【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて、本発明の特徴と効果をさらに詳細に説明する。
【0023】
表1〜3に示す組成にて実施例1〜18、比較例1〜10の組成物を調製した。
調製方法
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩と(C)水を80℃で均一に混合し水相とする。
(B)高級アルコールと任意で油性成分を80℃で均一に混合し油相とする。
油相に水相を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けて液晶を形成させた液晶分散組成物を調製する。
(D)さらに水溶性高分子を配合する場合には、混合前に水相に添加する。カルボキシビニルポリマーなど中和が必要な(D)水溶性高分子を用いる場合には中和剤を添加して中和する。
(E)さらにモノグリセリン脂肪酸エステルを配合する場合には、混合前に油相に添加する。
グリセリンなどの多価アルコールを配合する場合には、混合前に油相に添加する。尚、(A)トコフェリルリン酸エステルの塩が分散した状態の(B)高級アルコールを含む油相(80℃)の中に、(C)水相(80℃)を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けても、液晶を形成させた液晶分散組成物は調製することができる。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
液晶形成の確認(偏光顕微鏡観察)、安定性の評価、安全性の評価(細胞毒性試験)
実施例と比較例の組成物を、下記に示す方法により測定、評価した。
【0028】
<液晶形成の確認>
調製した組成物について、偏光顕微鏡にて観察し、液晶を形成しているときに観察される特有の像である「マルタ十字架」(福島正二著、セチルルコールの物理化学、第68頁、
図6.2)の有無を確認し下記基準で判断した。
(基準)
◎:「マルタ十字架」が観察でき、菱形の粒子は観察されない
○:「マルタ十字架」が観察できるが、菱形の粒子がごく一部観察される
△:「マルタ十字架」が観察できるが、菱形の粒子も観察される
×:「マルタ十字架」が全く観察できない
尚、菱形の粒子は高級アルコールなどが結晶化したものと考えられ、実験中の何等かの影響により生じたものと思われるが、「マルタ十字架」が観察できたという観点から「◎、○、△」はすべて「液晶が形成した」と判断した。
【0029】
<安定性の評価>
調製した組成物を、それぞれ直径約3cmのガラス容器に充填し、25℃、40℃、50℃に30日間保存して、液晶組成物の安定性を以下の基準により目視と偏光顕微鏡により評価した。
(各温度での目視判定基準)
○:外観に異常がない
×:完全に分離している、または析出している
尚、表中の安定性の評価は、25℃、40℃、50℃のすべての保管温度において、○の評価になった場合にのみ○と記入した。調製したものに液晶形成が見られなかった組成物については安定性の観察・評価は行わなかった。表中では(−)と記載した。
(50℃で30日間保存した組成物の偏光顕微鏡による観察の判定基準)
○:「マルタ十字架」が残存している
×:「マルタ十字架」が消失している
尚、目視観察の結果、×の判定、つまり組成物に分離や析出が見られた場合は、偏光顕微鏡観察は行わなかった。表中では(−)と記載した。
【0030】
<安全性の評価(細胞毒性試験)>
正常ヒト線維芽細胞(新生児由来)を96wellプレートに播種し、CO
2インキュベーター内で培養した。コンフルエントの状態で培地を被験物質に置換し、細胞に曝露させた。CO
2インキュベーター内で24時間曝露後、生細胞がMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を吸収分解した際の生成物が発する青紫色の強度から細胞生存率を求めるMTTアッセイ法を用いて、細胞生存率からEC50(細胞が50%死滅する濃度)を求め細胞毒性を評価した。EC50値は、数値が高いほど細胞毒性が低いことを示す。
皮膚刺激性などの関係性が高いことから、皮膚への安全性を評価する指標となる。
【0031】
結果1
表1の実施例1〜3により、(A)トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、(B)高級アルコール(ベヘニルアルコール)および(C)水の3成分により、液晶が形成されることが確認できた。特に、(A)トコフェリルリン酸ナトリウムと(B)ベヘニルアルコールの配合比率が1:5〜2:5の時に、より多くの液晶が形成されていることが観察された。
【0032】
これに対して、トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、高級アルコール(ベヘニルアルコール)のいずれか一方の成分しか含まない比較例1、2の組成では、液晶が形成されなかった。比較例1は分離しており、比較例2はベヘニルアルコールの固形物が表面に浮いてしまった。比較例1、2の組成に水溶性高分子(カルボキシビニルポリマー)やモノグリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸グリセリル)を配合しても、液晶は形成されなかった(比較例3〜5)。比較例4、5の組成物は、ベヘニルアルコールと思われる固形の粒が析出していた。
【0033】
「非特許文献2:セチルアルコールの物理化学、福島正二著、フレグランスジャーナル社発行、第115頁〜第116頁、平成4年7月10日発行」には、「クリーム中にはD
2相(ラメラ液晶相)とM相(球晶)の2種類の液晶が生成し、(中略)。特に筆者らがD
2相と名付けた半固体のラメラ液晶は外(水)相に分散し、外水相をゲル化する。外水相をゲル化されると、乳化粒子は運動が阻害され、クリーミングも凝集も起こりにくくなる。M相と名付けた球晶は油粒子を包むような形でクリーム中に存在している。したがって、この相は油粒子の会合や拡散を妨げるであろう。」と記載されている。
実施例1、2は液晶の形成量(絶対量)が少なかったため、粘度が低くクリーミングを生じてしまった。しかし、実施例1の組成に、さらに(D)水溶性高分子(カルボキシビニルポリマー)を配合すると、組成物の粘度が高まり、高温(50℃)での安定性が良好になった(実施例4)。実施例1の処方に、さらに(E)モノグリセリン脂肪酸エステル(モノステアリン酸グリセリル)を配合した実施例5も、組成物の粘度が高まり、高温(50℃)での安定性が良好になった。実施例4、5の組成物は、50℃に保管して30日経過後にもマルタ十字架が観察でき、安定性が確認できた。
液晶分散組成物の経時安定性を確保しクリーミング発生を解消するためには、(D)水溶性高分子や(E)モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに配合することが有効であることが分かった。
【0034】
尚、本発明の液晶の形成量(絶対量)を増やせば外水相が十分にゲル化されるので、安定性は確保できるが、使用感との兼ね合いから(D)水溶性高分子や(E)モノグリセリン脂肪酸エステルをさらに配合してもよいことがわかった。
【0035】
結果2
次に、さらに多価アルコール(グリセリン)を高配合した表2の組成で、同様の実験を行った。多価アルコールを高配合したことにより、相対的に(C)水の配合量が減じられている。(C)水が比較的少ない系に於いても、(A)トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、(B)高級アルコール(ベヘニルアルコール)および(C)水の3成分により、液晶が形成されることが確認できた。特に、(A)トコフェリルリン酸ナトリウムと(B)ベヘニルアルコールの配合比率が1:5〜1:2の時に、より多くの液晶が形成されていることが観察された。実施例6〜16の本発明の液晶を含む液晶分散組成物は、25℃、40℃、50℃のいずれの保管温度に於いても30日後の観察で分離や析出等なく、液晶も残存しており安定性が良好であった。
【0036】
これに対して、トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、高級アルコール(ベヘニルアルコール)のいずれか一方の成分しか含まない比較例6〜9の組成では、液晶が形成されなかった。比較例9はベヘニルアルコールと思われる結晶の粒が析出した。
【0037】
結果3
表3は、高級アルコール(ベヘニルアルコール)と水と共に用いると液晶を形成することが公知の界面活性剤(ステアロイルメチルタウリンナトリウム)を、本発明の(A)成分に置き換えた組成で試作したものを比較例とし、得られた組成物の安定性と細胞毒性試験の結果を本発明の実施例と比較した結果を示す表である。実施例17、18の本発明の組成物は、液晶が形成され安定性に優れているだけでなく、比較例10の組成物よりも細胞毒性が低く、安全性が高い(皮膚刺激性が低くなる)ことが確認できた。
【0038】
実施例19〜22
表4に示す組成の(A)トコフェリルリン酸エステル塩、(B)高級アルコール、(C)水のみで形成された液晶組成物、実施例19〜22及び実施例3を調製し、液晶の安定性を確認した。
【0039】
調製方法
実施例1〜18の液晶の調製と同様に操作して液晶分散組成物を調製する。
(A)トコフェリルリン酸エステルの塩と(C)水を80℃で均一に混合し水相とする。
(B)高級アルコールを80℃で均一に混合し溶解させ油相とする。
得られた油相に水相を添加して混合し、水で冷却しながら室温まで撹拌を続けて液晶を形成させた。
【0040】
【表4】
【0041】
液晶形成の確認及び安定性の評価
(1)示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)による液晶形成の確認
液晶は結晶(固体)と液体の中間状態を持つ状態である。DSCのチャートは、個々の液晶固有の温度で相転換を起こし、その際の吸熱反応を単一の吸熱ピークの出現として観察することで、液晶形成を確認することができる。この手法は、偏光顕微鏡観察法より正確に液晶の形成を確認できる。
DSCの測定は、試料をセイコーインスツルナノテクノロジー社製熱流束型示差操作熱量計(DSC6200)を用いて10℃/分の昇温速度で測定する。
【0042】
(2)安定性の評価
得られた液晶組成物を、それぞれ直径約3cmのガラス容器に充填し、25℃、40℃の2条件に30日間保存して、液晶組成物の安定性を保存開始前の状態と比較して、目視と偏光顕微鏡による観察で評価した。
(各温度での目視判定基準)
○:外観に異常がない
×:完全に分離している
(40℃30日保存の判定基準)
○:「マルタ十字架」が残存している
×:「マルタ十字架」が消失している
【0043】
結果
表4に測定結果を示すとおり、(A)トコフェリルリン酸塩(トコフェリルリン酸ナトリウム)、(B)高級アルコール(ベヘニルアルコール)および(C)水の3成分のみで調製した組成物は、DSC測定で70.4℃〜72℃に液晶特有の吸熱ピークを有しており、典型的な液晶であることが確認できた。
図1に実施例19のDSC測定チャートを示す。典型的な液晶の吸熱反応を示すことが明らかである。また偏光顕微鏡観察でもマルタの十字が確認できた。
得られた液晶は、保存中の変化もなく安定な組成物であることが確認できた。
実施例19〜22、実施例3の組成物が安定であったことから、トコフェリルリン酸塩(A)と高級アルコール(B)が1:5〜1:1.6の範囲の比とすることが、安定な液晶含有組成物を調製するための基本的な組成の配合比率であるものと考えられる。
【0044】
本発明の「(A)トコフェリルリン酸エステルの塩、(B)高級アルコール、(C)水」で形成された液晶が分散した組成物は、安定性に優れていた。また、細胞毒性が低く、安全性が高い(皮膚刺激性が低い)ので、低刺激性であることが求められる化粧料や皮膚外用剤として有用である。また、皮膚の水分保持機能の亢進・維持、皮膚機能の改善・修復が期待でき、保湿化粧料への応用が期待できる。
【0045】
処方例1 保湿ゲル
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 62.3
4.カルボキシビニルポリマー 0.2
5.スクワラン 4
6.水酸化カリウム10%水溶液 0.1
7.グリセリン 20
8.ペンチレングリコール 1.5
9.1,3−ブチレングリコール
(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し、6を添加してpHを中和し、水相とする。2、5、7、8、9を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。
【0046】
処方例2 美白ゲル
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 72.4
4.キサンタンガム 0.1
5.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー
2
6.グリセリン 10
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5
9.アスコルビルグルコシド 2
(製法)
1、3、4、5を混合し80℃に加熱して溶解し、水相とする。2、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で撹拌して乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。3の一部に9を溶解させたものを加えて撹拌し美白ゲルとする。
【0047】
処方例3 美白ゲル
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 71.4
4.キサンタンガム 0.1
5.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー
2
6.グリセリン 10
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5
9.アルブチン 3
(製法)
1、3、4、5を混合し80℃に加熱して溶解し、水相とする。2、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で撹拌して乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。3の一部に9を溶解させたものを加えて撹拌し美白ゲルとする。
【0048】
処方例4 美容液
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 0.5
2.ベヘニルアルコール 1.2
3.精製水 67.3
4.(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー
1.5
5.スクワラン 3
6.グリセリン 20
7.ペンチレングリコール 1.5
8.1,3−ブチレングリコール 5
(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し水相とする。2、5、6、7、8を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で撹拌して乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。
【0049】
処方例5 マッサージパック
成分 配合量(質量%)
1.トコフェリルリン酸ナトリウム 2
2.ベヘニルアルコール 5
3.精製水 62.3
4.カルボキシビニルポリマー 0.2
5.モノステアリン酸グリセリル(自己乳化型) 2
6.スクワラン 4
7.水酸化カリウム10%水溶液 0.1
8.グリセリン 20
9.ペンチレングリコール 1.5
10.1,3−ブチレングリコール 5
(製法)
1、3、4を混合し80℃に加熱して溶解し、7を添加してpHを中和し、水相とする。2、5、7、8、9、10を80℃に加熱して溶解し、油相とする。油相に水相を添加して、手撹拌で乳化させ、その後撹拌しながら室温まで冷却する。