特許第5994017号(P5994017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994017
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】内燃機関の冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/02 20060101AFI20160908BHJP
   F01P 7/12 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   F01P7/02 E
   F01P7/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-249876(P2015-249876)
(22)【出願日】2015年12月22日
(62)【分割の表示】特願2011-198966(P2011-198966)の分割
【原出願日】2011年9月13日
(65)【公開番号】特開2016-40469(P2016-40469A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067840
【弁理士】
【氏名又は名称】江原 望
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(72)【発明者】
【氏名】飯嶌 智司
(72)【発明者】
【氏名】小林 友和
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5938166(JP,B2)
【文献】 実開昭55−135622(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/02、1/06、
5/06、
7/02、7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸(30)と連動して回転し外気を吸引する冷却ファン(40)と、
前記冷却ファン(40)を覆うとともに外気を取り込む冷却風取入口(53)が形成されたファンカバー(50)と、
前記ファンカバー(50)の前記冷却風取入口(53)に設けられ、前記冷却風取入口(53)の開口面に平行な支軸(62,122,132)を中心に羽板(61)が回動して前記冷却風取入口(53)を開閉する可動ルーバー(60)とを備えた内燃機関の冷却装置において、
前記可動ルーバー(60)の複数の前記羽板(61,121,131)にそれぞれ設けられる各前記支軸(62,122,132)を連結して一斉に回動可能とするリンク機構(70)と、前記リンク機構(70)を駆動するアクチュエータ(80)とを備え、
前記リンク機構(70)の駆動が、該リンク機構(70)のオーバーストロークを吸収するオーバーストローク吸収機構(75,120,130)を介して各前記支軸(62,122,132)にそれぞれ伝達されるべく、前記オーバーストローク吸収機構(75,120,130)が前記リンク機構(70)と各前記支軸(62,122,132)との間にそれぞれ設けられることを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【請求項2】
前記リンク機構(70)は、各前記支軸(62)にそれぞれ相対回転自在に軸支される回動リンク部材(72,73)と、各前記回動リンク部材(72,73)に連結されるとともに前記回動リンク部材(72,73)を一斉に回動させる連結リンク部材(74)とを備え、
前記オーバーストローク吸収機構(75)は、前記支軸(62)に挿通されるねじりコイルばね(76)の両端部がそれぞれ前記回動リンク部材(72,73)と前記支軸(62)に係止して構成されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項3】
前記リンク機構(70)は、各前記支軸(122,132)にそれぞれ相対回転自在に軸支される回動リンク部材(125,135)と、各前記回動リンク部材(125,135)に連結されるとともに前記回動リンク部材(125,135)を一斉に回動させる連結リンク部材(74)とを備え、
前記オーバーストローク吸収機構(120,130)は、前記回動リンク部材(125,135)と前記支軸(122,132)との間にねじり弾性変形する部材(124,134)が両端をそれぞれ前記回動リンク部材(125,135)と前記支軸(122,132)に連結されて構成されることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項4】
前記羽板(121,131)と前記支軸(122,132)は、一体の樹脂成形物であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項5】
前記アクチュエータ(80)は、オイルパン(22p)に取り付けられ同オイルパン(22p)内のオイルの温度に感応して前記リンク機構(70)を駆動する感温アクチュエータであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の内燃機関の冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸に連動して回転する冷却ファンにより取り込んだ外気を内燃機関に送風して同内燃機関を冷却する内燃機関の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の始動時、特に冬季の気温の低いときには、暖機を促進して燃費の向上を図る必要があるが、その際、冷却ファンの駆動により冷却風を取り込み内燃機関を冷却することは暖機を促進する妨げとなる。
そこで、内燃機関の運転状況に応じて冷却風の取り込みを調節する冷却装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−185829号公報
【0004】
特許文献1に記載の冷却装置は、クランク軸の一端に冷却ファンとスタータプーリーとを備え、冷却ファンの周囲はエンジンカバーが覆い、エンジンカバーより突出したスタータプーリーを有底の円筒ケース(リコイルスタータケース)が覆っており、円筒ケースには一部が切り欠かれて内部のスタータプーリーを回転させるグリップが取り付けられてリコイルスタータが構成されている。
【0005】
そして、この円筒ケースの周面部には冷却風取入用の窓孔が多数形成され、この窓孔部に窓孔の一辺に起立するルーバー(羽板)を設けた例が開示されている。
ルーバーは、形状記憶合金からなり、高温時には起立して窓孔から冷却風を取り入れやすくし、低温時には倒伏して窓孔からの冷却風を制限するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、温度変化によるルーバー自体の変形により窓孔を円滑に開閉するためには、ルーバーが閉じたときにもルーバーと窓孔の開口縁との間に隙間が必要とされる。
したがって、低温時に窓孔を十分に閉塞することはできず、隙間から外気が入り込んで、結果として暖機中にも内燃機関が冷却されて暖機の促進が妨げられる可能性がある。
【0007】
なお、特許文献1のルーバーは、リコイルスタータケースに設けられているので、スタータプーリーを回転させるグリップを取り付けるために、リコイルスタータケースの一部が切り欠かれていたりして、隙間は元々存在し、冷却風の取り込みを十分に阻止することはできない構造のものである。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、冷間始動時において暖機を促進することができるとともに、可動ルーバーのリンク機構のオーバーストローク分を吸収してリンク機構および羽板に過大な負荷が加わるのを防止できる内燃機関の冷却装置を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、
クランク軸(30)と連動して回転し外気を吸引する冷却ファン(40)と、
前記冷却ファン(40)を覆うとともに外気を取り込む冷却風取入口(53)が形成されたファンカバー(50)と、
前記ファンカバー(50)の前記冷却風取入口(53)に設けられ、前記冷却風取入口(53)の開口面に平行な支軸(62)を中心に羽板(61)が回動して前記冷却風取入口(53)を開閉する可動ルーバー(60)とを備えた内燃機関の冷却装置において、
前記可動ルーバー(60)の複数の前記羽板(61,121,131)にそれぞれ設けられる各前記支軸(62,122,132)を連結して一斉に回動可能とするリンク機構(70)と、前記リンク機構(70)を駆動するアクチュエータ(80)とを備え、
前記リンク機構(70)の駆動が、該リンク機構(70)のオーバーストロークを吸収するオーバーストローク吸収機構(75,120,130)を介して各前記支軸(62,122,132)にそれぞれ伝達されるべく、前記オーバーストローク吸収機構(75,120,130)が前記リンク機構(70)と各前記支軸(62,122,132)との間にそれぞれ設けられることを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の内燃機関の冷却装置において、
前記リンク機構(70)は、各前記支軸(62)にそれぞれ相対回転自在に軸支される回動リンク部材(72,73)と、各前記回動リンク部材(72,73)に連結されるとともに前記回動リンク部材(72,73)を一斉に回動させる連結リンク部材(74)とを備え、
前記オーバーストローク吸収機構(75)は、前記支軸(62)に挿通されるねじりコイルばね(76)の両端部がそれぞれ前記回動リンク部材(72,73)と前記支軸(62)に係止して構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の内燃機関の冷却装置において、
前記リンク機構(70)は、各前記支軸(122,132)にそれぞれ相対回転自在に軸支される回動リンク部材(125,135)と、各前記回動リンク部材(125,135)に連結されるとともに前記回動リンク部材(125,135)を一斉に回動させる連結リンク部材(74)とを備え、
前記オーバーストローク吸収機構(120,130)は、前記回動リンク部材(125,135)と前記支軸(122,132)との間にねじり弾性変形する部材(124,134)が両端をそれぞれ前記回動リンク部材(125,135)と前記支軸(122,132)に連結されて構成されることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の内燃機関の冷却装置において、
前記羽板(121,131)と前記支軸(122,132)は、一体の樹脂成形物であることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の内燃機関の冷却装置において、
前記アクチュエータ(80)は、オイルパン(22p)に取り付けられ同オイルパン(22p)内のオイルの温度に感応して前記リンク機構(70)を駆動する感温アクチュエータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の内燃機関の冷却装置によれば、アクチュエータ(80)がリンク機構(70)を駆動して各オーバーストローク吸収機構(75)を介して各支軸(62)を羽板(61)とともに回動してファンカバー(50)の冷却風取入口(53)を開くようにすることができ、内燃機関(21)の運転状態に応じて冷却風取入口(53)の開口面積を変え、取り入れる冷却風量を調整することができる。
そして、仮にアクチュエータ(80)の駆動がリンク機構(70)にオーバーストロークを生じさせても、オーバーストローク吸収機構(75)がリンク機構(70)のオーバーストローク分を吸収してリンク機構(70)および羽板(61)に過大な負荷が加わるのを防止することができる。
また、回動する羽板(61)とファンカバー(50)との間あるいは羽板(61)どうしの間に異物が挟まった場合であっても、羽板(61)およびリンク機構(70)に閉じ方向の過大な負荷が加わるのを防止することができる。
さらに、羽板(61)やリンク部材(72,73,74)を樹脂などの個体バラツキが大きい素材で形成した場合であっても、オーバーストローク吸収機構(75)がそのバラツキを吸収することができる。
【0015】
請求項2記載の内燃機関の冷却装置によれば、リンク機構(70)は各支軸(62)にそれぞれ相対回動自在に軸支される回動リンク部材(70)と各回動リンク部材(72,73)を枢支して感温アクチュエータ(80)により駆動される連結リンク部材(74)とを備え、オーバーストローク吸収機構(75)は支軸(62)に挿通されるねじりコイルばね(76)の両端部(76b,76b)がそれぞれ回動リンク部材(72,73)と支軸(62)に係止して構成されるので、支軸(62)に挿通されるねじりコイルばね(76)が回動リンク部材(72,73)と支軸(62)との間でオーバーストロークを吸収して動力伝達することができ、オーバーストローク吸収機構(75)をコンパクトに組み込むことができる。
【0016】
請求項3記載の内燃機関の冷却装置によれば、オーバーストローク吸収機構(120)は、回動リンク部材(125,135)と支軸(122,132)との間にねじり弾性変形する部材(124,134)が両端をそれぞれ回動リンク部材(125,135)と支軸(122,132)に固着して介装されて構成されるので、支軸(122,132)に対する回動リンク部材(125,135)の軸支部分にねじり弾性変形する部材(124,134)を介装してオーバーストローク吸収機構(120)を益々コンパクトに組み込むことができる。
【0017】
請求項4記載の内燃機関の冷却装置によれば、前記羽板(121,131)と前記支軸(122,132)は、一体の樹脂成形物であるので、個体バラツキが大きいが、こうした場合であっても、オーバーストローク吸収機構75がそのバラツキを吸収することができる。
【0018】
請求項5記載の内燃機関の冷却装置によれば、前記アクチュエータ(80)は、オイルパン(22p)に取り付けられ同オイルパン(22p)内のオイルの温度に感応して前記リンク機構(70)を駆動する感温アクチュエータであるので、温度上昇があると感温アクチュエータ(80)がリンク機構(70)を駆動して各オーバーストローク吸収機構(75)を介して各支軸(62)を羽板(61)とともに回動してファンカバー(50)の冷却風取入口(53)を開くようにすることができ、内燃機関(21)の運転状態に応じて冷却風取入口(53)の開口面積を変え、取り入れる冷却風量を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る内燃機関を搭載したスクータ型自動二輪車の全体側面図である。
図2】該内燃機関の右側面図である。
図3図2の概ねIII-III線に沿って切断し展開した内燃機関の断面図である。
図4】ファンカバーと固定ルーバーとリンクカバーの分解斜視図である。
図5】ファンカバーと固定ルーバーの分解斜視図である。
図6】ファンカバーの断面図である。
図7】羽板の斜視図である。
図8】リンク機構およびオーバーストローク吸収機構の分解斜視図である。
図9】リンク機構およびオーバーストローク吸収機構の斜視図である。
図10】可動ルーバーが開いているときの可動ルーバーおよび固定ルーバーの断面図である。
図11】可動ルーバーの開いているときの側面図である。
図12】可動ルーバーが閉じているときの可動ルーバーおよび固定ルーバーの断面図である。
図13】可動ルーバーの閉じているときの側面図である。
図14】第2の実施形態に係るオーバーストローク吸収機構およびリンク機構の斜視図である。
図15】第3の実施形態に係るオーバーストローク吸収機構およびリンク機構の斜視図である。
図16】第4の実施形態に係るオーバーストローク吸収機構およびリンク機構の斜視図である。
図17】第5の実施形態に係る可動ルーバー枠体を示すファンカバーの側面図である。
図18】第6の実施形態に係る可動ルーバーを示すファンカバーの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る第1の実施形態について図1ないし図13に基づいて説明する。
本実施の形態に係るユニットスイング式内燃機関を搭載したスクータ型自動二輪車1を図1に示す。
本実施の形態においては、車両の前進方向を向いた状態を基準にして前後左右を決めることとする。
【0021】
車体前部1fと車体後部1rとが、低いフロア部1cを介して連結されており、車体の骨格をなす車体フレームは、概ねダウンチューブ3とメインパイプ4とからなる。
すなわち車体前部1fのヘッドパイプ2からダウンチューブ3が下方へ延出し、同ダウンチューブ3は下端で水平に屈曲してフロア部1cの下方を後方へ延び、その後端において左右一対のメインパイプ4が連結され、メインパイプ4は該連結部から後方斜め上に延びた傾斜部4aを形成し、傾斜部4aの上部がさらに屈曲して後方に略水平に延びた水平部4bを形成している。
【0022】
一対のメインパイプ4の間にはヘルメットなどの収容部5と燃料タンク6が支持され、収容部5と燃料タンク6の上方はシート7が覆って配置されている。
一方車体前部1fにおいては、ヘッドパイプ2に軸支されて上方にハンドル8が設けられ、下方にフロントフォーク9が延びてその下端に前輪10が軸支されている。
【0023】
メインパイプ4の前端部にブラケット11が後方に向けて突設され、同ブラケット11にリンク部材12を介してパワーユニット20が揺動可能に連結支持されている。
パワーユニット20には、その前部に単気筒4ストロークの空冷式内燃機関21が、クランクケース22から順次重ね合わされたシリンダブロック23,シリンダヘッド24,シリンダヘッドカバー25を略水平に近い状態にまで大きく前傾した姿勢で構成され、そのクランクケース22の下部から前方に突出したピボット支持ブラケット22aの端部が前記リンク部材12にピボット軸12aを介して連結されている(図2参照)。
【0024】
パワーユニット20は該内燃機関21のクランクケース22から後方にかけてベルト式無段変速機26が構成され、その後部に設けられた減速機構27に軸支された後車軸28aに後輪28が設けられている。
この減速機構27の上端と前記メインパイプ4の上部屈曲部間にリヤクッション29が介装されている。
【0025】
パワーユニット20の上部には、内燃機関21の大きく前傾したシリンダヘッド24の上部から延出した吸気管14に接続されたスロットルボディ15および同スロットルボディ15に連結されるエアクリーナ16が配設されている。
【0026】
一方、シリンダヘッド24の下部から延出した排気管17は、右側に偏りながら下方に延び、後方へ湾曲し、クランクケース22の下部のオイルパン22pの右方に設けられる後記する遠心冷却ファン40のファンカバー50の下方を後方へ延び(図1図10図12参照)、マフラー18に連結されている。
マフラー18は、支持ブラケット19によりクランクケース22に支持ブラケット19を介して吊設され、後輪28の右側に位置している。
【0027】
車体前部1Fは、フロントカバー1aとレッグシールド1bにより前後からフロントロアカバー1cにより左右側方から覆われ、ハンドル11の中央部はハンドルカバー1dによって覆われる。
フロア部1Cはサイドカバー1eにより覆われ、また車体後部1Rは前後のボデイカバー1f,1gによって左右側方まで覆われる。
【0028】
図3は、内燃機関21を図2の概ねIII−III線に沿って切断し展開した断面図である。
クランクケース22内には、クランク軸30が左右の主軸受31,31に回転自在に支持されて、クランクウエブ30w,30wより左右水平方向に延びた左クランク軸体30Lと右クランク軸体30Rのうち左クランク軸体30Lには動弁系へ動力を伝えるカムチェーン32の駆動スプロケット32aと、図示されないが、ベルト式無段変速機26のベルト駆動プーリが設けられ、右クランク軸体30RにはACジェネレータ33が設けられる。
【0029】
内燃機関21は、シリンダブロック23のシリンダライナ23a内を往復動するピストン34とクランク軸30のクランクピン30pとをコネクティングロッド35が連結している。
シリンダヘッド24には、ピストン34が対向して燃焼室36を構成する天井壁に点火プラグ37が嵌挿されている。
【0030】
図3を参照して、クランクケース22の右側壁は、右クランク軸体30Rが貫通する中央円筒部22cが右方に突出しており、同中央円筒部22cにACジェネレータ33のインナステータ33iが固着されており、中央円筒部22cを貫通する右クランク軸体30Rの端部に円形椀状をなすアウタロータ33oが中央部を固着されてインナステータ33iの周囲を覆って設けられている。
【0031】
アウタロータ33oの底壁には、外側(右側)から遠心冷却ファン40が取り付けられる。
遠心冷却ファン40は、環状円板部から中央が円錐状に膨出したファンベース部材40bの環状円板部に複数枚のブレード41が周方向に並んで突出形成されている。
ACジェネレータ33および遠心冷却ファン40は、その外周を前方を除いてクランクケース22の右側壁より右方に突出した外周壁22dにより覆われ、ACジェネレータ33と遠心冷却ファン40の前方は、シリンダブロック23およびシリンダヘッド24の周囲を覆うシュラウド45が右方に膨出して外周壁22dに連結して覆われ、遠心冷却ファン40の外周の一部および右方は、外周壁22dに連結されるファンカバー50により覆われる(図3参照)。
【0032】
図4および図5を参照して、ファンカバー50は、概ね周壁51と中央に大きく矩形の開口を有する側壁52とからなり、側壁52がクランク軸30の軸方向に垂直になる姿勢で遠心冷却ファン40に右側から被せられる。
【0033】
そして、ファンカバー50の側壁52の冷却風取入口53となる矩形開口の周囲は上下前後の側片部55u,55l,55f,55rからなる可動ルーバー枠体55が形成され、後鉛直側片部55rのさらに後方に後鉛直側片部55rに平行な鉛直壁とその上部で周壁51に連結する水平壁からなる後外側壁54が形成されていて、後外側壁54と後鉛直側片部55rとの間にリンク収容凹部54sが形成されている(図5参照)。
【0034】
周壁51の上部と下部および後外側壁54の水平壁の上部にファンカバー50をクランクケース22に取り付けるための取付ボス部51bが形成され、可動ルーバー枠体55の周囲に後記する固定ルーバー90を取り付ける取付ボス部55bが形成され、冷却風取入口53より前の側壁52には突出してシュラウド45を連結する取付ブラケット52rが形成されている。
また、後外側壁54の後面にはリンクカバー95を係止するコ字状の係止突起54cが突出形成されている。
【0035】
図4に示すように、ファンカバー50の可動ルーバー枠体55の冷却風取入口53には、前後に長尺の羽板61が上下3枚並んで羽板と一体に形成された支軸62を中心に回動自在に架設されて可動ルーバー60が構成され、支軸62が後鉛直側片部55rを後方に貫通してリンク収容凹部54s内にリンク機構70が構成される。
【0036】
可動ルーバー60を右側から固定ルーバー90が覆う。
固定ルーバー90は、矩形の固定ルーバー枠体92内に斜めに一定の角度で傾斜した前後長尺の羽板91が上下に複数枚互いに所定の間隔を存して平行に形成されたものである。
【0037】
固定ルーバー枠体92の前後に延出したフランジ部92fに形成された3つの取付孔92hにねじ93を貫通してファンカバー50側の取付ボス部55bのねじ穴に締結することで、固定ルーバー90が可動ルーバー60を覆うようにして取り付けられる。
固定ルーバー90は、羽板91が開いた状態に固定されて常に外気を取り入れることが可能であって、内側の可動ルーバー60を保護している。
【0038】
ファンカバー50のリンク収容凹部54s内に収容されたリンク機構70は、リンクカバー95により右側から覆われる。
リンクカバー95は、リンク収容凹部54sに対応した縦長のリンクカバー本体部96の下部の後側縁がリンクカバー本体部96と直角左側に延出して後下カバー部97が形成されている。
リンクカバー本体部96の上端から上方に取付ブラケット96bが突出するとともに、リンクカバー本体部96の下部から前方に取付ブラケット96bが突出している。
なお、リンクカバー本体部96の後側縁の中央部には左方に係止爪96cが突出している。
【0039】
リンクカバー95をリンク収容凹部54sに被せると、リンクカバー本体部96がリンク機構70を覆い、リンクカバー本体部96の後側縁の中央部の係止爪96cがファンカバー50側の後外側壁54の後面に突設された係止突起54cに係止し、リンクカバー本体部96の2つの取付ブラケット96bの取付孔にボルト98を貫通しファンカバー50の取付ボス部51bの取付孔も貫通してクランクケース22に締結することで、ファンカバー50とリンクカバー95をクランクケース22に共締めする。
リンクカバー95の後下カバー部97は、ファンカバー50側の後外側壁54の下方に連続して後記する感温ワックスシリンダ80を後方から覆い保護する。
【0040】
図5および図6を参照して、ファンカバー50における可動ルーバー枠体55の互いに前後で対向する前鉛直側片部55fと後鉛直側片部55rの各右側端面には、前後に対応して対をなす軸受溝55fvと軸受溝55rvが上下に3対形成されている。
1対の軸受溝55fvと軸受溝55rvには可動ルーバー60の羽板61の支軸62が軸支されて羽板61が回動自在に架設される。
図6に示すように、軸受溝55fvと軸受溝55rvは、前鉛直側片部55fと後鉛直側片部55rの各右側端面から断面U字状にくり抜かれており、円柱状の支軸62が納まる程度の深さを有する。
【0041】
可動ルーバー枠体55の互いに上下で対向する上水平側片部55uと下水平側片部55lの対向する面には、それぞれ前鉛直側片部55fから後鉛直側片部55rまで前後水平方向に指向した突条である水平カバー側段部56uと水平カバー側段部56lが形成されている。
図6を参照して、上下3対の軸受溝55fv,55rvに納まる3本の支軸62の3本の中心軸Cを含む鉛直平面Zを想定すると、上水平側片部55uの下面に形成される水平カバー側段部56uは鉛直平面Zに沿って外側(車体に対して右側、図6で左側)に位置し、下水平側片部55lの上面に形成される水平カバー側段部56lは鉛直平面Zに沿って内側(車体に対して左側、図6で右側)に位置する。
【0042】
また、可動ルーバー枠体55の互いに前後で対向する前鉛直側片部55fと後鉛直側片部55rの対向する面には、軸受溝55fv,55rvに納まる支軸62の中心軸Cに関して上下対称で鉛直平面Zに沿った位置に、縦長三角形状に突出した鉛直カバー側段部57uと鉛直カバー側段部57lが、各中心軸Cの上下対称位置に形成されている(図6参照)。
【0043】
図6を参照して、中心軸Cに関して上側となる鉛直カバー側段部57uは、鉛直平面Zの外側で前後鉛直側片部55f,55rの外側端面に沿って位置し、下方に行くに従って先細の縦長三角形状をなし先端が軸受溝55fv,55rvに達している。
他方、中心軸Cに関して下側となる鉛直カバー側段部57lは、鉛直平面Zに沿って内側に位置し、中心軸Cに関して鉛直カバー側段部57uと対称な形状をなし、すなわち上方に行くに従って先細の縦長三角形状をなす。
最も上に位置する前後の鉛直カバー側段部57u,57uは、上端が水平カバー側段部56uと連結して全体でコ字状をなし、最も下に位置する前後の鉛直カバー側段部57l,57lは、下端が水平カバー側段部56lと連結して全体でコ字状をなしている。
【0044】
以上のような可動ルーバー枠体55に設けられる可動ルーバー60の羽板61は、図7に示すように、支軸62の中心軸Cを含む平面に沿って該中心軸Cに関して対称な両側に該中心軸から延出して概ね長方形板状に形成されている。
長方形板状の羽板61は、中心軸Cに関し一方の側が前記冷却風取入口53の開口面(図6に示された鉛直平面Z)に関して内側を回動する内側羽板部61iをなし、羽板61の他方の側が冷却風取入口53の開口面(鉛直平面Z)に関して外側を回動する外側羽板部61oをなす。
【0045】
内側羽板部61iは中心軸Cより上方を主に回動し、外側羽板部61oは中心軸Cより下方を主に回動することになる。
内側羽板部61iと外側羽板部61oは、ともに中心軸Cから先端に行くに従って先細に形成されており、中心軸Cからの延出幅は、外側羽板部61oより内側羽板部61iの方が小さい。
【0046】
冷却風取入口53の開口面(鉛直平面Z)より内側で中心軸Cより上方を回動する内側羽板部61iについては、冷却風取入口の開口面に対向する外側の面に、ルーバー側段部61idが外周縁に沿ってコ字状に形成されている。
他方、冷却風取入口53の開口面(鉛直平面Z)より外側で中心軸Cより下方を回動する外側羽板部61oについては、冷却風取入口の開口面に対向する内側の面に、ルーバー側段部61odが外周縁に沿ってコ字状に形成されている。
【0047】
羽板61の外周縁に形成されたルーバー側段部61idとルーバー側段部61odは、可動ルーバー枠体55の水平カバー側段部56u,56l、鉛直カバー側段部57u,57lと当接して冷却風取入口53を閉塞することができる。
【0048】
羽板61の前後に突出した支軸62,62は、それぞれ可動ルーバー枠体55の前後の軸受溝55fvと軸受溝55rvに回動自在に嵌挿され、軸受溝55fvと軸受溝55rvの開口は、支軸62が外れないように、固定ルーバー90の固定ルーバー枠体92により塞がれ、支軸62は位置決めされる。
【0049】
羽板61の後方に突出した支軸62は、軸受溝55fvを貫通してリンク収容凹部54sに突出しており、この支軸62のリンク収容凹部54sに突出した根元部分に係止片63が径方向に突出形成されている。
係止片63は、径方向に突出した端部が後方に屈曲して係止部63cを形成している。
以上の長方形板状の羽板61と支軸62と係止片63とは、樹脂製で一体成形されている。
【0050】
次に、上下3枚の羽板61を回動するリンク機構70について図8および図9に基づき説明する。
上2本の支軸62にそれぞれ相対回動自在に軸支される回動リンク部材72は、支軸62が貫通する扁平円筒状の円筒本体部72aの外周面の一部が膨出し前方に突出して円柱支軸72bが形成されるとともに、円筒本体部72aの前部から径方向に係止片72cが突出し、係止片72cの端部が前方に屈曲して係止部72ccを形成している。
【0051】
下の1本の支軸62に相対回動自在に軸支される回動リンク部材73は、上記回動リンク部材72と同じように、円筒本体部73aに円柱支軸73bと係止部73ccを備える係止片73cとが形成されるとともに、円筒本体部73aからU字状に一対フォーク部73d,73dが前後に間隔を存して延出して形成されている。
【0052】
各回動リンク部材72,72,73の前方に突出した円柱支軸72b,72b,73bを、1本の連結リンク部材74が枢支する。
図9を参照して、連結リンク部材74は棒状の連結部材であり、上下端部と中央部の3か所に円筒ボス部74b,74b,74bが形成されていて、各支軸62に軸支された回動リンク部材72,72,73の円柱支軸72b,72b,73bがそれぞれ円筒ボス部74b,74b,74bの孔に相対回動自在に嵌入枢支される。
したがって、連結リンク部材74が上下に昇降すると、回動リンク部材72,72,73が一斉に回動する。
【0053】
各支軸62には、ねじりコイルばね76がコイル部76aで嵌挿され、ねじりコイルばね76を支軸62の係止片63との間に挟むようにして回動リンク部材72,73が支軸62に嵌挿される。
そして、支軸62の係止片63と回動リンク部材72(73)の係止片72c(73c)とを同じ回動角度で対向させて、互いに軸方向に近づけ、支軸62の係止片63の後方に延出した係止部63cと回動リンク部材72(73)の係止片72c(73c)の前方に延出した係止部72(73cc)とをねじりコイルばね76のコイル部76aから延出した両端部76b,76b間に挟むようにして、径方向に重ねる。
【0054】
係止片72c(73c)の係止部72cc(73cc)の方が、係止片63の係止部63cよりも支軸62より径方向に遠い位置にあるので、係止部63cと係止部72cc(73cc)を軸方向同じ位置で、径方向に重ねて位置させることができる。
こうしてオーバーストローク吸収機構75が構成される。
オーバーストローク吸収機構75は、各回動リンク部材72(73)と支軸62との間に設けられる。
【0055】
すなわち、オーバーストローク吸収機構75は、回動リンク部材72(73)の係止部72cc(73cc)と支軸62側の係止部63cがともにコイル部76aから延出した両端部76b,76bとの間に挟まれているので、回動リンク部材72(73)が回動すると、ねじりコイルばね76を介して支軸62すなわち羽板61を回動することになり、連結リンク部材74の昇降がオーバーストロークして回動リンク部材72(73)が回動しても、ねじりコイルばね76がオーバーストローク分を吸収してリンク機構70および羽板61に過大な負荷が加わるのを防止することができる。
【0056】
リンク機構70は、以上のように構成されており、このリンク機構70を駆動するアクチュエータは、感温ワックスシリンダ80である。
感温ワックスシリンダ80は、感温部シリンダの感温部に温度上昇により膨張するワックスを備え、ワックスの膨張・収縮により移動するピストンとともにシリンダロッド81を進退させることができるもので、内燃機関21のクランクケース22における底部のオイルパン22pに感温部を挿入して取り付けられる。
【0057】
感温ワックスシリンダ80は、リンク機構70の斜め下辺りでオイルパン22pに装着され、右斜め上方に突出したシリンダロッド81の先端のT字状に形成された先端部81aが最も下に位置する回動リンク部材73の一対のU字状フォーク部73d,73dに係合する。
すなわち、一対のフォーク部73d,73d間にシリンダロッド81を挿入し、先端部81aの両端を各U字状フォーク部73d,73dに摺動自在に嵌合する。
【0058】
したがって、感温ワックスシリンダ80がオイルパン22p内のオイルの温度に感応してシリンダロッド81を進退させると、シリンダロッド81の先端部81aが係合する最も下に位置する回動リンク部材73が回動し、同時に連結リンク部材74を介して上2つの回動リンク部材72,72が回動し、各回動リンク部材72,72,73の回動はそれぞれ各オーバーストローク吸収機構75のねじりコイルばね76を介して各支軸62を羽板61とともに回動する。
【0059】
図10および図11は、内燃機関21が通常の運転状態にあって、オイルパン22p内のオイルの温度が低い所定温度以上あり、感温ワックスシリンダ80がシリンダロッド81をある程度進行させたときの状態を示している。
感温ワックスシリンダ80がシリンダロッド81を進行させているので、連結リンク部材74が上下の中間高さ位置にあり、各ねじりコイルばね76を介して連動する3枚の羽板61は、内側羽板部61iを内側上方に、外側羽板部61oを外側下方にして互いに平行に斜めに傾斜して冷却風取入口53を開いている。
【0060】
この状態よりオイルパン22p内のオイルの温度が低下すれば、感温ワックスシリンダ80のシリンダロッド81が後退し連結リンク部材74が下降し、各ねじりコイルばね76を介して連動する3枚の羽板61は起立し、冷却風取入口53の開口面積を小さくする。
逆に、オイルパン22p内のオイルの温度が上昇すれば、感温ワックスシリンダ80のシリンダロッド81が進行し連結リンク部材74が上昇し、各ねじりコイルばね76を介して連動する3枚の羽板61は倒伏し、冷却風取入口53の開口面積を大きくする。
このように、内燃機関21の運転状態に応じてファンカバー50の冷却風取入口53の開口面積を変え、取り入れる冷却風量を調整することができる。
【0061】
図12および図13は、冷間時における内燃機関21の始動時で暖機運転状態にあって、オイルパン22p内のオイルの温度が所定温度より低く感温ワックスシリンダ80がシリンダロッド81を最も後退させた状態を示している。
感温ワックスシリンダ80がシリンダロッド81を最も後退させているので、連結リンク部材74が最も低い位置にあって、各ねじりコイルばね76を介して連動する3枚の羽板61は、全て鉛直近く最も大きく起立して冷却風取入口53を閉じている。
【0062】
図10を参考にして図12に示すように、最も上に配設される羽板61は、内側羽板部61iの外側の面に形成されたコ字状のルーバー側段部61idが、可動ルーバー枠体55のコ字状をなす水平カバー側段部56uおよび鉛直カバー側段部57u,57uに当接し、同時に、外側羽板部61oの内側の面に形成されたコ字状のルーバー側段部61odのうち前後側縁のルーバー側段部61od,61odが、最も上の鉛直カバー側段部57l,57lに当接し該羽板61の周縁部に生じる隙間を閉塞する。
【0063】
最も下に配設される羽板61は、外側羽板部61oの内側の面に形成されたコ字状のルーバー側段部61odが、可動ルーバー枠体55のコ字状をなす水平カバー側段部56lおよび鉛直カバー側段部57l,57lに当接し、同時に、内側羽板部61iの外側の面に形成されたコ字状のルーバー側段部61idのうち前後側縁のルーバー側段部61id,61idが、最も下の鉛直カバー側段部57u,57uに当接し該羽板61の周縁部に生じる隙間を閉塞する。
【0064】
そして、上下の羽板61に挟まれた中間高さに配置される羽板61は、内側羽板部61iの外側の面に形成された先端側縁のルーバー側段部61idは、上側に位置する羽板61の外側羽板部61oの内側の面に形成された先端側縁のルーバー側段部61odに、互いに隣接ルーバー側段部として当接し、同時に外側羽板部61oの内側の面に形成された先端側縁のルーバー側段部61odは、下側に位置する羽板61の内側羽板部61iの外側の面に形成された先端側縁のルーバー側段部61idに、互いに隣接ルーバー側段部として当接し互いの羽板61,61間に生じる空隙を閉塞する。
【0065】
同時に、中間高さに配置される羽板61は、内側羽板部61iの前後側縁のルーバー側段部61id,61idが可動ルーバー枠体55の鉛直カバー側段部57u,57uに当接し、外側羽板部61oの前後側縁のルーバー側段部61od,61odが可動ルーバー枠体55の鉛直カバー側段部57l,57lに当接し該羽板61の前後側縁に生じる隙間を閉塞する。
【0066】
以上のように、冷間時における内燃機関21の始動時には、クランク軸30とともに遠心冷却ファン40が回転して外気を取り込もうとしても、可動ルーバー60は3枚の羽板61が起立して冷却風取入口53を閉じ、かつ各羽板61の周縁部にコ字状に形成されたルーバー側段部61id,61odが、可動ルーバー枠体55の水平カバー側段部56u,56lおよび鉛直カバー側段部57u,57lに当接および上下に隣合う羽板61,61も隣接ルーバー側段部として互いに当接して羽板61の周縁部に生じる全ての隙間を閉塞するので、冷却風の取り込みを十分に抑制することができ、冷間始動時において内燃機関の暖機を促進することができる。
【0067】
可動ルーバー枠体55のカバー側段部56u,56l,57u,57lは、羽板61の回動を規制するストッパとして働き、可動ルーバー枠体55のカバー側段部56u,56l,57u,57lに対してルーバー側段部61id,61odは閉じ方向の回動で重なり合って当接するので、高いシール性をもって隙間を閉塞することができる。
上下に隣合う羽板61,61も隣接ルーバー側段部として閉じ方向の回動で重なり合って当接するので、高いシール性をもって隙間を閉塞することができる。
【0068】
さらに、羽板61の内側羽板部61iは、外側羽板部61oより支軸62からの延出幅が小さいので、遠心冷却ファン40の回転による吸引負圧が内側羽板部61iより支軸62からの延出幅が大きく面積の大きい外側羽板部61oの方に大きく作用するため、可動ルーバー60の閉時にルーバー側段部61id,61odとカバー側段部56u,56l,57u,57lとの重なり合いを強化して益々シール性を高めることができる。
【0069】
また、冷却風取入口53の開口面(鉛直平面Z)に関して内側を回動する内側羽板部61iは、支軸62からの延出幅が小さいので、支軸62を遠心冷却ファン40側に近づけることができ、ファンカバー50の大型化を防ぐことができる。
なお、内側羽板部61iと外側羽板部61oは、支軸62からの延出幅が異なるとはいっても、大きく異なるわけではなく、支軸62は羽板61の中央に近い位置にあり、支軸62の回動により羽板61を回動するのはそれ程大きな力を要せず容易である。
【0070】
オーバーストローク吸収機構75は、連結リンク部材74の昇降で回動する各回動リンク部材72(73)と各支軸62すなわち各羽板61との間にねじりコイルばね76を介して連動するようにして構成されているので、連結リンク部材74の昇降がオーバーストロークしてもねじりコイルばね76がオーバーストローク分を吸収してリンク機構70および羽板61に過大な負荷が加わるのを防止することができる。
【0071】
また、回動する羽板61とファンカバー50の可動ルーバー枠体55との間あるいは羽板61どうしの間に異物が挟まった場合であっても、羽板61およびリンク機構70に閉じ方向(場合によっては開き方向)の過大な負荷が加わるのを防止することができる。
さらに、羽板61と支軸62およびリンク機構70のリンク部材72,73,74を樹脂などの個体バラツキが大きい素材で形成しているが、こうした場合であっても、オーバーストローク吸収機構75がそのバラツキを吸収することができる。
【0072】
次にオーバーストローク吸収機構の変形例である第2の実施形態について図14に示し説明する。
前記第1の実施形態では、ねじりコイルばね76が支軸62の係止片63と回動リンク部材72(73)との間に配置されていたが、本第2の実施形態に係るオーバーストローク吸収機構100は、ねじりコイルばね104が羽板101の支軸102の係止片103および回動リンク部材105(106)より後方に配置されたものである。
【0073】
支軸102の係止片103は、径方向に長尺に突出した端部が後方に屈曲して係止部103cを形成し、回動リンク部材105(106)は、円筒本体部105a(106a)から径方向に短尺に突出した係止片105c(106c)の端部が係止片103の端部と同様に後方に屈曲して係止部105cc(106cc)を形成している。
回動リンク部材105(106)の円柱支軸105b(106b)および回動リンク部材106の一対のU字状フォーク部106d,106dは前記第1の実施形態と同様である。
なお、連結リンク部材74および感温ワックスシリンダ80も同じであり、符号も同じものを用いる。
【0074】
支軸102には、回動リンク部材105(106)が嵌挿され、次いでねじりコイルばね104がコイル部104aで嵌挿され、支軸102の長尺の係止片103と回動リンク部材105(106)の短尺の係止片105c(106c)とを同じ回動角度で重ね、どちらも後方に延出した係止部103cと係止部105cc(106cc)を径方向に重ね、この径方向に重ねられた係止部103cと係止部105cc(106cc)をねじりコイルばね104のコイル部104aから延出した両端部104b,104b間に挟むことで、オーバーストローク吸収機構100が構成される。
【0075】
オーバーストローク吸収機構100は、前記第1の実施形態と同じく、連結リンク部材74の昇降がオーバーストロークして回動リンク部材105(106)が回動しても、ねじりコイルばね104がオーバーストローク分を吸収してリンク機構および羽板101に過大な負荷が加わるのを防止することができる。
【0076】
次にオーバーストローク吸収機構の更なる変形例である第3の実施形態について図15に示し説明する。
本第3の実施形態に係るオーバーストローク吸収機構110は、羽板111の支軸112にフランジ状に円板係止片113が形成され、回動リンク部材115(116)は円板係止片113に対向する円筒本体部115a(116a)を有し、係止片は有しないが、円柱支軸115b(116b)および回動リンク部材116の一対のU字状フォーク部116d,116dは前記第1,第2の実施形態と同様であり、連結リンク部材74および感温ワックスシリンダ80も同じであり、符号も同じものを用いる。
【0077】
そして、本第3の実施形態におけるねじりコイルばね114は、支軸112に嵌挿されるコイル部114aが支軸112の円板係止片113と回動リンク部材115(116)とに挟まれて配置され、ねじりコイルばね114の両端部114b,114bの一方の端部114bが円板係止片113の小孔に挿入係止され、他方の端部114bが回動リンク部材115(116)の円筒本体部115a(116a)の小孔に挿入係止される。
【0078】
こうしてオーバーストローク吸収機構110が構成され、前記第1,第2の実施形態と同じく、連結リンク部材74の昇降がオーバーストロークして回動リンク部材115(116)が回動しても、ねじりコイルばね114がオーバーストローク分を吸収してリンク機構および羽板111に過大な負荷が加わるのを防止することができる。
【0079】
次にオーバーストローク吸収機構の更に異なる変形例である第4の実施形態について図16に示し説明する。
本第4の実施形態に係るオーバーストローク吸収機構120は、上2つの羽板121については、その支軸122の後端の拡径した中心軸端部123に同心の扁平円筒状の回動リンク部材125が中心軸端部123から湾曲しながら延出した複数枚の帯状のスポーク片124に連結して支持されており、回動リンク部材125の一部が径方向に若干膨出して、その膨出部から円柱支軸126が後方に突出しており、以上の羽板121,支軸122,中心軸端部123,スポーク片124,回動リンク部材125,円柱支軸126は、一体に樹脂成形されている。
【0080】
下の羽板131については、支軸132,中心軸端部133,スポーク片134,回動リンク部材135,円柱支軸136は、上記羽板121と同じであるが、該回動リンク部材135には一対のU字状フォーク部137,137が形成されている。
連結リンク部材74および感温ワックスシリンダ80は、前記実施形態と同じであり、符号も同じものを用いる。
なお、連結リンク部材74は、上下3か所に円筒ボス部74b,74b,74bの孔に回動リンク部材125,125,135から後方に突出した円柱支軸126,126,136が相対回動自在に嵌入枢支される。
【0081】
回動リンク部材125(135)と支軸122(132)の中心軸端部123(133)とを連結する湾曲したスポーク片124(134)は、用いられた樹脂の特性として弾性変形するので、オーバーストローク吸収機構120をコンパクトに構成することができる。
本オーバーストローク吸収機構120は、前記実施形態と同じく、連結リンク部材74の昇降がオーバーストロークして回動リンク部材125,125,135が回動しても、スポーク片124,124,134が弾性変形してオーバーストローク分を吸収してリンク機構および羽板121,121,131に過大な負荷が加わるのを防止することができる。
【0082】
羽板121(131),支軸122(132),中心軸端部123(133),スポーク片124(134),回動リンク部材125(135),円柱支軸126(136)は、一体に樹脂成形されるので、部品点数を削減して組付作業を簡単にすることができる。
【0083】
次に、ファンカバーの可動ルーバー枠体の変形例である第5の実施形態について図17に基づいて説明する。
本ファンカバー150は、可動ルーバー枠体155が前記第1の実施の形態における可動ルーバー枠体55と異なるが、その他は前記第1の実施の形態と同じであり、よって、同じ部材は同じ符号を用いて示す。
【0084】
本可動ルーバー枠体155の周壁151の内側の側壁152には、矩形の冷却風取入口の周囲に上下前後の側片部155u,155l,155f,155rからなる可動ルーバー枠体155が形成され、前鉛直側片部1551fと後鉛直側片部155rに上下3枚の羽板61がその両端の支軸62により回動自在に軸支され架設されている。
【0085】
前後鉛直側片部155f,155rの支軸62を軸支する軸受部には、中空円板を半割りにした形状の軸受部材156が埋設されている。
軸受部材156は自己潤滑性を有するシリコンゴムからなり、この軸受部材156の中空内周面に支軸62が軸支される。
【0086】
羽板61の支軸62が自己潤滑性を有する軸受部材156により軸支されるので、支軸62の円滑な回動が担保され、支軸62の回動に伴う可動ルーバー枠体155の軸受部および支軸62の摩擦による摩耗が防止されるとともに、摩擦による音の発生も防止される。
また、シリコンゴムからなる軸受部材156により支軸62と可動ルーバー枠体155の軸受部の個体バラツキを吸収することができる。
【0087】
次に、可動ルーバーの変形例である第6の実施形態について図18に基づいて説明する。
本第6の実施形態の可動ルーバー160は、ファンカバー170の可動ルーバー枠体175が円環状の枠体を構成するものであり、円形の開口面をなす冷却風取入口173を開閉する上中下3枚の羽板161,162,163は、それぞれ円形を水平に上中下3枚に切断した板形状を形成しており、前後に突出した支軸161a,162a,163aを円環状の可動ルーバー枠体175に形成された軸受凹部に回動自在に嵌挿して軸支されている。
【0088】
羽板161,162,163は、それぞれ冷却風取入口173の円形開口面に関して内側を回動する内側羽板部161i,162i,163iと外側を回動する外側羽板部161o,162o,163oとからなり、内側羽板部161i,162i,163iの外側の面には外周縁に沿ってルーバー側段部161id,162id,163idが形成され、外側羽板部161o,162o,163oの内側の面には外周縁に沿ってルーバー側段部161od,162od,163odが形成されている。
【0089】
可動ルーバー枠体175の内周面には、内側羽板部161i,162i,163iのルーバー側段部161id,162id,163idに対向して内側に当接面を有するカバー側段部176がそれぞれ突出形成され、外側羽板部161o,162o,163oのルーバー側段部161od,162od,163odに対向して外側に当接面を有するカバー側段部177がそれぞれ突出形成されている。
なお、本第6の実施形態は、前記第2の実施形態に示されたリンク機構およびオーバーストローク吸収機構100が用いられており、同じ部材は同じ符号を用いて示す。
【0090】
冷間時における内燃機関21の始動時に、可動ルーバー160は3枚の羽板161,162,163が起立して冷却風取入口173を閉じ、各羽板161,162,163の周縁部に形成されたルーバー側段部161id,162id,163id,161od,162od,163odが、カバー側段部176,177に閉じ方向で当接および上下に隣合う羽板も隣接ルーバー側段部として互いに当接して羽板161,162,163の各周縁部に生じる全ての隙間を閉塞するので、冷却風の取り込みを十分に抑制することができ、冷間始動時において内燃機関の暖機を促進することができる。
【0091】
以上の各実施形態に係る可動ルーバーでは、上中下3枚の羽板が冷却風取入口を開閉するものであったが、本願発明は、1枚または2枚あるいは4枚以上の羽板が平行に配列されるものにも適用することができる。
なお、本実施形態に係る冷却装置は、強制空冷式内燃機関にて説明したが、これに限らず、水冷式内燃機関において採用してもよい。
また、本実施形態のオーバーストローク吸気機構のねじりコイルばねは、全ての支軸に設けてあるが、これに限らず、特定の支軸を選択して、その支軸にのみねじりコイルばねを設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
22p…オイルパン、30(30R)…クランク軸、40…遠心冷却ファン、45…シュラウド、
50…ファンカバー、53…冷却風取入口、55…可動ルーバー枠体、56u,56l…水平カバー側段部、57u,57l…鉛直カバー側段部、
60…可動ルーバー、61…羽板、61i…内側羽板部、61o…外側羽板部、61id,61od…ルーバー側段部、62…支軸、
70…リンク機構、72,73…回動リンク部材、74…連結リンク部材、75…オーバーストローク吸収機構、76…ねじりコイルばね、80…感温ワックスシリンダ。
図1
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