(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994209
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】蓄熱装置
(51)【国際特許分類】
F28D 20/02 20060101AFI20160908BHJP
F28F 19/04 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
F28D20/02 D
F28F19/04 A
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-178944(P2014-178944)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-53430(P2016-53430A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】391007242
【氏名又は名称】三菱重工冷熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102738
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】二宮 達
(72)【発明者】
【氏名】溝口 和紀
【審査官】
河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−071589(JP,U)
【文献】
特開2012−083043(JP,A)
【文献】
特開平03−279730(JP,A)
【文献】
実開昭62−066145(JP,U)
【文献】
特開2012−112536(JP,A)
【文献】
特開2012−215323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00−20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜熱利用蓄熱剤が内部に充填される蓄熱容器を有し、
該蓄熱容器内には、内部に熱媒流体が流れ、外周面が蓄熱剤と熱媒流体との間の伝熱面を
構成する金属製熱交換器が配置され、
蓄熱剤の比重より小さく、液相の蓄熱剤の液面から上方に突出する態様で液相の蓄熱剤に
浮遊可能な落とし蓋がさらに設けられ、
該落とし蓋は、蓄熱剤の体積変動に応じて、浮遊したまま上下方向に移動可能なように、
その周側面は、前記蓄熱容器の内周面に対して摺動可能に係合し、
前記金属製熱交換器は、前記蓄熱容器の側面または底面を液密状に貫通するように設けら
れ、
蓄熱剤の種類に応じて、前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間の気密性を調整するための気密性調
整手段が設けられる、ことを特徴とする蓄熱装置。
【請求項2】
前記気密性調整手段は、前記落とし蓋の周側面および/または前記蓄熱容器の内周面に
対して、フッ素樹脂によるコーティング処理を行うことにより形成する、請求項1に記載
の蓄熱装置。
【請求項3】
潜熱利用蓄熱剤が有機系の場合、前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間
隔は、2ミリ以下である、請求項2に記載の蓄熱装置。
【請求項4】
潜熱利用蓄熱剤が無機系の場合、前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間
隔は、10ミリ以下である、請求項2に記載の蓄熱装置。
【請求項5】
前記落とし蓋のレベルを利用して、蓄熱剤による蓄熱量の目安を指示する蓄熱量指示手
段がさらに設けられる、請求項1に記載の蓄熱装置。
【請求項6】
前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間隔が所定値を超える場合において
、
前記落とし蓋の上下方向の移動を案内する案内手段が設けられ、
該案内手段は、前記落とし蓋の下面から下方に突出する突出体と、該突出体の外側周面に
対して、上下方向に摺動可能に外嵌する、前記蓄熱容器の底面から上方に延びる外管とを
有し、
前記外管内には、前記落とし蓋が最下方位置にあるとき、前記外管から溢れないような
量の潤滑油が充填され、前記内管の前記外管に対する円滑な摺動を可能とし、
前記外管の高さは、前記蓄熱容器内の蓄熱剤の液面高さより高く設定される、請求項4に
記載の蓄熱装置。
【請求項7】
前記突出体の下端は、前記蓄熱容器内の蓄熱剤の液面が最下レベルにあるとき、前記蓄
熱容器の底面との間にクリアランスを有する、請求項6に記載の蓄熱装置。
【請求項8】
前記突出体は、内管状であり、前記案内手段は、二重管構造をなし、該二重管構造は、
前記落とし蓋の重心位置に設けられる、請求項7に記載の蓄熱装置。
【請求項9】
前記落とし蓋は、矩形状であり、前記二重管構造は、前記落とし蓋の各隅部に設けられ
る、請求項8に記載の蓄熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱装置に関し、より詳細には、蓄熱特性の劣化を有効に防止しつつ、耐久性を維持するとともに保守点検が容易な蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から潜熱利用の蓄熱剤が多方面で利用されている。
潜熱利用の蓄熱剤は、蓄熱剤の固相と液相との間の相変化における潜熱を利用するタイプであり、蓄熱剤に蓄熱または蓄熱剤から放熱する場合に、蓄熱剤の体積変動が不可避的に発生する。
【0003】
その利用の一態様としては、内部に蓄熱剤が充填された小型の密閉樹脂製容器を複数個、容器内に配置したうえで、容器内に熱媒流体を外部に取り出し可能に充填することにより、
各密閉樹脂製容器の外表面が熱媒流体と蓄熱剤との伝熱面を構成する態様で、熱媒流体から蓄熱剤に蓄熱し、蓄熱剤から熱媒流体に放熱することが行われてきた。
しかしながら、このような利用態様は、樹脂製容器の密閉性ゆえに蓄熱特性の劣化を防止することが可能であるが、以下の点で、そもそも、経済性と熱交換効率の確保との両立を達成しているとはいえない。
すなわち、蓄熱剤が少量ずつ、つまり小さい熱容量しかない蓄熱剤が、厚みに亘る熱通過率がその材質ゆえに低い密閉樹脂製容器に区分けされていることから、密閉樹脂製容器を複数必要とする割には、熱交換効率が良好とはいえない。
【0004】
この点において、蓄熱剤を小型の密閉樹脂製容器から大容器に移し、大容器に直接蓄熱剤を充填したうえで、金属製熱交換チューブを利用することが想定される。より詳細には、蓄熱剤が充填された蓄熱容器内に、内部に熱媒流体が流れ、外周面が蓄熱剤と熱媒流体との間の伝熱面を構成する金属製熱交換チューブを配置する。
しかしながら、容器内の蓄熱剤が空気に接触することにより、時間経過とともに蓄熱剤の特性が劣化、あるいは有機系蓄熱剤の場合には、吸湿、酸化、腐敗による蓄熱剤自体の劣化等の別の技術的問題が引き起こされる。
【0005】
だからといって、たとえば、密閉式膨張タンクのように、ダイフラム膜を利用して、その外周縁を容器の内周面に密閉状に固定することにより、容器内の蓄熱剤の体積変動をダイフラム膜の上下方向の変形により吸収するとすれば、以下のようなさらなる別の技術的問題が引き起こされる。
すなわち、蓄熱容器の保守点検が困難となる点である。
【0006】
より詳細には、蓄熱容器内の熱交換チューブを交換、あるいは容器内を清掃する等蓄熱容器を保守点検する際、蓄熱容器に固定されたダイアフラム膜を取り外す必要があり、不便であるとともに、工数を要するとともに、このようなダイアフラム膜の取り外しにより、ダイアフラム膜自体の劣化も引き起こされる。
また、蓄熱容器が特に大型の場合には、ダイアフラム膜が必然的に大きくなり、可撓性を具備するダイアフラム膜自体の保形性を維持することが困難となり、保形性を確保するのに、たとえば、膜厚を厚肉化するとすれば、容器内の蓄熱剤の体積変動に追従するようにダイフラム膜が上下方向に変形させることが困難となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、蓄熱特性の劣化を有効に防止しつつ、耐久性を維持するとともに保守点検が容易な蓄熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明の蓄熱装置は、
潜熱利用蓄熱剤が内部に充填される蓄熱容器を有し、
該蓄熱容器内には、内部に熱媒流体が流れ、外周面が蓄熱剤と熱媒流体との間の伝熱面を構成する金属製熱交換器が配置され、
蓄熱剤の比重より小さく、液相の蓄熱剤の液面から上方に突出する態様で液相の蓄熱剤に浮遊可能な落とし蓋がさらに設けられ、
該落とし蓋は、蓄熱剤の体積変動に応じて、浮遊したまま上下方向に移動可能なように、その周側面は、前記蓄熱容器の内周面に対して摺動可能に係合し、
前記金属製熱交換器は、前記蓄熱容器の側面または底面を液密状に貫通するように設けられ、
前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間の気密性を保持するための気密性保持手段が設けられる、構成としている。
【0009】
以上の構成を有する蓄熱装置によれば、潜熱利用蓄熱剤が内部に充填される蓄熱容器において、蓄熱容器内には、内部に熱媒流体が流れ、外周面が蓄熱剤と熱媒流体との間の伝熱面を構成する金属製熱交換器が配置されており、伝熱面を介して、熱媒流体から蓄熱剤へ蓄熱し、あるいは蓄熱剤から熱媒流体へ放熱することが可能である。さらに、蓄熱剤の比重より小さく、液相の蓄熱剤の液面から上方に突出する態様で液相の蓄熱剤に浮遊可能な落とし蓋がさらに設けられ、落とし蓋は、蓄熱剤の体積変動に応じて、浮遊したまま上下方向に移動可能なように、その周側面は、蓄熱容器の内周面に対して摺動可能に係合し、落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間の気密性を調整するための気密性調整手段が設けられることから、蓄熱剤の種類に応じて、落とし蓋の周側面と蓄熱容器の内周面との間の気密性を調整することで、蓄熱特性の劣化を有効に防止することが可能である一方、落とし蓋を蓄熱容器の内周面に対して密閉固定するとすれば、蓄熱容器、特にその内部の保守点検が不便であり、手間を要するとともに、保守点検のたびに落とし蓋の装着、脱着を繰り返すことから、蓄熱容器の耐久性が劣化するところ、このような問題を引き起こすことなしに、耐久性を維持するとともに保守点検が容易となる。
【0010】
前記気密性調整手段は、前記落とし蓋の周側面および/または前記蓄熱容器の内周面に対して、フッ素樹脂によるコーティング処理を行うことにより形成するのがよい。
潜熱利用蓄熱剤が有機系の場合、前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間隔は、2ミリ以下であるのがよい。
潜熱利用蓄熱剤が無機系の場合、前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間隔は、10ミリ以下であるのがよい。
【0011】
前記落とし蓋のレベルを利用して、蓄熱剤による蓄熱量の目安を指示する蓄熱量指示手段がさらに設けられるのがよい。
さらに、前記落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間隔が所定値を超える場合において、
前記落とし蓋の上下方向の移動を案内する案内手段が設けられ、
該案内手段は、前記落とし蓋の下面から下方に突出する突出体と、該突出体の外側周面に対して、上下方向に摺動可能に外嵌する、前記蓄熱容器の底面から上方に延びる外管とを有し、
前記外管内には、前記落とし蓋が最下方位置にあるとき、前記外管から溢れないような量の潤滑油が充填され、前記内管の前記外管に対する円滑な摺動を可能とし、
前記外管の高さは、前記蓄熱容器内の蓄熱剤の液面高さより高く設定されるのでもよい。
【0012】
さらにまた、前記突出体の下端は、前記蓄熱容器内の蓄熱剤の液面が最下レベルにあるとき、前記蓄熱容器の底面との間にクリアランスを有するのがよい。
【0013】
加えて、前記突出体は、内管状であり、前記案内手段は、二重管構造をなし、該二重管構造は、前記落とし蓋の重心位置に設けられるのでもよい。
さらに、前記落とし蓋は、矩形状であり、前記二重管構造は、前記落とし蓋の各隅部に設けられるのでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る蓄熱装置の第1実施形態を、図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0015】
本実施形態では、蓄熱装置16の容器3内に充填される蓄熱剤2として、潜熱製蓄熱剤である脂肪酸エステル系のパステルMを用いている。
有機系の潜熱製蓄熱剤としては、他に、たとえば、ポリエチレングリコール系としてPEG1000を用いればよい。
このような蓄熱装置16の第1実施形態が
図1に示されており、蓄熱剤2が蓄熱装置16の容器3内に直接投入され、その蓄熱剤2中に熱交換器の熱交換部6が浸漬されている。この熱交換器の熱交換部6は導管として金属製のチューブ7が用いられ、そのチューブ7には同様に金属製のフィン8が配設されている。これらチューブ7やフィン8は熱伝導率の高い金属素材から構成され、極力薄く構成されている。またフィン8のピッチも小さく構成されている。74は蓄熱剤注入口、75は蓄熱剤排出口である。
【0016】
容器3には、容器3側部の内周面と近接若しくは当接状態で蓄熱剤2の上表面を覆う落とし蓋9が配設され、落とし蓋9は蓄熱剤2の上表面の上下動に追従して移動するようになっている。そのため、蓄熱剤2による空気中の水分や酸素の吸収、蓄熱剤の潜熱温度の変化、潜熱温度グライドの発生を極力防止できるとともに、劣化を伴う蓄熱剤2の特性の変化を抑制できる。同時に、蓄熱剤2の体積変化による蓄熱装置16の破損を防止できることになる。
【0017】
容器3には、熱交換器の導入配管10及び導出配管11が容器3側部を貫通するように配設され、導入配管10及び導出配管11が蓄熱剤2中に浸漬された熱交換部6に連絡されている。
【0018】
熱交換器の導入配管及び導出配管が容器側部を貫通するように配設されているため、蓄熱剤の体積変化による落とし蓋9の上下動が、導入配管及び導出配管の構造に影響を与えない。
【0019】
内部に熱媒流体を流すことにより、熱交換部6のチューブ7やフィン8からなる伝熱面を介して蓄熱剤2に直接熱媒流体の熱を蓄熱可能になっている。また熱交換部6のチューブ7やフィン8からなる伝熱面を介して直接熱媒流体に蓄熱剤2の熱を放熱可能となっている。
【0020】
第1実施形態における落とし蓋9は、蓄熱剤2の上表面に浮遊させる落し蓋であり、落とし蓋9の周側面と容器3の内周面との間の気密性を調整するための隙間調整手段として、容器3の内側面はフッ素樹脂加工処理されており、落とし蓋9側面と容器3側部の内周面との間に、2ミリ以下の隙間を調整したうえで、容器3の内において落とし蓋9のスムーズな上下動が可能になっている。フッ素樹脂加工処理とは、容器3の内周面にフッ素樹脂4を塗布する処理に加えて、フッ素樹脂コーティングされたシートを貼るなど、落とし蓋9側面との摩擦を低減させる処理である。また実施形態では示していないが、落とし蓋9側面にフッ素樹脂加工処理することも可能である。
なお、潜熱利用蓄熱剤が有機系の場合、時間経過とともに蓄熱剤の特性が劣化、あるいは吸湿、酸化、腐敗による蓄熱剤自体の劣化を防止する観点から、落とし蓋9の周側面と蓄熱容器3の内周面との間隔は、2ミリ以下であるのが好ましい。
潜熱製蓄熱剤であるパステルMは、脂肪酸エステルであり、その比重が0.85程度であることから、落とし蓋9を浮遊状態にして上下動させるためにその比重が蓄熱剤2の比重に比較して小さく設定される必要があり、内部に空洞を設け軽量化した金属蓋が用いられている。その他、落とし蓋9として適した素材として、松、桜、コルクなど、脂肪酸エステルよりも比重の小さい素材などが適している。
この場合、落とし蓋9として適した素材として、蓄熱剤の液中に浮遊するのでなく、蓄熱剤の液面より落とし蓋9の上面が上に位置する程度のものを選択する必要がある。
変形例として、落とし蓋9のレベルを利用して、蓄熱剤による蓄熱量の目安を指示する蓄熱量指示手段がさらに設けられるのでもよく、これは、潜熱利用蓄熱剤の場合、液相から固相に相変化する場合には、通常、蓄熱剤の体積が減少し(
図2参照)、その際、外部に放熱され、一方、固相から液相に相変化する場合には、通常、蓄熱剤の体積が増大し(
図2参照)、その際、外部から蓄熱されるところ、容器内における蓄熱剤の液相体積が、蓄熱量の目安となり、液相体積が、蓄熱容器3における液位により把握可能であることから、蓄熱容器3の内周面に蓄熱量の目盛りを記しておくのでもよい。
【0021】
以上の構成を有する蓄熱装置によれば、潜熱利用蓄熱剤が内部に充填される蓄熱容器において、蓄熱容器内には、内部に熱媒流体が流れ、外周面が蓄熱剤と熱媒流体との間の伝熱面を構成する金属製熱交換チューブが配置されており、伝熱面を介して、熱媒流体から蓄熱剤へ蓄熱し、あるいは蓄熱剤から熱媒流体へ放熱することが可能である。さらに、蓄熱剤の比重より小さく、液相の蓄熱剤の液面から上方に突出する態様で液相の蓄熱剤に浮遊可能な落とし蓋がさらに設けられ、落とし蓋は、蓄熱剤の体積変動に応じて、浮遊したまま上下方向に移動可能なように、その周側面は、蓄熱容器の内周面に対して摺動可能に係合し、落とし蓋の周側面と前記蓄熱容器の内周面との間の気密性を調整するための気密性調整手段が設けられることから、蓄熱剤の種類に応じて、落とし蓋の周側面と蓄熱容器の内周面との間の気密性を調整することで、精度の高い加工技術を必要とすることなしに、蓄熱特性の劣化を有効に防止することが可能である一方、落とし蓋を蓄熱容器の内周面に対して密閉固定するとすれば、蓄熱容器、特にその内部の保守点検が不便であり、手間を要するとともに、保守点検のたびに落とし蓋の装着、脱着を繰り返すことから、蓄熱容器の耐久性が劣化するところ、このような問題を引き起こすことなしに、耐久性を維持するとともに保守点検が容易となる。
【0022】
以下に、本発明の第2実施形態について、
図2を参照しながら説明する。以下の説明において、第1実施形態と同様な構成要素については、同様な参照番号を付することによりその説明は省略し、以下では、本実施形態の特徴部分について詳細に説明する。
本発明の第2実施形態の特徴は、潜熱利用蓄熱剤として無機系を採用する場合において、落とし蓋9の周側面30と蓄熱容器3の内周面32との間隔を確保可能であることから、落とし蓋9を水平維持した状態で上下方向に円滑に移動可能とするために、落とし蓋9の上下方向の移動を案内する案内手段34を設けた点にある。
【0023】
より詳細には、潜熱利用蓄熱剤が無機系の場合、有機系に比べて、空気に触れることにより、時間経過とともに蓄熱剤の特性が劣化、あるいは吸湿、酸化、腐敗による蓄熱剤自体の劣化の発生は起きにくく、落とし蓋9の周側面と蓄熱容器3の内周面との間隔D3は、10ミリ以下であるのが好ましい。この場合、落とし蓋9の周側面と蓄熱容器3の内周面との間のクリアランスを大きく確保可能であることから、落とし蓋9の加工精度が要求されず安価に製造可能である反面、蓄熱剤の体積変動により落とし蓋9が円滑に上下方向に移動可能とするように、案内手段34を設ける必要がある。
無機系の潜熱製蓄熱剤としては、たとえば、リン酸水素ナトリウムを用いればよい。
なお、
図2においては、明瞭性のために、
図1とは異なり、蓄熱容器3内の熱交換部6の図示を省略する一方、落とし蓋9と蓄熱容器3とのクリアランスD3、案内手段34における内管38と外管44とのクリアランスを誇張して図示している。
落とし蓋9は、蓄熱容器3が円筒容器であることに対応して、上板50と下板52と両板50、52間を連結する側周板54とからなる円筒状の中空箱体状をなし、下板52には、円形張り出しフランジ56が設けられ、張り出しフランジ56の周側面が、落とし蓋9の周側面30を構成する。
【0024】
案内手段34は、上板50の下面36から、下板52より下方に突出する内管38と、内管38の外側周面40に対して、上下方向に摺動可能に外嵌する、蓄熱容器3の底面42から上方に延びる外管44とを有する二重管構造をなし、二重管構造は、落とし蓋9の重心位置、すなわち、上板50の中心に設けられる。内管38の外管44に対する円滑な摺動を確保するために、内管38の外周面と外管44の内周面との間に潤滑油を充填しており、内管38の外周面と外管44の内周面との間の間隔は、このような観点から定めればよい。
下板52には、内管38が非接触形態で貫通可能な開口58が設けられ、蓄熱剤の蓄熱容器3内における体積変動に伴い落とし蓋9が上下方向に移動する際、内管38が外管44に対して潤滑油を介して案内されつつ、上下方向に移動する下板52が、外管44に接触しないようにしている。
【0025】
外管44内には、落とし蓋9が最下方位置にあるとき、外管44から溢れないような量の潤滑油Bが充填され、内管38の外管44に対する円滑な摺動を可能とし、外管44の高さは、蓄熱容器3内の蓄熱剤の液面高さより高く設定される。これにより、蓄熱容器3内の蓄熱剤と潤滑油46とが混合しないようにしている。
内管38の下端48は、蓄熱容器3内の蓄熱剤の液面が最下レベルにあるとき、蓄熱容器3の底面42との間にクリアランスを有する。
その際、第1実施形態と同様に、外部から蓄熱されるところ、容器内における蓄熱剤の液相体積が、蓄熱量の目安となり、液相体積が、蓄熱容器3における液位により把握可能であることから、落とし蓋9の一部である内管38の内周面に蓄熱量の目盛り61を記しておくのでもよい。
【0026】
以上の構成を有する蓄熱装置によれば、
図2(A)に示すように、蓄熱容器3内の蓄熱剤が、固相で凝固状態にある場合には、蓄熱剤の蓄熱容器3内での上面レベルは、最下レベルにあり、内管38と外管44との間の潤滑油Bの液位が最上レベルにあるが、落とし蓋9の下板52の下面が固相蓄熱剤の上面により支持される一方、内管38の下端48は、外管44の底面42との間にクリアランスを確保するようにしつつ、潤滑油Bが溢れ出ないようにしている。
図2(B)に示すように、蓄熱剤が蓄熱容器3内の熱交換部6により加熱され、蓄熱する場合、蓄熱剤が体積を増大して半凝固状態となり、それに応じて、落とし蓋9が案内手段34により案内されつつ、円滑に上方に移動する。より詳細には、蓄熱剤の蓄熱容器3内での上面レベルは、最下レベルからD1だけ上方に移動し、それに伴い、内管38と外管44との間の潤滑油Bの液位が最上レベルから下降する。
図2(C)に示すように、蓄熱剤が蓄熱容器3内の熱交換部6によりさらに加熱され、蓄熱する場合、蓄熱剤が完全に液化状態となり、それに応じて、落とし蓋9が案内手段34により案内されつつ、円滑にさらに上方に移動する。より詳細には、蓄熱剤の蓄熱容器3内での上面レベルは、最下レベルからD2だけ上方に移動し、それに伴い、内管38と外管44との間の潤滑油Bの液位が最上レベルからさらに下降する。このとき、落とし蓋9が液相蓄熱剤の液面より上方に浮き、落とし蓋9の周側面と蓄熱容器3の内周面との間の環状部分以外、蓄熱剤の液面は落とし蓋9により覆われる。
なお、蓄熱剤が蓄熱容器3内の熱交換部6により冷却され、放熱する場合は、
図2(C)から
図2(A)へ逆の進行となる。
蓄熱装置の保守メンテナンスの際、たとえば、蓄熱容器3内の熱交換部6を点検したり、交換したりする場合には、第1実施形態と同様に、落とし蓋9を上方に単に引き抜くことにより、蓄熱容器3の開口から内部に容易にアクセス可能とすることが可能となる。
【0027】
変形例としては、落とし蓋9が、矩形状である場合、二重管構造は、落とし蓋9の各隅部に設けられるのでもよい。これにより、落とし蓋9の重心位置に単一の二重管構造を設ける場合に比べて、より安定的に落とし蓋9の上下方向の移動を案内することが可能となる。なお、二重管構造を落とし蓋9の重心位置に設ける場合、落とし蓋9は円形に限らないが、点対称形であるのが好ましく、二重管構造は、落とし蓋9の各隅部に設ける場合、落とし蓋9は矩形状に限らないが、点対称形でない場合に有用である。
【0028】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態において、蓄熱装置の用途について言及していないが、体積変動を引き起こす潜熱利用蓄熱剤が内部に充填される蓄熱容器3を必要とする限り、多種の用途、たとえば、冷凍装置において、負荷冷却器のデフロストに用いられる蓄熱装置として利用してもよい。
たとえば、第2実施形態において、落とし蓋の案内手段の一部としての内管38は、軽量化、コスト低減の観点から中空体のものとして説明したが、それに限定されることなく、落とし蓋の案内機能を奏することが可能である限り、たとえば、中実体でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る蓄熱装置の斜視図(A)および断面図(B)である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る蓄熱装置の概略図であり、
図2(A)は、蓄熱剤が凝固状態、
図2(B)は、蓄熱剤が半凝固状態、
図2(C)は、蓄熱剤が液化状態である場合を示す。
【符号の説明】
【0030】
L 液相蓄熱剤
S 固相蓄熱剤
B 潤滑油
D1 蓄熱剤の蓄熱容器内における凝固状態から半凝固状態への上面レベルの移動量
D2 蓄熱剤の蓄熱容器内における凝固状態から液化状態への上面レベルの移動量
D3 落とし蓋の外周面と蓄熱容器の内周面とのクリアランス
1 蓄熱装置
3 蓄熱容器
4 フッ素樹脂
6 熱交換部
7 チューブ
8 フィン
9 落とし蓋
10 導入配管
11 導出配管
30 周側面
32 内周面
34 案内手段
36 下面
38 内管
40 外側周面
42 底面
44 外管
46 潤滑油
48 下端
50 上板
52 下板
54 側周板
56 張り出しフランジ
58 円形開口
59 中空部
60 内周面
61 目盛