(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両駆動用台車は左右の車輪が軸で結合されており、1つの電動機により左右車輪を一括して駆動する構成を採ることが一般的であった。この構成では左右の車輪回転角速度が一致するが、曲線通過時はレール長の差により曲線の内側と外側で進行距離が異なる。このレール長の差の影響を吸収するため、レールと接触する車輪踏面に勾配を付けて、レールとの接触位置における車輪回転半径が曲線内側で小さく、曲線外側で大きくなるようにしている。
【0003】
しかしながら、急曲線になると上記の踏面勾配のみではレール長の差を吸収できず、車輪のフランジがレールに接触することや、車輪とレールとのすべりを引き起こす。その結果、レールおよび車輪の磨耗,振動,騒音を増大させる。
【0004】
それに対し、
図9に示すように、左右車輪間の結合軸をなくして各輪に電動機Ma〜Mdを設置し、それぞれの車輪を独立に回転駆動させることが可能な各輪独立駆動台車が検討されている。この各輪独立駆動台車では、左右の車輪回転角速度を個別の電動機Ma〜Mdで任意に制御できるため、曲線通過時の走行性能向上とともに、結合軸をなくすことによる低床化・省スペース化が期待できる。
【0005】
図9に示すように、各輪独立駆動台車の制御装置1は、運転手の操作から得られるノッチトルク指令値T
notch*に基づき、トルク指令T
FR*,T
FL*,T
RL*,T
RR*を算出して各駆動装置3a〜3dに送信する。各駆動装置3a〜3dでは、例えば、インバータ装置を用いてベクトル制御などを行い、所望のトルクが得られるように各電動機Ma〜Mdを制御する。また、各電動機Ma〜Mdに設置した回転角速度検出器4a〜4dにより検出される回転角速度検出値ω
FL,ω
FR,ω
RL,ω
RRは、それぞれの駆動装置3a〜3dを介して各輪モータ制御装置2に送信される。
【0006】
一方で、各輪独立駆動台車は、各輪の電動機Ma〜Mdを協調して制御しなければスムースな走行ができない恐れもあり、その制御手法が重要な課題となる。特許文献1および特許文献2では、各輪の回転角速度を検出し、前輪左右と後輪左右のそれぞれで左右角速度差を求め、その左右角速度差が任意の値となるように制御する方式を提案している。
【0007】
例えば、直線通過時は左右角速度差がゼロとなるように制御することで、従来の結合軸がある構成と同様に左右車輪の回転角速度を一致させ、直線走行の安定性を向上させている。
【0008】
すなわち、
図10に示すように、各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置2は、補正トルク演算部5により、左右車輪の回転角速度差(ωrL−ωrR)を検出し、PI制御器5aによって左右車輪の回転角速度差(ωrL−ωrR)を無くす補正トルクΔTqを出力する。そして、左右車輪角速度差補正部6により、トルク指令値Tqに前記補正トルクΔTqを加減算している。
【0009】
一方、曲線通過時は、曲率半径rに応じて任意の左右角速度差を持つように角速度制御を行い、その結果生じる補正トルクをトルク指令値Tqに加減算して円滑な走行を可能としている。
【0010】
すなわち、
図11に示すように補正トルク演算部7は、曲線補正係数演算部7aにおいて、曲率半径rの情報を用いて曲線補正係数を求め、曲線補正係数乗算部7bにて曲線補正係数に基づき、左右輪の回転角速度検出値ωrL,ωrRを補正する。その後、PI制御器7cによって補正された左右輪回転角速度差がなくなるように制御する補正トルクΔTqを出力する。そして、トルク指令Tqに前記補正トルクΔTqを加減算する。その結果、曲率半径rに応じて左右に回転角速度差が与えられ、曲線通過時の走行が円滑に行われるように制御される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1,2では、曲線を通過する時、曲率半径rに応じて任意の左右回転角速度差を与えるように、PI制御器7cで回転角速度差のフィードバック制御を行っている。一般にPI制御器でフィードバック制御を行う場合、I制御(積分制御)は指令値(上記
図11の構成では任意の回転角速度差)に対する定常偏差を除去する働きがあるが、外乱に対しては応答遅れが生じることも多い。
【0013】
各輪独立駆動台車における左右回転角速度制御では、積分ゲインを高めることにより曲線通過時における左右車輪の回転角速度指令値への応答性は改善できるが、逆に積分ゲインが高いと直線通過時における軌道不整等の外乱に対する抑制性能が劣化する。一方で積分ゲインを低くすると、曲線通過時における左右車輪の回転角速度指令値への追従応答性が悪化し、結果として円滑な曲線走行を実現するためのトルク出力が遅れるため、改善効果が薄れる。(具体例は実施形態にて後述する)
以上示したようなことから、直線通過時における軌道不整等の外乱の抑制性能と、曲線通過時における左右車輪の回転角速度指令値への追従応答性を両立する各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、各輪をそれぞれ独立して駆動制御する各輪独立駆動台車の制御装置に備えられ、各輪のトルク指令値を算出する各輪モータ制御装置であって、左右輪の回転角速度検出値の平均値である平均回転角速度指令値を算出する平均処理部と、前記平均回転角速度指令値から、曲率半径,車速に基づいて任意の左右角速度差を有する各輪の回転角速度指令値を算出する各輪角速度差指令生成部と、各輪の回転角速度指令値と各輪の回転角速度検出値との偏差をとり、各輪の回転角速度検出値が各輪の回転角速度指令値に追従するための補償トルク指令値を出力する回転角速度制御器と、予め、曲率半径,車速,車輪ごとに、回転角速度検出値が回転角速度指令値に追従した状態の補償トルク指令値を記憶した補正トルクテーブルを作成し、走行時には補正トルクテーブルに基づき曲率半径,車速に応じて補正トルク指令値を出力する各輪補正トルク指令生成部と、を備え、ノッチトルク指令値に補正トルク指令値,補償トルク指令値を加算したものをトルク指令値として出力することを特徴とする。
【0015】
また、前記回転角速度制御器は、各輪の回転角速度指令値と各輪の回転角速度検出値との偏差を入力とするPID制御器を備え、直線通過時は、PID制御器の積分器をリセットすることを特徴とする。
【0016】
また、前記回転角速度制御器は、曲率半径に2つの閾値を設定し、曲率半径が2つの閾値のうち高い方の閾値以上の場合は、前記積分器をリセットし、曲率半径が2つの閾値のうち高い方の閾値よりも小さく、低い方の閾値よりも大きい場合は、その曲率半径に応じて積分器のゲインを低減し、曲率半径が2つの閾値のうち低い方の閾値以下の場合は、積分器に通常のゲインを設定しても良い。
【0017】
また、前記平均処理部は、台車内の車輪の回転角速度検出値の平均値を平均回転角速度指令値として算出しても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明よれば、各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置において、直線通過時における軌道不整等の外乱の抑制性能と、曲線通過時における左右車輪の回転角速度指令値への追従応答性を両立することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明における各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置は、上記課題を解決するために、下記(1),(2)を行うものである。
【0021】
(1)任意の曲率半径および車速での走行において、4輪ないし複数輪の円滑な補正トルク配分(補正トルク指令値)を、予めシミュレーションや実測などによって算出しておき、その補正トルク配分(補正トルク指令値)をテーブル化(以下、補正トルクテーブルと称する)しておく。実際の走行時は、その時の曲率半径,車速に応じて前記補正トルクテーブルから直ちに4輪ないし複数輪の補正トルク指令値を出力するため、即応性に優れた円滑な走行を実現できる。また、補正トルクテーブルにおける出力の誤差分に対しては、通常の回転角速度制御器がフィードバック制御を行い誤差が無くなるように追従制御を行う。
【0022】
(2)上記(1)の制御構成では、補正トルクテーブルの誤差分は回転角速度制御器のPI制御器によるフィードバック制御で誤差がなくなるように追従する。したがって、前記(1)の制御構成では、PI制御器の性能に依存する。そこで、(2)では曲線通過時はPI制御器の積分ゲインを高くするように調整して左右車輪の回転角速度指令値(左右車輪の回転角速度差)への追従応答性を向上させる。一方、直線ないし曲率半径が大きい時は積分ゲインを低くして、軌道不整外乱に対する抑制応答性を高める。
【0023】
以上より、本願発明における各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置は、従来の制御方式と比較して、曲線走行時における左右車輪の回転角速度指令値への速応性の改善と、直線通過時ないし曲率半径が大きい曲線走行時における外乱抑制の速応性の改善とを両立し、より円滑な走行を実現する。
【0024】
以下、本願発明の各輪独立駆動台車における各輪モータ制御装置の実施形態1〜3を
図1〜8に基づいて詳細に説明する。
【0025】
[実施形態1]
図1は本実施形態1における各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置を示す構成図である。
【0026】
図10に示す各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置2の構成では、左右回転角速度の差分をPI制御器5aに入力して差分がなくなるように制御しているが、本実施形態1では、
図1に示すように、平均処理部8a,8bにおいて前輪・後輪それぞれの左右回転角速度ω
FLとω
FR,ω
RLとω
RRの平均値を平均回転角速度指令値ω
F*,ω
R*として下記(1)式により算出し、回転角速度制御を行っている。
【0028】
各輪角速度差指令生成部9では、前記(1)式の平均回転角速度指令値ω
F*,ω
R*を曲率半径R,車速Vの情報を用いて補正し、各輪の回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*,ω
RL*,ω
RR*を生成する。
【0029】
この平均回転角速度指令値ω
F*,ω
R*の補正は、曲線走行時の曲率半径R(車輪のレール長の差の影響)や車速V(車輪回転半径,アタック角,遠心力などの影響)の状態に応じて、左右車輪に任意の角速度差を有する回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*,ω
RL*,ω
RR*を算出し、より円滑な走行を実現するために行われるものである。
【0030】
各輪の回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*,ω
RL*,ω
RR*の生成方法は任意であるが、例えば曲率半径Rおよび車速Vを2次元入力とし、前記(1)式の平均回転角速度指令値ω
F*,ω
F*を補正するための回転角速度補正値Δω
FL*,Δω
FR*,Δω
RL*,Δω
RR*のテーブルを、シミュレーションや実測結果等で求められるレール横圧低減効果に基づいて予め構成しておく方法が挙げられる。
【0031】
一般に、曲線走行時のレール・車輪間の横圧が低くなれば、磨耗や騒音を低減できる。
図2は、各輪角速度差指令生成部9の一例を示す構成図である。
【0032】
図2に示すように、各輪角速度差指令生成部9は、回転角速度補正テーブル15a〜15dと、加算部16a〜16dと、を備える。回転角速度補正テーブル15a〜15dでは、曲率半径Rおよび車速Vに応じて、各輪の回転角速度指令補正値Δω
FL*,Δω
FR*,Δω
RL*,Δω
RR*を出力する。そして、加算器16a〜16dにおいて、平均回転角速度指令値ω
F*,ω
R*に、各輪の回転角速度指令補正値Δω
FL*,Δω
FR*,Δω
RL*,Δω
RR*を加算し、各輪の回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*,ω
RL*,ω
RR*として出力する。
【0033】
次に、前記各輪の回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*,ω
RL*,ω
RR*と、各輪の回転角速度検出値ω
FL,ω
FR,ω
RL,ω
RRとの偏差を減算器11a〜11dによりとって各輪の回転角速度制御器10a〜10dでフィードバック制御を行う。
【0034】
回転角速度制御器10a〜10dは、例えば、一般的なPID制御器を用いれば良い。また、電鉄車両の左右制御系は、レールや踏面勾配を持つ車輪などの非線形形状特性に強く依存しているため、PID制御パラメータは車速Vや曲率半径Rに応じたゲインスケジューリングを行い、走行状態に応じた制御ゲイン調整を行う。
【0035】
各輪の回転角速度制御器10a〜10dによって出力されるトルク(以下、補償トルク指令値と称する)ΔT
FL,ΔT
FR,ΔT
RL,ΔT
RRは、円滑な走行を実現するために生成された回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*,ω
RL*,ω
RR*に対して追従するように出力される車両運動における左右系のトルクとなる。
【0036】
次に、本願発明の特徴となる各輪補正トルク指令生成部12について説明する。
【0037】
図1に示す各輪モータ制御装置2に各輪補正トルク指令生成部12が無く、回転角速度制御器10a〜10dにおけるPID制御の積分ゲインが小さい場合のシミュレーション結果を
図3に示す。
【0038】
図3は、初速40km/hの惰行運転(ノッチトルク指令T
notch*がゼロの状態)において、2秒後に直線から曲率半径R=1100mのカーブに入り、20秒時点で直線に復帰し、40秒時点で軌道不整外乱が入力された場合のシミュレーション波形である。
図3(a)は曲率半径R[m],(b)は前輪の車輪回転角速度ω
FL,ω
FR[rad/s],
図3(c)は前輪のモータ入力トルクT
FL,T
FR[Nm],
図3(d)は前輪の横圧[kN],
図3(e)はレールに対する前輪の左右変位[mm]を示している。
【0039】
図3(b)に示すように、曲線突入(2秒)後、回転角速度検出値ω
FL,ω
FRが回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に追従するにつれて、
図3(d)に示す横圧が低減していることがわかる。また、
図3(c)に示すように、回転角速度ω
FL,ω
FRにより横圧を低減するための左右のトルクが発生していることがわかる。しかしながら、回転角速度検出値ω
FL,ω
FRが回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に追従するまでの応答が遅く、曲線通過時の横圧低減効果が発揮されるまでに長い時間を必要とする。
【0040】
また、直線復帰(20秒)後も左右変位が中央に復帰するまでに時間がかかっている。一方、軌道不整外乱(40秒後)の影響に対しては、左右変位を中央位置に収束させていることがわかる。
【0041】
以上より、車両運動における左右系のトルクとして一般的なPID制御器(回転角速度制御器)のみを用いた場合は、曲線通過時の回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に対する回転角速度検出値の応答性に問題があり、実用上、十分な横圧低減効果を発揮できない。
【0042】
次に、曲線通過時における回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に対する回転角速度検出値ω
FL,ω
FRの追従の応答性を高めるために、回転角速度制御器10a〜10dにおけるPID制御器の積分ゲインを高くした場合について考える。
図1に示す各輪補正トルク指令生成部12が無く、回転角速度制御器10a〜10dにおけるPID制御の積分ゲインが大きい場合のシミュレーション結果を
図4に示す。なお、各条件は
図3の場合と同様とする。
【0043】
図4(b)に示すように、
図3(b)の結果に比べて回転角速度検出値ω
FL,ω
FRが回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に対して速く追従しており、応答性が向上している。また、横圧も
図4(d)に示すように、
図3(d)の場合と比較して早く低減できている。
【0044】
しかしながら、直線復帰(20秒)後ならびに、軌道不整外乱(40秒)に対しては、積分ゲインの影響で応答遅れが生じ、
図4(e)の左右変位からわかるように、振動が発生している。したがって、走行時における安定性を考慮すると積分ゲインを高めるのにも限界がある。
【0045】
そこで、本実施形態1では、シミュレーション結果等から、予め計算しておいた回転角速度制御器10a〜10dから出力された補償トルク指令値ΔT
FL,ΔT
FR,ΔT
RL,ΔT
RR(
図3(c),4(c)における曲線通過中、回転角速度検出値ω
FL,ω
FRが回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に追従した状態の補償トルク指令値ΔT
FL,ΔT
FR,ΔT
RL,ΔT
RR)を記録して、車速Vと曲率半径Rに応じた補正トルクテーブルを作成し、
図1の各輪補正トルク指令生成部12に実装する。例えば、車速V,曲率半径Rの2つの状態量を入力とした2次元補正トルクテーブルを車輪ごとに作成すればよい。実際の走行時は、その時の曲率半径R,車速Vに応じて、記録された補償トルク指令値ΔT
FL,ΔT
FR,ΔT
RL,ΔT
RRを補正トルク指令値ΔT
FL*,ΔT
FR*,ΔT
RL*,ΔT
RR*として出力する。
【0046】
この各輪補正トルク指令生成部12で生成された補正トルク指令値ΔT
FL*,ΔT
FR*,ΔT
RL*,ΔT
RR*は、加算器13a〜13dにおいて、ノッチトルク指令T
notch*と加算され、その加算された値が加算器14a〜14dにおいて、補償トルク指令値ΔT
FL,ΔT
FR,ΔT
RL,ΔT
RRと加算され、トルク指令値T
FL*,T
FR*,T
RL*,T
RR*として出力される。
【0047】
本実施形態1の各輪補正トルク指令生成部12を実装した場合における各輪独立駆動台車の各輪モータ制御装置2のシミュレーション結果を
図5に示す。なお、各条件は、
図3,4の場合と同様とする。
【0048】
図5(b),(d)に示すように、曲線突入(2秒)後、その曲率半径Rならびに車速Vの状態に応じた補正トルク指令値ΔT
FL*,ΔT
FR*がただちに入力されるため、
図3,4の各輪補正トルク指令部12がない場合に比べて、回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に対する回転角速度検出値ω
FL,ω
FRの応答性が良く、横圧も早く低減できることがわかる。また、
図5(e)に示すように、直線復帰(20秒)後,起動不整外乱(40秒)に対しても安定的に左右変位が中央に収束する。
【0049】
以上示したように、本実施形態1によれば、回転角速度制御器10a〜10dにおけるPID制御器の演算を介することなく、各輪補正トルク指令生成部12に備えられた補正トルクテーブルの補正トルク指令値ΔT
FL*,ΔT
FR*,ΔT
RL*,ΔT
RR*により直接的にノッチトルク指令値T
notch*を補正するため、曲線通過時,直線復帰時,軌道不整外乱に対し、回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*に対して回転角速度検出値ω
FL,ω
FRが速く追従するため、横圧や左右変位を速く低減することができ、速応性の良い結果が得られる。また、各輪補正トルク指令生成部12に備えられた補正トルクテーブルにある程度誤差が存在したとしても、その誤差分をフィードバック補償するように回転角速度制御器10a〜10dにおけるPID制御器が並列的に機能するため、良好な横圧低減効果が得られる。
【0050】
[実施形態2]
実施形態1では、各輪補正トルク指令生成部12における補正トルクテーブルの補正トルク指令値ΔT
FL*,ΔT
FR*,ΔT
RL*,ΔT
RR*によって車両運動における左右系のトルクを補償することにより速応性の向上を実現したが、補正トルクテーブルの誤差分の補償は回転角速度制御器10a〜10dにおけるPID制御器の応答性に依存していた。また、
図3,4の(各輪補正トルク指令生成部12が無い)場合では車速V,曲率半径Rに応じて回転角速度制御器10a〜10dにおけるPID制御のゲインスケジューリングを行っていても、直線復帰後の応答遅れが生じていた。これは、曲線通過時中の積分値が残留しているためであった。そこで、本実施形態2では、曲率半径Rに応じて回転角速度制御器10a〜10dのPID制御器における積分器の出力をリセットする処理を施す。
図6は、本実施形態2における各輪独立駆動台車の制御装置1の構成図である。
【0051】
回転角速度制御器10a〜10dのPID制御器における積分器のリセット処理の一例を以下に説明する。曲率半径Rに第1閾値Rmax,第2閾値Rminを設定する(Rmin<Rmax)。そして、直線通過中の積分器は応答遅れに繋がるため、曲率半径Rが第1閾値Rmax以上(R>Rmax)の時、積分器をゼロにリセットする処理を施す。また、曲率半径Rが緩やかな曲線(第2閾値Rmin<曲率半径R<第1閾値Rmax)の時は、そのときの曲率半径Rに応じて積分器出力を低減するようなゲインを与える。一方、通常の曲線(曲率半径R<第2閾値Rmin)では、リセット処理をせずに、回転角速度制御器10a〜10dのPID制御器による誤差トルク補償を行う。
【0052】
以上の機能を追加した場合のシミュレーション結果を
図7に示す。なお、各条件は
図3〜
図5の場合と同様とする。
図7(e)に示すように、
図5のシミュレーション結果と比較して、直線復帰時(20秒)および軌道不整外乱発生時(40秒)における左右変位が、より早く中央位置に収束していることが分かる。
【0053】
以上示したように、本実施形態2によれば、実施形態1の効果に加えて、回転角速度検出器10a〜10dのPID制御器における積分器のリセット処理によって、直線通過時ないし緩やかな曲線通過時における走行性能を改善することが可能となる。
【0054】
[実施形態3]
図8は、本実施形態3における各輪独立駆動台車の制御装置1を示す構成図である。実施形態1,2では、前輪,後輪ごとに平均処理部8a,8bを設けていたが、本実施形態3では、4輪の平均値をとる平均処理部4cを設けている。その他の構成は、実施形態2と同様である。
【0055】
すなわち、実施形態1,2では、前輪・後輪ごとに左右回転角速度検出値ω
FL,ω
FRまたはω
RL,ω
RRの平均値をとって、平均回転角速度指令値ω
F*,ω
R*としていたが、本実施形態3では、下記(2)式のように、4輪の平均値を平均回転角速度指令値ω
*としている。
【0057】
なお、各輪角速度差指令生成部9では、平均回転角速度指令値ω
*に対して、各輪の回転角速度指令補正値Δω
FL*,Δω
FR*,Δω
RL*,Δω
RR*を加算し、各輪の回転角速度指令値ω
FL*,ω
FR*,ω
RL*,ω
RR*として出力する。
【0058】
以上示したように、本実施形態3によれば、実施形態1,2の効果に加えて、平均処理を簡素化することが可能となり、演算負荷を軽減することができる。
【0059】
実施形態3では、平均処理部8cにより、4輪の回転角速度検出値の平均値である平均回転角速度指令値ω
*を算出しているが、台車に4輪以上の車輪が設けられている場合は、4輪以上の車輪の回転角速度検出値の平均値を平均回転角速度指令値ω
*としても良い。