(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[導電性ベルト]
本発明に係る導電性ベルトは、少なくとも弾性層を有する。この弾性層は、熱可塑性エラストマー、第4級アンモニウム塩および芳香族リン酸エステルを含有する。
【0014】
上記熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンユニットおよびポリエチレン・ブチレンユニットによって構成されるブロック共重合体である。
【0015】
上記熱可塑性エラストマーの分子量は、本発明の効果が得られる範囲において適宜に決められうる。たとえば、上記熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、3,000〜100,000である。上記重量平均分子量は、例えば、当該エラストマーの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定で得られたクロマトグラムのピークから、市販の標準ポリスチレンの測定によって求めた検量線を使用して求めることができる。
【0016】
ポリスチレンユニットは、スチレンの重合体の構造を有する。ポリスチレンユニットは、本発明の効果が得られる範囲において、スチレンとそれ以外の他のモノマーとの共重合体であってもよい。たとえば、上記熱可塑性エラストマー中の全スチレンユニットの質量に対するポリスチレンユニット中のスチレンユニットの質量の割合(スチレンユニットのブロック率)は、50〜100%である。
【0017】
ポリエチレン・ブチレンユニットは、エチレンとブチレンの重合体の構造を有する。ポリエチレン・ブチレンユニットにおけるエチレンユニットまたはブチレンユニットの配置は、本発明の効果が得られる範囲において、特に限定されない。たとえば、ポリエチレン・ブチレンユニットは、ポリエチレンとポリブチレンのブロック共重合体の構造を有していてもよいし、エチレンとブチレンのランダム共重合体の構造を有していてもよい。また、ポリエチレン・ブチレンユニットは、本発明の効果が得られる範囲において、エチレンユニットおよびブチレンユニット以外の他の分子構造のユニットをさらに含んでいてもよい。たとえば、上記熱可塑性エラストマー中のエチレンユニットおよびブチレンユニットの総質量に対するポリエチレン・ブチレンユニット中のエチレンユニットおよびブチレンユニットの質量の割合(エチレンユニットおよびブチレンユニットのブロック率)は、50〜100%である。
【0018】
また、上記熱可塑性エラストマーの、エチレンユニット(E)およびブチレンユニット(B)に対するスチレンユニット(S)の質量比(S/(E+B))は、例えば、10/90〜40/60である。上記質量比は、例えば、NMRなどの通常の分光学的手法を用いる、JIS K6239に準拠する方法によって求めることができる。
【0019】
ポリエチレン・ブチレンユニットにおけるエチレンユニット数(Eu)に対するブチレンユニット数(Bu)の比(Eu:Bu)は、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決められうる。たとえば、本発明の効果が得られるのであれば、エチレンユニット数およびブチレンユニット数の一方がゼロであってもよい。
【0020】
ポリエチレン・ブチレンユニットは、下記式(1)で表される無水マレイン酸基を置換基として有する。このポリエチレン・ブチレンユニットにおける無水マレイン酸基の結合位置は、本発明の効果が得られる範囲において、特に限定されない。たとえば、無水マレイン酸基は、エチレンユニットに結合していてもよいし、ブチレンユニットに結合していてもよい。また、エチレンユニットとブチレンユニットの両方が無水マレイン酸基を有していてもよい。
【0022】
また、無水マレイン酸基は、本発明の効果が得られる範囲であれば、ポリエチレン・ブチレンユニットにおけるエチレンユニットまたはブチレンユニットの全てに結合していてもよいし、エチレンユニットまたはブチレンユニットの一部に結合していてもよい。たとえば、熱可塑性エラストマー中の無水マレイン酸基の含有量は、スチレンユニット、エチレンユニットおよびブチレンユニットの総量に対して0.2〜10質量%である。さらに、ポリエチレン・ブチレンユニットは、本発明の効果が得られる範囲において、無水マレイン酸基以外の他の置換基を有していてもよい。無水マレイン酸基およびその他の置換基は、例えば、NMRなどの、分子構造を特定するための通常の分光的手法によって確認、定量することが可能である。
【0023】
上記熱可塑性エラストマーのメルトフローレート(MFR)は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限定されないが、例えば、230℃、2.16kgf(21.2N)の荷重または200℃、5.0kgf(49.0N)の荷重で0.1〜100g/10分間である。上記熱可塑性エラストマーのMFRは、中間転写ベルト用の導電性ベルトであれば、230℃、2.16kgfの荷重で4〜9g/10分間であり、200℃、5.0kgf(49.0N)の荷重で3〜7g/10分間である。上記MFRは、ISO1133にしたがって求められうる。
【0024】
上記熱可塑性エラストマーの酸価は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に限定されないが、例えば、1〜30mgCH
3ONa/gであり、より好ましくは2〜10mgCH
3ONa/gである。上記酸価は、公知の滴定法によって求めることができる。
【0025】
上記熱可塑性エラストマーは、例えば、ポリスチレンユニットと、上記無水マレイン酸基またはそれに誘導される基を有するポリエチレン・ブチレンユニットとを、ランダムにまたは規則正しく結合し、必要に応じて上記誘導される基の脱水縮合などの酸無水物化処理を行うことによって得られうる。または、上記熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンユニットと、上記無水マレイン酸基またはそれに誘導される基を有するポリブタジエンユニットとを、ランダムにまたは交互に結合し、水添処理と、必要に応じて酸無水物化処理とを行うことによって得られうる。
【0026】
上記熱可塑性エラストマーは、市販品であってもよく、このような市販品としては、例えば、タフテック(旭化成ケミカルズ株式会社の登録商標)Mシリーズ(旭化成ケミカルズ株式会社製)が挙げられる。
【0027】
上記第4級アンモニウム塩は、下記式(2)で表される。式(2)中、R
1は、独立して、炭素数2〜8のアルキル基を表し、Xは、フッ素原子、塩素原子、または臭素原子を表す。
【0029】
上記第4級アンモニウム塩中のR
1は、本発明の効果が得られる範囲において、全て同一のアルキル基であってもよいし、異なる二種以上のアルキル基を含んでいてもよい。R
1は、本発明の効果が得られる範囲において、直鎖アルキル基であってもよいし、分岐アルキル基であってもよい。R
1の炭素数が2未満または8を超えると、導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきが大きくなることがある。導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきを抑える観点から、R
1の炭素数は3〜7であることがより好ましい。上記第4級アンモニウム塩中のXは、本発明の効果が得られる範囲において、全て同一のハロゲン原子であってもよいし、異なる二種以上のハロゲン原子を含んでいてもよい。
【0030】
上記弾性層における上記第4級アンモニウム塩の含有量が少なすぎると、導電性ベルトの表面抵抗率が大きくなり、また導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきが大きくなる。また、上記第4級アンモニウム塩の含有量が少なすぎると、導電性ベルトの表面抵抗率が1×10
14Ω/□以上になることがある。このため、導電性ベルトを中間転写ベルトとして用いた場合では、転写時の印加電圧(電流)を大きく設定する必要が生じる。このため、転写部材に電圧を印加するためのバイアス電源が高価になる上、放電ノイズによる転写抜けや、転写ムラと言った転写不良の発生が顕著になることがある。
【0031】
一方、上記弾性層における上記第4級アンモニウム塩の含有量が多すぎると、ブリードが発生しやすくなる。また、上記第4級アンモニウム塩の含有量が多すぎると、導電性ベルトの表面抵抗率が例えば1×10
9Ω/□以下、と小さくなることがある。このため、導電性ベルトを中間転写ベルトとして用いた場合では、転写ニップ前後での放電が起り易くなり、転写時のトナーの飛び散りの発生が顕著になることがある。
【0032】
上記弾性層における上記第4級アンモニウム塩の含有量は、導電性ベルトの用途に応じて適宜に決められうる。たとえば、導電性ベルトの用途が中間転写ベルトである場合では、前述した表面抵抗のばらつきの増加およびブリードの発生を抑制し、前述した画像不良を防止する観点から、弾性層における第4級アンモニウム塩の含有量は、上記熱可塑性エラストマー100質量部に対して5〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましい。
【0033】
上記第4級アンモニウム塩は、例えば、市販品として入手することが可能である。
【0034】
上記芳香族リン酸エステルは、フェノール性水酸基を有しそれ以外の置換基をさらに有していてもよい芳香族化合物とリン酸とのエステル反応生成物の構造を有する。上記芳香族リン酸エステルは、本発明の効果が得られれば、リン酸モノエステルであってもよいし、リン酸ジエステルであってもよいし、リン酸トリエステルであってもよい。
【0035】
上記フェノール性水酸基を有する上記芳香族化合物としては、例えば、フェノールおよびナフトールが挙げられる。上記芳香族化合物が有していてもよい上記置換基としては、例えば、メチル基などの低級アルキル基が挙げられる。上記芳香族リン酸エステル中の上記置換基は、単数でも複数でもよいし、複数存在する場合は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記芳香族リン酸エステルは、例えば、オキシ塩化リンと、置換基を有していてもよいフェノールとを反応させることによって得ることが可能であり、また、市販品として入手可能である。
【0036】
上記芳香族リン酸エステルは、二つのリン酸エステルが縮合した構造を有する芳香族縮合リン酸エステルであることが好ましい。上記芳香族縮合リン酸エステルは、下記式(3)で表される。式(3)中、Ar
1は、下記式(4)または下記式(5)で表される二価の基を表し、Ar
2は、独立して、下記式(6)で表される一価の基を表す。式(6)中、R
2は、独立して水素原子またはメチル基を表す。
【0038】
上記芳香族縮合リン酸エステル中のAr
1は、本発明の効果が得られる範囲において、全て同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記芳香族縮合リン酸エステル中のAr
2も、本発明の効果が得られる範囲において、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
上記式(4)で表されるフェニレン基は、本発明の効果が得られる範囲において、o−フェニレン基、m−フェニレン基およびp−フェニレン基のいずれであってもよく、上記芳香族縮合リン酸エステルにおいて、全て同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0040】
上記式(5)で表される二価の基のフェニレン基の、リン酸部のリン原子と結合する位置は、本発明の効果が得られる範囲において、中央の炭化水素基に対してオルト、メタおよびパラのいずれであってもよい。
【0041】
上記式(6)で表されるフェニル基の、リン酸部の酸素原子と結合する位置は、本発明の効果が得られる範囲において、R
2の位置を1位および3位としたときに、2,4および5位のいずれであってもよい。
【0042】
上記芳香族縮合リン酸エステルは、例えば、オキシ塩化リンと、二価のフェノール化合物と、フェノール、メチルフェノールまたはジメチルフェノールとを反応させることによって得ることが可能であり、また、市販品として入手可能である。
【0043】
上記芳香族リン酸エステルとしては、例えば下記式(10)で表される化合物が挙げられる。上記芳香族縮合リン酸エステルとしては、例えば下記式(11)〜(13)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
上記弾性層における上記芳香族リン酸エステルの含有量が少なすぎると、導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきが大きくなり、多すぎると、弾性層の硬度が高くなる。たとえば、導電性ベルトの用途が中間転写ベルトである場合では、芳香族リン酸エステルの含有量が多すぎると中抜けや逆転写などの画像不良を発生することがあり、またラフ紙(表面が粗い紙)に対する転写性が不十分となることがある。上記弾性層における上記芳香族リン酸エステルの含有量は、導電性ベルトの用途に応じて適宜に決められうる。たとえば、導電性ベルトの用途が中間転写ベルトである場合では、上記弾性層における上記芳香族リン酸エステルの含有量は、上記熱可塑性エラストマー100質量部に対して、15〜50質量部であることが、表面抵抗率のばらつきと弾性層の硬度の増加を抑制し、前述の画像不良を防止する観点から好ましく、20〜40質量部であることがより好ましい。
【0046】
上記弾性層は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した熱可塑性エラストマー、第4級アンモニウム塩および芳香族リン酸エステル以外の他の成分をさらに含有してもよい。このような他の成分としては、例えば、各種充填材、カップリング剤、酸化防止剤、滑剤、表面処理剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、架橋剤および着色剤が挙げられる。
【0047】
上記弾性層は、前述した熱可塑性エラストマー、第4級アンモニウム塩、芳香族リン酸エステル、および必要に応じて上記の他の成分を混合し、得られた組成物を基材に塗布し、得られた塗膜を加熱、乾燥して固化させることによって作製されうる。上記他の成分としては、例えば、溶剤などの、液状の均一な組成物を形成するための成分が挙げられる。上記溶剤としては、例えばトルエン、テトラヒドロフラン、n−ヘプタン、プロピレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸ブチルおよびこれらの二種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0048】
上記弾性層は、上記熱可塑性エラストマーによる優れた弾性と、第4級アンモニウム塩による優れたイオン導電性の両方の機能を発現しうる。その理由は、以下のように推測される。
【0049】
図1は、弾性層中における各成分の推測される様子を模式的に示す図である。
図1中、10は熱可塑性エラストマー、11はポリスチレンユニット、11aはスチレンユニット、12はポリエチレン・ブチレンユニット、12aはエチレンユニットまたはブチレンユニット、13は無水マレイン酸基、14は第4級アンモニウム塩、15は芳香族縮合リン酸エステルをそれぞれ示す。
【0050】
熱可塑性エラストマーの無水マレイン酸基と芳香族縮合リン酸エステルのリン酸部は、ともに負極性の電荷を有する。一方、第4級アンモニウムカチオンは正極性の電荷を有する。また、上記熱可塑性エラストマーおよび上記芳香族縮合リン酸エステルは、ともに大きな双極子モーメントを有する。このため、
図1に示されるように、熱可塑性エラストマーの無水マレイン酸基と芳香族縮合リン酸エステルのリン酸部とによって、正極性の電荷を有している第4級アンモニウムカチオンが安定的に保持され、その結果、第4級アンモニウムカチオンが、弾性層中における陰イオンが移動可能な領域を形成する、と推測される。このため、弾性層に電界を印加したときに、第4級アンモニウムカチオンと化合しているアニオンであるハロゲンイオンが第4級アンモニウムカチオン間を移動することができ、所望の抵抗が安定して得られる、と推測される。
【0051】
上記弾性層の硬度は、導電性ベルトの用途に応じて適宜に選ぶことができる。たとえば導電性ベルトの用途が画像形成装置の中間転写ベルトである場合では、弾性層の硬度は、1〜80°であることが、転写特性に優れた弾性層を得る観点から好ましい。弾性層の硬度が1°未満であると、弾性層として層が形成されないことがある。弾性層の硬度が80°を超えると、中間転写ベルトとして使用したときに、中抜けや逆転写などの転写不良が発生することがあり、またラフ紙に対する転写性が不十分となることがある。弾性層の硬度は、上記の観点から、60°以下であることがより好ましく、50°以下であることがさらに好ましい。また、弾性層の硬度は、上記の観点から、5°以上であることがより好ましい。
【0052】
弾性層の硬度は、例えば、高分子計器株式会社製 アスカーゴム硬度計A型を用いて、JIS K6253に準拠する測定方法によって測定することができる。弾性層の硬度は、弾性層によって構成される硬度測定用のシートを積み重ねて形成される検体を用いて測定される。硬度測定用シートは、弾性層のみを別途作製することによって、または導電性ベルトから弾性層を剥がすことによって、作製することが可能である。
【0053】
上記弾性層の電気特性は、導電性ベルトの用途に応じて適宜に選ぶことができる。たとえば導電性ベルトの用途が画像形成装置の中間転写ベルトである場合では、導電性ベルトの電気特定は、表面抵抗率で1.0×10
9Ω/□超1.0×10
14Ω/□未満であることが、主に一次転写時の線画や文字画像などで発生し易い飛び散りを抑制する観点、および、主に二次転写時の転写ウィンドウを広く確保する観点、から好ましく、1.0×10
10〜3.0×10
13Ω/□であることがより好ましい。転写ウィンドウは、転写バイアス下限値と転写バイアス上限値で定義される範囲である。転写バイアス下限値は、例えば、転写不足の防止の観点から決定される。転写バイアス上限値は、例えば、放電ノイズの防止の観点から決定される。導電性ベルトの表面抵抗率は、例えば三菱化学株式会社製 ハイレスタUP MCP−HT450型を使用して、以下の条件で測定されうる。
(測定条件)
プローブ URSプローブ
測定電圧 10〜1,000V
測定時間 10秒
【0054】
上記弾性層の厚さは、導電性ベルトの用途に応じて適宜に選ぶことができる。たとえば導電性ベルトの用途が画像形成装置の中間転写ベルトである場合では、弾性層の厚さは、100〜500μmであることが、トナー画像に対する当該導電性ベルトの表面を十分に追従させる観点から好ましく、120〜300μmであることがより好ましい。
【0055】
上記導電性ベルトは、弾性層以外の他の層をさらに有していてもよい。このような他の層は、導電性ベルトの用途に応じて適宜に選ぶことができる。たとえば導電性ベルトの用途が画像形成装置の中間転写ベルトである場合では、上記の他の層には、画像形成装置の部材で使用されることが知られている種々の層を適宜に採用することができる。このような他の層としては、例えば、基材層および表面層が挙げられる。
【0056】
上記基材層は、導電剤が分散されている樹脂層によって構成されうる。基材層の材料となる樹脂としては、例えば、ポリイミド、および、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)などのフッ素系樹脂が挙げられる。
【0057】
導電剤としては、例えばイオン導電剤および電子導電剤が挙げられる。イオン導電剤としては、前述した第4級アンモニウム塩の他、例えば、ヨウ化銀、ヨウ化銅、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフロオロメタンスルホン酸リチウム、有機ホウ素錯体のリチウム塩、リチウムビスイミド((CF
3SO
2)
2NLi)およびリチウムトリスメチド((CF
3SO
2)
3CLi)が挙げられる。
【0058】
電子導電剤としては、例えば、銀や銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、ステンレス鋼などの金属;およびグラファイトや、カーボンブラック、カーボンナノファイバーカーボンナノチューブなどの炭素化合物;が挙げられる。
【0059】
また、上記表面層には、例えばフッ素樹脂やシリコーンなどの離型性に優れる樹脂で作製される層が挙げられる。たとえば上記表面層は、ラジカル重合性官能基を有する不飽和シラン化合物で表面処置された金属酸化物粒子と、光硬化性モノマーと、離型性の樹脂と、を含有する表面層用塗料を弾性層の表面に塗布し、その塗膜に紫外線を照射して光硬化させることによって、形成されうる。上記離型性の樹脂には、例えば、フッ素樹脂、シリコーン、これらの混合物およびこれらのグラフト共重合体が挙げられる。このような表面層は、2次転写性の向上の観点、導電性ベルト上における転写残トナーのクリーニング性向上の観点、および、導電性ベルト表面のフィルミング防止の観点、から有利である。
【0060】
基材層および表面層は、例えば、無端ベルト形状に作製された基材層または表面層を、弾性層の外表面または内表面に張り付けられることによって、あるいは、基材層または表面層を形成するための塗布液を塗布、硬化させることによって、弾性層の外表面上あるいは内表面上に形成されうる。
【0061】
上記導電性ベルトの形状は、導電性ベルトの用途に応じて適宜に選ぶことができる。たとえば導電性ベルトの用途が画像形成装置の中間転写ベルトである場合では、導電性ベルトの形状は、通常、無端形状である。導電性ベルトの形状は、シートや平板であってもよい。
【0062】
前述したように、本発明では、それ自身はイオン導電性を有さず、イオン導電剤と相溶し難いスチレン系熱可塑性エラストマーにイオン導電剤を添加するにあたり、難燃剤として知られている芳香族リン酸エステルを混合する。
【0063】
通常、熱可塑性エラストマーへの導電剤の分散性を高めるためには、導電剤に、カーボンブラックや導電性フィラーなどの電子導電剤を用いる方法が考えられる。しかしながら、電子導電剤で弾性層の抵抗調整を行う場合、表面抵抗率が1×10
14Ω/□から1×10
6Ω/□辺りまで急激に変化することがある。そのため、弾性層として所望の表面抵抗率に調整しようとしても、抵抗ばらつきが大きくなる場合がある。さらには、電子導電剤の多くは、高い硬度を有する。このため、弾性に富む低硬度の熱可塑性エラストマーに電子導電剤を分散すると、弾性層の硬度が高くなってしまう。したがって、電子導電剤を使用すると、熱可塑性エラストマーによる優れた弾性が導電性ベルトにおいて十分に発現されないことがある。
【0064】
しかしながら、本発明では、スチレン系熱可塑性エラストマーにイオン導電剤である第4級アンモニウム塩および芳香族リン酸エステルを混合することにより、当該エラストマーに添加されるイオン導電剤と当該エラストマーとの相溶性を向上させ、当該エラストマー、イオン導電剤および芳香族リン酸エステルを含有する組成物で形成された弾性層にイオン導電性が付与される。このため、上記導電性ベルトは、弾性層が、熱可塑性エラストマーによる優れた弾性と、イオン導電剤による優れた導電性とを発現する。よって、上記導電性ベルトは、表面の接触性に優れるとともに面方向に均一な電気特性を発現し、例えば画像形成装置の中間転写ベルトに好適に用いられる。
【0065】
[画像形成装置]
本発明に係る画像形成装置は、感光体に形成されたトナー画像を記録媒体に転写するための中間転写ベルトを少なくとも有する。本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る導電性ベルトを中間転写ベルトとして有する以外は、中間転写ベルトを有する公知の画像形成装置と同様に構成されうる。本発明に係る画像形成装置は、例えば、感光体、感光体を帯電させる帯電装置、帯電した感光体に光を照射して静電潜像を形成する露光装置、静電潜像が形成された感光体にトナーを供給して静電潜像に応じたトナー画像を形成する現像装置、静電潜像に形成されたトナー画像を記録媒体に転写するための転写装置、およびトナー画像を記録媒体に定着させる定着装置、を有する。「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
【0066】
図2は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を概略的に示す図である。
図2に示されるように、画像形成装置1は、画像読取部110、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50および定着装置60を有する。
【0067】
画像形成部40は、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナーによる画像を形成する画像形成ユニット41Y、41M、41C、41K、を有する。これらは、収容されるトナー以外はいずれも同じ構成を有するので、以後、色を表す記号を省略することがある。画像形成部40は、さらに、中間転写ユニット42および二次転写ユニット43を有する。これらは、上記転写装置に相当する。
【0068】
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415を有する。感光体ドラム413は、例えば負帯電型の有機感光体である。感光体ドラム413の表面は、光導電性を有する。感光体ドラム413は、感光体に相当する。帯電装置414は、例えばコロナ帯電器である。帯電装置414は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム413に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置411は、例えば半導体レーザーで構成される。現像装置412は、例えば二成分現像方式の現像装置である。
【0069】
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、中間転写ベルト421を感光体ドラム413に圧接させる一次転写ローラー422、バックアップローラー423Aを含む複数の支持ローラー423、およびベルトクリーニング装置426を有する。中間転写ベルト421は無端状のベルトであり、本発明に係る導電性ベルトに該当する。中間転写ベルト421は、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも一つの駆動ローラーが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。一次転写ローラー422は、転写部材に相当する。
【0070】
二次転写ユニット43は、無端状の二次転写ベルト432、および二次転写ローラー431Aを含む複数の支持ローラー431を有する。二次転写ベルト432は、二次転写ローラー431Aおよび支持ローラー431によってループ状に張架される。
【0071】
定着装置60は、用紙S上のトナー画像を構成するトナーを加熱、融解する定着ローラー62と、用紙Sを定着ローラー62に向けて押圧する加圧ローラー63と、を有する。用紙Sは、記録媒体に相当する。
【0072】
画像形成装置1は、さらに、画像読取部110、画像処理部30および用紙搬送部50を有する。画像読取部110は、自動原稿給紙装置111および原稿画像走査装置112(スキャナー)を有する。用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52、および搬送経路部53を有する。給紙部51を構成する3つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズ等に基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53aなどの複数の搬送ローラー対を有する。
【0073】
画像形成装置1による画像の形成を説明する。
原稿画像走査装置112は、コンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー112aにより読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部30において所定の画像処理が施され、露光装置411に送られる。
【0074】
感光体ドラム413は一定の周速度で回転する。帯電装置414は、感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411は、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光を感光体ドラム413に照射する。こうして感光体ドラム413の表面には、静電潜像が形成される。現像装置412は、感光体ドラム413の表面にトナーを付着させることにより静電潜像が可視化される。こうして感光体ドラム413の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。
【0075】
感光体ドラム413の表面のトナー画像は、中間転写ユニット42によって中間転写ベルト421に転写される。転写後に感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーは、感光体ドラム413の表面に摺接するドラムクリーニングブレードを有するドラムクリーニング装置415によって除去される。
【0076】
一次転写ローラー422によって中間転写ベルト421が感光体ドラム413に圧接することにより、中間転写ベルト421に各色のトナー画像が順次重なって転写される。中間転写ベルト421の表面に残存する転写残トナーは、中間転写ベルト421の表面に摺接するベルトクリーニングブレードを有するベルトクリーニング装置426によって除去される。
【0077】
二次転写ローラー431Aは、中間転写ベルト421および二次転写ベルト432を介して、バックアップローラー423Aに圧接される。それにより、転写ニップが形成される。この転写ニップを用紙Sが通過する。用紙Sは、用紙搬送部50によって転写ニップへ搬送される。用紙Sの傾きの補正および搬送のタイミングの調整は、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により行われる。
【0078】
転写ニップに用紙Sが搬送されると二次転写ローラー431Aへ転写バイアスが印加される。この転写バイアスの印加によって、中間転写ベルト421に担持されているトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト432によって、定着装置60に向けて搬送される。
【0079】
定着装置60は、搬送されてきた用紙Sをニップ部で加熱、加圧する。こうしてトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が定着された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。
【0080】
本発明に係る画像形成装置は、本発明に係る導電性ベルトを中間転写ベルトとして有することから、中間転写ベルトが面方向に均一かつ適度な導電性と適度な弾性とを有する。このため、一次転写時における転写不良およびそれによる画像不良の発生が抑制される。また、トナー画像が二次転写される記録媒体に対して、中間転写ベルトが十分に密着する。よって、トナー画像が感光体から記録媒体に正確に転写される。したがって、本発明に係る導電性ベルトを中間転写ベルトとして有する画像形成装置は、高品質の画像を形成することができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。まず、以下の実施例および比較例で用いた導電層の材料を説明する。
【0082】
[熱可塑性エラストマー]
TPE(A):酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー(タフテック(旭化成ケミカルズ株式会社の登録商標)M1943、旭化成ケミカルズ株式会社製、下記式(A))
TPE(B):スチレン系熱可塑性エラストマー(タフテック(旭化成ケミカルズ株式会社の登録商標)H1221、旭化成ケミカルズ株式会社製、下記式(B))
【0083】
【化6】
【0084】
式(A)および(B)中、m,nおよびoは、それぞれ独立して1以上の整数を表す。ただし、エチレンユニットとブチレンユニットは、n個のエチレンとo個のブチレンとの共重合体の構造を有するポリエチレン・ブチレンユニットであってもよい。式(A)は、無水マレイン酸基がエチレンユニットおよびブチレンユニット中のいずれかの炭素原子に結合していることを表す。式(A)中、pおよびqは、それぞれ0または1以上の整数を表す。ただしp=q=0を除く。また、pはnと同じでなくてもよく、qはoと同じでなくてもよい。
【0085】
[第4級アンモニウム塩]
導電剤(C):テトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社製、下記式(C))
導電剤(D):テトラヘプチルアンモニウムクロリド(東京化成工業株式会社製、下記式(D))
導電剤(E):テトラエチルアンモニウムフロリド(東京化成工業株式会社製、下記式(E))
導電剤(F):テトラオクチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社製、下記式(F))
【0086】
【化7】
【0087】
[リン化合物]
リン化合物(G):芳香族縮合リン酸エステル(PX200、大八化学工業株式会社製、下記式(11))
リン化合物(H):芳香族リン酸エステル(TPP、大八化学工業株式会社製、下記式(10))
リン化合物(I):ホスファゼン化合物(ラビトル(株式会社伏見製薬所の登録商標)FP−110、株式会社伏見製薬所)
【0088】
【化8】
【0089】
[実施例1]
(1)基材層の製膜
窒素流通下、N−メチル−2−ピロリドン488gに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)47.6gを加え、50℃に保温、撹拌して完全に溶解させた。この溶液に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)70gを除々に添加し、ポリアミック酸溶液605.6gを得た。このポリアミック酸溶液の数平均分子量は17,000、粘度は35ポイズ、固形分濃度は18.0質量%であった。
【0090】
次に、このポリアミック酸溶液450gに、酸性カーボン(カーボンブラック(CB)、pH3.0)21gとN−メチル−2−ピロリドン80gを加えて、ボールミルにてカーボンブラックの均一分散を行い、第1マスターバッチ溶液を得た。第1マスターバッチ溶液の固形分濃度は18.5質量%であり、該固形分中のCB濃度は20.6質量%であった。
【0091】
そして、276gの第1マスターバッチ溶液を採取し、基材成型用円筒状金型および加熱装置を有する装置を用意し、次の条件で成形した。基材成型用金型は、内径301.5mm、幅540mmの、内面鏡面仕上げの円筒状金型である。該金型は、2本の回転ローラー上に載置され、該ローラーの回転とともに回転する状態に配置される。加熱装置は、該金型の外側面に配置された遠赤外線ヒータである。上記の装置は、該金型の内面温度が加熱装置によって120℃に制御されるように設計されている。
【0092】
まず、276gの第1マスターバッチ溶液を収容した上記円筒状金型を回転ローラー上で回転させ、第1マスターバッチ溶液を金型内面に均一に塗布し、加熱を開始した。1℃/minで室温から120℃まで昇温して、その温度を60分間維持するように加熱を行った。この昇温および温度維持の間、回転を維持した。
【0093】
回転、加熱が終了した後、冷却せず金型を熱風滞留式オーブン中に静置してイミド化のための加熱を開始した。当該オーブン中で、徐々に昇温しつつ320℃まで加熱した。そして、この温度で30分間加熱した後常温に冷却して、該金型内面に形成された半導電性管状ポリイミドベルトを剥離し取り出した。なお、該ベルトの厚さは82μm、外周長は944.3mmであり、表面抵抗率は12.72(LogΩ/□)であり、体積抵抗率は10.61(LogΩ・cm)であった。
【0094】
(2)弾性層の製膜
テトラヒドロフラン1,000gとトルエン1,000gを混合した溶剤中に、TPE(A)を200g溶解させた溶液に、導電剤(C)を20gと、リン化合物(G)を40g加え、攪拌機にて均一分散を行い、第2マスターバッチ溶液を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
第2マスターバッチ溶液を、上記金型の内表面に、金型を回転した状態で、最終的に200μmの厚みを有する弾性層になる量で均一に塗布し、加熱乾燥を開始した。加熱は2℃/minで80℃まで昇温して、その温度で60分間維持するように行った、昇温および温度維持の間、金型の回転を維持しつつ第2マスターバッチ溶液の塗膜の加熱乾燥を行い、金型内表面に弾性層を形成した。
【0097】
(3)弾性層内面と基材層外面の貼り合わせ
上記(2)で製膜した弾性層内面にプライマーDY39−067(東レ・ダウコーニング株式会社製)を塗布、風乾した後に、ドライラミ接着剤(タケラック(三井化学株式会社の登録商標)A−969、三井化学株式会社製)を薄く外面に塗布した(1)のポリイミドベルト(基材層)を挿入し重ね合わせた。次に基材層内面から両層を圧着した状態で加熱(80℃)し、貼り合わせを完了させた。貼り合わせた多層ベルトを金型から剥離し両端部をカットし幅360mmの多層ベルトを作製した。
【0098】
(4)表面層の製膜
(反応性金属酸化物粒子の製造)
ラジカル重合性官能基を有する不飽和シラン化合物を使用し、金属酸化物粒子(酸化アルミニウム、粒径34nm)の表面処理を行った。上記金属酸化物粒子100質量部に対し、ラジカル重合性官能基を有する化合物を表面処理剤として15質量部、溶媒(トルエン:イソプロピルアルコール=1:1(体積比)の混合溶媒)400質量部を用いて湿式メディア分散型装置を使用して分散した後、上記溶媒を除去して、ラジカル重合性官能基を有する化合物で表面を処理した反応性金属酸化物粒子を製造した。製造された反応性金属酸化物粒子のラジカル重合官能基を有する化合物の表面処理量(ラジカル重合性官能基を有する化合物の被覆量)は、金属酸化物微粒子に対して12質量%であった。ラジカル重合性官能基を有する化合物の表面処理量は、上記反応性金属酸化物粒子を55℃で3時間熱処理をし、その強熱残分を蛍光X線にて定量分析し、Si量の測定値を上記不飽和シラン化合物の分子量に換算して求めた。
【0099】
(表面層形成用塗布液の調製)
反応性金属酸化物粒子100体積部と、活性エネルギー線硬化型モノマー100体積部と、フッ素樹脂/シロキサングラフト型樹脂ZX−212(不揮発分47%、富士化成工業株式会社製)50体積部とを、溶媒(メチルイソブチルケトン)5,000体積部と混合し、横型循環分散機(ディスパーマット:英弘精機株式会社製)にて、ビーズ径φ0.5mmのジルコニアビーズを充填率80%となるように仕込み、1,000rpmで分散を行った。分散液に、光重合開始剤(イルガキュアー(BASF社の登録商標)379、BASF社製)13体積部を混合し、表面層形成用塗布液を調製した。
【0100】
(表面層形成用塗布液の塗布)
準備した多層ベルトの表面に、浸漬塗布方法で、調製した表面層形成用塗布液を乾燥膜厚が2μmとなるように塗布膜を形成した。浸漬塗布方法は、浸漬用の槽と、この槽から溢れ出た塗布液をオーバーフロー槽と、オーバーフロー槽から浸漬用の槽の底部から当該槽へ塗布液を供給するポンプとを有する、浸漬用の槽中の塗布液が循環する構造を有する装置を用いて行った。塗布膜を形成した後、活性エネルギー線として紫外線を使用し、硬化処理装置で塗布膜を硬化して表面層を形成し、多層ベルト1を作製した。なお、紫外線を照射する時、光源を固定し、多層ベルトを保持した円筒状基体を60mm/sで回転しながら行った。得られた多層ベルト1の厚さは280μmであり、外周長は945.0mmであった。
(塗布条件)
塗布液供給量:1L/min
引き上げ速度:4.5mm/min
(紫外線照射条件)
光源の種類:高圧水銀ランプ(H04−L41:アイグラフィックス株式会社製)
照射口から表面層形成用塗膜の表面までの距離:100mm
照射光量:1J/cm
2
照射時間(基体を回転させている時間):240秒
【0101】
(5)多層ベルトの評価
(表面抵抗率の測定)
多層ベルト1の表面抵抗率を、多層ベルト1の外表面において、周方向で10点、軸方向で3点の合計30点で測定した。測定装置としての三菱化学株式会社製ハイレスタ UP MCP−HT450型に、URSプローブを装着し、測定電圧1,000V、測定時間10秒で、各点の表面抵抗率を測定した。上記30点の表面抵抗率の測定値の平均値を求め、多層ベルト1の表面抵抗率とした。また、表面抵抗率の測定値のばらつきを求めた。この表面抵抗率のばらつきは、上記測定値の最大値の常用対数値と上記測定値の最小値の常用対数値との差である。結果を表2に示す。
【0102】
(ブリードの評価)
多層ベルト1を中間転写ベルトとして画像形成装置に装着し、多層ベルト1を感光体に押圧した状態で温度30℃/湿度85%の環境で30日間放置した後、全面ベタ画像の画出しを行い、画像上の帯状の濃度ムラについて以下の基準で判定し、耐ブリード性を評価した。結果を表2に示す。
○:帯状の濃度ムラが発生しない。
△:軽微な帯状の濃度ムラが発生するが、画像品質上、問題ないレベル。
×:明らかな帯状の濃度ムラが発生し、画像品質上、問題となるレベル。
【0103】
(硬度の測定)
多層ベルト1とは別に、厚さ1mmの弾性層のみのシートサンプルを作製した。そのサンプルを6枚重ね合わせて6mmのシートサンプルとして、高分子計器株式会社製 アスカー硬度計A型を使用して、当該シートサンプルの硬度を測定し、弾性層の硬度とした。結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
[実施例2]
実施例1の第2マスターバッチ溶液における導電剤(C)の添加量を10gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト2を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト2の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0106】
[実施例3]
実施例1の第2マスターバッチ溶液における導電剤(C)の添加量を40gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト3を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト3の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0107】
[実施例4]
実施例1の第2マスターバッチ溶液におけるリン化合物(G)の添加量を30gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト4を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト4の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0108】
[実施例5]
実施例1の第2マスターバッチ溶液におけるリン化合物(G)の添加量を100gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト5を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト5の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0109】
[実施例6]
実施例1の第2マスターバッチ溶液において、導電剤(C)を導電剤(D)に代えて弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト6を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト6の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0110】
[実施例7]
実施例1の第2マスターバッチ溶液における導電剤(C)の添加量を4gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト7を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト7の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0111】
[実施例8]
実施例1の第2マスターバッチ溶液における導電剤(C)の添加量を50gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト8を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト8の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0112】
[実施例9]
実施例1の第2マスターバッチ溶液におけるリン化合物(G)の添加量を20gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト9を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト9の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0113】
[実施例10]
実施例1の第2マスターバッチ溶液におけるリン化合物(G)の添加量を110gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト10を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト10の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0114】
[実施例11]
実施例1の第2マスターバッチ溶液において、導電剤(C)を導電剤(E)に代えて弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト11を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト11の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0115】
[実施例12]
実施例1の第2マスターバッチ溶液において、導電剤(C)を導電剤(F)に代えて弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト12を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト12の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0116】
[実施例13]
実施例1の第2マスターバッチ溶液において、導電剤(C)の添加量を30gとし、リン化合物(G)をリン化合物(H)に代えて弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト13を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト13の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0117】
[比較例1]
実施例1の第2マスターバッチ溶液における導電剤(C)の添加量を60gとし、芳香族縮合リン酸エステル(11)を添加しないで弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト14を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト14の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0118】
[比較例2]
実施例1の第2マスターバッチ溶液において、TPE(A)をTPE(B)に代え、導電剤(C)の添加量を80gとして弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト15を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト15の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0119】
[比較例3]
実施例1の第2マスターバッチ溶液において、導電剤(C)の添加量を30gとし、リン化合物(G)をリン化合物(I)に代えて弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト16を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト16の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0120】
[比較例4]
実施例1の第2マスターバッチ溶液において、導電剤(C)の添加量を80gとし、リン化合物(G)をリン化合物(I)に代えて弾性層の成膜を行った以外は、実施例1と同様の方法で多層ベルト16を作製した。第2マスターバッチ溶液中のTPE、導電剤およびリン化合物の組成を表1に、多層ベルト16の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0121】
実施例1〜13では、TPE(A)と、導電剤(C)または導電剤(D)と、リン化合物(G)またはリン化合物(H)と、を含有する弾性層を形成することによって、導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきが1.5桁以下に抑えられた。また、弾性層の硬度も70°以下に抑えられ、また、1×10
9Ω/□超1×10
14Ω/□未満という、中間転写ベルトとして適切な範囲の表面抵抗率が得られた。さらに、導電剤(C)または導電剤(D)の含有量を5質量部以上とすることによって、ブリードの発生も画質に問題のないレベルに抑えられ、中間転写ベルトとしてより適切な導電性ベルトが得られた。さらには、リン化合物(G)またはリン化合物(H)の含有量を50質量部以下とすることによって、弾性層の硬度が60°以下に抑えられ、中間転写ベルトとして好適な導電性ベルトが得られた。さらに、導電剤(C)または導電剤(D)の含有量を5〜20質量部とし、かつリン化合物(G)またはリン化合物(H)の含有量を15〜50質量部とすることによって、導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきが1.0桁未満に抑えられ、ブリードの発生が実用上問題ない程度に抑えられ、かつ弾性層の硬度が60°以下に抑えられ、中間転写ベルトとしてより好適な導電性ベルトが得られた。
【0122】
一方、リン化合物を配合しなかった比較例1では、導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきが1.5桁を超え、またブリードが顕著に発生し、中間転写ベルトとしては不適切であった。また、酸変性されていない熱可塑性エラストマーを使用した比較例2では、所期の表面抵抗率を達成するために導電剤(C)の配合量を増やしたところ、導電性ベルトの表面抵抗率のばらつきが1.5桁を超え、またブリードが顕著に発生した。さらに、リン化合物にホスファゼン化合物を用いた場合、導電性ベルトの表面抵抗率が大きくなりすぎ、またそのばらつきが1.5桁を超えた(比較例3)。また、所期の表面抵抗率を達成するために導電剤(C)の配合量を増やしたところ、ブリードが顕著に発生した(比較例4)。