特許第5994038号(P5994038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5994038電気化学発光セル、電気化学発光セルの発光層形成用組成物、及び電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5994038
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】電気化学発光セル、電気化学発光セルの発光層形成用組成物、及び電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20160908BHJP
   F21K 2/08 20060101ALI20160908BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H05B33/14 B
   F21K2/08
   C09K11/06
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-512134(P2016-512134)
(86)(22)【出願日】2015年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2015083956
【審査請求日】2016年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-252416(P2014-252416)
(32)【優先日】2014年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米川 文広
(72)【発明者】
【氏名】坂上 知
(72)【発明者】
【氏名】竹延 大志
【審査官】 三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−67601(JP,A)
【文献】 特開2013−18689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
F21K 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層と、その各面に配された電極とを有する電気化学発光セルにおいて、
前記発光層が、発光材料及びイオン性化合物を含み、
前記イオン性化合物が、下記一般式(1)で表される電気化学発光セル。
【化1】
(式中、MはN又はPを表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。Xは、下記一般式(2)で表されるリン酸エステルアニオン又は下記一般式(3)で表される硫酸エステルアニオンを表す。)
PO(OR) (2)
(Rはそれぞれ独立に炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。)
SO(OR) (3)
(Rは炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。)
【請求項2】
一般式(2)において、Rは、R、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基である請求項に記載の電気化学発光セル。
【請求項3】
一般式(3)において、Rは、R、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基である請求項に記載の電気化学発光セル。
【請求項4】
前記発光材料が、パラフェニレンビニレン、フルオレン、1,4−フェニレン、チオフェン、ピロール、パラフェニレンスルフィド、ベンゾチアジアゾール、ビオチオフィン若しくはこれらの誘導体のポリマー又はこれらを含むコポリマーである有機高分子である請求項1ないしのいずれか一項に記載の電気化学発光セル。
【請求項5】
前記発光材料は、発光性物質として金属錯体、有機低分子及び量子ドットから選ばれる少なくとも1種又は2種以上を含むものである請求項1ないしのいずれか一項に記載の電気化学発光セル。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるイオン性化合物、発光材料及び有機溶媒を含有する、電気化学発光セルの発光層形成用組成物。
【化2】
(式中、MはN又はPを表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。Xは、下記一般式(2)で表されるリン酸エステルアニオン又は下記一般式(3)で表される硫酸エステルアニオンを表す。)
PO(OR) (2)
(Rはそれぞれ独立に炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。)
SO(OR) (3)
(Rは炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。)
【請求項7】
一般式(2)において、Rは、R、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基である請求項に記載の組成物。
【請求項8】
一般式(3)において、Rは、R、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基である請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記発光材料が、パラフェニレンビニレン、フルオレン、1,4−フェニレン、チオフェン、ピロール、パラフェニレンスルフィド、ベンゾチアジアゾール、ビオチオフィン若しくはこれらの誘導体のポリマー又はこれらを含むコポリマーである有機高分子である請求項ないしのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記発光材料は、発光性物質として金属錯体、有機低分子及び量子ドットから選ばれる少なくとも1種又は2種以上を含むものである請求項ないしのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記有機溶媒が、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメチルクロライド、クロロベンゼン及びクロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項ないし10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項ないし11のいずれか一項に記載の組成物を、発光層形成用材料として使用した電気化学発光セル。
【請求項13】
下記一般式(1)で表される化合物である、電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物。
【化3】
(式中、MはN又はPを表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。Xは、下記一般式(2)で表されるリン酸エステルアニオン又は下記一般式(3)で表される硫酸エステルアニオンを表す。)
PO(OR) (2)
(Rはそれぞれ独立に炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。)
SO(OR) (3)
(Rは炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。)
【請求項14】
一般式(2)において、Rは、R、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基である請求項13に記載の電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物。
【請求項15】
一般式(3)において、Rは、R、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基である請求項13に記載の電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料及びイオン性化合物を含む発光層を有する電気化学発光セルに関する。また本発明は、電気化学発光セルの発光層形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子と正孔をキャリアとして自発光する素子である有機電界発光(有機EL)素子の開発が急激に進展している。有機ELはバックライトが必要な自発光しない素子である液晶素子よりも、薄型化及び軽量化が図れ、視認性に優れる等の特徴を有する。
【0003】
有機ELの素子は、一般に、各々の互いに対向する面に電極が形成された一対の基板と、一対の基板間に配された発光層とを備えている。このうち発光層は電圧が印加されることにより発光する発光物質を含む有機薄膜からなっている。このような有機ELの素子を発光させる場合、陽極と陰極から有機薄膜に電圧を印加して正孔と電子を注入する。このことにより、有機薄膜中で正孔と電子を再結合させ、再結合により生成された励起子が基底状態に戻ることにより発光が得られる。
【0004】
有機ELの素子では、発光層の他に、該発光層と電極との間に、正孔や電子の注入効率を上げるための正孔注入層や電子注入層、並びに正孔と電子の再結合効率を向上させるための正孔輸送層や電子輸送層をそれぞれ設ける必要がある。このことにより、有機ELの素子は、多層構造となって構造が複雑になり、製造過程が多くなる。また有機ELでは、陽極と陰極に用いる電極材料の選択に仕事関数を考慮する必要があるため制限が多い。
【0005】
これらの問題に対処する自発光素子として、電気化学発光セル(Light-emitting Electrochemical Cells:LEC)が近年注目されている。電気化学発光セルは、一般に塩と有機発光物質とを含む発光層を有する。電圧印加時には、発光層中で塩に由来するカチオン及びアニオンがそれぞれ陰極及び陽極に向かって移動し、これは電極界面における大きな電場勾配(電気二重層)をもたらす。形成される電気二重層は、陰極及び陽極それぞれにおける電子及び正孔の注入を容易にするため、電気化学発光セルでは有機ELのような多層構造が必要ない。また、電気化学発光セルでは陰極及び陽極として用いる材料の仕事関数を考慮する必要がないことから材料の制限が少ない。これらの理由から、電気化学発光セルは、有機ELに比べて製造コストを大幅に低減できる自発光素子として期待されている。
【0006】
電気化学発光セルに用いられる塩としては、無機系ではリチウム塩、カリウム塩等、有機系ではイオン液体等のイオン性化合物を用いることが多い(例えば特許文献1ないし4参照)。このイオン性化合物を用いることのメリットは、電極界面における再配向が容易なため電気二重層が形成されやすく、正孔や電子の注入が容易なものとなることなどが挙げられる。
【0007】
特に特許文献1及び特許文献2に記載のように、イオン液体等の有機系のイオン性化合物を用いると上述した電極界面における再配向速度をより速めることができることから、有機系のイオン性化合物を用いた発光層についての検討が行われている。また、特許文献5では、機能性有機基を有する一つのイオンを含み、有機イオン性化合物を含むフィルム中で移動性イオンとして機能するほど小さい別のイオンを含む、非ポリマー状有機イオン性化合物により、有機発光電子化学電池(いわゆるLEC)等の有機発光電子化学素子の寿命と効率を向上させることが記載されており、該非ポリマー状有機イオン性化合物は単荷有機カチオン性化合物と単荷アニオン性化合物からなることが記載されている。非特許文献1には、電気化学発光セルに用いられるイオン性化合物として、イミダゾリウム系のカチオンと、硫酸エステル系のアニオンとからなる化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−103234号公報
【特許文献2】US2012/019161A1
【特許文献3】特開2013−171968号公報
【特許文献4】US2012/091446A1
【特許文献5】US2014/014885A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Chem. Soc., vol. 128, p. 15568-15569 (2006)
【発明の概要】
【0010】
有機系のイオン性化合物を発光層の材料の一つとして検討するに当たり、上述した再配向速度を速めることの他に、有機系のイオン性化合物と発光物質との相溶性を増すことによって発光層を形成する有機薄膜の膜質改善を図り、正孔や電子が発光物質にドープされる効率を上げたり、正孔や電子の移動を容易にさせたりすることが考えられる。イオン性化合物と発光物質との相溶性は、分子同士の引力的な相互作用により増すものと考えられるが、そのためには、イオン性化合物を構成するカチオン又はアニオンの種類を適宜選択していく必要がある。しかしながら、発光物質は多数種存在するため、発光物質の種類によらず相溶性に優れたイオン性化合物の開発が待たれていた。
【0011】
前記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、本発明者は、ホスホニウムカチオン又はアンモニウムカチオンと、エステル結合を有するアニオンで構成されるイオン性化合物は、多くの発光物質との相溶性に優れ、発光層を形成する有機薄膜の膜質改善を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、発光層と、その各面に配された電極とを有する電気化学発光セルにおいて、
前記発光層が、発光材料及びイオン性化合物を含み、
前記イオン性化合物が、下記一般式(1)で表される電気化学発光セルを提供することにより、前記課題を解決したものである。
【0013】
【化1】
(式中、MはN又はPを表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。Xはエステル結合を有するアニオンを表す。)
【0014】
また本発明は、前記一般式(1)で表されるイオン性化合物、発光材料及び有機溶媒を含有する、電気化学発光セルの発光層形成用組成物を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【0015】
また本発明は、前記一般式(1)で表される化合物である、電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態における電気化学発光セルの概略断面図である。
図2図2は、電気化学発光セルの発光機構を示す概念図である。図2(a)は電圧印加前の電気化学発光セルを示し、図2(b)は電圧印加後の電気化学発光セルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の電気化学発光セルの好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。後述するとおり、本実施形態の電気化学発光セル10は、イオン液体のアニオンとしての特定種のものを用いる点に特徴の一つを有する。
【0018】
図1に示すとおり、本実施形態の電気化学発光セル10は、発光層12と、その各面に配された電極13,14とを有する。電気化学発光セル10は、互いに対向する一対の電極である第1電極13及び第2電極14と、一対の電極13,14間に挟持された発光層12とを備えている。電気化学発光セル10は、電圧が印加されることにより発光層が発光するようになっている。電気化学発光セル10は、各種ディスプレイ等として使用されるものである。図1においては、電源として直流電源を用い、第1電極13を直流電源の陽極に接続し、第2電極14を陰極に接続している状態が示されている。しかしながら、図示とは反対に、第1電極13を陰極に接続し、第2電極14を陽極に接続してもよい。また、電源として直流電源の代わりに交流電源を用いることも可能である。
【0019】
第1電極13及び第2電極14は、透光性を有する透明電極であってもよいし、半透明又は不透明な電極であってもよい。透光性を有する透明電極としては、インジウムドープ酸化錫(ITO)やフッ素ドープ酸化錫(FTO)などの金属酸化物からなるものが挙げられる。また、不純物を添加したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の透明性を有する高分子からなるものを挙げることができる。半透明又は不透明な電極としては、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、銅(Cu)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)等の金属材料が挙げられる。
【0020】
第1電極13及び第2電極14のうち少なくとも一方を透明電極とすると、発光層12から発せられた光を容易に外部に取り出せるため好ましい。また一方を透明電極とし、他方を不透明な金属電極とした場合には、発光層12から発せられた光を金属電極で反射させつつ外部に取り出せるので好ましい。また、第1電極13及び第2電極14の両方を透明電極としてシースルー発光体としてもよい。更に、第1電極13及び第2電極14の両方を高い反射率を有する材質であるAg等からなる金属電極とし、発光層12の膜厚を制御することで、電気化学発光セル10をレーザー発振素子とすることもできる。
【0021】
第1電極13を透明電極とし、第2電極14を不透明又は半透明な金属電極とした場合、第1電極13は、適切な抵抗率及び光透過性を実現する観点から、例えば10nm以上500nm以下の厚さを有していることが好ましい。第2電極14は、第1電極13と同様に適切な抵抗率及び光透過性を実現する観点から、例えば10nm以上500nm以下の厚さを有していることが好ましい。
【0022】
発光層12は、発光材料とイオン性化合物とが混合されてなるものである。発光層12は固体状及び液体状のいずれであってもよい。発光層12が固体状である場合、一定の形状を維持して、外から加えられる力に対抗することができる。
【0023】
本発明において、発光材料とは、アニオン及びカチオンがドープされることにより電子及び正孔のキャリア体として働く(すなわち、正孔及び電子の輸送機能を有する)とともに、電子及び正孔の結合により励起して発光する(すなわち発光機能を有する)ものをいう。従って、本発明において単に「発光材料」という場合、導電性発光材料を意味する。本発明において、発光材料は、正孔及び電子の輸送機能と発光機能とを併せ持つ材料であってもよいし、或いは、正孔及び/又は電子の輸送機能を有する材料と、該材料から正孔及び電子を受け取って発光する材料との組み合わせであってもよい。
前者の場合、正孔及び電子の輸送機能と発光機能とを併せ持つ材料としては、後述する有機高分子発光材料が挙げられる。また後者の場合、正孔及び/又は電子を輸送する機能を有する材料としては、有機高分子導電材料が挙げられる。後述する通り、有機高分子導電材料には、有機高分子発光材料のほか、ポリビニルカルバゾール等の、導電性を有するが、発光機能を有しないか又は発光機能の低い有機高分子が含まれる。また正孔及び/又は電子を輸送する材料から正孔及び電子を受け取って発光する機能を有する材料としては、通常、有機高分子以外のものが用いられ、後述する金属錯体、有機低分子、量子ドット等を挙げることができる。このように、本発明では、発光機能を有しない、或いは発光機能の低い有機高分子導電材料であっても、金属錯体、有機低分子、量子ドット等の有機高分子以外の発光材料と組み合わせて用いる場合、「発光材料」に含まれる。従って例えば、後述する「発光材料との相溶性」は、発光材料として前記有機高分子導電材料と前記金属錯体、有機低分子又は量子ドットとの組み合わせを用いる場合、発光材料のうちの該導電材料との相溶性を含む。
【0024】
発光層に含まれるイオン性化合物は、イオンの移動性が確保され電気二重層が形成されやすく、正孔や電子の注入を容易なものとするための物質である。本実施形態では、イオン性化合物として、前記の一般式(1)で表されるものを用いる。一般式(1)で表されるイオン性化合物(以下、この化合物のことを「イオン性化合物(1)」とも言う。)は、ホスホニウム塩又はアンモニウム塩である。イオン性化合物(1)は、上述のとおり、そのアニオンとして特定種のものを用いる点に特徴の一つを有する。具体的には、エステル結合を有するアニオンを用いる点に特徴の一つを有する。「エステル結合を有するアニオン」とは、アニオンの構造中にエステル結合部位を有することを言う。エステル結合を有するアニオンを用いたイオン性化合物(1)を含む本実施形態の電気化学発光セルは、意外にも、多くの発光物質との相溶性に優れることが、本発明者の検討の結果判明した。その結果、電気化学発光セルの面発光を均一に行うことができ、しかも低電圧で発光輝度を高めることができることから、消費電力を抑えつつ高輝度を達成することができる。
【0025】
イオン性化合物(1)は、常温(25℃)において固体であってもよく、あるいは液体であってもよい。イオン性化合物(1)は、選択されるカチオン及びアニオンの組み合わせや、カチオンの側鎖であるRないしRの構造により、固体又は液体の状態となるものである。本発明においては、イオン性化合物(1)を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。複数のイオン性化合物(1)を用いる場合、それらのすべてが常温において固体であってもよく、あるいはそれらのすべてが常温において液体であってもよい。更に、それらのうちの少なくとも1種が常温において液体であり、且つそれらのうちの少なくとも1種が常温において固体であってもよい。
【0026】
一般式(1)において、RないしRは、同一の又は異なる飽和脂肪族基を表す。この飽和脂肪族基としては、炭素数1以上20以下である直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく用いられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、t−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、t−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、t−オクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等が挙げられる。飽和脂肪族基の炭素数は1以上12以下であることが更に好ましく、2以上8以下であることが一層好ましい。一般式(1)において、このような飽和脂肪族基を有することで、耐電圧性に優れた発光層を得ることができる。
【0027】
前記の飽和脂肪族基を含むカチオンにおいては、R、R、R及びRがいずれも同一の基であるか、又はR、R、R及びRのうちの3つの基が同一の基Rであり、残り1つの基がRと異なる基Rであり、且つRの炭素数がRの炭素数よりも多いことが好ましい。Rの炭素数とRの炭素数との差は、1以上7以下であることが好ましく、2以上4以下であることが更に好ましい。このような構造を有するカチオンを用いることで、発光ポリマーとの相溶性を維持しつつ、優れた発光特性を発揮できるため好ましい。
【0028】
前記の飽和脂肪族基を含むカチオンとして特に好ましいものは、ホスホニウムイオンとしては、例えばテトラエチルホスホニウムイオン、トリエチルメチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、トリプロピルメチルホスホニウムイオン、トリプロピルエチルホスホニウムイオン、テトラ(n−ブチル)ホスホニウムイオン、トリ(n−ブチル)メチルホスホニウムイオン、トリ(n−ブチル)エチルホスホニウムイオン、テトラ(n−ヘキシル)ホスホニウムイオン、トリ(n−ヘキシル)メチルホスホニウムイオン、エチルトリ(n−ヘキシル)ホスホニウムイオン、ブチルトリ(n−ヘキシル)ホスホニウムイオン、トリ(n−オクチル)(n−ブチル)ホスホニウムイオン、トリ(n−オクチル)エチルホスホニウムイオン及びトリ(n−オクチル)メチルホスホニウムイオンなどが挙げられる。一方、アンモニウムイオンとしては、例えばテトラエチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、トリプロピルメチルアンモニウムイオン、トリプロピルエチルアンモニウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、トリ(n−ブチル)メチルアンモニウムイオン、トリ(n−ブチル)エチルアンモニウムイオン、テトラ(n−ヘキシル)アンモニウムイオン、トリ(n−ヘキシル)メチルアンモニウムイオン、エチルトリ(n−ヘキシル)アンモニウムイオン、ブチルトリ(n−ヘキシル)アンモニウムイオン、トリ(n−オクチル)(n−ブチル)アンモニウムイオン、トリ(n−オクチル)エチルアンモニウムイオン及びトリ(n−オクチル)メチルアンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0029】
一般式(1)においては、R、R、R及びRで表される上述した飽和脂肪族基を構成する炭素に結合する水素原子は、一部フッ素原子で置換されていてもよい。フッ素原子を導入することにより耐電圧性が向上するため、電気化学発光セルの安定性、高寿命化につながる。
【0030】
イオン性化合物(1)におけるアニオンは、上述のとおりエステル結合を有するものである。ここで言うエステル結合とは、有機酸又は無機酸のオキソ酸と、ヒドロキシル基又はチオール基を含む化合物との縮合反応で生成する結合のことである。イオン性化合物(1)におけるアニオンに含まれるエステル結合としては、例えばリン酸とアルコールとの反応で生成するリン酸エステル結合、硫酸とアルコールとの反応で生成する硫酸エステル結合、カルボン酸とチオールとの反応で生成するチオエステル結合、硝酸とアルコールとの反応で生成する硝酸エステル結合、炭酸とアルコールとの反応で生成する炭酸エステル結合などが挙げられる。
【0031】
特に、イオン性化合物(1)におけるアニオンとして、リン酸エステル結合又は硫酸エステル結合を有するアニオンを用いると、該アニオンを含むイオン性化合物(1)は、多くの発光物質との相溶性に一層優れたものになるので好ましい。
【0032】
特に好ましいアニオンは、下記一般式(2)で表されるリン酸エステルアニオン、又は下記一般式(3)で表される硫酸エステルアニオンである。
PO(OR) (2)
SO(OR) (3)
(Rはそれぞれ独立に炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。)
【0033】
一般式(2)又は(3)において、Rは、炭素数1以上20以下である直鎖又は分岐鎖のアルキル基が好ましく用いられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、t−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、t−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、t−オクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等が挙げられる。飽和脂肪族基の炭素数は1以上12以下であることが更に好ましく、2以上8以下であることが一層好ましい。一般式(2)及び(3)において、このような飽和脂肪族基を有することで、耐電圧性に優れた発光層を得ることができる。
【0034】
イオン性化合物(1)におけるアニオンは、カチオンにおけるR、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基を有することも好ましい。具体的には、一般式(2)又は(3)で表されるアニオンにおけるRが、R、R、R及びRの少なくとも一つと同じ基であることが好ましい。とりわけ、イオン性化合物(1)がP(R・PO(OR又はP(R・PO(ORで表されるものであることが、多くの発光物質との相溶性に更に一層優れるとともに、イオン性化合物(1)の製造の容易さの点から好ましい。
【0035】
イオン性化合物(1)は例えば、以下のように製造できる。カチオンがホスホニウムイオンであり、アニオンがリン酸エステル結合を有するものである場合には、目的とするホスホニウムカチオンに対応した三級ホスフィン化合物P(Rと、PO(ORで表される化合物とを反応させることで、P(R・PO(ORで表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。また、三級ホスフィン化合物P(Rと、PO(ORで表される化合物とを反応させることで、P(R・PO(ORで表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。
【0036】
カチオンがホスホニウムイオンであり、アニオンが硫酸エステル結合を有するものである場合には、目的とするホスホニウムカチオンに対応した三級ホスフィン化合物P(Rと、SO(ORで表される化合物とを反応させることで、P(R・SO(OR)で表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。また、三級ホスフィン化合物P(Rと、SO(ORで表される化合物とを反応させることで、P(R・SO(OR)で表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。
【0037】
カチオンがアンモニウムイオンであり、アニオンがリン酸エステル結合を有するものである場合には、目的とするアンモニウムカチオンに対応した三級アミン化合物N(Rと、PO(ORで表される化合物とを反応させることで、N(R・PO(ORで表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。また、三級アミン化合物N(Rと、PO(ORで表される化合物とを反応させることで、N(R・PO(ORで表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。
【0038】
カチオンがアンモニウムイオンであり、アニオンが硫酸エステル結合を有するものである場合には、目的とするアンモニウムカチオンに対応した三級アミン化合物N(Rと、SO(ORで表される化合物とを反応させることで、N(R・SO(OR)で表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。また、三級アミン化合物N(Rと、SO(ORで表される化合物とを反応させることで、N(R・SO(OR)で表されるイオン性化合物(1)を得ることができる。
【0039】
以上の方法でイオン性化合物(1)を製造すると、原則としてハロゲンフリーのイオン性化合物(1)が得られる。イオン性化合物(1)がハロゲンフリーであることは、電気化学発光セルの信頼性を高める点から重要である。しかし、前述したように、電気化学発光セルの耐電圧性を増す観点から、イオン性化合物(1)に一部フッ素原子が導入されていても許容される。
【0040】
上述したように発光層12に含まれる発光材料としては、有機高分子発光材料を用いてもよく、或いは、金属錯体、有機低分子及び量子ドットから選ばれる1種又は2種以上の発光性物質と、有機高分子導電材料(発光性導電材料及び非発光性導電材料の両方を含む)との組み合わせを用いてもよい。
【0041】
なお、一般式(1)で表されるイオン性化合物は、電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物として用いることもできる。一般式(1)で表されるイオン性化合物を含む本発明の電気化学発光セルの発光層用イオン性化合物は、一般式(1)で表されるイオン性化合物のみを含有してもよく、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、溶媒や一般式(1)で表されるイオン性化合物以外の界面活性剤が挙げられる。溶媒としては、後述する各種の溶媒を挙げることができる。また界面活性剤としては、電気化学発光セル又は有機ELにおいて従来用いられている公知の界面活性剤を挙げることができる。本発明の発光層用イオン性化合物は、発光材料と混合して用いる際の使用しやすさから、一般式(1)で表されるイオン性化合物を90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましい。好ましい含有量の上限は100質量%である。
【0042】
発光層12におけるイオン性化合物(1)の含有割合は、イオン移動度を確保し、且つ発光層12の製膜性を高める観点から、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。発光層12中のイオン性化合物(1)の含有量は、発光材料100質量部に対し、10質量部以上25質量部以下であることが好ましい。ここでいう発光材料の量とは、発光材料として有機高分子発光材料を用いる場合は、有機高分子発光材料の量であり、発光材料として、金属錯体、有機低分子又は量子ドット等の発光性物質と有機高分子導電材料との組み合わせを用いる場合は、金属錯体、有機低分子又は量子ドット等の発光性物質、及び有機高分子導電材料の合計量である。なお、本発明の電気化学発光セルにおいては、イオン性化合物(1)に加えてイオン性化合物(1)以外のイオン性化合物(例えばイオン液体等)を用いることもでき、その場合のイオン性化合物(1)以外のイオン性化合物の含有量は、イオン性化合物(1)100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
発光層12に含まれる発光材料が有機高分子発光材料である場合、該有機高分子発光材料は、アニオン及びカチオンがドープされることにより電子及び正孔のキャリア体として働くとともに、電子及び正孔の結合により励起して発光する。このような有機高分子発光材料としては、各種のπ共役系ポリマーを挙げることができる。具体的には、パラフェニレンビニレン、フルオレン、1,4−フェニレン、チオフェン、ピロール、パラフェニレンスルフィド、ベンゾチアジアゾール、ビオチオフィン若しくはこれらに置換基を導入させた誘導体のポリマー又はこれらを含むコポリマー等を挙げることができる。そのような置換基としては、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のアルコキシ基、炭素数6以上18以下のアリール基、〔(−CHCHO−)CH〕で表される基(nは1以上10以下の整数である。)等を挙げることができる。またコポリマーとしては、前記で挙げたπ共役系ポリマーのうち2種類以上のポリマーの各繰り返し単位を結合させてなるものが挙げられる。コポリマーにおける各繰り返し単位の配列としては、ランダム配列、交互配列、ブロック配列、又はそれらを組み合わせた配列が挙げられる。特に、フルオレン若しくはパラフェニレンビニレン又はこれらに置換基を導入させた誘導体のポリマー又はこれらを含むコポリマーを用いることが好ましい。更に有機高分子発光材料として市販品を用いることもできる。そのような市販品としては、例えばSOL2412の名称でSolaris Chem社から入手可能な化合物であるPoly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-alt-co-(9,9'-spirobifluorene-2,7-diyl)]や、PDY-132の名称でメルク社から入手可能な化合物であるPhenylene substituted poly(para-phenylenevinylene)、アルドリッチ社から入手可能な化合物であるPoly[(9,9-di-n-octylfluorenyl-2,7-diyl)-alt-(benzo[2,1,3]thiadiazol-4,8-diyl)]などが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】

発光層12に含まれる発光材料が金属錯体である場合、該金属錯体としては従来有機ELで発光材料として用いられてきた公知のものを用いることができ、例えばトリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノリノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス〔8−(パラ−トシル)アミノキノリン〕亜鉛錯体及びカドミウム錯体、Ir錯体等の燐光性発光体、ビピリジル(bpy)若しくはその誘導体、フェナントロリン若しくはその誘導体を配位子とするルテニウム錯体、オクタエチル(ポルフィリン)白金錯体等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
発光層12に含まれる発光材料が有機低分子である場合、該有機低分子としては従来有機ELで発光材料として用いられてきた公知のものを用いることができ、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレン、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(4−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポルフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等の蛍光性発光体等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ここでいう有機低分子とは、重合反応によって得られる有機化合物以外の有機化合物であることを意味する。
【0046】
発光層12に含まれる発光材料が量子ドットである場合、該量子ドットとしては、C、Si、Ge、Sn、P、Se、Te等の単体の他、2価の陽イオンになるZn、Cd、Hg、Pb等と2価の陰イオンになるO、S、Se、Te等との組み合わせ、3価の陽イオンとなるGa、In等と3価の陰イオンとなるN、P、As、Sb等との組み合わせ、またはこれらを複合的に組み合わせたものを用いることができる。これらの組み合わせの具体例としては、GaN、GaP、CdS、CdSe、CdTe、InP、InN、ZnS、In、ZnO、CdO又はこれらの複合物や混合物が挙げられる。複合的な組み合わせとしては、カルコパイライト型化合物等も好適に用いることができ、例えば、CuAlS、CuGaS、CuInS、CuAlSe、CuGaSe、AgAlS、AgGaS、AgInS、AgAlSe、AgGaSe、AgInSe、AgAlTe、AgGaTe、AgInTe、Cu(In, Al)Se、Cu(In, Ga)(S, Se)、Ag(In, Ga)Se、Ag(In, Ga)(S, Se)等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
電子及び/又はホールを輸送するための有機高分子導電材料としては、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリキノリン、ポリキノキサリンなどが挙げられる。また、上述した有機高分子発光材料も電子及び/又はホールの輸送機能を有するため有機高分子導電材料として使用可能である。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
これらの発光材料は、その機能を十分に発揮させる観点から、発光層12における含有割合が、有機高分子発光材料を用いる場合は60質量%以上99質量%以下であることが好ましく、70質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。また、金属錯体、有機低分子又は量子ドット等の発光性物質と、有機高分子導電材料との組み合わせを用いる場合には、発光層12における、これらの合計量の割合が、60質量%以上99質量%以下であることが好ましく、70質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。
また、金属錯体、有機低分子又は量子ドット等の発光性物質と、有機高分子導電材料とを用いる場合には、金属錯体、有機低分子又は量子ドット等の発光性物質100質量部に対する有機高分子導電材料の割合は、5質量部以上25質量部以下であることが好ましい。
【0049】
発光層12には、発光材料及びイオン性化合物以外の物質を含有させていてもよい。そのような物質としては、例えば界面活性剤、導電性向上のためのポリマー成分(ポリエチレンオキシド等)、製膜性向上のためのポリマー成分(ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等)、有機塩以外の塩等を挙げることができる。また、発光材料として有機高分子発光材料を用いる場合は、ポリビニルカルバゾール等の有機高分子導電材料も、その他の成分に含まれる。発光層12における発光材料及びイオン性化合物以外の成分(ただし溶媒を除く)の量は、発光層12全体を100質量部としたときに、30質量部以下とすることが好ましく、20質量部以下とすることが更に好ましく、10質量部以下とすることが特に好ましい。
【0050】
このようにして構成される発光層12の膜厚は、20nm以上300nm以下であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがより好ましい。発光層12の膜厚がこの範囲であると、発光層12から十分かつ効率よく発光を得ることができることや発光予定部分の欠陥を抑えることができ短絡防止になること等の観点から好ましい。
【0051】
本実施形態の電気化学発光セル10は、例えば以下の製造方法により製造できる。まず、第1電極13が設けられた基板を準備する。第1電極13を例えばITOから形成する場合は、ガラス基板等の表面に、フォトリソグラフィー法又はフォトリソグラフィー法及びリフトオフ法を組み合わせて用いてITOの蒸着膜をパターン状に形成することによって、基板の表面にITOからなる第1電極13を形成することができる。
【0052】
次に、有機溶媒にイオン性化合物(1)と発光材料とを溶解して、電気化学発光セルの発光層形成用組成物を調製する。イオン性化合物(1)と発光材料とを効率よく混合する等の観点から、有機溶媒としてトルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、二硫化炭素、ジメチルクロライド、クロロベンゼン及びクロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を含有することが好ましい。この場合、有機溶媒として、これらの化合物の1種のみを、又は2種以上を組み合わせたもののみを用いることができる。あるいは、これらの化合物の溶解性等の特性を損なわない範囲で、メタノールやエタノール等の他の有機溶媒と混合して用いることもできる。すなわち、イオン性化合物(1)と発光材料を溶解する有機溶媒は、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、二硫化炭素、ジメチルクロライド、クロロベンゼン及びクロロホルムからなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒と、それ以外の有機溶媒とを含有することができる。
【0053】
発光層形成用組成物中のイオン性化合物(1)と発光材料との配合比率(質量比)は前者:後者が1:4〜100であることが好ましい。また溶媒の量は、発光材料及びイオン性化合物をそれぞれ2g/L以上20g/L以下の濃度で溶解した量であることが好ましい。ここでいう発光材料の量とは、発光材料として有機高分子発光材料を用いる場合は、有機高分子発光材料の量であり、発光材料として、金属錯体、有機低分子又は量子ドット等の発光性物質と、有機高分子導電材料との組み合わせを用いる場合は、金属錯体、有機低分子又は量子ドット等の発光性物質及び有機高分子導電材料の合計量である。この発光層形成用組成物を、基板の第1電極13上に、スピンコーティング法等により塗布する。その後、この塗布によって形成された塗膜を乾燥させて有機溶媒を蒸発させ、発光層12を形成する。発光層形成用組成物の調製及び発光層12の形成は、好ましくは水分率100ppm以下の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。この場合の不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。また、浮遊パーティクルなどの異物が発光層に混入することで非発光部形成の原因となることから、発光層形成用組成物の調製及び発光層12の形成は、クリーンルームやグローブボックス内で行うことが好ましい。クリーン度はクラス10000以下が好ましく、クラス1000以下が特に好ましい。なお発光層形成用組成物についてのその他の点は、前述及び後述する電気化学発光セルの説明において詳述した通りである。
【0054】
次に、形成された発光層12に第2電極14を形成する。この場合、発光層12上に、例えばマスクを介した真空蒸着法等によってアルミニウム(Al)を膜状に蒸着することにより、所定のパターンの電極を形成する。このようにして、発光層12上に第2電極14を形成する。これによって、図1に示す電気化学発光セル10が得られる。
【0055】
本実施形態の電気化学発光セル10は、以下の発光機構により発光する。図2(a)及び(b)に示すように、第1電極13が陽極となり第2電極14が陰極となるように発光層12に電圧が印加される。このことにより、発光層12内のイオンが電界に沿って移動し、発光層12における第1電極13との界面近傍にアニオン種が集まった層が形成される。一方、発光層12における第2電極14との界面近傍にカチオン種が集まった層が形成される。このようにして、それぞれの電極の界面に電気二重層が形成される。これにより陽極である第1電極13から、発光層12に対して正孔がドープされ、第1電極13近傍にpドープ領域16が自発形成される一方、陰極である第2電極14から、発光層12に対して電子がドープされ、第2電極14近傍にnドープ領域17が自発形成される。そして、これらのドープ領域が高キャリア密度のp−i−n接合を構成する。その後、pドープ領域16とnドープ領域17から正孔と電子がそれぞれ注入され、i層で励起子を形成する。この励起子のエネルギーにより発光層12が励起される。励起された発光層12が基底状態に戻ることにより光が発せられる。このようにして、発光層12から発光が得られる。所望の波長の光を得るためには、最高被占軌道(Highest Occupied Molecular Orbital)と最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)のエネルギー差(バンドギャップ)が当該所望の波長に対応する発光材料を選択すればよい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の例中の特性は下記の方法によって測定した。
【0057】
<発光輝度>
(1)実施例1ないし20及び比較例1ないし10
電気化学発光セルの第1電極を直流電流の陽極に接続し、第2電極を陰極に接続して、掃引速度1V/secで15Vまで電圧を印加し、その間の輝度の最高値を発光輝度とした。測定はCS−2000(コニカミノルタ社製)により行った。
(2)実施例21ないし24
電気化学発光セルの第1電極を直流電流の陽極に接続し、第2電極を陰極に接続して、掃引速度1V/secまで6Vまで電圧を印加し、6Vにおける輝度を発光輝度とした。測定はCS−2000(コニカミノルタ社製)により行った。
【0058】
<実施例1ないし15>
本実施例はイオン性化合物のカチオンとしてホスホニウムカチオンを使用した例である。
市販のITO膜付きガラス基板(ジオマテック株式会社製、ITO膜厚200nm)を第1電極13として用いた。
発光材料として表1に示す有機高分子発光材料、またイオン性化合物として表1に示す化合物を用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下で有機高分子発光材料のトルエン溶液(濃度:9g/L)と、イオン性化合物のトルエン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で有機高分子発光材料溶液:イオン性化合物の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。
【0059】
次に、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下でガラス基板の第1電極13上に、前記で調製された発光層形成用組成物をスピンコートにより塗布して製膜し、更に50℃のホットプレート上で30分間加熱して有機溶媒を蒸発させた。このようにして、100nmの膜厚からなる固体状の発光層12を形成した。更に、形成された発光層12上に、上述した方法により、50nm厚さのアルミニウム(Al)からなる第2電極14を形成した。このようにして、発光予定部分の面積2mm×2mm角からなる電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を、以下の表1に示す。
【0060】
<実施例16ないし20>
本実施例はイオン性化合物のカチオンとしてアンモニウムカチオンを使用した例である。
発光材料として表1に示す有機高分子発光材料、またイオン性化合物として表1に示す化合物を用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下で有機高分子発光材料のトルエン溶液(濃度:9g/L)と、イオン性化合物のトルエン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で有機高分子発光材料溶液:イオン性化合物の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。以後は、実施例1と同じ操作を行い、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0061】
<比較例1ないし4>
本比較例はイオン性化合物のアニオンとしてエステル結合を有するアニオン以外のアニオンを使用した例である。
市販のITO膜付きガラス基板(ジオマテック株式会社製、ITO膜厚200nm)を第1電極13として用いた。
発光材料として表1に示す有機高分子発光材料、またイオン性化合物として表1に示す化合物を用いて、実施例1と同じ方法で、これらの混合溶液を調製した。更に、実施例1と同じ方法で、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を、以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
<比較例5ないし10>
本比較例はイオン性化合物のカチオンとしてイミダゾリウム系カチオンを使用した例である。
市販のITO膜付きガラス基板(ジオマテック株式会社製、ITO膜厚200nm)を第1電極13として用いた。
発光材料として表2に示す有機高分子発光材料、またイオン性化合物として表2に示す化合物を用いて、実施例1と同じ方法で、これらの混合溶液を調製した。更に、実施例1と同じ方法で、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を、以下の表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で用いたイオン性化合物は、各種の発光物質との相溶性に優れるため、その結果、各比較例に比べると電気化学発光セルの発光輝度が高く、そのときの電圧も低いことから低電圧駆動が可能であることが判る。
【0066】
<実施例21>
本実施例はイオン性化合物のカチオンとしてホスホニウムカチオンを使用し、ホスト発光材料として有機高分子を使用した例である。
発光材料として表3に示す組み合わせの発光材料、またイオン性化合物として表3に示す化合物を用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下でホスト発光材料のトルエン溶液(濃度:9g/L)と、ゲスト発光材料のトルエン溶液(濃度:9g/L)とを体積比でホスト発光材料溶液:ゲスト発光材料溶液=9:1で混合して発光材料溶液を調製した。この発光材料溶液と、イオン性化合物のトルエン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で発光材料溶液:イオン性化合物の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。以後は実施例1と同じ操作を行い、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表3に示す。
【0067】
<実施例22>
本実施例はイオン性化合物のカチオンとしてホスホニウムカチオンを使用し、ホスト発光材料として有機高分子を使用した例である。
発光材料として表3に示す組み合わせの発光材料、またイオン性化合物として表3に示す化合物を用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下でホスト発光材料のクロロベンゼン溶液(濃度:9g/L)と、ゲスト発光材料のクロロベンゼン溶液(濃度:2g/L)とを体積比でホスト発光材料溶液:ゲスト発光材料溶液=9:1で混合して発光材料溶液を調製した。この発光材料溶液と、イオン性化合物のクロロベンゼン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で発光材料溶液:イオン性化合物の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。以後は実施例1と同じ操作を行い、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表3に示す。
【0068】
<実施例23>
本実施例はイオン性化合物のカチオンとしてホスホニウムカチオンを使用し、ホスト発光材料として有機高分子を使用した例である。
発光材料として表3に示す組み合わせの発光材料、またイオン性化合物として表3に示す化合物を用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下でホスト発光材料のクロロベンゼン溶液(濃度:9g/L)と、ゲスト発光材料のクロロベンゼン溶液(濃度:4g/L)とを体積比でホスト発光材料溶液:ゲスト発光材料溶液=9:1で混合して発光材料溶液を調製した。この発光材料溶液と、イオン性化合物のクロロベンゼン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で発光材料溶液:イオン性化合物の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。以後は実施例1と同じ操作を行い、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表3に示す。
【0069】
<実施例24>
本実施例はイオン性化合物のカチオンとしてホスホニウムカチオンを使用し、発光材料として金属錯体及び有機高分子導電性材料を使用した例である。
発光材料として表3に示す組み合わせの発光材料、またイオン性化合物として表1に示す化合物を用いてこれらの混合溶液を調製した。具体的には、アルゴン雰囲気のグローブボックス中、室温下で金属錯体のモノクロロベンゼン溶液(濃度:9g/L)と、有機高分子導電性材料のモノクロロベンゼン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で金属錯体溶液:有機高分子導電性材料溶液=1:9で混合して発光材料溶液を調製した。この発光材料溶液と、イオン性化合物のモノクロロベンゼン溶液(濃度:9g/L)とを体積比で発光材料溶液:イオン性化合物の溶液=4:1で混合して発光層形成用組成物を調製した。以後は実施例1と同じ操作を行い、電気化学発光セル10を作製した。得られた電気化学発光セル10の発光特性を測定した結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示す結果から明らかなとおり、発光材料として有機高分子発光材料以外のものを用いた場合であっても、電気化学発光セルはその発光輝度が高いものであることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上、詳述したとおり、本発明によれば、発光効率が高く、発光輝度に優れた発光層形成用組成物及び発光層用イオン性化合物が提供される。また本発明によれば、この発光層形成用組成物を発光層に使用した電気化学発光セルが提供される。
【要約】
電気化学発光セル(10)は、発光層(12)と、その各面に配された電極(13,14)とを有する。発光層(12)が、発光材料及びイオン性化合物を含む。イオン性化合物が一般式(1)で表される。一般式(1)において、MはN又はPを表す。R、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上20以下の飽和脂肪族基を表す。Xは、リン酸エステル結合又は硫酸エステル結合を有するアニオンであることが好適である。前記発光材料は、有機高分子発光材料、金属錯体、有機低分子又は量子ドットであることが好適である。
図1
図2