特許第5993605号(P5993605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5993605凝集剤の凝集能評価方法および凝集処理装置
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  • 特許5993605-凝集剤の凝集能評価方法および凝集処理装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993605
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】凝集剤の凝集能評価方法および凝集処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20160901BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20160901BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20160901BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20160901BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20160901BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   G01N33/15 Z
   G01N1/10 D
   C02F1/44 A
   B01D71/16
   C02F1/52 E
   B01D21/30 A
   G01N1/10 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-102259(P2012-102259)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-231602(P2013-231602A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】貝谷 吉英
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−161809(JP,A)
【文献】 特開2004−025109(JP,A)
【文献】 特開2006−055804(JP,A)
【文献】 特開平05−168819(JP,A)
【文献】 特開2007−007563(JP,A)
【文献】 特開2007−090266(JP,A)
【文献】 特開2007−061683(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0017677(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
B01D 21/30
B01D 71/16
C02F 1/44
C02F 1/52
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水にAl系、Fe系の少なくともいずれかの凝集剤を添加し、
前記凝集剤が添加された凝集処理水を、親水性を備える材料からなり、厚さが50〜500μm、孔径が0.01〜0.45μm、細孔構造がスポンジ状、スリット状、直円筒状の何れかの評価用ろ過膜を用いてろ過し、
前記凝集剤を添加した後、凝集処理水を前記評価用ろ過膜でろ過し、凝集処理水に含まれるファウリング物質が評価用ろ過膜を閉塞せず、凝集に利用されなかった未利用凝集剤成分のみにより閉塞される該評価用ろ過膜の膜閉塞度を測定し、
前記凝集剤の凝集能を評価することを特徴とする凝集能評価方法。
【請求項2】
前記評価用ろ過膜は、少なくともその表層が酢酸セルロースからなることを特徴とする請求項1に記載の凝集能評価方法。
【請求項3】
被処理水へAl系、Fe系の少なくともいずれかの凝集剤を添加し、凝集処理水を得る凝集剤添加手段と、
前記凝集剤の添加後の凝集処理水を、親水性を備える材料からなり、厚さが50〜500μm、孔径が0.01〜0.45μm、細孔構造がスポンジ状、スリット状、直円筒状の何れかの評価用ろ過膜でろ過し、凝集に利用されなかった未利用凝集剤成分のみによる評価用ろ過膜を閉塞させる膜閉塞度を測定して求め、前記凝集剤の凝集能を評価し、該評価結果に基づいて、前記凝集剤添加手段による前記凝集剤の添加量を調整するフィードバック制御手段と、
前記フィードバック制御手段により前記凝集剤の添加量が調整された凝集処理水をろ過して膜分離装置に供給するろ過装置と、
を備えたことを特徴とする凝集処理装置。
【請求項4】
前記フィードバック制御手段は、
前記評価結果により、前記膜閉塞度が小さい場合は前記添加量を多くし、前記膜閉塞度が大きい場合は前記添加量を少なくする様に、調整することを特徴とする請求項3記載の凝集処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凝集剤の凝集能評価方法および凝集処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業排水、下水等の排水を処理する場合、排水に凝集剤を添加して、排水中のイオン類、有機物、懸濁物質等の不純物を凝集し、粗大化させた後、沈殿、浮上等の処理を行って凝集物を除去した後、得られた凝集処理水を膜ろ過装置を用いてろ過して固液分離する方法が、一般に利用されている。
【0003】
ここで、凝集処理水を精密ろ過膜(MF)、限外ろ過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、ナノろ過膜(NF)等を備える膜処理装置を用いてろ過する場合、凝集に利用されなかった凝集剤成分(以下「未利用凝集剤成分」ともいう)が膜ろ過装置における膜の表層の汚染を引き起こし、十分な膜性能が得られないという問題があった。
このような問題を解決することを目的とした従来法として、例えば特許文献1、2に記載の方法が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、原水に無機凝集剤を添加して凝集処理する凝集処理方法において、凝集処理水を固液分離して得られる分離液をフィルタで所定の圧力で加圧又は吸引濾過する際に、該分離液の所定量を濾過するに要する濾過時間、又は該分離液を所定時間内に濾過し得る濾過水量で定義される濾過性能と、この濾過性能の経時変化率とを検出し、検出された濾過性能及び濾過性能の経時変化率がそれぞれ予め設定した基準値を満たす場合には、予め定めた基準となる無機凝集剤添加量を維持し、該濾過性能及び濾過性能の経時変化率のうちの少なくとも一方が予め設定した基準値を満たさない場合には無機凝集剤添加量の調整を行うことを特徴とする凝集処理方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、原水を濾過膜に通水して濾過液を得る膜濾過手段と、該膜濾過手段からの濾過液量を測定するための濾過液量測定手段と、該濾過液量測定手段の測定結果から濾過係数を算出する演算手段とを備えることを特徴とする水質監視装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−55804号公報
【特許文献2】特開2007−152192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1または2に記載の方法は、排水(被処理水)へ凝集剤を添加し、凝集物を除去して得た凝集処理水について特定のろ過膜(以下、「評価用ろ過膜」ともいう)を用いてろ過し、その閉塞度等を測定して凝集処理水に含まれる未利用凝集剤成分の量等を把握しようとするものである。
【0008】
しかしながら特許文献1または2に記載のような従来法では、凝集処理水を評価用ろ過膜を用いてろ過したときに、凝集処理水に含まれる有機性のファウリング物質が評価用ろ過膜を閉塞してしまい、未利用凝集剤成分のみによる膜閉塞度等を正確に測定することができなかった。
【0009】
本発明は上記の課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、凝集処理水を評価用ろ過膜を用いてろ過した場合に、未利用凝集剤成分のみによる膜閉塞度を正確に測定することができる凝集能評価方法を提供することを目的とする。また、その凝集能評価方法によって凝集処理における凝集剤の最適添加量を把握し、それに基づいてその添加量を最適に制御することによって、凝集剤添加量の過不足を防止して、効率的な凝集処理を行うことができる凝集処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討し、特定の凝集剤を用いる場合に、特定の材料からなる評価用ろ過膜を用いることで、この評価用ろ過膜のファウリング物質による閉塞を防ぎ、未利用凝集剤成分の量を正確に把握できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(4)である。
(1)被処理水へ凝集剤を添加し、凝集物の少なくとも一部を除去して得られた凝集処理水を膜分離装置へ供給する場合における、前記凝集剤の凝集能を評価する凝集能評価方法であって、
前記凝集剤はAl系および/またはFe系の凝集剤であり、
前記凝集処理水を、親水性を備える材料からなり、かつ、少なくとも表層は酢酸セルロースからなる評価用ろ過膜を用いてろ過して、前記評価用ろ過膜の閉塞度を評価することで、前記凝集剤の凝集能を評価する凝集能評価方法。
(2)前記評価用ろ過膜が酢酸セルロースからなる、上記(1)に記載の凝集能評価方法。
(3)被処理水へ凝集剤を添加する凝集剤添加手段を備える凝集処理装置であって、
前記凝集剤はAl系および/またはFe系の凝集剤であり、
さらに、前記凝集処理水を、親水性を備える材料からなり、かつ、少なくとも表層は酢酸セルロースからなる評価用ろ過膜を用いてろ過して、前記評価用ろ過膜の閉塞度を評価し、その評価結果に基づいて凝集条件を調整するフィードバック手段を備える、凝集処理装置。
(4)前記評価用ろ過膜が酢酸セルロースからなる、上記(3)に記載の凝集処理装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凝集処理水を評価用ろ過膜を用いてろ過した場合に、未利用凝集剤成分のみによる膜閉塞度を正確に測定することができる凝集能評価方法を提供することができる。また、その凝集能評価方法によって凝集処理における凝集剤の最適添加量を把握し、それに基づいてその添加量を最適に制御することによって、凝集剤添加量の過不足を防止して、効率的な凝集処理を行うことができる凝集処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の装置の好適態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について説明する。
本発明は、被処理水へ凝集剤を添加し、凝集物の少なくとも一部を除去して得られた凝集処理水を膜分離装置へ供給する場合における、前記凝集剤の凝集能を評価する凝集能評価方法であって、前記凝集剤はAl系および/またはFe系の凝集剤であり、前記凝集処理水を、親水性を備える材料からなり、かつ、少なくとも表層は酢酸セルロースからなる評価用ろ過膜を用いてろ過して、前記評価用ろ過膜の閉塞度を評価することで、前記凝集剤の凝集能を評価する凝集能評価方法である。
このような凝集能評価方法を、以下では「本発明の評価方法」ともいう。
【0014】
また、本発明は、被処理水へ凝集剤を添加する凝集剤添加手段を備える凝集処理装置であって、前記凝集剤はAl系および/またはFe系の凝集剤であり、さらに、前記凝集処理水を、親水性を備える材料からなり、かつ、少なくとも表層は酢酸セルロースからなる評価用ろ過膜を用いてろ過して、前記評価用ろ過膜の閉塞度を評価し、その評価結果に基づいて凝集条件を調整するフィードバック手段を備える、凝集処理装置である。
このような凝集処理装置を、以下では「本発明の装置」ともいう。
【0015】
本発明の装置におけるフィードバック手段は、本発明の評価方法を利用する手段である。
【0016】
初めに、本発明の評価方法について説明する。
【0017】
<評価用ろ過膜>
本発明の評価方法における評価用ろ過膜について説明する。
本発明の評価方法において評価用ろ過膜は、親水性を備える材料からなり、かつ、少なくとも表層は酢酸セルロースからなるものである。このような態様の評価用ろ過膜を用いて後述する特定の凝集剤を添加した後の凝集処理水をろ過すると、凝集処理水に含まれるファウリング物質は評価用ろ過膜を閉塞せず、未利用凝集剤成分のみが評価用ろ過膜を閉塞させるので、未利用凝集剤成分のみによる膜閉塞度を正確に測定することができ、その結果、凝集処理水に含まれる未利用凝集剤成分の量を正確に知ることができることを、本発明者は見出した。
【0018】
親水性を備える材料からなり、かつ、少なくとも表層は酢酸セルロースからなる評価用ろ過膜として、親水性を備える材料からなるろ過膜の表面に、液体状の酢酸セルロースを塗布して皮膜を形成した態様のものが挙げられる。
【0019】
また、評価用ろ過膜は、表層以外の部分についても酢酸セルロースからなるものであることが好ましい。本発明が鋭意検討したところ、評価用ろ過膜における表層の部分は酢酸セルロースからなり、かつ、表層以外の部分が酢酸セルロース以外の親水性を備える材料からなる場合と比較して、全体が酢酸セルロースからなる評価用ろ過膜の方が、凝集処理水に含まれるファウリング物質がより閉塞を生じさせないことがわかった。
【0020】
また、評価用ろ過膜は、表層が酢酸セルロースであっても、その他の部分が疎水性材料からなるものであると、凝集処理水に含まれるファウリング物質がろ過膜を閉塞することを本発明者は見出した。
この理由は明らかではないが、極僅かであっても表面に疎水性を備える材料が存在すると、その部分を起点にして、ファウリング物質が評価用ろ過膜に徐々に堆積していき、閉塞させるのではないかと、本発明者は推定している。
【0021】
ここで「親水性を備える材料」としては、従来公知のものを用いることができる。親水性を備える材料は、使用する時に乾燥/湿潤の繰り返し操作ができる材料と考えることもできる。ここで乾燥した状態とは、35℃で24時間乾燥した後の状態と同じ状態を意味し、湿潤状態とは、乾燥した状態よりも濡れた状態を意味する。
【0022】
酢酸セルロースは親水性を備える材料に該当するが、その他の親水性を備える材料としては、ポリアクリルニトリル、ポリビニールアルコール、エチレンビニールアルコール、ポリビニルピロリドンが挙げられる。親水性を備える材料として、酢酸セルロース、ポリアクリルニトリル、ポリビニールアルコール、エチレンビニールアルコールおよびポリビニルピロリドンからなる群から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。
なお、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンは親水性を備える材料には該当しない。
【0023】
なお、例えば硝酸セルロースと酢酸セルロースとの混合物や、硝酸セルロースと酢酸セルロースとが分子レベルで結合した材料からなるろ過膜は、本発明の評価方法で用いる評価用ろ過膜には該当しない。
【0024】
評価用ろ過膜は、上記に説明した材質以外の事項については特に限定されず、例えば従来公知のものと同様であってよい。
例えば評価用ろ過膜の厚さは特に限定されず、例えば50〜500μmであってよい。
【0025】
また、評価用ろ過膜の孔径も特に限定されず、例えば0.01〜0.45μmであってよく、0.1〜0.45μmであることが好ましく、0.22〜0.45μmであることがより好ましく、0.22μm程度であることがさらに好ましい。このような好ましい孔径であると、凝集処理水に含まれるファウリング物質が評価用ろ過膜をより閉塞を生じさせないからである。また、評価用ろ過膜を用いて凝集処理水をろ過した場合に、凝集処理水に含まれる未利用凝集剤成分を捕捉して所定の閉塞状態とするまでの速度が比較的早いからである。
【0026】
また、評価用ろ過膜の細孔構造は、スポンジ状、スリット状、直円筒状であってよいが、スポンジ状であることがより好ましい。凝集処理水に含まれるファウリング物質が評価用ろ過膜をより閉塞を生じさせないからである。また、評価用ろ過膜を用いて凝集処理水をろ過した場合に、凝集処理水に含まれる未利用凝集剤成分を捕捉して所定の閉塞状態とするまでの速度が比較的早いからである。
ここで、スポンジ状の細孔構造とは、膜の表から裏までほぼ同一の構造を有し、孔形状としては、網状の構造体が何層も重なった構造を有するものを意味するものとする。
また、スリット状の細孔構造とは、スリット様、カーテンのレース様の構造体が何層も重なった構造を有するものを意味するものとする。
また、直円筒状の細孔構造とは、膜の断面方向に円筒状の孔が平行して通っているものを意味するものとする。
例えば、中尾真一編著、「よくわかる分離膜の基礎」工業調査会、P80には、「酢酸セルロース+ニトロセルロース混合膜」および「ポリフッ化ビニリデン」の膜構造を示す写真が掲載されているが、これらの写真はいずれもスポンジ状の細孔構造を示している。また、同刊行物には「ポリテトラフルオロエチレン」の膜構造を示す写真も掲載されているが、この写真はスリット状の細孔構造を示している。また、同刊行物には「ポリカーボネート」の膜構造を示す写真も掲載されているが、この写真は直円筒状の細孔構造を示している。
【0027】
イオン類、有機物、懸濁物質等の不純物を含む被処理水へ、後述する特定の凝集剤を添加して前記不純物を凝集処理する操作において、この凝集剤の凝集能を評価する場合に、上記のような評価用ろ過膜を用いると、前記被処理水に含まれるファウリング物質は評価用ろ過膜を閉塞させず、未利用凝集剤成分のみが評価用ろ過膜を閉塞させるので、未利用凝集剤成分のみによる膜閉塞度を正確に測定して、その結果、凝集剤の凝集能を正確に把握することができる。
【0028】
<凝集剤>
本発明の評価方法における凝集剤について説明する。
本発明の評価方法では、被処理水へ凝集剤を添加する。そして、被処理水に含まれるイオン類、有機物、懸濁物質等の不純物を凝集させて凝集物とする。
本発明の評価方法における凝集剤は、Al系および/またはFe系の凝集剤である。
【0029】
Al系の凝集剤とは、アルミニウム化合物を主成分とする凝集剤を意味する。
ここで、アルミニウム化合物とはAl原子を含む化合物を意味する。アルミニウム化合物としてはポリ塩化アルミニウム、硫酸ばん土(硫酸アルミニウム)が挙げられる。
【0030】
また、主成分とは、含有率が50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上、さらに好ましくは100質量%である(実質的に他の成分を含まない)ことを意味するものとする。ここで「実質的に他の成分を含まない」とは、原料や製造過程から不可避的に含まれる不純物は含まれ得るが、それ以外は含まないことを意味する。
以下、特に断りがない限り、本発明の説明において「主成分」とは、このような意味で用いるものとする。
【0031】
Fe系の凝集剤とは、鉄系化合物を主成分とする凝集剤を意味する。
ここで、鉄系化合物とはFe原子を含む化合物を意味する。鉄系化合物としては塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄が挙げられる。
【0032】
前記凝集剤は粉状の態様のものであってよいし、粉状のアルミニウム系化合物および/または鉄系化合物が液体に分散した態様のものであってもよい。
【0033】
本発明の評価方法では、このようなAl系の凝集剤、Fe系の凝集剤、または両方を主成分として含む凝集剤を被処理水へ添加する。ここで、Al系の凝集剤とFe系の凝集剤との両方を含む凝集剤として用いる場合、これらの混合比は特に限定されない。
本発明の評価方法では、凝集剤としてAl系の凝集剤を用いることが好ましい。
【0034】
<被処理水>
本発明の評価方法における被処理水について説明する。
本発明の評価方法において被処理水は、前記凝集剤が添加された場合に凝集し得るイオン類、有機物、懸濁物質等の不純物とファウリング物質とを含む水であれば特に限定されない。ここでイオン類とは、リン酸態リン、アンモニア性窒素、鉄イオン、マンガンイオン、アルミニウムイオン、シリカイオン等である。
また、ファウリング物質とは、膜分離装置による膜分離を継続して行った場合に目詰まりを生じさせ得る有機系の物質であり、フミン質や多糖様物質が該当すると本発明者は考えている。
【0035】
前記被処理水は、さらに病原性微生物等を含むものであってもよい。
【0036】
前記被処理水として、具体的には水道原水(河川水、地下水等)、海水等が挙げられる。
また、前記被処理水は、ここに具体的に挙げた水道原水等を何らかの処理(例えば除渣処理、沈殿処理、生物処理等)を施した後のものであってもよい。
【0037】
<凝集処理水>
本発明の評価方法における凝集処理水について説明する。
本発明の評価方法において凝集処理水は、前記被処理水へ前記凝集剤を添加し、発生した凝集物の少なくとも一部を分離、除去した後に得られるものである。例えば、前記被処理水へ前記凝集剤を添加し、沈殿、浮上等の通常、膜分離装置を用いて処理する際に採用される処理を行って凝集物を分離、除去した上澄み液が、凝集処理水に該当する。
【0038】
<評価方法>
本発明の評価方法では、前記被処理水へAl系および/またはFe系の前記凝集剤を添加した後の凝集処理水について、特定の評価用ろ過膜を用いてろ過して、前記評価用ろ過膜の閉塞度を評価することで、前記凝集剤の凝集能を評価することができる。
【0039】
評価方法は、前記凝集処理水を前記評価用ろ過膜を用いてろ過して、前記評価用ろ過膜の閉塞度を評価する方法であれば特に限定されない。
例えば、評価用ろ過膜を平膜用フィルターホルダーにセットし、吸引ポンプを用いて吸引圧力を一定にする定圧ろ過を行い、所定量をろ過したときの、吸引速度の低下分によって、評価用ろ過膜の閉塞度の評価することができる。
また、例えば、評価用ろ過膜を、従来公知の撹拌式加圧セルにセットして、定速ろ過を行い、所定量をろ過したときの吸引圧力の上昇分によって、評価用ろ過膜の閉塞度の評価することができる。
【0040】
本発明の評価方法では、上記のような評価を行い、その評価結果に基づいて、前記凝集剤の凝集処理水への添加量等を調整することで最適量の凝集剤を凝集処理水へ添加し、その後、膜分離装置へ凝集処理水を供給した場合に、未利用凝集剤による膜分離装置の膜の汚染を防止することができる。
【0041】
本発明の評価方法では膜処理装置として、精密ろ過膜(MF)、限外ろ過膜(UF)、逆浸透膜(RO)、ナノろ過膜(NF)等を利用できる。
【0042】
次に、本発明の装置について説明する。
本発明の装置は、前述の本発明の評価方法を利用したフィードバック手段を備えるものである。
【0043】
本発明の装置について、図を用いて説明する。
図1は本発明の装置の好適態様を示す概略図である。
図1において本発明の装置1は、被処理水4へ凝集剤6を添加する凝集剤添加手段としての凝集剤貯留槽7を備える凝集処理装置であって、さらに、フィードバック手段9を備える凝集処理装置である。ここで、凝集剤貯留槽7は切り出し装置を備えるものであり、例えば従来公知の貯留槽の下部に従来公知の切り出し装置を備える態様であってよい。
また、図1に示す本発明の装置1は、さらに、原水2を貯留し、上澄み液を被処理水4として排出する原水槽3と、被処理水4を受け入れて凝集剤6と混合し、上澄み液を凝集処理水8として排出する凝集撹拌槽5と、凝集処理水8を貯留して沈降物を沈殿し、上澄み液を排出する沈殿槽11と、沈殿槽11から排出された上澄み液をろ過するろ過装置13とを備える。
ろ過装置13から排出された凝集処理水は膜分離装置へ供給される。膜分離装置は、本発明の評価方法において用いるものと同様であってよい。
【0044】
フィードバック手段9は凝集処理水8の一部を採取し、本発明の評価方法によって評価し、その結果に基づいて凝集条件を調整する手段である。例えば、評価用ろ過膜の閉塞度が小さすぎる場合は、凝集剤6の凝集撹拌槽5への添加量を多くするように調整する。逆に、例えば、評価用ろ過膜の閉塞度が多きすぎる場合は、凝集剤6の凝集撹拌槽5への添加量を少なくするように調整する。凝集剤6の凝集撹拌槽5への添加量の調整は、例えば、フィードバック手段が制御手段を含んでおり、この制御手段から凝集剤貯留槽7が備える切り出し装置へ電気的な信号を送って行うこともできる。このようなコンピュータ制御を行ってもよいが、人間が介在し、評価結果に基づいて手動で凝集剤6の凝集撹拌槽5への添加量を調整してもよい。
【0045】
本発明の装置の凝集剤添加手段において用いる凝集剤は、本発明の評価方法において用いた凝集剤と同様に、Al系および/またはFe系の凝集剤である。
【0046】
なお、本発明の装置1が備える原水槽3、凝集撹拌槽5、沈殿槽11、およびろ過装置13は、従来公知のものであってよい。原水槽3および沈殿槽11は例えば従来公知のタンク状の槽であってよく、凝集撹拌槽5はさらに撹拌手段を備える従来公知の態様のものであってよい。また、ろ過装置13は、例えば、砂ろ過装置、複層ろ過装置、繊維ろ過装置であってよい。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
酢酸セルロースからなる評価用ろ過膜(直径:25mmの平膜、孔径:0.22μm、細孔構造:スポンジ状)を用意した。この評価用ろ過膜を、以下では「評価用ろ過膜A」ともいう。
【0048】
次に、被処理水として江戸川原水を用意した。江戸川原水の組成等は次の通りであった。
pH 7.5
濁度 3.6度
鉄 0.29mg/L
マンガン 0.027mg/L
アルミニウム 0.15mg/L
UVA260(5cm) 0.112
【0049】
次に、上記の被処理水へ凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを30mg/Lで添加した後、ジャーテスターを用いて撹拌した。ジャーテスターによる撹拌は130rpmで3分撹拌した後、30rpmで10分撹拌し、その後、5分間静置するという条件で行った。
そして、上澄み液を凝集処理水として得た。
【0050】
次に、評価用ろ過膜Aを平膜用ガラス製フィルターホルダー(有効膜面積:2.1cm2)にセットし、これを用いてジャーテスターによって撹拌した後の凝集処理水(400mL)をろ過した。ここでろ過の際は吸引ポンプを用い、吸引圧力を一定(92kPa)とする全量定圧ろ過を行った。
【0051】
そして、400mLの凝集処理水をろ過した後の評価用ろ過膜1の表層に物理的に、不可逆的に堆積した堆積物(すなわち目詰まり物質)について調査した。調査はFTIRとEDXを使いて行った。その結果、堆積物は、全てポリ塩化アルミニウムであり、ファウリング物質は含まれていなかった。
【0052】
<比較例1>
疎水性ポリフッ化ビニリデンからなる評価用ろ過膜(直径:25mmの平膜、孔径:0.22μm、細孔構造:スポンジ状)を用意した。この評価用ろ過膜を、以下では「評価用ろ過膜B」ともいう。
次に、評価用ろ過膜Bを実施例1の場合と同様に平膜用ガラス製フィルターホルダーにセットし、これを用いて、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した。
そして、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した後の評価用ろ過膜Bの表層に堆積した堆積物について調査した。
その結果、堆積物には多量のファウリング物質が含まれていた。
【0053】
<比較例2>
疎水性材料であるポリフッ化ビニリデンの表面に親水性ポリマーを塗布した評価用ろ過膜(直径:25mmの平膜、孔径:0.22μm、細孔構造:スポンジ状)を用意した。この評価用ろ過膜を、以下では「評価用ろ過膜C」ともいう。
このような評価用ろ過膜Cを実施例1の場合と同様に平膜用ガラス製フィルターホルダーにセットし、これを用いて、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した。
そして、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した後の評価用ろ過膜Cの表層に堆積した堆積物について調査した。
その結果、堆積物には多量のファウリング物質が含まれていた。
【0054】
<比較例3>
評価用ろ過膜として、ミリポア社製セルロース混合エステルMF(孔径0.45μm)を用意した。この評価用ろ過膜を、以下では「評価用ろ過膜D」ともいう。
なお、評価用ろ過膜Dは硝酸セルロースと酢酸セルロースとが分子レベルで結合した構造を備える材料からなるものであるので、評価用ろ過膜Dの表層は酢酸セルロースのみからなるものではない。
このような評価用ろ過膜Dを実施例1の場合と同様に平膜用ガラス製フィルターホルダーにセットし、これを用いて、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した。
そして、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した後の評価用ろ過膜Dの表層に堆積した堆積物について調査した。
その結果、堆積物には多量のファウリング物質が含まれていた。
【0055】
<比較例4>
ポリカーボネートからなる評価用ろ過膜(直径:25mmの平膜、孔径:0.22μm、細孔構造:直円筒状)を用意した。この評価用ろ過膜を、以下では「評価用ろ過膜E」ともいう。
このような評価用ろ過膜Eを実施例1の場合と同様に平膜用ガラス製フィルターホルダーにセットし、これを用いて、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した。
そして、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した後の評価用ろ過膜Eの表層に堆積した堆積物について調査した。
その結果、堆積物には多量のファウリング物質が含まれていた。
【0056】
<比較例5>
疎水性材料であるポリテトラフルオロエチレンの表面に親水性ポリマーを塗布した評価用ろ過膜(直径:25mmの平膜、孔径:0.22μm、細孔構造:スリット状)を用意した。この評価用ろ過膜を、以下では「評価用ろ過膜F」ともいう。
このような評価用ろ過膜Fを実施例1の場合と同様に平膜用ガラス製フィルターホルダーにセットし、これを用いて、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した。
そして、実施例1と同様に、400mLの凝集処理水をろ過した後の評価用ろ過膜Fの表層に堆積した堆積物について調査した。
その結果、堆積物には多量のファウリング物質が含まれていた。
【符号の説明】
【0057】
1 本発明の装置
2 原水
3 原水槽
4 被処理水
5 凝集撹拌槽
6 凝集剤
7 凝集剤貯留槽
8 凝集処理水
9 フィードバック手段
11 沈殿槽
13 ろ過装置
図1