(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
極性溶媒またはイオン液体を含む液体に多糖類原料を溶解してなる多糖類溶解液を、固形化液体に接触させて、多糖類を湿式紡糸又は乾湿式紡糸して精製多糖類繊維を得る工程を有し、
前記精製多糖類繊維は、第1主成分を含む二種類以上の多糖類からなる主成分を含有し、
前記主成分がセルロースとヘミセルロースであり、
前記精製多糖類繊維を構成する全成分中の前記第1主成分の割合が81.1重量%以下である、精製多糖類繊維の製造方法。
前記イオン液体は、カチオン部とアニオン部から成り、前記カチオン部は、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、及びフォスフォニウムイオンからなる群から選ばれる一種以上である請求項1〜6のいずれか一項に記載の精製多糖類繊維の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[精製多糖類繊維]
本発明の精製多糖類繊維は、極性溶媒またはイオン液体を含む液体に多糖類原料を溶解してなる多糖類溶解液を、固形化液体に接触させて、多糖類を湿式紡糸又は乾湿式紡糸してなり、第1主成分を含む二種類以上の多糖類からなる主成分を含有し、前記精製多糖類繊維を構成する全成分中の前記第1主成分の割合が97重量%以下である。
多糖類の種類が異なるとは、該多糖類を構成する単糖類の種類が異なることを意味する。
また、本発明において、主成分とは精製多糖類繊維中に1.0重量%以上含まれる成分であり、主成分を構成する各成分において、成分の割合が大きい順に第1主成分、第2主成分、・・と称する。
【0015】
本発明に用いられる多糖類原料(多糖類を含む原料)における多糖類としては、セルロース;エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、カチオン化セルロースなどのセルロース誘導体;アラビアガム;κ−カラギーナン、ι−カラギーナン、λ−カラギーナンなどのカラギーナン;グアガム;ローカストビーンガム;ペクチン;トラガント;トウモロコシデンプン;リン酸化デンプン;キサンタンガム、デキストリン等の微生物系多糖類が挙げられ、セルロースが好ましく用いられる。
【0016】
また、多糖類原料における多糖類としてとしてキチンも挙げられる。キチンは、天然キチンでも再生キチンでもよく、天然キチンとしては、昆虫やエビ、カニなど甲殻類の外殻やキノコなどの植物に含まれるものが挙げられる。
【0017】
本発明において、セルロース原料は、セルロースを含むものであれば特に限定されず、植物由来のセルロース原料であってもよく、動物由来のセルロース原料であってもよく、微生物由来のセルロース原料であってもよく、再生セルロース原料であってもよい。
植物由来のセルロース原料としては、木材、綿、麻、その他の草本類等の未加工の天然植物由来のセルロース原料や、稲わら、バガス、パルプ、木材粉、木材チップ、紙製品等の予め加工処理を施された植物由来の加工セルロース原料が挙げられる。
天然植物としては、針葉樹、広葉樹、単子葉植物、双子葉植物、竹等が挙げられる。
動物由来のセルロース原料としては、ホヤ由来のセルロース原料が挙げられる。
微生物由来のセルロース原料としては、Aerobacter属、Acetobacter属、Achromobacter属、Agrobacterium属、Alacaligenes属、Azotobacter属、Pseudomonas属、Rhizobium属、Sarcina属等に属する微生物の産生するセルロース原料が挙げられる。
再生セルロース原料としては、上記のような植物、動物、又は微生物由来のセルロース原料を、ビスコース法等の公知の方法により再生したセルロース原料が挙げられる。
なかでも、本発明におけるセルロース原料としては、極性溶媒またはイオン液体に良好に溶解するパルプが好ましい。
【0018】
溶解パルプは木材チップを精製して得られるものが好ましい。木材中に含まれる成分は、木材種にもよるが、40〜60重量%のセルロース、10〜30重量%のヘミセルロース、及び15〜30重量%のリグニンからなる。
【0019】
本発明の精製多糖類繊維の主成分は、二種類以上の多糖類からなる。かかる精製多糖類繊維の原料として、二種以上の多糖類を含む多糖類原料を用いてもよく、一種の多糖類を含む多糖類原料を複数種類用いてもよい。
多糖類の組合せとしては、特に限定されず、上述したもののなかから適宜選択されるが、セルロースとヘミセルロースの組合せが好ましく、第1主成分がセルロースであることがより好ましい。
本発明において、精製多糖類繊維を構成する全成分中、第1主成分の割合は97重量%以下であり、90重量%以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の精製多糖類繊維の主成分が、セルロースとヘミセルロースの組合せである場合、ヘミセルロース成分を含むことにより、繊維の強力が低下する傾向にある。強力の低下を抑制する観点から精製多糖類繊維を構成する全成分中、セルロースとヘミセルロースの合計の割合が、90重量%以上であることが好ましい。
【0021】
省資源化の観点から、多糖類原料から得られる本発明の精製多糖類繊維の割合(以下、資源利用率という)は、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが特に好ましい。
例えば、パルプ100gから、本発明の精製多糖類繊維を60g以上得ることができる。
本発明の精製多糖類繊維として、精製セルロース繊維を作製する場合、精製セルロース繊維を構成する全成分におけるセルロース成分の割合が98重量%以上でなくとも高い強力の繊維を得られることが明らかとなった。そのため、本発明によれば、資源利用率を高めることができる。
【0022】
精製多糖類繊維における強度と資源利用率との兼ね合いの観点から、精製多糖類繊維を構成する全成分中、ヘミセルロースの割合が0.1〜40重量%であることが好ましく、0.1〜20重量%であることがより好ましい。
【0023】
本発明において、セルロース等を含む多糖類原料を、極性溶媒またはイオン液体を含む液体に溶解する前に、イオン液体への溶解性を向上させる目的で多糖類原料に前処理を施すことができる。前処理として具体的には、乾燥処理や、粉砕、摩砕等の物理的粉砕処理や、酸又はアルカリを用いた化学的変性処理等を行うことができる。これらはいずれも常法により行うことができる。
【0024】
本発明において、用いられる極性溶媒は、多糖類、特に多糖類の中でも難溶なセルロースに溶媒和して溶解させる能力を備えるものであることが好ましい。
中でも分極率の高い溶媒が溶媒和する能力が高いと考えられる。分極の程度はニュートラルなapolar molecules(シクロヘキサン等)がμ≒0に対して、dipolar molecules(N−メチルモルフォリン−N−オキシドなど)ではμ=3〜6、zwitterionic moleculesではμ>10となる。ここで、μは、双極子モーメントを示す。
前記極性溶媒としては、双極子分子又は双性イオン分子が好ましく、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)がより好ましい。
【0025】
本発明において、イオン液体とは、100℃以下で液体であり、且つ、イオンのみからなり、カチオン部またはアニオン部、或いはその両方が有機イオンから構成される溶媒をいう。
【0026】
前記イオン液体は、カチオン部とアニオン部から成り、イオン液体のカチオン部としては、特に限定されるものではなく、一般的にイオン液体のカチオン部に用いられるものを使用することができる。
なかでも、本発明のイオン液体のカチオン部の好ましいものとしては、含窒素芳香族イオン、アンモニウムイオン、フォスフォニウムイオンが挙げられる。
【0027】
含窒素芳香族カチオンとして、具体的には、例えばピリジニウムイオン、ピリダジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、ピラジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピラゾニウムイオン、オキサゾリウムイオン、1,2,3−トリアゾリウムイオン、1,2,4−トリアゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン等が挙げられる。
なかでも、含窒素芳香族カチオンとしては、イミダゾリウムイオン、ピリミジニウムイオンが好ましく、下記一般式(C3)で表されるイミダゾリウムイオンがより好ましい。
【0028】
【化3】
[式中、R
6〜R
7は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数2〜10のアルケニル基であり、R
8〜R
10は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基である。]
【0029】
式(C3)中、R
6〜R
7は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数2〜10のアルケニル基である。
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
直鎖状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
分岐鎖状のアルキル基としては、具体的には、1−メチルエチル基、1,1−ジメチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基などが挙げられる。
環状のアルキル基としては、単環式基であっても、多環式基であってもよい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の単環式基;ノルボルニル基、アダマンチル基、イソボルニル基等の多環式基が挙げられる。
R
6〜R
7におけるアルキル基の炭素数は、1〜8であることが好ましい。
炭素数2〜10のアルケニル基としては、炭素数2〜10のアルキル基において、炭素−炭素間の一つの単結合を二重結合に置換したものが例示でき、好ましい例としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。尚、二重結合の位置は特に限定されない。
R
6〜R
7におけるアルケニル基の炭素数は、2〜8であることが好ましい。
また、R
6〜R
7は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0030】
式(C3)中、R
8〜R
10は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基である。
炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記R
6〜R
7のアルキル基と同様のものが挙げられる。
R
8〜R
10におけるアルキル基の炭素数は、1〜6であることが好ましく、1〜3であることがより好ましく、更にR
8〜R
10は水素原子であることが最も好ましい。
また、R
8〜R
10は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0031】
式(C3)で表されるイミダゾリウムイオンの好ましい具体例を、下記式(C1)として示す。
【0032】
【化4】
[式中、R
1は、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数2〜4のアルケニル基を示し、R
2は、水素原子又はメチル基を示し、R
3は、炭素数1〜8のアルキル基、又は炭素数2〜8のアルケニル基を示す。]
【0033】
また、式(C1)で表されるイミダゾリウムイオンの好ましい具体例を、下記式(C1−1)〜(C1−3)として示す。
【0035】
フォスフォニウムイオンとしては、「P
+」を有するものであれば特に限定されるものではなく、好ましいものとして具体的には、一般式「R
4P
+(複数のRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜30の炭化水素基である。)」で表されるものが挙げられる。
炭素数1〜30の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
脂肪族炭化水素基は、飽和炭化水素基(アルキル基)であることが好ましく、該アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。
直鎖状のアルキル基としては、炭素数が1〜20であることが好ましく、炭素数が1〜16であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。
分岐鎖状のアルキル基としては、炭素数が3〜30であり、炭素数が3〜20であることが好ましく、炭素数が3〜16であることがより好ましい。具体的には、1−メチルエチル基、1,1−ジメチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基などが挙げられる。
環状のアルキル基としては、炭素数が3〜30であり、炭素数が3〜20であることが好ましく、炭素数が3〜16であることがより好ましく、単環式基であっても、多環式基であってもよい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の単環式基、ノルボルニル基、アダマンチル基、イソボルニル基等の多環式基が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、炭素数が6〜30であることが好ましく、具体的には、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、トリル基等のアリール基や、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。
ここで、一般式「R
4P
+」中の複数のRは、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0036】
なかでも、フォスフォニウムイオンとしては、下記式(C4)で表されるカチオン部が好ましい。
【0037】
【化6】
[式中、R
11〜R
14は、それぞれ独立に、炭素数1〜16のアルキル基である。]
【0038】
式(C4)中、R
11〜R
14は、それぞれ独立に、炭素数1〜16のアルキル基である。 炭素数1〜16のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。ここで、直鎖状、分岐鎖状、環状のアルキル基としては、上記同様のものが挙げられる。
また、R
11〜R
14は、それぞれ同じであっても、異なっていてもよいが、入手の容易さから、R
11〜R
14の3つ以上が同じであることが好ましい。
【0039】
なかでも、本発明において、R
11〜R
14のアルキル基としては、炭素数1〜14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が特に好ましい。
式(C4)で表されるカチオン部の好ましい具体例を、下記式(C5)として示す。
【0041】
本発明において、前記カチオン部は、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、及びフォスフォニウムイオンからなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましい。
【0042】
本発明において、アニオン部としてハロゲンイオン、カルボキシレートイオン、ホスフィネートイオン、ホスフェートイオン、ホスホネイトイオンが挙げられる。
ハロゲンイオンとしては、クロライドイオン、ブロマイドイオン、ヨウダイドイオンが挙げられ、クロライドイオンが好ましい。
カルボキシレートイオンとしては、ホルメートイオン、アセテートイオン、プロピオネートイオン、ブチレートイオン、ヘキサノエートイオン、マレエートイオン、フマレートイオン、オキサレートイオン、レクテートイオン、ピルベートイオン等が挙げられ、ホルメートイオン、アセテートイオン、プロピオネートイオンが好ましい。
中でも、アニオン部がリン原子を含む化合物を有することが好ましく、下記一般式(C2)で表されるホスフィネートイオン、ホスフェートイオン、ホスホネイトイオンのいずれかであることがより好ましい。
【0043】
【化8】
[式中、X
1及びX
2はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基又は炭素数が1〜4のアルコキシ基を示す。]
ホスフェートイオンとしては、下記一般式(A1)で表されるものが挙げられる。
【0044】
【化9】
[式中、R
15及びR
16はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基である。]
【0045】
式(A1)中、R
15及びR
16はそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基であり、アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。R
15及びR
16のアルキル基の炭素数は、1〜10であることが好ましく、1〜6であることがより好ましく、1〜4であることがさらに好ましく、工業上の理由から炭素数1又は2のアルキル基であることが特に好ましい。
R
15と、R
16とは、同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
これらのホスフェートイオンの中で、ジメチルホスフェートイオン、ジエチルホスフェートイオンが好ましい。
【0047】
ホスホネイトイオンとしては、下記一般式(A2)で表されるものが挙げられる。
【0048】
【化10】
[式中、R
15は上記と同様である。]
【0049】
式(A2)中、R
15は、式(A1)中のR
15と同様である。
【0050】
これらのホスホネイトイオンの中で、メチルホスホネイトイオンが好ましい。
【0051】
ホスフィネートイオンは、下記式(A3)で表される。
【0053】
アニオン部がリン原子を含む化合物を有するイオン液体は、アニオン部をハロゲンイオンとした場合と比較して、その粘度及び融点が低い。このため、上記イオン液体を用いてセルロースを紡糸しやすいという点で優れている。
また、アニオン部がリン原子を含む化合物を有するイオン液体は、アニオン部をカルボキシレートイオンとした場合と比較して、繊維の分子量が低下しにくく、耐熱性が高い(すなわち、高温下において熱分解しにくい)。このため、上記イオン液体を用いて多糖類を紡糸する際に、紡糸温度を高くすることができる。その結果、より高い紡糸温度における精製多糖類繊維の生産性を確保することができる。例えば、アニオン部をカルボキシレートイオンとした場合、紡糸温度が130℃以上という条件下において、多糖類を紡糸する生産性が低下してしまう。しかしながら、アニオン部がリン原子を含む化合物である場合、紡糸温度が150℃という高熱条件下であっても、多糖類紡糸の生産性を維持することができる。
【0054】
さらに、上記アニオン部がリン原子を含む化合物を有するイオン液体を再利用した場合、再利用の収率が高い。一般的に、工業的に精製多糖類繊維を製造する場合、溶解液を固形化液体中に通して繊維化する際に流出するイオン液体はリサイクルされる。イオン液体のリサイクルは蒸留等で、イオン液体以外の液体成分を揮発させて行う。その際に、イオン液体に熱をかけるので、イオン液体が熱安定性を備えることは重要となり、イオン液体の熱安定性はリサイクルの収率に影響を与える。
したがって、アニオン部としてリン原子を含む化合物を用いることにより、精製多糖類繊維を連続的に生産するために必要なイオン液体量、イオン液体の生産に必要な物質及びエネルギーの増加を防ぐことができる。
【0055】
また、その他のアニオン部として擬ハロゲンイオンも挙げられる。擬ハロゲンイオンは、ハロゲンイオンの特性に類似した特性を有する。擬ハロゲンイオンとしては、シアネートイオン、オキソシアネートイオン、チオシアネートイオン、セレノシアネートイオン等が挙げられる。
【0056】
本発明におけるイオン液体は、上述したようなカチオン部とアニオン部とから構成される。カチオン部とアニオン部との組合せは、特に限定されるものではなく、セルロース原料を好適に溶解しうるものを適宜選択することができる。
好ましいイオン液体としては、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(AmimCl)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(C2mimAc)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(C2mimDEP)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルホスホネイト(C2mimMEP)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(C4mimAc)、又は1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホスフィネート(C2mim HPO)等が挙げられる。
後述するイオン液体を用いた多糖類の溶解方法により、多糖類の分子量低下の少ないイオン液体が明らかとなった。
繊維中の多糖類の分子量低下を抑制する観点から、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(C2mimAc)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(C2mimDEP)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルホスホネイト(C2mimMEP)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホスフィネート(C2mim HPO)がより好ましく、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(C2mimDEP)が特に好ましい。
【0057】
上記したイオン液体の粘度は、低いほうが好ましい。粘度が高いイオン液体を用いた場合、多糖類原料をイオン液体に溶解することが困難となる。多糖類原料の溶解が困難な場合、溶け残った多糖類原料が大量に生じるため、紡糸時にフィルターの目詰まりが生じる。その結果、生産性が低下する。また、上記した溶け残った多糖類原料は、繊維中に混入すると繊維の破壊核となる。その結果、繊維の品質が低下する。一方、粘度が低いイオン液体を用いた場合、多糖類原料をイオン液体に溶解する際、多糖類原料がイオン液体へよく浸透する。このため、イオン液体に多糖類を容易に溶解することができる。
【0058】
本発明において、イオン液体の使用量は特に限定されるものではないが、多糖類原料の濃度としては、3〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましい。多糖類濃度が低すぎる場合、固形化過程で抜けるイオン液体が多く、緻密な繊維となり難く、強力を出し難い。一方、多糖類濃度が高すぎる場合、多糖類を完全に溶解することができない。
【0059】
本発明において、多糖類原料を溶解する液体は、上記イオン液体を含むものである。 上記液体は、イオン液体以外の液体成分を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。イオン液体以外の液体成分として具体的には、有機溶媒が挙げられる。
【0060】
有機溶媒としては、イオン液体以外のものであれば特に限定されるものではなく、イオン液体との相溶性や、粘性等を考慮して適宜選択することができる。
なかでも、有機溶媒としては、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒、ニトリル系溶媒、環状エーテル系溶媒、及び芳香族アミン系溶媒からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0061】
アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。
スルホキシド系溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンスルホキシド等が挙げられる。
ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
環状エーテル系溶媒としては、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン等が挙げられる。
芳香族アミン系溶媒としては、ピリジン等が挙げられる。
【0062】
これらの有機溶媒を用いる場合、イオン液体と有機溶媒との配合質量比は、6:1〜0.1:1であることが好ましく、5:1〜0.2:1であることがより好ましく、4:1〜0.5:1であることがさらに好ましい。上記範囲とすることにより、多糖類原料を膨潤しやすい溶媒とすることができる。
また、有機溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、多糖類原料1質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましく、1〜25質量部であることが好ましく、3〜20質量部であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、適度な粘度の多糖類溶解液とすることができる。
上記のような有機溶媒を、イオン液体と併せて用いることにより、多糖類原料の溶解性がより向上するため好ましい。
【0063】
本発明において、多糖類原料を、イオン液体を含む液体に溶解する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、イオン液体を含む液体と、多糖類原料とを接触させ、必要に応じて加熱や攪拌を行うことにより、多糖類溶解液を得ることができる。
イオン液体を含む液体と、多糖類原料とを接触させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、イオン液体を含む液体に多糖類原料を添加してもよいし、セルロース原料にイオン液体を含む液体を添加してもよい。
溶解の際に加熱を行う場合、加熱温度は、30〜200℃であることが好ましく、70〜180℃であることがより好ましい。加熱を行うことにより、多糖類原料の溶解性がさらに向上するため好ましい。
攪拌の方法は、特に限定されるものではなく、攪拌子、攪拌羽根、攪拌棒等を用いてイオン液体を含む液体と多糖類原料とを機械的に攪拌してもよく、イオン液体を含む液体と多糖類原料とを密閉容器に封入し、容器を振とうすることにより攪拌してもよい。また、イオン液体を含む液体と多糖類原料とを一軸又は複数軸を有する押出機や混練機などによって溶解させてもよい。攪拌の時間は、特に限定されるものではなく、多糖類原料が好適に溶解されるまで行うことが好ましい。
【0064】
また、イオン液体を含む液体が、イオン液体に加えて有機溶媒を含む場合、有機溶媒とイオン液体とは、予め混合しておいてもよく、イオン液体と多糖類原料とを混合した後に、有機溶媒を添加して溶解してもよく、有機溶媒とセルロース原料とを混合した後に、イオン液体を添加して溶解してもよい。
なかでも、有機溶媒とイオン液体とを予め混合して混合液を製造しておくことが好ましい。この際、有機溶媒とイオン液体とが均一に混合されるよう、70〜180℃において5〜30分程度加熱しながら攪拌し、イオン液体を含む液体が均一になるまで混合しておくことが好ましい。
【0065】
上述したイオン液体を用いた多糖類の溶解方法は、イオン液体の粘度が非常に高いため、汎用性に乏しいという欠点を有している。
本発明者らは、用いるイオン液体の粘度が高いことによる問題点が、イオン液体のアニオンとして、ハロゲンイオンを用い、得られた多糖類溶解液をリチウム錯塩溶液で希釈することにより解消されることを見出した。
かかる方法によれば、イオン液体は、多糖類の多くを溶解することが可能である。多糖類として、セルロースをイオン液体に溶解させるには、80〜110℃で2〜8時間程度接触させればよい。より好ましくは、80〜90℃で3〜5時間程度である。
【0066】
次いで、得られた多糖類溶解液を、リチウム錯塩溶液を用いて希釈させる。これにより、イオン液体により水和された多糖類が、リチウムと錯体を形成し、溶媒に可溶となる。その結果、静置、振とうのみで希釈が可能となるため、作業が簡易化、短縮化される。また、かかる多糖類の溶解方法によれば、イオン液体の使用量を従来の1/100以下に減らすことができるため、コスト的に優れている。
【0067】
イオン液体のカチオンとしては、上述したイミダゾリウム骨格を有していることが好ましい。イミダゾリウム骨格を有するカチオンの具体例としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−n−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−n−ペンチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−n−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−n−オクチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−n−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム等のメチルイミダゾリウム骨格を有しているイオン液体のカチオンがより好ましく、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオンが特に好ましい。
【0068】
また、イオン液体のアニオンとしては、フロライドイオン、クロライドイオン、ブロマイドイオン、ヨウダイドイオン等のハロゲンイオンが好ましく、クロライドイオンがより好ましい。
【0069】
これらのアニオンとカチオンの組み合わせとしては、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドが好ましい。更に、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドとジメチルアセトアミドの混合液として用いること好ましい。これにより、イオン液体の粘度を減少させて、溶解性を向上させることができる。尚、多糖類、特にセルロースのイオン液体への溶解性を考慮すると、混合液中のジメチルアセトアミドの量は、25〜50質量%とすることが好ましい。
【0070】
また、多糖類溶解液の希釈に用いるリチウム錯塩溶液中のリチウム錯塩としては、リチウムフロライド、リチウムクロライド、リチウムブロマイド、リチウムヨウダイド等のハロゲン化リチウムが好ましい。これは、多糖類を溶解しているイオン液体が、リチウム錯塩によって置換され、リチウムイオン−多糖類水酸基の相互作用により溶解するためである。中でも、リチウムクロライドがより好ましい。
【0071】
また、リチウム錯塩溶液の溶媒としては、リチウムイオンと錯体を形成し、多糖類水酸基との相互作用により多糖類を溶解可能とする溶媒を用いることができるが、ジメチルアセトアミドが好ましい。リチウム錯塩溶液のリチウム錯塩濃度としては、0.5〜10質量%が好ましい。
【0072】
上記のようにして得られた多糖類溶解液を、前記多糖類溶解液以外の液体である固形化液体に接触させて、多糖類を固形化して、上記した乾湿式紡糸又は湿式紡糸により多糖類を紡糸することができる。
前記湿式紡糸又は乾湿式紡糸の紡糸法は、特に限定されず、公知の紡糸法により多糖類を紡糸することができる。
乾湿式紡糸とは、一般的に紡糸口金から一旦気体中に吐出された多糖類溶解液を、固形化液体を保持する固形化槽中に導入して、多糖類を紡糸する方法であり、湿式紡糸とは、固形化槽中に配した紡糸口金から吐出された多糖類を紡糸する方法である。
固形化槽とは、多糖類を固形化させるための前記固形化液体が保持された浴槽を意味する。かかる固形化液体としては、水、極性溶媒、及び上述したイオン液体からなる群から選ばれる一種以上が好ましく挙げられる。
極性溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、エタノール、メタノール、ギ酸等が挙げられる。
【0073】
上述したように、本発明の精製多糖類繊維は、極性溶媒又はイオン液体を含む液体を用いて得られるものであるため、ビスコース法のように化学反応を伴わずに製造される。そのため、製造工程において、繊維物性に悪影響を受けることがない。従って、本発明の精製多糖類繊維は、高強力を維持している。
また、イオン液体は、極性溶媒よりも溶解能が優れているため、イオン液体を用いて得られる精製多糖類繊維は、均一な繊維であり、更に高強力を維持している。
このようにして得られた精製多糖類繊維の強力TBは、5.1cN/dtex以上が好ましく、5.4cN/dtex以上がより好ましい。
【0074】
このような強力に優れた精製多糖類繊維を用いたゴム−繊維複合体をカーカスプライ、ベルトプライ、又はベルト保護層に使用することで、高性能のタイヤを得ることができる。なかでも、本発明のゴム−繊維複合体をカーカスプライに使用することが好ましく、耐圧性や耐サイドカット性に優れたタイヤを得ることができる。
また、カーカスプライ、ベルトプライ及びベルト保護層の少なくとも一方にゴム−繊維複合体を使用してもよいが、カーカスプライやベルトプライ又はベルト保護層の両方に使用することもできる。
【0075】
前記多糖類繊維から作製されるコードとしては、撚りを加えた1本のフィラメント束からなる片撚り構造、下撚りした2本のフィラメント束を上撚りにて合わせた双撚り構造が採用される。コード1本当たりの繊度としては、1400〜6000dtexが好ましく、1400〜4000dtexがより好ましい。1400dtex未満のコードを用いると、タイヤ強度を保つためにカーカスの枚数を増やす必要があり、タイヤ製造のコストアップにつながる。6000dtexを超えるコードを用いるとカーカス層の厚さが必要以上に増加してしまい、タイヤ重量の増加を招く。
【0076】
コードの撚り係数は、0.30〜0.80が好ましく、0.50〜0.70がより好ましい。
撚り係数tanθは、以下の式で求まる。
【0077】
【数1】
D:総デシテック数
P:コード比重
T:撚り数(回/cm)
【0078】
[繊維−ゴム複合体]
前記精製多糖類繊維をRFL(resolcin−formalin−latex)等の一般的な接着剤に浸漬して、ディップ処理し、乾燥工程及びベーキング工程からなる熱処理を行う。このようにして作製したディップコードをコーテイングゴム等のゴム材料と複合化し、繊維−ゴム複合体を作製する。
【0079】
本発明のゴム−繊維複合体に用いられるゴムは、例えば、天然ゴム(NR)、炭素−炭素二重結合を有する合成ゴム、又はこれらの2種以上をブレンドしたゴム組成物から得られる。
前記合成ゴムとしては、例えば、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン等の共役ジエン化合物の単独重合体であるポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリクロロプレンゴム等;前記共役ジエン化合物とスチレン、アクリロニトリル、ビニルピリジン、アクリル酸、メタクリル酸、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類等のビニル化合物との共重合体であるスチレンブタジエン共重合ゴム(SBR)、ビニルピリジンブタジエンスチレン共重合ゴム、アクリロニトリルブタジエン共重合ゴム、アクリル酸ブタジエン共重合ゴム、メタアクリル酸ブタジエン共重合ゴム、メチルアクリレートブタジエン共重合ゴム、メチルメタアクリレートブタジエン共重合ゴム等;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類とジエン化合物との共重合体〔例えばイソブチレンイソプレン共重合ゴム(IIR)〕;オレフィン類と非共役ジエンとの共重合体(EPDM)〔例えばエチレン−プロピレン−シクロペンタジエン三元共重合体、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン三元共重合体〕;さらに、これら各種ゴムのハロゲン化物、例えば塩素化イソブチレンイソプレン共重合ゴム(Cl−IIR)、臭素化イソブチレンイソプレン共重合ゴム(Br−IIR)等、ノルボルネンの開環重合体が挙げられる。
上記の合成ゴムにシクロオレフィンを開環重合させて得られるポリアルケナマー〔例えばポリペンテナマー〕、オキシラン環の開環重合によって得られるゴム〔例えば硫黄加硫が可能なポリエピクロロヒドリンゴム]、ポリプロピレンオキシドゴム等の飽和弾性体をブレンドすることができる。
【0080】
本発明で使用するゴム組成物には、硫黄、有機硫黄化合物、その他の架橋剤を、上記ゴム成分100質量部に、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部配合されてもよく、また加硫促進剤がゴム成分100質量部に、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.5〜5部配合してもよい。この場合、加硫促進剤の種類は限定されないが、ジベンゾチアジルサルファイド(DM)、ジフェニルグアニジン(D)などを用いることで加硫時間を短くすることができる。
また、本発明で使用するゴム組成物には、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系プロセスオイル、エチレン−α−オレフィンのコオリゴマー、パラフィンワックス、流動パラフィン等の鉱物油;ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油等の植物油などのオイルを配合してもよい。
さらに、本発明で使用するゴム組成物には、常法に従い、目的、用途などに応じてカーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、クレイ、マイカ等の充填剤;亜鉛華、ステアリン酸等の加硫促進助剤;老化防止剤等の、通常ゴム業界で使用される配合剤を添加してもよい。
【0081】
本発明のタイヤは、本発明のゴム−繊維複合体を用い、通常の成型、加硫工程を経ることで、作製できる。
【実施例】
【0082】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[マルチフィラメントの作製]
表1〜2に記載の原料(多糖類を含む原料)から、多糖類を精製した。セルロース及びヘミセルロースについては、クラフト法により精製した。キチンについては、カニなど甲殻類の外骨格を塩酸で脱灰処理し、アルカリで脱タンパク処理することにより精製した。
表1〜2に記載の原料から精製された多糖類を、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート(C2AmimAc)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(AminCl)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジエチルホスフェート(C2mimDEP)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムホスフィネート(C2mim HPO)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチルホスホネイト(C2mimMEP)、N−メチルモルフォリン−N−オキシド(NMMO)、又はメチルトリブチルホスホニウムクロライド(MBP Cl)と、ジメチルアセトアミド(DMAc)と、の混合液に溶解し、多糖類溶解液を得た。この多糖類溶解液を紡糸温度に加熱後、押出機にて固形化浴中に押し出し、洗浄、乾燥の工程を経て、表1〜2に示す実施例1〜
6、比較例1〜
6のマルチフィラメント(繊維)を得た。
【0084】
各実施例及び比較例におけるマルチフィラメント(繊維)の性状を、以下の試験方法で測定し、結果を表1〜2に示した。また、各実施例及び比較例におけるマルチフィラメント(繊維)中の各成分の重量%を表1〜2に示す。
【0085】
(1)繊度
繊維を100m採取し、130℃で30分乾燥させた後、乾燥したデシケーター中で室温になるまで放冷後、重量を測定した。10000mあたり1gが1dtexとなるため、100mの重量から繊度を算出した。
【0086】
(2)強力及び切断伸度
10cmあたり、4回の仮撚りをした繊維について、引張試験機を用いて、25℃、55%RH条件で引張試験を行った。強力は、破断強力を繊度で除したものであり、切断伸度は、破断時の伸度である。
【0087】
(3)資源利用率
実施例1〜
6、比較例1
〜6のマルチフィラメント(繊維)において、原料を100としたときに、得られた繊維の重量を資源利用率とした。
【0088】
[コードの作製]
得られたマルチフィラメントを下撚りした後、前記マルチフィラメントを2本合わせて上撚りしてコードを作製した。下撚り及び上撚りの回数を表1〜2に示した。
【0089】
[ディップコードの作製]
前記コードをRFL(resolcin−formalin−latex)接着剤に浸漬して、ディップ処理し、乾燥工程及びベーキング工程からなる熱処理を行った。乾燥工程は150℃×150秒間、1×10
−3N/dtexの張力で行った。ベーキング工程は乾燥工程と同温度、同時間、同張力で乾燥工程に引き続いて行い、ディップコードを作成した。
【0090】
[カーカスプライ材の作製]
前記ディップコードをコーテイングゴムでカレンダーし、カーカスプライ材を作製した。
【0091】
[タイヤの作製]
前記コーテイングゴムでトッピングしたディップコードを用いて、通常の成型、加硫工程を経て、185/60R14のタイヤを作成した。
【0092】
各実施例及び比較例におけるタイヤの性状を、以下の試験方法で測定し、結果を表1〜2に示した。
(1)ドラム耐久性
各実施例及び比較例におけるタイヤを25±2℃の室内でJIS規格の最大空気圧に調整してから24時間放置後、空気圧の再調整を行い、JIS規格の最大荷重の2倍の荷重をタイヤに負荷し、直径約1.7mのドラム上で速度60km/hで走行テストを行った。
この際の故障発生までの走行距離を測定し、比較例1のタイヤの故障発生までの走行距離を100として指数表示した。指数の大きい方が故障発生までの走行距離が長く、高荷重時の耐久性に優れていることを示す。
【0093】
表1〜2に示されるように、実施例1〜
6においては、用いた精製多糖類繊維の強力及び切断伸度が高く、結果として良好なタイヤ性能が得られた。
一方、比較例1においては、用いた精製多糖類繊維の強力及び切断伸度が低く、コード切断までのエネルギーが低いため、良好なタイヤ性能が得られなかった。更に、比較例1は、セルロースのみを主成分とするため資源利用率が低かった。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】