(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、重量床衝撃音をより低減することができる床構造を提供すること、および、当該床構造に好適に用いられる板ばね式制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(床構造)
本手段に係る床構造は、床材に板ばね制振装置を配置した床構造であって、前記板ばね制振装置は、前記床材に固定される支持部、および、前記床材に対して振動可能な振動部を有する板ばね部材と、前記板ばね部材の前記振動部に取り付けられるマス部材と、を備え、前記板ばね部材は、前記振動部の先端を自由端とするように、前記床材に対して片持ち支持され、前記支持部は、前記床材の振動モードの節側よりも腹側に位置し、かつ、前記振動部の先端よりも前記腹側に位置する。
さらに、前記床材は、複数のコンクリート床材を設置することにより形成され、前記板ばね式制振装置は、前記複数のコンクリート床材を構成する各コンクリート床材に配置され、前記支持部は、前記振動部の先端に対して、各前記コンクリート床材の中央側に位置する。
【0006】
片持ち支持される板ばね式制振装置は、長さを有するものであって、板ばね部材の支持部の位置とマス部材の位置とは異なっている。ここで、板ばね部材の支持部を床材の振動モードの節側よりも腹側に位置させることにより、床材が振動する際に、板ばね部材全体が大きく振動する状態になる。特に、板ばね部材のうち支持部が、振動部の先端側よりも、振動モードの腹側に位置するようにしている。つまり、板ばね部材が存在する領域の中においても、支持部が腹側に位置することになる。そして、板ばね部材の振動部の振幅は、支持部の振幅に依存する。つまり、板ばね部材を上記のように配置することで、支持部を大きく振動させることができ、結果として、振動部を大きく振動させることができる。振動部を大きく振動させることができることで、マス部材が大きく振動することになり、床材の振動を効果的に低減することができる。従って、重量床衝撃音をより低減することができる。
【0008】
複数のコンクリート床材を設置することにより形成される床材は、床材全体としての振動モードを有するが、隣接するコンクリート床材の連続性は僅かながら有しない。コンクリート床材は、梁に対して連結しており、コンクリート床材同士は連結されておらず、木板に比べて厚みを有するため、それぞれのコンクリート床材は独立して振動する。そして、板ばね式制振装置を、床材全体の腹側であって、かつ、各コンクリート床材の中央側に設置することで、床材全体の振動を低減しつつ、それぞれのコンクリート床材の異なる振動モードに対応することが可能となる。従って、コンクリート床材により形成される床材に適用した場合に、重量床衝撃音をより低減することができる。
【0009】
また、前記コンクリート床材は、長方形の床面を有し、前記板ばね式制振装置は、前記支持部から前記振動部の先端へ向かう方向が前記コンクリート床材の床面の長手方向に一致するように配置されるようにしてもよい。このようにすることで、板ばね部材の長さを十分に確保することができる。ここで、板ばね部材の長さを長くするほど、振動低減効果は高い。つまり、上記のように設置することで、大きな振動低減効果を発揮できる。
【0010】
また、前記板ばね式制振装置は、1つの前記コンクリート床材に複数配置され、1つの前記コンクリート床材に配置される複数の前記板ばね式制振装置において、前記振動部の先端同士の離間距離は、前記支持部同士の離間距離より長く設定されているようにしてもよい。1つのコンクリート床材に複数の板ばね式制振装置を設置する場合に、複数の板ばね式制振装置の支持部を所望の位置に設置することができ、それぞれが振動低減効果を確実に発揮できる。
【0011】
また、コンクリート床材に適用した場合に、複数の前記板ばね式制振装置の振動低減周波数は、異なる周波数帯に設定されるようにしてもよい。これにより、複数の振動モードの振動を低減することができる。
【0012】
また、上記においては、コンクリート床材に適用した場合を記載したが以下のようにしてもよい。
本手段に係る他の床構造は、床材に板ばね制振装置を配置した床構造であって、前記板ばね制振装置は、前記床材に固定される支持部、および、前記床材に対して振動可能な振動部を有する板ばね部材と、前記板ばね部材の前記振動部に取り付けられるマス部材と、を備え、前記板ばね部材は、前記振動部の先端を自由端とするように、前記床材に対して片持ち支持され、前記支持部は、前記床材の振動モードの節側よりも腹側に位置し、かつ、前記振動部の先端よりも前記腹側に位置する。
前記床材は、木板であり、梁により区画された複数の梁区画木板床材を設置することにより形成され、前記板ばね式制振装置は、前記複数の梁区画木板床材を構成する各梁区画木板床材に配置され、前記支持部は、前記振動部の先端に対して、各前記梁区画木板床材の中央側に位置
する。
【0013】
複数の木板床材を複数の梁により連結される床材は、床材全体としての振動モードを有するが、それぞれの梁区画木板床材個別の振動モードを有する場合がある。そして、板ばね式制振装置を、床材全体の腹側であって、かつ、各梁区画木板床材の中央側に設置することで、床材全体の振動を低減しつつ、それぞれの梁区画木板床材の異なる振動モードに対応することが可能となる。従って、梁区画木板床材により形成される床材に適用した場合に、重量床衝撃音をより低減することができる。
【0014】
また、前記梁区画木板床材は、長方形の床面を有し、前記板ばね式制振装置は、前記支持部から前記振動部の先端へ向かう方向が前記梁区画木板床材の床面の長手方向に一致するように配置されるようにしてもよい。このようにすることで、板ばね部材の長さを十分に確保することができる。ここで、板ばね部材の長さを長くするほど、振動低減効果は高い。つまり、上記のように設置することで、大きな振動低減効果を発揮できる。
【0015】
また、前記板ばね式制振装置は、1つの前記梁区画木板床材に複数配置され、1つの前記梁区画木板床材に配置される複数の前記板ばね式制振装置において、前記振動部の先端同士の離間距離は、前記支持部同士の離間距離より長く設定されているようにしてもよい。1つの梁区画木板床材に複数の板ばね式制振装置を設置する場合に、複数の板ばね式制振装置の支持部を所望の位置に設置することができ、それぞれが振動低減効果を確実に発揮できる。
【0016】
また、木板床材に適用した場合に、複数の前記板ばね式制振装置の振動低減周波数は、異なる周波数帯に設定されるようにしてもよい。これにより、複数の振動モードの振動を低減することができる。
【0017】
上記床構造に適用される板ばね式制振装置は、以下のような構成とするとよい。すなわち、前記板ばね部材の前記振動部は、前記支持部と前記マス部材を取り付ける部位とをリブ状に連結するリブ状立壁部を備え、前記リブ状立壁部は、前記マス部材側に位置し、振動方向幅を同一に形成されたマス側立壁部と、前記支持部側に位置し、振動方向幅を前記マス側立壁部の振動方向幅より大きく形成された支持部側立壁部と、を備え、前記板ばね式制振装置は、前記マス側立壁部のうち前記支持部側立壁部側に固定され、前記床材に接触するように設けられた粘弾性体を備える。
【0018】
振動部がリブ状立壁部を有することにより、マス部材の有効質量を大きくしつつ板ばね部材の軽量化を図ることができる。ここで、板ばね部材の長さを長くすることにより、振動低減効果が大きくなる。しかし、板ばね部材が長くなるほどねじれる可能性が高くなる。これでは、振動低減効果を十分に得ることができない場合がある。
【0019】
そこで、粘弾性体をマス側立壁部のうち支持部側立壁部側に設置することで、マス部材の重心を板ばね式制振装置の剛芯(板ばね部材および粘弾性体のねじり剛性の中心)に近づかせることができ、板ばね部材のねじれを抑制できる。従って、確実に、マス部材を床材の振動方向に振動させることができ、振動低減効果を発揮する。さらに、粘弾性体をマス側立壁部のうち支持部側立壁部側に設置することで、マス側立壁部のうち支持されていない範囲を長くすることができる。従って、マス部材を大きく振動させることができ、振動低減効果を発揮する。
【0020】
また、前記支持部側立壁部は、前記マス側立壁部側から前記支持部側に行くに従って、振動方向幅が大きく形成され、前記粘弾性体は、前記支持部側立壁部に隣接して設けられるようにしてもよい。つまり、支持部側立壁部は、マス側立壁部に比べて、床材の振動方向に対する断面係数が大きい。従って、支持部側立壁部は、マス側立壁部を確実に支持することができる。このとき、粘弾性体は、支持部側立壁部に隣接して設けているため、支持部側立壁部による支持力を補強する役割を有する。従って、支持部側立壁部は安定した状態で床材に支持される。その結果、支持部側立壁部がねじれることを抑制でき、マス側立壁部を床材の振動方向に確実に振動させることができる。
【0021】
また、前記支持部は、前記粘弾性体よりも、前記床材の振動モードの腹側に位置するようにしてもよい。つまり、板ばね部材が存在する領域の中において、粘弾性体と支持部とを比較した場合に、支持部が腹側に位置することになる。これにより、床材が振動した場合に、支持部を大きく振動させることができ、結果として、床材の振動を低減することができる。
【0022】
(板ばね式制振装置)
また、本手段に係る板ばね式制振装置は、
床材に固定される支持部および前記床材に対して振動可能な振動部を有し、前記振動部の先端を自由端とするように前記床材に対して片持ち支持される板ばね部材と、前記板ばね部材の前記振動部に取り付けられるマス部材と、前記振動部に固定され、前記床材に接触するように設けられた粘弾性体と、を備える板ばね式制振装置であって、前記板ばね部材の前記振動部は、前記支持部と前記マス部材を取り付ける部位とをリブ状に連結するリブ状立壁部を備え、前記リブ状立壁部は、前記マス部材側に位置し、振動方向幅を同一に形成されたマス側立壁部と、前記支持部側に位置し、振動方向幅を前記マス側立壁部の振動方向幅より大きく形成された支持部側立壁部と、を備え、前記粘弾性体は、前記マス側立壁部のうち前記支持部側立壁部側に固定される。
【0023】
振動部がリブ状立壁部を有することにより、マス部材の有効質量を大きくしつつ板ばね部材の軽量化を図ることができる。ここで、板ばね部材の長さを長くすることにより、振動低減効果が大きくなる。しかし、板ばね部材が長くなるほどねじれる可能性が高くなる。これでは、十分に振動低減効果を得ることができない場合がある。
【0024】
そこで、粘弾性体をマス側立壁部のうち支持部側立壁部側に設置することで、マス部材の重心を板ばね部材の剛芯(ねじり剛性の中心)に近づき、板ばね部材のねじれを抑制できる。従って、確実に、マス部材を床材の振動方向に振動させることができ、振動低減効果を発揮する。さらに、粘弾性体をマス側立壁部のうち支持部側立壁部側に設置することで、マス側立壁部のうち支持されていない範囲を長くすることができる。従って、マス部材を大きく振動させることができ、振動低減効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第一実施形態>
(板ばね式制振装置の構成)
板ばね式制振装置100の構成について、
図1A〜
図1C、および、
図2A〜
図2Cを参照して説明する。板ばね式制振装置100は、住宅の上階の床材50(
図1Aの二点鎖線)の裏面側に固定されており、床材50に生じた振動を低減する装置である。
【0027】
この板ばね式制振装置100は、板ばね部材10と、マス部材30と、粘弾性体40とを備える。そして、板ばね部材10が床材50に対してマス部材30を振動可能となるように支持しており、さらに板ばね部材10に取り付けられた粘弾性体40が床材50に接触することにより板ばね部材10を弾性支持している。以下詳細に説明する。
【0028】
マス部材30は、
図1A〜
図1Cに示すような円柱状に形成された鉄塊である。このマス部材30の質量は、目的の制振特性に応じて変更され、例えば、数kg程度を有するものを採用する。
【0029】
板ばね部材10は、平板状の鋼板に対して打ち抜き加工およびプレス加工を施すことにより形成される。板ばね部材10には、軽量化を図るために数mm〜数cm程度の薄い板厚の鋼板を用いる。この板ばね部材10は、マス部材30が振動体である床材50に対して床材50の主振動方向(
図1Aの上下方向)に相対移動可能となるように、床材50の裏面に対してマス部材30を支持する。ここで、床材50の主振動方向とは、建物の上下方向となる。
【0030】
板ばね部材10は、支持部11と、支持部11と一体的に形成され床材50および支持部11に対して主振動方向に対して振動する振動部12とを備える。ただし、振動部12のうち支持部11に近い部位は振動しない場合があるが、板ばね部材10のうち支持部11以外の部位を振動部12とする。
【0031】
支持部11は、矩形の平板状をなす部位である。この支持部11の一方面が振動体である床材50の裏面に接触するようにして、支持部11は床材50に固定されている。この支持部11には、幅方向中央に位置する2カ所の貫通孔11aが形成されている。この2カ所の貫通孔11aには、床材50の裏面に締結するためのねじ(図示せず)が挿通される。
【0032】
従って、振動部12は、板ばね部材10のうち平板状の支持部11以外の部位、すなわち、床材50に接触していない部位となる。そして、板ばね部材10は、振動部12の先端(
図1Aの右端)を自由端とするように床材50に対して片持ち支持される。振動部12は、2つのマス取付部21,22と、粘弾性体取付部23と、傾斜板部24と、2つのリブ状立壁部25,26とを備える。
【0033】
2つのマス取付部21,22は、支持部11および床材50の裏面から離間し、床材50の裏面にほぼ平行となるように設けられている。マス取付部21,22は、それぞれ細長板状に形成され、先端側に1個ずつの貫通孔21a,22aが形成されている。この貫通孔21a,22aには、マス部材30を固定するための締結ボルトが挿通される。このようにして、マス取付部21,22の先端側には、マス部材30が着脱可能に固定される。
【0034】
粘弾性体取付部23は、振動部12(支持部11以外の部位)を構成する部材のうちの先端側に位置しており、後述する粘弾性体40を着脱可能に取り付ける部位である。この粘弾性体取付部23は、支持部11の長手方向長さよりも長い長方形板状に形成され、
図1Bの底面図に示すように、板ばね式制振装置100を下方から見た場合にマス取付部21,22の間に位置に設けられている。この粘弾性体取付部23は、
図1Aの正面図に示すように、床材50から離間した位置であって、マス取付部21,22に対して床材50の裏面側に位置し、床材50の裏面にほぼ平行となるように設けられている。この粘弾性体取付部23の支持部11側には、
図2Bに示すように、瓢箪型貫通孔23aが形成されている。つまり、瓢箪型貫通孔23aは、マス取付部21,22の貫通孔21a,22aより支持部11側に位置している。
【0035】
傾斜板部24は、支持部11の先端側縁と粘弾性体取付部23の支持部11側の縁とを連結している。ここで、支持部11は床材50に接触しており、粘弾性体取付部23は床材50から離間している。そのため、傾斜板部24は、床材50に対して、振動部12の先端側に行くに従って離間量が大きくなるように傾斜して設けられている。
【0036】
1つのリブ状立壁部25は、支持部11の一方の側縁、粘弾性体取付部23の一方の側縁および傾斜板部24の一方の側縁と、一方のマス取付部21の側縁とを連結して、リブ状に形成されている。また、もう1つのリブ状立壁部26は、支持部11の他方の側縁、粘弾性体取付部23の他方の側縁および傾斜板部24の他方の側縁と、もう1つのマス取付部22の側縁とを連結して、リブ状に形成されている。
【0037】
ここで、リブ状立壁部25,26を、粘弾性体取付部23とマス取付部21,22とを連結する部位のマス側立壁部25a,26aと、支持部11および傾斜板部24とマス取付部21,22とを連結する部位の支持部側立壁部25b,26bとに区分する。
【0038】
つまり、マス側立壁部25a,26aは、マス部材30側に位置しており、振動方向幅を同一に形成されている。また、支持部側立壁部25b,26bは、支持部11側に位置しており、振動方向幅をマス側立壁部25a,26aの当該幅より大きく形成されている。詳細には、支持部側立壁部25b,26bの振動方向幅形状は、台形形状に形成されている。つまり、支持部側立壁部25b,26bは、マス側立壁部25a,26a側から支持部11側に行くに従って徐々に、振動方向幅が大きくなるように形成されている。
【0039】
粘弾性体40は、ゴムからなり、粘弾性体取付部23に固定されると共に、床材50が主振動方向に振動した場合に床材50の裏面に対して接触している。具体的には、粘弾性体40は、本体部41と、ストッパ部42とから構成される。
【0040】
本体部41は、逆円錐台形状に形成されている。この円形両端面の距離(端面間距離)は、粘弾性体取付部23と床材50の裏面との離間距離にほぼ等しくされている。詳細には、本体部41の端面間距離は、床材50の裏面に対して僅かに予圧を加えた状態となるように設定されている。
【0041】
ストッパ部42は、本体部41の大径側端面に設けられ、茸状に形成されている。このストッパ部42の首部の直径は、粘弾性体取付部23の瓢箪型貫通孔23aの小玉部の直径より僅かに小さくされている。また、ストッパ部42の先端大径突起部の高さは、ストッパ部42がマス取付部21,22から飛び出さないように設定されている。このストッパ部42の先端大径突起部の直径は、瓢箪型貫通孔23aの大玉部の直径より小さく、かつ、瓢箪型貫通孔23aの小玉部の直径より大きくされている。
【0042】
このように形成される粘弾性体40は、以下のようにして、粘弾性体取付部23に固定される。まず、ストッパ部42の先端大径突起部を粘弾性体取付部23の瓢箪型貫通孔23aの大玉部に挿通する。続いて、粘弾性体40を瓢箪型貫通孔23aの小玉部側にスライドさせる。このとき、粘弾性体40の本体部41と、ストッパ部42の先端大径突起部とにより、粘弾性体取付部23が挟まれる。このようにして、粘弾性体40が粘弾性体取付部23に固定される。
【0043】
以上のように構成される板ばね式制振装置100は、以下のように動作する。床材50が主振動方向に振動した場合(床材50に衝撃音が発生した場合を含む)に、板ばね部材10の振動部12の弾性力によって、マス部材30が、床材50の主振動方向へ振動する。このとき、粘弾性体40は、常に床材50の裏面から離間することなく、接触した状態を維持する。つまり、板ばね式制振装置100は、ダイナミックダンパとして機能する。
【0044】
詳細には、板ばね部材10の振動部12および粘弾性体40が、ダイナミックダンパのばねとして作用する。特に、板ばね部材10の振動部12においては、リブ状立壁部25,26の主振動方向の剛性が他の部位の剛性に比べて高いため、リブ状立壁部25,26のばね剛性が最も効く状態となる。
【0045】
従って、板ばね部材10は、薄板により形成されているとしても、十分なばね剛性を有する。つまり、マス部材30の有効質量を大きくしつつ、板ばね部材10の軽量化を図ることができる。ただし、リブ状立壁部25,26のうち特にマス側立壁部25a,26aの剛性を高くすると、マス部材30の振幅が小さくなり、結果として振動低減効果が小さくなる。そのため、マス側立壁部25a,26aの主振動方向幅を、支持部側立壁部25b,26bよりも小さくしている。特に、本実施形態においては、マス側立壁部25a,26aの主振動方向幅を同一にしており、支持部側立壁部25b,26bの主振動方向幅は、十分な剛性を確保するために、マス側立壁部25a,26aより大きくしている。
【0046】
ところで、振動低減効果を大きくするためには、マス部材30を大きく振動させるとよい。そこで、板ばね部材10の長さを長くすることで、マス部材30を大きく振動させることができる。しかし、板ばね部材10が長くなるほど、振動部12、特にリブ状立壁部25,26がねじれる可能性が高くなる。そして、本実施形態において、板ばね部材10の剛芯(板ばね部材10のねじり剛性の中心)は、板ばね部材10の支持部11付近に位置している。つまり、マス部材30の重心と板ばね部材10の剛芯とが、振動部12の長手方向に大きく離れている。そのため、リブ状立壁部25,26が主振動方向のみに振動するのではなく、振動部12の長手方向の軸回り揺動する状態となるおそれがある。このような動作をしてしまうと、振動低減効果を十分に得ることができない場合がある。
【0047】
そこで、粘弾性体40を板ばね部材10の振動部12のうち粘弾性体取付部23に取り付けている。粘弾性体40をマス側立壁部25a,26aのうち支持部側立壁部25b,26b側に設置することで、マス部材30の重心を板ばね式制振装置100の剛芯(板ばね部材10および粘弾性体40のねじり剛性の中心)に近づかせることができ、板ばね部材10のねじれを抑制できる。従って、確実に、マス部材30を床材50の主振動方向に振動させることができ、十分な振動低減効果を発揮する。
【0048】
一方で、粘弾性体40をマス部材30の重心に近い位置に取り付けると、マス部材30の重心と板ばね制振装置100の剛芯(板ばね部材10および粘弾性体40のねじり剛性の中心)が非常に近くなり、マス部材30を大きく振動させることができなくなる。そこで、粘弾性体40は、マス側立壁部25a,26aのうちマス部材30側ではなく、支持部側立壁部25b,26b側に設置している。これにより、マス側立壁部25a,26aのうち支持されていない範囲を長くすることができる。従って、マス部材30を大きく振動させることができ、振動低減効果を発揮する。
【0049】
また、上述したように、支持部側立壁部25b,26bは、マス側立壁部25a,26a側から支持部11側に行くに従って、主振動方向幅が大きく形成されている。つまり、支持部側立壁部25b,26bは、マス側立壁部25a,26aに比べて、床材50の主振動方向に対する断面係数が大きい。従って、支持部側立壁部25b,26bは、マス側立壁部25a,26aを確実に支持することができる。このとき、粘弾性体40は、支持部側立壁部25b,26bに隣接して設けている。そのため、粘弾性体40は、支持部側立壁部25b,26bによる支持力を補強する役割を有する。従って、支持部側立壁部25b,26bは安定した状態で床材50に支持される。その結果、支持部側立壁部25b,26bがねじれることを抑制でき、マス側立壁部25a,26aを床材50の主振動方向に確実に振動させることができる。
【0050】
(板ばね式制振装置を床材に配置した構造)
次に、複数の板ばね式制振装置100を床材50に配置する構造について以下に説明する。床材50の種類として、二種類を例に挙げる。第一の床材は、ALC床材などのコンクリート床材を複数設置することによって形成する。第二の床材は、木板により形成する。
【0051】
(コンクリート床材に適用した例)
複数のコンクリート床材511,511,・・・を設置することによって形成される第一の床材510について、
図3A〜
図3Cを参照して説明する。床材510は、H型鋼により形成された、床全体の外周を形成する縦梁512a,512bおよび横梁512c,512dと、
図3Bの横梁512c,512dの中央同士を連結する中央梁512eとを有する。各コンクリート床材511,511,・・・は、長方形の面材を有する直方体に形成されている。そして、各コンクリート床材511,511,・・・は、各横梁512c,512dと中央梁512eとを掛け渡すように、縦方向に並べて配置されている。各コンクリート床材511,511,・・・の長手方向端を横梁512c,512dおよび中央梁512eに固定されている。そして、コンクリート床材511,511,・・・の上面に、石膏ボード513およびフローリング材514が張られている。
【0052】
このような床材510は、床材510全体が一体的な面材として振動する状態となる。例えば、
図3Bに示すように、床材510の横方向にて2次モードの振動となり、床材510の縦方向にて2次または3次モードの振動となる。つまり、床材510全体の振動モードは、2次−2次モードまたは2次−3次モードとなる。
【0053】
さらに、各コンクリート床材511,511,・・・同士は、連結されておらず、ある程度の厚み(一般的に木板床材に比べて厚い厚み)を有するため、各コンクリート床材511,511,・・・は、独立して振動し得る。つまり、隣接するコンクリート床材511,511の連続性は僅かながら有しない状態となる。
【0054】
このような床材510に、
図3A〜
図3Cに示すように、複数の板ばね式制振装置101,102を配置する。板ばね式制振装置101,102は、上述した板ばね式制振装置100の振動低減周波数をそれぞれ異なるようにチューニングしたものであり、実質的に同様の構成からなる。
【0055】
具体的には、各コンクリート床材511,511,・・・の中央付近に、複数(2つ)の板ばね式制振装置101,102を配置する。コンクリート床材511の中央付近は、
図3Bの下方の振動モード図に示すように、床材510全体の2次振動モードの腹付近に位置する。さらには、コンクリート床材511の中央付近は、該コンクリート床材511単体として見た場合において、単体の振動モードの腹となる。つまり、板ばね式制振装置101,102の各支持部11が、床材510全体の振動モードの節側よりも腹側、かつ、コンクリート床材511単体の振動モードの節側よりも腹側に位置している。
【0056】
さらに、板ばね式制振装置101,102の各支持部11は、各振動部12の先端(マス部材30取付位置付近)よりも床材510全体の振動モードの腹側に位置し、さらに振動部12の先端に対して各コンクリート床材511の中央側(単体の振動モードの腹側)に位置する。
【0057】
片持ち支持される板ばね式制振装置101,102は、長さを有するものであって、板ばね部材10の支持部11の位置とマス部材30の位置とは異なっている。ここで、板ばね部材10の支持部11を床材510の振動モードの節側よりも腹側に位置させることにより、床材510が振動する際に、板ばね部材10全体が大きく振動する状態になる。
【0058】
特に、板ばね部材10のうち支持部11が、振動部12の先端側よりも、振動モードの腹側に位置するようにしている。つまり、板ばね部材10が存在する領域の中においても、支持部11が腹側に位置することになる。そして、板ばね部材10の振動部12の振幅は、支持部11の振幅に依存する。つまり、板ばね部材10を上記のように配置することで、支持部11を大きく振動させることができ、結果として、振動部12を大きく振動させることができる。振動部12を大きく振動させることができることで、マス部材30が大きく振動することになり、床材510の振動を効果的に低減することができる。従って、重量床衝撃音をより低減することができる。
【0059】
そして、板ばね式制振装置101,102を、床材510全体の腹側であって、かつ、各コンクリート床材511,511,・・・の中央側に設置することで、床材510全体の振動を低減しつつ、それぞれのコンクリート床材511の異なる振動モードに対応することが可能となる。従って、コンクリート床材511により形成される床材510に適用した場合に、重量床衝撃音をより低減することができる。
【0060】
また、上述したように、各コンクリート床材511,511,・・・は、長方形の床面を有する。ここで、板ばね式制振装置101,102は、支持部11から振動部12の先端へ向かう方向がコンクリート床材511の床面の長手方向に一致するように配置する。このようにすることで、板ばね部材10の長さを十分に確保することができる。ここで、板ばね部材10の長さを長くするほど、振動低減効果は高い。つまり、上記のように設置することで、大きな振動低減効果を発揮できる。
【0061】
特に、2つの板ばね式制振装置101,102が、1つのコンクリート床材511に配置されている。このとき、1つのコンクリート床材511に配置される複数の板ばね式制振装置101,102同士は、それぞれの支持部11側を突き合わせるように配置されている。つまり、振動部12の先端同士の離間距離は、支持部11同士の離間距離より長く設定されている。このように設置する場合に、複数の板ばね式制振装置101,102の支持部11を所望の位置に設置することができ、それぞれが振動低減効果を確実に発揮できる。
【0062】
また、1枚のコンクリート床材511に配置される2つの板ばね式制振装置101,102の振動低減周波数は、異なる周波数帯に設定されている。例えば、振動低減周波数を48Hz付近と56Hz付近に設定する。このように設定することで、幅広い周波数帯の振動に対して、振動低減効果を発揮する。この場合の振動低減効果について、
図4を参照して説明する。
【0063】
図4には、板ばね式制振装置101,102を配置しない場合(「制振装置なし」:太実線)、56Hzの振動低減周波数(固有振動数)の制振装置101を配置した場合(「固有振動数A」:細二点差線)、48Hzの振動低減周波数の制振装置102を配置した場合(「固有振動数B」:細実線)、および、2種類の振動低減周波数の制振装置101,102を配置した場合(「固有振動数A+B」:細一点鎖線)を示す。
【0064】
制振装置なしに比べると、2種類の制振装置101,102を配置した場合には、48Hz付近から56Hz付近の間全体に亘って振動低減効果を発揮する。ただし、この場合には、1種類の制振装置101,102を配置した場合に比べると、振動低減効果は小さくなるが、広い範囲において振動低減効果を有することは分かる。
【0065】
<第二実施形態>
(木板材に適用した例)
木板により形成された第二の床材520について、
図5A〜
図5Cを参照して説明する。ここで、当該床材520は、木材により形成された、床全体の外周を形成する縦梁522a,522bおよび横梁522c,522dと、
図5Bの縦梁522a,522bを連結する中間横梁522e,522f,522gとを有する。3つの中間横梁522e,522f,522gにより、外周の梁522a〜522dの空間を4等分されている。
【0066】
そして、
図5A,
図5Cに示すように、梁522a〜522gの上面には、合板材523が各梁に固定されており、当該合板材523の上面に、石膏ボード524およびフローリング材525が張られている。ここで、合板材523は、梁522a〜522gにより複数(4つ)に区画されているため、複数の梁区画木板床材521,521,・・・により形成されていると見ることができる。つまり、各梁区画木板床材521,521,・・・は、
図5Bの上下の横梁522c、522dの間に、縦方向に並べて配置されている。
【0067】
このような床材520は、床材520全体が一体的な面材として振動する状態となる。例えば、
図5Bに示すように、床材520の横方向にて2次または3次モードの振動となり、床材520の縦方向にて2次または3次モードの振動となる。つまり、床材520全体の振動モードは、2次−2次モード、2次−3次モード、3次−2次モードまたは3次−3次モードとなる。
【0068】
このような床材520に、
図5A〜
図5Cに示すように、複数の板ばね式制振装置101,102を配置する。板ばね式制振装置101,102は、上述した板ばね式制振装置100の振動低減周波数をそれぞれ異なるようにチューニングしたものであり、実質的に同様の構成からなる。
【0069】
具体的には、各梁区画木板床材521,521,・・・を
図5Bの横方向に4等分した領域の境界付近に、それぞれ複数(2つ)の板ばね式制振装置101,102を配置する。各梁区画木板床材521,521,・・・に配置される3箇所は、
図5Bの下方の振動モード図に示すように、床材520全体の3次振動モードの腹付近に位置する。
【0070】
片持ち支持される板ばね式制振装置101,102は、長さを有するものであって、板ばね部材10の支持部11の位置とマス部材30の位置とは異なっている。ここで、板ばね部材10の支持部11を床材520の振動モードの節側よりも腹側に位置させることにより、床材520が振動する際に、板ばね部材10全体が大きく振動する状態になる。
【0071】
特に、板ばね部材10のうち支持部11が、振動部12の先端側よりも、振動モードの腹側に位置するようにしている。つまり、板ばね部材10が存在する領域の中においても、支持部11が腹側に位置することになる。そして、板ばね部材10の振動部12の振幅は、支持部11の振幅に依存する。つまり、板ばね部材10を上記のように配置することで、支持部11を大きく振動させることができ、結果として、振動部12を大きく振動させることができる。振動部12を大きく振動させることができることで、マス部材30が大きく振動することになり、床材520の振動を効果的に低減することができる。従って、重量床衝撃音をより低減することができる。
【0072】
また、合板(木板床材)を複数の梁522a〜522gにより連結される床材520は、床材520全体としての上述した振動モードを有するが、それぞれの梁区画木板床材521,521,・・・個別の振動モードを有する場合がある。そして、板ばね式制振装置101,102を、床材520全体の腹側であって、かつ、各梁区画木板床材521,521,・・・の中央側に設置することで、床材520全体の振動を低減しつつ、それぞれの梁区画木板床材521,521,・・・の異なる振動モードに対応することが可能となる。従って、梁区画木板床材521,521,・・・により形成される床材520に適用した場合に、重量床衝撃音をより低減することができる。
【0073】
また、梁区画木板床材521,521,・・・は、長方形の床面を有し、板ばね式制振装置101,102は、支持部11から振動部12の先端へ向かう方向が梁区画木板床材521,521,・・・の床面の長手方向に一致するように配置される。このようにすることで、板ばね部材10の長さを十分に確保することができる。ここで、板ばね部材10の長さを長くするほど、振動低減効果は高い。つまり、上記のように設置することで、大きな振動低減効果を発揮できる。
【0074】
特に、複数の板ばね式制振装置101,102が、1つの梁区画木板床材521に配置されている。このとき、1つの梁区画木板床材521に配置される複数の板ばね式制振装置101,102において、振動部12の先端同士の離間距離は、支持部11同士の離間距離より長く設定されている。1つの梁区画木板床材521に複数の板ばね式制振装置101,102を設置する場合に、複数の板ばね式制振装置101,102の支持部11を所望の位置に設置することができ、それぞれが振動低減効果を確実に発揮できる。
【0075】
また、1つの梁区画木板床材521に配置される複数の板ばね式制振装置101,102の振動低減周波数は、異なる周波数帯に設定されている。例えば、振動低減周波数を48Hz付近と56Hz付近に設定する。このように設定することで、幅広い周波数帯の振動に対して、振動低減効果を発揮する。