特許第5994297号(P5994297)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994297
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20160908BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
   F02D13/02 G
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-52088(P2012-52088)
(22)【出願日】2012年3月8日
(65)【公開番号】特開2013-185517(P2013-185517A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 一生
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−001888(JP,A)
【文献】 特開2005−264764(JP,A)
【文献】 特開2009−203830(JP,A)
【文献】 特開2013−053616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
F02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、
前記駆動側回転部材と同軸上に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、
前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材とで形成される流体圧室と、
前記駆動側回転部材および前記従動側回転部材の少なくとも一方に設けられた仕切部で前記流体圧室を仕切ることにより形成される進角室および遅角室と、
前記駆動側回転部材または前記従動側回転部材の何れか一方の回転部材に収容されかつ前記駆動側回転部材または前記従動側回転部材の何れか他方の回転部材に対して出退可能なロック部材と、前記ロック部材が突出したときに嵌合可能となるように前記他方の回転部材に形成されたロック孔とを有しており、前記ロック部材が突出して前記ロック孔と嵌合することにより前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の相対回転位相が最遅角位相と最進角位相との間の中間位相に拘束されるロック状態と、前記ロック部材が前記ロック孔から退出することにより前記拘束が解除されるロック解除状態とに切換え可能な中間ロック機構と、
通電されたときに流体を排出させて前記中間ロック機構を前記ロック状態にし、通電が遮断されたときに前記流体を供給させて前記中間ロック機構を前記ロック解除状態にするように動作するオイルスイッチングバルブと、
前記進角室への前記流体の供給または排出、および前記遅角室への前記流体の排出または供給、ならびに前記オイルスイッチングバルブの動作を制御する制御部と、を備え、
前記中間ロック機構が前記ロック状態にあるときに、前記制御部からの前記内燃機関の作動停止指令に基づいて前記ロック部材の受圧面が受ける前記流体の圧力が低下し始めて、予め規定された前記ロック部材のロック状態を解除可能なロック部材解除閾値を下回った直後に、前記オイルスイッチングバルブへの通電が遮断される弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記流体の圧力は、流体圧センサにより検出される請求項に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記流体の圧力は、前記内燃機関の前記クランクシャフトの回転数と前記内燃機関を流通する冷媒の温度とに基づいて算出される請求項に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
前記流体の圧力は、時間に基づいて算出される請求項に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転体に対する従動側回転体の相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関(以下エンジンとも言う)の運転状況に応じて吸気弁および排気弁の開閉時期を変更可能とする弁開閉時期制御装置が実用化されている。この弁開閉時期制御装置は、例えば、エンジンの作動による駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相を変化させることにより、従動側回転体の回転に伴って開閉される吸排気弁の開閉時期を変更する機構を有している。
【0003】
一般に、吸排気弁の最適な開閉時期はエンジンの始動時や車両の走行時などエンジンの運転状況により異なる。そこで、エンジンの始動時には、駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相を所定位相に拘束することにより、エンジンの始動に最適な吸排気弁の開閉時期を実現すると共に、駆動側回転体と従動側回転体によって形成される流体圧室の仕切部が揺動して打音が発生するのを抑制している。そのため、エンジンを停止させる前は、相対回転位相を所定位相に拘束する必要がある。
【0004】
相対回転位相を所定位相に拘束するためのロック機構には、例えば、駆動側回転部材と従動側回転部材の何れか一方の回転部材にロック部材および該ロック部材に付勢力を与えるコイルスプリングが収容され、他方の回転部材にロック孔が形成されたものがある。このロック機構では、付勢力によってロック部材を突出させてロック孔と嵌合させてロック状態とし、付勢力より大きい作動流体(以下作動油とも言う)の圧力によりロック部材をロック孔から退出させてロック解除状態としている。
【0005】
特許文献1には、上記のようなロック機構を有する内燃機関の制御装置が開示されている。この内燃機関の制御装置には、最遅角位相と最進角位相の間にある所定の中間位相でアウタロータに対するインナロータの相対回転位相をロックするロック機構が設けられている。アイドリング時には相対回転位相は最遅角位相になっている。この状態でイグニションスイッチをオフにすると、オイルスイッチングバルブは通電され、ロック解除用油圧室に作動油が供給されなくなる。その後オイルコントロールバルブが切り換えられて相対回転位相が進角方向に変化する。そして相対回転位相が所定の中間位相になると、バネの付勢力によりロックキーがロック解除用油圧室に嵌合・係止してアウタロータとインナロータの相対回転位相がロックされる。
【0006】
アウタロータとインナロータの相対回転位相が中間位相でロックされたか否かは、中間位置固定判定手段により判断される。ロックされたと判断されると、イグニションはオフとなりエンジンは停止する。イグニションのオフと同時にオイルスイッチングバルブへの通電が遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−1888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1においては、エンジンの回転によりオイルポンプを作動させて作動油を供給している。よって、イグニションのオフによるエンジン回転数の下降開始からエンジン停止までの間にもオイルポンプは作動油を供給し油圧が発生する。このとき、オイルスイッチングバルブへの通電は既に遮断されているので、ロック解除用油圧室にはオイルポンプから作動油が供給され、ロックキーの受圧面に対して油圧が作用する。作用した油圧がロックキーのロック解除油圧を上回った場合には、ロックが解除される。ロックが解除されると、オイルコントロールバルブから作動油が供給される方向またはカム平均トルクが発生する方向(一般的には遅角方向)に相対回転位相が変化してしまい、最適な吸排気弁の開閉時期によるエンジンの始動ができなくなるおそれがあった。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明は、エンジン停止のために駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相がロックされると、その後のイグニションのオフによるエンジン回転数の下降開始からエンジン停止までの間に相対回転位相が変化しない、すなわちロック状態が維持される弁開閉時期制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転部材と、前記駆動側回転部材と同軸上に配置され前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転部材と、前記駆動側回転部材と前記従動側回転部材とで形成される流体圧室と、前記駆動側回転部材および前記従動側回転部材の少なくとも一方に設けられた仕切部で前記流体圧室を仕切ることにより形成される進角室および遅角室と、前記駆動側回転部材または前記従動側回転部材の何れか一方の回転部材に収容されかつ前記駆動側回転部材または前記従動側回転部材の何れか他方の回転部材に対して出退可能なロック部材と、前記ロック部材が突出したときに嵌合可能となるように前記他方の回転部材に形成されたロック孔とを有しており、前記ロック部材が突出して前記ロック孔と嵌合することにより前記駆動側回転部材に対する前記従動側回転部材の相対回転位相が最遅角位相と最進角位相との間の中間位相に拘束されるロック状態と、前記ロック部材が前記ロック孔から退出することにより前記拘束が解除されるロック解除状態とに切換え可能な中間ロック機構と、通電されたときに作動流体を排出させて前記中間ロック機構を前記ロック状態にし、通電が遮断されたときに前記作動流体を供給させて前記中間ロック機構を前記ロック解除状態にするように動作するオイルスイッチングバルブと、前記進角室への前記作動流体の供給または排出および前記遅角室への前記作動流体の排出または供給ならびに前記オイルスイッチングバルブの動作を制御する制御部とを備え、前記中間ロック機構が前記ロック状態にあるときに、前記制御部からの前記内燃機関の作動停止指令に基づいて前記ロック部材の受圧面が受ける前記作動流体の圧力が低下し始めて、予め規定された前記ロック部材のロック状態を解除可能なロック部材解除閾値を下回った直後に前記オイルスイッチングバルブへの通電が遮断される点にある。
【0011】
この弁開閉時期制御装置は、内燃機関のクランクシャフトの回転によりオイルポンプを作動させて作動流体を供給する。よって、イグニションのオフによるクランクシャフト回転数の下降開始から内燃機関の作動停止までの間にもオイルポンプは作動流体を供給し流体圧が発生する。しかし、クランクシャフト回転数の下降開始時にはオイルスイッチングバルブへの通電は継続されているので、作動流体は中間ロック機構に供給されず、ロック部材がロック孔と嵌合したロック状態が継続する。そして、クランクシャフト回転数の下降が開始してロック部材の受圧面が受ける作動流体の圧力が低下し始めてから後に、オイルスイッチングバルブへの通電が遮断され、中間ロック機構に作動流体が供給される。供給された作動流体の圧力はロック部材の受圧面に作用するが、当該圧力はロック状態を解除するために十分な大きさではないので、ロック状態が維持される。その結果、クランクシャフト回転数の下降開始から内燃機関の作動停止までの間で駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相が変化せず、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【0012】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記ロック部材の前記受圧面が受ける前記作動流体の圧力が所定の圧力より低下したときに、前記オイルスイッチングバルブへの通電が遮断されると好適である。
【0013】
このような構成とすれば、ロック状態を解除可能にする流体圧の閾値よりも作動流体の圧力が低下したときにオイルスイッチングバルブへの通電を遮断することができるので、通電の遮断後も中間ロック機構は確実にロック状態を維持することができる。その結果、クランクシャフト回転数の下降開始から内燃機関の作動停止までの間は駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相が変化しないので、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【0014】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記作動流体の圧力は、流体圧センサにより検出されると好適である。
【0015】
このような構成とすれば、ロック部材の受圧面が受ける作動流体の圧力を直接的かつ正確に検出することができる。そのため、クランクシャフト回転数の下降開始から内燃機関の作動停止までの間で、ロック状態を解除可能にする流体圧の閾値よりも作動流体の圧力が下回ったことを検出したときは、直ちにオイルスイッチングバルブへの通電を遮断することができる。その結果、短時間で通電を遮断することができ、必要最小限の通電で確実にロック状態を維持することができ、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【0016】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記作動流体の圧力は、前記内燃機関の前記クランクシャフトの回転数と前記内燃機関を流通する冷媒の温度とに基づいて算出されると好適である。
【0017】
流体圧センサが搭載されていない車両であっても、クランクシャフトの回転数を検出するクランク角センサや内燃機関を流通する冷媒の温度を計測する冷媒温度センサは必ず備えられている。クランクシャフトの回転数に基づいて流体圧の範囲を間接的に得ることができる。冷媒温度センサにより検出された冷媒の温度に基づいてその時点での作動流体の温度範囲を間接的に得ることができる。作動流体の圧力と作動流体の温度の間には負の相関関係があることからクランクシャフトの回転数と冷媒の温度からより狭い範囲での流体圧を推定することができる。これより、クランクシャフト回転数の下降開始から内燃機関の作動停止までの間で、推定された流体圧がロック状態を解除可能にする流体圧の閾値を下回ったときにオイルスイッチングバルブへの通電を遮断することができ、通電の遮断後も中間ロック機構は確実にロック状態を維持することができ、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【0018】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記作動流体の圧力は、時間に基づいて算出されると好適である。
【0019】
このような構成とすれば、ロック部材の受圧面が受ける流体圧がロック状態を解除可能にする流体圧を十分に下回るまでの時間が経過した後にオイルスイッチングバルブへの通電を遮断することができる。この結果、各種センサによる複雑な制御をすることなく、安価な構成で中間ロック機構は確実にロック状態を維持することができ、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る弁開閉時期制御装置の全体構成を表す側断面図
図2】ロック状態における図1のII−II断面図
図3】ロック解除状態における図1のII−II断面図
図4】内燃機関の作動停止時における各パラメータの変化を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
1.弁開閉時期制御装置の構成
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。図1に本実施形態に係る弁開閉時期制御装置1の全体構成を表す側断面図を示す。図1に示すように、弁開閉時期制御装置1は、内燃機関としてのエンジン100のクランクシャフト101と同期回転する駆動側回転体としてのハウジング2と、ハウジング2の内部かつ同軸上に配置され、カムシャフト104と同期回転する従動側回転体としてのインナロータ3とを備えている。ハウジング2とインナロータ3は、焼結やアルミ合金等の金属製である。カムシャフト104は、エンジン100の吸気弁の開閉を制御するカム(不図示)の回転軸である。
【0022】
インナロータ3は、カムシャフト104の先端部に一体的に組付けられている。カムシャフト104は、エンジン100のシリンダヘッド(不図示)に回転自在に組み付けられている。
【0023】
ハウジング2は、フロントプレート21と、タイミングスプロケット23aを一体的に備えているリアプレート23と、それらの間にあるアウタロータ22とがねじ等の締結により一体となって構成されている。インナロータ3はハウジング2に対して一定の範囲内で相対回転移動が可能である。
【0024】
カムシャフト104の周囲にはインナロータ3とフロントプレート21とに亘ってトーションスプリング103が設けられている。ハウジング2およびインナロータ3は、トーションスプリング103の付勢力により、相対回転位相が進角方向になるように付勢されている。なお、トーションスプリング103は、弁開閉時期制御装置1が搭載されているエンジン100に基づき、遅角方向に付勢するトーションスプリングでも良いし、トーションスプリングなしでも良い。
【0025】
クランクシャフト101が回転駆動すると、動力伝達部材102を介してタイミングスプロケット23aにその回転駆動力が伝達され、ハウジング2が図2に示す相対回転方向Sに回転駆動する。ハウジング2の回転駆動に伴い、インナロータ3が相対回転方向Sに回転駆動してカムシャフト104が回転し、カムシャフト104に設けられたカムがエンジン100の吸気弁を開閉させる。
【0026】
図2および図3図1のII−II断面図を示す。図2に示すように、アウタロータ22には、径方向内側に突出する4個の突出部24が相対回転方向Sに沿って互いに離間して形成され、突出部24とインナロータ3とにより流体圧室4が形成されている。本実施形態においては、流体圧室4が4個となるよう構成されているが、これに限られるものではない。
【0027】
それぞれの流体圧室4に面するインナロータ3の外周部分にはベーン溝32が形成されており、このベーン溝32には本発明における仕切部としてのベーン31が径方向に沿って摺動可能に支持されている。ベーン31はその内径側に備えられるバネ(不図示)により、径方向外側に付勢されている。ベーン31によって、流体圧室4は相対回転方向Sに沿って進角室41と遅角室42とに仕切られる。進角室41と遅角室42はインナロータ3に形成されている進角通路43と遅角通路44にそれぞれ接続されており、これらの通路を介して作動流体の供給および排出が行われる。進角通路43および遅角通路44は、後述する流体給排機構6に接続されている。
【0028】
弁開閉時期制御装置1には、ハウジング2とインナロータ3の相対回転位相を最進角位相と最遅角位相との間の中間位相である中間ロック位相に拘束する中間ロック機構5が設けられている。中間ロック位相は、内燃機関を始動するのに最適な所定の位相、もしくは内燃機関の始動が可能な範囲内で排ガスを低減するのに適した位相である。中間ロック機構5の構成について以下に簡単に説明する。図2に示すように、中間ロック機構5は、同じ突出部24で周方向に離間した2つの部分から構成される。すなわち、アウタロータ22に形成された2つのロック部材挿入部25、25と、該ロック部材挿入部25、25に挿入され径方向内側に出退可能なプレート状のロック部材51、51と、インナロータ3に形成されロック部材51、51と嵌合可能なロック孔52、52と、ロック部材51、51に対して径方向内側に突出させる付勢力を付与するコイルスプリングなどの付勢部材53、53と、付勢部材53、53を圧縮状態に保持するストッパ54、54から構成される。ロック部材51、51の形状は、本実施形態に示されたプレート状の他にピン状などを適宜採用することができる。
【0029】
ロック孔52、52にはそれぞれロック解除通路55、55が連通している。ロック解除通路55、55を介して作動流体の供給および排出が行われる。ロック解除通路55、55は、後述する流体給排機構6に接続されている。
【0030】
ロック孔52、52から作動流体が排出されている状態で、ハウジング2とインナロータ3の相対回転によりロック部材51、51とロック孔52、52が対向したときに、付勢部材53、53の付勢力によりロック部材51、51は径方向内側に突出しロック孔52、52と嵌合する。これにより、ハウジング2とインナロータ3の相対回転位相を中間ロック位相に拘束する(以下、「ロックする」とも言う)ロック状態となる。図2に、ロック状態における図1のII−II断面図を示す。
【0031】
ロック状態で、ロック孔52、52にロック解除通路を介して作動流体が供給されたとき、ロック部材51、51の端面は受圧面51a、51aとして作動流体の流体圧力を受ける。受圧面51a、51aが受ける流体圧力が付勢部材53、53の付勢力を上回るとロック部材51、51はロック孔52、52から退出し、拘束が解除されて(以下、「ロック状態が解除されて」とも言う)相対回転位相が変化可能なロック解除状態になる。図3に、ロック解除状態における図1のII−II断面図を示す。
【0032】
流体給排機構6の構成について簡単に説明する。図1に示すように、流体給排機構6は、エンジン100により駆動されて作動流体の供給を行うオイルポンプ61と、進角通路43および遅角通路44に対する作動流体の供給および排出を制御するOCV(オイルコントロールバルブ)62と、中間ロック機構5への作動流体の供給と排出を切り換えるOSV(オイルスイッチングバルブ)63と、オイルポンプ61から吐出される作動流体の圧力を検出する流体圧センサ64、作動流体を貯留するオイルパン65とを備えている。
【0033】
オイルポンプ61は、クランクシャフト101の回転駆動力が伝達されることにより駆動する機械式のポンプである。オイルポンプ61は、オイルパン65に貯留された作動流体を吸入し、その作動流体を下流側にあるOCV62やOSV63に向けて吐出する。
【0034】
OCV62は、オイルポンプ61と進角室41および遅角室42の間に設けられる。OCV62は、制御部であるECU7(エンジンコントロールユニット)による通電量の制御に基づいて内部のスプール弁の位置を変化させて動作する。すなわち、進角室41への作動流体供給と遅角室42からの作動流体排出を行う進角制御、進角室41からの作動流体排出と遅角室42への作動流体供給を行う遅角制御、および進角室41および遅角室42への作動流体給排を遮断する制御の3種類の動作を実行する。
【0035】
本実施形態においては、OCV62への通電量が最大のときに進角制御が可能な作動流体経路が形成され、作動流体が供給されることにより進角室41の容積が増大してアウタロータ22に対するインナロータ3の相対回転位相が進角方向(S1方向)に変位する。通電が遮断されたときに遅角制御が可能な作動流体経路が形成され、作動流体が供給されることにより遅角室42の容積が増大して相対回転位相が遅角方向(S2方向)に変位する。
【0036】
OSV63は、オイルポンプ61とロック孔52、52の間でかつOCV62とは並列に設けられる。OSV63は、ECU7による通電、遮断の制御に基づいて内部のスプール弁の位置を変化させて作動流体の供給と排出とを切り換える。すなわち、通電されたときにロック孔52、52から作動流体は排出され、通電が遮断されたときにロック孔52、52に作動流体が供給される。OSV63が通電されて作動流体が排出されたときにロック部材51、51とロック孔52、52が対向するとロック状態となる。ロック状態でOSV63の通電が遮断されて作動流体が供給されたときに、ロック部材51、51の受圧面51a、51aが受ける流体圧力が付勢部材53、53の付勢力を上回るとロック解除状態となる。なお、OSV63とOCV62の作動は独立している。
【0037】
流体圧センサ64は、オイルポンプ61の吐出口の下流側でかつ、作動流体の通路がOCV62とOSV63とに分岐する分岐点より上流側に配置されている。流体圧センサ64はオイルポンプ61から吐出される作動流体の圧力値をリアルタイムで検出して、圧力値の信号をECU7に伝送する。
【0038】
2.弁開閉時期制御装置の動作
次に、図4に示すエンジン100の作動停止時のタイミングチャートにより、各パラメータの変化について説明する。エンジンの始動時および運転中における弁開閉時期制御装置の動作は公知であるため、詳細な説明は省略する。本実施形態においては、エンジン100の作動停止前のアイドリング時では、ハウジング2とインナロータ3の相対回転位相は最遅角位置にある。この状態でエンジン100のイグニションスイッチ(図4におけるIGN SW参照)をオフにすると(図3における時間T1)、ECU7がイグニションスイッチオフによる作動停止信号を検出して、中間ロック機構5によってハウジング2とインナロータ3とが中間ロック位相でロックされるように、OSV63に通電する制御を行う(図4におけるOSV DUTY参照)。OSV63が通電されると、ロック孔52、52に存在している作動流体がロック解除通路55、55を介して排出される。ECU7は作動停止信号を検出しても、ハウジング2とインナロータ3の相対回転位相が中間ロック位相になってロックされるまではイグニションオフはしない(遅れ制御)。
【0039】
OSV63に通電してから所定の時間が経過した時間T2に、ECU7はOCV62への通電量を最大にする制御を行う(図4におけるOCV DUTY参照)。OCV62が通電されると、進角制御が可能な作動流体経路が形成された状態になり、進角通路43を介して作動流体が進角室41に供給されると共に、遅角通路44を介して遅角室42から作動流体が排出される。これによりハウジング2に対するインナロータ3の相対回転位相が進角方向に変化する(図4におけるVVT位相参照)。
【0040】
相対回転位相が進角方向になるようにインナロータ3が回転駆動し、ロック部材51、51とロック孔52、52とが対向すると、付勢部材53、53の付勢力によりロック部材51、51は径方向内側に突出しロック孔52、52と嵌合し、相対回転位相が中間ロック位相に拘束されたロック状態になる(時間T3)。
【0041】
ロック状態になったか否かは、吸気弁のカムの回転角度を検出するカム角センサとクランクシャフト101の回転角度を検出するクランク角センサ(いずれも不図示)からの検出信号により判断される。予め決められた所定時間の間、ハウジング2とインナロータ3の相対回転位相が予め決められた所定の位相の範囲内にあったときは、ECU7はハウジング2とインナロータ3の相対回転位相は中間ロック位相に固定されロック状態となったと判断する。この時点まではエンジン100は作動中であり、オイルポンプ61も作動中で作動流体を吐出しており、流体圧が発生している。
【0042】
ECU7が、相対回転位相が中間ロック位相でロックされたと判断したら、ECU7は作動停止指令を出してエンジン100のイグニションをオフにする制御を行う(時間T4)。これにより、エンジン100のイグニションはオフとなり、時間T6にエンジン100の作動は停止する(図4におけるENG Rev参照)。イグニションオフと同時にOCV62への通電は遮断される。
【0043】
エンジン100のイグニションがオフになる時間T4からエンジン100が作動停止する時間T6までの間で、エンジン100のクランクシャフト101の回転数(以下、エンジン回転数とも言う)はアイドリング回転数から下降して最終的には0回転となる。時間T4からT6の間ではエンジン回転数の低下に伴い、オイルポンプ61からの作動流体の吐出量も少なくなっていき、発生する流体圧も低下してくる(図4における作動流体圧力参照)。しかし、アイドリング時にはロック部材51、51の受圧面51a、51aに作用する流体圧は特に低油温時において、付勢部材53、53の付勢力よりも十分に大きい場合があるため、仮に時間T4でOSV63への通電を遮断したとすると、ロック孔52、52に作動流体が供給される。その結果、ロック部材51、51の受圧面51a、51aが流体圧を受けてロック状態が解除されてしまう場合がある。
【0044】
上述したように、流体圧センサ64はオイルポンプ61から吐出される作動流体の圧力を検出して、その圧力信号をECU7にリアルタイムで伝送する。ECU7の内部には、予め付勢部材53、53の付勢力と拮抗する流体圧であるロック部材解除閾値Pのデータを有している。ECU7は、流体圧センサ64から伝送される作動流体の圧力と流体圧のロック部材解除閾値Pとをリアルタイムで比較する。流体圧センサ64で検出された流体圧がロック部材解除閾値P以上の場合、OSV63への通電を継続するようにECU7はOSV63を制御する。検出された流体圧がロック部材解除閾値Pを下回った場合、OSV63への通電を遮断するようにECU7はOSV63を制御する。このため、時間T4の時点では、ECU7はOSV63の通電を継続する制御を行い、ロック孔52、52には作動流体が供給されない。その結果、中間ロック機構5ではロック状態が維持される。
【0045】
流体圧センサ64で検出された流体圧がロック部材解除閾値Pになる時間T5を経過すると、ECU7は、OSV63への通電を遮断する制御を行う。この時点では、オイルポンプ61は作動中であり、流体圧が発生している。OSV63への通電を遮断すると、作動流体がロック解除通路55、55を介してロック孔52、52に供給され、ロック部材51、51の受圧面51a、51aに流体圧が作用する。この流体圧は付勢部材53、53の付勢力に抗してロック部材51、51をロック孔52、52から退出させる方向に作用するが、流体圧は付勢力より小さいため、ロック部材51、51はロック孔52、52から退出することなく、ロック状態が維持される。このような制御を行うことにより、ハウジング2とインナロータ3の相対回転位相は中間ロック位相のままエンジン100の作動を停止させることができるので、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【0046】
流体圧センサ64は、ロック部材51、51の受圧面51a、51aが受ける作動流体の圧力を直接的かつ正確に検出することができる。そのため、エンジン回転数の下降開始からエンジン100の作動停止までの間で、ロック部材解除閾値Pよりも検出された作動流体の圧力が下回ったときは、直ちにOSV63への通電を遮断することができる。その結果、時間T5の経過後短時間でOSV63への通電を遮断することができ、必要最小限の通電で中間ロック機構5は確実にロック状態を維持することができる。
【0047】
本実施形態において、OSV63(オイルスイッチングバルブ)は、通電と通電の遮断を切り換えることにより、ロック孔への作動流体の供給と排出とを切り換える機能だけを有していたが、これに限られるものではない。オイルスイッチングバルブには、ロック孔への作動流体の給排を切り換える機能に加え、この機能と独立して動作する、進角室と遅角室への作動流体の給排を制御する機能を併せ持つタイプのバルブも含むものとする。このような2つの機能を有するオイルスイッチングバルブを使用したときには、別途オイルコントロールバルブを使用する必要はない。
【0048】
〔他の実施形態1〕
第1実施形態においては、流体圧センサ64により、OSV63への通電を遮断するタイミングを決定した。しかし、流体圧センサが搭載されていない車両であっても、例えば、以下のような方法により、オイルコントロールバルブへの通電を遮断するタイミングを決定することが可能である。クランクシャフトの回転数を検出するクランク角センサや内燃機関を流通する冷媒の温度を計測する冷媒温度センサは、車両には必ず備えられている。そしてクランクシャフトの回転数に基づいて作動流体の圧力の範囲を間接的に得ることができ、冷媒温度センサにより検出された冷媒の温度に基づいてその時点での作動流体の温度範囲を間接的に得ることができる。作動流体の圧力と作動流体の温度の間には負の相関関係があることから、クランクシャフトの回転数と冷媒の温度に基づいてより狭い範囲での作動流体の圧力を推定することができる。
【0049】
具体的には以下のようにして推定する。クランクシャフトの回転数や冷媒温度のリアルタイムのデータはECUに伝送される。ECU内部にクランクシャフトの回転数と作動流体の圧力の範囲を関連づけたテーブルを保有することにより、ECUにおいて、作動流体の圧力範囲をリアルタイムに推定することが可能になる。同様に、ECU内部に冷媒の温度と作動流体の温度範囲を関連づけたテーブルを保有することにより、ECUにおいて、リアルタイムに作動流体の温度範囲を推定することが可能になる。そして、これら作動流体の圧力範囲と温度範囲を関連づけたテーブルをECU内部に保有することにより、ECUにおいて、より狭い範囲での流体圧をリアルタイムに推定することが可能になる。
【0050】
このような構成とすれば、流体圧センサが搭載されていない車両においても流体圧を推定できるので、クランクシャフト回転数の下降開始から内燃機関の作動停止までの間で、推定された流体圧がロック部材解除閾値Pを下回ったときにオイルスイッチングバルブへの通電を遮断することができる。この結果、通電の遮断後も中間ロック機構は確実にロック状態を維持することができ、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【0051】
なお、上記実施形態では、ECUは3種類のテーブルを保有する構成にしたが、これに限られるものではない。ECUは、クランクシャフトの回転数と冷媒の温度から流体圧を推定するテーブルのみを保有する構成にしてもよい。
【0052】
〔他の実施形態2〕
上記2つの実施形態においては、センサからの出力信号に基づいてECUはオイルコントロールバルブへの通電を遮断するタイミングを決定していた。しかし、センサを用いなくても、オイルコントロールバルブへの通電を遮断するタイミングをECUが決定することは可能である。例えば、エンジンのイグニションオフの後、十分な時間(例えば1秒)を経過すると、エンジンの回転数は0回転近くまで低下するか、もしくはエンジンは停止する。このとき、作動流体の圧力はロック部材解除閾値Pより十分に低くなっている。よって、この時間経過後にオイルコントロールバルブへの通電を遮断すると、通電の遮断後も中間ロック機構は確実にロック状態を維持することができ、最適な吸排気弁の開閉時期で内燃機関を始動させることができる。
【0053】
このような構成とすれば、各種センサによる複雑な制御をする必要がないので、安価な構成により、中間ロック機構は確実にロック状態を維持することができる。
【0054】
本実施形態に係る弁開閉時期制御装置1は吸気側に対して適用したが、これに限られない。弁開閉時期制御装置を排気側に対して適用しても良い。
【0055】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転体に対する従動側回転体の相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 弁開閉時期制御装置
2 ハウジング(駆動側回転部材)
3 インナロータ(従動側回転部材)
4 流体圧室
5 中間ロック機構
7 ECU(制御部)
31 ベーン(仕切部)
41 進角室
42 遅角室
51 ロック部材
51a 受圧面
52 ロック孔
63 OSV(オイルスイッチングバルブ)
64 流体圧センサ
100 エンジン(内燃機関)
101 クランクシャフト
104 カムシャフト
図1
図2
図3
図4