【実施例1】
【0035】
図1は、実施例1の発光素子の構成を示した図である。
図1のように、実施例1の発光素子は、サファイア基板10上に、AlNからなるバッファ層(図示しない)を介して、III 族窒化物半導体からなるnコンタクト層11、nクラッド層13、発光層14、pクラッド層15、pコンタクト層16、半導体層18が順に積層されている。また、半導体層18表面側からnコンタクト層11に達する深さの溝が形成されており、溝の底面にnコンタクト層11が露出している。そして、その溝の底面に露出したnコンタクト層11上にn電極17が位置している。また、半導体層18上にはITOからなる透明電極19が位置している。透明電極19上にはp電極20が位置している。この実施例1の発光素子は、p電極20側の面から光を取り出すフェイスアップ型の素子である。
【0036】
以下、実施例1の発光素子の各構成についてより詳しく説明する。
【0037】
サファイア基板10は、III 族窒化物半導体を結晶成長させる側の表面に、ストライプ状、ドット状などの周期的なパターンの凹凸(図示しない)が設けられている。この凹凸は、光取り出し効率の向上を目的に設けられている。成長基板として、サファイア以外にも、SiC、Si、ZnO、スピネル、GaN、Ga
2 O
3 などを用いることができる。
【0038】
nコンタクト層11は、Si濃度が1×10
18/cm
3 以上のn−GaNである。nコンタクト層11をSi濃度の異なる複数の層で構成してもよく、複数の層のうち一部の層のSi濃度を高くしてn電極17と接触させるようにすれば、nコンタクト層11の結晶性を悪化させずにn電極17とのコンタクト抵抗をより低減することができる。
【0039】
nクラッド層13は、アンドープInGaN、アンドープGaN、n−GaNを順に積層させた3層を1ペアとして、これを15ペア繰り返し積層させた超格子構造である。
【0040】
nコンタクト層11とnクラッド層13との間に、耐圧を高めるためのESD層を設けてもよい。ESD層は、たとえば、nコンタクト層11側から、厚さ312.5nmのアンドープGaN、Si濃度5×10
18〜9×10
18/cm
3 、厚さ30nmのn−GaN、の順に積層された2層で構成された層である。
【0041】
発光層14は、アンドープのInGaNからなる井戸層とアンドープのAlGaNからなる障壁層とが交互に繰り返し積層されたMQW構造である。井戸層と障壁層との間に、Al組成比が障壁層のAl組成比以下のAlGaNからなり、井戸層と同じ成長温度で形成するキャップ層を設けてもよい。このようなキャップ層を設けると、障壁層を形成する際の昇温時に井戸層からのInの離脱が防止されるため、発光効率を向上させることができる。発光層14とpクラッド層15との間に、pクラッド層15中のMgが発光層14へ拡散するのを防止するために、アンドープのGaNとアンドープのAlGaNとからなる層を設けてもよい。
【0042】
pクラッド層15は、p−AlGaN層とp−InGaN層とを積層させた層を1単位として、これを繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、発光層14に接する層をp−InGaN層とし、最後に形成する層、すなわち、pコンタクト層16に接する層をp−AlGaN層としている。pクラッド層15は上記以外の超格子構造であってもよいし、超格子構造以外の構造であってもよい。たとえばp−AlGaNからなる単層であったり、超格子構造ではない複数の層で構成されていてもよい。
【0043】
pコンタクト層16は、p−GaNからなる単層である。半導体層18よりも屈折率の大きなIII 族窒化物半導体であれば、GaN以外でもよく、AlGaN、InGaNやAlGaInNを用いてもよい。AlGaNを用いる場合にはAl組成比を5%以下とすることが望ましい。また、Mg濃度や組成比の異なる複数の層で構成してもよい。なお、pコンタクト層16が複数の層で構成されている場合には、pコンタクト層16を構成する複数の層のうち半導体層18に接する層が、半導体層18の屈折率よりも大きければよい。また、pコンタクト層16表面(半導体層18側の面)に凹凸を設けて光取り出し効率の向上を図ってもよい。
【0044】
半導体層18は、Al組成比が10〜50%のAlGaNからなり、厚さは2〜50Åである。半導体層18の発光波長における屈折率は、pコンタクト層16の屈折率よりも小さく、透明電極19の屈折率よりも大きい。また、半導体層18は平坦な膜状でpコンタクト層16上のほぼ全面に形成されており、半導体層18の一方の表面はpコンタクト層16に接しており、他方の表面は透明電極19に接している。このような半導体層18をpコンタクト層16と透明電極19との間に導入することで、pコンタクト層16から透明電極19に向かって屈折率が段階的に変化することとなり、pコンタクト層16と透明電極19との間での反射が抑制されるため、光取り出し効率が向上する。
【0045】
半導体層18には、AlGaN以外にもAlを含む任意の組成比のIII 族窒化物半導体を用いることができる。III 族窒化物半導体は、Al組成比が大きいほど屈折率が低くなり、In組成比が大きいほど屈折率が高くなるので、III 族金属の組成比を制御することによって、半導体層18の屈折率を上記のような範囲とすることが可能である。望ましくは、実施例1のようにAlGaNである。3元系のため組成比の制御が4元系に比べて容易であり、屈折率の制御も容易となるためである。
【0046】
半導体層18のAl組成比を10〜50%としたのは、Al組成比が50%より大きいと、半導体層18の抵抗が高くなり、駆動電圧を上昇させてしまうからであり、Al組成比が10%未満では、pコンタクト層16との屈折率差が小さく、pコンタクト層16と透明電極19との間の反射を抑制する効果が小さくなるためである。半導体層18のAl組成比のより望ましい範囲は10〜40%、さらに望ましくは20〜35%である。
【0047】
pコンタクト層16と半導体層18との屈折率差は0.05〜0.2、半導体層18と透明電極19との屈折率差は0.15〜0.4とすることが望ましい。屈折率差をこのような範囲とすることで、pコンタクト層16と透明電極19との間での反射がより抑制され、光取り出し効率がより向上する。
【0048】
半導体層18の屈折率は、pコンタクト層側から透明電極側に向かって屈折率が段階的あるいは連続的に減少するように構成されていてもよい。このような屈折率変化は、たとえばAl組成比を厚さ方向に変化させることによって達成することができる。このように半導体層18の屈折率を一定としない場合には、厚さ方向でのAl組成比の平均が10〜50%であればよい。
【0049】
半導体層18の厚さを1分子層〜50Åとしたのは、以下の理由による。半導体層18を1分子層未満とする場合、つまり半導体層18を設けない場合は、pコンタクト層16と透明電極19との間の屈折率差が大きく、光取り出し効率が低い。また、半導体層18が50Åより厚いと、半導体層18をトンネルする電子が少なくなり、半導体層18の抵抗が高いことから駆動電圧が上昇してしまう。以上の理由から厚さを1分子層〜50Åとした。半導体層18はpコンタクト層16表面のほぼ全面を覆うように形成されていることが望ましい。全面を覆うように形成されているのであれば、厚さは一定でなくともよい。厚さが一定でない場合には、厚さの平均が1分子層〜50Åであればよい。ドット状、メッシュ状、島状などに形成されていると、pコンタクト層16と透明電極19とが直接接する領域が存在してしまい、その領域では半導体層18による反射を低減する効果がない。そのため、光取り出し効率の向上効果が小さく望ましくない。半導体層18のより望ましい厚さは5〜25Åである。
【0050】
半導体層18はアンドープであってもよいが、透明電極19とのコンタクト抵抗を低減するためにMgがドープされていることが望ましい。Mg濃度は1×10
20〜1×10
21/cm
3 が望ましい。より望ましくは2×10
20〜1×10
21/cm
3 、さらに望ましくは3×10
20〜5×10
20/cm
3 である。
【0051】
透明電極19はITOからなり、半導体層18表面のほぼ全面に設けられている。透明電極19には、半導体層18よりも屈折率の小さな材料を用いることができ、ITO以外にもICO(セリウムドープの酸化インジウム)やIZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)、ZnO、TiO
2 、NbTiO
2 、TaTiO
2 、などの透明酸化物導電体材料や、Co/Au、Auなどの金属薄膜、グラフェン、などを用いることができる。
【0052】
n電極17、p電極20は、ワイヤがボンディングされるパッド部と、面内に配線状(たとえば格子状や櫛歯状、放射状)に広がり、パッド部と接続する配線状部と、を有する構造としてもよい。このような構造とすることで電流拡散性を向上させることができ、均一な発光とすることができる。
【0053】
以上説明した実施例1の発光素子では、pコンタクト層16と透明電極19との間に、上記の屈折率、Al組成比、厚さを満たした半導体層18を設けているため、従来pコンタクト層16と透明電極19との界面で生じていた反射を低減することができる。そのため、実施例1の発光素子は従来の発光素子に比べて光取り出し効率が向上している。
【0054】
なお、実施例1の発光素子の発光波長は380〜600nmとするのが望ましく、より望ましくは400〜500nmである。この波長範囲において、pコンタクト層16と透明電極19との間の反射を効果的に抑制することができる。
【0055】
次に、実施例1の発光素子の製造工程について図を参照に説明する。
【0056】
まず、凹凸加工が施されたサファイア基板10を用意し、水素雰囲気で加熱して表面のクリーニングを行う(
図2(a))。
【0057】
次に、サファイア基板10上に、MOCVD法によって、AlNからなるバッファ層(図示しない)、nコンタクト層11、ESD層12、nクラッド層13、発光層14、pクラッド層15、pコンタクト層16、半導体層18を順に積層させる(
図2(b))。MOCVD法において用いる原料ガスは、窒素源として、アンモニア(NH
3 )、Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH
3 )
3 )、In源として、トリメチルインジウム(In(CH
3 )
3 )、Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3 )
3 )、n型ドーピングガスとして、シラン(SiH
4 )、p型ドーピングガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C
5 H
5 )
2 )、キャリアガスとしてH
2 、N
2 である。
【0058】
ここで、半導体層18を成長させる際の温度は、1000℃以下とする。これにより、pコンタクト層16上の全面に膜状に半導体層18が形成されるようにする。また、半導体層18のAl組成比が10〜50%、厚さが2〜50Åとなるように、原料ガスの供給量や成長時間を調整する。
【0059】
次に、所定の領域をドライエッチングして半導体層18表面からnコンタクト層11に達する深さの溝を形成する。そして、半導体層18上のほぼ全面にITOからなる透明電極19を形成し、透明電極19上にp電極20、溝底面に露出したnコンタクト層11表面にn電極17を形成する。以上によって
図1に示した実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。
【0060】
図3は、半導体層18の厚さと光出力との関係を示したグラフである。Al組成比30%のAlGaNからなる半導体層18の厚さを0(つまり半導体層18を設けない)、15、35Åとした場合の光出力であり、光出力は半導体層18を設けない場合を1とする相対値である。また、発光波長は450nmとした。発光波長における屈折率は、p−GaNからなるpコンタクト層16がおよそ2.3、Al組成比30%のAlGaNからなる半導体層18がおよそ2.2、ITOからなる透明電極19がおよそ1.9である。
図3のように、半導体層18を15、35Åとした場合のいずれも、半導体層18を設けない場合よりも光出力が向上していることがわかる。これは、半導体層18を設けたことにより、pコンタクト層16と透明電極19との間での反射が抑制され、光取り出し効率が向上したためであると考えられる。
【0061】
図4は、電流密度と発光効率との関係を示したグラフである。
図3と同様に、Al組成比30%のAlGaNからなる半導体層18の厚さを0、15、35Åとした場合について示している。
図4のように、半導体層18を設けない場合、電流密度の増加とともに発光効率は減少していく。半導体層18の厚さを15、35Åとした場合にも、同様の曲線を描き、電流密度の増加とともに発光効率は減少していく。しかし、どの電流密度においても、半導体層18を設けない場合よりも、15、35Åの半導体層18を設けた場合の方が、発光効率が高くなっている。
【0062】
また、
図3、4を見るとわかるように、半導体層18の厚さを15Åとした場合の方が、35Åとした場合よりも発光効率が高く光出力が高い。これは、半導体層18を薄くすることによりトンネルする電子が増加し、その結果透明電極19とのコンタクト抵抗や半導体層18自体の抵抗が下がるためと考えられる。
【実施例2】
【0063】
図5は、実施例2の発光素子の構成を示した図である。実施例2の発光素子は、実施例1の発光素子における半導体層18、透明電極19を、以下に説明する半導体層118、透明電極119に置き替えたものであり、他の構成については実施例1の発光素子と同様である。
【0064】
半導体層118は、透明電極119側の表面に凹凸を有した膜状に形成されている。それ以外については実施例1の半導体層18と同様の屈折率、厚さ、材料、Al組成比で構成されている。厚さについては、半導体層118の厚さの平均が半導体層18と同様の範囲である。また、透明電極119は、凹凸を有した半導体層118表面上に、凹凸を埋めるようにして形成されている。透明電極119の材料、屈折率などは透明電極19と同様である。
【0065】
このような凹凸は、実施例1の発光素子の製造工程の半導体層18形成において、成長温度を900℃以下とすればよい。あるいは、Mgなどの不純物を過剰にドープ(たとえば1×10
21/cm
3 以上)しても凹凸が形成される。それ以外の製造工程については実施例1と同様である。成長温度は800℃以下とすることが望ましい。凹凸の密度や深さが向上し、より光取り出し効率を向上させることができるためである。
【0066】
実施例2の発光素子は、実施例1の発光素子と同様にpコンタクト層16と透明電極119との間の反射が抑制されているため光取り出し効率が向上している。さらに、半導体層118表面に凹凸を設けているため、より光取り出し効率が向上している。
【0067】
なお、実施例1、2はフェイスアップ型の発光素子であるが、本発明はこれに限るものではなく、p電極側から光を取り出す縦型構造の発光素子などに対しても適用することができ、光取り出し効率の向上を図ることができる。
【0068】
また、本発明は実施例1、2の発光素子における半導体層18、118に特徴を有するものであり、他の構成については従来知られている種々の構造、製造方法等を採用することができる。