(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、有限要素法による磁場解析結果に基づいて、永久磁石の各要素に対して各要素固有の材料データ(修正B−Hカーブデータ)を定義し、要素数と同じ数の修正B−Hカーブデータについて、再度、有限要素法による磁場解析を行うことから、非線形計算の収束が遅くなり、膨大な時間を要するという問題があるとともに、要素数如何によっては非線形計算が収束せず、求める解が得られないおそれもある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、埋込磁石型同期モータの初期トルクを設定するモータトルクの設定方法及び設定装置において、迅速且つ確実に計算を収束させて、減磁後の総トルクを高い精度で算出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るモータトルクの設定方法及び設定装置では、高温における、永久磁石の各要素における所定回転角度毎の表面磁束密度を算出するための磁場解析を行った後は、非線形計算を行うことなく、各要素の減磁量を実験データを用いて算出するようにしている。
【0009】
具体的には、第1の発明は、少なくとも演算部及び記憶部を有するコンピュータを用いて、ロータコアに永久磁石が埋め込まれたモータの初期トルクを設定するモータトルクの設定方法を対象としている。
【0010】
そして、上記演算部が、上記記憶部に予め記憶されている、上記永久磁石材料の高温でのB−Hカーブデータを読み出し、当該高温でのB−Hカーブデータに基づき有限要素法による磁場解析を行って、高温における、上記永久磁石の各要素における所定回転角度毎の表面磁束密度を算出する磁束密度算出工程と、上記演算部が、上記永久磁石の各要素毎に、上記所定回転角度毎の表面磁束密度の中から、高温での表面磁束密度の最小値を算出する最小磁束密度算出工程と、上記演算部が、上記永久磁石の各要素毎に、上記表面磁束密度の最小値としての動作点に対応する磁化を、残留磁束密度で除した値である磁化パラメータを算出する磁化パラメータ算出工程と、上記演算部が、上記記憶部に予め記憶されている、実験データに基づき設定された、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データを読み出し、当該相関関係データに基づいて、上記算出された磁化パラメータから、上記永久磁石の各要素における減磁率を算出する減磁率算出工程と、上記演算部が、上記永久磁石の各要素における減磁率に基づいて、減磁後の総トルクを算出するトルク算出工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明によれば、高温における、永久磁石の各要素における所定回転角度毎の表面磁束密度を算出する磁束密度算出工程までは、有限要素法による磁場解析(非線形計算)を行うが、その後の工程においては、コンピュータの記憶部に予め記憶されている、実験データに基づき設定された相関関係データを用いた線形計算により、永久磁石の各要素における減磁率を算出することから、迅速且つ確実に計算を収束させることができる。
【0012】
ところで、磁性材料の磁気特性を測定する場合には、通常、磁性材料が磁気飽和した状態にある飽和点から開始して、励磁電流を変化させながら磁束密度を測定することにより、B−Hカーブ(ヒステリシス曲線)を求めるが、磁性材料の減磁後のB−Hカーブを求めようとしても、磁気飽和させるということは減磁した磁性材料の磁気を復元させることを意味することから、飽和点から測定を開始することはできない。このため、このような一般的なB−Hカーブの求め方による限り、磁性材料の減磁後のB−Hカーブを正確に実測することは難しく、それ故、減磁後のB−Hカーブを算出(予測)しても、実測値と比較し難いことから、その正確性を客観的に検証することは困難である。
【0013】
そこで、第1の発明では、永久磁石の減磁後のB−Hカーブを求める(推定する)ことはせず、表面磁束密度の最小値に対応する磁化を、残留磁束密度で除した値である磁化パラメータを算出するとともに、実験データに基づき設定された、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データを用いて減磁率を算出し、かかる算出された減磁率に基づいて減磁後の総トルクを算出するようにしていることから、減磁後の総トルクを高い精度で算出することができる。
【0014】
以上により、埋込磁石型同期モータの初期トルクを設定するモータトルクの設定方法において、迅速且つ確実に計算を収束させて、減磁後の総トルクを高い精度で算出することができる。
【0015】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記記憶部には、上記永久磁石材料の室温でのB−Hカーブデータも記憶されており、上記磁束密度算出工程の前に、上記演算部が、上記永久磁石材料の室温でのB−Hカーブデータを読み出し、当該室温でのB−Hカーブデータに基づき有限要素法による磁場解析を行って、室温における、上記モータの設計総トルク、リラクタンストルク、設計磁石鎖交磁束量、及び、上記永久磁石の各要素における所定回転角度毎の表面磁束密度を算出する減磁前特性算出工程と、上記演算部が、上記設計磁石鎖交磁束量と、上記永久磁石の各要素における室温での表面磁束密度とに基づいて、漏れ磁束係数を算出する漏れ磁束係数算出工程と、をさらに含み、上記トルク算出工程は、上記演算部が、上記永久磁石の各要素における減磁率と、上記漏れ磁束係数と、上記永久磁石の各要素における高温での表面磁束密度とに基づいて、上記永久磁石の減磁後の磁石鎖交磁束量を算出する鎖交磁束量算出工程と、上記演算部が、上記設計磁石鎖交磁束量と、上記減磁後の磁石鎖交磁束量と、上記設計総トルクと、上記リラクタンストルクとに基づいて、減磁後の総トルクを算出する総トルク算出工程と、を有していることを特徴とするものである。
【0016】
第2の発明によれば、鎖交磁束量算出工程では、それ以前の工程において得られた、永久磁石の各要素における高温での表面磁束密度及び漏れ磁束係数と、相関関係データを用いて簡単に算出された減磁率と、に基づいて、迅速且つ簡単に減磁後の磁石鎖交磁束量を算出することができる。
【0017】
さらに、総トルク算出工程では、それ以前の工程において得られた、設計磁石鎖交磁束量、設計総トルク、リラクタンストルク、及び、減磁後の磁石鎖交磁束量に基づいて、迅速且つ簡単に減磁後の総トルクを算出することができる。
【0018】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記総トルク算出工程の後に、上記減磁後の総トルクと、上記設計総トルクとに基づいて、初期トルクを設定する初期トルク設定工程をさらに含むことを特徴とするものである。
【0019】
第3の発明によれば、減磁後の総トルクと、設計総トルクとに基づいて、例えば、設計総トルクに、減磁後の総トルクと設計総トルクとの差を上乗せするといった簡単な手法で、初期トルクを設定することができる。
【0020】
第4の発明は、上記第2の発明において、上記漏れ磁束係数は、下記式(1)により算出されることを特徴とするものである。
漏れ磁束係数(%)=設計磁石鎖交磁束量×100/Σ(永久磁石の各要素における室温での表面磁束密度×永久磁石の各要素における磁極面の面積)・・・式(1)
第4の発明によれば、簡単な線形計算により好適に漏れ磁束係数を算出することができる。
【0021】
第5の発明は、上記第2の発明において、上記減磁後の磁石鎖交磁束量は、下記式(2)により算出されることを特徴とするものである。
減磁後の磁石鎖交磁束量=Σ(永久磁石の各要素における減磁率×永久磁石の各要素における高温での表面磁束密度×永久磁石の各要素における磁極面の面積)×漏れ磁束係数・・・式(2)
ここで、減磁後の磁石鎖交磁束量を求めるに当たっては、減磁後の漏れ磁束係数を別途算出し、これを用いて減磁後の磁石鎖交磁束量を算出すべきとも思える。しかし、減磁後の漏れ磁束係数を式(1)によって求めるには、減磁後の磁石鎖交磁束量が必要となる。とすれば、減磁後の磁石鎖交磁束量を、有限要素法による磁場解析で直接求めればよいが、磁場解析で減磁後の磁石鎖交磁束量を求めるには、減磁後のB−Hカーブが必要であるところ、上述の如く、減磁後のB−Hカーブを正確に求めることは困難である。
【0022】
そこで、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、減磁率が極めて高い(例えば50%を超える)場合でない限り、永久磁石の漏れ磁束係数は、減磁の前後でほとんど変化しないという知見を得、かかる知見に基づいて式(2)を提案した。そうして、第5の発明によれば、漏れ磁束係数が減磁の前後でほとんど変化しないという知見に基づいて、減磁前の漏れ磁束係数を転用することにより、簡単且つ迅速に減磁後の磁石鎖交磁束量を得ることができる。
【0023】
第6の発明は、上記第2の発明において、上記減磁後の総トルクは、下記式(3)により算出されることを特徴とするものである。
減磁後の総トルク=(設計総トルク−リラクタンストルク)×(減磁後の磁石鎖交磁束量/設計磁石鎖交磁束量)+リラクタンストルク・・・式(3)
マグネットトルクは磁石鎖交磁束量に依存するところ、第6の発明によれば、設計磁石鎖交磁束量に対する減磁後の磁石鎖交磁束量の比を用いて、減磁後のマグネットトルクを算出することから、簡単且つ高い精度で、減磁後の総トルクを算出することができる。
【0024】
第7の発明は、ロータコアに永久磁石が埋め込まれたモータの初期トルクを設定するモータトルクの設定装置を対象としている。
【0025】
そして、予め算出された、上記永久磁石材料の高温でのB−Hカーブデータと、実験データに基づいて予め設定された、動作点に対応する磁化を残留磁束密度で除した値である磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データと、を記憶する記憶部と、上記記憶部から読み出した高温でのB−Hカーブデータに基づき有限要素法による磁場解析を行って、高温における、上記永久磁石の各要素における所定回転角度毎の表面磁束密度を算出する第1演算部と、上記第1演算部によって算出された高温での表面磁束密度の中から、上記永久磁石の各要素毎に、高温での表面磁束密度の最小値を算出する第2演算部と、上記第2演算部によって算出された表面磁束密度の最小値としての動作点に対応する磁化を、残留磁束密度で除して磁化パラメータを算出するとともに、上記記憶部から読み出した、上記相関関係データに基づいて、当該算出された磁化パラメータから上記永久磁石の各要素における減磁率を算出する第3演算部と、上記第3演算部によって算出された上記永久磁石の各要素における減磁率に基づいて、減磁後の総トルクを算出する第4演算部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0026】
第7の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るモータトルクの設定方法及び設定装置によれば、高温における、永久磁石の各要素における所定回転角度毎の表面磁束密度の算出までは、有限要素法による磁場解析を行うが、その後は、コンピュータの記憶部に予め記憶されている、実験データに基づき設定された相関関係データを用いた線形計算により、永久磁石の各要素における減磁率を算出することから、迅速且つ確実に計算を収束させることができる。
【0028】
また、正確に求めることが困難な、永久磁石の減磁後のB−Hカーブを求めることはせず、磁化パラメータを算出するとともに、実験データに基づき設定された、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データを用いて減磁率を算出し、かかる算出された減磁率に基づいて減磁後の総トルクを算出するようにしていることから、減磁後の総トルクを高い精度で算出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
−装置構成−
図1は、本実施形態に係るモータトルクの設定装置を実現するコンピュータシステムの概略構成を示す図である。このコンピュータシステム1は、システム全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)3と、ブートプログラム等を記憶しているROM(Read Only Memory )5と、メインメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)7と、2次記憶装置としてのHDD(Hard Disk Drive)9と、解析結果等を表示するCRTディスプレイ11と、CRTディスプレイ11に表示する画像データを蓄積するメモリとして機能するVRAM(Video Random Access Memory)13と、入力装置としてのキーボード15及びマウス17と、を備えている。なお、このコンピュータシステム1はインタフェース21を介して外部機器と通信を行うことが可能となっている。
【0032】
HDD9には、
図2に示すように、そのプログラムメモリに、オペレーティングシステム(OS)19、磁場解析プログラム29、アプリケーションプログラム39等が格納される一方、そのデータメモリに、有限要素モデルデータ49、後述するB−Hカーブデータ59、後述する相関関係データ69等が格納される。この他、磁場解析プログラム29の実行によって作成される有限要素法解析の各種計算結果や、アプリケーションプログラム39の実行によって作成される各種計算結果も、このHDD9のデータメモリに記憶される。なお、磁場解析プログラム29(ソフトウェア)としては、例えば、株式会社JSOL製の「JMAG」を用いることができる。
【0033】
上記構成において、磁場解析プログラム29及びアプリケーションプログラム39は、キーボード15やマウス17からの入力される特定指令に応じて起動される。その際、磁場解析プログラム29及びアプリケーションプログラム39はHDD9からRAM7にロードされ、CPU3によって実行されることによって、このコンピュータシステム1はモータトルクの設定装置として機能することになる。これにより、CPU3が、本発明でいうところの演算部(第1〜第4演算部)に対応し、HDD9が、本発明でいうところの記憶部に対応している。なお、このコンピュータシステム1は上記のようなスタンドアロンの形式ではなく、クライアントサーバ型のネットワークシステムの形式をとり得る。
【0034】
−モータトルクの設定方法−
図3は、本実施形態のモータトルクの設定装置を用いた初期トルクの設定手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートを参照しながら、本実施形態におけるモータトルクの設定装置1の動作を詳しく説明する。
【0035】
本実施形態のモータトルクの設定装置1は、
図4に示すような、12個のティース28の間に12個のスロット30が形成されたステータコア26を有し、各ティース28に集中巻きでコイル35が巻回されたステータ25と、ロータコア31に8つの永久磁石33が埋め込まれたロータ27と、を備える、8極12スロットの埋込磁石型同期モータ23をその解析対象とし、使用時の温度上昇によって生じる熱減磁や、過大な電流に起因する磁界によって生じる熱減磁がモータ特性に及ぼす影響を考慮しつつ、初期トルクを設定するものである。より具体的には、モータトルクの設定装置1は、埋込磁石型同期モータ23の減磁後の総トルクTa’を算出(予測)し、熱減磁により減少したトルクの分だけ上乗せするように、初期トルクを設定するものである。なお、以下の説明では、2次元解析モデルを用いて説明を行うが、これに限らず、3次元解析モデルを用いても同様の解析を行うことができる。
【0036】
最初のステップS1では、モータトルクの設定装置1を用いた解析を行うのに先立ち、磁場解析に用いられる、ロータ27に埋め込まれた永久磁石33を構成する永久磁石材料の室温及び高温でのB−Hカーブデータ59を作成する(B−Hカーブデータ作成工程)。ここで、室温とは、20℃〜25℃であり、また、高温とは、埋込磁石型同期モータ23の使用時の温度上昇を考慮して150℃〜180℃である。
【0037】
B−Hカーブは、直流磁化特性測定装置(B−Hトレーサー)等を用いて求めることが可能である。具体的には、B−Hトレーサー等を用いて、室温及び高温において、永久磁石33を外部磁界により、磁気飽和させ、その飽和点(飽和磁束密度の値を示す状態)から、外部磁場を変化させながら(実際には励磁電流を変化させながら)磁束密度をそれぞれ測定記録することで、
図5に示すような、室温(実線)及び高温(破線)におけるB−Hカーブを得ることができる。なお、
図5は、永久磁石材料の室温及び高温におけるB−Hカーブ(ヒステリシス曲線)のうち第2象限の部分(減磁曲線)のみを示している。
【0038】
そうして、得られたB−Hカーブを、磁場解析プログラム29及びアプリケーションプログラム39が読み込めるような数値データに変換することによって、B−Hカーブデータ59を作成する。
【0039】
次のステップS2では、ステップS1で得られた、永久磁石材料の室温及び高温でのB−Hカーブデータ59をHDD9に記憶させる(B−Hカーブデータ記憶工程)。なお、B−Hカーブデータ59が、磁場解析プログラム29に付随するデータベースに含まれている場合や、過去に行われた解析時のデータベースとしてHDD9に既に記憶されている場合には、ステップS1及びステップS2を省略することができる。
【0040】
次のステップS3では、ロータコア31の材質、ロータコア31の形状、永久磁石33の形状や配置位置、コイル35の巻数、駆動条件(電流、位相、ロータ27の回転数等)、ロータ27の所定回転角度θ、分割要素数などの有限要素モデルデータ49を、キーボード15やマウス17を用いて入力し、HDD9に記憶させる(有限要素モデルデータ入力工程)。
【0041】
次のステップS4では、CPU3が、埋込磁石型同期モータ23上に複数の要素37を設定し、HDD9から読み出した室温でのB−Hカーブデータ59に基づき有限要素法による磁場解析を行って、室温における、埋込磁石型同期モータ23の設計総トルクTa、設計磁石鎖交磁束量Ψa1及び永久磁石33の各要素37の所定回転角度θ毎の表面磁束密度Bを算出する(室温下モータ特性算出工程)。
【0042】
このステップS4では、先ず、磁場解析プログラム29の自動設定機能を用いて、
図6に示すように、埋込磁石型同期モータ23の横断面上に複数の要素(三角形メッシュ及び四角形メッシュ)37を設定する。なお、埋込磁石型同期モータ23の横断面全体に亘って要素37を設定してもよいが、本実施形態の埋込磁石型同期モータ23ように対称性を有する形状のモータを解析する場合には、計算回数を減らすべく、
図6で示すような4分の1分割モデルで解析を行うのが好ましい。また、
図6は、あくまで説明のために、複数の要素37を設定した状態を模式的に示したものであって、実際には、より多数の要素37が設定されることになる。
【0043】
そうして、磁場解析プログラム29を用いて、室温における、埋込磁石型同期モータ23の設計総トルクTa及び設計磁石鎖交磁束量Ψa1を算出するとともに、
図7に示すように、ロータ27をその中心廻りに所定角度づつ回転させつつ、永久磁石33の各要素37の所定回転角度θ毎の表面磁束密度Bを算出するが、これらの算出機能は一般的な解析ソフトに装備された機能により、公知の解析手法を用いて行われることから説明を省略する。ここで、設計総トルクTaとは、熱減磁を考慮することなく、設計通りに埋込磁石型同期モータ23が機能したときに出力されるトルクであり、また、設計磁石鎖交磁束量Ψa1とは、熱減磁を考慮することなく、入力された電流によって永久磁石33から発生する、コイル35に鎖交する磁束量を意味する。
【0044】
次のステップS5では、CPU3が、有限要素法による磁場解析を行って、室温における、磁石埋込型モータのリラクタンストルクTrを算出する(リラクタンストルク算出工程)。このステップS5では、ステップS4で設定された4分の1分割モデルを用いて磁場解析プログラム29による解析を行う。具体的には、永久磁石33を空気層に置き換えて、ステップS4と全く同様に総トルクを算出すれば、その値が、ロータコア31(金属)自体と、コイル35に流した電流により生じる電磁石とが引き合う力であるリラクタンストルクTrとなる。
【0045】
これらにより、室温下モータ特性算出工程S4及びリラクタンストルク算出工程S5が、本発明でいうところの、演算部が、永久磁石材料の室温でのB−Hカーブデータを読み出し、当該室温でのB−Hカーブデータに基づき有限要素法による磁場解析を行って、室温における、モータの設計総トルク、リラクタンストルク、設計磁石鎖交磁束量、及び、永久磁石の各要素における所定回転角度毎の表面磁束密度を算出する減磁前特性算出工程に対応している。
【0046】
次のステップS6では、CPU3が、設計磁石鎖交磁束量Ψa1と永久磁石33の各要素37の室温での表面磁束密度Bとに基づいて、漏れ磁束係数LFを算出する(漏れ磁束係数算出工程)。ここで、漏れ磁束係数LFとは、永久磁石33から流れ出る総磁束量のうち、コイル35に鎖交する磁束量の割合を示す値であり、下記式(1)により算出される。
漏れ磁束係数LF(%)=設計磁石鎖交磁束量Ψa1×100/Σ(永久磁石33の各要素37における室温での表面磁束密度B×永久磁石33の各要素37における磁極面の面積ΔA)・・・式(1)
ここで、「永久磁石33の各要素37における室温での表面磁束密度B」とは、モータのトルクが主として表面磁束密度のピーク値に依存することを考慮して、所定回転角度θ毎に算出された複数の表面磁束密度Bのうち、表面磁束密度Bの最大値のことである。
【0047】
また、「永久磁石33の各要素37における磁極面」とは、
図8に示すように、永久磁石33を構成する全ての要素37a,37b,37c,37d,37e,37f,37g,37h,37i,37j,37k,37l,37m,37n,37o,37pについての、各要素37a,37b,…37o,37pのステータ25と対向する面(図中の太線参照)のことである。
【0048】
すなわち、永久磁石33の各要素37a,37b,…37o,37pの、ステータ25と対向する面の面積をそれぞれΔAa、ΔAb、ΔAc、ΔAd、ΔAe、ΔAf、ΔAg、ΔAh、ΔAi、ΔAj、ΔAk、ΔAl、ΔAm、ΔAn、ΔAo、ΔApとし、ステータ25と対向する面の長さを、それぞれΔla、Δlb、Δlc、Δld、Δle、Δlf、Δlg、Δlh、Δli、Δlj、Δlk、Δll、Δlm、Δln、Δlo、Δlpとし、永久磁石33の軸方向の長さをLとすると、「永久磁石33の各要素37における磁極面の面積ΔA」は、それぞれ、
ΔAa=Δla×L、ΔAb=Δlb×L、ΔAc=Δlc×L、ΔAd=Δld×L、ΔAe=Δle×L、ΔAf=Δlf×L、ΔAg=Δlg×L、ΔAh=Δlh×L、ΔAi=Δli×L、ΔAj=Δlj×L、ΔAk=Δlk×L、ΔAl=Δll×L、ΔAm=Δlm×L、ΔAn=Δln×L、ΔAo=Δlo×L、ΔAp=Δlp×Lと表せる。
【0049】
よって、各要素37a,37b,…37o,37pのステータ25と対向する面の表面磁束密度をそれぞれBa、Bb、Bc、Bd、Be、Bf、Bg、Bh、Bi、Bj、Bk、Bl、Bm、Bn、Bo、Bpとすると、「Σ(永久磁石33の各要素37における室温での表面磁束密度B×永久磁石33の各要素37における磁極面の面積ΔA)」は、
Σ(B×ΔA)=Ba×ΔAa+Bb×ΔAb+Bc×ΔAc+Bd×ΔAd+Be×ΔAe+Bf×ΔAf+Bg×ΔAg+Bh×ΔAh+Bi×ΔAi+Bj×ΔAj+Bk×ΔAk+Bl×ΔAl+Bm×ΔAm+Bn×ΔAn+Bo×ΔAo+Bp×ΔApと表せる。
【0050】
ここで、本実施形態では、
図8に示すように、ステータ25と対向する面の長さΔla,Δlb,…Δlo,Δlpは、すべてΔlで共通であるから、
Σ(B×ΔA)=Δl×L×(Ba+Bb+Bc+Bd+Be+Bf+Bg+Bh+Bi+Bj+Bk+Bl+Bm+Bn+Bo+Bp)と表せる。
【0051】
そうして、永久磁石33の長さ(形状)は、ステップ3で入力されており、これらの表面磁束密度Ba,Bb,Bc,…は、ステップS4で既に算出されており、また、Δlは、要素(例えば、要素37aと要素37b)の接点座標から簡単に算出されることから、式(1)を用いた簡単な線形計算により、漏れ磁束係数LFを迅速に算出することができる。なお、各要素37の接点座標から永久磁石33の各要素37a,37b,…37o,37pの磁極面の長さを算出する機能、及び、式(1)を実行する機能は、アプリケーションプログラム39に組み込まれている。
【0052】
このようにして、室温での漏れ磁束係数LFが求まると、次のステップからは、HDD9に記憶させた、高温でのB−Hカーブデータ59に基づいて、減磁後のモータ特性を算出していく。ここで、従来の磁場解析方法によれば、高温でのB−Hカーブデータ上における動作点を算出し、動作点がクニック点よりも上か下かで不可逆減磁が生じるか否かを判定し、不可逆減磁が生じる場合には、B−Hカーブデータを減磁後のB−Hカーブデータに修正して、要素と同じ数の修正B−Hカーブデータについて、再度、有限要素法による磁場解析を行うのであるが、このような従来の解析手法には以下のような問題がある。
【0053】
すなわち、磁性材料の磁気特性を測定する場合には、外部磁界により、磁性材料を磁気飽和させ、その飽和点(飽和磁束密度の値を示す状態)から、励磁電流を変化させながら磁束密度を測定することにより、B−Hカーブを求めるが、磁性材料の減磁後のB−Hカーブを求めようとしても、磁気飽和させるということは減磁した磁性材料の磁気を復元させることを意味することから、飽和点から測定を開始することはできない。このため、このような一般的なB−Hカーブの求め方による限り、磁性材料の減磁後のB−Hカーブを正確に求めることは困難である。それ故、減磁後のB−Hカーブを算出しても、実測値と比較し難いことから、その正確性を客観的に検証することは難しいという問題がある。
【0054】
また、要素と同じ数の修正B−Hカーブデータについて、再度、有限要素法による磁場解析を行うと、非線形計算の収束が遅く、膨大な時間を要するという問題があり、また、要素数如何によっては非線形計算が収束せず、求める解が得られないおそれもある。
【0055】
そこで、正確に求めることが困難な永久磁石の減磁後のB−Hカーブを求めることなく、線形計算により減磁後の総トルクを高い精度で算出することができないか、という視点に立って、以下の解析手法に至った。
【0056】
すなわち、先ず、高温における、永久磁石33の各要素37の所定回転角度θ毎の表面磁束密度B’を算出することにより、
図9に示すように、高温におけるB−Hカーブ上で動作点Bmの動く範囲を調べる。ここで、動作点BmがB−Hカーブ上を少しでも移動するということは、減磁が生じていることを意味する。
【0057】
そうして、最も減磁の大きいときの動作点Bmを求めるべく、各要素37毎に、高温での表面磁束密度B’の最小値Bmin’を算出する。ここで、永久磁石33に外部磁界による減磁界が作用する場合は、第2象限で描かれるB−Hカーブ上ではなく、J−Hカーブ(4πI−Hカーブ)上での解析が必要になることから、最小値Bmin’から垂線を上げて、J−Hカーブとの交点を磁化J1とすれば、磁化J1は外部磁界を除いて自己減磁界の影響だけを受けた時の磁化力を示すことになる。
【0058】
そうして、減磁率は、残留磁束密度Brから動作点Bdがどれだけ下がったかを表すものなので、磁化J1を、残留磁束密度Brで除した値である磁化パラメータ(=J1/Br)を算出する。このようにして算出された磁化パラメータを用いて、実験データに基づき設定された、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データ69を用いて、減磁率を算出する。このような手法を用いることにより、本実施形態の設定装置1では、動作点とクニック点との関係だけに頼るのではなく、ロータ27の回転による動作点Bmの動きを加味しつつ、熱減磁がモータ特性に及ぼす影響を、高い精度で検証することができる。
【0059】
具体的には、ステップS7では、CPU3が、HDD9から読み出した高温でのB−Hカーブデータ59に基づいて、磁場解析プログラム29を用いて(有限要素法による磁場解析を行って)、高温における、永久磁石33の各要素37の所定回転角度θ毎の表面磁束密度B’を算出する(磁束密度算出工程)。このステップS7では、CPU3が本発明でいうところの第1演算部に対応し、永久磁石33の各要素37毎に、回転角度の数(4分の1分割モデルで90°回転させるとし、所定回転角度を1°とすれば90個)に対応した複数の表面磁束密度B’を算出する。
【0060】
そうして、次のステップS8では、CPU3が、各要素37毎に、高温での表面磁束密度B’の最小値Bmin’を算出する(最小磁束密度算出工程)。このステップS8では、CPU3が、本発明でいうところの第2演算部に対応し、アプリケーションプログラム39を用いて、ステップS7で算出された複数の表面磁束密度B’の中から、その最小値を検索し、ヒットした値を各要素37の最小値Bmin’(動作点)として定義する。
【0061】
次のステップS9では、CPU3が、アプリケーションプログラム39を用いて、各要素37毎に、高温での表面磁束密度B’の最小値Bmin’としての動作点に対応する磁化J1を、残留磁束密度Brで除した値である磁化パラメータ(=J1/Br)を算出する(磁化パラメータ算出工程)。ここで磁束密度は、加えられた磁場Hと永久磁石33の磁化Jとの和で表されることから、高温での表面磁束密度B’の最小値Bmin’としての動作点に対応する磁化J1は、真空の透磁率をμ
0とすると、MKSA単位系では、J1=Bmin’−μ
0×Hと、また、CGS単位系では、J1=Bmin’−×Hと、表される。
【0062】
次のステップS10では、CPU3が、HDD9に予め記憶されている、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データ69を読み出し、当該相関関係データ69に基づいて、算出された磁化パラメータ(=J1/Br)から永久磁石33の各要素37における減磁率を算出する(減磁率算出工程)。ここで、相関関係データ69は、実験データに基づき設定されたものであり、その作成手順は以下の通りである。
【0063】
すなわち、7.0mm×7.0mmの正方形断面を有し、厚さ(磁化方向)が異なる(t=1.0mm,1.5mm,2.0mm,2.5mm,3.0mm,3.5mm)6種類の正方形角柱状の永久磁石を用意する。そうして、フラックスメータを用いて、これら全てについて、室温(20℃〜25℃)における磁束量を測定する。
【0064】
次いで、これら6種類の永久磁石を100℃から250℃まで10℃づつ温度を上げながら、各温度につき1時間加熱保持し、保持後の室温における磁束量をフラックスメータを用いて測定するとともに、
図10に示すように、B−Hトレーサーを用いて、各温度での(16通りの)永久磁石のB−Hカーブを作成する。また、16通りの温度における保持後の室温における磁束量と、保持前の室温における磁束量とに基づいて、各温度毎の磁束量の変化率(不可逆減磁率)を算出する。これにより、16(通り)×6(種類)=96(個)の不可逆減磁率を得る。
【0065】
一方、6種類の永久磁石のパーミアンス係数を近似式により算出し、
図10に示すように、16通りの温度におけるB−Hカーブと、6つのパーミアンス直線との交点である動作点Bmを求める。これにより、16(通り)×6(種類)=96(個)の動作点Bmを得る。そうして、MKSA単位系では、式J=Bm−μ
0×Hを用いて、また、CGS単位系では、式J=Bm−×Hを用いて、96個の動作点Bmに対応する96個の磁化Jを求める。次いで、各温度(各B−Hカーブ)につき6個づつ存在している磁化Jを、各B−Hカーブにおける残留磁束密度Brで除して、96個の磁化パラメータ(=J/Br)を求める。これにより、96個の不可逆減磁率に対応する96個の磁化パラメータが得られる。
【0066】
そうして、磁化パラメータを横軸、不可逆減磁率を縦軸とし、96個の点をプロットし、最小二乗法等により、最も多くこれらの点を通る直線を求めることで、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係を定義し、これを数値化した相関関係データ69を作成する。なお、動作点の位置に対する不可逆減磁率は、材質ごとに異なることから、用いる永久磁石の材質ごとに相関関係データ69を作成する必要がある。以上の作業を、材質の異なる磁石A、磁石B、磁石Cについてそれぞれ行い、得られた磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データ69を、HDD9に予め記憶させておく。
【0067】
図11は、実験データに基づいて予め設定された、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係を示す図である。ロータコア31に埋め込まれた永久磁石33が、例えば磁石Bであり、磁化パラメータ(=J1/Br)が、例えば0.8であれば、
図11から、不可逆減磁率は−20(%)ということになる。なお、本実施形態では、埋込磁石型同期モータ23の減磁後の総トルクTa’を算出することから、このステップS10で算出する永久磁石33の各要素37の減磁率としては、−20(%)ではなく、減磁前の状態(100(%))から不可逆減磁率(−20(%))を差し引いた値である0.8(80(%))を算出する。
【0068】
なお、このステップS9及びS10では、CPU3が、本発明でいうところの、表面磁束密度の最小値としての動作点に対応する磁化を、残留磁束密度で除して磁化パラメータを算出するとともに、記憶部から読み出した、相関関係データに基づいて、当該算出された磁化パラメータから永久磁石の各要素における減磁率を算出する第3演算部に対応している。
【0069】
次のステップS11では、CPU3が、永久磁石33の各要素37における減磁率と、漏れ磁束係数LFと、永久磁石33の各要素37における高温での表面磁束密度B’とに基づいて、減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2を算出する(鎖交磁束量算出工程)。ここで、減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2は、下記式(2)により算出される。
減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2=Σ(永久磁石33の各要素37における減磁率×永久磁石33の各要素37における高温での表面磁束密度B’×永久磁石33の各要素37における磁極面の面積)×漏れ磁束係数LF・・・式(2)
ここで、「永久磁石33の各要素37における高温での表面磁束密度B’」とは、減磁率との整合を図るべく、所定回転角度θ毎に算出された複数の表面磁束密度B’のうち、最小値Bmin’のことである。また、「永久磁石33の各要素37における磁極面」とは、ステップS6と同様に、永久磁石33を構成する全ての要素37a,37b,…37o,37pについての、各要素37a,37b,…37o,37pのステータ25と対向する面のことである。
【0070】
なお、減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2を求めるに当たっては、減磁後の漏れ磁束係数を別途算出し、これを用いて減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2を算出すべきとも思えるが、減磁後の漏れ磁束係数を上記式(1)によって求めるには、減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2が必要となる。とすれば、減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2を、有限要素法による磁場解析で直接求めればよいが、磁場解析で減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2を求めるには、減磁後のB−Hカーブが必要であるところ、上述の如く、減磁後のB−Hカーブを正確に求めることは困難である。
【0071】
そこで、式(2)では、減磁率が極めて高い(例えば50%以上)場合でない限り、永久磁石の漏れ磁束係数は、減磁の前後でほとんど変化しないという知見に基づいて、減磁前の漏れ磁束係数LFを転用することにより、簡単且つ迅速に減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2を得るようにしている。
【0072】
次のステップS12では、CPU3が、設計磁石鎖交磁束量Ψa1と、減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2と、設計総トルクTaと、リラクタンストルクTrとに基づいて、減磁後の総トルクTa’を算出する(総トルク算出工程)。ここで、減磁後の総トルクTa’は、下記式(3)により算出される。
減磁後の総トルクTa’=(設計総トルクTa−リラクタンストルクTr)×(減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2/設計磁石鎖交磁束量Ψa1)+リラクタンストルクTr・・・式(3)
このように、ステップS12では、設計磁石鎖交磁束量Ψa1に対する減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2の比を用いて、減磁後のマグネットトルクを算出することから、簡単且つ高い精度で、減磁後の総トルクTa’を算出することができる。
【0073】
これらにより、ステップS11(鎖交磁束量算出工程)とステップS12(総トルク算出工程)とが、本発明で言うところの、演算部が、永久磁石の各要素における減磁率に基づいて、減磁後の総トルクを算出するトルク算出工程に対応しているとともに、CPU3が、本発明でいうところの、算出された上記永久磁石の各要素における減磁率に基づいて、減磁後の総トルクを算出する第4演算部に対応している。
【0074】
そうして、次のステップS13では、減磁後の総トルクTa’と、設計総トルクTaとの差に基づいて、初期トルクを設定する(初期トルク設定工程)。具体的には、このステップS13では、設計総トルクTaに、減磁後の総トルクTa’と設計総トルクTaとの差を上乗せすることにより初期トルクを設定する。
【0075】
−解析結果−
以上のようにして、初期トルクを設定して、実機により検証を行ったところ、170℃という高温下での使用にも拘わらず、測定されたモータトルクは、設計トルクと2%しか違わないことが確認された。これにより、本実施形態に係るモータトルクの設定方法及び設定装置の有用性が確認された。
【0076】
−効果−
本実施形態によれば、高温における、永久磁石33の各要素37の所定回転角度θ毎の表面磁束密度B’を算出する磁束密度算出工程S7までは、有限要素法による磁場解析を行うが、その後の工程においては、算出された高温における表面磁束密度B’に基づいて、コンピュータ1のHDD9に予め記憶されている、実験データに基づき設定された相関関係データ69を用いた線形計算により、各要素の減磁率を算出することから、迅速且つ確実に計算を収束させることができる。
【0077】
また、正確に求めることが困難な、永久磁石33の減磁後のB−Hカーブを求めることはせず、表面磁束密度B’の最小値Bmin’としての動作点に対応する磁化J1を、残留磁束密度Brで除した値である磁化パラメータを算出するとともに、実験データに基づき設定された、磁化パラメータと不可逆減磁率との相関関係データ69を用いて減磁率を算出し、かかる算出された減磁率に基づいて減磁後の総トルクTa’を算出するようにしていることから、減磁後の総トルクTa’を高い精度で算出することができる。
【0078】
さらに、漏れ磁束係数算出工程S6では、簡単な線形計算により漏れ磁束係数LFを算出することができる。
【0079】
また、鎖交磁束量算出工程S11では、減磁前の漏れ磁束係数LFを転用することにより、簡単且つ迅速に減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2を得ることができる。
【0080】
さらに、マグネットトルクは磁石鎖交磁束量に依存するところ、総トルク算出工程S12では、設計磁石鎖交磁束量Ψa1に対する減磁後の磁石鎖交磁束量Ψa2の比を用いて、減磁後のマグネットトルクを算出することから、簡単且つ高い精度で、減磁後の総トルクTa’を算出することができる。
【0081】
また、初期トルク設定工程S13では、減磁後の総トルクTa’と、設計総トルクTaとの差に基づいて、例えば、設計総トルクTaに当該差を上乗せするといった簡単な手法で、初期トルクを設定することができる。
【0082】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0083】
上記実施形態では、解析対象として、ステータ25にスロット30が12個形成されるとともに、ロータコア31に8つの永久磁石33が埋め込まれた、8極12スロットの埋込磁石型同期モータ23を用いたが、これに限らず、ステータ25に12個よりも多い又は少ないスロット30が形成されるとともに、ロータコア31に8つより多い又は少ない永久磁石33が埋め込まれた埋込磁石型同期モータにも適用できる。
【0084】
また、上記実施形態では、初期トルク設定工程S13において、減磁後の総トルクTa’と、設計総トルクTaとの差に基づいて、初期トルクを設定したが、これに限らず、例えば、減磁後の総トルクTa’と、設計総トルクTaとの比に基づいて、初期トルクを設定してもよい。
【0085】
さらに、上記実施形態では、漏れ磁束係数算出工程S6において、「永久磁石33の各要素37における室温での表面磁束密度B」として、所定回転角度θ毎に算出された複数の表面磁束密度Bのうち、表面磁束密度Bの最大値を用いているが、これに限らず、例えば、所定回転角度における表面磁束密度等を用いてもよい。
【0086】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。