特許第5994549号(P5994549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994549
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】転炉で用いる溶銑の脱りん精錬剤
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20160908BHJP
【FI】
   C21C1/02 110
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-224728(P2012-224728)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-77165(P2014-77165A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】務川 進
(72)【発明者】
【氏名】太田 光彦
(72)【発明者】
【氏名】三井 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 剛司
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−065113(JP,A)
【文献】 特開昭60−165311(JP,A)
【文献】 特開昭62−174312(JP,A)
【文献】 特開2001−348610(JP,A)
【文献】 特開昭55−047309(JP,A)
【文献】 特開昭54−107820(JP,A)
【文献】 米国特許第04084959(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーダ灰10〜20質量%と酸化鉄を含有し、炭素を含有しない溶銑の脱りん剤であって、嵩密度が1400kg/m3以上、2700kg/m3未満、粒径が10mm以上、60mm未満のブリケットであることを特徴とする転炉で用いる溶銑の脱りん剤。
【請求項2】
ソーダ灰が、Na2CO3の水和物を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の転炉で用いる溶銑の脱りん剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉で用いる溶銑の脱りん精錬剤に関するものである。特に、事前脱珪を省略し、大量のスラグによる溶銑の脱りん処理を行う際の使用に最適な脱りん精錬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用環境が厳しい鋼材においては、その素材としての特性に高度なものが要求される。鋼材中のりんは、結晶粒界に析出して粒界の強度を低下させたり、凝固時には偏析の原因となり、鋼材特性を低下させるため、高強度を保つ鋼材では、一般に、りん濃度の低減が求められる。そのため、高炉溶銑を原料として鋼を製造する場合には、溶銑中のりんを除去する溶銑脱りん技術が開発されて来た。
【0003】
現在、溶銑の脱りん処理を行う方法として、転炉を用いた処理方法が広く採用されるに至っている。この場合、特に、高炉溶銑中の珪素を除去せずに、脱珪と脱りんを同時に行う方法がとられる。その理由は、脱珪反応で生じる反応熱を利用し、スクラップ溶解が可能となるため、例えば高炉改修時のような溶銑が足りない場合、スクラップを多く配合して生産量を確保することができる等の弾力性が確保できるためである。その半面、高炉の操業が不安定となったり、あるいは原料事情によって溶銑中の珪素濃度が高まった場合には、脱珪反応で生じるSiO2の量が多くなり、スラグの脱りん能を維持するために必要なCaOの量が増え、結果として脱りん時に生成するスラグ量が多くなる。
【0004】
溶銑脱りん処理においては、溶銑上に、スラグを形成させて脱りん処理を行うが、脱りん反応は酸化反応であり、酸化源を添加する必要がある。しかし、溶銑中には3%以上の濃度で炭素が含まれるため、必然的に脱炭反応が起き、スラグ−溶銑界面ではCOガス気泡が生成する。その結果、スラグが泡立ち状態となり、その体積が数百倍にも増大する。その結果、スラグ量が多い場合、酸素供給速度が大きい、あるいは、スラグのFeO濃度が高い等の時にはフォーミングが大きくなって炉から溢れだす事象が起きる。これが所謂スロッピングであるが、この事象が生じると、高温のスラグ、溶銑が周囲に溢れ、火災等の重大な事態に至る。
【0005】
スロッピングが発生した場合、一般には、脱りんに必要な酸素供給の速度を低下させたり、あるいは中断する必要が生じ、所定の酸素を供給する時間が増え、結果として生産性が低下する、という問題が発生する。また、中断した場合には脱りんが不十分となり、所定のりん濃度まで低下できないことになる。この場合には、次工程である脱炭炉において、多量のCaO源を添加して更に脱りんを行う必要が生じる。脱りん反応は一般には低温程有利であるが、1600℃以上の高温となる脱炭炉で脱りんを行うと、余分にCaOが必要となり、余分なコスト増加を招くといった問題が生じる。したがって、特に、溶銑中の珪素濃度が高い場合等に、安定的に脱りん処理を行うためにはスロッピングの抑制が重要となる。
【0006】
スロッピング抑制に関して、従来から、基礎、応用両面から様々な研究がなされている。
【0007】
Na2Oがスラグに含まれると、スラグのフォーミングが抑制されることが、非特許文献1、非特許文献2に基礎研究の結果として示されているが、実際の転炉でいかなる方法でこのNa2Oの効果が利用できるか、あるいは実操業で如何ほどの効果が期待できるのか、あるいは添加方法等、実操業における利用方法は明確にされていない。
【0008】
特許文献1には、このスラグフォーミングを抑制する手段として、粒径100μm以下の生石灰粉と5〜20%の炭素粉、更に、5〜20%のソーダガラスを機械的な圧密法で成型したことを特徴とするフォーミング抑制剤の記述があり、これを添加することによりソーダガラスがCaOの溶解を促進し、スラグ塩基度を高めて粘性、表面張力を低下させる効果によりフォーミングを抑制する、との記述がある。しかし、ソーダガラスは多くのSiO2を含むため、CaOを溶解させる作用よりも塩基度を上昇させる効果は限定的であり、また、却ってスラグ量を増すため、スロッピング抑制には逆効果になりかねない。また、炭素粉は確かにフォーミング抑制作用があることは認められるが、酸化反応である脱りん処理時に炭素粉を添加することはスラグ中のFeOの還元を招き、脱りんに必要なスラグ中のFeO濃度を低下させ、脱りん効率を悪化させる方向に作用するので、好ましくない。
【0009】
特許文献2には、従来、トーピードカーで行われていた脱りん脱硫連続処理工程において、脱りん期において発生したスラグのフォーミングを、脱硫期において抑制するため、ソーダ灰の添加とともに5〜30重量%の脱酸剤を添加する旨の記述がある。しかし、本発明の対象とする脱りん工程において脱酸剤は利用できないので、本法は採用できない。
【0010】
特許文献3には、脱りん時の上方添加する固体酸素源の粒径を3〜30mm、密度を3000kg/m3以上とするとの記述があるが、スラグフォーミング、スロッピングへの影響については記載が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-348609号公報
【特許文献2】特開昭60-145308号公報
【特許文献3】特開2011-122175号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】原茂太、柚木孝之、荻野和巳:鉄と鋼、75(1989)p.2182「酸化物融体の泡立ち性に及ぼす表面張力の効果」
【非特許文献2】J.Ren、M.Westholt and K.Kock:Steel Research, 65(1994)p.213「The influence of MgO, K2O, Na2O and gas pressure on slag forming behavior under reducing conditions」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記課題を解決し、スロッピング抑制と短時間脱りん処理を両立させるための脱りん剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明の転炉で用いる溶銑の脱りん精錬剤は、ソーダ灰10〜20質量%と酸化鉄を含有し、炭素を含有しない溶銑の脱りん剤であって、嵩密度が1400kg/m3以上、2700kg/m3未満、粒径が10mm以上、60mm未満のブリケットであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項記載の転炉で用いる溶銑の脱りん精錬剤において、ソーダ灰が、Na2CO3の水和物を主成分とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本発明の溶銑の脱りん精錬剤の構成を、Na2O発生源(好ましくはソーダ灰、更に好ましくはNa2CO3の水和物を主成分)10〜20質量%と酸化鉄とを含み、嵩密度が1400 kg/m3以上、2700kg/m3未満、粒径が10mm以上、60mm未満のブリケットとしたことにより、スロッピング抑制と脱りん率向上を同時に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を実施するのに好適な転炉の横断面図である。
図2】本発明の脱りん剤を利用した脱りん操業のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、実際の転炉において、Na2O発生源としてのソーダ灰と酸化鉄とを含み、炭素を含まないブリケットを、溶銑脱りん処理中のフォーミング状態にあるスラグに上方添加したところ、フォーミング抑制に対して効果的に作用する場合と、作用しない場合があることを新たに見出した。
【0020】
本発明者らは、この現象が、実際の転炉では、上方添加した場合、その比重が小さいもの、や粒径が小さいものでは、フォーミングしたスラグの上面に乗っているだけの状態となっており、上方添加剤のスラグとの反応、混合が不十分であり、COガスによって熱分解してNa蒸気として蒸発するのみであること、またスロッピングが起きた場合には、スラグとともに炉外に排出されてしまうことがあることに起因するものと推測し、ソーダ灰を含むブリケットを上方添加するにしても、ある程度、スラグ内に侵入させる必要があることを着想した。
【0021】
また、脱りん処理においては、通常ある程度の量の酸化鉄源を添加するが、酸化鉄源として例えば転炉ダスト、ミルスケール等の副産物を用い、先のソーダ灰を含むブリケットの比重を大きくするために利用すると、酸化鉄源としてもフォーミング抑制剤としても同時に有効に作用する、との着想を得た。
【0022】
以上の着想からなされた本発明の、Na2O発生源(好ましくはソーダ灰)10〜20質量%と酸化鉄とを含み、嵩密度が1400 kg/m3以上、2700kg/m3未満、粒径が10mm以上、60mm未満の溶銑の脱りん精錬剤は、転炉ダスト等酸化鉄とソーダ灰を混合、混錬後に、圧縮成型、押出し成型、焼結等によりブリケット(成型体)とすればよい。前記のソーダ灰は、Na2O発生源としては、次段落に記載のように炭酸ナトリム(Na2CO3)を主成分とすることが好ましい。
【0023】
スラグ内部への沈降を早めるためには、ブリケットの密度はある程度大きくする必要があるので、1400kg/m3以上とする。ただし、ブリケットの密度が大きすぎると、スラグ−溶銑界面に容易に到達し、Na2Oが溶銑中のCで還元され、直ちにNa蒸気として蒸発してしまうため比重は2700kg/m3未満とする。
Na2CO3→ Na2O + CO2 (1)
Na2O + C →2 Na + CO (2)
【0024】
ただし、本発明の嵩密度とは、粒子の真密度を指すのではなく、圧縮成型、押出し成型、焼結などで成型されたブリケット(成型体)内部の気孔を含む見掛け比重のことを指す。即ち、成型体の重量を見掛け体積で除した値である。見掛け体積は、例えば、水銀など、成型体と反応を起こさず、また成型体の細孔内部に浸透しない液体に、成型体を浸した際の体積増加を測定することで得られる。
【0025】
粒径については、小さ過ぎると炉内を通過するCOガス、底吹きガスにて精錬剤が脱りん反応容器外へ持ち去られるので、10mm以上とする。しかし、大き過ぎると、添加した後の伝熱、溶融が律速となるので、60mm未満とする。粒径は、粗い篩目60mmの篩下で、かつ細かい篩目10mmの篩上のものとして選別すればよい。
【0026】
これらの条件とすることで、Na2Oがスラグ中に歩留まり良く留まり、また、酸化鉄源はスラグ中のFeOとなる。Na2Oは、スラグフォーミングを抑制するのに有効に作用するとともに、スラグの脱りん能を高める作用を示す。また、FeOは脱りん反応を有利に進める。その結果、本発明の脱りん剤を上方添加すると、スロッピング抑制と脱りん率向上の両方の効果を得ることが可能となる。
【0027】
なお、工業的に得られるソーダ灰の中で、水和物を利用すると、添加後に熱分解を生じ、スラグ内部で水蒸気を多量に発生して破泡を促進して、更に顕著なフォーミング抑制効果を奏することができる。炭酸ナトリームの水和物が含有するかとその含有量は、ブリケットを粉砕してEDAXで分析すればよい。
【実施例】
【0028】
図1に例示する酸素上吹きランスと、塊状の副原料投入装置を設けた転炉(炉容積0.39〜0.42m/溶銑t)を用いた溶銑の脱りん処理に際し、図2に示す何れかのフローに従って、下記実施例の溶銑の脱りん剤の添加を行った結果を表1に示している。炉への溶銑装入量は278〜294tとした。その他のスクラップ等の鉄源は装入しなかった。尚、表1の脱りん精錬剤のブリケットの成型方法は、実施例1、比較例2が焼結、実施例2、実施例3、比較例1が圧縮成型、実施例4、比較例3が押出し成型とした。粒径は、目の粗い篩と目の細かい篩の二種を用い、上段の目の粗い篩を透過し、目の細かい篩を透過しなかったものを抽出した。表1では細かい目のサイズ〜粗い目のサイズで記した。表1の脱りん処理時間比は、実施例1の処理時間を1として、相対比較したものである。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すように、本発明の請求項1、2に対応する実施例1,2は、スロッピング発生が軽微であり脱りん処理を阻害しなかった。本発明の請求項3に対応する実施例3,4は、ソーダ灰を炭酸ナトリムの水和物主体としたので、スロッピングが発生せず、短時間で脱りん処理を行うことが出来た。
【0031】
一方、酸化鉄を含有しない比較例1では、嵩密度が本発明の範囲外でありスロッピングを抑制出来なかったので、送酸速度を低下したため脱りん処理時間が長時間かかった。嵩密度が本発明の上限を超える比較例2では、脱りん精錬剤がスラグー溶銑界面に容易に到達したために、Na蒸気が発生して激しくスロッピングを起こしたため吹錬を中止したので脱りん処理を十分に行えなかった。このため脱りん処理時間を比較することが出来ず、「−」と記載した。ブリケットの粒径が本発明の下限未満の比較例3では、脱りん精錬剤が転炉外に持ち去られスラブ中への歩留りが低下したためスロッピングを抑制出来ないので、送酸速度を低下したため脱りん処理時間が非常に長時間かかった。
【符号の説明】
【0032】
1 上吹きランス
2 転炉
3 溶銑
4 スラグ
5 炉上ホッパー
6 底吹き羽口
図2
図1