(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5993512
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】コイルばねを利用したロックタイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/20 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
F16D41/20 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-223217(P2015-223217)
(22)【出願日】2015年11月13日
【審査請求日】2015年12月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
【審査官】
上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−139029(JP,A)
【文献】
特開2002−174272(JP,A)
【文献】
特開2013−122293(JP,A)
【文献】
特開2006−250176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の回転軸を中心として回転可能な入力軸及び出力軸を備え、前記入力軸からの正・逆方向の回転は前記出力軸に伝達されると共に、前記出力軸からの前記入力軸への回転の伝達は、前記出力軸を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
断面円形の内部空間が設けられた固定のハウジングと、前記ハウジングに固着された軸状の内輪とを備え、
前記内輪の外周面には、線材を巻回して形成されるコイルばねがその内周面を接触させて装着され、前記コイルばねの軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、
前記入力軸及び出力軸には、軸方向に延び、且つ、前記ハウジングの内部空間の内周面を摺動する断面円弧状の入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、前記出力係止片とフック部との周方向の距離が、前記入力係止片とフック部との周方向の距離よりも大きく設定されており、
前記入力軸が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力軸を回転させ、前記出力軸に回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力軸が回転不能となることを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記入力軸が前記入力係止片を固着した入力板部材を有すると共に、前記出力軸が前記出力係止片を固着した出力板部材を有し、前記入力板部材と前記出力板部材とが面接触する、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
前記内輪は円筒形状であり、前記内輪には、前記入力軸の入力軸部が挿通される、請求項1又は2に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力軸(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力軸(従動側)からの動力伝達は出力軸を回転不能として遮断する、コイルばねを用いたロックタイプ双方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から作業機器等を駆動する動力伝達系、例えば、モーターにより物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置に達したとき、モーターを停止すると物品が自動的にその位置を保持する作動が求められる場合がある。そのため、入力軸と出力軸を備えたロックタイプの双方向クラッチを用いて、入力軸を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力軸の回転により物品を昇降させる装置が知られている。例えば、本出願人の創案に係る特許文献1に記載の装置は、ローラの噛み込み及び噛み込み解除を利用してロックタイプ双方向クラッチとして機能させるものである。
【0003】
ロックタイプの双方向クラッチは、例えば、複写機のフィニッシャーにおいて、用紙を載せた用紙テーブルを移送する昇降装置、あるいは、建築物の窓のブラインドを昇降する昇降装置に適用される。そして、これを利用すると簡易な装置による自動的な動力伝達の制御が可能となって、例えば、ブレーキ機構を設けて電気的に制御する場合のような、電力等の使用が不必要となるとともに、出力軸側から不測の逆入力があった場合に、駆動源のモーターを保護することも可能となる。
【0004】
ところで、コイルばねを利用して動力伝達を断続する装置も知られている。例えば、コイルばねを備えた周知のトルクリミッタは、軸に巻き付けたコイルばねの摩擦力よりも大きいトルクが作用したときに、軸を空転させて動力の伝達を遮断する。また、コイルばねを利用したクラッチ装置として、例えば、本出願人の創案に係る特許文献2に記載された装置が公知であり、これについて、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5は、クラッチ装置の全体的な構造を示す図、
図6は、その断面を示す図である。
【0005】
図5のクラッチ装置は、第一ハウジング1H、第二ハウジング2H、内輪N、及びコイルばねSを含む。第一ハウジング1H及び第二ハウジング2Hには、軸方向に延びる断面円弧状の第一係止片1HS及び第二係止片2HSが夫々形成され、第一係止片1HS及び第二係止片2HSは、周方向に2個の間隙SPが存在するよう、組み合わされて設置されている。内輪Nは第二のハウジング2Hに挿通された円筒状部材であり、コイルばねSは内輪Nの外周面に接触して装着されている。
コイルばねSの軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部Fが周方向の異なる位置に形成され、このフック部Fが上記2個の間隙に夫々挿入されている。本クラッチ装置においては、第一ハウジング1Hが入力軸、内輪Nが出力軸として夫々機能する。
【0006】
第一ハウジング1H(入力軸)が回転すると、その回転方向に応じ、第一係止片1HSがコイルばねSの2個のフック部Fのいずれか(回転方向の前方にあるフック部)に当接してフック部Fを押し、押す力は、ばねの締め方向(コイルばねSと内輪Nとの間の摩擦力が増加する方向)に作用する。このとき、第二ハウジング2Hは自由に回転可能となっているため、結果として、第一係止片1HSは、コイルばねS、内輪N、及び第二係止片2HSが一体となって回転する。即ち、入力軸である第一ハウジング1Hの回転は、出力軸である内輪Nに伝達される。
一方、第二ハウジング2Hを固定した状態で、内輪N(出力軸)が回転すると、その回転方向に応じ、コイルばねSのフック部Fのいずれかによってその周方向への移動が第二係止片2HSによって規制される。フック部Fは第二係止片2HSによってばねの緩み方向に押されたことと同等となり、コイルばねSの内輪Nに対する締め付け力は弱められ、内輪NはコイルばねSに対して空転する。即ち、出力軸である内輪Nの回転は、入力軸である第一ハウジング1Hには伝達されず遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4850653号公報
【特許文献2】特許第4270338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のロックタイプ双方向クラッチは、ローラの噛み込み及び噛み込み解除を利用して入力軸及び出力軸間の動力伝達を制御するものであり、ローラを楔形空間に設置することから、その製造・組み立てが困難である。また、ローラの噛み込み等に起因して作動中に振動や異音を生じる問題がある。
【0009】
特許文献2のクラッチ装置、即ち
図5に示すコイルばねを用いたクラッチ装置は、組み立てが容易であること、製造コストを安価にできること等の利点がある。そして、簡単な構造で動力伝達を制御可能にすることができるが、出力軸側から回転した際には、出力軸は空転してしまいロックしない。そのため、このクラッチ装置を昇降装置に適用した場合には、ブレーキ機構を別途設け、出力軸側から回転しようとした際に出力軸をロックする必要があり、装置が大型化してしまうとともに構造が複雑化する。
また、
図5のクラッチ装置では、内輪とコイルばねの外方に第一ハウジング及び第二ハウジングが存在するものの、周方向に設けられた間隙から塵や埃等の異物が第一のハウジング及び第二のハウジングの内側に侵入し、各部材間に付着することで、装置全体の故障頻度が上昇し、使用寿命が短くなるおそれがある。
本発明の課題は、入力軸からの回転は出力軸に伝達され、出力軸から入力軸への回転の伝達は出力軸を回転不能として遮断される、コイルばねを利用した新規のロックタイプ双方向クラッチを提供し、上述の問題点を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明では、
図5のクラッチ装置と同様に、入力軸と出力軸に夫々入力係止片と出力係止片とを形成し、これらを周方向に2個の間隙が存在するよう組み合わせて設置する。そして、固定された内輪の外周面にコイルばねを装着し、その両端のフック部を2個の間隙の夫々に挿入して、出力係止片とフック部との周方向の距離が、入力係止片とフック部との周方向の距離よりも大きくなるように設定することにより、出力軸が回転したときは、出力係止片がコイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、出力軸を回転不能とするようにした。即ち、本発明は、
「共通の回転軸を中心として回転可能な入力軸及び出力軸を備え、前記入力軸からの正・逆方向の回転は前記出力軸に伝達されると共に、前記出力軸からの前記入力軸への回転の伝達は、前記出力軸を回転不能として遮断されるロックタイプ双方向クラッチであって、
断面円形の内部空間が設けられた固定のハウジングと、前記ハウジングに固着された軸状の内輪と
を備え、
前記内輪の外周面に
は、線材を巻回して形成されるコイルばねがその内周面を接触させて装着され、前記コイルばねの軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成され、
前記入力軸及び出力軸には、軸方向に延び
、且つ、前記ハウジングの内部空間の内周面を摺動する断面円弧状の入力係止片及び出力係止片が夫々形成され、前記入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう、組み合わされて設置され、
前記2個の間隙の夫々には、前記コイルばねの両端のフック部が挿入され、前記出力係止片とフック部との周方向の距離が、前記入力係止片とフック部との周方向の距離よりも大きく設定されており、
前記入力軸が回転したときは、前記入力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、前記コイルばねと共に前記出力軸を回転さ
せ、前記出力軸に
回転力を加えたときは、前記出力係止片が前記コイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、前記出力軸が回転不能となる」
ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチとなっている。
【0011】
本発明においては
、前記入力軸が前記入力係止片を固着した入力板部材を有すると共に、前記出力軸が前記出力係止片を固着した出力板部材を有し、前記入力板部材と前記出力板部材とが面接触するよう構成するのが好ましい。
また、前記内輪を円筒形状とし、前記内輪には、前記入力軸の入力軸部を挿通するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のロックタイプ双方向クラッチは、軸状の内輪と、この内輪の外周面に接触して装着され線材を巻回して形成されたコイルばねとを備え、コイルばねの両端には、外方に曲げられたフック部が周方向の異なる位置に形成される。入力軸及び出力軸には、軸方向に延びる断面円弧状の入力係止片及び出力係止片が夫々形成されており、入力係止片及び出力係止片は、周方向に2個の間隙が存在するよう組み合わせて設置され、この間隙に、コイルばねの両端のフック部が夫々挿入される。
こうした点は
図5のクラッチ装置と同様であるが、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、軸状の内輪が回転不能に固定されると共に、出力軸の出力係止片とフック部との周方向の距離が、入力軸の入力係止片とフック部との周方向の距離よりも大きくなるように設定してある。
【0013】
入力軸が回転すると、入力係止片が回転方向の前方側にあるコイルばねのフック部と当接し、フック部を押してこれを出力係止片に当接させる。コイルばねは、入力係止片がフック部と当接したときは緩み方向に力が作用するよう内輪に装着されており、さらに、出力係止片とフック部との周方向の距離が大きく設定してある。そのため、入力軸が回転したときには、コイルばねが撓んで内輪に対するコイルばねの締め付け力が弱められ、出力係止片が入力係止片及びコイルばねと共に回転して、出力軸に回転が伝達される。
一方、出力軸が回転しようとしたときは、出力係止片が回転方向の前方側にあるコイルばねのフック部と当接してこれを押すが、その方向はばねの締め方向となる。従って、内輪に対するコイルばねの締め付け力が強まって出力係止片の回転が阻止され、出力軸から入力軸への回転の伝達は、出力軸が回転不能となり(即ちロック)遮断される。
【0014】
このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、簡単な構造で、入力軸から出力軸への回転動力を確実に伝達することができると共に、出力軸から入力軸への回転動力をロックして遮断することができる。そのため、昇降装置に適用した場合でも、ブレーキ装置を出力軸に別途設けて出力軸を固定する必要もなく、装置全体をコンパクトにすることができる。
【0015】
本発明において、ロックタイプ双方向クラッチに固定のハウジングを設けたときは、コイルばねを装着する内輪をハウジングに固着して設置することができ、かつ、入力係止片と出力係止片とをハウジング内に収容することができる。これにより、双方向クラッチの内部に塵や埃等の異物が侵入するのを防止して、収容された各部材の耐久性を向上させ、また、異物の付着により動力伝達の際に伝達損失が増大するのを防ぐことができる。
そして、ハウジングに断面円形の内部空間を設け、その内部空間の内周面を、断面円弧状の入力係止片及び出力係止片の外周面が摺動するように構成することができる。こうすると、入力係止片及び出力係止片がハウジングの内部空間の内周面に支持されながら回転する。つまり、入力係止片及び出力係止片の変形が防止されて実質上剛性が増加することとなり、入力軸から出力軸への伝達トルクを増大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のロックタイプ双方向クラッチの実施例を示す図である。
【
図2】
図1の双方向クラッチの作動を説明する図である。
【
図3】
図1の双方向クラッチを構成する部品の単品分解図である。
【
図4】
図1の双方向クラッチを構成する部品の単品分解図である。
【
図5】コイルばねを用いた従来のクラッチ装置の一例を示す図である。
【
図6】
図5のクラッチ装置の作動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明のロックタイプ双方向クラッチについて説明する。まず、本発明の双方向クラッチの全体的な構造を
図1に示し、その作動の説明図を
図2に示す。
図3及び
図4は、
図1の実施例の双方向クラッチの部品を単体で示すものである。
【0018】
図1の中央の縦断面図に示すように(各部品を単品で示す
図3も参照)、この実施例の双方向クラッチは、固定のハウジング1の中心部に入力軸2及び出力軸3をそれぞれ配置した構造であり、図示は省略するが、入力軸2はモーター等の駆動側に接続され、出力軸3は昇降装置等の従動側に接続される。ハウジング1、入力軸2、及び出力軸3は何れも硬質合成樹脂によって成形される。
【0019】
図1と共に
図3(a)を参照して説明すると、ハウジング1は、断面正六角形の端板部11と、この端板部11から軸方向片側に延びる周壁部12からなるカップ状部品である。端板部11には、入力軸2を軸受する貫通開口11Hが形成されている。周壁部12の開口端部には、ハウジング1の一部を構成する、
図3(b)に示す蓋体12Cが圧入され、この蓋体12Cには、出力軸3を軸受する貫通開口12CHが形成されている。ハウジング1には、周壁部12の内側において蓋体12Cと接する第一の空間13と、端板部11の内側において第一の空間13と接する第二の空間14とが設けられている。第一の空間13と第二の空間14は共に断面円形であり、第一の空間13の直径は第二の空間14の直径に比べて大きい。また、第二の空間14には、後述する内輪を固定するための凸状の一対の係合突起14sが形成されている。
【0020】
入力軸2は、
図3(c)に示すとおり、入力板部材21と、入力係止片22と、入力軸部23とを一体的に成形した部品である。入力板部材21は、円板の周辺部分が90度よりも幾分大きい角度領域に亘り扇形に切り欠かれた形状であって、その中央には開口21Hが形成されている。入力係止片22は、軸方向に延びる断面円弧状の部材であって、入力板部材21の周縁部に固着され、図示の実施例においては、周方向に270度より幾分小さい角度領域に亘って存在している。入力軸部23は、入力板部材21の開口21Hを囲繞して、入力係止片22と軸方向同一側に延びる略円筒形状の部材であって、入力係止片22よりも径方向内側に位置する。入力軸部23の先端部には図示しないモーター等の駆動源に接続される突起状の係合部24が形成されている。
【0021】
出力軸3は、
図3(d)に示すとおり、出力板部材31と、出力係止片32と、出力軸部33とを一体的に成形した部品である。出力板部材31は、円板形状であって、その中央には開口31Hが形成されている。出力係止片32は、軸方向に延びる断面円弧状の部材であり、出力板部材31の周縁部の一部に固着され、図示の実施例においては、出力係止片32は周方向に90度よりも幾分小さい角度領域に亘って存在している。出力軸部33は、出力板部材31の開口31Hを囲繞して、出力係止片32とは軸方向反対側に延びる略円筒形状の部材であって、その先端部には図示しない昇降装置等に接続される突起状の係合部34が形成されている。
【0022】
図1と共に
図4を参照して説明すると、本発明の双方向クラッチには、固定された軸状の内輪4と、この内輪4の外周面に接触して装着され、線材を巻回して形成されるコイルばね5とが備えられている。内輪4及びコイルばね5は何れも金属製であり、適宜の金属加工により成形されることが望ましいが、軽負荷トルク仕様の双方向クラッチにおいては、内輪4及びコイルばね5の一方又は両方を樹脂製とすることも可能である。
内輪4は円筒形状であって(
図4(a)参照)、その一方の端部には凹状の一対の切欠き41が形成されている。そして、この切欠き41が固定されたハウジング1の係合突起14sと係合することで、内輪4はハウジング1に固定される。
コイルばね5の軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部51が周方向の異なる位置に形成されている(
図4(b)参照)。図示の実施例においては、フック部51は、夫々ばねの巻き方向(即ち周方向)に対して法線方向に延びており、相互に90度の角度間隔を有している。
【0023】
図1に示す双方向クラッチは以下のように組み立てられる。
まず、コイルばね5を、その内径を一時的に拡大した状態で内輪4の他端部(即ち切欠き41が形成されていない側の端部)の外周面に装着し、さらに、この内輪4を、切欠き41がハウジング1内の第二の空間14にて係合突起14sと係合するように、ハウジング1の周壁部12の開口端から挿入する。これにより、内輪4はハウジング1に固定されると共に、コイルばね5がハウジング1の第一の空間13に位置する。
次いで、入力軸2を、入力軸部23が内輪4の内側及びハウジング1の端板部11の貫通開口11Hを通過するように、出力軸3を、出力軸部33が入力軸部23とは軸方向反対側に位置するように、順次ハウジング1の開口端から挿入する。このとき、入力軸2及び出力軸3とは、
図1の断面矢視A―Aに示すとおり、軸方向に延びる出力係止片32が入力係止片22の扇形の切欠き部に位置するよう組み合わされる。これにより、入力係止片22と出力係止片32との間には周方向に2個の間隙6が存在することとなり、これらの間隙6に、コイルばね5の両端のフック部51が夫々挿入される。
【0024】
本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、両方の係止片の間隙にフック部51を挿入したときに、出力係止片32とフック部51との周方向の距離が、入力係止片22とフック部51との周方向の距離よりも大きくなるよう設定されている。ここで「入力係止片22とフック部51との周方向の距離」とは、入力係止片22の周方向片端をフック部51の片方に当接させた際の入力係止片22の周方向他端とフック部51の他方との間の周方向の距離、つまり、固定された2個のフック部51の間を入力係止片22が動き得る周方向の遊び(
図1のものでは実質的にゼロ)、をいい、「出力係止片32とフック部51との周方向の距離(
図1のものではG)」についても同様である。
【0025】
入力軸2及び出力軸3をハウジング1の内部に挿入すると、入力板部材21と出力板部材31とは面接触をし、入力係止片22の外周面と出力係止片32の外周面は、共にハウジング1の内部空間、即ち第一の空間13、の内周面に当接して、回転時には内周面を摺動する。
本実施例においては、入力係止片22と出力係止片32と内輪4とコイルばね5とがハウジング1内に完全に収納されていることに起因して、塵や埃等の異物がこれらの部材間に侵入して摺動面を損傷させることなどが確実に防止され、双方向クラッチの故障頻度が低下し、使用寿命を長くすることができる。
【0026】
続いて、
図1に示す双方向クラッチの作動について
図2を参照して説明する。
図2(a)の左側の縦断面図の矢印に示すように、入力軸2が、例えば、駆動源のモーターにより回転軸oの周りを時計方向(軸方向の右方から見て)に回転すると、入力軸2に形成された入力係止片22も回転軸oの周りを同方向に回転する。回転軸o周りに回転した入力係止片22は、コイルばね5の片方側の軸方向端部、即ち回転方向前方にあるコイルばね5のフック部51(図の横側に示されるフック部51)に当接し、フック部51をばねの緩み方向に押して内輪4に対するコイルばね5の締付力を弱める。さらに、入力係止片22は、フック部51を介して出力係止片32を押し、コイルばね5の締付力を弱めながら出力係止片32をコイルばね5と共に回転させる。出力係止片32が回転して他方のフック部51(図の上側に示されるフック部51)に当接したときは、出力係止片32によって他方のフック部51も押されて、内輪4に対するコイルばね5の締付力を増大させることとなるが、出力係止片32とフック部51との周方向の距離が大きく設定してあるため、このようなことが生じることはない。
【0027】
入力軸2が反時計方向に回転すると、入力係止片22は、コイルばね5の他方側の軸方向端部にあるフック部51(図の上側に示されるフック部51)に当接して、これを反時計方向に押す。その力の方向は、やはり内輪4に対するコイルばね5の締付力を弱める方向であって、上述の場合と同じく、入力係止片22は、出力係止片32をコイルばね5と共に反時計方向に回転させる。このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、入力軸2が正・逆方向に回転すると、出力軸3が同一方向に等速で回転し、動力伝達が行われる。
【0028】
本実施例においては、入力係止片22の外周面と出力係止片32の外周面が、共にハウジング1の第一の空間13の内周面に当接して回転時には内周面を摺動する。そのため、両方の係止片がハウジング1の内周面により支持される形となって、例えば、出力係止片32の周方向長さが小さいものであっても、その変形が防止され、入力軸2から出力軸3への伝達トルクを大きくすることができる。また、入力板部材21と出力板部材31とは面接触をしているため、回転中の芯ぶれ等が防止され、安定した動力伝達を行うことができる。
【0029】
それに対して、
図2(b)の左側の縦断面図における矢印に示すように、出力軸3側からの回転トルクにより、出力軸3を回転軸oの周りに時計方向(軸方向の左方から見て)に回転させようとしても、出力係止片32がコイルばね5のフック部51をばねの締め方向に押して、内輪4に対するコイルばね5の締め付け力を強めるため、出力係止片32は内輪4に対して回転しない。この点は、出力軸3を反時計方向(軸方向の左方から見て)に回転させようとした場合も同様である(このときは、出力係止片32が図の上側のフック部51と当接)。
従って、出力軸3からの入力軸2への回転の伝達は、出力軸3が回転不能となり遮断される。この際には、出力係止片32の外周面がハウジング1の第一の空間13の内周面と当接するため、出力軸3を回転させようとしてかかる回転トルクによって、出力係止片32がフック部51に当接した状態で径方向外方に撓むことが回避される。
【0030】
以上詳述したように、本発明は、固定の内輪とコイルばねを組み合わせて、入力軸の回転時には、入力係止片がコイルばねのフック部をばねの緩み方向に押して、コイルばねと共に出力軸を回転させる一方、出力軸を回転させようとしても、出力係止片がコイルばねのフック部をばねの締め方向に押して、出力軸を回転不能にする、簡易なロックタイプ双方向クラッチを構成するものである。上記の実施例においては、駆動源及び従動源に接続するための突起状の係合部が入力軸及び出力軸に形成されているが、これに替えて歯車が形成されるようにしてもよい。さらに、入力軸及び出力軸とハウジングの内周面との間にベアリングを介在させるなど、上記の実施例に対し各種の変形が可能であるのは明らかである。
【符号の説明】
【0031】
1 ハウジング
2 入力軸
22 入力係止片
3 出力軸
32 出力係止片
4 内輪
5 コイルばね
51 フック部
6 間隙
【要約】
【課題】コイルばね5を利用した簡単な構造で、入力軸2からの回転は出力軸3に伝達されるが、出力軸3から入力軸2への回転の伝達は出力軸3を回転不能として遮断される、新規のロックタイプ双方向クラッチを提供すること。
【解決手段】固定された軸状の内輪4と、この内輪4の外周面に接触して装着され、線材を巻回して形成されるコイルばね5とを備える。コイルばね5の軸方向の両端には、外方に曲げられたフック部51を周方向の異なる位置に形成する。入力軸2及び出力軸3には、軸方向に延びる断面円弧状の入力係止片22及び出力係止片32を夫々形成し、入力係止片22及び出力係止片32は、周方向に2個の間隙6が存在するよう、組み合わせて設置する。2個の間隙6の夫々には、コイルばね5の両端のフック部51を挿入し、出力係止片32とフック部51との周方向の距離を、入力係止片22とフック部51との周方向の距離よりも大きく設定する。
【選択図】
図1