特許第5993457号(P5993457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993457
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】口腔内下顎前進器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/56 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
   A61F5/56
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-528471(P2014-528471)
(86)(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公表番号】特表2014-525321(P2014-525321A)
(43)【公表日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】US2012052207
(87)【国際公開番号】WO2013032884
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年8月6日
(31)【優先権主張番号】13/199,383
(32)【優先日】2011年8月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514051143
【氏名又は名称】アプニア・サイエンシーズ・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】APNEA SCIENCES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファロン,ジェイムズ・シィ
(72)【発明者】
【氏名】ユング,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ファロン,ジェイムズ・エス
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0017220(US,A1)
【文献】 米国特許第6055986(US,A)
【文献】 国際公開第2011/019948(WO,A1)
【文献】 米国特許第5570704(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0235037(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0241969(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内下顎前進器具であって、前記口腔内下顎前進器具は、患者の口に挿入されて患者の下顎の位置を上顎に対して調整できるようにすることによって、患者が睡眠中に呼吸できるようにする咽喉への気道を維持し、前記器具は、
弓形形状を有し患者の上顎の歯を載せる上トレイアセンブリを備え、前記上トレイアセンブリは、前部と、互いに向かい合い間に距離をおいて位置する一対の側部とを有し
弓形形状を有し患者の下顎の歯を載せる下トレイアセンブリを備え、前記下トレイアセンブリも、前部と、互いに向かい合い間に距離をおいて位置する一対の側部とを有し、
前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの一方の前記一対の側部各々に位置する位置調整ブロックと、
前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの他方の前記一対の側部各々に位置するロック溝とを備え、各位置調整ブロックが対応するロック溝にスライド可能な状態で収容され、それにより、前記下トレイアセンブリが、前記上トレイアセンブリと、解放可能なロック係合状態で嵌め合わされることにより、前記下トレイアセンブリの前記上トレイアセンブリからの変位を防止し、
前記下トレイアセンブリが、自身の前記対向する側部に同時に加えられた横方向の圧縮性圧迫力に反応してその形状を一時的に変え変形することによって、前記上トレイアセンブリに対する前記下トレイアセンブリのロック係合状態を解除して各位置調整ブロックが対応するロック溝の中でスライドできるようにし、それにより、前記下トレイアセンブリの位置および患者の下顎の位置を、前記上トレイアセンブリの位置および患者の上顎の位置に対して調整できるようにする、口腔内下顎前進器具。
【請求項2】
前記下トレイアセンブリは、前記一対の側部各々に位置し前記横方向の圧縮性圧迫力を受けるプッシュパッドを、前記プッシュパッドが前記圧縮性圧迫力を受けることにより、前記弓形形状の下トレイアセンブリの形状が一時的に変化し前記下トレイアセンブリの位置を前記上トレイアセンブリの位置に対して調整することができる、請求項1に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項3】
前記弓形形状の下トレイアセンブリの一方側に位置する少なくとも1つのプッシュパッドは位置インジケータを有し、前記上トレイアセンブリは位置表示目盛を有し、前記位置インジケータは、前記下トレイアセンブリの位置が前記上トレイアセンブリの位置に対して調整されるときに前記位置表示目盛に沿って移動する、請求項2に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項4】
前記弓形形状の下トレイアセンブリの前記前部に位置し前記前部から上向きに直立するセンタリングガイドと、前記弓形形状の上トレイアセンブリの前記前部の一対のガイド経路壁の間に位置するガイド経路とが設けられており、前記センタリングガイドは、前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの一方の前記一対の側部にある前記位置調整ブロックが前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの他方の前記一対の側部にある前記ロック溝においてそれぞれスライドしているときに、前記一対のガイド経路壁の間の前記ガイド経路を通って進む、請求項に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項5】
前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび下トレイアセンブリそれぞれの前記一対の側部に位置する前記位置調整ブロックおよび前記ロック溝はそれぞれ前記位置調整ブロックおよび前記ロック溝に沿って1組の歯を有し、前記位置調整ブロックの前記1組の歯が、前記ロック溝の前記1組の歯と噛み合うことによって、前記下トレイアセンブリが前記上トレイアセンブリと前記解放可能なロック係合状態で嵌め合わされて、前記下トレイアセンブリの前記上トレイアセンブリからの変位を防止する、請求項に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項6】
前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび前記弓形形状の下トレイアセンブリのうちの前記一方の前記一対の側部各々にある各位置調整ブロックは、前記位置調整ブロックから突出したリップを有し、前記位置調整ブロックから突出したリップは、前記弓形形状の下トレイアセンブリの前記位置調整ブロックが、前記弓形形状の上トレイアセンブリの前記ロック溝においてそれぞれスライドしているときに、前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび前記弓形形状の下トレイアセンブリのうちの前記他方の前記一対の側部に沿ってスライドし前記一対の側部と係合する、請求項に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項7】
前記弓形形状の上トレイアセンブリの前記一対の側部間および前記弓形形状の下トレイアセンブリの前記一対の側部間に保持され、患者の舌の上に載ることにより前記舌が患者の気道に落ち込まないようにして前記患者の気道の閉塞を防止するようにされた、舌載置部をさらに備える、請求項1に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項8】
前記舌載置部が接続された舌載置支持部をさらに備え、前記舌載置支持部は、前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの前記一方の前記一対の側部に位置する位置調整ブロックに、取外し可能な状態で接続されることによって、前記舌載置支持部および前記舌載置支持部に接続された前記舌載置部を前記位置調整ブロックから取外すことができる、請求項に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項9】
前記上トレイアセンブリは、患者の上顎の歯を載せる相対的に軟質で歯型形成可能な上咬合部と、前記上咬合部と比較して相対的に硬質で剛性の上台とを含み、前記上咬合部は前記上台に載っている、請求項1に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項10】
前記上トレイアセンブリの前記相対的に軟質で歯型形成可能な上咬合部には、患者の上顎の歯を受ける咬合溝が形成され、前記上咬合部は、患者が前記上トレイアセンブリを咬んだときに、加えられた熱に反応して患者の上顎の歯型を前記咬合溝に形成し、それにより、前記相対的に軟質で歯型形成可能な上咬合部は前記相対的に硬質で剛性の上台に押し付けられて圧縮される、請求項に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項11】
前記下トレイアセンブリは、患者の下顎の歯を載せる相対的に軟質で歯型形成可能な下咬合部と、前記下咬合部と比較して相対的に硬質で剛性の下台とを含み、前記下咬合部は前記下台に載っている、請求項10に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項12】
前記下トレイアセンブリの前記相対的に軟質で歯型形成可能な下咬合部には、患者の下顎の歯を受ける咬合溝が形成され、前記下咬合部は、患者が前記下トレイアセンブリを咬んだときに、加えられた熱に反応して患者の下顎の歯型を前記咬合溝に形成し、それにより、前記相対的に軟質で歯型形成可能な下咬合部は前記相対的に硬質で剛性の下台に対して押し付けられて圧縮される、請求項11に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項13】
口腔内下顎前進器具であって、前記口腔内下顎前進器具は、患者の口に挿入されて患者の下顎の位置を上顎に対して調整できるようにすることによって、患者が睡眠中に呼吸できるようにする咽喉への気道を維持し、前記器具は、
患者の上顎の歯を載せる上トレイアセンブリと、
患者の下顎の歯を載せる下トレイアセンブリとを備え、
前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの一方は、少なくとも1つの直立した位置調整ブロックを含み、前記位置調整ブロックは前記ブロックに沿って第1の組の歯を有し、前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの他方は、少なくとも1つの窪んだロック溝を有し、前記ロック溝は前記ロック溝に沿って相補的な1組の歯を有し、前記位置調整ブロックは、前記窪んだロック溝に収容されて、前記第1の組の歯と前記相補的な1組の歯とが、解放可能なインターロック係合状態で噛み合うことにより、前記下トレイアセンブリの前記上トレイアセンブリからの変位を防止し、
前記下トレイアセンブリが、自身に加えられた横方向の圧縮性圧迫力に反応しそれに応じてその形状を変え一時的に変形することによって、前記位置調整ブロックおよび前記窪んだロック溝の前記第1の組の歯と前記相補的な1組の歯とのインターロック係合状態を解除できるようにして、前記直立する位置調整ブロックを前記ロック溝の中でスライドさせることにより、前記下トレイアセンブリの位置および患者の下顎の位置を、前記上トレイアセンブリの位置および患者の上顎の位置に対して調整する、口腔内下顎前進器具。
【請求項14】
前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリは各々、前部と、間に間隔をおいて互いに対向して位置する一対の側部とを有する弓形形状を有し、前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび前記弓形形状の下トレイアセンブリのうちの前記一方は、前記一対の側部各々に位置する前記少なくとも1つの直立する位置調整ブロックを有し、前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび前記弓形形状の下トレイアセンブリのうちの前記他方は、前記位置調整ブロックのうち対応する位置調整ブロックをスライド可能な状態で収容するための、前記少なくとも1つの窪んだロック溝が前記一対の側部各々にあり、前記下トレイアセンブリは、前記下トレイアセンブリの前記一対の側部に同時に加えられた前記横方向の圧縮性圧迫力に反応する、請求項13に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項15】
前記弓形形状の上トレイアセンブリおよび前記弓形形状の下トレイアセンブリ各々の前記一対の側部の間に保持され、患者の舌の上に載って舌が患者の気道に落ち込んで気道を閉塞することを防止する舌載置部と、前記舌載置部が接続される舌載置支持部とをさらに備え、前記舌載置支持部は、前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの前記一方の前記一対の側部に位置する前記直立する位置調整ブロックに、取外し可能な状態で接続される、請求項14に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項16】
前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリは各々、患者の上顎および下顎それぞれの1組の歯が載る相対的に軟質で歯型形成可能な咬合部と、前記咬合部と比較して相対的に硬質で剛性の台とを有し、前記咬合部は前記台に載っている、請求項13に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項17】
前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの一方から上向きに直立するセンタリングガイドと、前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリのうちの他方に位置する一対のガイド経路壁間に形成されたガイド経路とが設けられ、前記直立するセンタリングガイドが、前記位置調整ブロックが前記ロック溝の中でスライドするのと同時に、前記一対のガイド経路壁間の前記ガイド経路を通って進み、前記下トレイアセンブリの位置および患者の下顎の位置が調整される、請求項13に記載の口腔内下顎前進器具。
【請求項18】
前記少なくとも1つの直立する位置調整ブロックは、前記位置調整ブロックから突出したリップを有し、前記少なくとも1つの窪んだロック溝はその上に受け部を有し、前記リップは前記受け部の下でスライドし前記受け部に把持され、それにより、前記位置調整ブロックは前記ロック溝の中で保持され前記上トレイアセンブリおよび前記下トレイアセンブリが互いに嵌め合わされる、請求項13に記載の口腔内下顎前進器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.技術分野
本発明は口腔内下顎前進器具に関する。この器具は、患者の口に挿入されて患者の上顎に対する下顎の位置を連続的に調整できるようにして患者の睡眠中の呼吸を改善することにより、いびきおよび/または睡眠時無呼吸の影響を減じる。上記調整は、特殊な道具、ばねを用いずに、または、固定具を取外して設置することなしに、または、医療関係者の補助を要することなく、時間の経過に応じて患者自身が容易にかつ選択的に行なうことができる。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術
いびきおよび睡眠時無呼吸の原因は一般的に、患者が睡眠中に呼吸を行なう咽喉への気道の障害(閉塞)にある。例として、加齢、過体重、医学的状態および健康状態等が原因で、患者の口蓋および咽喉周囲の軟組織が弛緩して崩れ、その結果、睡眠中の患者の咽喉への空気の流れが遮断または制限されることが知られている。患者の舌が咽喉に向かって後退することによって呼吸に悪影響を与えることもある。空気の供給の遮断が長引くと、患者は、窒息し、貴重な睡眠を奪われ、極端なケースでは心臓の障害が生じる可能性がある。
【0003】
いびきおよび睡眠時無呼吸の治療に有効であることが証明されている手段として、CPAPマシンがある。この場合、圧力を加えた空気を患者の咽喉に継続して送り込むことによって気道が開いた状態を保つ。しかしながら、CPAPマシンを使用する場合は、患者の鼻および/または口の上に紐で固定されるマスクも使用しなければならない。このようなマスクの着用は多くの患者にとって不快である。CPAPの着用に耐えられない患者は、CPAPから得られる利点を享受できない。
【0004】
CPAPマシンに共通するマスクの使用を避けるために、いびきおよび睡眠時無呼吸の治療の代替手段として、患者の口に挿入されて睡眠中に使用される口腔器具が提案されている。このような装置は、患者の上顎と下顎の相対的な位置を必要に応じて調整することにより呼吸の通路を開いた状態に保つことができる。従来の口腔器具の中には、試用期間後に器具の設定を固定してロックするものがある。しかしながら、患者の不快感および装置の無効性を解消するための調整はその後行なうことができない。したがって、こうした器具は、変化する患者の状態に対応することができないので、時間が経過すると効果が失われる可能性があることがわかっている。
【0005】
その他の従来の口腔器具の中には、最初の設定後の調整が可能なものがある。この場合の調整は、特殊な工具、ばねの使用、複雑なことが多い固定具の取外しおよび設置、ならびに医療関係者の補助が必要であることが多い。このため、患者は必要な調整を患者自身で素早くまたは簡単に行なうことができない場合がある。加えて、このような調整はその性質として粗い(たとえば低、中、および高)ことが多いので、継続して患者の特定の要求に応えるために必要であろう患者の上顎または下顎の位置の微調整を行なうことができない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
簡単に一般的な用語で説明すると、患者の口に挿入されて患者の咽喉への気道を開いた状態で保つことにより睡眠中の呼吸を改善するように構成された、口腔内下顎前進器具が開示される。本明細書に開示される下顎前進器具は特にいびきおよび/または睡眠時無呼吸に悩まされている人々による使用に適用される。この器具は、患者の上顎が支えている歯と係合する弓形の上トレイアセンブリと、患者の下顎の歯と係合する弓形の下トレイアセンブリとを含む。下トレイアセンブリを、上トレイアセンブリと嵌め合わせて上トレイアセンブリに対してスライド調整可能にして、患者の下顎を上顎に対して前方に移動させる。下トレイアセンブリの上トレイアセンブリに対するスライド調整は、患者が、選択的かつ連続的に行なって、時間の経過にともなって変化する患者の要求に応えるために必要に応じて患者の下顎を少しずつ前進させることができる。上記調整は、患者自身が、特殊な工具、ばねを用いずに、固定具を取出して設置することなく、または医療関係者の補助を受けることなく、行なうことができる。
【0007】
下顎前進器具の上トレイアセンブリは、相対的に硬質の上台に装着される相対的に軟質の上咬合印象トレイを含む。下トレイアセンブリは、相対的に硬質の下台に装着される相対的に軟質の下咬合印象トレイを含む。上咬合印象トレイおよび下咬合印象トレイは各々、咬合溝を有する。咬合溝には、上トレイアセンブリおよび下トレイアセンブリを先ず加熱してから患者が軟質の咬合印象トレイを硬質の台に押し付けて咬んで圧縮したときに、患者の歯型が形成される。
【0008】
弓形の下トレイアセンブリの対向する側部から上向きに延びている一対の位置調整ブロックがそれぞれ、弓形の上トレイアセンブリの対向する側部に形成されたロック溝に収容されることによって、上トレイアセンブリと下トレイアセンブリが上下に嵌め合わされる。位置調整ブロックは位置調整ブロックに沿って一組の歯を有し、ロック溝はロック溝に沿って一組の歯を有し、これらの歯が噛み合うことによって下トレイアセンブリの位置が上トレイアセンブリの下でロックされる。下トレイアセンブリの位置を変更しそれに応じて患者の下顎を変更する(すなわち前進させる)ことが望ましいときは、患者が、弓形の下トレイアセンブリの両側部に位置する位置制御プッシュパッドに圧縮性圧迫力を加える。この圧縮力が、下トレイアセンブリの形状を一時的に変えることによって、位置制御ブロックに沿う歯が移動してロック溝に沿う歯とのロック係合が解除される。下トレイアセンブリの位置を、下トレイアセンブリの位置制御ブロックを上トレイアセンブリのロック溝の中で押すことによって、スライド調整する。
【0009】
下顎前進器具はまた、可撓性の舌支持ワイヤの一端に装着された舌載置部を有する。舌支持ワイヤの他端は、下トレイアセンブリに取外し可能な状態で接続されているので、舌載置部を、患者の要求および快適さを考慮して、取外すことができる。舌支持ワイヤを接続した状態において、舌載置部が、患者の舌の上に載ることによって、舌が後方に垂れ下がらないようにし場合によっては患者の気道の閉塞を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】睡眠中の患者の口に挿入されている本発明の口腔内下顎前進器具を示す。
図2】患者の口の外にある、調整後の、好ましい実施の形態に従う図1の下顎前進装置を示す。
図3】調整前の下顎前進装置の正面斜視図を示す。
図4】調整前の下顎前進装置の背面斜視図を示す。
図5】下顎前進装置の正面図を示す。
図6図5の線6−6に沿う下顎前進装置の断面図である。
図7】下顎前進装置の上面分解図を示す。
図8】下顎前進装置の下面分解図を示す。
図9】互いに嵌め合わされて下顎前進装置が完成する前の上および下トレイアセンブリの上面斜視図を示す。
図10】互いに嵌め合わされて下顎前進装置が完成する前の上および下トレイアセンブリの下面斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好ましい実施の形態の説明
図面を参照して、以下、本発明の好ましい実施の形態に従う口腔内下顎前進器具1の詳細を示す。下記のように、下顎前進器具1は、患者の口の中に嵌められて、患者の下顎を上顎に対して、患者が選択的かつ連続的に制御できる可変距離だけ前進させることができるように、構成されている。よって、器具1を、工具、ばねを使用することなく、固定具の取外しおよび挿入を行なうことなく、または、医療関係者が介入することなく、患者が手で調整して咽喉への気道が開いた状態を保つようにすることにより、患者の睡眠中の十分な呼吸を促進できる。したがって、口腔内下顎前進器具1が特にいびきおよび/または睡眠時無呼吸の克服を希望している患者による使用に適用されることがわかるであろう。
【0012】
最初に図面のうちの図7図10を参照すると、器具1は、上トレイアセンブリ3と下トレイアセンブリ5とを含む。図3図6を参照しながら以下でより詳細に述べるように、上トレイアセンブリ3および下トレイアセンブリ5を、患者が下トレイアセンブリ5を上トレイアセンブリ3に対して前進させることができるように、上下に嵌め合わせる。下トレイアセンブリ5を前方に移動させると、それに応じて患者の下顎が上顎に対して前方に移動することにより、患者の咽喉への気道の大きさを調節して閉塞を回避することによって、いびきおよび/または睡眠時無呼吸の影響を軽減できる。
【0013】
口腔内下顎前進器具1の上トレイアセンブリ3は、上咬合印象トレイ7と上台9とを含む。これらは、トレイ7が台9の上に位置するように互いにプレス嵌めされる。上咬合印象トレイ7および台9はいずれも、概ね弓形の構成を有することにより、上顎によって支えられている歯の咬合パターンと一致する。上咬合印象トレイ7は、たとえばデュポン社が製造する市場でEVAとして知られている材料等、相対的に軟質で歯型を形成すること(印象)が可能な(impressionable)材料から製造される。台9は、たとえばポリカーボネート等、相対的に硬質で剛性の材料から製造される。
【0014】
口腔内下顎前進器具1の下トレイアセンブリ5は、下台10と下咬合印象トレイ12とを含む。これらは、台10がトレイ12の上に位置するようにプレス嵌めされる。上トレイアセンブリ3の上トレイ7および上台9と同様、下トレイアセンブリ5の下台10および下咬合印象トレイ12は各々、概ね弓形の構成を有することにより、下顎によって支えられている歯の咬合パターンと一致する。また、上トレイ7および上台9と同様、下台10は相対的に硬質で剛性の材料から製造され、下咬合印象トレイ12は相対的に軟質で歯型を形成することが可能な材料から製造される。
【0015】
咬合溝14(図7に最も明確に示される)が、上トレイアセンブリ3の弓形の上咬合印象トレイ7の上面においてその形状に沿って延びている。咬合溝14の大きさは、患者の上顎骨が支えている一組の歯を受ける大きさである。相対的に軟質の上咬合印象トレイ7が相対的に硬質の上台9の上面に載っている限り、患者の上の一組の歯によって生じ上咬合印象トレイ7に加わる咬合力が、下記のようにして咬合溝14を形作る。
【0016】
複数(たとえば6個)の位置決めピン16(図8に最も明確に示される)が、上咬合印象トレイ7の底から下向きに突出している。加えて、複数(たとえば5個)の位置決めタブ18(これも図8に最も明確に示される)が、弓形の上咬合印象トレイ7から内向きおよび外向きに突出している。これら複数の位置決めピン16および複数の位置決めタブ18により、上咬合印象トレイ7を上台9に押込んで取付けて上トレイアセンブリ3を完成させることができる。
【0017】
対応する複数の位置決めピンホール20が、上トレイアセンブリ3の上台9を貫通している。同様に、対応する複数の位置決めタブスロット22が、上台9に形成されている。上台9の位置決めピンホール20および位置決めタブスロット22は、上咬合印象トレイの位置決めピン16および位置決めタブ18をそれぞれ受けるように位置付けられる。よって、下顎前進器具1の上トレイアセンブリ3を完成させるために圧迫力または圧力が加えられると、上咬合印象トレイ7が上台9の上に載り上台9に装着される。
【0018】
一対のガイド保持壁26(図8に最も明確に示される)が、弓形の上台9の前部に位置している。ガイド保持壁26は、上台9の底に沿って、間隔をおいて互いに平行に整列して延びている。ガイド経路28が、一対のガイド保持壁26の間の空間に定められる。下記のように、下トレイアセンブリ5の下台10から上向きに突出しているセンタリングガイド(図7において46で示される)が、上トレイアセンブリ3および下トレイアセンブリ5を互いに嵌め合わせたときに、ガイド壁26の間のガイド経路28に、スライド可能な状態で収容される。
【0019】
上台9の底部の両側に位置しガイド保持壁26の後ろ側に形成されているのは、ロック溝30(これも図8に最も明確に示される)である。ロック溝30は、互いに平行に延びかつ上台9の前部のガイド経路28に対して平行に延びている。一列の歯32が、各ロック溝30の片側に沿って形成(たとえば型によって成形)されている。受け部34が、各ロック溝30の反対側に沿って延び突出し、溝30全体にわたってその上に延びている。以下でも述べるように、下台10のセンタリングガイド46が上台9のガイド経路28にスライド可能な状態で収容されるのと同時に、下台10から上向きに直立している一対の位置調整ブロック(図7および図9において48で示される)が上台9のロック溝30において押されて進みこの溝とインターロック係合することによって、上トレイアセンブリ3および下トレイアセンブリ5の相対的な位置が保たれる。
【0020】
咬合溝36(図8に最も明確に示される)が、下トレイアセンブリ5の弓形の下咬合印象トレイ12の底面においてその形状に沿って延びている。咬合溝36の大きさは、患者の下顎骨が支えている一組の歯を受ける大きさである。相対的に軟質の下咬合印象トレイ12が相対的に硬質の下台10の下面に載っている限り、患者の下の一組の歯によって生じ下咬合印象トレイ12に加わる咬合力によって、上咬合印象トレイ7の咬合溝14が形作られるのと同時に、咬合溝36が形作られる。
【0021】
下トレイアセンブリ5の下咬合印象トレイ12から上向きに突出しているのは、複数(たとえば5個)の位置決めピン38(図7に最も明確に示される)である。複数(たとえば5個)の位置決めタブ40(これも図7に最も明確に示される)が、弓形の下咬合印象トレイ12から内向きおよび外向きに突出している。これら複数の位置決めピン38および複数の位置決めタブ42により、下咬合印象トレイ12を下台10に押込んで取付けて下トレイアセンブリ5を完成させることができる。
【0022】
対応する複数の位置決めピンホール42および複数の位置決めタブスロット44が、下トレイアセンブリ5の下台10に形成されている。下台の位置決めピンホール42および位置決めタブスロット44は、下咬合印象トレイ12の位置決めピン38および位置決めタブ40をそれぞれ受けるように位置付けられる。よって、下顎前進器具1の下トレイアセンブリ5を完成させるために圧迫力または圧力が加えられると、下台10が下咬合印象トレイ12の上に載りトレイ12に装着される。
【0023】
先に述べたセンタリングガイド46(図7に最も明確に示される)が、弓形の下台10の前部分に位置している。センタリングガイド46は、下台10の上面から上向きに直立し上記一対の位置調整ブロック48の間にある。下台10の位置決めピンホール42のうちの1つが、センタリングガイド46を通り、下咬合印象トレイ12の前部分の、対向する位置決めピン38を収容する。前述のように、下台10のセンタリングガイド46は、下顎前進器具1を完成させるために上トレイアセンブリ3を下トレイアセンブリ5と嵌め合わせたときに、上台9のガイド経路28にスライド可能な状態で収容される。
【0024】
センタリングガイド46の後ろ側において上台10の対向する側部に位置し上台10から上向きに直立しているのは、一対の位置調整ブロック48(これも図7に最も明確に示される)である。一列の歯50が、各位置調整ブロック48の片側に沿って形成(たとえば型によって成形)されている。リップ52が、間隔をおいて対向して整列して配置されるように、位置調整ブロック48各々の反対側に沿って延びて突出している。
【0025】
これも前述のように、下台10のセンタリングガイド46が上台9のガイド経路28にスライド可能な状態で収容されるのと同時に、下台10の一対の位置調整ブロック48が、これに応じて整列して上台9の対応するロック溝30にスライド可能な状態で収容されてこのロック溝の中を進む。同様に、位置調整ブロック48から突出している対向するリップ52が、ロック溝30全体にわたってその上に延びている受け部34の下側にスライドして受け部34によって把持されることにより(図5参照)、上トレイアセンブリ3および下トレイアセンブリ5が互いに嵌め合わされ、互いに上下に位置し適所で保持される(図3および図4に最も明確に示される)。同じように、一対の位置調整ブロック48に沿う歯50が、移動し、ロック溝30に沿う歯32と、解放可能な状態でロック係合し噛み合う。しかしながら、対向し噛み合う一組の歯32と一組の歯50の代わりに、任意の適切なインターロックラチェット手段を用いてもよい。
【0026】
本発明の1つの重要な特徴は、患者が、位置調整ブロック48の歯50とロック溝30の歯32とのロック係合を解除できることである。これにより、下顎前進装置1の下トレイアセンブリ5の上トレイアセンブリ3に対する位置を、正確な距離だけ選択的に変更して、睡眠中時間の経過にともなって変化する患者の要求に応えることができる。
【0027】
より具体的には、一対の位置制御プッシュパッド56が、下トレイアセンブリ5の下台10の両側に位置しこの両側に一体的に形成されている。位置インジケータ58がプッシュパッド56各々に成形または印刷されている。一対の位置制御プッシュパッド56は、下台10を一瞬の間変形させて一列の歯32と一列の歯50の係合を一時的に解除するために患者によって加えられる圧縮性圧迫力(図3および図4に最も明確に示される)に反応する。次に、患者は、押す力を加えて、下トレイアセンブリ5を上トレイアセンブリ3に対してスライド可能な状態で配置し直し下トレイアセンブリ5の上トレイアセンブリ3に対する位置を変更することにより、下記の結果を得ることができる。
【0028】
位置表示目盛60が、上トレイアセンブリ3の上台9の両側に位置し一体化されている。一続きの位置ラインが目盛60各々に成形または印刷されている。目盛60の連続する2つの位置ライン間の増分は、予め定められた線形距離(たとえば1ミリメートル)に相当する。下トレイアセンブリ5を上トレイアセンブリ3の下で移動させてスライド嵌め合い係合状態にした後の、下顎器具1の組立構成(図2図5に最も明確に示される)では、上台9の両側の位置表示目盛60が、下台10の両側の位置制御プッシュパッド56の直上に位置する。各プッシュパッド56の位置インジケータ58は、各位置表示目盛60に沿う特定距離に相当する位置ラインを示す。
【0029】
このように、図2に示されるように下トレイアセンブリ5の位置を上台9の下でスライド可能な状態で調整すると、位置制御パッド56の位置インジケータ58は、位置表示目盛60に沿って同じ距離だけ変位して、患者に対し、上トレイアセンブリ3に対する下トレイアセンブリ5の位置を視覚的に表示する。このようにして、患者は、定期的に制御可能で正確な位置調整を下トレイアセンブリ5に対して行なうことにより、図1を参照しながら以下で述べる利点を得ることができる。
【0030】
下顎前進器具1はまた、必要に応じて曲げて成形できる可撓性の舌支持ワイヤ62を含む。舌支持ワイヤ62は、好ましくはステンレス鋼等から作られ、後方曲げ部66が、(図3図4、および図6の)舌載置部68を載せる座部を形成するものとして示されている。舌載置部68は、ワイヤ62の上面上に旋回可能に接続または成形されている。舌載置部68は、理想的には低デュロメータシリコーンまたはウレタンから作られ、口腔内に位置するようにかつ患者の舌の上に載るように、舌支持ワイヤ62によって浮いた状態にされている。このようにして、患者が上向きの状態で器具1を口に入れて眠っている間に舌が口の中で後方に落ちないようにして患者の気道が遮断されることを防止する。
【0031】
後方曲げ部66を間に挟んで位置する舌支持ワイヤ62の両端70(図9に最も明確に示される)は、下トレイアセンブリ5の下台10の一対の位置調整ブロック48にそれぞれ取外し可能な状態で接続され解放可能な状態で保持されている。同時に、舌載置支持ワイヤ62は、下台10から上向きに直立してワイヤ62を下トレイアセンブリ5の上の適所で保持する一対のワイヤストップ71の後方に位置し、これらワイヤストップ71と係合する。舌支持ワイヤ62が位置調整ブロック48に取外し可能な状態で接続されワイヤストップ71と係合すると、下台10が下咬合印象トレイ12にプレス嵌めされて装着され、(図9および図10の)下顎前進器具の下トレイアセンブリ5が完成する。舌支持ワイヤ62の後方曲げ部66はしたがって、弓形の下台10と下咬合印象トレイ12によって囲まれた口腔内に位置する。口腔内で、器具1が患者の口に挿入されると、(図3および図4の)舌載置部68は患者の舌と係合する。使用中の快適性という観点から、患者が舌支持ワイヤ62を下トレイアセンブリ5から外したいと思うことがある。この場合、舌支持ワイヤ62の両端70を引張って位置調整ブロック48との取外し可能な状態での接続を解除し、ワイヤ62をワイヤストップ71から外すことにより、ワイヤ62と舌載置部68を一緒に器具1から外す。
【0032】
図面のうちの図9および図10は、下トレイアセンブリ5の上に位置する上トレイアセンブリ3を示す。上トレイアセンブリ3および下トレイアセンブリ5を互いに嵌め合わせることによって下顎前進装置1を完成させる。すなわち、上記のように、下トレイアセンブリ5の下台10から上向きに直立しているセンタリングガイド46が上トレイアセンブリ3の上台9のガイド壁26の間のガイド経路28をスライドし、下トレイアセンブリ5の下台10の位置調整ブロック48が押されて上台9のロック溝30とスライドインターロック係合したときに、下顎前進装置1が完成する。
【0033】
図面のうちの図3図6は、先に説明したように上トレイアセンブリ3および下トレイアセンブリ5を移動させて互いにスライドインターロック係合する状態にした後の、組立てられ今すぐに使用できる構成の口腔内下顎前進器具1を示す。示されている舌支持ワイヤ62は、下トレイアセンブリ5の下台10の位置調整ブロック48に、取外し可能な状態で接続されている。この場合、舌支持ワイヤ62の後方曲げ部66に装着されている舌載置部68は、ワイヤ62から浮いた状態にあることがわかる。よって、器具1を患者の口に挿入した後には、舌載置部68が、弓形の上トレイアセンブリ3および下トレイアセンブリ5によって囲まれ、患者の舌の上に載るように位置する。すなわち、先に述べたように、舌載置部68は、患者の舌が(重力の影響で)睡眠中に咽喉に向かって落ち込まないようにすることによって気管の遮断を防止する。
【0034】
オプションとして、舌載置部68には、一連の切溝72が設けられている。はさみまたは同様の切削工具を用いて、舌載置部68を切り溝72のうちの1つに沿って切断することにより、舌載置部を、患者の舌の大きさおよび快適さに応じて正確な量だけ短くすることができる。
【0035】
図3に最も明確に示されるように、上トレイアセンブリ3が下トレイアセンブリ5の上にある状態で、下顎前進装置1を通る一対の空気通路76が形成される。特に、ガイド経路28を間に挟んで位置する、上トレイアセンブリ3の上台9のガイド保持壁26が、装置1を通る空気通路76のための空隙を、上トレイアセンブリ3と下トレイアセンブリ5との間に形成する。この空気通路76は、特に鼻中隔彎曲症のまたは鼻孔が閉じている患者に役立つものであり、睡眠中に装置が使用されている間は確実に連続して空気が流れるようにすることによって呼吸を楽にする。
【0036】
睡眠中に初めて下顎前進器具1を使用する前に、患者は、水を沸騰させその中に器具を入れて加熱する。次に、加熱された器具1をトングまたは同様の道具を用いて沸騰した水から取出し、温かい状態になるまで冷ます。器具1をまだ温かい間に患者の口に挿入する。このとき、患者は口を閉じて相対的に軟質の上咬合印象トレイ7および下咬合印象トレイ12を咬む。患者の上の一組の歯が上咬合印象トレイ7の咬合溝14を咬み込み、患者の下の一組の歯が下咬合印象トレイ12の咬合溝36を咬み込む。上の一組の歯および下の一組の歯の型が、対向する相対的に軟質の咬合溝14および36に形成される。これらは、前述のように、相対的に硬質の上台9および下台10に対して加圧されている。
【0037】
患者が上咬合印象トレイおよび下咬合印象トレイ12を咬むと、それと同時に、上の一組の歯と下の一組の歯によって対応する圧力が発生し、この圧力によって、ロックピン16(図8)およびロックピン38(図7)が移動して、それぞれに対向して整列するロックピンホール20および42に完全に通される。これにより、軟質の上咬合印象トレイ7が硬質の上台9に固定されて上トレイアセンブリ3の組立てが完了し、軟質の下咬合印象トレイ12が硬質の下台10に固定されて下トレイアセンブリ5の組立てが完了する。最後に、器具1を氷水の中に入れて、咬合溝14および36における患者の上の一組の歯および下の一組の歯の型を恒久化させる。
【0038】
この時点で、本発明の口腔内下顎前進器具1は、患者が睡眠中に使用できる状態になっている。この点に関して図面のうちの図1を参照すると、示されている器具1は患者の口に挿入されている。先に説明したように、器具1は、好都合なことに、いびきおよび/または睡眠時無呼吸の影響を最小にするために、患者の下顎の位置を上顎よりも前方になるように定めるとともに制御可能な状態で下顎の位置を変えて上顎よりも前方になるようにすることによって、患者の気道が咽喉に向かって継続的に開いた状態になるように、構成されている。
【0039】
より具体的には、患者は、時間の経過とともに変化する患者の要求に応じて、下顎前進装置1を選択的に調整することによって、下顎を連続的に前方に移動させて気管の閉塞を防止することができる。図2は器具1の調整可能な性質を示している。図2に示される器具1は、その下トレイアセンブリ5を、(図3および図4に示される)上トレイアセンブリ3の直下の初期位置から押出して、図2の、下トレイアセンブリが上トレイアセンブリよりも前にある調整後の位置にした後の状態である。患者の上の一組の歯と下の一組の歯を、上トレイアセンブリ3の咬合溝14と下トレイアセンブリ5の咬合溝36が受けている限り、下トレイアセンブリ5が上トレイアセンブリ3に対して前進すると、それに応じて患者の下顎が上顎に対して前方に変位する。
【0040】
下トレイアセンブリ5が上トレイアセンブリ3に対して移動するのと同時に、下トレイアセンブリ5の位置制御プッシュパッド56に成形された位置インジケータ58が、同様の距離だけ、上トレイアセンブリ3の位置表示目盛60の下で移動して、患者に対し、患者の下顎の位置を視覚的に表示する。すなわち、下トレイアセンブリ5がスライドして前進すると、下トレイアセンブリの位置インジケータ58が位置表示目盛60に沿って連続的に少しずつ(たとえば1ミリメートルずつ)移動する。
【0041】
下顎前進器具1の下トレイアセンブリ5を選択的にかつ連続的に前進させそれに応じて患者の下顎を前進させるために、患者は、(図3および図4において方向を示す矢印80によって示される)圧縮性圧迫力を、下トレイアセンブリ5の下台10の両側に位置する位置制御プッシュパッド56に加える。この圧迫力80が瞬間的に下台10を変形させることによって、下台10の(図9の)位置調整ブロック48に沿う歯50が移動し、上台9の(図10の)溝30に沿う対向する歯32との噛み合いロック係合が解除される。そうすると、患者は、下トレイアセンブリ5を任意の距離だけ前方に引張ることによって、位置調整ブロック48を対応するロック溝30の中で進めることができる。
【0042】
下トレイアセンブリ5の前進位置が必要に応じて調整されると、患者は、位置制御プッシュパッド56に加えている圧迫力を解除することにより、下台10を元の形状に戻す。次に、下顎前進装置1を、図1に示されるように睡眠中に使用するために患者の口に挿入する。時間の経過にともなってさらに微調整が必要になれば、このような調整を、患者が自宅で上記のようにして容易にかつ正確に行なうことができ、このとき、工具、ばねは使用せず、固定具を取出して戻す必要はなく、または、医療関係者の補助は不要である。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10