特許第5994420号(P5994420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5994420III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994420
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20160908BHJP
【FI】
   H01L33/32
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-139602(P2012-139602)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-7181(P2014-7181A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
【審査官】 島田 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/122290(WO,A1)
【文献】 特開2000−164922(JP,A)
【文献】 特開2012−114389(JP,A)
【文献】 特開2007−227832(JP,A)
【文献】 特開2004−119756(JP,A)
【文献】 特開2006−080469(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/126330(WO,A1)
【文献】 特開2009−231549(JP,A)
【文献】 特表2011−519484(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/136064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pコンタクト層上に、前記pコンタクト層よりも発光波長における屈折率が小さい材料からなる透明電極を有し、この透明電極を通して透明電極側から光を外部に出力させるフェイスアップ型のIII 族窒化物半導体発光素子において、
前記pコンタクト層と前記透明電極との間であってその双方に接して位置し、前記pコンタクト層よりも発光波長における屈折率が小さく、かつ、前記透明電極よりも発光波長における屈折率が大きいとともに、MgドープのAlGaNからなる半導体層を有し、
前記pコンタクト層はGaNからなり、
前記透明電極はITOからなり、
前記発光波長は400〜500nmであり、
前記半導体層のAl組成比は10〜40%、厚さは5〜25Åであり、
前記半導体層のMg濃度は1×1020〜1×1021/cm3 であり、
前記pコンタクト層と前記半導体層との屈折率差が0.05〜0.2、前記半導体層と前記透明電極との屈折率差が0.15〜0.4の範囲であって、前記半導体層の屈折率を、前記pコンタクト層から前記透明電極に向かって段階的あるいは連続的に減少させることで、前記pコンタクト層と前記透明電極間の反射を抑制して光取り出し効率を向上させた
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記半導体層の前記透明電極側表面に凹凸を有することを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
pコンタクト層上に、前記pコンタクト層よりも発光波長における屈折率が小さい材料からなる透明電極を有し、この透明電極を通して透明電極側から光を外部に出力させるフェイスアップ型のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、
GaNからなるpコンタクト層の形成後、前記pコンタクト層上に接して、前記pコンタクト層よりも発光波長400〜500nmにおける屈折率が小さく、ITOからなる透明電極よりも発光波長における屈折率が大きく、前記pコンタクト層に対する屈折率差が0.05〜0.2、前記透明電極に対する屈折率差が0.15〜0.4の範囲内であって、かつ、屈折率が前記pコンタクト層から前記透明電極に向かって段階的あるいは連続的に減少していくとともに、Mgがドープされ、そのMg濃度が1×1020〜1×1021/cm3 であるAlGaNからなる半導体層を、Al組成比10〜40%、厚さ5〜25Å、成長温度800℃以下で形成すると共に、前記半導体層の前記透明電極側表面に凹凸を形成し、
その後、前記半導体層上に接して前記透明電極を形成する、
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光取り出し効率が向上されたIII 族窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体発光素子は白色発光の光源として利用されており、特に照明やディスプレイのバックライトなどの用途として需要が拡大している。
【0003】
そのIII 族窒化物半導体発光素子の構造として、pコンタクト層上にITOからなる透明電極を形成して電流を拡散させる構造が広く採用されている。そしてそのpコンタクト層として、p−GaN/p−AlGaNを採用してもよいことが特許文献1に記載されている。しかし、p−AlGaN層を設ける理由については特に記載がない。
【0004】
また、特許文献2、3には、p−GaNからなるpコンタクト層上に、p−AlGaN/GaN/p+ −AlGaNを繰り返し積層させた構造を設けることが記載されている。これは、GaNとAlGaNとの界面に生じる2次元電子ガスを利用して、素子の主面方向への電流拡散性を向上させるためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−47864号公報
【特許文献2】特開2006−313888号公報
【特許文献3】特表2010−512017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
照明などの用途では、高出力なIII 族窒化物半導体発光素子が求められる。しかし、III 族窒化物半導体発光素子は光取り出し効率が低いという問題がある。光取り出し効率を悪化させている原因の1つが、pコンタクト層と透明電極との界面における反射である。pコンタクト層をp−GaN、透明電極をITOとした場合、pコンタクト層の青色光における屈折率はおよそ2.3、透明電極の青色光における屈折率はおよそ1.9であり、屈折率が大きく異なっている。そのため、発光層から放射される光の一部は、pコンタクト層と透明電極との界面で全反射して素子外部に取り出すことができない。
【0007】
特許文献1〜3には、上記のようなpコンタクト層と透明電極との界面での反射を課題とする記載はない。
【0008】
そこで本発明の目的は、pコンタクト層と透明電極との間での反射を抑制して光取り出し効率を向上させたIII 族窒化物半導体発光素子を提供することである。また、そのIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、pコンタクト層上に、pコンタクト層よりも発光波長における屈折率が小さい材料からなる透明電極を有し、この透明電極を通して透明電極側から光を外部に出力させるフェイスアップ型のIII 族窒化物半導体発光素子において、pコンタクト層と透明電極との間であってその双方に接して位置し、pコンタクト層よりも発光波長における屈折率が小さく、かつ、透明電極よりも発光波長における屈折率が大きいとともに、MgドープのAlGaNからなる半導体層を有し、pコンタクト層はGaNからなり、透明電極はITOからなり、発光波長は400〜500nmであり、半導体層のAl組成比は10〜40%、厚さは5〜25Åであり、半導体層のMg濃度は1×1020〜1×1021/cm3 であり、pコンタクト層と半導体層との屈折率差が0.05〜0.2、半導体層と透明電極との屈折率差が0.15〜0.4の範囲であって、半導体層の屈折率、pコンタクト層から透明電極に向かって段階的あるいは連続的に減少させることで、pコンタクト層と透明電極間の反射を抑制して光取り出し効率を向上させたことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子である。
【0010】
半導体層は、Al組成比が10〜40%のAlGaNであって、pコンタクト層よりも発光波長における屈折率(以下、特に断りのない限り屈折率は発光波長におけるものとする)が小さく、透明電極よりも屈折率が大きな材料である。III 族窒化物半導体は、Al組成比が大きいほど屈折率が低くなり、In組成比が大きいほど屈折率が高くなる。そのため、III 族金属の組成比によって屈折率の制御が可能である。本発明では、AlGaNである。III 族金属がAlとGaの2つであるから組成比の制御が容易であり、屈折率の制御も容易となるからである。なお、Al組成比は、III 族窒化物半導体のIII 族金属におけるAlの割合(mol%、以下単に%)を示す。すなわち、化学式Alx Ga1-x N(0<x<1)で表わされるIII 族窒化物半導体において、x*100(%)がAl組成比である。Al組成比が50%より大きいと、半導体層の抵抗が高くなり、駆動電圧を上昇させてしまうため望ましくない。また、Al組成比が10%未満では、pコンタクト層との屈折率差が小さく、pコンタクト層16と透明電極19との間の反射を抑制する効果が小さくなるため望ましくない。
【0011】
半導体層は、Al組成比を厚さ方向に変化させることによって、pコンタクト層側から透明電極側に向かって屈折率が段階的あるいは連続的に減少するように構成されていてもよい。この場合における本発明のAl組成比とは、厚さ方向でのAl組成比の平均を意味するものとする。本発明では、半導体層のAl組成比の範囲は10〜40%、望ましくは20〜35%である。pコンタクト層と半導体層との屈折率差は0.05〜0.2、半導体層と透明電極との屈折率差は0.15〜0.4とする。屈折率差をこのような範囲とすることで、pコンタクト層16と透明電極19との間での反射がより抑制され、光取り出し効率がより向上する。
【0012】
半導体層の厚さは、1分子層〜50Åであればよい。50Åよりも厚いと、半導体層の抵抗率が高いことから駆動電圧を上昇させてしまう。また、pコンタクト層上に半導体層の形成されていない領域があるのは好ましくない。その領域ではpコンタクト層16と透明電極19との間の反射を抑制する効果が得られないためである。本発明では、5〜25Åである。半導体層の厚さは一定であってもよいし、一定でなくてもよい。半導体層の透明電極側の面は凹凸を有していてもよい。このような凹凸を設けることで、光取り出し効率のさらなる向上を図ることができる。なお、半導体層の厚さが一定でない場合には、本発明における厚さとは厚さの平均を示すとする。
【0013】
半導体層にはMgをドープしている。Mgをドープすることで透明電極とのコンタクト抵抗を低減することができ、駆動電圧の上昇を抑制することができる。半導体層のMg濃度は1×1020〜1×1021/cm3 である。より望ましくは2×1020〜1×1021/cm3 、さらに望ましくは3×1020〜5×1020/cm3 である。
【0014】
pコンタクト層は、半導体層よりも発光波長における屈折率の大きなMgドープのGaN、AlGaN、InGaNなどのIII 族窒化物半導体であればよく、単層でもMg濃度や組成比などの異なる複層でもよい。本発明では、pコンタクト層はGaNとしている。pコンタクト層をAlGaNとする場合にはAl組成比を5%以下とすることが望ましい。Al組成比がこれよりも大きいと、pコンタクト層の結晶性が悪化してしまうため、または抵抗率が上昇して駆動電圧が上昇してしまうためである。pコンタクト層表面(半導体層側の面)に凹凸を設け、光取り出し効率の向上を図ってもよい。
【0015】
透明電極は、半導体層よりも発光波長における屈折率の小さい材料であればよく、ITO、IZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)、ZnO、ICO(セリウムドープの酸化インジウム)などの透明導電性酸化膜や、Co/Au、Au、などの金属薄膜、などを用いることができる。本発明では、ITOを用いている。
【0016】
なお、pコンタクト層が複層である場合には、本発明における屈折率の大小は、pコンタクト層の複数の層のうち、半導体層に接する層についての屈折率の大小をいうものとする。透明電極についても同様である。
【0017】
III 族窒化物半導体発光素子の発光波長は400〜500nmとする。この範囲において、本発明によるpコンタクト層と透明電極の間での反射低減効果がより十分に発揮される。
【0018】
発明において、半導体層の厚さは5〜25Åである。
【0019】
発明において、半導体層のAl組成比は10〜40%である。
【0020】
発明において、pコンタクト層と半導体層との屈折率差が0.05〜0.2、半導体層と透明電極との屈折率差が0.15〜0.4、である。
【0021】
第2の発明において、半導体層の透明電極側表面に凹凸を有することを特徴とする。
【0022】
【0023】
【0024】
本発明において、pコンタクト層は、GaNからなる。
【0025】
本発明とは別に、pコンタクト層は、Al組成比が5%以下のAlGaNを用いることも可能である。
【0026】
本発明において、透明電極はITOからなる。
【0027】
発明において、発光波長400〜500nmである。
【0028】
第3の発明は、pコンタクト層上に、pコンタクト層よりも発光波長における屈折率が小さい材料からなる透明電極を有し、この透明電極を通して透明電極側から光を外部に出力させるフェイスアップ型のIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法において、GaNからなるpコンタクト層の形成後、pコンタクト層上に接して、pコンタクト層よりも発光波長400〜500nmにおける屈折率が小さく、ITOからなる透明電極よりも発光波長における屈折率が大きく、pコンタクト層に対する屈折率差が0.05〜0.2、透明電極に対する屈折率差が0.15〜0.4の範囲内であって、かつ、屈折率がpコンタクト層から透明電極に向かって段階的あるいは連続的に減少していくとともに、Mgがドープされ、そのMg濃度が1×1020〜1×1021/cm3 であるAlGaNからなる半導体層を、Al組成比10〜40%、厚さ5〜25Å、成長温度800℃以下で形成すると共に、半導体層の透明電極側表面に凹凸を形成し、その後、半導体層上に接して透明電極を形成する、ことを特徴とするIII 族窒化物半導体発光素子の製造方法である。
【0029】
半導体層の成長温度は、800℃以下である。成長温度を下げることで半導体層表面に凹凸を設けることができ、光取り出し効率を向上させることができる。なお、成長温度の下限は半導体層が結晶成長する温度である。半導体層表面に凹凸を設ける方法としては、成長温度を下げる他にMgなどの不純物を過剰にドープする(たとえば1×1021/cm3 以上)方法もある。
【0030】
【発明の効果】
【0031】
本発明のような半導体層をpコンタクト層と透明電極との間に設けることにより、pコンタクト層と透明電極との間での反射が低減される。そのため、本発明によれば、III 族窒化物半導体発光素子の光取り出し効率を向上させることができる。
【0032】
また、半導体層の透明電極側表面に凹凸を設けることにより、さらなる光取り出し効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1の発光素子の構成を示した図。
図2】実施例1の発光素子の製造工程を示した図。
図3】半導体層18の厚さと光出力との関係を示したグラフ。
図4】電流密度と発光効率との関係を示したグラフ。
図5】実施例2の発光素子の構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
図1は、実施例1の発光素子の構成を示した図である。図1のように、実施例1の発光素子は、サファイア基板10上に、AlNからなるバッファ層(図示しない)を介して、III 族窒化物半導体からなるnコンタクト層11、nクラッド層13、発光層14、pクラッド層15、pコンタクト層16、半導体層18が順に積層されている。また、半導体層18表面側からnコンタクト層11に達する深さの溝が形成されており、溝の底面にnコンタクト層11が露出している。そして、その溝の底面に露出したnコンタクト層11上にn電極17が位置している。また、半導体層18上にはITOからなる透明電極19が位置している。透明電極19上にはp電極20が位置している。この実施例1の発光素子は、p電極20側の面から光を取り出すフェイスアップ型の素子である。
【0036】
以下、実施例1の発光素子の各構成についてより詳しく説明する。
【0037】
サファイア基板10は、III 族窒化物半導体を結晶成長させる側の表面に、ストライプ状、ドット状などの周期的なパターンの凹凸(図示しない)が設けられている。この凹凸は、光取り出し効率の向上を目的に設けられている。成長基板として、サファイア以外にも、SiC、Si、ZnO、スピネル、GaN、Ga2 3 などを用いることができる。
【0038】
nコンタクト層11は、Si濃度が1×1018/cm3 以上のn−GaNである。nコンタクト層11をSi濃度の異なる複数の層で構成してもよく、複数の層のうち一部の層のSi濃度を高くしてn電極17と接触させるようにすれば、nコンタクト層11の結晶性を悪化させずにn電極17とのコンタクト抵抗をより低減することができる。
【0039】
nクラッド層13は、アンドープInGaN、アンドープGaN、n−GaNを順に積層させた3層を1ペアとして、これを15ペア繰り返し積層させた超格子構造である。
【0040】
nコンタクト層11とnクラッド層13との間に、耐圧を高めるためのESD層を設けてもよい。ESD層は、たとえば、nコンタクト層11側から、厚さ312.5nmのアンドープGaN、Si濃度5×1018〜9×1018/cm3 、厚さ30nmのn−GaN、の順に積層された2層で構成された層である。
【0041】
発光層14は、アンドープのInGaNからなる井戸層とアンドープのAlGaNからなる障壁層とが交互に繰り返し積層されたMQW構造である。井戸層と障壁層との間に、Al組成比が障壁層のAl組成比以下のAlGaNからなり、井戸層と同じ成長温度で形成するキャップ層を設けてもよい。このようなキャップ層を設けると、障壁層を形成する際の昇温時に井戸層からのInの離脱が防止されるため、発光効率を向上させることができる。発光層14とpクラッド層15との間に、pクラッド層15中のMgが発光層14へ拡散するのを防止するために、アンドープのGaNとアンドープのAlGaNとからなる層を設けてもよい。
【0042】
pクラッド層15は、p−AlGaN層とp−InGaN層とを積層させた層を1単位として、これを繰り返し積層させた超格子構造である。ただし、最初に形成する層、すなわち、発光層14に接する層をp−InGaN層とし、最後に形成する層、すなわち、pコンタクト層16に接する層をp−AlGaN層としている。pクラッド層15は上記以外の超格子構造であってもよいし、超格子構造以外の構造であってもよい。たとえばp−AlGaNからなる単層であったり、超格子構造ではない複数の層で構成されていてもよい。
【0043】
pコンタクト層16は、p−GaNからなる単層である。半導体層18よりも屈折率の大きなIII 族窒化物半導体であれば、GaN以外でもよく、AlGaN、InGaNやAlGaInNを用いてもよい。AlGaNを用いる場合にはAl組成比を5%以下とすることが望ましい。また、Mg濃度や組成比の異なる複数の層で構成してもよい。なお、pコンタクト層16が複数の層で構成されている場合には、pコンタクト層16を構成する複数の層のうち半導体層18に接する層が、半導体層18の屈折率よりも大きければよい。また、pコンタクト層16表面(半導体層18側の面)に凹凸を設けて光取り出し効率の向上を図ってもよい。
【0044】
半導体層18は、Al組成比が10〜50%のAlGaNからなり、厚さは2〜50Åである。半導体層18の発光波長における屈折率は、pコンタクト層16の屈折率よりも小さく、透明電極19の屈折率よりも大きい。また、半導体層18は平坦な膜状でpコンタクト層16上のほぼ全面に形成されており、半導体層18の一方の表面はpコンタクト層16に接しており、他方の表面は透明電極19に接している。このような半導体層18をpコンタクト層16と透明電極19との間に導入することで、pコンタクト層16から透明電極19に向かって屈折率が段階的に変化することとなり、pコンタクト層16と透明電極19との間での反射が抑制されるため、光取り出し効率が向上する。
【0045】
半導体層18には、AlGaN以外にもAlを含む任意の組成比のIII 族窒化物半導体を用いることができる。III 族窒化物半導体は、Al組成比が大きいほど屈折率が低くなり、In組成比が大きいほど屈折率が高くなるので、III 族金属の組成比を制御することによって、半導体層18の屈折率を上記のような範囲とすることが可能である。望ましくは、実施例1のようにAlGaNである。3元系のため組成比の制御が4元系に比べて容易であり、屈折率の制御も容易となるためである。
【0046】
半導体層18のAl組成比を10〜50%としたのは、Al組成比が50%より大きいと、半導体層18の抵抗が高くなり、駆動電圧を上昇させてしまうからであり、Al組成比が10%未満では、pコンタクト層16との屈折率差が小さく、pコンタクト層16と透明電極19との間の反射を抑制する効果が小さくなるためである。半導体層18のAl組成比のより望ましい範囲は10〜40%、さらに望ましくは20〜35%である。
【0047】
pコンタクト層16と半導体層18との屈折率差は0.05〜0.2、半導体層18と透明電極19との屈折率差は0.15〜0.4とすることが望ましい。屈折率差をこのような範囲とすることで、pコンタクト層16と透明電極19との間での反射がより抑制され、光取り出し効率がより向上する。
【0048】
半導体層18の屈折率は、pコンタクト層側から透明電極側に向かって屈折率が段階的あるいは連続的に減少するように構成されていてもよい。このような屈折率変化は、たとえばAl組成比を厚さ方向に変化させることによって達成することができる。このように半導体層18の屈折率を一定としない場合には、厚さ方向でのAl組成比の平均が10〜50%であればよい。
【0049】
半導体層18の厚さを1分子層〜50Åとしたのは、以下の理由による。半導体層18を1分子層未満とする場合、つまり半導体層18を設けない場合は、pコンタクト層16と透明電極19との間の屈折率差が大きく、光取り出し効率が低い。また、半導体層18が50Åより厚いと、半導体層18をトンネルする電子が少なくなり、半導体層18の抵抗が高いことから駆動電圧が上昇してしまう。以上の理由から厚さを1分子層〜50Åとした。半導体層18はpコンタクト層16表面のほぼ全面を覆うように形成されていることが望ましい。全面を覆うように形成されているのであれば、厚さは一定でなくともよい。厚さが一定でない場合には、厚さの平均が1分子層〜50Åであればよい。ドット状、メッシュ状、島状などに形成されていると、pコンタクト層16と透明電極19とが直接接する領域が存在してしまい、その領域では半導体層18による反射を低減する効果がない。そのため、光取り出し効率の向上効果が小さく望ましくない。半導体層18のより望ましい厚さは5〜25Åである。
【0050】
半導体層18はアンドープであってもよいが、透明電極19とのコンタクト抵抗を低減するためにMgがドープされていることが望ましい。Mg濃度は1×1020〜1×1021/cm3 が望ましい。より望ましくは2×1020〜1×1021/cm3 、さらに望ましくは3×1020〜5×1020/cm3 である。
【0051】
透明電極19はITOからなり、半導体層18表面のほぼ全面に設けられている。透明電極19には、半導体層18よりも屈折率の小さな材料を用いることができ、ITO以外にもICO(セリウムドープの酸化インジウム)やIZO(亜鉛ドープの酸化インジウム)、ZnO、TiO2 、NbTiO2 、TaTiO2 、などの透明酸化物導電体材料や、Co/Au、Auなどの金属薄膜、グラフェン、などを用いることができる。
【0052】
n電極17、p電極20は、ワイヤがボンディングされるパッド部と、面内に配線状(たとえば格子状や櫛歯状、放射状)に広がり、パッド部と接続する配線状部と、を有する構造としてもよい。このような構造とすることで電流拡散性を向上させることができ、均一な発光とすることができる。
【0053】
以上説明した実施例1の発光素子では、pコンタクト層16と透明電極19との間に、上記の屈折率、Al組成比、厚さを満たした半導体層18を設けているため、従来pコンタクト層16と透明電極19との界面で生じていた反射を低減することができる。そのため、実施例1の発光素子は従来の発光素子に比べて光取り出し効率が向上している。
【0054】
なお、実施例1の発光素子の発光波長は380〜600nmとするのが望ましく、より望ましくは400〜500nmである。この波長範囲において、pコンタクト層16と透明電極19との間の反射を効果的に抑制することができる。
【0055】
次に、実施例1の発光素子の製造工程について図を参照に説明する。
【0056】
まず、凹凸加工が施されたサファイア基板10を用意し、水素雰囲気で加熱して表面のクリーニングを行う(図2(a))。
【0057】
次に、サファイア基板10上に、MOCVD法によって、AlNからなるバッファ層(図示しない)、nコンタクト層11、ESD層12、nクラッド層13、発光層14、pクラッド層15、pコンタクト層16、半導体層18を順に積層させる(図2(b))。MOCVD法において用いる原料ガスは、窒素源として、アンモニア(NH3 )、Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 )、In源として、トリメチルインジウム(In(CH3 3 )、Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH3 3 )、n型ドーピングガスとして、シラン(SiH4 )、p型ドーピングガスとしてシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 5 2 )、キャリアガスとしてH2 、N2 である。
【0058】
ここで、半導体層18を成長させる際の温度は、1000℃以下とする。これにより、pコンタクト層16上の全面に膜状に半導体層18が形成されるようにする。また、半導体層18のAl組成比が10〜50%、厚さが2〜50Åとなるように、原料ガスの供給量や成長時間を調整する。
【0059】
次に、所定の領域をドライエッチングして半導体層18表面からnコンタクト層11に達する深さの溝を形成する。そして、半導体層18上のほぼ全面にITOからなる透明電極19を形成し、透明電極19上にp電極20、溝底面に露出したnコンタクト層11表面にn電極17を形成する。以上によって図1に示した実施例1のIII 族窒化物半導体発光素子が製造される。
【0060】
図3は、半導体層18の厚さと光出力との関係を示したグラフである。Al組成比30%のAlGaNからなる半導体層18の厚さを0(つまり半導体層18を設けない)、15、35Åとした場合の光出力であり、光出力は半導体層18を設けない場合を1とする相対値である。また、発光波長は450nmとした。発光波長における屈折率は、p−GaNからなるpコンタクト層16がおよそ2.3、Al組成比30%のAlGaNからなる半導体層18がおよそ2.2、ITOからなる透明電極19がおよそ1.9である。図3のように、半導体層18を15、35Åとした場合のいずれも、半導体層18を設けない場合よりも光出力が向上していることがわかる。これは、半導体層18を設けたことにより、pコンタクト層16と透明電極19との間での反射が抑制され、光取り出し効率が向上したためであると考えられる。
【0061】
図4は、電流密度と発光効率との関係を示したグラフである。図3と同様に、Al組成比30%のAlGaNからなる半導体層18の厚さを0、15、35Åとした場合について示している。図4のように、半導体層18を設けない場合、電流密度の増加とともに発光効率は減少していく。半導体層18の厚さを15、35Åとした場合にも、同様の曲線を描き、電流密度の増加とともに発光効率は減少していく。しかし、どの電流密度においても、半導体層18を設けない場合よりも、15、35Åの半導体層18を設けた場合の方が、発光効率が高くなっている。
【0062】
また、図3、4を見るとわかるように、半導体層18の厚さを15Åとした場合の方が、35Åとした場合よりも発光効率が高く光出力が高い。これは、半導体層18を薄くすることによりトンネルする電子が増加し、その結果透明電極19とのコンタクト抵抗や半導体層18自体の抵抗が下がるためと考えられる。
【実施例2】
【0063】
図5は、実施例2の発光素子の構成を示した図である。実施例2の発光素子は、実施例1の発光素子における半導体層18、透明電極19を、以下に説明する半導体層118、透明電極119に置き替えたものであり、他の構成については実施例1の発光素子と同様である。
【0064】
半導体層118は、透明電極119側の表面に凹凸を有した膜状に形成されている。それ以外については実施例1の半導体層18と同様の屈折率、厚さ、材料、Al組成比で構成されている。厚さについては、半導体層118の厚さの平均が半導体層18と同様の範囲である。また、透明電極119は、凹凸を有した半導体層118表面上に、凹凸を埋めるようにして形成されている。透明電極119の材料、屈折率などは透明電極19と同様である。
【0065】
このような凹凸は、実施例1の発光素子の製造工程の半導体層18形成において、成長温度を900℃以下とすればよい。あるいは、Mgなどの不純物を過剰にドープ(たとえば1×1021/cm3 以上)しても凹凸が形成される。それ以外の製造工程については実施例1と同様である。成長温度は800℃以下とすることが望ましい。凹凸の密度や深さが向上し、より光取り出し効率を向上させることができるためである。
【0066】
実施例2の発光素子は、実施例1の発光素子と同様にpコンタクト層16と透明電極119との間の反射が抑制されているため光取り出し効率が向上している。さらに、半導体層118表面に凹凸を設けているため、より光取り出し効率が向上している。
【0067】
なお、実施例1、2はフェイスアップ型の発光素子であるが、本発明はこれに限るものではなく、p電極側から光を取り出す縦型構造の発光素子などに対しても適用することができ、光取り出し効率の向上を図ることができる。
【0068】
また、本発明は実施例1、2の発光素子における半導体層18、118に特徴を有するものであり、他の構成については従来知られている種々の構造、製造方法等を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のIII 族窒化物半導体発光素子は、照明装置や表示装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10:サファイア基板
11:nコンタクト層
13:nクラッド層
14:発光層
15:pクラッド層
16:pコンタクト層
17:n電極
18、118:半導体層
19:透明電極
20:p電極
図1
図2
図3
図4
図5