特許第5994557号(P5994557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994557
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】蓄電装置の製造方法および蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20160908BHJP
   H01G 11/12 20130101ALI20160908BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALN20160908BHJP
【FI】
   H01M10/04 Z
   H01G11/12
   !H01M10/0585
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-227289(P2012-227289)
(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2014-82018(P2014-82018A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】南形 厚志
(72)【発明者】
【氏名】奥田 元章
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭07−011063(JP,Y1)
【文献】 特開昭53−133734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04−10/0587
H01G 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極との間にセパレータを挟んだ層状の構造の電極組立体をケースに挿入して収
納する蓄電装置の製造方法であって、
前記電極組立体の外周を構成する側面の少なくとも一部に糸状部材を配置し、
前記糸状部材を、前記側面上に巻き付け、
前記側面上に前記電極組立体の挿入方向に沿う線である仮想基準線を規定し、さらに前記仮想基準線を起点として、前記側面を前記電極組立体の周方向に展開した場合に、前記展開した側面の対角線と前記挿入方向との角度である対角線角度が規定され、前記挿入方向に対する前記糸状部材の巻き付け角度は、前記対角線角度以上、かつ、直角以下とし、
前記糸状部材が前記挿入方向に交差するように、かつ、前記糸状部材の周方向に転がるように回転するように、前記ケースに前記電極組立体を前記糸状部材とともに挿入することを特徴とする蓄電装置の製造方法。
【請求項2】
前記糸状部材を、前記側面上に複数回巻き付けることを特徴とする請求項1に記載の蓄
電装置の製造方法。
【請求項3】
正極と負極との間にセパレータを挟んだ層状の構造の電極組立体をケースに挿入して収納する蓄電装置の製造方法であって、
前記電極組立体の外周を構成する側面の少なくとも一部に糸状部材を配置し、
前記糸状部材は、前記ケース内に注入される電解液に可溶な材料であり、
前記糸状部材が前記電極組立体の挿入方向に交差するように、前記ケースに前記電極組立体を前記糸状部材とともに挿入することを特徴とする蓄電装置の製造方法。
【請求項4】
前記糸状部材を、前記側面上に複数回巻き付けることを特徴とする請求項3に記載の蓄
電装置の製造方法。
【請求項5】
前記側面上に前記挿入方向に沿う線である仮想基準線を規定し、
さらに前記仮想基準線を起点として、前記側面を前記電極組立体の周方向に展開した場
合に、
前記展開した側面の対角線と前記挿入方向との角度である対角線角度が規定され、
前記挿入方向に対する前記糸状部材の巻き付け角度は、前記対角線角度以上、かつ、直
角以下とする請求項3または請求項4に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項6】
正極と負極との間にセパレータを挟んだ層状の構造の電極組立体がケース内に収納された蓄電装置であって、
前記電極組立体の挿入方向に沿い、かつ前記電極組立体の外周を構成する側面の少なくとも一部と前記ケースとの間に介在させた糸状部材を有し、
前記糸状部材は、前記ケース内に注入される電解液に可溶な材料であることを特徴とする蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極組立体を収納したケースを備える蓄電装置の製造方法および蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、原動機となる電動機への供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン電池などの二次電池が搭載されている。この種の二次電池は、例えば、特許文献1、2に開示されている。二次電池は、負極活物質を塗布した負極電極と正極活物質を塗布した正極電極の間を微多孔性フィルムからなるセパレータで絶縁し、層状に積層した電極組立体を有する。そして、この電極組立体がケース内に収納される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−212986号公報
【特許文献2】特開平8−64234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二次電池のエネルギー密度を向上させるためには、電極組立体を構成する負極電極と正極電極の層数を可能な限り増やすことが好ましい。その一方で、二次電池は、例えば車両において限られたスペース内に搭載する必要があり、その体格(サイズ)に制限がある。そして、二次電池は、前述したようにエネルギー密度を向上させるために層数を増加させるほど、その外側寸法、特に積層方向の厚みが増すことになる。このため、ケース内に電極組立体を収納する際には、電極組立体をケースとを絶縁するために電極組立体を覆った絶縁シートを積層方向の外側から圧力をかけながら、電極組立体をケースに挿入している。しかし、この場合、電極組立体とケースとの隙間が小さいと、電極組立体をケースに挿入するときに、電極組立体とケースとの摩擦により、電極組立体が破損するおそれがある。
【0005】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、ケースへ電極組立体を挿入するときの電極組立体とケースとの摩擦を低減し、電極組立体の破損の防止を図り得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、正極と負極との間にセパレータを挟んだ層状の構造の電極組立体をケースに挿入して収納する蓄電装置の製造方法であって、前記電極組立体の表面の少なくとも一部に糸状部材を配置し、前記糸状部材を、前記側面上に巻き付け、前記側面上に前記電極組立体の挿入方向に沿う線である仮想基準線を規定し、さらに前記仮想基準線を起点として、前記側面を前記電極組立体の周方向に展開した場合に、前記展開した側面の対角線と前記挿入方向との角度である対角線角度が規定され、前記挿入方向に対する前記糸状部材の巻き付け角度は、前記対角線角度以上、かつ、直角以下とし、前記糸状部材が前記挿入方向に交差するように、かつ、前記糸状部材の周方向に転がるように回転するように、前記ケースに前記電極組立体を前記糸状部材とともに挿入することを要旨とする。
【0007】
本発明によれば、電極組立体の表面の少なくとも一部に糸状部材が配置され、前記糸状部材は前記側面上に巻き付けられている。また電極組立体は、糸状部材が電極組立体の挿入方向に交差するようにケースに挿入される。つまり、糸状部材は、電極組立体とケースとの間に介在された状態となる。このとき、糸状部材が電極組立体、及びケースの双方に接触している状態であると、電極組立体がケースに挿入されるにつれ、糸状部材が電極組立体の表面上で前記糸状部材の周方向に転がるように回転する。したがって、挿入時の電極組立体とケースとの摩擦が低減され、電極組立体の破損を防止できる。また、糸状部材の電極組立体への巻き付け角度が、対角線角度以上、かつ直角以下となっている。こうすることで、糸状部材が挿入方向に対して対角線角度以下で巻き付けられている場合よりも、挿入時に糸状部材がより前記糸状部材の周方向に回転しやすい。したがって、電極組立体とケースとの摩擦をより軽減でき、電極組立体の破損を、より効果的に防止できる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の蓄電装置の製造方法であって、前記糸状部材を、前記側面上に複数回巻き付けることを要旨とする。
請求項2に記載の発明によれば、糸状部材が電極組立体の側面に複数回巻き付けられているため、電極組立体、及びケースの双方と接触する部分も多くなり、電極組立体とケースとの摩擦をより低減しやすくなり、電極組立体の破損を、より効果的に防止できる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、正極と負極との間にセパレータを挟んだ層状の構造の電極組立体をケースに挿入して収納する蓄電装置の製造方法であって、前記電極組立体の外周を構成する側面の少なくとも一部に糸状部材を配置し、前記糸状部材は、前記ケース内に注入される電解液に可溶な材料であり、前記糸状部材が前記電極組立体の挿入方向に交差するように、前記ケースに前記電極組立体を前記糸状部材とともに挿入することを要旨とする。
請求項3に記載の発明によれば、糸状部材は、電解液に可溶な材料である。電極組立体は、ケースに挿入された後は、外力を受けない方が好ましい。しかしながら、糸状部材が電極組立体とケースの双方に接触した状態で介在されたままであると、電極組立体の表面に荷重を与えたままとなる。そこで、糸状部材を、ケース内に充填される電解液に可溶な材料とすることによって、電解液を充填すると糸状部材が溶ける。したがって、ケース内に電解液を充填させた後には、糸状部材の存在よる電極組立体への荷重は解消され、電極組立体がケースから受ける荷重を低減し、電極組立体の破損を防止することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項に記載の蓄電装置の製造方法であって、糸状部材を、前記側面上に複数回巻き付けることを要旨とする
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3または請求項4に記載の蓄電装置の製造方法であって、前記側面上に前記挿入方向に沿う線である仮想基準線を規定し、さらに前記仮想基準線を起点として、前記側面を前記電極組立体の周方向に展開した場合に、前記展開した側面の対角線と前記挿入方向との角度である対角線角度が規定され、前記挿入方向に対する前記糸状部材の巻き付け角度は、前記対角線角度以上、かつ、直角以下とすることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極組立体をケースに挿入するときの電極組立体とケースとの摩擦を低減し、電極組立体の破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】二次電池の分解斜視図。
図2】二次電池の外観を示す斜視図。
図3】電極組立体の構成要素を示す分解斜視図。
図4】電極組立体に糸状部材を巻き付けた状態を示す斜視図。
図5】電極組立体の平面展開図。
図6】電極組立体をケースに挿入している状態の糸状部材の断面図。
図7】電極組立体をケースに挿入する工程を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1図7にしたがって説明する。
蓄電装置としての二次電池2は、図1及び図2に示すように、その外周が角型をなす角型電池である。また、本実施形態の二次電池2は、リチウムイオン電池である。二次電池2は、金属製のケース3に電極組立体5が収納されて構成される。ケース3は、ケース本体となる直方体状の本体部材4と、本体部材4の開口部4aを閉塞する矩形平板状の蓋部材6とからなる。本体部材4と蓋部材6は、何れも金属製(例えば、ステンレスやアルミニウム)である。本体部材4は、ケース3の底面として、ケース底面部41と、ケース底面部41から立設した二対の互いに対向するケース側面部42とを有する。蓋部材6は、蓋部材6の厚さ方向に貫通した孔である注液口30を有する。注液口30より、電解液がケース3内に注入される。
【0015】
電極組立体5には、当該電極組立体5との間で電気を授受する正極端子7と負極端子8が電気的に接続されている。そして、これらの正極端子7と負極端子8は、蓋部材6に所定の間隔をあけて並設された一対の開口孔6aからケース3の外部に突設されている。また、正極端子7及び負極端子8には、ケース3から絶縁するためのリング状の絶縁リング9aがそれぞれ取り付けられている。
【0016】
電極組立体5は、図3に示すように、正極電極となる正極シート10と負極電極となる負極シート11と、を備える。正極シート10は、正極用金属箔(本実施形態ではアルミニウム箔)13と、その両面に正極用活物質を塗布してなる正極活物質層14とを有する。負極シート11は、負極用金属箔(本実施形態では銅箔)17と、その両面に負極用活物質を塗布してなる負極活物質層18とを有する。そして、電極組立体5は、正極シート10と、負極シート11と、これらの間を絶縁するセパレータ12とを有する。そして、電極組立体5は、複数枚の正極シート10と複数枚の負極シート11を積層された層状の構造を有する積層体である。
【0017】
図3に示すように、正極シート10の縁部の一部には、正極用金属箔13からなる正極タブ状部15が形成されている。この正極タブ状部15は、正極活物質層14を塗布していない領域となる正極集電部16を有する。本実施形態において正極集電部16は、正極タブ状部15の全域とされている。そして、本実施形態において正極集電部16は、正極シート10の縁部に形成されている。また、正極タブ状部15及び正極集電部16は、電極組立体5を構成する各正極シート10において同位置に同一形状で形成されている。
【0018】
負極シート11の縁部の一部には、負極用金属箔17からなる負極タブ状部19が形成されている。この負極タブ状部19は、負極活物質層18を塗布していない領域となる負極集電部20を有する。本実施形態において負極集電部20は、負極タブ状部19の全域とされている。そして、本実施形態において負極集電部20は、負極シート11の縁部に形成されている。また、負極タブ状部19及び負極集電部20は、電極組立体5を構成する各負極シート11において同位置に同一形状で形成されている。なお、正極シート10及び負極シート11では、活物質を塗布した領域が塗工部となり、活物質を塗布していない領域が未塗工部となる。
【0019】
電極組立体5を構成する各正極シート10は、それぞれの正極集電部16が積層方向に沿って列状に配置されるように積層される。同様に、電極組立体5を構成する各負極シート11は、それぞれの負極集電部20が、正極集電部16と重ならないように積層方向に沿って列状に配置されるように積層される。そして、各正極集電部16は、図1に示すように、電極組立体5における積層方向の一端から他端までの範囲に集められて正極集電群21とされる。また、各負極集電部20も同様に、図1に示すように、電極組立体5における積層方向の一端から他端までの範囲に集められて負極集電群22とされる。
【0020】
正極集電群21には、正極端子7が電気的に接合される。一方、負極集電群22には、負極端子8が電気的に接続される。正極端子7及び負極端子8は、抵抗溶接によって正極集電群21及び負極集電群22に接合される。抵抗溶接は、接合対象を、正負一対の溶接用電極を挟み込んで溶着する方式である。
そして、電極組立体5は、ケース3と絶縁するために覆われる絶縁シート50を備える。そして、電極組立体5を積層方向に圧力を加えながらケース3に挿入し、更に電解液を充填して密閉することで、二次電池2となる。なお、電極組立体5のケース3への挿入方向は、正極端子7、及び負極端子8の突設する方向に沿う方向である。
電極組立体5は、絶縁シート50に覆われた状態では、側面S、底面B、上面Uを有する。
図4に示すように、「電極組立体5の側面S」とは、電極組立体5の積層方向の両方の最外層の面(以下、最外層面51)と、両最外層面51同士を繋ぎ、かつ互いに対向する二対の面の内、挿入方向に沿う一対の面である連結面52により構成されている。両連結面52は、電極組立体5を構成する正極シート10、負極シート11、及びセパレータ12の端面上の面である。両最外層面51、及び両連結面52は、ケース3に挿入された状態で、ケース側面部42に対向する面であり、ケース3への挿入時に、ケース側面部42との距離が最も接近する近接面を含む。電極組立体5の上面Uとは、両最外層面51、及び両連結面52の夫々に連続する面であり、正極タブ状部15、及び負極タブ状部19を有する側の面である。電極組立体5の底面Bとは、上面Uと同様に、最外層面51、及び両連結面52の夫々に連続する面であるが、ケース3に挿入された状態で、ケース底面部41と対向する面である。また、電極組立体5において、上面Uとは反対側に位置する面である。
【0021】
以下、本実施形態の電極組立体5のケース3への挿入方法について説明する。
まず、図4に示すように電極組立体5の側面S上に一本の糸状部材55を複数回巻き付ける。
このとき、糸状部材55の巻き付け角度は、電極組立体5のケース3への挿入方向に対して、所定の角度である。以下、本実施形態での巻き付け角度について詳述する。
図5に示すように、電極組立体5の側面S上に挿入方向に沿う線である任意の仮想基準線Iを規定する。本実施形態では、最外層面51と連結面52との境界線Kの内の一つを仮想基準線Iとする。そして、この仮想基準線Iを起点として、電極組立体5を周方向に展開した展開図Fを規定する。この展開図Fは、側面Sを構成する両最外層面51と、両連結面52とが、一つの長方形(図5におけるハッチング部分)となる展開図である。
【0022】
そして、展開図Fにおける長方形の一本の対角線Dを規定する。このとき、挿入方向(図5において矢印Gにより示す)に対する糸状部材55の巻き付け角度をθ、挿入方向に対する対角線Dの角度である対角線角度をαとすると、α≦θ≦90°の関係となるように、糸状部材55を巻き付ける。
なお、糸状部材55における実際に側面Sに巻き付ける部分の長さをL、側面Sの外周をL1、巻き付け回数をNとすると、L=(L1・N/Sinθ)+βの関係が成立する。なお、βは正の値である。ここで(L1・N/Sinθ)は、側面Sにおいて、糸状部材55によって巻き付けられる部分の長さである。つまり、電極組立体5における糸状部材55が配置される部分の長さよりもβ分だけ長く糸状部材55を巻き付ける。
糸状部材55の両端は、電極組立体5に固定はされておらず、単に電極組立体5の側面S上に両端が仮留めあるいは後述する挿入工程まで保持された状態で配置されている。
【0023】
図6に示すように、糸状部材55の断面は円形である。ここで、図1に示すように、電極組立体5に積層方向から圧力を加えた状態での積層方向の厚みをT1、二対のケース側面部42の内、両最外層面51と夫々対向する一対のケース側面部42の内面間の距離をT2とする。そして、その差、T2−T1をZとする。このとき、糸状部材55の直径は、Z/2とする。また、両連結面52間の距離と、両連結面52に夫々対向する一対のケース側面部42との差も、Zとする。更に、糸状部材55は、ケース3内に注入される電解液に可溶なEC(Ethylene carbonate)やPC(Propylene carbonate)等の材料で形成される。
このようにして、糸状部材55を巻き付けた電極組立体5をケース3に挿入する。
【0024】
以下、電極組立体5をケース3へ挿入する工程について詳述する。
上述したように、電極組立体5のケース3への挿入方向は、電極組立体5における正極端子7、及び負極端子8の突設方向に沿う方向(図7(a)に示す、矢印G方向)である。より具体的には、ケース3の本体部材4に、電極組立体5の底面Bを、ケース底面部41と対向させる。このとき、電極組立体5の側面Sは、本体部材4のケース側面部42の内面に最も接近する近接面53を含んでいる。また、糸状部材55は、挿入方向に対して交差し、かつこの近接面53上に配置されている。そして、電極組立体5を糸状部材55が電極組立体5の側面Sとケース側面部42の内面の双方と接触するように挿入していく。すると、図6、及び図7(b)に示すように、糸状部材55は、糸状部材55と電極組立体5の最外層面51、もしくは連結面52との間に生じる摩擦、もしくは糸状部材55とケース側面部42の内面との間に生じる摩擦によって、ケース側面部42と、最外層面51、及び連結面52との間で糸状部材55の周方向に転がるように回転する。糸状部材55は、回転することにより、巻き付けられた位置よりも電極組立体5の上面U側に相対的に移動する。本実施形態では、糸状部材55は、側面Sに巻き付けられているため、側面Sを構成する両最外層面51、及び両連結面52のいずれを近接面53としてもよい。そして、電極組立体5の底面Bがケース底面部41と接触したら、挿入を終える。
【0025】
電極組立体5を本体部材4に挿入し終えたら、蓋部材6によって本体部材4の開口部を塞ぎ、本体部材4と蓋部材6とを溶接する。そして、蓋部材6の注液口30から電解液を注入し、注入した後は注液口30を塞いで密閉する。このようにして、二次電池2が製造される。
【0026】
以下、本実施形態の作用を説明する。
糸状部材55が、近接面53を含んだ電極組立体5の側面Sに複数回巻き付けられている。これにより、電極組立体5を本体部材4に挿入するときに、糸状部材55を、側面S、及びケース側面部42の双方に確実に接触させることができる。
また、挿入方向に対する糸状部材55の電極組立体5への巻き付け角度θが小さいと、糸状部材55がその周方向に転がりにくいが、本実施形態では、巻き付け角度θは、α≦θ≦90°となっている。糸状部材55が回転可能な方向と、電極組立体5の挿入方向とが一致している場合(θ=90°の場合)に、糸状部材55は最も回転しやすい。しかし、θを90°に近くして巻き付けると、糸状部材55の側面S上の間隔(ピッチ)が短くなり、電極組立体5への巻き付け回数Nが増加する。その結果、糸状部材55の長さLも長くなる。また、90°とした場合は、一本の糸状部材55で、例えば最外層面51の挿入方向の一端から他端までを巻き付けることは出来ない。しかし、巻き付け角度を0°に近付けると、糸状部材55が回転可能な方向と、電極組立体5の挿入方向とのズレが大きく、回転し難い。したがって、巻き付け角度θを、α≦θ≦90°の範囲とすることで、電極組立体5の、本体部材4への挿入時に、電極組立体5との間、もしくは本体部材4との間の摩擦によって、糸状部材55の周方向に転がりやすい一方、一本の糸状部材55で、電極組立体5の側面Sの必要な範囲を巻き付けることができる。
さらに、糸状部材55は断面が円形となるように形成されており、電極組立体5の本体部材4への挿入時に、側面Sとケース側面部42との間で糸状部材55の周方向に、より転がりやすい。
【0027】
糸状部材55は、電極組立体5を本体部材4に挿入する時に、電極組立体5を積層方向から圧力を与えるが、この圧力を与えた状態で、積層方向の電極組立体5の厚みと、積層方向と直交する方向に沿う一対のケース側面部42間の距離との差Zの1/2の直径とした。電極組立体5を挿入すると、本体部材4に挿入された部分については、積層方向の圧力から開放され、圧力を与える前の電極組立体5の積層方向の厚みに戻ろうとする。この時、糸状部材55は電極組立体5とケース側面部42の双方に接触する。しかし、糸状部材55の直径を上記のようにZ/2とすることで、糸状部材55が電極組立体5、及び本体部材4の双方と接触しつつも、糸状部材55によって電極組立体5に過剰な荷重を与える事が無い。
【0028】
糸状部材55の長さは、L=(L1・N/Sinθ)+βとしている。糸状部材55の長さが、電極組立体5において巻き付けられる部分の長さ以下の場合、糸状部材55を電極組立体5に巻き付けられた状態で、もしくは、電極組立体5をケース3に挿入する時に糸状部材55が回転し、移動する態様によっては、電極組立体5の側面Sを圧縮する荷重が発生し得る。そこで、糸状部材55を、電極を電極組立体5における糸状部材55が巻き付けられる部分の長さよりもβ分だけ長くすることによって、糸状部材55自身によって電極組立体5を縛り付けるようなことがない。したがって、電極組立体5の本体部材4への挿入時に、糸状部材55が確実に転がる一方、電極組立体5に過剰な荷重を与えることが無い。
【0029】
糸状部材55は、電解液に対して可溶なEC、PC等の材料であるため、ケース3内に電解液を注入させると、糸状部材55の内、電解液に浸漬される部分が溶ける。そのため、電解液を注入させた後は、糸状部材55の電極組立体5への荷重を軽減させることができる。
【0030】
したがって、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)電極組立体5の本体部材4への挿入時に、糸状部材55が電極組立体5、及び本体部材4の双方に確実に接触するため、挿入時の摩擦力により糸状部材55が転がり、電極組立体5の本体部材4への挿入時の、電極組立体5と本体部材4との間の摩擦を低減でき、電極組立体5の破損を防止できる。
(2)糸状部材55の巻き付け角度θを、上述のようにα≦θ≦90°とし、更に断面を円形にしたことで、挿入時の摩擦力によってより転がりやすく、電極組立体5の本体部材4への挿入時の、電極組立体5と本体部材4との間の摩擦をより低減でき、電極組立体5の破損を、より効果的に防止できる。
【0031】
(3)糸状部材55の直径を、電極組立体5に圧力を与えた状態で積層方向の電極組立体5厚みと、積層方向と直交する方向に沿う一対のケース側面部42間の距離との差Zの1/2とした。また、糸状部材55の長さLを、L=(L1・N/Sinθ)+βとしたことにより、糸状部材55によって電極組立体5に過剰な荷重を与えることを防止でき、糸状部材55による電極組立体5の破損を、より効果的に防止できる。
(4)糸状部材55を電解液に可溶なEC,PC等で形成したため、電解液をケース3内に注入させた場合、電解液に浸漬される部分は溶ける。したがって、糸状部材55によって電極組立体5に過剰な荷重を与えることを防止でき、電極組立体5の挿入後における糸状部材55による電極組立体5の破損を防止できる。
【0032】
なお、上記の実施形態は、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、下記のように発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【0033】
○ 上記の実施形態では、仮想基準線Iは、最外層面51と連結面52との境界線上としたが、挿入方向に沿う線であれば任意の線とすることができる。
○ 上記の実施形態では、糸状部材55を電解液に溶ける材料としたが、糸状部材55は、電解液に溶ける材料としなくてもよい。この場合、電解液に溶ける材料により形成した場合と比較して、糸状部材55の直径を小さくし、電極組立体5を本体部材4に挿入した後において電極組立体5に対する過剰な荷重を与えないようにすることが好ましい。
○ 上記の実施形態では、糸状部材55の両端は仮留めされているのみとしたが、糸状部材55の一端もしくは両端は、電極組立体5に固定してもよい。この場合は、糸状部材55が周方向に回転しやすいように、糸状部材55の長さLを、L=(L1・N/Sinθ)+βとし、βを長めに設定することが好ましい。
○ 糸状部材55の挿入方向に対する巻き付け角度θは、糸状部材55の全長において一定でなくてもよい。ただし、電極組立体5のいずれの場所においても、α≦θ≦90°の関係が成立することが好ましい。
○ 上記の実施形態では、糸状部材55は、電極組立体5の側面Sに複数回巻き付けたが、複数回でなくてもよい。例えば一回巻き付ける構成としても、糸状部材55がケース側面部42と電極組立体5の側面Sの双方に接触すれば、摩擦力の低減は可能である。
○ 上記の実施形態では、糸状部材55は一本としたが、複数本の糸状部材55を巻き付けてもよい。この場合、巻き付け角度θを90°とすることもできる。
○ また、糸状部材55は、電極組立体5に巻き付けずに、電極組立体5の表面に配置するだけでもよい。この場合、糸状部材55を巻き付ける部分は、電極組立体5を本体部材4に挿入するときに、電極組立体5と本体部材4とが最も接近する近接部に配置することが好ましい。換言すれば、電極組立体5において、糸状部材55を配置した場所が、最も本体部材4に接近するように、電極組立体5を本体部材4に挿入する。
○ 糸状部材55の直径を、電極組立体5に圧力を与えた状態で積層方向の電極組立体5の厚みと、積層方向と直交する方向に沿う一対のケース側面部42間の距離との差Zの1/2としたが、1/2以下としてもよい。この場合であっても、電極組立体5がケース3内で積層方向の圧力から開放されて復元した部分において、糸状部材55が、電極組立体5、及びケース側面部42の双方と接触するようにすればよい。このようにすれば、ケース3内で糸状部材55によって電極組立体5に過剰な荷重を与えることをより防止できる。
○ 糸状部材55を低弾性、高靱性、かつ高可撓性の材質(例えば、有機高分子を主成分とする弾性ゴム)などにすることにより、電極組立体5に過剰な荷重を与えないようであれば、糸状部材55の直径をZ/2以上としてもよい。
○ 糸状部材55の断面は、円形でなくてもよく、楕円状等であってもよい。ただし、断面の少なくとも一部が円弧状であることが好ましい。
○ 電極組立体5は、積層タイプでなく、帯状の正極、帯状の負極、及び帯状のセパレータを捲回軸を中心として捲き回した捲回タイプとしてもよい。
○ また、二次電池2は、角型電池としたが、電極組立体をケースに挿入するような電池であれば、角型電池に限らない。例えば、電極組立体とケースが共に円筒状の円筒型電池としてもよい。
○ 本実施形態の構成を、電気二重層コンデンサ等の他の蓄電装置に適用しても良い。
○ 二次電池2は、リチウムイオン二次電池であったが、これに限らず、他の二次電池であっても良い。要は、正極活物質層と負極活物質層との間をイオンが移動するとともに電荷の授受を行うものであれば良い。
【符号の説明】
【0034】
2…二次電池、3…ケース、4…本体部材、5…電極組立体、6…蓋部材、7…正極端子、8…負極端子、31…ケース底面、32…ケース側面、51…側面としての最外層面、52…側面としての連結面、53…近接面、55…糸状部材、F…展開図、I…仮想基準線、D…対角線、α…対角線角度、θ…巻き付け角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7