(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記圧力比相当値演算手段が、前記エンジンに導入される空気量にて前記エンジンで発生するトルクを前記最大トルク相当値として演算するとともに、前記エンジンのアクセル操作量に基づいて設定される目標トルクを前記目標トルク相当値として演算する
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
前記圧力比相当値演算手段が、前記最大トルク相当値として前記エンジンの最大充填効率を用いるとともに、前記目標トルク相当値として前記エンジンに導入される空気量に基づいて演算される目標充填効率を用いて、前記圧力比相当値を演算する
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面を参照してエンジンの制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態のエンジンの制御装置は、
図1に示す車載のガソリンエンジン10に適用される。ここでは、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうちの一つを示す。ピストン16は、中空円筒状に形成されたシリンダー19の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン16の上面とシリンダー19の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジンの燃焼室26として機能する。ピストン16の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト17の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン16の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
【0023】
シリンダー19の頂面には、吸入空気を燃焼室26内に供給するための吸気ポート11と、燃焼室26内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート12とが穿孔形成される。また、吸気ポート11,排気ポート12の燃焼室26側の端部には、吸気弁14及び排気弁15が設けられる。これらの吸気弁14,排気弁15は、エンジン10の上部に設けられる可変動弁機構27によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー19の頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室26側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ13による点火時期は、後述するエンジン制御装置1で制御される。
【0024】
可変動弁機構27は、吸気弁14及び排気弁15のそれぞれについて、最大バルブリフト量及びバルブタイミングを個別に、又は、連動させつつ変更する機構である。可変動弁機構27は、ロッカアームの揺動量と揺動のタイミングとを変更する機構として、VVL装置27a及びVVT装置27bを備える。
【0025】
VVL装置27aは、吸気弁14や排気弁15の最大バルブリフト量を連続的に変更する機構である。このVVL装置27aは、カムシャフトに固定されたカムからロッカアームに伝達される揺動の大きさを変更する機能を有する。ロッカアームの揺動の大きさを変更するための具体的な構造は任意である。
ロッカシャフトに対する揺動部材の基準位置からの変位角のことを、制御角θ
VVLと呼ぶ。制御角θ
VVLは最大バルブリフト量に対応するパラメーターであり、制御角θ
VVLが大きいほど最大バルブリフト量が増大するように、揺動部材の基準位置が設定されているものとする。VVL装置27aは、この制御角θ
VVLを調節することによって、最大バルブリフト量を任意の値に制御する。なお、VVL装置27aで制御される制御角θ
VVLの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0026】
VVT装置27bは、吸気弁14や排気弁15の開閉のタイミング(バルブタイミング)を変更する機構である。このVVT装置27bは、ロッカアームに揺動を生じさせるカム又はカムシャフトの回転位相を変更する機能を有する。カム又はカムシャフトの回転位相を変更することで、クランクシャフト17の回転位相に対するロッカアームの揺動のタイミングを連続的に変化させる(ずらす)ことが可能となる。
基準となるカムシャフトの位相角から実際のカムシャフトの位相角がどの程度進角又は遅角しているかを示す角度の変化量のことを、位相角θ
VVTと呼ぶ。位相角θ
VVTは、バルブタイミングに対応するパラメーターである。VVT装置27bは、この位相角θ
VVTを調整することによって、バルブタイミングを任意に制御する。VVT装置27bで制御される位相角θ
VVTの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
【0027】
[1−2.吸排気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、後述するエンジン制御装置1によって制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、複数のシリンダー19の吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダーで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
【0028】
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置1によって制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には吸気通路24が接続され、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルター25が介装される。これにより、エアフィルター25で濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10の各シリンダー19に供給される。
【0029】
[1−3.検出系]
エンジン10のクランクシャフト17には、その回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサー31が設けられる。なお、回転速度Neの代わりにクランクシャフト17の回転角を検出するセンサーを設け、この回転角に基づいてエンジン制御装置1の内部でエンジン10の回転速度Neを演算する制御構成としてもよい。
スロットルバルブ23よりも上流側の吸気通路24上には、吸気流量Qを検出するエアフローセンサー32が設けられる。また、スロットルバルブ23の下流側には、サージタンク21内の圧力を検出するインマニ圧センサー33(インテークマニホールド圧センサー)が設けられる。以下、サージタンク21内の圧力のことを単にインマニ圧P
IMと呼ぶ。
【0030】
エンジン制御装置1の内部又は車両の任意の位置には、大気圧センサー34が設けられる。この大気圧センサー34は大気の圧力(大気圧)P
BPを検出するものである。大気圧P
BPは、吸気通路24の入口での圧力(エアフィルター25よりも上流側の圧力)に相当する。また、車両の任意の位置(例えばアクセルペダルの近傍)には、アクセルペダルの踏み込み操作量(アクセル開度A
PS)を検出するアクセル開度センサー35が設けられる。アクセル開度A
PSは、運転者の加速要求に対応するパラメーターであり、すなわちエンジン10への出力要求に対応するものである。
【0031】
インマニ圧センサー33で検出されるインマニ圧P
IMは、スロットルバルブ23部の下流圧に相当する。また、大気圧センサー34で検出される大気圧P
BPは、巨視的にはスロットルバルブ23部の上流圧に相当する。ただし厳密には、スロットルバルブ23よりも上流側の吸気通路24で失われる圧損(圧力損失量)を大気圧P
BPから減じた値が、スロットルバルブ23部の上流圧となる。本実施形態では、インマニ圧センサー33,大気圧センサー34のそれぞれが、スロットルバルブ23部における下流圧,上流圧を検出する実測値検出手段として機能するが、演算上のスロットルバルブ23部の上流圧は、大気圧センサー34で検出された大気圧P
BPに圧損分の補正を加えたものとする。
【0032】
ウォータージャケット又は冷却水循環路上の任意の位置には、エンジン冷却水の温度(冷却水温WT)を検出する冷却水温センサー36が設けられる。また、エンジン10のオイルパン又はエンジンオイルの循環経路上の任意の位置には、エンジンオイルの温度(油温OT)を検出する油温センサー37が設けられる。これらの冷却水温WT及び油温OTは、無負荷損失(エンジン10自体に内在する機械的な損失等)を把握するために用いられるパラメーターである。
【0033】
上記の各種センサー31〜37で取得された回転速度Ne,吸気流量Q,インマニ圧P
IM,大気圧P
BP,アクセル開度A
PS,冷却水温WT及び油温OTの各情報は、エンジン制御装置1に伝達される。本実施形態のエンジン制御装置1は、実測されたスロットルバルブ23部の下流圧,上流圧のそれぞれに対応する仮想値を演算するとともに、その仮想値に基づいてエンジン10を制御し、あるいはセンサー類の故障を判定する。
【0034】
[1−4.制御系]
上記のエンジン10を搭載する車両には、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit,制御装置)が設けられる。このエンジン制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。
【0035】
車載ネットワーク上には、例えばブレーキ制御装置,変速機制御装置,車両安定制御装置,空調制御装置,電装品制御装置といったさまざまな公知の電子制御装置が、互いに通信可能に接続される。エンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムと呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置と呼ぶ。
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広範なシステムを総合的に制御する電子制御装置であり、各シリンダー19に供給される空気量や燃料噴射量,点火時期,最大バルブリフト量,バルブタイミング等を制御するものである。
【0036】
エンジン制御装置1の入力側には、
図1に示すように、エンジン回転速度センサー31,エアフローセンサー32,インマニ圧センサー33,大気圧センサー34,アクセル開度センサー35,冷却水温センサー36及び油温センサー37が接続される。また、エンジン制御装置1の出力側には、その制御対象である点火プラグ13,インジェクター18,スロットルバルブ23,可変動弁機構27等が接続される。
【0037】
[2.制御装置]
図1に示すように、エンジン制御装置1には、圧力比相当値演算部2,仮想値演算部3,判定部4及び制御部5が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0038】
[2−1.圧力比相当値演算部]
圧力比相当値演算部2(圧力比相当値演算手段)は、エンジン10の吸気系の圧力比Cに相当する値である圧力比相当値Aを演算するものである。圧力比Cとは、スロットルバルブ23の実際の上流圧に対する下流圧の割合を意味する。一方、圧力比相当値Aとは、実際の圧力比Cと強い相関を持つ値であって、エンジン10の最大トルクに相当する値とその時点でのエンジン10の目標トルクに相当する値とから算出される。
図2に示すように、圧力比相当値演算部2には、最大トルク演算部2a,目標トルク演算部2b及び比率演算部2cが設けられる。
【0039】
最大トルク演算部2aは、エンジン10の回転速度Neに基づいて、エンジン10で発生しうる最大トルクPi
MAX又はこれに相当する相当値を演算するものである。一般に、エンジン10で発生するトルクの大きさは、回転速度Neやシリンダーに導入された空気量,燃料噴射量,点火時期,最大バルブリフト量,バルブタイミング等に応じて変化する。エンジン10の回転速度Neが所定値(一定)であるときに所定の空燃比で発生するトルクの大きさは、
図3に示すようなグラフで表現される。空気量がQ
1であるとき、点火時期がT
1の場合にはエンジン10が最大のトルクPi
1を出力する。点火時期に対するトルクの変動を曲線で示すと、上に凸の曲線となる。また、空気量がQ
2であるときの最大トルクはPi
2であり、そのトルクを出力するための点火時期はT
2である。
【0040】
最大トルク演算部2aは、
図3に示すような関係を踏まえて、その時点でのエンジン10の運転状態で吸入空気量が最大であるときに発生するトルクの最大値(スロットル開度を全開にした状態でのトルク)を最大トルクPi
MAXとして演算する。例えば、
図4中に実線で示すように、スロットル全開時における最大トルクPi
MAXと回転速度Neとの対応関係を定めたグラフや対応マップ,数式等を用いて、最大トルクPi
MAXを演算してもよい。ここで演算された最大トルクPi
MAXの値は、比率演算部2cに伝達される。
【0041】
図3中に示す点火時期T
1,T
2のように、ある空気量が導入されるエンジン10で最大のトルクを発生させる点火時期のことを最適点火時期(MBT:Minimum spark advance for Best Torque)と呼ぶ。最適点火時期は、シリンダー19に導入される空気量が多いほど遅角側(リタード側)に移動し、空気量が少ないほど進角側(アドバンス側)に移動する。また、最適点火時期は回転速度Neが低いほど遅角側に移動し、回転速度Neが高いほど進角側に移動する。
【0042】
最大トルク演算部2aでの最大トルクPi
MAXの演算では、基本的には最適点火時期に点火した場合に発生するトルクが最大トルクPi
MAXとして演算される。ただし、エンジン10のノッキング防止の観点から点火時期を最適点火時期に設定できないような場合には、最適点火時期よりもやや遅角側の所定点火時期に点火した場合に発生するトルクを最大トルクPi
MAXとして演算する。ノッキングは点火時期を遅らせるほど発生しにくくなるが、点火時期を遅らせるとエンジントルクが小さくなる。したがって、ほとんどノックが発生しない点火時期範囲のうち、最適点火時期に近い進角寄りに所定点火時期を設定することが好ましい。
【0043】
点火時期を変化させると、スロットル全開時における最大トルクPi
MAXと回転速度Neとの対応関係も変化し、
図4中における実線グラフの位置及び形状が変化する。一方、
図4中に破線で示すように、複数の点火時期に対応するグラフを予め設定しておくことで、点火時期に応じた最大トルクPi
MAXの演算が可能である。したがって、最大トルク演算部2aが、回転速度Ne及び点火時期に応じて最大トルクPi
MAXを演算する構成としてもよい。
【0044】
また、空燃比に関しては、その時点での実際の空燃比ではなく予め設定された所定空燃比である場合を想定して最大トルクPi
MAXを演算することが好ましい。例えば、実際の空燃比がリーン空燃比であったとしても、ストイキ空燃比(14.7前後の空燃比)や出力空燃比(高出力が得られる12.0〜13.0の空燃比)でのエンジン出力の推定値を最大トルクPi
MAXとして演算することが考えられる。
【0045】
最大トルクPi
MAXの演算時の前提となる空燃比が異なれば、点火時期が異なる場合と同様に、演算される最大トルクPi
MAXの値も異なるものとなる。一方、
図4中に破線で示すように、複数の空燃比に対応するグラフを予め設定しておくことで、空燃比に応じた最大トルクPi
MAXの演算が可能である。したがって、最大トルク演算部2aが、回転速度Ne及び空燃比に応じて最大トルクPi
MAXを演算する構成としてもよい。
【0046】
さらに、吸気弁14や排気弁15の最大バルブリフト量やバルブタイミングに関しても同様であり、最適なバルブタイミングや最適な最大バルブリフト量(すなわち、最も大きいトルクをエンジンに発生させる最大バルブリフト量やバルブタイミング)であるときの最大トルクPi
MAXを演算してもよいし、あるいはその時点での最大バルブリフト量,バルブタイミングにおいてエンジン10で発生する最大トルクPi
MAXを演算してもよい。この場合も、
図4中に破線で示すように、複数の最大バルブリフト量,バルブタイミングに対応するグラフを予め設定しておくことで、最大バルブリフト量やバルブタイミングに応じた最大トルクPi
MAXの演算が可能である。したがって、最大トルク演算部2aが、回転速度Neと最大バルブリフト量,バルブタイミングとに応じて最大トルクPi
MAXを演算する構成としてもよい。
【0047】
目標トルク演算部2bは、回転速度Ne,アクセル開度A
PS,無負荷損失等に基づいて目標トルクPi
TGTを演算するものである。この目標トルクPi
TGTは、例えば車両のドライバーや外部負荷装置がエンジン10に要求しているトルクに相当するものであり、エンジン10が出力すべきトルクの目標値を図示平均有効圧Piに換算した値である。ここには、回転速度Ne,アクセル開度A
PS,無負荷損失等と目標トルクPi
TGTとの対応マップや数式,関係式が予め設定されているものとする。目標トルク演算部2bはこのような関係に基づいて目標トルクPi
TGTを演算する。ここで演算された目標トルクPi
TGTの値は、比率演算部2cに伝達される。
【0048】
比率演算部2cは、最大トルク演算部2aで演算された最大トルクPi
MAXと目標トルク演算部2bで演算された目標トルクPi
TGTとに基づき、圧力比相当値Aを演算するものである。圧力比相当値Aは、以下の式1に示すように、最大トルクPi
MAXに対する目標トルクPi
TGTの比として与えられる。ここで演算された圧力比相当値Aは、仮想値演算部3に伝達される。
圧力比相当値A=(目標トルクPi
TGT/最大トルクPi
MAX) …(式1)
【0049】
圧力比相当値Aと実際のスロットルバルブ23部の圧力比Cとの関係をグラフ化して
図5(a)に示す。このグラフは、回転速度Ne,点火時期及び空燃比を一定とし、吸気弁14の最大バルブリフト量を変化させた場合のそれぞれの圧力比相当値Aと圧力比Cとの関係をプロットしたものである。グラフの横軸,縦軸はそれぞれ圧力比相当値A,圧力比Cであり、点線状に配置された白丸は圧力比相当値Aと圧力比Cとが同一値となる点(C=Aの直線グラフ上の点)を示す。
【0050】
このグラフでは、吸気弁14の最大バルブリフト量をL
1,L
2,L
3,L
4の四段階で順に増大させたときの結果が細破線,細実線,太破線,太実線で表現されている。四つのグラフはそれぞれ、点線状の白丸にほぼ沿った形状をなしている。つまり、圧力比相当値Aと圧力比Cとの間には、最大バルブリフト量に依存しない相関が認められ、圧力比相当値Aを圧力比Cの代替パラメーターとして用いることが可能である。
【0051】
[2−2.仮想値演算部]
仮想値演算部3(仮想値演算手段)は、圧力比相当値演算部2で求められた圧力比相当値Aと吸気系圧力の実測値(すなわちインマニ圧P
IM及び大気圧P
BP)とに基づき、それぞれの圧力の仮想値を演算するものである。
図2に示すように、仮想値演算部3には、圧力損失演算部3a,仮想インマニ圧演算部3b及び仮想大気圧演算部3cが設けられる。
【0052】
圧力損失演算部3aは、スロットルバルブ23よりも上流側の吸気通路24で失われる圧損P
LOSS(圧力損失量)を演算するものである。ここには、吸気流量Qと圧損P
LOSSとの対応マップや数式,関係式が予め設定されており、圧力損失演算部3aはこのような関係に基づいて圧損P
LOSSを演算する。吸気流量Qと圧損P
LOSSとの対応関係は、
図6に示すように、例えば圧損P
LOSSが吸気流量Qの二乗に比例するような関係である。なお、外気温度や大気圧P
BPを考慮して、より正確に圧損P
LOSSを演算する構成としてもよい。ここで演算された圧損P
LOSSの値は、仮想インマニ圧演算部3b及び仮想大気圧演算部3cに伝達される。
【0053】
仮想インマニ圧演算部3bは、実測された大気圧P
BPと圧力比相当値Aとから推定される理論上のインマニ圧である仮想インマニ圧VP
IMを演算するものである。ここでは、以下の式2に従って仮想インマニ圧VP
IMが演算される。大気圧P
BPから圧損P
LOSSを減じたものはスロットルバルブ23の上流圧に対応し、これに圧力比相当値Aを乗じたものが仮想インマニ圧VP
IMとされる。ここで演算された仮想インマニ圧VP
IMの値は、判定部4及び制御部5に伝達される。
【0055】
仮想大気圧演算部3cは、実測されたインマニ圧P
IMと圧力比相当値Aとから推定される理論上の大気圧である仮想大気圧VP
BPを演算するものである。ここでは、以下の式3に従って仮想大気圧VP
BPが演算される。インマニ圧P
IMを圧力比相当値Aで除した値は、スロットルバルブ23の上流圧に対応し、これに圧損P
LOSSを加算した値が仮想大気圧VP
BPとされる。ここで演算された仮想大気圧VP
BPの値は、判定部4及び制御部5に伝達される。
【0057】
[2−3.判定部]
判定部4(判定手段)は、上記の実測値と仮想値とに基づいて圧力系センサーの故障を判定するものである。判定部4には、
図2に示すように、インマニ圧センサー判定部4aと大気圧センサー判定部4bとが設けられる。
インマニ圧センサー判定部4aは、インマニ圧P
IMと仮想インマニ圧VP
IMとを比較して、インマニ圧センサー33の故障を判定するものである。ここでは、インマニ圧P
IMと仮想インマニ圧VP
IMとの差が大きいほど、インマニ圧センサー33の故障の可能性が高いものと判定される。
【0058】
例えば、仮想インマニ圧VP
IMを中心とした所定誤差Xの範囲内にインマニ圧P
IMの値が入っているときに、インマニ圧センサー33は正常である(故障していない)と判定される。一方、インマニ圧P
IMの値が仮想インマニ圧VP
IMに所定誤差Xを加算した値よりも大きい場合や、仮想インマニ圧VP
IMから所定誤差Xを減算した値よりも小さい場合、あるいはそれらの状態が所定時間継続した場合には、インマニ圧センサー33が故障したと判定される。インマニ圧センサー33の故障判定の結果は制御部5に伝達される。
【0059】
なお、
図7は仮想インマニ圧VP
IMを横軸とし、インマニ圧P
IMを縦軸としたグラフである。このグラフ上で、仮想インマニ圧VP
IM及びインマニ圧P
IMの組み合わせが斜線領域内にある場合に、インマニ圧センサー33が故障したと判定することができる。あるいは、斜線領域内にある状態が所定時間継続した場合に、インマニ圧センサー33が故障したと判定してもよい。
【0060】
大気圧センサー判定部4bは、大気圧P
BPと仮想大気圧VP
BPとを比較して、大気圧センサー34の故障を判定するものである。ここでの判定手法はインマニ圧センサー判定部4aでの判定手法と同様であり、大気圧P
BPと仮想大気圧VP
BPとの差が大きいほど、大気圧センサー34の故障の可能性が高いものと判定される。
【0061】
例えば、仮想大気圧VP
BPを中心とした所定誤差Yの範囲内に大気圧P
BPの値が入っているときに、大気圧センサー34は正常である(故障していない)と判定される。一方、大気圧P
BPの値が仮想大気圧VP
BPに所定誤差Yを加算した値よりも大きい場合や、仮想大気圧VP
BPから所定誤差Yを減算した値よりも小さい場合、あるいはそれらの状態が所定時間継続した場合には、大気圧センサー34が故障したと判定される。大気圧センサー34の故障判定の結果は制御部5に伝達される。
【0062】
[2−4.制御部]
制御部5(制御手段)は、インマニ圧P
IM,大気圧P
BP,仮想インマニ圧VP
IM及び仮想大気圧VP
BPに基づき、エンジン10の出力を制御するものである。ここでは、判定部4でインマニ圧センサー33が故障したと判定された場合には、インマニ圧P
IMの代わりに仮想インマニ圧VP
IMが使用されて、エンジン10が制御される。また、判定部4で大気圧センサー34が故障したと判定された場合には、大気圧P
BPの代わりに仮想大気圧VP
BPが使用されて、エンジン10が制御される。これらの圧力情報の具体的な使用方法は種々考えられるが、本実施形態ではこれらの圧力情報が無負荷損失の演算に用いられる場合と、目標スロットル開度の演算に用いられる場合との二通りについて説明する。
【0063】
(A)無負荷損失とはエンジン10の無負荷状態での損失である。無負荷損失には、機械摩擦損失や吸気損失,排気損失等が含まれる。本実施形態では、無負荷状態での損失に相当するトルクのことを無負荷損失と呼ぶ。制御部5は、アイドリング状態でエンジン10の出力軸に対して負荷として作用するトルクを無負荷損失として演算する。
制御部5は、エンジン10の回転速度Neとサージタンク21部の相対圧ΔPとに基づき、無負荷損失を演算する。ここでは、例えば予め設定された回転速度Ne,相対圧ΔP及び無負荷損失の対応マップや数式等に基づいて、無負荷損失が演算される。ここで演算された無負荷損失の値は、アイドリング時や通常走行時の目標トルクPi
TGTの演算に使用される。なお、ここで演算された無負荷損失を冷却水温WT及び油温OTで補正する演算構成としてもよい。
【0064】
インマニ圧センサー33及び大気圧センサー34がともに故障していない場合、サージタンク21部の相対圧ΔPは、以下の式4に示すように、大気圧P
BPからインマニ圧P
IMを減じた値とされる。一方、インマニ圧センサー33が故障していると判定されている場合の相対圧ΔPは、以下の式5に示すように、大気圧P
BPから仮想インマニ圧VP
IMを減じた値とされる。また、大気圧センサー34が故障していると判定されている場合の相対圧ΔPは、以下の式6に示すように、仮想大気圧VP
BPからインマニ圧P
IMを減じた値とされる。
【0065】
相対圧ΔP=(大気圧P
BP−インマニ圧P
IM) …(式4)
相対圧ΔP=(大気圧P
BP−仮想インマニ圧VP
IM) …(式5)
相対圧ΔP=(仮想大気圧VP
BP−インマニ圧P
IM) …(式6)
【0066】
このようにして得られた相対圧ΔPに基づいて無負荷損失が演算され、その無負荷損失が目標トルクPi
TGTに反映される。したがって、インマニ圧センサー33や大気圧センサー34の故障の有無に関わらず、適切な目標トルクPi
TGTが算出されることになり、エンジン10の制御性が向上する。
【0067】
(B)また、制御部5は、目標トルク演算部2bで演算された目標トルクPi
TGTに基づき、スロットルバルブ23のスロットル開度を制御する。ここでは、エンジン10が目標トルクPi
TGTを出力するために要する空気量が目標空気量として演算されるとともに、その目標空気量に基づいてスロットルバルブ23を通過させるべき吸気の目標流量が演算される。また、吸気系の圧力状態に基づいてスロットルバルブ23部における吸気の流速Vが演算され、目標流量と流速Vとからスロットル開度が演算される。流速Vは、スロットルバルブ23部の圧力比Cに基づいて演算される。
【0068】
インマニ圧センサー33及び大気圧センサー34がともに故障していない場合、制御部5は以下の式7に示すように、大気圧P
BP,インマニ圧P
IM及び圧損P
LOSSに基づいて、スロットルバルブ23部の圧力比Cを演算する。一方、インマニ圧センサー33が故障していると判定されている場合には、式8に示すように、式7中のインマニ圧P
IMの代わりに仮想インマニ圧VP
IMを用いて圧力比Cを演算する。また、大気圧センサー34が故障していると判定されている場合には、式9に示すように、式7中の大気圧P
BPの代わりに仮想大気圧VP
BPを用いて圧力比Cを演算する。
【0070】
制御部5は、上記の演算で得られた圧力比Cに基づいて吸気の流速Vを演算する。制御部5には、例えば圧力比C及び流速Vの対応関係が規定されたマップや数式と、目標流量及び流速Vとスロットル開度との対応関係が規定されたマップや数式とが記録されている。これらに基づいて圧力比Cから流速Vが演算され、スロットル開度が演算される。
したがって、インマニ圧センサー33や大気圧センサー34の故障の有無に関わらず、適切なスロットル開度が演算されることになり、エンジン10の制御性が向上する。
【0071】
[3.作用,効果]
図5(a)に示すように、圧力比相当値Aにはスロットルバルブ23部の圧力比Cとの相関が認められる。この相関を踏まえて、上述のエンジン制御装置1ではインマニ圧P
IMから仮想大気圧VP
BPが演算され、大気圧P
BPから仮想インマニ圧VP
IMが演算される。仮想インマニ圧VP
IMは、実際の大気圧P
BPと圧力比相当値Aとから得られた値であることから、実際のインマニ圧P
IMと同じ特性を持つパラメーターとなり、大気圧センサー34の出力が適正である限り、インマニ圧P
IMに近い理論値となる。同様に、仮想大気圧VP
BPは、実際の大気圧P
BPと同じ特性を持つパラメーターとなり、インマニ圧センサー33の出力が適正である限り、大気圧P
BPに近い理論値となる。
【0072】
(1)このように、上記のエンジン制御装置1では、圧力比相当値Aと実測値とに基づいて仮想値が演算される。これにより、複雑な吸気系モデルを要しない簡素な演算構成で、理論上の吸気系圧力の大きさを精度よく推定することができる。したがって、インマニ圧センサー33や大気圧センサー34の故障の有無に関わらず、制御の信頼性を向上させることができる。
また、インマニ圧P
IM及び大気圧P
BPのうちの何れか一方を実測すれば、他方の仮想値を取得できるため、インマニ圧センサー33,大気圧センサー34の何れか一方を省略することも可能であり、コストダウンを図ることができる。なお、信頼性の低いセンサーを省略することで、制御の信頼性を向上させることも可能である。
【0073】
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、インマニ圧P
IMと大気圧P
BPとがともに実測され、それぞれの仮想値である仮想インマニ圧VP
IMと仮想大気圧VP
BPとが演算されている。これにより、故障時における実測値の代替として仮想値を利用することができる。例えば、インマニ圧センサー33が故障した場合には、大気圧センサー34の実測値から仮想インマニ圧VP
IMを求めてインマニ圧P
IMの代用として、無負荷損失やスロットル開度を演算することができ、故障前と変わらないエンジン10の運転状態を維持することができる。したがって、エンジン10のフェイルセーフ機能を向上させることができ、制御の信頼性を向上させることができる。
【0074】
(3)また、上記のエンジン制御装置1では、インマニ圧センサー33で検出されたインマニ圧P
IMと仮想インマニ圧VP
IMとを比較することで、インマニ圧センサー33の故障を精度よく判定することができる。例えば、インマニ圧P
IMが通常の変動範囲内にある状態であっても、仮想インマニ圧VP
IMとの差が大きい場合には、インマニ圧センサー33が故障したと判定することができ、判定精度を向上させることができる。同様に、大気圧センサー34で検出された大気圧P
BPと仮想大気圧VP
BPとを比較することで、大気圧センサー34の故障を精度よく判定することができる。
【0075】
(4)なお、大気圧センサー34を省略した場合であっても、インマニ圧センサー33があれば仮想大気圧VP
BPを求めることが可能である。一方、インマニ圧センサー33で検出される圧力は、吸気通路24を通過してきた吸気の圧力であることから、実際の大気圧の変動に対してやや遅れて変動する。このような吸気遅れは、エンジン10の制御性を低下させうる。
【0076】
これに対して、上記のエンジン制御装置1では、大気圧センサー34を省略することなく搭載しているため、吸気遅れに伴う仮想値の演算誤差の発生やエンジン10の制御性の低下を抑制することができる。なお、大気圧P
BPの実測値を用いることで、無負荷損失の値を高精度に演算することができ、圧力比相当値Aの演算精度を向上させることができるという利点もある。
【0077】
(5)また、上記のエンジン制御装置1では、スロットルバルブ23の上流圧に対応する圧力として、大気圧P
BPから圧損P
LOSSを減じたものが用いられるとともに、吸気流量Qに基づいて圧損P
LOSSが演算されている。これにより、スロットルバルブ23よりも上流側の吸気通路24での圧力降下量を精度よく把握することができ、仮想インマニ圧VP
IMや仮想大気圧VP
BPの演算精度を向上させることができる。
【0078】
(6)また、圧力比相当値Aの演算手法に関して、上記のエンジン制御装置1では、その時点での最大トルクPi
MAXと目標トルクPi
TGTとを用いて圧力比相当値Aを演算している。これらの最大トルクPi
MAX,目標トルクPi
TGTは、例えば燃料の噴射量や噴射時期,点火時期の制御といった吸気量制御以外のトルクベース制御でも使用されうるパラメーターであるため、演算値の転用や他の制御への再利用が容易であり、制御プログラムやアルゴリズムの簡素化が容易であるという利点がある。
【0079】
[4.変形例]
[4−1.充填効率を用いた圧力比相当値の演算]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述のエンジン制御装置1では、エンジン10の最大トルクPi
MAX及び目標トルクPi
TGTを用いて圧力比相当値Aを演算しているが、トルクの代わりにシリンダー19内に導入される空気量を用いることで同様の演算を行うことも可能である。
【0080】
例えば、上述の実施形態の最大トルクPi
MAX及び目標トルクPi
TGTの代わりに、最大充填効率Ec
MAX及び目標充填効率Ec
TGTを用いて第二圧力比相当値Bを演算し、この第二圧力比相当値Bを圧力比Cの代替パラメーターとして用いることが考えられる。最大充填効率Ec
MAXとは、上述の実施形態における最大トルクPi
MAXに対応する充填効率Ecであり、エンジン10で最大トルクPi
MAXを発生させるのに要求される空気量に基づいて算出される充填効率Ec(スロットル開度を全開にした時の充填効率Ec)である。また、目標充填効率Ec
TGTは目標トルクPi
TGTに対応する充填効率Ecであり、エンジン10で目標トルクPi
TGTを発生させるのに要求される空気量に基づいて算出される充填効率Ecである。これらのパラメーターを用いて、最大充填効率Ec
MAXに対する目標充填効率Ec
TGTの比を第二圧力比相当値B(B=Ec
TGT/Ec
MAX)とすることができる。
【0081】
ここで、本発明者らによる試験を通して確認された第二圧力比相当値Bと実際のスロットルバルブ23部の圧力比Cとの関係を、
図5(b)に例示する。このグラフは、
図5(a)と同様に、エンジン10の回転速度Ne及び空燃比を一定とし、吸気弁14の最大バルブリフト量を変化させた場合のそれぞれの第二圧力比相当値Bと圧力比Cとの関係をプロットしたものである。
【0082】
最大バルブリフト量が異なる四つのグラフは、何れも点線状の白丸に沿った形状をなしており、第二圧力比相当値Bと圧力比Cとの間には最大バルブリフト量に依存しない相関が認められる。したがって、圧力比Cの代わりに第二圧力比相当値Bを用いた場合にも、上述の実施形態と同様の作用,効果を奏するものとなる。
【0083】
なお、この場合、上述の実施形態における最大トルク演算部2aが、最大トルクPi
MAXに相当する最大充填効率Ec
MAXを演算する制御構成とすればよい。最大充填効率Ec
MAXは、エンジン10の回転速度Ne及び吸気流量Qのほか、燃料噴射量,点火時期,最大バルブリフト量,バルブタイミング等に基づいて演算される。あるいは、最大トルクPi
MAXと最大充填効率Ec
MAXとの対応関係を規定したマップ,数式等に基づいて、最大トルクPi
MAXから最大充填効率Ec
MAXを求めてもよい。
【0084】
また、目標トルク演算部2bは、目標トルクPi
TGTに相当する目標充填効率Ec
TGTを演算する制御構成とすればよい。例えば、回転速度Ne,アクセル開度A
PS,無負荷損失等に基づいて目標充填効率Ec
TGTを演算してもよいし、目標トルクPi
TGTと目標充填効率Ec
TGTとの対応関係を規定したマップ,数式等に基づいて、目標トルクPi
TGTから目標充填効率Ec
TGTを求めてもよい。
【0085】
これらの最大充填効率Ec
MAX,目標充填効率Ec
TGTを用いて、比率演算部2cが、最大充填効率Ec
MAXに対する目標充填効率Ec
TGTの比率を第二圧力比相当値Bとして演算する。これ以降の演算では圧力比相当値Aの代わりに上記の第二圧力比相当値Bを用いることで、上述の実施形態と同様に仮想値を演算することができ、あるいは圧力センサー類の故障判定を実施することができる。また、第二圧力比相当値Bと圧力比Cとの相関を利用することで、エンジン10のさまざまな運転状態に対応した複雑なマップやテーブルが不要となり、スロットル開度の演算に係るデータを記憶するROM容量を削減することができる。
【0086】
[4−2.その他]
上述の実施形態では、
図7に示すように、実測値と仮想値との差が例えば所定誤差X以上大きい場合に、その実測値を実測したセンサーが故障したものと判定される制御を例示したが、具体的な故障判定の手法はこれに限定されない。例えば、センサーが正常であると判定される範囲の幅をそのときの実測値に応じて変更してもよい。あるいは、所定誤差Xの値を固定値ではなく、他のパラメーターに応じて設定される変数としてもよい。
【0087】
また、上述実施形態では、おもに
図4に示すようなエンジン回転速度Neと最大トルクPi
MAXとの関係に着目して最大トルクPi
MAXの演算手法を説明した。しかしながら、エンジン10の最大トルクPi
MAXはエンジン回転速度Neだけでなく、前述の通り点火時期や最大バルブリフト量,バルブタイミング,空燃比に応じて変化する。したがって、最大トルク演算部2aで最大トルクPi
MAXを演算する時点での最大バルブリフト量,バルブタイミングに応じて、その最大トルクPi
MAXを算出又は補正する構成としてもよい。これにより、圧力比相当値Aと圧力比Cとの相関をより高めることができ、スロットルバルブ23の制御性をより向上させることができるとともに、制御の信頼性を向上させることができる。
【0088】
一方、たとえ演算時点の最大バルブリフト量,バルブタイミングを使わなくても、圧力比相当値Aと圧力比Cとの相関は確保される。例えば、
図5(a),(b)に示すように、圧力比相当値Aと圧力比Cとの相関や、第二圧力比相当値Bと圧力比Cとの相関は、最大バルブリフト量に依存しない。したがって、最大トルクPi
MAXの演算に実際の制御角θ
VVLや位相角θ
VVTを常に反映させる必要があるわけではない。
【0089】
また、点火時期や空燃比に関しても同様であり、これらのパラメーターに応じて最大トルクPi
MAXを演算することで、より正確な最大トルクPi
MAXの値を把握することができ、圧力比相当値Aと圧力比Cとの相関をより高めることができる。したがって、制御の信頼性を向上させることができる。
【0090】
なお、演算時点の点火時期での最大トルクPi
MAXを演算する構成としてもよいし、最適点火時期に点火した場合に発生するトルクを最大トルクPi
MAXとする構成であってもよいし、ノッキングの可能性を考慮して点火時期を最適点火時期からやや遅らせた場合に発生するトルクを最大トルクPi
MAXとする構成であってもよい。圧力比相当値Aと圧力比Cとの相関が最も強化されるのは、最適点火時期に点火した場合であるが、他の場合であっても圧力比相当値Aと圧力比Cとの間に相関を認めることができる。
【0091】
また、上述の実施形態では、図示平均有効圧Piで表現された最大トルクPi
MAX及び目標トルクPi
TGTを用いて圧力比相当値Aを演算するものを例示したが、具体的な圧力比相当値Aの演算手法はこれに限定されない。例えば、図示平均有効圧Piの代わりに正味平均有効圧Peやクランクシャフト17に生じるトルク値を用いて圧力比相当値Aを演算してもよい。また、上述の変形例における充填効率Ecの代わりに空気量(空気の体積,質量)や体積効率,吸気流量等を用いて第二圧力比相当値Bを演算してもよい。