(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、概略シリコン系・化合物系・有機系に分類されるが、最近、化合物系太陽電池は薄くて経年変化が少なく光電変換効率が高くなると期待され開発が進んでいる。化合物系は、光吸収層の材料として、シリコンの代わりに、銅(以下Cuという)、インジウム(以下Inという)、ガリウム(以下Gaという)、セレン(以下Seという)、イオウ(以下Sという)などから成るカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI
2族化合物を用いる。代表的なものは二セレン化銅インジウムCuInSe
2、二セレン化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)Se
2(以下CIGSという)や、二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウムCu(In,Ga)(S,Se)
2(以下CIGSSという)がある(特許文献1等参照)。
【0003】
カルコパイライト型化合物半導体は、直接遷移半導体であり、光吸収特性に優れ、禁制帯幅はイオウ化アルミニウム銅CuAlS
2の3.5eVから、テルル・インジウム銅CuInTe
2の0.8eVと幅広い波長をカバーしており赤外域から紫外域までの発光、受光素子の製造も可能である。特に多結晶CIGS太陽電池は、優れた光吸収特性を生かして変換効率が20.3%という報告もある(非特許文献1参照)。
【0004】
CIGS薄膜太陽電池の構造は、光入射側から、酸化亜鉛(ZnO)窓層/バッファ層/CIGS光吸収層/モリブデン(Mo)電極という積層構造が代表的な構造である。CIGS層は、InとSe元素が組成成分となっているために、製造工程においてIn単体とSe単体の急激な化学反応による発熱や爆発を生ずる恐れがある。このために、In単体とSe単体が直接反応しないようにしなければならない。
【0005】
このために、例えばセレン化法によるCIGS薄膜の製造プロセスは、Mo(モリブデン)層上にスパッタ法でIn,CuやGaの積層膜を形成し、その積層膜を基板温度400〜550℃で、Ar(アルゴン)により希釈されたH
2Se(セレン化水素)を含有するガス中で数時間処理することにより粒径が約3μm程度のCuInSe
2薄膜を形成する方法である。VI族元素がS(硫黄)の場合は、S雰囲気中で処理する。400℃以上でH
2Se(硫化水素)ガスと反応させてCu(In,Ga)Se
2膜を得ている(特許文献2参照)。
【0006】
CIGS太陽電池の高効率化のための開放電圧改善には、光吸収層の高品質化はもちろん、その表面−界面制御が重要となり、バッファ層とCIGS層界面はpnホモ接合であることが高効率化に好適であることが知られている。ヘテロ接合に対して、pnホモ接合のCIGS太陽電池はエネルギー変換効率が良く、原因としてホモ接合はヘテロ接合よりキャリア再結合が少ないためと考えられる。
【0007】
バッファ層は、硫化カドミウム(CdS)やZnO等のn型半導体、CIGSはp型半導体としてpn接合となっている。通常、CdSによるバッファ層形成は、溶液成長法によって製造され、p型のCIGS層との接合界面では、CdがCd(OH)
2の形で表面に存在するとともに、CIGSバルク中ではCuサイトを置換している。このためにCIGS層にはCdが拡散して表面がn型化し、浅いホモ接合となる。このpnホモ接合に関してはさまざまな提案があり、以下に述べる。
【0008】
まず、硫黄および/又はセレンを含有するp型カルコパイライト型化合物半導体よりなる半導体薄膜の表層部分に、亜鉛および/又はカドミウムが拡散された不純物拡散領域を形成するために、硫黄および/又はセレンを含有するp型カルコパイライト型化合物半導体よりなる母材薄膜を、有機金属亜鉛化合物および/又は有機金属カドミウム化合物を含有する雰囲気中において熱処理する。これによってpnホモ接合を形成するものである(特許文献3参照)。
【0009】
CdのCIGS層への拡散は、主に溶液成長法による製造で行われるが、積極的にCIGS層にCdをドープする方法も提案されている。ソーダライムガラス基板の上にスパッタ法によりMo膜を1μmの厚さで形成し、これをMo電極とした。次に、Cu:In:Ga:Se=1:0.5:0.5:2の組成のスパッタターゲットを使用してイオンビームスパッタ法によってCIGS膜を1.6μmの厚さで形成し、その後、連続してCu:In:Ga:Se:Cd=1:0.5:0.5:2:x(Cd濃度x=50ppm)の組成からなるターゲットにより、厚さ56nmのCdドープ層を形成している(特許文献4参照)。
【0010】
また、太陽電池において、同一種類の半導体のp型薄層とn型薄層とが直接面接触してpn接合を形成していることがきわめて望ましいとして、真空中で、加熱された単結晶基板上に原料気体を供給してカルコパイライト薄層を基板上に成長させる際に、原料気体を個別に、あるいは複数種を組み合わせて同時に、順次繰り返して基板に供給することにより、層の化学組成の精密な制御を可能とし、その結果として高品質のカルコパイライト単結晶薄層を形成した。これにより、同種のp型カルコパイライト薄膜とn型カルコパイライト薄膜とが面接触してホモpn接合を形成する方法がある(特許文献5参照)。
【0011】
CIGSにSを加えて変換効率の向上を図ったCIGSS層太陽電池の構造は、光入射側から、酸化亜鉛(ZnO)窓層/バッファ層/CIGSS光吸収層/モリブデン(Mo)電極という積層構造が代表的な構造である。CIGSS膜の製造方法としては、官能基としてアミノ基およびヒドロキシ基を有する化合物を溶媒にして、Cu,InおよびGaのそれぞれのカルコゲナイドを溶解させて、Cu、InおよびGaと、カルコゲナイドの構成成分であるSおよびSeのうち少なくとも1種とを含む錯体を調製する工程と、該錯体を基板の表面に塗布して乾燥し、錯体の皮膜を製造する工程と、該錯体の皮膜を、水素、窒素およびこれらの混合ガスのうちいずれかのガスを含む還元雰囲気中で熱処理し、基板の表面に、Cu、InおよびGaと、SおよびSeのうち少なくとも1種を主成分とする層を形成る工程とで製造する方法が提案されている(特許文献6参照)。
【0012】
さらに、CIGSSを母材としたp型半導体およびn型半導体として、導電性の高いものを提供し、そのようなp型半導体およびn型半導体を用いることにより高性能な半導体素子を実現する。ガラス基板の上にMo電極をコートし、その上に、真空蒸着法によりp型CuInS
2層を形成した。その後、p型不純物であるSbの供給のみを止めて、n型不純物であるIを、CuIの形態で供給することにより、p型CuInS
2層の上に、n型CuInS
2層を形成する。これにより、CuInS
2を母材とするpnホモ接合を、同一の真空装置内で連続的に製造し、このn型CuInS
2層の上に、ITO電極を形成する(特許文献7参照)。
【0013】
そして、太陽電池のpn接合をp形化合物半導体層(p形光吸収層)及びn形化合物半導体層とで構成されたホモ接合又は擬ホモ接合とし、かつn形化合物半導体層とn形バッファ層との組み合わせを最適化して高効率化を図る。太陽電池の構成は、基板と、導電層と、Ib族元素、IIIb族元素及びVIb族元素を含有するp形化合物半導体層と、Ib族元素、IIIb族元素及びVIb族元素を含有するn形化合物半導体層と、n形バッファ層と、n形窓層と、n形透明導電層とを含んでいる(特許文献8参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述した従来の太陽電池の製造方法において、バッファ層としてスパッタ法によりCdS膜を形成しても、数%程度の変換効率しか得られず、また、バッファ層としては、CdSの他にZnO,ZnS等の他の化合物を使用することができるが、これらの材料をバッファ層として形成した場合には、溶液成長法、スパッタ法のいずれによっても製造条件に依存してCd拡散のバラツキが生じて安定したpnホモ接合が得られず、とりわけ量産性に対する問題があった。
【0017】
p型カルコパイライト型化合物半導体よりなる母材薄膜を、有機金属亜鉛化合物および/又は有機金属カドミウム化合物を含有する雰囲気中において熱処理する方法や、Cdをドープする方法もその精密な制御が難しいという問題がある。
【0018】
同一種類の半導体のp型薄層とn型薄層とが直接面接触してpn接合を形成する構成では、CIGSの場合、Cu/(In+Ga)比によってpn制御が可能である。p型CIGSは最も生成しやすいCu空孔をアクセプタとしてCu/(In+Ga)比を0.8〜0.9の領域で製造される。n型CIGSはIn過剰領域であり、InがCu空孔を埋めドナーであるIn空孔が増加している。このようなn型CIGSはキャリア濃度が低く、高効率化に適さない。
【0019】
また、同一種類の半導体のp型薄層とn型薄層とが直接面接触してpn接合を形成する構成では、CIGSSの場合、Cu/(In+Ga)比によってpn制御が可能である。p型CIGSSは最も生成しやすいCu空孔をアクセプタとしてCu/(In+Ga)比を0.8〜0.9の領域で製造される。n型CIGSSはIn過剰領域であり、InがCu空孔を埋めドナーであるIn空孔が増加している。このようなn型CIGSSはキャリア濃度が低く、高効率化に適さない。
【0020】
このために不純物を供給しながら同一種類の半導体のp型薄層とn型薄層を成膜する方法も精密な制御が難しいという問題がある。
【0021】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、光変換効率を向上させるために、光吸収層とバッファ層との界面に、pnホモ接合層を高精度に成膜でき、太陽電池の変換効率を向上させることができるn型光吸収層用合金の製造方法及び太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、n型光吸収層用合金により、太陽電池のp型光吸収層とバッファ層の間にpnホモ接合層を形成することにより高効率化を図っている。
【0023】
n型光吸収層用合金は、銅、インジウム、ガリウム、セレン及び、IIb族元素からなる合金であり、n型のCIGS合金である。このn型光吸収層用合金は、銅、インジウム、ガリウム、セレン及び、IIb族元素とVIb族元素からなる化合物を高温で結晶化させてn型のCIGS結晶とすることで製造される。IIb族元素とVIb族元素からなる化合物は、セレン化カドミウム又はセレン化亜鉛である。
【0024】
IIb族のカドミウム又は亜鉛はCIGS結晶中に拡散しCIGSをn型化し、VIb族元素として、CIGS4元系合金の成分であるセレンとすることで、CIGSのセレン空孔を埋める効果がある。
【0025】
また、n型光吸収層用合金は、銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ及び、IIb族元素からなるn型のCIGSS合金である。このn型光吸収層用合金は、銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ及び、IIb族元素とVIb族元素を含む化合物を高温で結晶化させてn型のCIGSS結晶とすることで製造される。IIb族元素とVIb族元素とからなる化合物は、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、セレン化亜鉛又は硫化亜鉛である。IIb族のカドミウム又は亜鉛はCIGSS結晶中に拡散しCIGSS結晶をn型化し、VIb族元素として、CIGS4元系合金の成分であるセレン又はイオウとすることで、CIGSSのセレン空孔、イオウ空孔を埋める効果がある。
【0026】
銅、インジウム、ガリウム、セレン及び、IIb族元素からなるn型光吸収層用合金の製造方法は、銅、インジウム、ガリウムとからなる化合物を高温で結晶化させてCIG合金を作製する第1工程と、CIG合金を粉砕してCIG合金粉末を作成する第2工程と、粉砕されたCIG合金にセレン、及びIIb族元素とVIb族元素とからなる化合物を混合し、高温で結晶化させてn型CIGS合金を作製する第3工程とを備えたこと特徴とする。
【0027】
CIG3元系合金を製造する第1工程とn型CIGS合金を製造する第3工程では、混合した材料を1000〜1100℃で融液から結晶を成長させて多結晶を形成する。CIG合金を製造する第1工程及びn型CIGS合金を製造する第3工程において、混合された原材料は、アンプルに真空封入されている。アンプルは、カーボンコートされた石英ガラスである。
銅、インジウム、ガリウム、セレン、イオウ、及び、IIb族元素からなるn型光吸収層用合金の製造方法は、銅、インジウム、ガリウムを混合して高温で結晶化させてCIG合金を製造する第1工程と、CIG合金を粉砕してCIG合金粉末を製造する第2工程と、粉砕されたCIG合金にセレン、イオウ及びIIb族元素とVIb族元素とからなる化合物を混合し、高温で結晶化させてn型CIGSS合金を製造する第3工程とを備えたこと特徴とする。
【0028】
CIG3元系合金を製造する第1工程は、1000〜1100℃で融液から結晶を成長させて多結晶を生成し、n型CIGSS合金を製造する第3工程は、昇温により温度を180〜220°に一定時間維持する第一ステップと、温度を1000〜1100°に一定時間維持する第二ステップとを備える。
【0029】
CIG3元系合金を製造する第1工程とn型CIGSS合金を製造する第3工程において、混合された原材料は、アンプルに真空封入されている。アンプルは、カーボンコートされた石英ガラスである。
【0030】
製造されたn型CIGS合金及びn型CIGSS合金であるn型光吸収層用合金は、スライス工程によりスライスされて、n型光吸収層用スパッタリングターゲットとして製造される。また、形状を使用装置に適合させるために、n型光吸収層用合金を粉砕して粉末化する粉末化工程と、粉末化したn型CIGS合金を加圧加工でバルク化するバルク化工程と、バルク化したn型光吸収層用合金をスライスするスライス工程とによりn型光吸収層用スパッタリングターゲットを製造することもできる。
【0031】
本発明に係る太陽電池は、製造されたn型光吸収層用スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング装置により、基板上に積層されたp型である光吸収層上に、n型光吸収層を形成している。n型光吸収層層と、このn型光吸収層層上に積層されるバッファ層は、同一のIIb族元素を有している。
【0032】
太陽電池の製造方法は、製造されたn型光吸収層スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング装置により、基板上に積層されたp型の光吸収層に、n型光吸収層を成膜するn型光吸収層成膜工程を備えている。
【0033】
また、製造されたn型光吸収層合金を用いて、真空蒸着により、基板に積層されたp型の光吸収層上にn型光吸収層を成膜してもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、太陽電池のp型の光吸収層とバッファ層の間にpnホモ接合層を備えているので、太陽電池の高効率化が可能である。
【0035】
pnホモ接合層は、バッファ層と同一のIIb族元素を添加することによりn型化したn型光吸収層用合金によりスパッタリング又は真空蒸着で成膜しているので、IIb族元素の量とpnホモ接合層の厚さが精密に制御できる。
【0036】
n型光吸収層用合金の製造は、In単体とSe単体との直接混合を避け、まずInをCu及びGaと結晶化させてからSe及びCdSe等を混入して結晶化させているので、急激な化学反応による爆発の恐れがなく、安全に製造可能である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
太陽電池の光吸収層として機能する化合物半導体はp型半導体であり、元素周期表においてIV族(Si,Geなど)をはさんでIV族から等間隔にある2種の元素で化合物をつくると同様の化学結合ができて半導体になる性質を利用している。アダマンティン系列に属するI−III−VI
2族元素であり、結晶構造はカルコパイライト型構造である。
【0039】
カルコパイライト型結晶構造は、I族のCu,III族のGaやIn,VI族のSやSe各原子が4配位になっており、正方晶系の結晶構造を有している。カルコパイライト型の半導体は、禁制帯幅が0.26から3.5eVと広い範囲に及んでいるが、I−III−VI
2族元素は、イオン性が強い半面、移動度がI−IV−V
2族より弱く、このため、従来使用されている代表的なCISやCIGSは、望ましい禁制帯幅よりも低い値で動作している。
【0040】
本発明のn型光吸収層用合金は、p型の光吸収層とホモ接合するためのn型光吸収層を成膜する材料として使用される。本発明では、光吸収層はCIGS太陽電池とCIGSS太陽電池を対象としており、n型光吸収層用合金は、n型CIGS合金とn型CIGSS合金を総称した用語として使用する。
【0041】
CIGS太陽電池の光吸収層であるCIGSは、CuInSe
2のInサイトをGaで置換した混晶半導体である。CIGSではCu空孔の生成エネルギーが小さく最も生成しやすいため、組成比においてCu−poorとして安定なp型半導体を構成している。
【0042】
図1は、CIGS太陽電池10の構造を示す図である。基板12上に裏面電極14として、Mo(モリブデン)層が積層されている。光吸収層16は、p型半導体としてのCIGS薄膜で構成されている。光吸収層16であるp型のCIGSS薄膜に対して、n型半導体としてのバッファ層18を形成してpn接合を形成し、太陽電池として機能させる。バッファ層18には、例えば硫化カドミウム(CdS)や酸化亜鉛系(ZnOOHS)が使用されている。さらに高抵抗の酸化亜鉛(ZnO)等により高抵抗バッファ層20が積層され、最上部にはITOやアルミニウム等による透明電極60が形成されている。
【0043】
一方、現在光吸収層として多く使用されているCISやCIGSは、人体に有害なSeを使用しているため、なるべくSeを減らしたいという期待もあり、Seの一部をSで置き換えたCIGSSが提案されている。
【0044】
光吸収層のCIGSSは、基本的な3つの結晶であるCIS,CGSとCuInS
2を混合して構成される構造と考えられる。即ち、禁制帯幅が1.04eVのCISと禁制帯幅が1.68eVのCGSを混合して、禁制帯幅1.2eVのCIGSの多結晶とし、さらに、Seの量を減らすために、禁制帯幅が1.54eVのCuInS
2多結晶を混合した構造である。CuInS
2は移動度が15cm
2/V・sと低いが、最終的なCIGSSの禁制帯幅を1.4eVとできる。
【0045】
CIGSS太陽電池のCIGSS光吸収層は、CuInSe
2のInサイトをGaとSで置換した混晶半導体である。CIGSSではCu空孔の生成エネルギーが小さく最も生成しやすいため、組成比においてCu−poorとして安定なp型半導体を構成している。
【0046】
図2は、CIGSS太陽電池の構造11を示す図である。基板12上に裏面電極14として、Mo(モリブデン)層が積層されている。光吸収層16は、p型半導体としてのCIGSS層で構成されている。光吸収層16であるp型のCIGSS層に対して、n型半導体としてのバッファ層18を形成してpn接合を形成し、太陽電池として機能させる。バッファ層18には、例えば硫化カドミウム(CdS)や低抵抗の酸化亜鉛(ZnO)が使用されている。さらに高抵抗の酸化亜鉛(ZnO)等により高抵抗バッファ層20が積層され、最上部にはITOやアルミニウム等による透明電極60が形成されている。CIGSS太陽電池は、CIGS太陽電池に対して、光吸収層16にS成分が追加されているだけで、基本的には構造も原理同じである。
【0047】
図3は、CIGS太陽電池のエネルギーバンド図である。フェルミ準位26、価電子帯28と伝導帯30のバンド状態を示している。光吸収層16とバッファ層18の結合界面には空乏層24が形成され、バンドギャップ中には界面欠陥32が生じる。透明電極22側から入射した光は、高抵抗バッファ層20、バッファ層18を通過して光吸収層16に達する。光吸収層16では、価電子帯28の電子が伝導体に励起され、電子−正孔対を生成する。p型のCIGSで生成した電子は、空乏層24の電界によって加速されてバッファ層18を通り、透明電極22側へ向かうため、結線すれば電流を取り出すことができる。
【0048】
バッファ層18は、主にCdSやZnO層を溶液成長法により成膜して形成する。CdやZn塩とチオ化合物を含有するアルカリ性水溶液から化学的に形成し、例えばCd塩とチオ尿素からCdSを析出し、ZnO系ではZnOOHSを析出する。溶液成長法は、金属塩、硫化物及び錯化物の化学反応に基づくイオン種反応であり、CdSバッファ層の成長初期段階では、アンモニア水溶液でのエッチングによりCIGS膜の表面酸化層や過剰なNaが除去される。そして、Cd
2+イオンがCIGS膜表面層のCu又はCuが抜けた空孔と置換する。これにより、CdがCGIS表面層ではドナーとして機能してn型伝導になり、n型CGIS層が形成され、光吸収層16のp型半導体としてのCIGS層とでpnホモ接合が形成されている。
【0049】
バッファ層18にZnOを使用した場合も同様であり、ZnがCIGSのCu又はCu空孔と置換し、n型CIGSとなってpnホモ接合が形成される。
【0050】
図4は、バッファ層とCIGS層の界面でpnホモ接合が形成された状態を示している。
図4(A)は、Cdによりn型CIGSが形成された積層状態を示している。空乏層24のバッファ層18側の境界面にn型CIGS層34が形成されている。図b(b)は、n型CIGS層34が形成された状態でのエネルギーバンド図である。バッファ層18とCIGS層16の界面でpnホモ接合が形成されている。バッファ層18での伝導帯30の底はスパイクにより不連続となっており、光生成電子の障壁となって界面欠陥32を介して価電子帯28の正孔と再結合して効率を低下させる。しかしながら、光吸収層16であるCIGSで励起した電子は、スパイクの前の空乏層24にpnホモ接合層があるため、キャリアの再結合が少なくなり、その結果高効率のCIGS太陽電池が可能となる。
CIGSS太陽電池のエネルギーバンド図と、バッファ層とCIGSS層の界面でpnホモ接合が形成された状態も、CIGS太陽電池と同様である。
【0051】
図5は、バッファ層18とCIGS層16の間にpnホモ接合層を形成するためにn型CIGS層34を設けたCIGS太陽電池である。本発明では、pnホモ接合層を、溶液成長法によるバッファ層18の成膜過程で自然発生的に生成するのではなく、バッファ層18と同一のIIb族元素濃度を精密に制御でき高効率化が図れるように、バッファ層18と同一のIIb族元素を含んだn型CIGS合金を製造して、n型CIGS層34をバッファ層18とCIGS層16の間に形成している。n型CIGS合金は、例えばCIGSにCd又はZnを添加した合金である。
【0052】
なお、バッファ層18は、n型半導体として、p型半導体としてのCIGS層とpn接合を形成しているが、n型CIGS層34を設けることによって、バッファ層18を無くすこともできる。この場合に、n型CIGS合金に添加するのはCd又はZnのいずれのIIb族元素であってもよい。
【0053】
図6は、バッファ層18とCIGSS層16の間にpnホモ接合層を形成するためにn型CIGSS層34を設けたCIGSS太陽電池である。本発明では、pnホモ接合層を、溶液成長法によるバッファ層18の成膜過程で自然発生的に生成するのではなく、バッファ層18と同一のIIb族元素濃度を精密に制御でき高効率化が図れるように、バッファ層18と同一のIIb族元素を含んだn型CIGSS合金を製造して、n型CIGSS層34をバッファ層18とCIGSS層16の間に形成している。n型CIGSS合金は、例えばCIGSSにCd又はZnを添加した合金である。
【0054】
なお、CIGS太陽電池と同様に、CIGSS太陽電池においても、バッファ層18は、n型半導体としてp型半導体としてのCIGSS層とpn接合を形成しているが、n型CIGSS層34を設けることによって、バッファ層18を無くすることもできる。この場合に、n型CIGSS合金に添加するのは、Cd又はZnのいずれのIIb族元素であってもよい。
【0055】
次にn型光吸収層用合金として、CIGS太陽電池に使用されるn型CIGS合金の製造方法について説明する。
【0056】
バッファ層18には、高効率が得られるCdSやZn系が主に使用されており、n型CIGS合金の構成元素は、Cu,In,Ga,SeにCdまたZnが添加されている。この構成元素では、In単体とSe単体は混合すると化学的に反応して発熱し、著しい場合には爆発する。InとSeは、単体同士を混合させないように、分離して結晶化させる。また、Cdは、IIb族元素でありCIGSの構成元素の1つであるVIb族Seとの化合物であるCdSeを使用し、Znは、VIb族Seとの化合物であるZnSeを使用し、安全な製造方法とすることが必要とされる。
【0057】
IIb族のカドミウム又は亜鉛は、CIGS結晶中に拡散してp型であるCIGS合金をn型化し、VIb族元素をCIGS4元系合金の成分であるセレンとすることで、CIGS結晶中のセレン空孔を埋める効果がある。
【0058】
以下、主にバッファ層18にCdSが使用されている場合を例として述べる。
【0059】
図7は、n型CIGS合金の製造方法の概略を示すフローチャート40である。
図5において、ステップS1では、CIGS合金の元素成分からSeを除いたCu,InとGaを混合してCIG合金の多結晶を製造する。次に、ステップS2で、CIG合金を粉砕して、SeとCdSeと混合する。Inは、CIG合金として結晶化されているために、Se単体を混合しても化学的に反応することがない。次に、ステップ3でn型CIGS合金の多結晶を製造する。これにより、安全な製造方法でn型CIGS合金が完成する。
【0060】
図8は、n型CIGS合金の製造工程を示すフローチャート42である。まず準備としてステップS11では、CIG合金を製造するためのアンプルとn型CIGS合金を製造するためのアンプルを用意する。アンプルは、例えば石英ガラスのアンプルを使用し、以下石英アンプルとして説明するが、石英ガラスに限定されるものではない。石英アンプルは、王水洗浄とフッ硝酸洗浄を行い、乾燥機で水分を蒸発させておく。さらにアセトンに浸した後、バーナーで熱して煤を取り除く。これにより石英アンプルはカーボンコートされ、石英からの不純物の混入を防止することができる。
【0061】
石英アンプルは、王水洗浄とフッ硝酸洗浄を行い、乾燥機で水分を蒸発させておく。さらにアセトンに浸した後、バーナーで熱して煤を取り除く。これにより石英アンプルはカーボンコートされ、不純物の析出を防止することができる。
【0062】
ステップS12では、Cu,InとGaを、塩酸等を用いて洗浄し、元素原子数比を1:0.8:0.2となるように秤量してカーボンコートした石英アンブルに真空封入する。
【0063】
ステップS13では、原材料が真空封入された石英アンブルを、加熱するための電気炉に入れる。ステップS14では、炉内にあるヒーターに通電して発熱させ、温度を1050℃まで上げる。そして、この1050℃の高温状態を一定時間維持し、融液を結晶成長させて原材料を多結晶化させた後、ステップS15で炉内温度を室温まで下げる。これにより、CIG合金が得られる。
【0064】
ステップS16では、室温まで下げられた石英アンブルからCIG合金を取り出し、このCIG合金を粉砕する。この時、メッシュに通して均一な微粉が得られるようにする。この様な結晶粉は、InがCu及びGaと共に結晶化しているため、Seと化学的な反応をすることが無い。
【0065】
ステップS17では、粉砕したCIG合金と、Se単体とCdSeのSe成分を加えたSe元素原子数が、元素原子数比1:2の割合となるように秤量する。この時のCdSeの量によりCdの添加量を制御する。秤量した材料は、カーボンコートした石英アンブルに真空封入する。そして、ステップS18で電気炉に入れる。次に、ステップS19で炉内温度を1050℃まで上げて、1050℃の温度を一定時間維持し、融液を結晶成長させて多結晶化させた後、ステップS20で炉内温度を室温まで下げ、石英アンブルからn型CIGS合金を取り出す。
【0066】
図9は、
図8で説明したn型CIGS合金製造工程おける電気炉による製造状態50を示した図である。電気炉52内には加熱用のヒーター54があり、ヒーター54は、外部からの通電により発熱して炉内温度を上昇させる。電気炉52の内部に、原材料56を真空封入した石英アンブル58を入れている。炉内温度は、外部からの制御装置(図示せず。)によりコントロールされている。
【0067】
図10は、n型CIGS合金の製造工程における電気炉内の温度制御状態30を示している。まず室温で、炉内にCu,In,Gaの原材料を真空封入した石英アンブルを入れ、ヒーターに通電して炉内温度を上昇させる。温度上昇は、例えば12時間で1050℃まで上げる。昇温時間は12時間以下でもよく、6時間から12時間であればよい。この状態で、温度1050℃に保ったまま約24時間一定に維持する。この高温状態での温度は、1000℃から1100℃で、12時間から24時間程度で融液を結晶成長させて多結晶化する。この温度を一定に維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。次に、ヒーターへの通電を停止して自然降温により炉内温度を下げる。例えば時間的には6時間以内で下げることとする。
【0068】
これにより得られたCIG多結晶は、室温に戻してから粉砕され、さらにSe及びCdSeと混合して石英アンブルに真空封入され、再び炉内に入れられる。
【0069】
n型CIGS合金の製造工程では、例えば10時間で、温度を室温から1050℃まで上昇させる。この温度1050℃の状態を約24時間維持する。この時間に関しても厳密な制御は要求されず、さらにその後の室温への温度低下も急冷でよい。
【0070】
CIG合金の製造では、Cu,InとGaが、元素原子数比1:2の割合として説明したが、InとGaの比は、1:x:(1−x)として0<x<1の範囲で目的、機能に合わせて調整する。また、CIG3元系合金を1としたSeの割合は、1.7〜2.3の範囲で、これも目的、機能に合わせて調整する。
【0071】
このn型CIGS合金は、CIGS太陽電池の光吸収層上にpnホモ接合層形成用の材料として使用されるが、そのためスパッタリング装置に合わせた形状とするために、n型CIGS合金のスパッタリングターゲットを製造する。
【0072】
次にn型CIGSS合金の製造方法について説明する。
【0073】
バッファ層18には、高効率が得られるCdSやZn系が主に使用されており、n型CIGSS合金の構成元素は、Cu,In,Ga,Se,SにCdまたZnが添加されている。この構成元素では、In単体とSe単体は混合すると化学的に反応して発熱し、著しい場合には爆発する。InとSeは、単体同士を混合させないように、分離して結晶化させる。また、Cdは、IIb族元素でありCIGSSの構成元素の1つであるVIb族との化合物であるCdSe又はCdSを使用し、Znは、VIb族との化合物であるZnSe又はZnSを使用し、安全な製造方法とすることが必要とされる。
【0074】
IIb族のカドミウム又は亜鉛は、CIGSS結晶中に拡散してp型であるCIGSS合金をn型化し、VIb族元素をCIGSS合金の成分であるSe又はSとすることで、CIGSS結晶中のSe空孔、S空孔を埋める効果がある。
【0075】
以下、主にバッファ層18にCdSが使用されている場合を例として述べる。
【0076】
図11は、n型CIGSS合金の製造方法の概略を示すフローチャート56である。
図11において、ステップS31では、CIGSS合金の元素成分からSeとSを除いたCu,InとGaを混合してCIG合金の多結晶を製造する。次に、ステップS32で、CIG合金を粉砕して、Se,SとCdSeと混合する。Inは、CIG合金として結晶化されているために、Se単体を混合しても化学的に反応することがない。次に、ステップS33でn型CIGSS合金の多結晶を製造する。これにより、安全な製造方法でn型CIGSS合金が完成する。
【0077】
図12は、n型CIGSS合金の製造方法を示すフローチャート58である。まず準備としてステップS41では、CIG合金を製造するためのアンプルとn型CIGSS合金を製造するためのアンプルを用意する。アンプルは、例えば石英ガラスのアンプルを使用し、以下石英アンプルとして説明するが、石英ガラスに限定されるものではない。石英アンプルは、王水洗浄とフッ硝酸洗浄を行い、乾燥機で水分を蒸発させておく。さらにアセトンに浸した後、バーナーで熱して煤を取り除く。これにより石英アンプルはカーボンコートされ、石英からの不純物の混入を防止することができる。
【0078】
ステップS42では、Cu,InとGaを、塩酸等を用いて洗浄し、元素原子数比を1:0.8:0.2となるように秤量してカーボンコートした石英アンブルに真空封入する。
【0079】
ステップS43では、原材料が真空封入された石英アンブルを、加熱するための電気炉に入れる。ステップS44では、炉内にあるヒーターに通電して発熱させ、温度を1050℃まで上げる。そして、1050℃の高温状態を一定時間維持し、融液から結晶を成長させて原材料の多結晶を形成した後、ステップS45で炉内温度を室温まで下げる。これにより、CIG合金が得られる。
【0080】
ステップS46では、室温まで下げられた石英アンブルからCIG合金を取り出し、CIG合金を粉砕する。この時、メッシュに通して均一な微粉が得られるようにする。この様な結晶粉は、InがCu及びGaと共に結晶化しているため、Seと化学的な反応をすることが無い。
【0081】
ステップS47では、粉砕したCIG合金と、Se,SとCdSeのSe成分を加えたSe元素原子数が、元素原子数比1:2の割合となるように秤量する。この時のCdSeの量によりCdの添加量を制御する。秤量した材料は、カーボンコートした石英アンブルに真空封入する。そして、ステップS48で電気炉に入れる。次に、ステップS49で炉内温度を200℃まで上げて一定時間維持した後、ステップS50で1050℃まで上げる。温度1050℃を一定時間維持し、融液成長により多結晶化させた後、ステップS51で炉内温度を室温まで下げ、石英アンブルからn型CIGSS合金を取り出す。
【0082】
図13は、n型CIGSS合金の製造工程における電気炉内の温度制御状態60を示している。まず室温で、炉内にCu,In,Gaの原材料を真空封入した石英アンブルを入れ、ヒーターに通電して炉内温度を上昇させる。温度上昇は、例えば12時間で1050℃まで上げる。昇温時間は12時間以下でもよく、6時間から12時間であればよい。この状態で、温度1050℃に保ったまま約24時間一定に維持する。この高温状態での温度は、1000℃から1100℃で、12時間から24時間程度で融液から結晶成長により多結晶が形成される。この温度一定に維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。次に、ヒーターへの通電を停止して自然降温により炉内温度を下げる。時間的には6時間以内で下げる。
【0083】
これにより得られたCIG多結晶は、室温に戻してから粉砕され、さらにSe,S及びCdSeと混合して石英アンブルに真空封入され、再び炉内に入れられる。
【0084】
n型CIGSS合金の製造工程では、第1ステップとして約200℃に上昇させる。SeとSは融点が低く、200℃で十分に溶融してから他の元素と共に融液から結晶を成長させるためである。これにより、高品質の多結晶を得ることができる。200℃までの昇温は、2時間で200℃まで上げる。この状態で、約12時間保ち、次に1050℃まで6時間で上昇させる。この高温状態を約24時間一定に維持する。この維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。その後電気炉のヒーターを停止して室温に戻す。ヒーターへの通電を停止した後、室温近くになるまで放置しておいてもよい。
【0085】
なお、n型CIGSS合金の製造方法として、In単体とSe単体は混合すると化学的に反応して発熱し、著しい場合には爆発するために、それぞれを分離して2段階で製造する方法を説明したが、勿論、発熱や爆発に十分に注意しながら、1段階での製造も可能である。
【0086】
この場合は、Cu,In,Ga,Se,SとCdSeを秤量して同時に石英アンプルに真空封入する。
【0087】
図14は、1プロセスでのn型CIGSS合金の製造方法における温度制御状態62を示している。SeとSの融点が低いことを考慮して、まず200℃に上昇させてSeとSを十分に融液化して、一定時間維持した後に、1050℃に昇温する。高温を維持する時間は自由度が大きく、厳密な時間管理は要求されない。その後電気炉のヒーターを停止して室温に戻す。ヒーターへの通電を停止した後、室温近くになるまで放置しておいてもよい。
【0088】
CIG合金の製造では、Cu,InとGaが、元素原子数比1:2の割合として説明したが、InとGaの比は、1:x:(1−x)として0<x<1の範囲で目的、機能に合わせて調整する。また、CIG3元系合金を1としたSeの割合は、1.7〜2.3の範囲で、これも目的、機能に合わせて調整する。
【0089】
このn型CIGSS合金は、CIGSS太陽電池の光吸収層上にpnホモ接合層形成用の材料として使用される。このn型CIGSS合金使用した場合であっても、スパッタリングターゲットの製造方法、及び、CIGS太陽電池の光吸収層上にpnホモ接合層を形成する方法は同じであり、以下、n型CIGS合金についてのスパッタリングターゲットの製造方法、及び、太陽電池の製造方法を説明する。
【0090】
図15は、スパッタリングターゲットの製造方法プローチャート64である。n型CIGS合金からスパッタリングターゲットを製造する方法は、ステップS61で、n型CIGS合金の多結晶を粉砕して粉末化し、ステップS62で、所望の形状に構成された鋳型に充填して加圧加工によりバルク化し、ステップS63で、バルク化したn型CIGS合金をスライスしてスパッタリングターゲットとする。
【0091】
製造したn型CIGS合金の外形がスパッタリング装置に適合すれば、バルク化する必要はなく、単にスライスしてスパッタリングターゲットとすることができる。
【0092】
図16は、本発明により製造されたたn型CIGS合金のスパッタリングターゲットを用いた、スパッタリングによるn型CIGS薄膜形成の概念66を示した図である。裏面電極14上に、光吸収層16が積層されており、この光吸収層16上に、スパッタ原子を飛ばして付着させて、n型CIGS層を形成する。このように、1プロセスで成膜できる特徴を有する他、n型CIGS層にはCdが均一に拡散しており、Cd濃度もn型CIGS合金製造時に精密に制御できるので、高効率なCIGS太陽電池の製造が可能である。
【0093】
図17は、スパッタリング装置による光吸収層の製造状態70を説明するための図である。スパッタリング装置72には、真空吸引74を行う開口部と、Ar(アルゴン)ガス76を注入する開口部と、冷却水82を注入する開口部とが設けられている。試料台84には、基板にMoで裏面電極が形成されたMo基板86を載せる。スパッタリング装置72の上部には、電極82に取り付けたn型CIGS合金によるスパッタリングターゲット80が設置されている。電極78と試料台84には、試料台84を陽極として直流電源92が接続されている。
【0094】
直流電源92により高電圧を印加してArガス76をイオン化し、n型CIGS合金によるスパッタリングターゲット80に、イオン化されたAr元素88を衝突させると、n型CIGS合金によるスパッタリングターゲット80の表面のスパッタ原子90が弾き飛ばされ、このスパッタ原子90がMo基板86に到達・堆積して成膜し、Cdが均一に拡散したCIGS薄膜が1プロセスで形成される。
【0095】
なお、光吸収層となるCIGS層も、CIGS合金によるスパッタリングターゲットを製造して、同様の方法で成膜できる。
【0096】
図18は、CIGS合金及びn型CIGS合金によるスパッタリングターゲットを使用した太陽電池の製造方法96の一例を示すフローチャートである。
【0097】
ステップS71では、基板にMoをスパッタ法により成膜する。ステップS72では、各セルの直列接続のため裏面電極を削ってパターンニングする。そして、ステップS73で、光吸収層用のCIGSスパッタリングターゲットを用いて、CIGS光吸収層をスパッタリン装置により1プロセスで形成する。
【0098】
ステップS74において、本発明によるn型CIGSスパッタリングターゲットをスパッタ装置に搭載し、CIGS膜上にn型CIGS層を形成する。
【0099】
さらにステップS75で、形成されたn型CIGS層を強アルカリ性水溶液に浸して、溶液成長法によりCdSバッファ層を成膜する。続いてステップS76で、CIGS光吸収層及びバッファ層を削ってパターンを形成する。ステップS77では、バッファ層の上に、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置により、高抵抗バッファ層及び透明な導電膜層を成膜して電極を形成する。ステップS78では、再び導電膜層を削ってパターンニングし、ステップS79で、アルミニウム等によるバスター電極を裏面電極に半田付けし、基板上に積層されている層を、カバーガラスを封止材で封止して太陽電池が完成する。
【0100】
以上、本発明によるpnホモ接合層を有するCIGS太陽電池の製造方法を説明したが、本発明によるn型CIGS合金は、真空蒸着法によっても光吸収層及びpnホモ接合層の成膜に使用できる。
【0101】
図19は、真空蒸着装置100の平面図であり、真空チャンバー102、拡散ポンプ104、メカニカルブースターポンプ106と油回転ポンプ108で構成されている。
【0102】
真空チャンバー102において、本発明によるCIGS4元系合金118による光吸収層の成膜が行われる。真空チャンバー102内を真空にするために、拡散ポンプ104と油回転ポンプ108により、真空チャンバー102の内部の空気を排気する。メカニカルブースターポンプ106は、ケーシング内にある2個のマユ型ロータが、その軸端の駆動ギアに入り互いに反対方向に同期回転するようになっている。吸気口から入った気体はケーシングとロータ間の空間に閉じ込められ、ロータの回転で排気口側から大気中に放出される。このため、メカニカルブースターポンプ106を、拡散ポンプ104と油回転ポンプ108と組み合わせることにより、排気速度を大幅にアップさせることができる。
【0103】
図14は、真空蒸着装置100の真空チャンバー102において、n型CIGS合金118からの蒸着によりMo基板86に積層されたCIGS層上にn型CIGS層を成膜している状態110を示している。真空チャンバー102には、CIGS層が積層されたMo基板86とn型CIGS合金118が搭載されたタングステンボード120、ヒーター112とがある。さらにn型CIGS層の膜厚が所定の厚さになった時に成膜を停止するシャッター116が備えられている。
【0104】
まず蒸着試料としてのn型CIGS合金118をタングステンボート120に設置し、その後、拡散ポンプ104、油回転ポンプ108とメカニカルブースターポンプ106を回転させて真空排気を行う。真空排気により高真空状態となったら、ヒーター電源114を入れて、ヒーター112に電流を流して加熱する。n型CIGS合金118の温度が蒸発温度に達したらシャッター116を開ける。
【0105】
これにより、n型CIGS合金118からの蒸着材料が、CIGS層が積層されたMo基板86上に堆積して成膜される。膜厚が所定の値となったらシャッター116を閉め、蒸着を終了する。
【0106】
この様に、本発明によるn型CIGS合金は、真空蒸着装置を使用した真空蒸着法によってもpnホモ接合層成膜の材料として使用できる。
【0107】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。