(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負荷トルク推定値の読み込みを、前記モータ回転角速度トルク換算値が予め定められた値を超えている期間、一定周期で行うことを特徴とする請求項1記載の電気車の制御装置。
前記負荷トルク推定値の読み込みを、前記モータ回転角速度トルク換算値が予め定められた値を超えている期間、可変の周期で行うことを特徴とする請求項1記載の電気車の制御装置。
【背景技術】
【0002】
電動台車等の電気車において、車輪/レールの最大摩擦係数(粘着係数ともいう)が低下、もしくは、車輪/レールの最大摩擦係数に対して車輪の駆動力が大きい場合には、各車輪が空転または滑走を引き起こす場合がある。この空転・滑走は、車輪やレールを磨耗させるだけでなく、期待する加減速度が得られないことに起因してダイヤの乱れなどに繋がるため問題である。そこで、車輪を空転・滑走状態から復帰させるためにモータ駆動トルクを絞る制御(再粘着制御と呼ばれる:以下、再粘着制御と称する)が行われる。
【0003】
しかしながら、再粘着制御を車輪回転角速度とモータ入力トルクを基に推定した負荷トルク推定値を用いて行う方式において、オブザーバの推定遅れの影響により、再粘着制御のためのモータ駆動トルクの最小値(以下、負荷トルク推定値と称する)が若干大きくなり、車輪を完全に再粘着させることができないことがある(特許文献1参照)。
【0004】
ここで、上記の問題点を解決した再粘着制御方法の一例(特許文献1)を
図7に基づき説明する。
図7は、特許文献1の実施例2におけるモータ駆動トルクと演算軸加速度,動輪回転角速度を示すグラフである。
【0005】
車輪(動輪)を再粘着させるために、トルク指令値の最小値(負荷トルク推定値)T
au_C_minを演算し、その値を指令値として所定の期間(T1)出力する。期間(T1)出力した時点で、まだ完全に再粘着していないか、負荷トルク推定値T
au_C_minを指令し始めたときからまったく再粘着に向かっていないことを検出した場合、それまで指令していた負荷トルク推定値T
au_C_minよりもさらに小さいトルク指令値T
au_C_min×n1を期間(T1)の経過後の時刻tm1から指令し、確実に再粘着するように再粘着促進制御を行う。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態1,2における電気車の制御装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
[実施形態1]
図1は、本実施形態1における電気車の制御装置を示す構成図である。なお、本実施形態1は、各輪独立駆動台車を前提とした構成であるため、
図1では左右両車輪の信号として各々2つの信号が示されている。なお、各輪独立駆動台車によって4輪を制御する場合は各々4つの信号が出力される。
【0017】
図1に示すように、本実施形態1における電気車の制御装置1は、回転角速度検出器2と、負荷トルクオブザーバ3と、車両速度推定部4と、空転・滑走検知部5と、再粘着制御部6と、を備えている。なお、制御装置1は、モータ回転角速度ω
L,ω
Rとノッチトルク指令T
notchを入力する。
【0018】
前記回転角速度検出器2は、例えばレゾルバ・エンコーダ等が適用され、車軸取付の場合は、回転角速度ω
L,ω
Rを入力し、車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detとして、負荷トルクオブザーバ3と、車両速度推定部4と、空転・滑走検知部5と、に出力する。なお、回転角速度検出器2がモータ取付の場合は、ギア比などを考慮して演算すれば良い。
【0019】
図2は、本実施形態1における負荷トルクオブザーバ3の構成の一例を示す構成図である。
図2に示すように、負荷トルクオブザーバ3は、微分器31,31と、慣性モーメント乗算部32,32と、モータ応答遅れ相当部33,33と、減算部34,34と、を備える。なお、前記負荷トルクオブザーバ3には、前記車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detおよび再粘着制御部6から出力されたモータ駆動トルクT
motor_L,T
motor_Rが入力される。
【0020】
車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detは、前記微分器31,31により微分され、慣性モーメント乗算部32,32により慣性モーメントJ
mが乗算され、モータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rが算出される。なお、慣性モーメントJ
mは、車輪慣性モーメントとモータ慣性モーメントとを加算した値である。
【0021】
前記モータ駆動トルクT
motor_L,T
motor_Rは、モータ応答遅れ相当部33,33により、モータ応答遅れ相当を含む信号に調整される。そして、モータ応答遅れ相当部33,33の出力から前記モータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rと減算部34,34がそれぞれ減算され、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rとして、再粘着制御部6に出力される。なお、慣性モーメント乗算部32,32から出力されたモータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rも再粘着制御部6に出力される。
【0022】
前記車両速度推定部4は、各輪独立駆動台車で空転・滑走が生じた際においても、台車枠内の車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detおよび空転・滑走検知フラグslip
_L,slip
_Rに基づき車両速度推定値V
guessを算出できる手段とする。その手段としては、例えば、台車内における各輪の平均回転角速度から算出する方法などが挙げられる。なお、前記車両速度推定部4は、本願発明と直接関係ないため、詳細なブロック図は省略する。
【0023】
前記空転・滑走検知部5では、車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detと車両速度推定値V
guessを入力し、車輪回転角速度が所定の閾値(以下、空転検知閾値と称する)を超えた場合に、空転・滑走検知フラグslip
_L,slip
_Rを再粘着制御部6へ出力する。なお、空転・滑走検知フラグslip_
L〜slip_
Rは粘着状態で「0」,空転・滑走状態で「1」を出力する論理信号である。また、その他の空転・滑走を検知する方法でも適用可能である(例えば、加速度により空転・滑走を検知しても良い)。
【0024】
再粘着制御部6は、上記の入力に加え車両の加減速指令であるノッチトルク指令T
notchが入力される。
図1に示す各輪独立駆動台車では左右輪にトルク差をつけることが可能であるため、ノッチトルク指令を左右でT
notch_L,T
notch_Rと分けた構成としている。
【0025】
次に、再粘着制御部6の動作について、
図3に基づき詳細に説明する。
【0026】
[〜時刻Ta]
レール最大摩擦係数は充分大きく、空転をする値ではないため、ノッチトルク指令T
notch_L,T
notch_Rを、モータ駆動トルクT
motor_L,T
motor_Rとして出力する。
【0027】
[時刻Ta〜時刻Tb]
レール最大摩擦係数が低下し、車輪回転角速度が上昇する。このとき、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rは最大摩擦係数に応じたトルクに変化し始めるが、推定遅れの影響を受けて定常的な値を出力できていない。また、モータ回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detは設定した空転検知閾値には達していないため、空転・滑走検知フラグslip
_L,slip
_Rは粘着状態である「0」を出力し、定常状態のトルクであるノッチトルク指令T
notch_L,T
notch_Rをトルク指令T
motor_L,T
motor_Rとして出力し続ける。
【0028】
[時刻Tb〜時刻Tc]
車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detが、空転検知閾値を超えて空転・滑走検知フラグslip
_L,slip
_Rが「1」となるため、モータ駆動トルクT
motor_L,T
motor_Rが絞られる。具体的には、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rはラッチされ、その負荷トルク推定値におけるラッチ値のn%(0<n<100)のトルクに絞られる。
【0029】
しかし、時刻tbでは負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rが定常状態に至っていないため、トルクの絞り量が少ない可能性がある。そのため、一度空転を検知してから負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rの読み込みを複数回行い、その負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rの最新のラッチ値に更新する。本実施形態1では負荷トルク推定値の読み込みを一定周期で行い、そのラッチ値に更新する。このラッチ値を更新するのはモータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rが予め定めた値xを超えている間続ける。その理由を以下で説明する。
【0031】
前記(1)式は、モータ駆動トルクT
motorから、車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detの微分値に慣性モーメントJ
mを乗じた値を減算し、負荷トルク推定値T
obsを求める式である。この(1)式からモータ駆動トルクT
motorと負荷トルク推定値T
obsの差は下記(2)式であることが分かる。
【0033】
モータ駆動トルクT
motorと負荷トルク推定値T
obsとの差が予め定めた値xより小さくなれば負荷トルク推定値T
obsにモータ駆動トルクT
motorが一致したとみなしてラッチ値の更新をやめる。また、
図2より、以下の(3)式が成り立つことがわかる。
【0035】
上記(3)式より、モータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rを前記予め定めた値xとの比較に用いることとした。そして、モータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rが予め定めた値xよりも大きい場合は、ラッチ値を更新し、モータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rが予め定められた値xよりも小さくなればラッチ値の更新をやめる。すなわち、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rとモータ駆動トルクT
motor_L,T
motor_Rとが一致しているか判定しており、予め与えられた値xは許容誤差に該当する。
【0036】
図4はTb〜Tc間における負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rにおけるラッチ指令の例を示している。ラッチ値指令は一定周期で出力されるが、モータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rが予め定められた値x以下となった場合には、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのラッチ指令が出力されてもラッチは行われないものとする。時刻Tcまでは、空転・滑走検知フラグslipが「1」レベルであるため、ラッチ値のn%をモータ駆動トルクT
motorとして出力する。
【0037】
[時刻Tc〜時刻Td]
時刻Tcで粘着状態と判定され、空転・滑走検知フラグslipは「0」となるが、ここで一定時間tcdの間、時刻Tcでのモータ駆動トルクT
motorを保持する。これは、空転・滑走検知フラグが「0」になった後にすぐトルクを引き上げて再度空転することを抑制し、より確実に再粘着を図るためである。
【0038】
[時刻Td〜時刻Te]
モータ駆動トルクT
motorをラッチ値のm%へ向かって引き上げる。ここで、n<mと定める。モータ駆動トルクT
motorを引き上げる(係数mを係数nより大きくする)理由は、より加速度を得るためである。
【0039】
[時刻Te〜時刻Tf]
モータ駆動トルクT
motorをラッチ値のm%で一定時間tefの間、保持する。
【0040】
[時刻Tf〜]
モータ駆動トルクT
motorをノッチトルク指令T
notchに向かって上昇させる。この時に、再度、空転状態となった場合には、時刻Taからの処理を繰り返すこととなる。
【0041】
図3と
図4に示した動作例は車輪一輪だけのグラフである。各輪独立駆動台車では、左右輪がそれぞれ別個に空転・滑走をすることがある。左右輪で片側の車輪だけ再粘着のためのトルクを出力すると、左右にトルク差が生じ、ヨーイングトルクが生じる。本実施形態1では、ヨーイングトルクを生じさせないために、左右輪でどちらか一方の車輪が空転・滑走した場合においても、粘着側車輪も空転側車輪と同様のモータ駆動トルクT
motorを出力することとする。
【0042】
また、左右車輪が共に空転・滑走している場合においては、左右車輪の負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのうち絶対値の小さい方を用いた再粘着制御を行い、左右車輪のヨーイングトルクの発生を抑制する。
【0043】
図5に本実施形態1の制御方法(空転・滑走検知フラグslipが「1」レベルとなってから所定の条件を満たすまで負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのラッチを繰り返す方法)を用いずに再粘着制御を行った場合のモータ駆動トルクT
motor,負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_R,ラッチ値について示す。
【0044】
本実施形態1における制御方法を用いない場合は、空転・滑走検知フラグslipが「1」となる時刻Tbの時点での負荷トルク推定値をラッチして、そのラッチ値を参考にモータ駆動トルクT
motorを絞ることとなる。
図5の例では、ラッチ時点で負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rが定常状態になっていないのにもかかわらず、時刻tbの時点でのラッチ値を参考にして再粘着制御を行っているため、車輪を再粘着することができず、車輪回転角速度が上昇していく。また、空転・滑走検知フラグslipが「1」のままであるが、再読み込みは行われない。
【0045】
以上示したように、本実施形態1によれば、空転・滑走検知フラグslipが「1」となってから、モータ回転角速度トルク換算値T
ω_L,T
ω_Rが予め定めた値x以下となるまで、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのラッチを繰り返すため、定常状態となった負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのラッチ値を用いることができ、負荷トルク推定値を利用する利点を最大限活かして確実に再粘着制御を行うことが可能となる。その結果、路面係数が急激に変化した場合や、各輪独立駆動台車に適用した場合でも、再粘着制御を確実に行い、加減速性能を維持することが可能となる。
【0046】
[実施形態2]
本実施形態1における各輪独立駆動台車の制御装置の構成は、実施形態1と同様であるため、図面は省略する。また、動作も再粘着制御部6以外は実施形態1と同様であるため、その他の部分の説明は省略する。以下、
図6に基づき実施形態2における再粘着制御部6の動作を説明する。
【0047】
[〜時刻Tb]
実施形態1と同様である。
【0048】
[時刻Tb〜時刻Tc]
車輪回転角速度検出値ω
L_det,ω
R_detが空転検知閾値を超え、空転・滑走検知フラグslipが「1」となるため、モータ駆動トルクT
motorが絞られる。この際、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rをラッチし、ラッチ値のn%(0<n<100)に絞られる。
【0049】
この時、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rは定常状態に至っておらず、トルクの絞り量が少ない可能性があるため、一度空転を検知してから負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rの読み込みを複数回行い、最新のラッチ値に更新する。
【0050】
本実施形態2は、このラッチ値を更新するための読み込みの周期を可変刻みとしたものである。このラッチ値を更新するのは、モータ回転角速度トルク換算値(T
ω_L・T
ω_R)が予め定めた値xを超えている間続ける。
【0051】
この ラッチ値の読み込みは
図6に示すように、空転・滑走を検知した直後は負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのラッチ指令の出力周期を短くし,その後は長くしている。その理由は、空転を検知した直後はオブザーバ推定遅れの影響を受けている可能性が高く、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのラッチ値の更新タイミングを早くするほうが,効率が良いためである。 負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rのラッチ指令の周期は、例えば負荷トルクオブザーバ設計時点で予想される推定遅れ時間より定める。
【0052】
[時刻Tc〜]
実施形態1と同様である。
【0053】
以上示したように、本実施形態2によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、ラッチ値の更新の周期を可変とすることにより、負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rの変化が大きな空転検知フラグslipが「1」レベルとなった直後のラッチ間隔を小さくすることが可能となり、実施形態1よりも負荷トルク推定値T
obs_L,T
obs_Rの変化を反映させた再粘着制御を行うことが可能となる。
【0054】
なお、実施形態1,2では、各輪独立駆動台車の制御装置について詳細に説明したが、再粘着制御を行う台車であれば、左右の車輪が輪軸で接続された串軸台車でも適用可能である。
【0055】
また、ヨーイングトルク発生防止のために、粘着状態の車輪も空転状態の車輪と同様に再粘着制御を行ったが、粘着状態の車輪は別の制御としても良い。
【0056】
さらに、実施形態2において、負荷トルク推定値のラッチ値を更新するための読み込みの周期を負荷トルクオブザーバ設計時点で予想される推定時間により定めるとしたが、その他の方法により定めても良い。