【実施例】
【0037】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1および比較例1〜4)
基本培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%および残部水)に、被験物質と、乳酸ナトリウムとを、被験試料の濃度が0.0005質量%および乳酸ナトリウムの濃度が2mMとなるように添加し、培地を得た。
【0039】
前記被験物質として、[(5R)−5−[(1S)−1,2−ジヒドロキシエチル]−2−ヒドロキシ−4−オキソフラン−3−イル][(2R)−2,5,7,8−テトラメチル−2−[(4R,8R)−4,8,12−トリメチルトリデシル]−3,4−ジヒドロクロメン−6−イル]ハイドロジェンホスフェートのカリウム塩〔一般式(II)において、R
3、R
4およびR
5が水素原子、R
6がメチル基ならびにR
7がメチル基である化合物のカリウム塩(以下、「化合物A」ともいう)〕〔千寿製薬(株)製、商品名:EPC(SENJU)〕(実施例1)、(2R)−2,5,7,8−テトラメチル−2−[(4R,8R)−4,8,12−トリメチルトリデシル]−3,4−ジヒドロクロメン−6−オール〔式(III):
【0040】
【化3】
【0041】
で表わされる化合物(以下、「化合物B」ともいう)〕〔和光純薬(株)製、商品名:(±)−α−トコフェロール〕(比較例1)、(2R)−2−[(1S)−1,2−ジヒドロキシエチル]−3,4−ジヒドロキシ−2H−フラン−5−オン〔式(IV):
【0042】
【化4】
【0043】
で表わされる化合物(以下、「化合物C」ともいう)〕〔和光純薬(株)製、商品名:L(+)―アスコルビン酸〕(比較例2)または化合物Bと化合物Cとの混合物〔化合物B/化合物C(モル比)が50/50〕(比較例3)または4−(1−メチルエチル)−3−メチル−フェノール(以下、「化合物D」ともいう)(比較例4)を用いた。また、乳酸は、一般式(I)で表わされるジケトン化合物の1つであるジアセチルの前駆体であると考えられる物質である。
【0044】
(試験例1)
腋窩部における酸臭を有するヒトおよび頭部におけるアブラ臭を有するヒトにおいて、それぞれ、腋窩部におけるジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成および頭部におけるジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成がみられたことから、ジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成と腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭と関連していることが確認された。また、かかるジアセチルは、皮膚常在微生物などによって乳酸(本試験例では、乳酸ナトリウム)から生成されることが確認された。
【0045】
また、皮膚常在微生物のなかでも、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)は、特にジアセチル産生能に優れることが確認された。そこで、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)による乳酸(本試験例では、乳酸ナトリウム)からのジアセチルの生成の有無を指標として用い、前記化合物A〜Dおよび前記化合物Bと化合物Cとの混合物それぞれが体臭を抑制することができるかどうかを調べた。まず、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)をその濃度が1×10
7CFU/mLとなるように、実施例1および比較例1〜4それぞれで得られた培地に添加し、36℃で6時間、210rpmで振盪させながら培養した。
【0046】
得られた培養物のうち、培養物0.2mLを採取した。採取された培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化した後、得られた産物をメンブランフィルターで濾過して濾液を得た。得られた濾液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、濾液中に含まれるジアセチルの量(被験物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。ジアセチルの量の測定の際のHPLC測定条件は、以下のとおりである。
【0047】
〔ジアセチルの量の測定の際のHPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC社製、商品名:Hydrosphere C18
(カラムの大きさ:250mm×4.6mm)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0048】
また、実施例1および比較例1〜4それぞれで得られた培地の代わりに、滅菌水(対照物質)と、乳酸ナトリウムとを滅菌水の濃度が1.0質量%および乳酸ナトリウムの濃度が2mMとなるように基本培地に添加された対照培地を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、濾液中に含まれるジアセチルの量(対照物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。
【0049】
その後、式(V):
【0050】
【数1】
【0051】
にしたがって、ジアセチル生成抑制率を算出した。算出されたジアセチル生成抑制率を用い、下記評価基準にしたがい、各被験試料のジアセチル生成抑制作用を評価した。
【0052】
〔ジアセチル生成抑制作用の評価基準〕
◎: ジアセチル生成抑制率が75%以上100%以下である(ジアセチル生成抑制作用が非常に強い)。
○: ジアセチル生成抑制率が50%以上75%未満である(ジアセチル生成抑制作用が強い)。
△: ジアセチル生成抑制率が20%以上50%未満である(ジアセチル生成抑制作用が弱い)。
×: ジアセチル生成抑制率が20%未満である(ジアセチル生成抑制作用が非常に弱い)。
【0053】
また、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)をその濃度が1×10
7CFU/mLとなるように、実施例1〜3および比較例1〜6それぞれで得られた培地または対照培地に添加し、36℃で6時間、210rpmで振盪させながら培養し、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)またはスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)の生菌数を測定した。
【0054】
その後、式(VI):
【0055】
【数2】
【0056】
にしたがって、生菌率を算出した。算出された生菌率を用い、下記評価基準にしたがい、皮膚常在微生物への各被験試料の影響を評価した。
【0057】
〔皮膚常在微生物への影響の評価基準〕
◎: 生菌率が75%以上100%以下である(皮膚常在微生物への影響が非常に小さい)。
○: 生菌率が50%以上75%未満である(皮膚常在微生物への影響が小さい)。
△: 生菌率が20%以上50%未満である(皮膚常在微生物への影響が大きい)。
×: 生菌率が20%未満である(皮膚常在微生物への影響が非常に大きい)。
【0058】
試験例1において、ジアセチル生成抑制作用および皮膚常在微生物への影響を調べた結果を表1に示す。表中、「S.aureus」はスタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)、「S.epidermidis」はスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)を示す。また、表中、「−」は、評価していないことを示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示された結果から、実施例1で得られた培地は、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)によるジアセチル生成およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)によるジアセチル生成を強く抑制することがわかる。また、実施例1で得られた培地は、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)に対して殺微生物作用を示さず、皮膚常在微生物への影響が小さいことがわかる。これらの結果から、化合物A(実施例1)によれば、皮膚常在微生物によるジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成を抑制することができ、しかも皮膚における皮膚常在微生物の存在バランスを崩さずに皮膚のバリア機能を良好に維持することができることがわかる。なお、腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭は、前記のように、ジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成と関連していることが確認されたことから、化合物A(実施例1)に代表される一般式(II)で表わされる化合物によれば、ジケトン化合物に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を抑制することができることが示唆される。
【0061】
一般式(II)で表わされる化合物およびその塩のうち前記化合物A以外の化合物およびその塩を用いた場合にも、化合物Aと同様の傾向が見られる。
【0062】
これに対して、比較例1〜4それぞれで得られた培地を用いたときのジアセチル生成抑制率は20%未満であることがわかる。これらの結果から、化合物Aの構造の一部分である化合物B、化合物Aの構造の一部分である化合物C、化合物Bと化合物Cとの混合物および一般的に皮膚外用材の殺菌成分として用いられる化合物Dでは、皮膚常在微生物による皮膚上でのジアセチルの生成を抑制することができず、体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を十分に抑制することができないことが示唆される。
【0063】
したがって、これらの結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩によれば、皮膚における皮膚常在微生物の存在バランスを崩さずに皮膚のバリア機能を良好に維持しつつ、一般式(I)で表わされるジケトン化合物の生成を抑制することができ、当該ジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を抑制することができることが示唆される。
【0064】
(実施例2)
化合物A〔千寿製薬(株)製、商品名:EPC(SENJU)〕をその濃度が0.2質量%となるように滅菌水に溶解させ、被験試料を得た。
【0065】
(試験例2)
被験者6人の腋窩を無香料石鹸で洗浄した。その後、無臭化した綿製シートを腋窩部に貼り付けたTシャツを各被験者に着用させ、綿製シートを被験者の腋窩部に接触させた。Tシャツの着用開始から18時間経過後、各被験者に運動を行わせて発汗させた。その後、各被験者のTシャツから綿製シートを回収した。
【0066】
得られた綿製シートに実施例2で得られた被験試料約1.0mLを噴霧する。噴霧後の綿製シートの半分を、35℃、20時間インキュベーションする。その後、専門パネル3人に、綿製シートから発生した臭気を評価させる。におい強度の評価基準は、以下のとおりである。
【0067】
〔におい強度の評価基準〕
0点:におわない
1点:かすかににおう
2点:弱くにおう
3点:はっきりにおう
4点:やや強くにおう
5点:かなり強くにおう
【0068】
また、実施例2で得られた被験試料の代わりに、プラセボの被験試料としての滅菌水を用いることを除き、前記と同様の操作を行ない、綿製シートから発生した臭気を評価させた。
【0069】
試験例2において、被験試料とにおい強度との関係を調べた結果を
図1に示す。図中、レーン1はプラセボの被験試料、レーン2は実施例2で得られた被験試料を示す。
【0070】
図1に示された結果から、化合物Aを含有する被験試料を用いた場合(実施例2)、綿製シートから発生する臭気が低減することわかる。なお、化合物Aを含有する被験試料(実施例2)を用いたときの綿製シートと、プラセボの被験試料を用いたときの綿製シートとの間のにおい強度差について、ウィルコクソン符号順位検定を行なったところ、統計学的に有意な差であることが確認された。
【0071】
また、腋窩部における臭気、特に酸臭と同様に、頭部におけるアブラ臭も、ジアセチルに代表されるジケトン化合物の生成と関連していることから、化合物Aによれば、頭部におけるアブラ臭も低減させることができることが示唆される。
【0072】
なお、一般式(II)で表わされる化合物およびその塩のうち前記化合物A以外の化合物およびその塩を用いた場合にも、化合物Aと同様の傾向が見られる。
【0073】
したがって、これらの結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、一般式(I)で表わされるジケトン化合物の生成を抑制することができ、当該ジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生の抑制に有用であることが示唆される。
【0074】
(試験例3)
試験例2で得られた各綿製シートをヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れた。つぎに、固相マイクロ抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露する。
【0075】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着したジアセチルを分析する。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0076】
〔分析条件〕
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :−10℃(3分間維持)、−10℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃から280℃までの昇温(昇温速度10℃)および280℃で3分間維持
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0077】
試験例3において、被験試料とジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を
図2に示す。図中、レーン1はプラセボの被験試料、レーン2は実施例2で得られた被験試料を示す。
【0078】
図2に示された結果から、化合物Aを含有する被験試料(実施例2)を噴霧した綿製シートにおけるジアセチルの量は、プラセボの被験試料を噴霧した綿製シートにおけるジアセチルの量と比較して、有意に減少することが示される。なお、一般式(II)で表わされる化合物およびその塩のうち前記化合物A以外の化合物およびその塩を用いた場合にも、化合物Aと同様の傾向が見られる。
【0079】
したがって、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、皮膚上におけるジアセチルに代表される一般式(I)で表わされるジケトン化合物の生成を抑制することができ、当該ジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生を抑制することができることが示唆される。
【0080】
これらの結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、生体、特に皮膚上でのジアセチルに代表されるジケトン化合物の作用の抑制ならびにジケトン化合物の作用に起因する体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭の発生の抑制に有用であることが示唆される。
【0081】
また、生体、特にヒトの皮膚に接触した衣類および枕カバーなどの寝具においても、生体、特にヒトの皮膚上に存在する乳酸などのジケトン化合物の前駆体および皮膚常在微生物が付着し、当該皮膚常在微生物によってジケトン化合物が生成されるか、あるいは生体、特に皮膚上で生成されたジケトン化合物が付着することが考えられる。さらに、ヒトの居住空間においても、生体、特にヒトの皮膚上に存在する乳酸などのジケトン化合物の前駆体および皮膚常在微生物が飛散し、当該皮膚常在微生物によってジケトン化合物が生成されるか、あるいは生体、特にヒトの皮膚上で生成されたジケトン化合物が飛散することが考えられる。したがって、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、生体(特にヒトの皮膚)に接触した衣類、生体(特にヒトの皮膚)に接触した枕カバーなどの寝具などの被接触物およびヒトの居住空間におけるジケトン化合物の作用の抑制ならびに体臭、とりわけ腋窩部における酸臭および頭部におけるアブラ臭と同様のにおいの発生の抑制に有用であることが示唆される。
【0082】
以上の結果から、一般式(II)で表わされる化合物および/またはその塩は、ジケトン作用抑制剤および体臭抑制剤として有用であることが示唆される。