(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンにおいては、例えば特許文献1に示すように、吸気バルブや排気バルブの開閉タイミングを変更するための可変バルブタイミング機構(以下単にVVT機構という)を設けることが多い。このVVT機構は、エンジン内を循環するオイルの圧力の一部を利用することによって駆動される。そして、VVT機構にオイルを供給するオイル通路には、オイルの逆流を防止するための逆止弁装置が設けられている。
【0003】
従来、この種のVVT機構における逆止弁装置64としては、例えば
図12及び
図13に示すような構成が知られている。この逆止弁装置64は、厚肉円板状の弁本体65と、その弁本体65上に設置された薄肉円板状の弁板66とを備えている。弁本体65には、オイル通路63に対応する流路651が貫設されている。弁本体65における弁板66側の表面には、流路651から延びる凹部652が形成されている。この凹部652は、流路651から離れるのに従って次第に浅くなるように形成されている。弁板66には、弁本体65の流路651及び凹部652に対応するリード弁661が形成されている。
【0004】
そして、オイルポンプ側のオイルの圧力が高くなったときには、そのオイル圧力によって、
図12に鎖線で示すように、リード弁661が自体の弾性に抗して弁本体65の凹部652内に撓曲されて、弁本体65の流路651が開放される。この開放によってオイルがVVT機構内に供給されて、オイルの圧力によりカムの回転位相が変更されて、バルブタイミングが変更される。これに対して、VVT機構側のオイルの圧力が低くなったときには、
図12に実線で示すように、リード弁661が自体の弾性により復元されて、弁本体65の流路651が閉鎖され、カムの妄動が防止される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下に、この発明を自動車用エンジンにおけるVVT機構の逆止弁装置に具体化した第1実施形態を
図1〜
図9に従って説明する。
【0016】
図1に示すように、エンジンのカムシャフト(例えば吸気カムシャフト)71は、ロータ22と図示しないVVT機構を介して連結されている。ロータ22は、図示しないエンジンのクランクシャフトとチェーン連結されたスプロケット221を備えている。そして、ロータ22内において、図示しない切換えバルブとVVT機構との間にこの実施形態の逆止弁装置24が介在固定されている。この逆止弁装置24は、VVT機構からのオイルの逆流を阻止してVVT機構内のオイル圧力の不要な低下を抑えるものである。
【0017】
図2に示すように、ロータ22には、図示しないオイルポンプにより同じく図示しない切換えバルブを介してVVT機構にオイルを供給するためのオイル通路23が形成されている。ロータ22のカムシャフト側部材20とロータ側部材21との間には、前記逆止弁装置24が介装されている。この逆止弁装置24は、全体として厚肉円板状をなす弁本体25と、その弁本体25に隣接設置された薄肉円板状の弁板26とから構成されている。
【0018】
図2〜
図4に示すように、前記弁本体25の中心部には、VVT機構の軸部材32(
図1参照)が貫通するための貫通孔251が厚さ方向に延びるように貫設されている。弁本体25の周縁部には、図示しない固定用ボルトを挿通するための一対のボルト挿通孔252が厚さ方向に延びるように貫設されている。弁本体25の周縁部には、前記オイル通路23に対応する流路253が厚さ方向に延びるように貫設されている。弁本体25における弁板26側の表面には、流路253から弁本体25の厚さ方向と直交する方向に延びる凹部254が形成されている。この凹部254は、流路253から離れるに従って浅くなるように形成されている。
【0019】
図2、
図3及び
図7に示すように、前記弁板26の中心部には、弁本体25の貫通孔251に合致する貫通孔261が厚さ方向に延びるように形成されている。弁板26の周縁部には、弁本体25のボルト挿通孔252に合致する一対のボルト挿通孔262が厚さ方向に延びるように形成されている。弁板26の周側部には、弁本体25の流路253及び凹部254に対応する弾性変形可能なリード弁263が切り抜き形成されている。
【0020】
そして、前記切換えバルブの切換えによって逆止弁装置24より上流側(
図2の上側)のオイル通路23内のオイルの圧力が高くなったときには、そのオイル圧力によって、
図2に鎖線で示すように、リード弁263が自体の弾性に抗して弁本体25の凹部254内に撓曲されて、弁本体25の流路253が開放される。これに対して、VVT機構側(カムシャフト21側,
図2の下側)におけるオイル通路23内のオイルの圧力が高くなったときには、
図2に実線で示すように、リード弁263が自体の弾性によりロータ側部材21の端面と接合する位置に復元されて、弁本体25の流路253が閉鎖され、切換えバルブ側へのオイルの逆流が防止されるようになっている。
【0021】
図2〜
図6に示すように、前記弁本体25は、複数枚(実施形態では7枚)の薄板材27を積層することによって構成されている。各薄板材27には、前記貫通孔251及びボルト挿通孔252のほかに、流路253及び凹部254を形成するための透孔28が形成されている。この場合、
図5及び
図9(a)〜(e)に示すように、各薄板材27の透孔28の大きさを異ならせることによって、前記凹部254の弁板26に対向する底部が流路253から離れるに従って浅くなるように構成されている。各薄板材27の透孔28における凹部254側の縁部のうちで撓曲されたリード弁263と接触する可能性の高い縁部には、流路253に向かって薄くなる厚さ漸減部29が形成されている。この厚さ漸減部29は、断面円弧状をなすように形成されている。
【0022】
図3、
図6及び
図9(a)〜(e)に示すように、前記複数枚の薄板材27のうちで最下部の1枚を除く他の薄板材27の周側部には、複数個のダボ30が形成されている。また、1枚の薄板材27の周側部には、ダボ30に代えて複数個の小孔31が形成されている(
図6参照)。そして、複数枚の薄板材27が積層されて弁本体25が構成される際に、隣接する薄板材27間においてダボ30が相互または小孔31に係合されることにより、各薄板材27が積層状態に固定されている。
【0023】
次に、前記のように構成された逆止弁装置24の弁本体25を製作するための製作方法について説明する。
この弁本体25を製作する場合には、例えば
図8に示すプレス機が用いられる。このプレス機においては、筒状をなす保持部材35が装備され、その保持部材35上において帯板状のワーク36が長さ方向に所定量ずつ
図8の横方向に間欠的に移動される。保持部材35の内周上端縁には、円環状のダイ37が固定されている。ダイ37の上方には、パンチ38が垂直軸線に沿って往復移動可能に配置されている。そして、保持部材35上においてワーク36が間欠的に移動されながら、パンチ38がダイ37に対して上下方向に往復動されることにより、ワーク36から弁本体25を構成するための薄板材27が順に打ち抜かれる。
【0024】
この場合、
図9(a)〜(e)に示すように、ワーク36上の各薄板材27の打ち抜き位置には、薄板材27の打ち抜き工程の前工程において、貫通孔251及びボルト挿通孔252が打ち抜かれるとともに、流路253及び凹部254を形成するための透孔28が大きさを異ならせた状態で打ち抜かれている。また、凹部254側の縁部がリード弁263と接触する可能性の高い薄板材27の縁部には、流路253に向かって薄くなる断面円弧状の厚さ漸減部29が面押し加工により形成される。なお、この実施形態においては、7枚の薄板材27が用いられ、
図9は、凹部254の形が異なる5枚の薄板材27が図示され、そのうち凹部254の面押し加工が施されるのは3枚の薄板材27である。さらに、ワーク36上の各薄板材27の打ち抜き位置には、ダボ30または小孔31が形成される。小孔31は、積層枚数ごとの薄板材27に、すなわち7回目ごとの薄板材27に形成される。
【0025】
図8に示すように、前記ダイ37の下部において保持部材35の内周には、打ち抜かれた薄板材27の外周面に対して圧力を付与するための円筒状の押圧リング39が固定されている。ダイ37、押圧リング39及び保持部材35の軸孔内には、載置台40が垂直軸線に沿って移動可能に設けられている。そして、パンチ38及びダイ37にて打ち抜かれた薄板材27が、押圧リング39により外周から押圧されて保持されながら、載置台40上に載置されて順に積層される。このとき、隣接する薄板材27間においてダボ30が相互にまたは小孔31に係合されることにより、各薄板材27が積層状態に結合される。この場合、7枚目ごとの薄板材27に小孔31が形成されるため、その小孔31を有する薄板材27は次の薄板材27と結合されることはなく、従って、所定枚数,すなわち7枚の薄板材27よりなる弁本体25が形成される。
【0026】
このように、所定枚数の薄板材27が積層されることにより、全体として厚肉円板状をなす弁本体25が製作される。
次に、以上のように構成された逆止弁装置24の作用を説明する。
【0027】
図示しないオイルポンプからのオイルは、切換え弁を経て、弁本体25の流路253を通り、弁板26のリード弁263をその弾性に抗して開放させてVVT機構側に供給される。このため、クランク軸とカム軸との間に回転方向における位相差が生じて、カムの位相が変更される。従って、バルブタイミングが変更されて、エンジンの運転状態やエンジン負荷等に従う適切なバルブタイミングが設定される。このため、エンジンは低燃費かつ高効率で回転される。
【0028】
このとき、このリード弁263は、開放状態になっても、薄板材27に接触することはあまりない。しかし、車両の急速発進時等のように、エンジン回転数やエンジン負荷が短時間に大きく変動する場合には、カム位相を大きく変更させる必要があるために、大量のオイルがVVT機構に供給される。このような場合、リード弁263の開放量が大きくなってリード弁263が凹部254内において薄板材27に接触することがあるが、薄板材27に接触したとしても、薄板材27には断面円弧状の厚さ漸減部29が形成されているため、リード弁263にダメージが与えられることはない。また、例えば、オイルポンプ側からの供給圧に対してVVT機構側からのオイル圧力が高くなった場合は、リード弁263が逆止作用を果たすため、オイルの逆流は防止され、カムの妄動が阻止される。なお、切換えバルブの切換えによってVVT機構側から排出されるオイルは、前記流路253を通ることなく、別の図示しない流路を通ってオイルパンに戻される。
【0029】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この弁装置においては、弁本体25は複数枚の薄板材27を積層することにより構成されている。このため、流路253及び凹部254を有する弁本体25を、フライス盤等の工作機械の切削加工によることなく、プレス機の打ち抜き成形により容易に製作することができる。よって、弁本体25の製作コストを低減することができる。
【0030】
(2) この弁装置においては、各薄板材27の透孔28の大きさを異ならせることにより、凹部254が流路253から離れるに従って浅くなるように構成されている。従って、オイルを円滑に流すことができるとともに、リード弁263の湾曲による開放が許容されて、オイルを円滑に流すことができる。
【0031】
(3) この弁装置においては、薄板材27の透孔28における凹部254側のリード弁263が接触する可能性のある縁部には、流路253に向かって薄くなる厚さ漸減部29が設けられている。このため、リード弁263が弁本体25の凹部254内の撓曲状態に開放動作された際に、リード弁263が透孔28における凹部254側の縁部に当接しても、リード弁263が損傷するおそれを防止することができる。
【0032】
(4) この弁装置においては、前記厚さ漸減部29が断面円弧状をなすように構成されている。このため、リード弁263の開放動作時における損傷のおそれを一層効果的に防止することができる。
【0033】
(5) この弁装置においては、前記弁本体25に弁板26が隣接設置され、その弁板26に前記リード弁263が形成されている。このため、弁板26を弁本体25に積層状態に配置することにより、リード弁263を弁本体25の流路253及び凹部254に対して容易に対応配置することができる。
【0034】
(6) この弁装置においては、各薄板材48の透孔28の大きさを異ならせることにより、凹部254が流路から離れるに従って浅くなるように構成される。従って、底面が傾斜した凹部254を簡単に形成できる。
【0035】
(第2実施形態)
次に、この発明を圧縮機の弁装置に具体化した第2実施形態を前記第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0036】
この第2実施形態においては、
図10に示すように、圧縮機のシリンダブロック43とエンドハウジング44との間に、シリンダブロック43内の圧縮室431をエンドハウジング44内の吐出室441に対して連通させるための吐出弁装置45が介装固定されている。
【0037】
前記第1実施形態の場合とほぼ同様に、吐出弁装置45は、弁本体46と、その弁本体46に隣接状態に設置された弁板47とより構成されている。弁本体46は複数枚の薄板材48を積層することにより構成されている。弁本体46には、流路としての吐出口461及びその吐出口461から延びる凹部462が形成されている。この吐出口461及び凹部462は、各薄板材48に大きさの異なった透孔49を形成することにより、凹部462が吐出口461から離れるに従って浅くなるように構成されている。弁板47側の薄板材48の透孔49における凹部462側の縁部には、断面円弧状の厚さ漸減部50が形成されている。弁板47には、弁本体46の吐出口461を開閉するとともに、開放時に凹部462内に撓曲されるリード弁としての吐出弁471が形成されている。
【0038】
なお、前記エンドハウジング44内には図示しない吸入室が形成されるとともに、前記弁板47の反対側において弁本体46には別の弁板47が隣接設置されている。そして、吸入室の部分において、弁本体46には、前記吐出口461及び凹部462に対し
図10において左右対称形状の図示しない吸入口及び凹部が形成されている。
【0039】
そして、ピストン51の前進によって圧縮室431内の冷媒ガスが圧縮されると、吐出弁471が凹部462内に湾曲されることによって吐出口461が開放されて、同ガスが吐出室441内に吐出され、その後、ガスは図示しない外部冷媒回路に供給されて、冷却が行なわれる。外部冷媒回路からの冷媒は、ピストン51の後退によって前記吸入弁が吐出弁471と同様に開放されることにより、圧縮室431内に吸入される。
【0040】
従って、この第2実施形態においても、前記第1実施形態における(1)〜(6)に記載の効果とほぼ同様の効果を得ることができる。さらに、この第2実施形態においては、以下の効果がある。
【0041】
(7) この弁装置においては、吐出弁471及び吸入弁が凹部462内に湾曲し、過度に開放された場合は、凹部462内の厚さ漸減部50で損傷することなく受け止められ、それ以上の開放が規制される。従って、従来の圧縮機とは異なり、リード弁の過度開放を規制するためのリテーナが不要になって、構成を簡単にすることができる。
【0042】
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 第1実施形態において、
図11に示すように、弁本体25の薄板材27の凹部254における厚さ漸減部29として、前下がりの平面よりなる斜面を形成した形状とすること。この平面を有する形状は、第2実施形態の薄板材48にも適用可能である。
【0043】
・ 前記各実施形態において、弁本体25,46を構成する薄板材27,48の積層枚数を、例えば3〜6枚,あるいは8枚以上等、任意に変更すること。
・ 前記第1実施形態において、弁板26のリード弁263の数を2枚あるいは3枚以上に変更すること。このリード弁263の数はオイル通路23の数,すなわち、VVT機構のオイル作動室の数に対応する。
【0044】
・ 前記第1,第2実施形態においては、複数の薄板材27,48のリード弁263が接触する可能性のある縁部に厚さ漸減部29,50を形成した。従って、厚さ漸減部29,50は、弁本体25,46の凹部254,462の底部の形状やリード弁263,吐出弁471の長さ等に応じて、適宜に変更される。
【0045】
(他の技術的思想)
前記実施形態及び変更例から把握されるが、請求項に記載されていない技術的思想は以下の通りである。
【0046】
(A) 請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の弁装置をVVT機構のオイル流路に組み込んだことを特徴とするVVT機構のオイル供給装置。
(B) 請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の弁装置を圧縮機のシリンダブロックとエンドハウジングとの間に設けるとともに、一対のリード弁を圧縮室と対応して設け、一方のリード弁を圧縮室からの冷媒吐出時に開放される吐出弁、他方のリード弁を圧縮室への冷媒吸入時に開放される吸入弁としたことを特徴とする圧縮機の弁機構。