を有してもよい。前記充填剤の割合は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて0から25wt%の範囲でもよい。好ましくは、前記クレイが、0から1wt%の量で存在し、好ましくは前記チキソトロープ剤は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて0から5wt%の量で存在する。
【0056】
適切な顔料は、例えば鉄黒、べんがら、鉄黄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、グラファイト、モリブデン赤、バナジン酸ビスマス黄、モリブデン黄、硫化亜鉛、酸化アンチモン、コバルト/亜鉛チタン酸化物緑、亜鉛/スズチタン酸オレンジ、ランタニド硫化物オレンジおよび赤、ピロリン酸マンガン紫、スルホケイ酸ナトリウムアルミニウム、キナクリドン、フタロシアニン青、フタロシアニン緑、鉄黒、インダントロン青、コバルトアルミニウム酸化物、カルバゾールジオキサジン、酸化クロム(III)、イソインドリンオレンジ、ビス−アセトアセト−トリジオール、ベンズイミダゾロン、キナフタロン黄、イソインドリン黄、テトラクロロイソインドリノンおよびキノフタロン黄である。前記顔料の割合は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、0から10wt%の範囲でもよい。適切な溶媒としては、芳香族炭化水素、アルコール、ケトン、エステルおよび上記相互の混合物、または脂肪族炭化水素があげられる。好ましい溶媒としては、メチルイソアミルケトンおよび/またはキシレンがあげられる。好ましくは、前記溶媒は、前記組成物の合計重量に基づいて10から40wt%の量で存在する。
【0057】
前記組成物は、場合により接着促進材料を、典型的には、前記組成物の合計重量に基づいて、0.01−0.5wt%の量で含む。適切な接着促進剤としては、例えば、シラン、例えば、アミノシラン、エポキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルシランおよびメルカプトシランがあげられる。
好ましくは、前記接着促進剤は、
(RO)3−xSiRN(R
の種類のアミノシランである。
【0058】
前記アミノシランにおいて、各Rは独立して、C1〜8アルキル(例えば、メチル、エチル、ヘキシル、オクチル等)、C1〜4アルキル、O、C2〜4アルキル;アリール(例えば、フェニル)およびアリールC1〜4アルキル(例えば、ベンジル)から選択され;Rは、(CH1−4、メチル置換されたトリメチレンおよび(CH2−3、O、(CH2−3から選択され;Rは、水素、アルキル、シクロアルキル、アラルキルもしくはアリールの基または(CH2−4−NHから選択される。
【0059】
代替的に、前記接着促進剤は、
(RO)SiRNHRSi(ORまたは(RO)SiRNHRNHRSi(OR
の種類の国際公開第2010018164号に記載の「二脚状」シランである。
前記「二脚状」シランにおいて、R、RおよびRは、独立して、C1からC5のアルキレン基であり、RおよびRは、独立して、メチルまたはエチルから選択される。
【0060】
代替的に、前記接着促進剤は、
A−Si(R)(OR)(3−a)
の種類のエポキシシランである。
前記エポキシシランにおいて、Aは2から12個の炭素原子を有する、一価の炭化水素基で置換されたエポキシドであり;各Rは、独立して、C1〜8アルキル(例えば、メチル、エチル、ヘキシル、オクチル等)、C1〜4−アルキル−、O−、C2〜4−アルキル;アリール(例えば、フェニル)およびアリールC1〜4アルキル(例えば、ベンジル)から選択され;aは、0または1である。
前記エポキシシラン中の前記基Aは、好ましくは、グリシドキシ−置換アルキル基、例えば、3−グリシドキシプロピルである。前記エポキシシランは、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエトキシメトキシシラン、2−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシ−ヘキシルトリメトキシシラン;またはそれらのオリゴマーであり得る。
【0061】
より好ましくは、前記接着促進剤は、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランである。さらなる任意の添加剤としては、分散剤、例えば、不飽和ポリアミド酸エステル塩があげられる。
【0062】
二次コーティング層、汚損除去層
前記二次コーティング層の組成物は、特に制限されないが、前記組成物は、好ましくは、ポリマーを含む。好ましくは、前記ポリマーは、エラストマーを形成する。より好ましくは、これは、ポリオルガノシロキサンである。さらにより好ましくは、これは、ポリジメチルシロキサンである。さらに、前記ポリオルガノシロキサンは、2またはそれ以上の異なる粘度のポリオルガノシロキサンを含んでもよい。
【0063】
前記ポリオルガノシロキサンは、1またはそれ以上、好ましくは2またはそれ以上の反応性官能基、例えば、ヒドロキシル、アルコキシ、アセトキシ、カルボキシル、ヒドロシリル、アミン、エポキシ、ビニルまたはオキシムの官能基を有する。
【0064】
代替的に、前記ポリマーは、国際公開第2008132196号に記載のものでもよい。前記ポリマーは、式PS−(A−PO−A−PS)nのポリオルガノシロキサンポリオキシアルキレンブロックコポリマーである。式中、PSは、ポリオルガノシロキサンブロックを表し、POは、ポリオキシアルキレンブロックを表し、Aは、二価部分を表し、nは、1または2以上の値を有する。
【0065】
前記ポリマーは、前記基Xと反応性の2またはそれ以上の基Yを含む別の有機シリコーン架橋剤と、場合により架橋され得る、(本願明細書で先に規定した)触媒の存在または不存在下で、自己縮合および架橋し得る分子あたりに、2つまたは3つの反応性基Xを、ポリオルガノシロキサンブロック上に有する。
【0066】
好ましくは、前記ポリオルガノシロキサンポリマーは、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、30から90wt%の量で存在する。
【0067】
好ましくは、前記ポリマーは、架橋性である。架橋性ポリマーの種類に応じて、前記コーティング組成物は、架橋剤を必要とする場合がある。前記架橋剤の存在は、前記硬化性ポリマーが縮合により硬化され得ない場合にのみ必要である。これは、前記ポリマーに存在する官能基の種類および数により決まるであろう。前記ポリマーがアルコキシ−シリル基を含む場合、少量の水および、場合により、縮合触媒の存在で、塗工後に前記コーティングの完全な硬化を達成するのに、一般的に十分である。これらの組成物に関して、大気水分で、硬化を誘導するのに一般的に十分であり、一般に、塗工後に、前記コーティング組成物を加熱する必要はないであろう。
【0068】
場合により存在する架橋剤は、官能性シランおよび/または1またはそれ以上の任意のアセトキシ、アルコキシ、アミド、アルケノキシおよびオキシムの基を含む架橋剤であり得る。このような架橋剤は、例えば、国際公開第99/33927号、第19頁9行目から第21頁17行目に示される。異なる架橋剤の混合物も使用され得る。
【0069】
好ましくは、前記架橋剤は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、1から25wt%の量で存在する。
【0070】
前記二次コーティング層組成物のポリマーが架橋性である場合、前記組成物は、場合により、触媒を含んでもよい。適切な触媒は、例えば、種々の金属、例えば、スズ、亜鉛、鉄、鉛、バリウムおよびジルコニウムのカルボン酸塩である。前記塩は、好ましくは、長鎖カルボン酸の塩、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ステアリン酸鉄、スズ(II)オクトエートおよび鉛オクトエートである。適切な触媒のさらなる例示としては、有機ビスマスおよび有機チタンの化合物、ならびに、有機リン酸、例えば、ビス(2−エチル−ヘキシル)リン酸水素があげられる。他の可能性のある触媒としては、キレート、例えば、ジブチルスズアセトアセトネートがあげられる。さらに、前記触媒は、酸基に対して[アルファ]−位にある炭素原子に、少なくとも1つのハロゲン置換基、および/もしくは、酸基に対して[ベータ]−位にある炭素原子に、少なくとも1つのハロゲン置換基を有するハロゲン化有機酸、または、縮合反応の条件下でこのような酸を形成するために加水分解性の誘導体を含んでもよい。
【0071】
または、前記触媒は、国際公開第2007122325号、同第2008055985号、同第2009106717号、同第2009106718号、同第2009106719号、同第2009106720号、同第2009106721号、同第2009106722号、同第2009106723号、同第2009106724号、同第2009103894号、同第2009118307号、同第2009133084号、同第2009133085号、同第2009156608号および同第2009156609号のいずれかに記載のものでもよい。
【0072】
好ましくは、前記触媒は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、0.05から4wt%の量で存在する。
好ましくは、本発明の二次コーティング層組成物は、1またはそれ以上の充填剤、顔料、触媒および/または溶媒も含む。適切な充填剤は、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカまたはケイ酸塩(例えば、タルク、長石およびカオリン)、アルミニウムペースト/フレーク、ベントナイトまたは他のクレイである。一部の充填剤、例えば、ヒュームド・シリカは、前記コーティング組成物において、チキソトロピー作用を有してもよい。前記充填剤の割合は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、0から25wt%の範囲でもよい。好ましくは、前記クレイが、0から1wt%の量で存在し、好ましくは、前記チキソトロープ剤は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、0から5wt%の量で存在する。
【0073】
適切な顔料は、例えば、鉄黒、べんがら、鉄黄、二酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、グラファイト、モリブデン赤、モリブデン黄、硫化亜鉛、酸化アンチモン、スルホケイ酸ナトリウムアルミニウム、キナクリドン、フタロシアニン青、フタロシアニン緑、鉄黒、インダントロン青、コバルトアルミニウム酸化物、カルバゾールジオキサジン、酸化クロム、イソインドリンオレンジ、ビス−アセトアセト−トリジオール、ベンズイミダゾロン、キナフタロン黄、イソインドリン黄、テトラクロロイソインドリノンおよびキノフタロン黄である。前記顔料の割合は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、0から25wt%の範囲でもよい。適切な溶媒としては、芳香族炭化水素、アルコール、ケトン、エステルおよび上記相互の混合物、または脂肪族炭化水素があげられる。好ましい溶媒としては、メチルイソアミルケトンおよび/またはキシレンがあげられる。好ましくは、前記溶媒は、前記組成物の合計重量に基づいて、0〜40wt%の量で存在する。
【0074】
本発明におけるコーティング系の汚損除去特性は、前記二次コーティング層組成物が、一般的に、乾燥または硬化した時に疎水性または両親媒性の汚損除去コートを形成する時に、一般的に改善される。前記二次コーティング層の大部分および表面の疎水性は、種々の手段、例えば、海水取込み測定または表面接触角測定により、特徴付けられ得る。好ましくは、前記二次コーティング層の海水取込みは、30質量%未満、より好ましくは25質量%未満である。好ましくは、前記二次コーティング層の平衡水接触角は、23℃で30度より大きい。
【0075】
好ましい実施形態では、前記二次コーティング層組成物は、非適合性流体またはグリースを含む。本発明の文脈において、非適合性流体は、前記二次コーティング層(のエラストマーネットワーク)に(全体的または部分的のいずれかに)不溶解性の、シリコーン、有機または無機の分子またはポリマー、通常、液体であるが、場合により、有機可溶性のグリースまたはワックスを意味する。前記一次コーティング層と二次コーティング層とが一旦硬化されると、前記流体は、前記二次コーティング層の表面で濃縮されて、その汚損除去特性を補強するであろう。非適合性流体の例示は、国際公開第2007/10274号に提供される。国際公開第2007/10274号では、前記非適合性流体は、ポリシロキサンコーティング中のフッ素化ポリマーまたはオリゴマーである。前記硬化したポリシロキサンコーティング層の表面で、フッ素化ポリマー/オリゴマーを濃縮する方法は、表面エネルギーの差異により、熱力学的に行われる。前記硬化したポリシロキサンにより提供される弾性特性と組み合わせた、前記フッ素化ポリマーまたはオリゴマーにより提供される低表面エネルギーが、前記コーティングの汚損除去特性を改善する。
【0076】
適切な流体は、例えば:
a)直鎖状およびトリフルオロメチル分岐鎖状のフッ素化末端キャップパーフルオロポリエーテル(例えば、Fomblin Y(登録商標)、Krytox K(登録商標)の流体またはDemnum S(登録商標)オイル);
b)直鎖状のジオルガノ(OH)末端キャップパーフルオロポリエーテル(例えば、Fomblin Z DOL(登録商標)、Fluorolink(登録商標));
c)低MWポリクロロトリフルオロエチレン(例えば、Daifloil CTFE(登録商標)流体)である。
【0077】
全ての場合において、前記フッ素化アルキル−もしくはアルコキシ含有ポリマーまたはオリゴマーは、実質的に何らの架橋反応にも加わらない。他のモノ−およびジオルガノ−官能性末端キャップフッ素化アルキル−もしくはアルコキシ−含有ポリマーまたはオリゴマーも使用され得る(例えば、カルボキシ−、エステル−官能性フッ素化アルキル−もしくはアルコキシ−含有ポリマーまたはオリゴマー)。
【0078】
または、前記流体は、例えば、式:
Si−O−(SiQ−O−)SiQ
のシリコーンオイルであり得る。
式中、各基Qは、1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、nは、前記シリコーンオイルが20から5000mPasの粘度を有するような整数である。少なくとも10%の前記基Qは、一般的にメチル基であり、少なくとも2%の前記基Qは、フェニル基である。最も好ましくは、少なくとも10%の前記−SiQ−O−単位は、メチル−フェニルシロキサン単位である。最も好ましくは、前記シリコーンオイルは、メチル末端化ポリ(メチルフェニルシロキサン)である。前記オイルは、好ましくは、20から1000mPasの粘度を有する。適切なシリコーンオイルは、例えば、Bluestar Siliconesによる商標Rhodorsil Huile 510V100およびRhodorsil Huile 550で販売される。前記シリコーンオイルは、水生汚損に対する前記コーティング系の抵抗力を改善する。
【0079】
前記流体は、
【化1】

に示されるような有機シリコーンでもよい。
前記有機シリコーン中、
R1は、同一でも異なってもよく、場合により、アミン基で置換されたアルキル、アリールおよびアルケニルの基、式OR5の酸素含有基から選択され、R5は、水素またはC1〜6アルキルおよび式(I):
R6−N(R7)−C(O)−R8−C(O)−XR3
に基づく官能基である。
式(I)中、
R6は、1から12個の炭素原子のアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、および、10個以下の炭素原子のポリオキシアルキレンから選択され;
R7は、水素、1から6個の炭素原子のアルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、1から10個の炭素原子のポリオキシアルキレンから選択され;R7は、R8に結合されて、環を形成し得る;
R8は、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基である;
R9は、水素または、場合により、酸素または窒素含有基で置換された、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基であり;
Xは、O、SおよびNHから選択され;
前記有機シリコーンポリマー中の少なくとも1つのR1基が、上記式(I)またはその塩誘導体に基づく官能基であるという条件であり;
R2は、同一でも異なってもよく、アルキル、アリールおよびアルケニルから選択され;
R3およびR4は、同一でも異なってもよく、アルキル、アリール、末端化または非末端化ポリオキシアルキレン、アルカリル、アラルキレンおよびアルケニルから選択され;
aは、0から50,000の整数であり;
bは、0から100の整数であり;ならびに、
a+bは、少なくとも25である。
【0080】
一実施形態では、
R2、R3およびR4は、独立して、メチルおよびフェニルから選択され、より好ましくは、メチルである。
R6は、1〜12個、より好ましくは2〜5個の炭素原子を有するアルキル基である。
R7は、水素または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基である。
R8は、2〜10個の炭素原子を有するアルキル基である。
R9は、水素または、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基である。
Xは、酸素原子である。
a+bは、100から300の範囲である。
【0081】
一実施形態では、前記流体は、前記コーティング組成物の合計重量に基づいて、0.01から10wt%で存在する。最も好ましくは、前記流体は、2から7wt%の範囲で存在する。
【0082】
バイオサイドの放出速度を制御する方法
本発明に基づいて、汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度を制御する方法であって、前記コーティングの塗工後5日の前記汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度(R)と、前記コーティングの塗工後30日の放出速度(R30)との比R/R30が、1.5以下であり、
a.基材を提供すること、
b.一次コーティング層で前記基材をコーティングすること、
c.前記一次コーティング層の上面に少なくとも1つの二次コーティング層を塗工することを含み、
前記一次コーティング層が、バイオサイドを含み、前記二次コーティング層が、前記一次コーティング層よりバイオサイドが少なく、およびバイオサイドを含まないか、または、実質的に含まない、方法が提供される。
【0083】
一実施形態では、本発明の方法は、前記比R/R30が、1.33以下(≦1.33)、および好ましくは、1.11以下(≦1.11)であるようにして、汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度を制御可能である。
【0084】
適切には、前記一次コーティング層および/または前記二次コーティング層は、エラストマーポリマーを含む。前記エラストマーポリマーは、前段落の全てに記載のとおりである。
【0085】
適切には、前記一次コーティング層および/または前記二次コーティング層は、ポリオルガノシロキサンを含む。前記二次コーティング層は、前段落の全てに記載のとおりである。
【0086】
適切には、前記基材は、防食コーティングと、前記防食コーティングを覆うタイコートとして使用される前記一次コーティング層とでコートされる。
【0087】
適切には、前記一次コーティング層中の前記バイオサイドは、有機または金属−有機のバイオサイドである。前記バイオサイドは、前段落の全てに記載のとおりである。
【0088】
適切には、前記バイオサイドは、前述の1またはそれ以上の任意のバイオサイドであり、最も適切には、5位および場合により1位で置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体、または、1,4−ジチアアントラキノン−2,3−カルボニトリルである。
【0089】
適切には、前記二次コーティング層は、前記二次コーティング層に不溶解性の非適合性流体、例えば、シリコーン、有機または無機の分子またはポリマーを含む。
【0090】
用途
本発明に基づくコーティング系は、通常の技術、例えば、はけ塗り、ローラーコーティング、ディップまたはスプレー(無気および従来型)により、基材に塗工され得る。
【0091】
前記二次コーティング層が硬化された後、直ちに浸漬され、即席の防汚および汚損除去保護を与え得る。前記得られたコーティング系は、非常に良好な防汚および汚損除去特性を有する。これにより、本発明に基づくコーティング系が、海洋および淡水用途における汚損の防止に使用するのに非常に適するものとなる。前記コーティング系は、全体的または部分的に水に浸される、動的構造物および静的構造物の両方、例えば、船殻、ボートの船体、ブイ、掘削基地、オイルリグ、浮遊式生産貯蔵出荷設備(FPSO)、パイプ、発電所の冷却水取水口、漁網、魚籠、ならびに、他の水産養殖および海洋設備/構造物等に使用され得る。前記コーティング系は、これらの構造物について使用される任意の基材、例えば、金属、例えば、鉄、アルミニウム、コンクリート、木、プラスチックまたは繊維強化樹脂に塗工され得る。
【0092】
汚損除去コーティング系からのバイオサイドの制御された速度の放出を有する、本発明に基づくコーティング系に加えて、前記コーティングの塗工後5日の汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度(R)と、前記コーティングの塗工後30日のバイオサイドの放出速度(R30)との比R/R30が、1.5以下(≦1.5)(好ましくは1.33以下)となるように、(i)ヘドロ汚損、(ii)海藻汚損、(iii)軟体汚損および(iv)硬体汚損、具体的には、低速航行の水上船を含む、幅広い範囲の汚損タイプ対して、バイオサイドまたは汚損除去コーティング層を含まない系と比較して、効果的であることが見出された。
【0093】
前記コーティング系は、未処理の基材に、直接塗工されてもよい。または、本発明のコーティング系は、表面処理または他のコーティング層が予め塗工されている基材に塗工されてもよい。このような表面処理および他のコーティング層としては、例えば、防食コーティング、殺生物性防汚コーティング、シールコート、タイコート、接着促進層等があげられる。
【0094】
新造時に船およびボートのハルへの塗工に関して、前記系は、典型的には、1またはそれ以上の防食コーティングを有する基材上に直接塗工されるであろう。メンテナンスおよび修理またはリコート時には、前記配合は、典型的には、場合により、(任意のリンクコートを含む)既存のコーティング配合上に、または、前記既存のコーティング配合を除去し、1またはそれ以上の防食コーティングを再塗工した後に、前記基材上に、直接塗工されるであろう。
【0095】
汚損が防止される基材は、特に制限されず、任意の鉄、プラスチック、コンクリート、木、繊維強化樹脂およびアルミニウムがあげられる。
【0096】
典型的な状況では、船およびボートのハルへの塗工に関して、前記一次コーティング層が塗工されて、100〜200μmの範囲の乾燥膜厚がもたらされるであろう。前記二次コーティング層は、塗工されて、100〜200μmの範囲の乾燥膜厚がもたらされるであろう。より厚い乾燥膜厚が必要な場合は、前記必要とされる膜厚は、100〜200μmの乾燥膜厚をそれぞれ有する、連続的な塗工により産生され得る。他の基材上には、前記一次コーティング層が塗工されて、50〜500μmの範囲の乾燥膜厚がもたらされ、前記二次コーティング層が塗工されて、50〜500μmの範囲の乾燥膜厚がもたらされるであろう。
【0097】
これから、本発明は、下記実施例を参照して説明されるであろう。これらは、本発明を説明することを意図しているが、その範囲をいかなる方法によっても限定して解釈するものではない。
【実施例】
【0098】
実施例1〜8
本発明に基づく8種類のコーティング系(実施例1〜8)を調製した。
【0099】
各コーティング系についてのバイオサイド浸出速度を、実験的に決定した。要約すれば、各コーティング系でコートされた2枚のパネルを、合成海水の貯蔵タンク中に浸漬した。前記パネルを、新たな合成海水の浸出速度測定容器に、定期的に移し、一定期間ゆっくり振とうした。この期間の最後に、前記パネルを、前記貯蔵タンクに戻し、前記容器中に浸出したバイオサイドの量を、化学分析により測定した。浸出したバイオサイドの決定量、前記コートされたパネルの曝された表面積および前記浸出速度測定容器中での浸漬期間の知見から、前記バイオサイドの浸出速度を決定し、μgcm−2−1として表し得る。
【0100】
人工海水
市販のInstant Ocean Sea Saltを使用して、脱イオン水1リットルあたりに、33gの塩を混合することにより、人工海水を調製した。
【0101】
パネル製造
15×10cmのポリカーボネートパネルをマスクして、既知の表面積(典型的に、約100cm)とした。2パックエポキシ防食塗料(Intershield300、International Paint)の125μmの乾燥膜厚を、ドローダウンバーを用いて塗工し、続けて、バイオサイド含有コーティング層を、100μmの乾燥膜厚で、ドローダウンバーを用いて塗工した。乾燥後、最終的な「仕上げ」コートを、15μmの乾燥膜厚で、ドローダウンバーを用いて前記薄膜に塗工した(100μmの乾燥膜厚を使用した実施例5を除く)。前記マスキングテープを除去し、前記コートしたパネルの端を、はけを使用して、2パックエポキシ防食塗料(Intershield300、International Paint)でシールした。各コートを、二次コーティング層を塗工する前、および、前記貯蔵タンクに浸漬する前に、大気条件下で硬化させた。
【0102】
貯蔵タンク
厳密にクリーンなガラスタンク中の40リットルの人工海水中に、前記パネルを、完全に浸漬した。前記水を、バイオサイドまたはその分解生成物の増加を防止するために、活性炭フィルタを通して、常に循環させた。前記貯蔵タンクの温度を、22−23℃付近で維持した。全てのパネルを、前記浸出速度測定容器を使用して所定の測定日に行う浸出速度測定中を除いて、実験期間中は、前記貯蔵タンク中に浸漬したままにした。
【0103】
浸出速度測定容器
所定の測定日に、22〜23℃付近の温度の、100mlの人工海水を含む、個々の厳密にクリーンな蓋付きのポリプロピレン容器(15×8×8cm、l×w×h)に、パネルを移した。前記容器を、オービタルミキサーを使用して、2時間ゆっくり振とうし、ついで、前記パネルを、前記貯蔵タンクに戻した。
【0104】
浸出速度の決定−概要
前記浸出速度測定容器中のバイオサイドの濃度を、当業者に公知の標準的な分析方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して決定し得る。ついで、前記浸出速度測定容器中のバイオサイドの濃度を、以下の式:
【数1】

を使用して、浸出速度Rを決定するのに使用し得る。
式中、Cは、前記浸出速度測定容器中のバイオサイドの当量濃度であり、Vは、前記浸出速度測定容器中の人工海水の体積(リットル)であり、tは、前記浸出速度測定容器中での前記パネルの浸漬期間(時間)であり、Aは、前記パネル上の前記コーティング系の曝された表面積(cm)である。
【0105】
実施例1〜8の浸出速度決定−トラロピリル
各浸出速度測定容器からの、おおよそ12mlの人工海水を、振とう期間の最後に、ガラスバイアルに移した。このバイアルを、45℃で一晩保持して、浸出したトラロピリルの3−ブロモ−5−(4−クロロフェニル)−4−シアノ−1H−ピロール−3−カルボン酸(BCCPCA)への定量的な変換を確認した。
【0106】
前記処理したサンプル中のBCCPCA濃度を、Pursuit UPS 2.4μm C18カラム(50×3mm)を備える、Agilent1100 HPLCシステムを使用し、移動相として50:49.95:0.05体積部の比でのアセトニトリル、水およびオルトリン酸の混合物を使用する直接注入による、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。
【0107】
10から500μgリットル−1の範囲をカバーする、最低6つの較正基準を、テトラヒドロフラン中の1000μgリットル−1のBCCPCAの原液を、人工海水で適切に希釈することにより、毎日新たに調製した。人工海水のブランクを、前記基準のセットの前後および各サンプルのセット後に分析した。検査基準を、5つのサンプル後毎に行い、分析法の再現性をチェックした。各時点で、前記分析法には、再現性があることが証明された。
【0108】
振とう期間終了時点での、前記浸出速度測定容器中のトラロピリル(tralopyril)の当量濃度を、トラロピリルとBCCPCAとの相対モル質量、ならびに、トラロピリルの浸出速度により決定されたBCCPCA濃度を掛けることにより算出する。ついで、Rを、下記式:
【数2】

に基づいて算出する。
式中、Ctralopyrilは、前記浸出速度測定容器中のトラロピリルの当量濃度であり、Vは、前記浸出速度測定容器中の人工海水の体積(リットル)であり、tは、前記浸出速度測定容器中での前記パネルの浸漬期間(時間)であり、Aは、前記パネル上の前記コーティング系の曝された表面積(cm)である。
【0109】
表3は、5日(R)および30日(R30)の測定で収集した浸出速度結果、ならびに、R/R30を示す。いずれの場合にも、前記結果は、各コーティング系についての2枚のパネルの結果の平均である。
【0110】
表に示すように、各コーティング系は、本発明の枠組み内で規定したように、制御された浸出を示す。コーティングをしていないものは、時間の平方根に比例するバイオサイドの浸出速度に相当するバイオサイド浸出速度の挙動を示す。さらに、前記二次コーティング層の特定のパラメータを変化させることにより、制御は、低下、向上または経時的に基本的に一定なままのバイオサイド浸出速度の挙動を発揮し得る。
【0111】
さらに、種々の平均速度のバイオサイド浸出が実現され得る。前記二次コーティング層の特定のパラメータを変化させることにより、前記バイオサイドの浸出速度を、より高いまたはより低いバイオサイド浸出速度を、任意の所定の時点で得られ得るように、制御し得る。
【表1】

【表2】

国際公開第2008/132236号の実施例12に対応

【表3】

1):浸漬後5日のバイオサイドの放出速度
2):浸漬後30日のバイオサイドの放出速度
【0112】
実施例9〜12
表4に示すように、本発明に基づくさらなるコーティング系(実施例9から12)を、市販のバイオサイドを含まない汚損除去コーティング系(全実施例)との比較のために調製した。
【表4】

【表5】
【0113】
前記一次コーティング層からのバイオサイドの浸出を制御し、汚損を防止する、各コーティング系の性能を決定するために、試験パネルを製造した。実施例9から12のコーティング系を、60×60cmの海洋ベニヤ板パネルに、ローラーにより塗工して、それぞれ約100および150μmの前記一次コーティング層および二次コーティング層についての乾燥膜厚とした。前記板を、コートあたりに約125μmのDFTを含む、2パックエポキシ防食塗料(Intershield300、International Paint)の1つのコートで予め下塗りした。各パネルの半分(左手側)を、実施例9から12のコーティング系の1つに対応するコーティング系でコートし、対照として、前記パネルのもう半分(右手側)を、市販の汚損除去タイコート(Intersleek737、International Paint)でコートした。ついで、両側は、塗工された標準的な汚損除去仕上げコート(Intersleek757、International Paint)を有した。二次コーティング層の塗工および試験開始前に、各コートを、大気条件下で完全に硬化させた。
【0114】
汚損が激しく増加することで知られるチャンギ、シンガポールにおける0.5から1.0mの深さでの天然の熱帯海洋水中に、試験パネルを同時に浸漬した。前記パネルを、前記水から定期的に取り出し、写真を撮り、前記コーティング系上の汚損の増加を、前記パネルの再浸漬前に評価した。
【0115】
トラロピリル(実施例9)およびジチアノン(実施例10)を含む前記コーティング系は、8か月間の浸漬後でさえ、実質的に汚損を含まないままであった。ピリチオン銅(実施例11)およびピリチオン亜鉛(実施例12)を含む前記コーティング系は、8か月後に、実施例9および10より激しい汚損増加を示したが、前記対照コーティングよりは、激しくない汚損増加を示した。
【0116】
全ての場合において、実施例9から12のコーティング系について、8か月の浸漬後に、気泡およびクラックはなかった。
【0117】
これらの結果は、長期間にわたって汚損を防止する、本発明に基づくコーティング系の性能が、標準的な市販の汚損除去コーティング系に対して、顕著に改善されることを明確に示す。
上記の開示によって提供される本願発明の具体例として、以下の発明が挙げられる。
[1] 殺生物性汚損除去コーティング系によってコーティングされた構造物であって、
a.基材を提供すること、
b.一次コーティング層で前記基材をコーティングすること、
c.前記一次コーティング層の上面に少なくとも1つの二次コーティング層を塗工すること
により得られ、
前記一次コーティング層がバイオサイドを含み、前記二次コーティング層が、前記一次コーティング層よりもバイオサイドが少なく、かつバイオサイドを含まないかまたは実質的に含まず、前記一次コーティング層および前記二次コーティング層が、前記バイオサイドの制御型浸出を示す殺生物性汚損除去コーティング系を形成している、構造物。
[2] 前記コーティングの塗工後5日の前記汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度(R)と、前記コーティングの塗工後30日のバイオサイドの放出速度(R30)との比R/R30が1.5以下である、[1]に記載の構造物。
[3] 前記比R/R30が、1.33以下である、[2]に記載の構造物。
[4] 前記一次コーティング層および/または前記二次コーティング層が弾性ポリマーを含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の構造物。
[5] 前記一次コーティング層および/または前記二次コーティング層がポリオルガノシロキサンを含む、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の構造物。
[6] 前記基材が防食コーティングによってコーティングされ、前記一次コーティング層が前記防食コーティングを覆うタイコートとして使用される、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の構造物。
[7] 前記一次コーティング層中の前記バイオサイドが有機系または金属有機系のバイオサイドである、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の構造物。
[8] 前記バイオサイドが、1以上の、5位および場合により1位において置換された2−トリハロゲノメチル−3−ハロゲノ−4−シアノピロール誘導体、または1,4−ジチアアントラキノン−2,3−カルボニトリルである、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の構造物。
[9] 前記二次コーティング層が非適合性流体を含む、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の構造物。
[10] 前記基材が、海洋構造物または水産養殖構造物、例えば、船殻、ボートの船体、ブイ、掘削基地、オイルリグ、浮遊式生産貯蔵出荷設備(FPSO)、パイプ、発電所の冷却水取水口、漁網または魚籠である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の構造物。
[11] 汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度を制御する方法であって、前記コーティングの塗工後5日の前記汚損除去コーティング系からのバイオサイドの放出速度(R)と、前記コーティングの塗工後30日のバイオサイドの放出速度(R30)との比R/R30が、1.5以下であり、
a.基材を提供すること、
b.一次コーティング層で前記基材をコーティングすること、
c.前記一次コーティング層の上面に少なくとも1つの二次コーティング層を塗工すること
を含み、前記一次コーティング層がバイオサイドを含み、前記二次コーティング層が前記一次コーティング層よりもバイオサイドが少なく、かつバイオサイドを含まないかまたは実質的に含まない、方法。