特許第5993670号(P5993670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5993670-ジケトン作用抑制剤 図000010
  • 特許5993670-ジケトン作用抑制剤 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993670
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】ジケトン作用抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/67 20060101AFI20160901BHJP
   A61K 31/665 20060101ALI20160901BHJP
   A61Q 15/00 20060101ALI20160901BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20160901BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160901BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   A61K8/67
   A61K31/665
   A61Q15/00
   A61Q5/00
   A61P17/00
   A61P43/00
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-197668(P2012-197668)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-51466(P2014-51466A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年2月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390011442
【氏名又は名称】株式会社マンダム
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 武史
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏
(72)【発明者】
【氏名】志水 弘典
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−029954(JP,A)
【文献】 特開2005−137868(JP,A)
【文献】 特開2007−198829(JP,A)
【文献】 特開平08−275997(JP,A)
【文献】 特開昭63−139114(JP,A)
【文献】 フレグランスジャーナル,2000年,第28巻第1号,第82〜88頁
【文献】 FRAGRANCE JOURNAL,フレグランスジャーナル社,1990年 7月15日,第18巻,第7号,p.22-26
【文献】 FRAGRANCE JOURNAL,フレグランスジャーナル社,1995年 6月15日,第23巻,第6号,p.24-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚常在微生物による一般式(I):
1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物の生成を抑制して当該ジケトン化合物の作用を抑制する用途に用いられるジケトン作用抑制剤であって、一般式(II):
【化1】
(式中、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜5の整数を示す)
で表わされる化合物および/またはその塩を含有してなり、前記ジケトン化合物の作用が、前記ジケトン化合物に起因する頭部におけるアブラ臭の発生または生体に接触した被接触物もしくはヒトの居住空間における前記ジケトン化合物に起因する前記アブラ臭であることを特徴とするジケトン作用抑制剤。
【請求項2】
前記一般式(II)で表わされる化合物が、[(5R)−5−[(1S)−1,2−ジヒドロキシエチル]−2−ヒドロキシ−4−オキソフラン−3−イル][(2R)−2,5,7,8−テトラメチル−2−[(4R,8R)−4,8,12−トリメチルトリデシル]−3,4−ジヒドロクロメン−6−イル]ハイドロジェンホスフェートおよび/またはその塩である請求項1に記載のジケトン作用抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジケトン作用抑制剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、ジケトン化合物の作用に起因する事象を抑制するのに適した外用剤、医薬部外品、医薬品、雑貨などに有用なジケトン作用抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トランス−3−メチル−2−ヘキセン酸などの短鎖脂肪酸、アンドロステノン(5α−16−アンドロステン−3−オン)などの揮発性ステロイド類、酢酸、プロピオン酸などの脂肪酸などの化合物は、生体、特に、ヒトの腋窩部、頭部などで生成され、腋臭、頭部臭などの発生などの事象を引き起こす原因となることが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2および非特許文献1参照)。しかしながら、これらの化合物の生成を抑制しても、前記事象を十分に抑制することができないことがある。
【0003】
また、本発明者らは、現時点では、生体におけるジケトン化合物の作用や当該ジケトン化合物の作用に起因する事象を具体的に記載した文献を発見していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−062159号公報
【特許文献2】特開2001−220593号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本化学会編、「味とにおいの分子認識」、季刊化学総説、学会出版センター、1999年3月発行、第40巻、p.205−211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、ジケトン化合物の作用を効果的に抑制することができるジケトン作用抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)一般式(I):
1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物の作用を抑制するジケトン作用抑制剤であって、一般式(II):
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜5の整数を示す)
で表わされる化合物および/またはその塩を含有することを特徴とするジケトン作用抑制剤、ならびに
(2)前記一般式(II)で表わされる化合物が、[(5R)−5−[(1S)−1,2−ジヒドロキシエチル]−2−ヒドロキシ−4−オキソフラン−3−イル][(2R)−2,5,7,8−テトラメチル−2−[(4R,8R)−4,8,12−トリメチルトリデシル]−3,4−ジヒドロクロメン−6−イル]ハイドロジェンホスフェートおよび/またはその塩である前記(1)に記載のジケトン作用抑制剤
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のジケトン作用抑制剤は、ジケトン化合物の作用を効果的に抑制することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例2において、被験試料とにおい強度との関係を調べた結果を示すグラフである。
図2】試験例3において、被験試料とジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のジケントン作用抑制剤は、一般式(I):
1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物の作用を抑制するジケトン作用抑制剤であって、一般式(II):
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜5の整数を示す)
で表わされる化合物および/またはその塩を含有することを特徴とする。
【0015】
一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、生体、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間における一般式(I)で表されるジケトン化合物の生成を抑制する性質を有する。したがって、本発明のジケントン作用抑制剤は、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩を含有しているので、生体、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間における一般式(I)で表わされるジケトン化合物の作用を効果的に抑制することができる。
【0016】
また、ヒトの皮膚、とりわけ腋窩部および頭部では、皮膚常在微生物による前記ジケトン化合物の生成が、腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生と関連していると考えられる。一方、ヒトの皮膚上におけるこれらの皮膚常在微生物の存在バランスは、皮膚のバリア機能を維持するために重要であると考えられる。一般式(II)で表わされる化合物およびその塩は、生体、とりわけヒトの皮膚を守っていると考えられる皮膚常在微生物に対して殺微生物作用を示さないので、本発明のジケトン作用抑制剤は、ヒトの皮膚上における皮膚常在微生物の存在バランスを崩さずに皮膚のバリア機能を良好に維持しつつ、前記ジケトン化合物の生成を抑制してヒトの皮膚上における前記ジケトン化合物の作用を抑制することができる。
【0017】
前記皮膚常在微生物としては、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。スタフィロコッカス・オウレウスとしては、例えば、Staphylococcus aureus NBRC13276などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、スタフィロコッカス・エピデルミディスとしては、例えば、Staphylococcus epidermidis IAM1296などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスは、遺伝学上近縁種であって、ジケトン化合物の産生能を有する種であってもよい。
【0018】
前記ジケトン化合物の作用としては、例えば、体臭、特に腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生、生体に接触した被接触物またはヒトの居住空間における前記酸臭およびアブラ臭と同様のにおいの発生などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0019】
ここで、本明細書において、「頭部」の概念には、頭皮および頭髪が含まれる。さらに、本明細書において、「アブラ臭」とは、古くなった油のにおいに似ており、発酵したようなにおいをいう。また、本明細書において、「酸臭」とは、蒸れたような酸っぱいにおいをいう。
【0020】
また、本明細書において、「ジケトン化合物の作用の抑制」の概念には、生体(特に、ヒトの皮膚など)、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間におけるジケトン化合物の生成を抑制することおよび/または生体、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間に存在するジケトン化合物を除去してその量を低減させることにより、生体、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間におけるジケトン化合物の作用を抑制することが包含される。被接触物としては、例えば、衣類、寝具などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、居住空間としては、例えば、室内空間、自動車などの車内空間などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
一般式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基である。前記アルキル基の炭素数は、生体におけるジケトン化合物の作用に起因する事象、例えば、腋窩部における酸臭、頭部におけるアブラ臭などへの影響が大きいことから、1〜4であるが、好ましくは1〜3、より好ましくは1または2、特に好ましくは1である。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、生体におけるジケトン化合物の作用に起因する事象、例えば、腋窩部における酸臭、頭部におけるアブラ臭などへの影響が大きいことから、メチル基が好ましい。
【0022】
前記ジケトン化合物としては、例えば、ジアセチル、2,3−ペンタンジオン、2,3−ヘキサンジオンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記ジケトン化合物のなかでは、生体におけるジケトン化合物の作用に起因する事象、例えば、腋窩部における酸臭、頭部におけるアブラ臭などへの影響が大きいことから、ジアセチルおよび2,3−ペンタンジオンが好ましく、ジアセチルがより好ましい。
【0023】
一般式(II)において、R3、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基である。前記炭化水素基の炭素数は、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、1〜20である。
【0024】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。置換基としては、例えば、炭素数6〜12のアリール基、炭素数1〜4のアルコキシ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0025】
前記アルキル基の炭素数は、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、1〜20、好ましくは1〜18、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜8、特に好ましくは1である。炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロへキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルキル基のなかでは、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、メチル基が好ましい。
【0026】
前記アシル基の炭素数は、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、2〜20、好ましくは2〜18、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜8である。炭素数2〜20のアシル基としては、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、オクタデカノイル基、ノナデカノイル基、エイコシル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアシル基のなかでは、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、エタノイル基が好ましい。
【0027】
一般式(II)において、R6およびR7は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。前記アルキル基の炭素数は、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、1〜6であるが、好ましくは1〜4、より好ましくは1または2、特に好ましくは1である。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。一般式(II)で表わされる化合物は、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、R6がメチル基であり、かつR7がメチル基である構造、R6が水素原子であり、かつR7がメチル基である構造、R6がメチル基であり、かつR7が水素原子である構造、またはR6が水素原子であり、R7が水素原子である構造を有することが好ましく、R6がメチル基であり、かつR7がメチル基である構造を有することがより好ましい。
【0028】
一般式(II)において、nは、十分なジケトン作用抑制効果を得る観点から、1〜5の整数であるが、好ましくは1〜4の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは3である。
【0029】
前記化合物の塩としては、例えば、前記化合物のアルカリ金属塩、前記化合物のアルカリ土類金属塩などの前記化合物の無機塩;前記化合物の有機アミン塩などの前記化合物の有機塩が挙げられる本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。アルカリ土類金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。有機アミン塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記塩を水、アルコール、アルコール溶液などの溶媒に溶解させて用いる場合、当該溶媒に対する溶解性を高める観点から、前記塩は、好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはナトリウム塩およびカリウム塩、さらに好ましくはカリウム塩である。
【0030】
一般式(II)で表わされる化合物およびその塩は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明のジケトン作用抑制剤は、一般式(II)で表わされる化合物またはその塩以外の物質を含まない剤型であってもよく、溶媒に一般式(II)で表わされる化合物またはその塩を混合した液剤の剤型であってもよい。前記溶媒としては、例えば、水、アルコール、アルコールの水溶液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
本発明のジケトン作用抑制剤が前記液剤である場合、本発明のジケトン作用抑制剤における一般式(II)で表わされる化合物の含有量は、前記ジケトン化合物の作用をより効果的に抑制する観点から、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、使用時における取り扱いの容易性の観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0033】
なお、本発明のジケトン作用抑制剤を用いる場合、適用箇所との接触時の当該ジケトン作用抑制剤の使用量は、ジケトン作用抑制剤の用途に応じて異なるので一概には決定することができないことから、ジケトン作用抑制剤の用途に応じて適宜設定することが好ましい。
【0034】
本発明のジケトン作用抑制剤は、必要により、例えば、一般式(II)で表わされる化合物による前記ジケトン化合物抑制性を十分に発現するための助剤などを含有していてもよい。
【0035】
本発明のジケトン作用抑制剤は、生体(特にヒトの皮膚)における前記ジケトン化合物の作用を効果的に抑制することができるため、例えば、ジケトン化合物の作用に起因する体臭の抑制などに好適に用いることができる。
【0036】
以上説明したように、本発明のジケトン作用抑制剤は、生体(特に、ヒトの皮膚など)、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間におけるジケトン化合物の生成の抑制および/または生体、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間に存在するジケトン化合物の量の低減により、生体、当該生体と接触した被接触物またはヒトの居住空間におけるジケトン化合物の作用を抑制することができることから、ジケトン化合物の作用に起因する事象を抑制するのに適した外用剤、医薬部外品、医薬品、雑貨などの開発などに有用である。
【実施例】
【0037】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1および比較例1〜4)
基本培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%および残部水)に、被験物質と、乳酸ナトリウムとを、被験試料の濃度が0.0005質量%および乳酸ナトリウムの濃度が2mMとなるように添加し、培地を得た。
【0039】
前記被験物質として、[(5R)−5−[(1S)−1,2−ジヒドロキシエチル]−2−ヒドロキシ−4−オキソフラン−3−イル][(2R)−2,5,7,8−テトラメチル−2−[(4R,8R)−4,8,12−トリメチルトリデシル]−3,4−ジヒドロクロメン−6−イル]ハイドロジェンホスフェートのカリウム塩〔一般式(II)において、R3、R4およびR5が水素原子、R6がメチル基ならびにR7がメチル基である化合物のカリウム塩(以下、「化合物A」ともいう)〕〔千寿製薬(株)製、商品名:EPC(SENJU)〕(実施例1)、(2R)−2,5,7,8−テトラメチル−2−[(4R,8R)−4,8,12−トリメチルトリデシル]−3,4−ジヒドロクロメン−6−オール〔式(III):
【0040】
【化3】
【0041】
で表わされる化合物(以下、「化合物B」ともいう)〕〔和光純薬(株)製、商品名:(±)−α−トコフェロール〕(比較例1)、(2R)−2−[(1S)−1,2−ジヒドロキシエチル]−3,4−ジヒドロキシ−2H−フラン−5−オン〔式(IV):
【0042】
【化4】
【0043】
で表わされる化合物(以下、「化合物C」ともいう)〕〔和光純薬(株)製、商品名:L(+)―アスコルビン酸〕(比較例2)または化合物Bと化合物Cとの混合物〔化合物B/化合物C(モル比)が50/50〕(比較例3)または4−(1−メチルエチル)−3−メチル−フェノール(以下、「化合物D」ともいう)(比較例4)を用いた。また、乳酸は、一般式(I)で表わされるジケトン化合物の1つであるジアセチルの前駆体であると考えられる物質である。
【0044】
(試験例1)
腋窩部における酸臭を有するヒトおよび頭部におけるアブラ臭を有するヒトにおいて、それぞれ、腋窩部におけるジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成および頭部におけるジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成がみられたことから、ジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成と腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭と関連していることが確認された。また、かかるジアセチルは、皮膚常在微生物などによって乳酸(本試験例では、乳酸ナトリウム)から生成されることが確認された。
【0045】
また、皮膚常在微生物のなかでも、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)は、特にジアセチル産生能に優れることが確認された。そこで、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)による乳酸(本試験例では、乳酸ナトリウム)からのジアセチルの生成の有無を指標として用い、前記化合物A〜Dおよび前記化合物Bと化合物Cとの混合物それぞれが体臭を抑制することができるかどうかを調べた。まず、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)をその濃度が1×107CFU/mLとなるように、実施例1および比較例1〜4それぞれで得られた培地に添加し、36℃で6時間、210rpmで振盪させながら培養した。
【0046】
得られた培養物のうち、培養物0.2mLを採取した。採取された培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化した後、得られた産物をメンブランフィルターで濾過して濾液を得た。得られた濾液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、濾液中に含まれるジアセチルの量(被験物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。ジアセチルの量の測定の際のHPLC測定条件は、以下のとおりである。
【0047】
〔ジアセチルの量の測定の際のHPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC社製、商品名:Hydrosphere C18
(カラムの大きさ:250mm×4.6mm)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0048】
また、実施例1および比較例1〜4それぞれで得られた培地の代わりに、滅菌水(対照物質)と、乳酸ナトリウムとを滅菌水の濃度が1.0質量%および乳酸ナトリウムの濃度が2mMとなるように基本培地に添加された対照培地を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、濾液中に含まれるジアセチルの量(対照物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。
【0049】
その後、式(V):
【0050】
【数1】
【0051】
にしたがって、ジアセチル生成抑制率を算出した。算出されたジアセチル生成抑制率を用い、下記評価基準にしたがい、各被験試料のジアセチル生成抑制作用を評価した。
【0052】
〔ジアセチル生成抑制作用の評価基準〕
◎: ジアセチル生成抑制率が75%以上100%以下である(ジアセチル生成抑制作用が非常に強い)。
○: ジアセチル生成抑制率が50%以上75%未満である(ジアセチル生成抑制作用が強い)。
△: ジアセチル生成抑制率が20%以上50%未満である(ジアセチル生成抑制作用が弱い)。
×: ジアセチル生成抑制率が20%未満である(ジアセチル生成抑制作用が非常に弱い)。
【0053】
また、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)をその濃度が1×107CFU/mLとなるように、実施例1〜3および比較例1〜6それぞれで得られた培地または対照培地に添加し、36℃で6時間、210rpmで振盪させながら培養し、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)の生菌数を測定した。
【0054】
その後、式(VI):
【0055】
【数2】
【0056】
にしたがって、生菌率を算出した。算出された生菌率を用い、下記評価基準にしたがい、皮膚常在微生物への各被験試料の影響を評価した。
【0057】
〔皮膚常在微生物への影響の評価基準〕
◎: 生菌率が75%以上100%以下である(皮膚常在微生物への影響が非常に小さい)。
○: 生菌率が50%以上75%未満である(皮膚常在微生物への影響が小さい)。
△: 生菌率が20%以上50%未満である(皮膚常在微生物への影響が大きい)。
×: 生菌率が20%未満である(皮膚常在微生物への影響が非常に大きい)。
【0058】
試験例1において、ジアセチル生成抑制作用および皮膚常在微生物への影響を調べた結果を表1に示す。表中、「S.aureus」はスタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)、「S.epidermidis」はスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)を示す。また、表中、「−」は、評価していないことを示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示された結果から、実施例1で得られた培地は、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)によるジアセチル生成およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)によるジアセチル生成を強く抑制することがわかる。また、実施例1で得られた培地は、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)に対して殺微生物作用を示さず、皮膚常在微生物への影響が小さいことがわかる。これらの結果から、化合物A(実施例1)によれば、皮膚常在微生物によるジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成を抑制することができ、しかも皮膚における皮膚常在微生物の存在バランスを崩さずに皮膚のバリア機能を良好に維持することができることがわかる。なお、腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭は、前記のように、ジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成と関連していることが確認されたことから、化合物A(実施例1)に代表される一般式(II)で表わされる化合物によれば、ジケトン化合物に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を抑制することができることが示唆される。
【0061】
一般式(II)で表わされる化合物およびその塩のうち前記化合物A以外の化合物およびその塩を用いた場合にも、化合物Aと同様の傾向が見られる。
【0062】
これに対して、比較例1〜4それぞれで得られた培地を用いたときのジアセチル生成抑制率は20%未満であることがわかる。これらの結果から、化合物Aの構造の一部分である化合物B、化合物Aの構造の一部分である化合物C、化合物Bと化合物Cとの混合物および一般的に皮膚外用材の殺菌成分として用いられる化合物Dでは、皮膚常在微生物による皮膚上でのジアセチルの生成を抑制することができず、体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を十分に抑制することができないことが示唆される。
【0063】
したがって、これらの結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩によれば、皮膚における皮膚常在微生物の存在バランスを崩さずに皮膚のバリア機能を良好に維持しつつ、一般式(I)で表わされるジケトン化合物の生成を抑制することができ、当該ジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を抑制することができることが示唆される。
【0064】
(実施例2)
化合物A〔千寿製薬(株)製、商品名:EPC(SENJU)〕をその濃度が0.2質量%となるように滅菌水に溶解させ、被験試料を得た。
【0065】
(試験例2)
被験者6人の腋窩を無香料石鹸で洗浄した。その後、無臭化した綿製シートを腋窩部に貼り付けたTシャツを各被験者に着用させ、綿製シートを被験者の腋窩部に接触させた。Tシャツの着用開始から18時間経過後、各被験者に運動を行わせて発汗させた。その後、各被験者のTシャツから綿製シートを回収した。
【0066】
得られた綿製シートに実施例2で得られた被験試料約1.0mLを噴霧する。噴霧後の綿製シートの半分を、35℃、20時間インキュベーションする。その後、専門パネル3人に、綿製シートから発生した臭気を評価させる。におい強度の評価基準は、以下のとおりである。
【0067】
〔におい強度の評価基準〕
0点:におわない
1点:かすかににおう
2点:弱くにおう
3点:はっきりにおう
4点:やや強くにおう
5点:かなり強くにおう
【0068】
また、実施例2で得られた被験試料の代わりに、プラセボの被験試料としての滅菌水を用いることを除き、前記と同様の操作を行ない、綿製シートから発生した臭気を評価させた。
【0069】
試験例2において、被験試料とにおい強度との関係を調べた結果を図1に示す。図中、レーン1はプラセボの被験試料、レーン2は実施例2で得られた被験試料を示す。
【0070】
図1に示された結果から、化合物Aを含有する被験試料を用いた場合(実施例2)、綿製シートから発生する臭気が低減することわかる。なお、化合物Aを含有する被験試料(実施例2)を用いたときの綿製シートと、プラセボの被験試料を用いたときの綿製シートとの間のにおい強度差について、ウィルコクソン符号順位検定を行なったところ、統計学的に有意な差であることが確認された。
【0071】
また、腋窩部における臭気、特に酸臭と同様に、頭部におけるアブラ臭も、ジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成と関連していることから、化合物Aによれば、頭部におけるアブラ臭も低減させることができることが示唆される。
【0072】
なお、一般式(II)で表わされる化合物およびその塩のうち前記化合物A以外の化合物およびその塩を用いた場合にも、化合物Aと同様の傾向が見られる。
【0073】
したがって、これらの結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、一般式(I)で表わされるジケトン化合物の生成を抑制することができ、当該ジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生の抑制に有用であることが示唆される。
【0074】
(試験例3)
試験例2で得られた各綿製シートをヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れた。つぎに、固相マイクロ抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露する。
【0075】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着したジアセチルを分析する。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0076】
〔分析条件〕
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :−10℃(3分間維持)、−10℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃から280℃までの昇温(昇温速度10℃)および280℃で3分間維持
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0077】
試験例3において、被験試料とジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を図2に示す。図中、レーン1はプラセボの被験試料、レーン2は実施例2で得られた被験試料を示す。
【0078】
図2に示された結果から、化合物Aを含有する被験試料(実施例2)を噴霧した綿製シートにおけるジアセチルの量は、プラセボの被験試料を噴霧した綿製シートにおけるジアセチルの量と比較して、有意に減少することが示される。なお、一般式(II)で表わされる化合物およびその塩のうち前記化合物A以外の化合物およびその塩を用いた場合にも、化合物Aと同様の傾向が見られる。
【0079】
したがって、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、皮膚上におけるジアセチルに代表される一般式(I)で表わされるジケトン化合物の生成を抑制することができ、当該ジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を抑制することができることが示唆される。
【0080】
これらの結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、生体、特に皮膚上でのジアセチルに代表されるジケトン化合物の作用の抑制ならびにジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生の抑制に有用であることが示唆される。
【0081】
また、生体、特にヒトの皮膚に接触した衣類および枕カバーなどの寝具においても、生体、特にヒトの皮膚上に存在する乳酸などのジケトン化合物の前駆体および皮膚常在微生物が付着し、当該皮膚常在微生物によってジケトン化合物が生成されるか、あるいは生体、特に皮膚上で生成されたジケトン化合物が付着することが考えられる。さらに、ヒトの居住空間においても、生体、特にヒトの皮膚上に存在する乳酸などのジケトン化合物の前駆体および皮膚常在微生物が飛散し、当該皮膚常在微生物によってジケトン化合物が生成されるか、あるいは生体、特にヒトの皮膚上で生成されたジケトン化合物が飛散することが考えられる。したがって、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、生体(特にヒトの皮膚)に接触した衣類、生体(特にヒトの皮膚)に接触した枕カバーなどの寝具などの被接触物およびヒトの居住空間におけるジケトン化合物の作用の抑制ならびに体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭と同様のにおいの発生の抑制に有用であることが示唆される。
【0082】
以上の結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、ジケトン作用抑制剤および体臭抑制剤として有用であることが示唆される。
図1
図2