特許第5993574号(P5993574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993574
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】転倒防止システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20160901BHJP
   G08B 21/02 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   A61B5/10 310B
   G08B21/02
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-525650(P2011-525650)
(86)(22)【出願日】2009年8月27日
(65)【公表番号】特表2012-502341(P2012-502341A)
(43)【公表日】2012年1月26日
(86)【国際出願番号】IB2009053752
(87)【国際公開番号】WO2010026513
(87)【国際公開日】20100311
【審査請求日】2012年8月24日
【審判番号】不服2015-4480(P2015-4480/J1)
【審判請求日】2015年3月6日
(31)【優先権主張番号】08163681.3
(32)【優先日】2008年9月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】テン カーテ,ワルネル エル テー
【合議体】
【審判長】 森川 元嗣
【審判官】 冨岡 和人
【審判官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/014230(WO,A1)
【文献】 特開2008−61811(JP,A)
【文献】 特開2005−237504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
G08B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの転倒防止システムであって、
身体の二以上の位置にそれぞれ取り付ける少なくとも第1と第2のセンサであって、各部分の動きを測定し、その動きを信号に変換するように構成された少なくとも第1と第2のセンサと、
前記第1のセンサで測定した信号に基づく前記ユーザが歩く進行方向に沿って展開された身体の下部の軌跡に対する、前記第2のセンサで測定した信号に基づく前記ユーザが歩く進行方向に沿って展開された前記ユーザの重心の軌跡を推定することにより、転倒のリスクを判断するように構成されたコントローラと、
有し、
前記コントローラは、前記第2のセンサで測定した信号から前記ユーザの重心の軌跡を推定し、前記第1のセンサで測定した信号から身体の下部の軌跡を推定し、推定した軌跡を比較することにより前記転倒のリスクを判断するように構成される
システム。
【請求項2】
前記身体の下部の軌跡は、前記ユーザの支持ベースの軌跡を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ユーザの支持ベースは、前記ユーザが歩いている時のステップ幅とステップ長さにより決まる面である、請求項に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記重心の軌跡と前記身体の下部の軌跡との間の水平方向の距離から転倒リスクを判断するように構成された、請求項1ないしいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記コントローラは、前記重心が前記身体の下部の軌跡の外側にあるとき、転倒リスクが高いと判断するように構成された、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記コントローラは、前記重心と前記身体の下部の軌跡との間の前記水平方向の距離が閾値より小さいとき、転倒リスクが高いと判断するように構成された、請求項4または5に記載のシステム。
【請求項7】
前記ユーザによる前記システムの事前の使用状況により前記閾値を決定する、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記身体の下部は、前記ユーザの一方または両方の脚、足首、足、またはかかとを含む、請求項1ないしいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記第2のセンサを、前記ユーザの頭、胴体の上部、及び胴体の下部を含む前記ユーザの身体の上部に取り付ける、請求項1ないしいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記システムは、ユーザの身体の上部に取り付け、前記身体のその部分の動きを測定するセンサを有し、前記コントローラは、前記ユーザの身体の上部の動きを表す信号から前記ユーザの重心の軌跡を推定するように構成された、請求項1ないしいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラは、前記第1のセンサで測定した前記ユーザの身体の下部の動きを表す信号から前記身体の下部の軌跡を推定するように構成された、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記第1のセンサは、前記ユーザの脚、足首、足、かかと、またはつま先に取り付けるものである、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記1つ以上のセンサは加速度計を含み、前記軌跡は前記加速度計からの信号を積分して推定する、請求項1ないし12いずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記1つ以上のセンサは、加速度計を含み、前記コントローラは、前記信号のリヤプノフ指数またはフロケ乗数を計算することにより、前記身体の下部の軌跡に対する前記ユーザの重心の軌跡を推定するように構成された、請求項1ないし12いずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
ユーザの転倒防止方法であって、
前記ユーザの身体の二以上の部分に少なくとも第1と第2のセンサを取り付ける段階と、
前記第1と第2のセンサが前記身体の対応する部分の動きを測定し、前記動きを信号に変換する段階と、
前記第1のセンサで測定した信号に基づく前記ユーザが歩く進行方向に沿って展開された前記身体の下部の軌跡に対する、前記第2のセンサで測定した信号に基づく前記ユーザが歩く進行方向に沿って展開された前記ユーザの重心の軌跡を推定することにより、転倒のリスクを判断する段階と、を有し、
前記転倒のリスクを判断する段階は、前記第2のセンサで測定した信号から前記ユーザの重心の軌跡を推定し、前記第1のセンサで測定した信号から身体の下部の軌跡を推定し、推定した軌跡を比較することにより前記転倒のリスクを判断する、
方法。
【請求項16】
コンピュータコードを含むコンピュータプログラムであって、前記コンピュータコードは、コンピュータまたはプロセッサで実行したとき、
ユーザの身体の二以上の部分に取り付けた少なくとも第1と第2のセンサから信号を受け取る段階であって、前記第1と第2のセンサが前記身体の各部の動きを測定して、その動きを信号に変換する段階と、
前記第1のセンサで測定した信号に基づく前記ユーザが歩く進行方向に沿って展開された前記身体の下部の軌跡に対する、前記第2のセンサで測定した信号に基づく前記ユーザが歩く進行方向に沿って展開された前記ユーザの重心の軌跡を推定することにより、転倒のリスクを判断する段階と、を実行させ、
前記転倒のリスクを判断する段階は、前記第2のセンサで測定した信号から前記ユーザの重心の軌跡を推定し、前記第1のセンサで測定した信号から身体の下部の軌跡を推定し、推定した軌跡を比較することにより前記転倒のリスクを判断する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転倒防止システムに関し、特に、ユーザの身体下部に対する重心をモニタする転倒防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
毎年数百万人が転倒し大けがをしている。これは特に老齢者に多い。実際、転倒は老齢者の死因のトップ3に入ると推定されている。
【0003】
転倒は急激で制御不能な故意でない、地面への身体の下降である。現在、転倒検出システムが入手可能である。これらは、転倒を検出して、転倒したときにはユーザが手動で、または自動で援助を得られるようにするものである。例えば、転倒検出システムは、パーソナルヘルプボタン(PHB)や、身につける、あるいは環境ベースの自動検出システムである。
【0004】
自動転倒検出システムは、継続的にユーザの動きを測定するセンサと、転倒を検出するために、測定または処理した信号を所定の閾値と比較するプロセッサとを有する。特に、自動転倒検出システムは、一組の所定の閾値及び/または分類パターン(以下、パラメータセットと呼ぶ)を記憶している。システムを起動すると、センサから得られたデータが継続的に転送され、処理され、パラメータセットと比較されて、転倒イベントが発生したか判断される。
【0005】
また、多くの転倒検出システムは、その転倒検出システム(及びユーザ)の向きの変化を計算し、転倒イベントにおける地面による衝撃を検出する。
【0006】
これらのシステムの欠点は、完全に信頼できるものではないことである。さらに、これらのシステムは、転倒を防ぐものではなく、ユーザが転倒した時に警告や警報を出すものである。
【0007】
しかし、例えば、転倒が怖くて、または体が疲れているために歩いていて不安なユーザ、または複数のことを同時に行っている(例えば、物を運んだり、孫と話しながら歩いている)ユーザ、明かりが暗かったり、地面が濡れていたり(カーペットのよれ、電気配線、おもちゃ、ツール、その他の危険物によって)でこぼこしているところを通るユーザ、薬を服用していてバランス感覚や集中力が弱まっているユーザを、転倒防止システムで支援できる。これにより、転倒のリスクが低くしたり、あるいは少なくとも転倒のリスクが高い状況を避けたりでき、ユーザは安心できる。
【0008】
特許文献1は、ユーザ用の転倒防止システムを開示している。該システムは、身体の下部に取り付けられる複数のセンサを有している。このセンサは、身体の下部の動きを測定し、その動きを信号に変換する。このシステムは、さらに、センサからの信号を受け取り、身体の下部の実際の姿勢シーケンスとして信号を分析(observe)し、時間の関数として実際の姿勢シーケンスを所定の姿勢シーケンス(転倒のリスクが低いもの)と比較して、実際の姿勢シーケンスがその所定の姿勢シーケンスからはずれたときに、転倒のリスクが高いと判定するように構成されたコントローラを有する。
【0009】
このように、このシステムは、転倒が起こりそうな時にそれを知らせる方法を提供する。ユーザの足の軌跡が変化したとき、転倒のリスクが高まる。
【0010】
本発明の一目的は、上記のものを改良した転倒防止用システムを提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2008/059418号
【発明の概要】
【0012】
転倒防止システムは、転倒のリスクの一時的な増大の検出に基づく。この増大は、ユーザの歩き方の安定性その他のパラメータの減少として知ることができる。このように、本発明は、ユーザの身体の下部に対する、ユーザの身体の重心(CoM)の軌跡のモニタリングに基づく転倒防止システムを提供する。
【0013】
それゆえ、従来のシステムでは、足の軌跡の変化や変位が大きいと、リスクの増大を検出したが、本発明は、同時にユーザの身体の重心が大きく変化している場合にのみリスクが増大したことを検出する。よって、本発明は、地面がでこぼこしていることにより生じる(これにより、支持ベースの変化は大きくなるが、重心の変化はかならずしも大きくならない)歩き方の変化を区別することができる。逆に、ユーザの身体の重心の軌跡の変化が増大すると、対応する支持ベースの増大がなければ、本発明ではリスクの増大を検出する。
【0014】
本発明の第1の態様では、ユーザの転倒防止システムを提供する。該システムは、身体の各位置に取り付けるセンサであって、各部分の動きを測定し、その動きを信号に変換するように構成された1つ以上のセンサと、前記信号を受け取り、前記信号から身体の下部の軌跡に対する前記ユーザの重心の軌跡を推定することにより、転倒のリスクを判断するように構成されたコントローラと、を有する。
【0015】
本発明のある実施形態では、コントローラは、身体の下部の軌跡に対するユーザの重心の軌跡を直接推定することにより(例えば、2つの軌跡の間の差を直接推定することにより)、転倒のリスクを判断する。別の実施形態では、コントローラは、2つの軌跡を別々に推定することにより転倒のリスクを判断する。
【0016】
本発明の第2の態様では、ユーザの転倒防止方法を提供する。該方法は、前記ユーザの身体の各部分に1つ以上のセンサを取り付ける段階と、各センサが前記身体の各部分の動きを測定し、前記動きを信号に変換する段階と、前記信号から前記身体の下部の軌跡に対する前記ユーザの重心の軌跡を推定することにより、転倒のリスクを判断する段階と、を実行する。
【0017】
本発明の第3の態様では、コンピュータコードを含むコンピュータプログラム製品を提供する。該コンピュータコードは、コンピュータまたはプロセッサで実行されると、次の段階を実行する:ユーザの身体の各部に取り付けた1つ以上のセンサから信号を受け取る段階であって、各センサが前記身体の各部の動きを測定して、その動きを信号に変換する段階と、前記信号から前記身体の下部の軌跡に対する前記ユーザの重心の軌跡を推定することにより、転倒のリスクを判断する段階。
【図面の簡単な説明】
【0018】
添付した図面を参照して、一例としてここに本発明を説明する。
図1】(a)重心、(b)支持ベース、(c)動的支持ベースのコンセプトを示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態による転倒防止システムを示す図である。
図3図2の転倒防止システムを示すブロック図である。
図4】本発明の第2の実施形態による転倒防止システムを示す図である。
図5】本発明の第3の実施形態による転倒防止システムを示す図である。
図6】本発明による方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記の通り、本発明は、ユーザの身体の下部に対するユーザの身体の重心(CoM)の軌跡のモニタリングに基づき、転倒のリスクの一時的な増大を検出する転倒防止システムを提供する。
【0020】
以下の説明において、「軌跡」とは、位置のシーケンスとして表された、空間において部分がたどる経路を指すものとする。転倒の(一時的)リスクを軌跡に関する距離尺度(distance measure)から求めるので、選択した距離尺度に対して速度が有する影響(がもしあれば)補正するように、速度は「軌跡」に含まれるものとする。例えば、重心があるエリア内で動いているテストするとき、内側に戻す速度をともなっていれば、重心は物理的にそのエリアの外を動いていてもよい。(距離としては限界を超えていると推定されても、)重心の「軌跡」はそのエリアの中にある。逆に、物理的にはエリア内で動いているが、外向きの速度が大きい重心は、そのエリアの外部の軌跡上にあるとされる。こうした補正は当業者には明らかである。
【0021】
ユーザの身体の重心(CoM)と、支持ベース(BoS)とは、圧力中心(CoP)とともに、本技術分野では既知のコンセプトである。これらを用いて人が立っている間にバランスを維持する方法をモデル化する。重心は、機械的量であり、身体全体の並進運動を表すことができる点を決定する。重心は自由空間において身体がその周りを回転する点でもある。人間の身体の場合、CoMは骨盤の近くにある。そのため、CoMの軌跡を推定するセンサは、骨盤の近くに取り付けることが好ましい。
【0022】
支持ベース(BoS)は、立っている状態、すなわち静的状況で定義され、大まかに言って、両足を囲む四辺形により覆われるエリアである。
【0023】
立っている人は、重心が支持ベース内にあれば安定している。その人は、地面における圧力点を変化させることにより、この安定性を維持する。これにより、圧力中心の概念が必要となる。通常、直立している人は、倒立振り子としてモデル化する。足首がヒンジを表す。CoMに働く重力と、CoPに働く地面反作用(GRF)とにより、このヒンジの周りに力のモーメントができ、人は前後に揺れる。このコンセプトを図1(a)と図1(b)に示した。GRFのモーメントが重力のモーメントを打ち消せなければ、その人は転倒する。これは、CoM(Xm)がBoSの外に出れば(そしてその人が足を動かさなければ−これは立ち姿勢に関する仮定である)、ほぼ確実に起こる。
【0024】
歩いている時の人の支持ベースは、余り明確には定義されていない。本発明の目的において、動的支持ベース(すなわち、歩くなど動いている時の支持ベース)は、図1(c)に示したように、ステップ幅(Wdynamic)とステップサイズ(Lstep)により張られる面として定義される。
【0025】
このように、本発明は、変化や偏差(variation or deviation)が転倒を識別する必要条件ではあるが、必ずしも転倒のリスクを判断する十分条件ではないとの認識に基づく。変化や偏差により動き自体の安定性、すなわち動きパターンの安定性に関する情報が得られる。本発明では、潜在的な乱れ(perturbations)からの回復能力に関する動きの安定性を、すなわち重心が支持ベースの外に出てしまう復帰限界点(point-of-no-return)までどのくらいの余裕があるかを考慮する。転倒の平均リスクを測るとき、BoSは一定であると仮定できるので、足取りの変化でリスクを十分に推定できる。しかし、動的リスクを測るとき、この仮定は常に満たされるわけではなく、支持ベースに対する重心の軌跡を測る必要がある。
【0026】
このように、転倒の動的リスクの決定は、各ステップのステップサイズ(Lstep)とステップ幅(Wdynamic)を推定し(両者により瞬時BoSが得られる)、そのステップ中の重心が通る軌跡(すなわち、その人の顔/動きの向きに対する前向き及び横向きの動きを含む軌跡を2次元に拡張して構成される、CoMが通る面であり、1ステップ中の軌跡を囲む長方形を描いたときの面となる)を決定し、CoMとBoSの軌跡間の動的な距離から、特に|CoM−BoS|の最小値から転倒のリスクを決定することにより行う。位置を絶対座標で測定することはできないので、簡単な実施形態ではBoSとCoMの中心は位置が一致するものと仮定する。しかし、より高度なアルゴリズムを用いてこの推定を精密化してもよい。
【0027】
CoMとBoSの両方の境界の位置を比較する:
(1)BoSにCoMが含まれるかどうか、
(2)CoMの境界からBoSの境界までのマージンすなわち距離。
【0028】
(1)の点については、CoMは歩行中にBoSの外に出ることもあるが、これは転倒のリスクが高いことを示す。(2)の点については、マージンが小さいということは転倒のリスクが高いことを表すと解釈される。ここで、「小さい」とはそのユーザの通常のマージンに対して小さいことである。
【0029】
リスクが高いことが分かると、そのユーザに注意するよう、または休憩する(例えば少しの間座る)ように警告する。リスク事例を集積して、介護者に提供してもよい。介護者はその情報をユーザへのアドバイスや治療に用いることができる。
【0030】
図2は、バンドその他の取り付け手段6によりユーザ4に取り付けた、本発明の第1の実施形態による転倒防止システム1を示す。本実施形態では、システム1は単一ユニット2を含む。このユニット2は、ユニット2のセンサが定期的に歩行パターンを測定できるように、ユーザの身体の一部に取り付けることが好ましい。このように、ユニット2をユーザの身体4の胴体や上部(例えば頭部)に取り付けることができる。(脚などの)下部の場合、歩行信号(すなわち、歩行により生じる加速)が強い。例えば、足の場合、その足で立っている時は重力のみが測られ、他の手段で推定しなくても速さをゼロとできる。しかし、ユニット2を上部に取り付けると、歩行信号の周期は2倍になる。両脚が同等に信号波形に影響するからである。
【0031】
本実施形態では、ユニット2はボタン8を含み、ユーザ4は、転倒して支援を必要とするとき、そのボタンを操作して、コールセンターその他の支援ユニットに警報信号を送れる。
【0032】
図3はシステム1のユニット2を詳細に示している。ユニット2は、ユーザ4の動きをモニタする1つ以上のセンサ10と、センサ10からの信号を分析してユーザの転倒リスクが高いか、転倒しそうか、または転倒したか判断するプロセッサ12とを有する。センサ10は、一般的に、システム1にかかった加速を測定する加速度計を含む。
【0033】
センサ10には、加速度計以外に、例えば、(ユニット2の方向を測る)ジャイロスコープ、(ユーザが転倒したときにユニットの高度の変化を測る)気圧センサ、(ユニット2を足につける場合)インソール圧力センサ、筋電計(EMG)センサ、(地磁気に対するユニット2の方向の変化を測定する)磁力計、温度センサなどを含み得る。
【0034】
その他のセンサで位置を推定するのに役に立つものを含んでもよい。位置は加速度計信号の2重積分により推定して、グローバル座標系で表せる。この積分には、速さと位置の境界条件が必要である。各ステップを測定するので、開始位置を任意に選択してゼロとしてもよい。上記の通り、足で測定する場合、立っているときには(during the stance phase)初速度はゼロであることが分かる。その他の測定位置において、足で測定したステップサイズとステップ時間とから、倒立振り子モデルを用いて、必要であれば横方向の平均速度をゼロとして、推定をできる(例えば、Zijlstra & Hof, Gait & Posture 18 (2003) 1-10に記載されている)。
【0035】
この実施形態では、歩行パターンの変化を調べる(observed)。これは、統計学で定義されているような従来のバリエーションでもよいが、最大リヤプノフ指数やフロケ乗数のような非線形の尺度でもよい(例えば、“Nonlinear time series analysis of normal and pathological human walking” by J.B. Dingwell et al, Chaos 10(4),2000,848-863に記載されている)。これらの測定値はパターン自体がどのくらい安定化を示す。この実施形態では、BoSはあまり変化せず、CoMにおける大きな偏差は転倒のリスクが高いことを示すものと仮定する。
【0036】
図4は、より好ましい、本発明の第2の実施形態を示す。この実施形態では、システム1は、上記の実施形態と同様にユニット2を有するが、ユニット2は、(ユーザ4の頭または胴体上部に取り付けられるが)ユーザ4の重心またはその近くに取り付けられている。これは、ユニット2の加速度計10がユーザ4の重心にかかる加速度を測定できることを意味する。この実施形態では、システム1は、さらに、バンドその他の取り付け手段により好ましくはユーザの脚、足首、足、かかと、つま先などに取り付ける第2のユニット20を有する。ユニット20は、靴下や靴に組み込んで、ユーザが靴やインソールの一部として身につけられるようにしてもよい。第2のユニット20は、脚や足にかかる加速度を測定できるように加速度計を含む。第2のユニット20は、第1の実施形態を参照して説明したように、その他のセンサを含んでいてもよい。
【0037】
このように、このセンサが2つある実施形態では、骨盤の近くに取り付けたセンサがCoMの動きを測定し、足(例えば靴)に取り付けたセンサが動的なBoSを測定する。
【0038】
この実施形態では、ユーザ4の歩き方は完全にアンチフェーズ対称(anti-phase symmetry)であると仮定する。すなわち、センサを左足に取り付けた場合、右足の信号は、左足の測定信号と対称であり(すなわち、横方向には鏡映であり、前後方向(sagittal direction)には同一であり)、半周期だけ時間シフトしている。
【0039】
ユーザ4の歩き方が非対称であることが医療的見地から分かっている場合、左右の置き換えを適宜合わせてもよい。
【0040】
図5は、さらに好ましい、本発明の第3の実施形態を示す。この実施形態では、第3のユニット22があり、バンドその他の取り付け手段により、または靴下や靴に組み込まれて、ユーザ4の他方の脚または足に取り付けられる。
【0041】
言うまでもなく、上記の実施形態は、(一般的にはセンサやユニットが少なければ少ないほどよい)ユーザの快適性よりも、ユーザの転倒リスクが高いことを信頼性高く識別できるという見地から「好ましい」。
【0042】
ユニット2のプロセッサ12は、図6に示して以下に説明するように、センサからの信号を処理する。
【0043】
第1に、プロセッサ12は、人が安定した状態であって立っているか、歩いているか検出する(ステップ101)。立っている安定状態の場合、信号はある平均値の周りで変化する。歩いている安定状態の場合、信号は妥当な限度内で周期的に変化する。制約されたサイクルを検出できるはずである(すなわち、多次元空間における信号パラメータの時間発展をプロットすると、繰り返しパターンを検出できる)。立っているとき、足のセンサは相対的に止まっている(そのため加速度は検出されない)。CoMの位置のユニットに気圧センサが含まれる場合、センサの高度により、直立した姿勢であることの追加的支持が得られる。その人が立っているので、単一センサソリューションの場合のように、BoSの推定はされず、CoMの変化のみをモニタする。
【0044】
歩行中には、安定状態信号における周期性を用いて、個々のサイクル(ステップ)を詳細に表す。例えば、かかとをつく度に、残った足のスピードを吸収するため、加速度が大きくなる。このピークを用いてステップ境界を詳細に表すことができる。通常、CoMにおいて、加速度ベクトルのノルムを調べることにより、ピークを検出できる。BoSにおいて、加速度の微分係数(のノルム)を調べることにより、ピークを検出できる。これは、センサが時間的に同期していない場合には、両方のセンサ信号に対して別々に行い、このピークを用いてセンサを同期させることができる。そうでなければ、時間同期を用いて、異なるセンサで測ったかかとの着地(heel strike)の時間を用いて、サイクルを精密化してもよい。その他のアプローチとして、垂直移動を測定し、高さが基準高さに戻る瞬間を調べる。ドリフトと重力に対する適当な補正をしなければならない。
【0045】
第2のステップ(ステップ103)において、センサの位置を推定する。この推定は、加速度計信号の二重積分をすることにより行い、その結果は加速度計信号のオフセットによりドリフトしやすい(センサの方向の推定が正しくないことに加え重力のためにオフセットが生じることが多い)。ドリフトは、詳細に表したサイクル境界を用いて、およびパターンが安定状態であることを用いて補正できる。高度に変化はないので、平均垂直速度はゼロである。平均的前進(移動)速度は一定である必要がある。ユーザは一定のペースで歩いていると仮定しているからである。この一定値は事前には分からず、時間的に変化するかも知れない。
【0046】
速度は、1サイクル境界から次のサイクル境界までの加速度計信号の積分により分かる。最初のサイクルの初速度はゼロ(またはその他の適当な値)に設定する。次のサイクルの速度は、前のサイクルで分かった速度に対してローパスフィルタを用いて推定する。例えば、移動平均フィルタにより、各ステップ後、速度を、その前に用いた値と新しく得た値との重み付け平均vnew=(1−α)*vold+α*vmeasuredに更新する。αは一般的には0.10である。このvnewを次のサイクルにおける積分の初速度として用いる。速度は、状況に合わせて変化するので、測定した加速度のドリフトの補正には使えない。よって、ドリフトを補正するメカニズムを提供するために、各ステップにおいて平均加速度をゼロとする必要がある。これは一定速度の要求と一致している。一定速度では、加速度の積分はゼロになる。すなわち平均加速度はゼロである。
【0047】
各センサの位置(すなわち、好ましくはCoMと両脚または両足)は各サイクル(各ステップ)の始めにはゼロに設定されるので、ステップサイズとステップ幅とは完全積分の結果である。より正確には、全ステップサイクルにわたる最大値をサイズと幅の推定とする。これらの位置からCoMとBoSの(直線状の)軌跡を計算する。最初に、軌跡の中心を互いに位置合わせ(aligned)する。この位置合わせは再度各ステップに適用できるが、移動平均その他のフィルタを用いて中心を合わせることもできる。
【0048】
別の実施形態では、BoSがステップに対してある面エリアを有するのではなく、そのステップ自体の間に動的であると仮定できる。すなわち、振っている脚が立っている脚を通過するときに最小になると仮定できる。ユーザが安定しているためには、CoMが常にこのBoSの中になければならない。この場合、CoMとBoSの軌跡の中点はそろっていなければならず、開始点が同じであるとの仮定はできない。当業者には言うまでもなく、このモデルは単純化したものであり、さらに精密化が可能である。具体的に、CoMが一時的にBoSの外に出ても、CoMがBoS中に戻る速度が十分であれば、転倒のリスクは比較的低い。あるいは、CoMがBoS内にあるが、「外向き」(すなわち、BoSの中心から離れる向き)の速度が比較的大きい場合、転倒のリスクは比較的高い。上記の通り、CoMまたはBoSの速度効果を軌跡の推定に組み込むことができる。同様に、別のものとして扱うこともできる。
【0049】
積分は水平面で行わねばならない。それゆえ、加速度計からの信号のどの成分が水平方向のものであるか推定しなければならない。このため、センサの方向が分からなければならない。方向は、重力によるセンサのDC成分から推定できる。または、もしあれば、転倒防止システム2のその他のセンサ(磁力計及び/またはジャイロスコープなど)から推定できる。
【0050】
別の実施形態では、重心の位置について、対応するセンサの垂直方向の軌跡をモニタして、例えば倒立振り子モデルを用いて水平方向の変位に変換できる。
【0051】
第3のステップ(ステップ105)において、プロセッサ12は、支持ベースに対する重心の位置を推定する。上記の通り、支持ベースはステップサイズかけるステップ幅(Lstep×Wdynamic)と定義される。CoMとBoSの原点は同位置であると仮定し、ローパスフィルタにより合わせる。
【0052】
ステップ幅について、足の間の自然な間隔を考慮するため、別のDCステップ(オフセット)幅を仮定してもよい。例えば、20−30cmである。しかし、原理的には、オフセット幅の厳密性は問題ではない。システム2は、パターンの変位を絶対的ではなく相対的にテストして、転倒リスクが高いと警告を発するからである。
【0053】
CoMが広がってBoSに近くなっていると(すなわち、両面が同じサイズになり(|CoM−BoS|が閾値より小さいと))、またはCoMがBoSの外にあるとプロセッサが判断すると、ユーザに警報を発し(ステップ107)、ユーザに転倒のリスクが高いと警告する。警報は可聴信号でも可視信号でもよいが、その他の振動や触覚などの形式でもよい。発生または発生レートをサービス提供者や介護者に伝送することもできる。
【0054】
本発明の別の実施形態では、転倒リスクの増加を検出するためにプロセッサ12が実行するアルゴリズムを、左右のステップを別々に扱ってBoSを決定するステップサイズを精密化することにより、または(両足が地面についている歩き方の期間)二重支持フェーズを考慮することにより、改善することができる。このフェーズの間、立っている場合に定義できる静的な安定性尺度を用いることができる。その意味で転倒リスクは2つの部分に分けられる:1つは二重支持フェーズに推定されるものであり、もう1つはスイングフェーズに推定されるものである。
【0055】
本発明の別の実施形態では、転倒防止システムを、杖やフレームなど歩行支援品を用いるユーザに使えるように拡張できる。こうした実施形態では、BoSを、ユーザの足と杖またはフレームにより張られる(動的な)エリアとして測定する。ユニットをユーザではなく杖やフレームに取り付けることもできる。ユーザの体重を足と杖またはフレームに分割するアルゴリズムに補正を適用できる。フレームを用いる場合、ユーザは前屈みになるので、CoMの位置がシフトする。また、フレームが力を支持するので、CoMの位置は胴体の別の位置に動き、好ましい取り付け位置が変化する。
【0056】
上記の通り、加速度計に加えてその他のセンサを用いることもできる。ジャイロスコープを用いるとセンサの方向の推定が容易になる。磁力計を用いて、重力による示されるDC方向の情報を補正をすることができる。EMGセンサを追加して筋肉の動きを調べ、摂動に対応する能力の推定をよくすることができる(すなわち、EMGセンサは反応速度と強さを推定できる)。転倒のリスクが高いことを示す疲労度合を調べてもよい。CoPを調べるのはその他の尺度でもよい。例えば、ユーザの靴に入れた圧力センサを用いてもよい。これらの圧力センサを用いて、CoPの動きに対する反作用モーメント(countering moments)を計算することにより、安定性の推定を精密化できる。これは二重支持フェーズにおいて特に有用である。インソール(靴)圧力センサを用いて、ステップ境界(かかとの着地とつま先の離れ)を推定することもできる。
【0057】
本発明の別の実施形態では、CoMとBoSを別々に調べるのではなく、合成信号|CoM−BoS|の安定性をモニタしてもよい。この安定性はCoMとBoSの間の距離であるが、あるいはその距離の変化であってもよい。徒歩などの心理的プロセスは非線形の特徴を示すので、対応する(非線形)量を調べることにより、より高度な分析をできる。具体的には、最大リヤプノフ指数とフロケ乗数は有用な量である。例えば、CoMとBoSの位置の相対的な軌跡を調べる替わりに、CoMとBoSの位置で測定した最大リヤプノフ指数を比較する。指数をセンサ信号から直接推定する。すなわち、二重積分は必要ない。
【0058】
本発明を、図面と上記の説明に詳しく示し説明したが、かかる例示と説明は例であり限定ではなく、本発明は開示した実施形態には限定されない。
【0059】
請求項に記載した発明を実施する際、図面、本開示、及び添付した特許請求の範囲を研究して、開示した実施形態のバリエーションを、当業者は理解して実施することができるであろう。請求項において、「有する(comprising)」という用語は他の要素やステップを排除するものではなく、「1つの("a" or "an")」という表現は複数ある場合を排除するものではない。単一のプロセッサまたはその他のアイテムが請求項に記載した複数のユニットの機能を満たすこともできる。相異なる従属クレームに手段が記載されているからといって、その手段を組み合わせて有利に使用することができないということではない。コンピュータプログラムは、光記憶媒体や他のハードウェアとともに、またはその一部として供給される固体媒体などの適切な媒体に記憶/配布することができ、インターネットや有線または無線の電気通信システムなどを介して他の形式で配信することもできる。請求項に含まれる参照符号は、その請求項の範囲を限定するものと解してはならない。
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図2
図3
図4
図5
図6