(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0018】
1.車両用部品
以下、本発明の車両用部品について図を参照しつつ説明する。
本発明の車両用部品は、基材層11及び表面層12を有する繊維質多孔基材10Aを含む構造物である。繊維質多孔基材10Aの簡易的な断面構造は、
図3に示され、基材層11と、基材層11の表面に積層された表面層12と、を備える。そして、繊維質多孔基材10Aは、表面層12側から基材層11側に、及び、基材層11側から表面層12側に、通気性を有することができる。基材層11は、複数本のガラス繊維111と、ガラス繊維111同士を接合している第1の熱可塑性樹脂組成物(以下、「第1樹脂」ともいう。)からなる部分(接合部)112と、
樹脂からなる殻壁を有し、この殻壁内にガスを含む発泡体113とを含む。また、表面層12は、複数本の樹脂繊維121と、樹脂繊維121同士を接合している第2の熱可塑性樹脂組成物(以下、「第2樹脂」ともいう。)からなる部分(接合部)122と、を含む。上記第1樹脂及び第2樹脂は、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、滑剤、安定剤、耐候剤、帯電防止剤、撥水剤、撥油剤、抗菌剤、防腐剤、着色剤等の添加剤を含んでもよい。
上記繊維質多孔基材10Aの好ましい態様は、以下の通りである。
(1)基材層11及び表面層12が、第1樹脂、第2樹脂又は他の接着剤により接合されている。
(2)基材層11における、隣り合うガラス繊維111同士の間の空隙、及び、ガラス繊維111と接合部112との間の空隙、並びに、表面層12における、隣り合う樹脂繊維121同士の間の空隙、及び、樹脂繊維121と接合部122との間の空隙、が非直線的に連続して、表面層12の表面側から基材層11の表面側に向かって気体が透過する連通孔が形成されている。
これらの構成を有することにより、繊維質多孔基材10Aは剛性に優れる。そして、連通孔が形成されていても、非直線的であるので、水等の液体が、繊維質多孔基材10Aの基材層11又は表面層12から他方側に通過することがない。これにより、基材層11の表面、及び、表面層12の表面において、耐水性を得ることができる。特に、水が、表面層12側から基材層11側にしみ込みにくい性質を得ることができる。
【0019】
本発明の車両用部品10の形状は、その用途により、適宜、選択され、特に限定されない。例えば、板状(平板、半筒状等の曲面板等)、筒状、容器形状、その他不定形状等とすることができる。尚、上記繊維質多孔基材10Aにおいて、基材層11の厚さ及び表面層12の厚さは、車両用部品の全体に渡って一定であってよいし、用途等により、部分的に異なっていてもよい。本発明の車両用部品10は、複数の部位において、異なる厚さを有していてもよい。
【0020】
本発明において、基材層11の厚さD
11、及び、表面層12の厚さD
12の関係は、特に限定されないが、剛性の観点から、好ましくはD
12<D
11である。この関係は、特に好ましくは2≦D
11/D
12≦30である。尚、基材層11の厚さD
11は、通常、2〜15mmである。
【0021】
基材層11は、ガラス繊維111同士が第1樹脂によって接着された構造を有する。そして、
図3に示されるように、第1樹脂が、全てのガラス繊維111により形成される内部空間を充填していないために、繊維質多孔基材10Aにおける基材層11側から表面層12側への通気性が付与されて、車両用部品10における優れた吸音特性が発揮される。一方、表面層12は、樹脂繊維121同士が第2樹脂によって接着された構造を有する。そして、基材層11の場合と同様に、第2樹脂が、全ての樹脂繊維121により形成される内部空間を充填していないために、繊維質多孔基材10Aにおける基材層11側から表面層12側への通気性が付与されて、車両用部品10における優れた吸音特性が発揮される。
【0022】
上記基材層11は、
図3に示されるように、複数本のガラス繊維111と、ガラス繊維111同士を接合している第1樹脂からなる部分112と、を含む。第1樹脂からなる部分112は、ガラス繊維111同士を接合する接合部である。
【0023】
ガラス繊維111の種類、形状及びサイズは、特に限定されず、種々のガラス繊維を用いることができる。尚、好ましい繊維径は、5〜9.75μmである。基材層11におけるガラス繊維111の含有量は、特に限定されないが、ガラス繊維111と第1樹脂との合計を100質量%とした場合に、30〜70質量%
であり、より好ましくは40〜60質量%である。
【0024】
上記基材層11に含まれるガラス繊維111の含有形態は、特に限定されない。例えば、複数本のガラス繊維を長手方向に引き揃えて規則的に配置した形態、板状の基材層11の表面を上方から見た場合に網目模様を描くように複数本のガラス繊維を規則的に配置した形態、複数本のガラス繊維をランダムに配置させた形態等とすることができる。本発明では、機械的特性に優れることから、基材層11は、複数本のガラス繊維を長手方向に引き揃えたガラス繊維シートを複数枚積層させ、且つ、隣接するシートに含まれるガラス繊維同士が互いに交差された構造を有することが好ましい(
図6参照)。
図6は、第1樹脂からなる部分112を省略した積層型の基材層11を示す図であり、上下に隣接するガラス繊維シートに含まれるガラス繊維111同士の配向方向(
図6における白抜き矢印の方向)が異なるように3枚のガラス繊維シート(ガラス繊維群)115が積層された構成であって、1のガラス繊維シートと、その隣のガラス繊維シートとの間において、各シートに含まれるガラス繊維111同士の配向方向が、互いに略直交となるように積層された構成である。ガラス繊維シート(ガラス繊維群)115の積層数は、特に限定されず、例えば、2〜50とすることができる。また、1のガラス繊維シートと、その隣のガラス繊維シートとの間において、各シートに含まれる各ガラス繊維111の配向方向が、互いに異なる場合、各ガラス繊維111が形成する角度は、好ましくは30〜90度である。
【0025】
図6に示される構成のガラス繊維111を含む基材層11を有する繊維質多孔基材10Aの場合、1のガラス繊維シートに含まれるガラス繊維111と、その隣(上側又は下側)のガラス繊維シートに含まれるガラス繊維111とが第1樹脂により接着された構造を、主として有し、優れた機械的特性を有する車両用部品を得ることができる。また、基材層11の厚みを増大させることによって、優れた騒音低減効果を得ることができる。騒音の低減効果を十分に得るためには、騒音の波長λに対して1/4相当の厚さの基材層11が最も適しており、基材層11及び表面層12を含む構造壁の厚さを増大させて、より長波長側の音を低減することができる。
【0026】
上記第1樹脂は、ガラス繊維111同士を接着している熱可塑性樹脂組成物である。基材層11に含まれる第1樹脂の含有量は、特に限定されないが、ガラス繊維111と第1樹脂との合計を100質量%とした場合に、30〜70質量%
であり、より好ましくは40〜60質量%である。
【0027】
この第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂は、ガラス繊維111に接着し、ガラス繊維111同士を接着できる熱可塑性樹脂であれば、その種類は、特に限定されない。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル樹脂等を用いることができる。これらは、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、ガラス繊維111に対する接着性の観点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂には、オレフィンの単独重合体、及び、オレフィンの共重合体が含まれる。オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。即ち、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ1−ブテン、ポリ1−ヘキセン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は、1種のみで用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、及び、エチレンと他のオレフィンとの共重合体が挙げられる。後者としては、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−へキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体等が挙げられる(但し、全構成単位のうちの50%以上がエチレンに由来する単位である)。
また、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体等が挙げられる(但し、全構成単位のうちの50%以上がプロピレンに由来する単位である)。
【0029】
基材層11は、ガラス繊維111及び第1樹脂以外に
発泡体113を含有する。この発泡体113は、樹脂からなる殻壁を有し、この殻壁内にガスを含むものであり、基材層11の内部において、その形状は、定形又は不定形である。発泡体113の形状は、例えば、球形、楕円球形等とすることができるが、発泡体113は、
図3に示されるように、複数本のガラス繊維111の間に介在することになるため、その形状は、通常、不定形となり、全ての発泡体113の形状が異なる場合がある。
【0030】
また、上記発泡体113に含まれるガスは、特に限定されず、加熱により膨張したガス、熱分解性化合物に由来して発生したガス等とすることができる。従って、上記発泡体113は、膨張ガス、生成ガス等を内包する樹脂体とすることができる。
上記発泡体113は、好ましくは、低沸点炭化水素等の、熱膨張性発泡剤を熱可塑性樹脂からなる殻壁内に封入した微粒子である発泡性粒子が、発泡開始温度以上の温度に加熱されて、膨脹した熱膨張性発泡剤が殻壁を押し広げ、殻壁が軟化されて形成された膨張体である。そして、基材層11の内部において、体膨張された状態でガラス繊維111同士の間に介在する。
【0031】
発泡体113の殻壁を構成する熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されないが、第1樹脂(基材層11内でガラス繊維111同士を接着している樹脂)の融点、及び、第2樹脂(表面層12内で樹脂繊維121同士を接着している樹脂)の融点、の両方に比べて高い融点を有する熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物に由来する構成単位を有する共重合体及び単独重合体を用いることができる。共重合体である場合の他の構成単位としては、不飽和酸(アクリル酸等)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、脂肪族ビニル化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン及び架橋性単量体等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。即ち、共重合体としては、塩化ビニリデン・アクリルニトリル共重合体が挙げられる。
【0032】
発泡体113を含む
基材層11において、第1樹脂によってガラス繊維111と発泡体113とが接着されていることが好ましく、それにより、基材層11内において軽量な補強材として機能する。尚、発泡体113が、接着されることなく、複数本のガラス繊維111の間に挟持されている態様とすることもできる。発泡体113の含有割合は、特に限定されないが、例えば、基材層11又は本発明の車両用部品の軽量化及び剛性の観点から、ガラス繊維及び第1樹脂の合計100質量部に対して、発泡体3〜20質量部とすることができる。
このように、発泡体113を含有する基材層11においては、ガラス繊維111の割合を低減することができ、基材層11又は本発明の車両用部品の軽量化を図るとともに高剛性を得ることができる。
【0033】
上記表面層12は、
図3に示されるように、複数本の樹脂繊維121と、樹脂繊維121同士を接合している第2樹脂からなる部分122と、を含む。第2樹脂からなる部分122は、樹脂繊維121同士を接合する接合部である。
【0034】
樹脂繊維121の種類、形状及びサイズは、特に限定されない。樹脂繊維121の構成材料は、好ましくは、熱可塑性樹脂組成物(以下、「第3樹脂」という)である。表面層12における樹脂繊維121の含有量は、特に限定されないが、表面層12全体を100質量%とした場合に、30〜70質量%
であり、より好ましくは35〜65質量%である。
【0035】
第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂は、好ましくは、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂、及び、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂に比べて融点が高い熱可塑性樹脂である。
第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂及び第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂が各々融点を有する場合においては、各々融点は限定されないものの、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点は、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より、好ましくは20℃以上、より好ましくは50℃以上高い。尚、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点の上限は、好ましくは(第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点+160)℃である。また、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点は、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より、好ましくは20℃以上、より好ましくは50℃以上高い。尚、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点の上限は、好ましくは(第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点+160)℃である。
【0036】
このような第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の、芳香族ポリエステル樹脂や、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸等の、脂肪族ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T、ポリアミド11、ポリアミド610及びポリアミド1010等のポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂は、樹脂繊維121に接着し、樹脂繊維121同士を接着することができる熱可塑性樹脂であれば、その種類は、特に限定されない。上述のような融点の関係を有する熱可塑性樹脂が好ましい。更に、発泡体113が含まれる
基材層11において、この熱可塑性樹脂は、発泡体113の殻壁を構成する材料より低い融点を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0038】
第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらのうち、好ましい構成材料であるポリエステル系樹脂等を含む樹脂繊維121に対する接着性の観点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、上記第1樹脂に例示したポリオレフィン樹脂を適用することができる。但し、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂と第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂とは同じ熱可塑性樹脂であってもよく、異なる熱可塑性樹脂であってもよい。また、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点は、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点と同じであってもよく、異なってもよい。
表面層12における第2樹脂の含有量は、特に限定されないが、表面層12全体を100質量%とした場合に、30〜70質量%
であり、より好ましくは35〜65質量%である。
【0039】
本発明においては、上記のように、基材層11と表面層12とは、接合されていることが好ましい。基材層11及び表面層12の接合形態は、特に限定されない。即ち、基材層11及び表面層12は、第1樹脂及び/又は第2樹脂により接合されていてよいし、他の接着剤により接合されていてもよい。
【0040】
後述するように、本発明の車両用部品10は、種々の製品形態をとることができるので、例えば、厚さt
1である部位、及び、1.5≦t
2/t
1≦30を満たす厚さt
2の部位、の両方を備えることができる。即ち、互いに厚さが異なる複数の部位を、1体の車両用部品10が含むことができる。尚、それ自体で自身を支持するための剛性を有しない不織布等を用いて構造壁を形成するには、前述のようにフレーム構造を要したり、支持部材となるワイヤーを要したりすることとなる。このような場合には、構造壁自体が十分な厚さを有することができず、剛性を得ることができない。また、一体的に形成しつつ所望の箇所の厚さを増減させることができない。しかしながら、本車両用部品10においては、これらの不具合が解消される。加えて、騒音低減に必要な厚さ(例えば、低減目的とする音の波長λの1/4の厚さ)を、所望の部位に設定することができるため、剛性に優れた繊維質多孔基材が、吸音・消音作用を発揮する。
【0041】
上記のt
2/t
1は、2≦t
2/t
1≦10とすることができ、更には、2≦t
2/t
1≦6とすることができる。
上記t
1及びt
2の値は、特に限定されないが、例えば、t
2は、1mm以上30mm以下が好ましく、2mm以上20mm以下がより好ましく、特に6mm以上20mm以下とすることができる。
具体例として、騒音レベルの音が、直線状のダクト内を通過する場合、ダクト中央部の管壁の厚さを増加させると、騒音低減に特に効果が得られると考えられる。従って、ダクトの両開口端部における管壁の厚さを上記t
1とし、且つ、ダクトの長さを三等分した中央領域(この範囲)における、管壁の厚さを上記t
2に設定することが好ましい。
【0042】
上記のように、本発明に係る繊維質多孔基材10Aは、好ましくは、基材層11側から表面層12側に向かって、ガラス繊維111同士の間の空隙、及び、樹脂繊維121同士の間の空隙が非直線的に連続した通気孔を有している。この繊維質多孔基材10Aの通気度(JIS L1096フラジール法に準拠)は、防音性の観点から、好ましくは1〜25cc/cm
2/sec、より好ましくは2〜10cc/cm
2/secである。本発明の車両用部品10は、上記通気度を有する繊維質多孔基材10Aからなる部分を少なくとも有することが好ましい。尚、通気度が2〜6cc/cm
2/secの範囲にある繊維質多孔基材10Aを備える管状の車両用部品は、例えば、エンジンの吸気脈動音や放射音の音圧を抑えることができる。
また、本発明の車両用部品10を構成する繊維質多孔基材10Aは、基材層11側から表面層12側へ貫通された貫通孔を有することができる。上記のように、好ましい態様の繊維質多孔基材10Aには、ガラス繊維111同士の間、及び、樹脂繊維121同士の間に形成された空隙が複雑に連続する通気孔が備わっているが、上記好ましい通気度を得るために、この通気孔とは別に、繊維質多孔基材10Aの基材層11側から表面層12側へ形成された貫通孔を有することができる。このような貫通孔を有することにより、騒音の低減を図ることができる。この貫通孔による通気度を、例えば、2cc/cm
2/sec以上10cc/cm
2/sec以下、特に好ましくは2cc/cm
2/sec以上6cc/cm
2/sec以下とすることができる。
【0043】
また、本発明の車両用部品10は、基材層11及び表面層12以外に、他の層を備えることができる。他の層を備える態様としては、他の層、基材層11及び表面層12を、順次、備える部品が挙げられる。具体例は、基材層11の両面に表面層12を有する形態である。
【0044】
本発明の車両用部品10としては、送気ダクト、フィルターケース、
図4に示されるアンダーカバー、及び、エンジンカバー等が挙げられる。より具体的には、送気ダクトには、自動車のエンジンへ外部から吸い込んだ空気を送るための各種給気ダクト(吸気口、屈曲部、蛇腹部、直管部等を含む)、車両内へ外気を取り込むための各種ダクト、エアコン装置に付随する各種ダクト(エバポレーターから車両内へ挿通されるダクト)、車両用蓄電池を冷却するための冷却気を送風するための送風ダクト等が含まれる。また、フィルターケース(フィルターケースのハウジング)には、フィルタリング前の気体が流通する前段ハウジング部分、及び、フィルタリング後の気体が流通する後段ハウジング部分、が含まれる他、フィルター不織布等を保持するフレームも含まれる。
更に、アンダーカバーには、エンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバー、リアアンダーカバー等が含まれる。
図4に示されるアンダーカバーは、車体50下面と路面との間に位置するように、車体50下面に配設される部品である。エンジンアンダーカバー41は、主としてエンジン下部を覆う部分である。このエンジンアンダーカバー41は、フロントバンパー51下部や、トランスミッション52下部等も併せて覆うことができる。フロアアンダーカバー42a及び42bは、主として乗車空間下部を覆う部分であり、高温となる排気管53等を避けて、左右に一対を設けることができる。リアアンダーカバー43は、主としてリアバンパー54下部を覆う部分である。
【0045】
本発明の車両用部品10は、上記繊維質多孔基材からなるものであってもよく、繊維質多孔基材からなる部分(部分形状体)と、他の材料からなる部分とを用いて得られた複合物であってもよい。
尚、上記のように、繊維質多孔基材10Aは、表面層12が防水層として機能する程度に緻密でありながら通気性を維持することができるものである。例えば、
図1に示されるエンジンの吸気系部品10において、エアクリーナハウジング33よりも下流側(エンジン本体に近い側)であって、吸音直管部35等の、清浄な空気が流れるダクト部を構成する場合等、吸気系部品10の外部から異物を可能な限り取り込まないことが好ましい場合がある。このような場合には、吸音直管部35等のダクト部の外表面を樹脂コーテイングすることによって防塵することができる。また、吸音直管部35等のダクト部の外部に防塵カバーを被せる等の手段によって防塵対策を施すこともできる。
【0046】
2.車両用部品の製造方法
本車両用部品の製造方法は、特に限定されないが、下記方法により目的とする特性を有する車両用部品を低コストで得ることができる。
好ましい製造方法は、複数本のガラス繊維111と、第1樹脂からなる物体(粒子状、繊維状等)と、が含まれた基材層用不織布11X、及び、第3樹脂からなる樹脂繊維121と、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂より融点が低い熱可塑性樹脂を含む第2樹脂からなる物体(粒子状、繊維状等)と、が含まれた表面層用不織布12X、を重ね合わせて不織布積層物20を形成する積層物形成工程PR1と、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点、及び、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より高く、且つ、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より低い温度で不織布積層物20をプレスする加熱プレス工程PR2と、加熱プレス工程PR2により得られた積層体21を、更に非加熱プレスする第1非加熱プレス工程PR3と、第1非加熱プレス工程PR3により得られた積層体22を加熱する加熱工程PR4と、加熱工程PR4により得られた積層体23を、製品形状に非加熱プレスする第2非加熱プレス工程PR5と、を備える(
図5参照)。
【0047】
この方法では、加熱プレス工程PR2の後、積層体21を、第1非加熱プレス工程PR3(即ち、冷間プレス工程である)に供することによって、余熱を利用し、基材層用不織布11X及び表面層用不織布12Xを強固に一体化させつつ、圧縮された積層体21を、更に緻密化することができる。また、ガラス繊維111同士を接合させた状態で第1樹脂を十分に固化することができ、樹脂繊維121同士を接合させた状態で第2樹脂を十分に固化することができる。そのために、第1非加熱プレス工程PR3を備えない場合に比べて、機械的特性及び耐水性を著しく向上させることができる。また、第1非加熱プレス工程PR3が非加熱であるために、樹脂繊維121の形態を維持したまま、表面層12を高度に緻密化することができる。従って、第1非加熱プレス工程PR3により、車両用部品における騒音低減効果を高度に維持しつつ、表面層12側から基材層11の内部にまで水が浸透することを防止する耐水性を付与することができる。
【0048】
上記積層物形成工程PR1で用いられる表面層用不織布12Xは、樹脂繊維121と、第2樹脂と、が含まれた不織布素材である。この不織布素材の形態は、互いに接合していない複数本の樹脂繊維121と、第2樹脂体(粒子、繊維等)とを含む不織布(m1);第2樹脂により接合している樹脂繊維121からなる不織布(m2)等とすることができる。本発明においては、いずれの態様によっても、耐水性に優れた表面層を形成することができる。
樹脂繊維121及び第2樹脂体を構成する第2樹脂の詳細は、前述の通りである。樹脂繊維121は、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より50℃以上高い熱可塑性樹脂を含む第3樹脂からなることが好ましい。尚、得られる車両用部品の製造前後において、樹脂繊維121が変性する等の不具合は発生しない。また、表面層用不織布12Xは、その全体を100質量%とした場合に、樹脂繊維121及び第2樹脂体、を、それぞれ、30〜70質量%及び30〜70質量%、より好ましくは35〜65質量%及び35〜65質量%含有することができる。
【0049】
表面層用不織布12Xの目付は、特に限定されないが、例えば、100〜400g/m
2とすることができる。
【0050】
上記積層物形成工程PR1で用いられる基材層用不織布11Xは、ガラス繊維111と第1樹脂と、が含まれた不織布素材である。この不織布素材の形態は、互いに接合していない複数本のガラス繊維111と、第1樹脂体(粒子、繊維等)とを含む不織布(n1);第1樹脂により接合しているガラス繊維111からなる不織布(n2);これらの不織布(n1)及び(n2)の少なくとも一方を、2枚以上積層させてなる積層物等とすることができる。本発明においては、機械的特性に優れた基材層である、例えば、
図6に示される複合型の基材層11を形成するために、このガラス繊維シート(ガラス繊維群)115が2枚以上積層されてなる積層型不織布を用いることが好ましい。ガラス繊維シート(ガラス繊維群)115の積層数は、特に限定されず、例えば、2〜50とすることができる。前述のように、上下に隣接するガラス繊維シートに含まれるガラス繊維111同士が交差する積層型不織布を用いることが好ましい。この場合、上下に隣接するガラス繊維シートに含まれる各ガラス繊維111が形成する角度は、好ましくは30〜90度である。
【0051】
ガラス繊維111及び第1樹脂体を構成する第1樹脂の詳細は、前述の通りである。尚、得られる車両用部品の製造前後において、ガラス繊維111が変性する等の不具合は発生しない。一方、複数本のガラス繊維111を接合する第1樹脂の基材層用不織布11Xにおける形態は、特に限定されず、例えば、繊維状、粒状(ペレット状)等とすることができる。
第1樹脂体及び第2樹脂体は、互いに異なる熱可塑性樹脂を含んでもよいが、基材層11及び表面層12の接合をより強固なものとするために、第1樹脂体及び第2樹脂体が同一の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
上記基材層用不織布11Xが、ガラス繊維111及び第1樹脂体からなる場合、ガラス繊維111及び第1樹脂体の割合は、両者の合計を100質量%とした場合に、それぞれ、30〜70質量%及び30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%及び40〜60質量%である。
また、発泡体113を含む基材層11を形成する場合には、更に発泡性粒子を含む基材層用不織布11Xを用いることが好ましい。好ましい発泡性粒子は、前述のように、加熱により軟化する熱可塑性樹脂からなる殻壁を有し、その内部に、加熱により体積膨張する発泡剤(低沸点の炭化水素等)が含まれている樹脂粒子である。そして、発泡開始温度が、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点、及び、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点の両方より高く、上記表面層用不織布12Xに含まれる樹脂繊維121を構成する第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より低い樹脂粒子が特に好ましい。この発泡開始温度の下限温度は、好ましくは200℃、より好ましくは210℃であり、上限は、通常230℃である。
上記基材層用不織布11Xが、ガラス繊維111、発泡性粒子及び第1樹脂体からなる場合、ガラス繊維111及び第1樹脂体の割合は、これらの合計を100質量%とした場合、それぞれ、30〜70質量%及び30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%及び40〜60質量%である。また、発泡性粒子の割合は、ガラス繊維111及び第1樹脂体の合計100質量部に対して、好ましくは3〜20質量部、より好ましくは4〜10質量部である。
【0052】
基材層用不織布11Xの目付は、特に限定されないが、例えば、600〜1200g/m
2とすることができる。
【0053】
上記積層物形成工程PR1は、基材層用不織布11Xと表面層用不織布12Xとを重ね合わせて不織布積層物20を形成する工程である。この工程PR1において、基材層用不織布11X及び表面層用不織布12Xの積層方法は、特に限定されない。
図5では、表面層用不織布12X及び基材層用不織布11Xを上下の位置関係としたが、この配置に限定されない。
【0054】
以下、基材層用不織布11Xが発泡性粒子を含まない
、本発明に含まれない車両用部品を得る場合の製造方法について、工程PR5まで説明する。
上記加熱プレス工程PR2は、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点、及び、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より高く、且つ、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂(樹脂繊維121を構成する樹脂)の融点より低い温度で、不織布積層物20を、加熱プレスする工程である。即ち、この工程は、第1樹脂体と第2樹脂体とを溶融させながら加熱加圧する工程である。これにより、基材層用不織布11X内の第1樹脂体は溶融して、溶融樹脂が圧縮された基材層用不織布11X内で流動されて拡がり、ガラス繊維111同士を接合する。更に、表面層用不織布12X内では、第2樹脂体が溶融して、溶融樹脂が圧縮された表面層用不織布12X内で流動されて拡がり、樹脂繊維121同士を接合する。このとき、加圧されているので、基材層用不織布11X及び表面層用不織布12Xは、溶融した第1樹脂及び/又は溶融した第2樹脂により接合される。そして、一般的には、ガラス繊維111よりも樹脂繊維121の方が柔軟であることから、表面層用不織布12Xの方が緻密化されやすいものの、得られる積層体21の1面側から他面側への断面方向の通気性が維持される。
図5において、表面層用不織布12X及び基材層用不織布11Xを上下に配置したので、加熱プレス工程PR2により、溶融した第2樹脂が基材層用不織布11X側に流れ込み、主として第2樹脂により、基材層用不織布11Xと表面層用不織布12Xとが接合される。基材層用不織布11X及び表面層用不織布12Xを上下に配置した場合には、主として第1樹脂により、基材層用不織布11Xと表面層用不織布12Xとが接合される。
尚、
図5に示される積層体21は、板状を呈しているが、例えば、凹部又は凸部を有する金型を用い、第1樹脂及び第2樹脂の両方が溶融し、樹脂繊維121が溶融しない温度でプレスすることにより、自在に、所望の形状に賦形された積層体21とすることができる。
【0055】
この加熱プレス工程PR2では、例えば、基材層用不織布11Xに含まれる第1樹脂体及び表面層用不織布12Xに含まれる第2樹脂体が、いずれも、ポリオレフィン樹脂を含み、その融点が100℃〜180℃であり、表面層用不織布12Xに含まれる樹脂繊維121の構成材料が、ポリエステル系樹脂であって、その融点が220℃〜280℃である場合、加熱プレス温度(不織布積層物20のプレス中に到達する最高温度)は、上記第1樹脂体に含まれる熱可塑性樹脂の融点、及び、第2樹脂体に含まれる熱可塑性樹脂の融点を超える温度より、30℃から60℃の差で高い、160℃〜210℃とすることができる。
【0056】
上記第1非加熱プレス工程PR3は、加熱プレス工程PR2において得られた積層体21を、冷間プレスする工程である。この工程では、加熱プレス工程PR2の後の余熱がある状態で、積層体21を非加熱で、好ましくはシート状(平板な形態)に、冷間プレスする。この工程を備えることで、最終的に、高い吸音特性を維持しつつ、表面層12における耐水性を向上させることができる。
【0057】
この第1非加熱プレス工程PR3における効果は、加熱プレス工程PR2で圧縮された基材層11及び表面層12を更に圧縮しているので、第1樹脂及び第2樹脂を十分に固化し、得られる積層体22の全体が緻密化されるためと考えられる。特に、余熱状態の表面層12における樹脂繊維121同士を固化した第2樹脂により強固に接合し、プレスにより、通気性を確保しつつ、緻密な構造を形成することができる。そして、表面層12側から基材層11まで水が浸透することを防止する耐水性をも得ることができる。更に、表面層12が樹脂繊維121を含むことによって、表面層12が緻密化されていてもなお、積層体22に適度な柔軟性を与えることができる。これにより、最終的に、表面層12の表面に、工具等が当たっても破壊されない剛性を有する繊維質多孔基材を形成することができるものと考えられる。
【0058】
また、
図6に示すような基材層11を形成するために、ガラス繊維111の配向方向が交差された2枚以上のガラス繊維シート(ガラス繊維群)115が積層された基材層用不織布11Xを用いた場合には、第1樹脂によるガラス繊維111同士の接合点が増えるため、基材層11内でのガラス繊維シートの層間剥離をも防止し、繊維質多孔基材として極めて高い機械的特性を得ることができる。
【0059】
上記加熱工程PR4は、第1非加熱プレス工程PR3で得られた積層体22を加熱する工程である。この加熱工程では、第2非加熱プレス工程PR5(即ち、冷間プレス工程であって、成形工程である)において成形に必要な柔軟性が得られる程度に加熱する工程である。この加熱工程PR4では、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点、及び、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点のうちの高い方の融点に対して10℃以上低い温度に加熱することが好ましい。特に好ましい加熱温度の下限は、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点、及び、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点のうちの高い方の融点に対して60℃低い温度である。尚、この工程における加熱方法は、特に限定されず、熱風、熱板、赤外線等を用いた、公知の方法とすることができる。
【0060】
発泡性粒子113が含まれない基材層用不織布11Xを用いた場合、第1樹脂によるガラス繊維111の拘束が加熱によってある程度ゆるむことによるスプリングバック現象によって、基材層11の嵩高さを得ることができ、繊維質多孔基材の高い剛性を得ることができる。
【0061】
上記第2非加熱プレス工程PR5は、加熱された積層体23を、金型等を用いた冷間プレスによって、繊維質多孔性基材からなる最終製品(車両用部品)、又は、その部分形状体に成形する工程である。
尚、
図5に示される車両用部品10は、均一厚さの形態を呈しているが、部分的に厚さの異なる部位を有するキャビティの利用や、プレス時の圧縮度合いを選択することにより、特定の部位に所望の厚さを付与することができる。
【0062】
次に、基材層用不織布11Xが発泡性粒子を含む場合の製造方法について、工程PR2から説明する。
加熱プレス工程PR2では、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点、及び、第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点より高く、第3樹脂に含まれる熱可塑性樹脂(樹脂繊維121を構成する樹脂)の融点より低く、且つ、発泡性粒子の発泡開始温度より低い温度で、発泡性粒子を含む基材層用不織布11Xを備える不織布積層物20が、圧縮される。即ち、この工程は、発泡性粒子を変化させずに、第1樹脂体及び第2樹脂体のみを溶融させながら加熱加圧し、積層体21を得る工程である。これにより、基材層用不織布11X内の第1樹脂体は溶融して、溶融樹脂が圧縮された基材層用不織布11X内で流動されて拡がり、ガラス繊維111同士を接合し、ガラス繊維111と発泡性粒子とを接合する。更に、表面層用不織布12X内では、第2樹脂体が溶融して、溶融樹脂が圧縮された表面層用不織布12X内で流動されて拡がり、樹脂繊維121同士を接合する。このとき、加圧されているので、基材層用不織布11X及び表面層用不織布12Xは、溶融した第1樹脂及び/又は溶融した第2樹脂により接合される(
図3における接合部112’及び122’参照)。そして、表面層12が緻密化されるものの、得られる積層体21の1面側から他面側への断面方向の通気性が維持される。
【0063】
上記加熱プレス工程PR2において、基材層用不織布11Xに含まれる第1樹脂体及び表面層用不織布12Xに含まれる第2樹脂体が、いずれも、融点が100℃〜180℃であるポリオレフィン樹脂を含み、基材層用不織布11Xに含まれる発泡性粒子の発泡開始温度が190℃であり、表面層用不織布12Xに含まれる樹脂繊維121の構成材料が、融点が220℃〜280℃であるポリエステル系樹脂である場合、加熱プレス温度は、発泡性粒子の発泡開始温度より10℃以上低く、且つ、第1樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点及び第2樹脂に含まれる熱可塑性樹脂の融点のうちの高い方の融点より10℃以上高い温度とすることができる。
【0064】
次いで、第1非加熱プレス工程PR3では、発泡性粒子を含まない基材層用不織布11Xを用いた場合と同様にして、積層体21が冷間プレスされて積層体22が得られる。この第1非加熱プレス工程PR3による効果は、発泡性粒子を含まない基材層用不織布11Xを用いた場合と同じである。
【0065】
その後、加熱工程PR4では、積層体22の加熱が行われ、第1樹脂及び第2樹脂の溶融により積層体22が軟化されるとともに、発泡性粒子が体膨張して発泡体113が形成される。そして、溶融した第1樹脂により、発泡体113及びガラス繊維111が接合した積層体23が得られる。この加熱工程PR4における加熱温度は、表面層用不織布12Xに含まれる樹脂繊維121を構成する樹脂の融点より低く、且つ、発泡性粒子の発泡開始温度以上の温度である。
【0066】
上記加熱工程PR4において、発泡性粒子が発泡(膨張)するので、基材層11に発泡体113による嵩高さを付与し、得られる繊維質多孔性基材に高い剛性を付与することができる。
【0067】
その後、第2非加熱プレス工程PR5では、加熱された積層体23を、金型等を用いた冷間プレスによって、繊維質多孔性基材からなる最終製品(車両用部品)、又は、その部分形状体に成形される。
この第2非加熱プレス工程PR5では、発泡体113を含む基材層11と表面層12とを有する積層体23が冷間プレスに供されても、基材層11内で発泡体113が反発し、所望の厚みを維持することができる。このために、それ自体が厚みと優れた剛性を有する繊維質多孔基材とすることができる。
同じ厚さの繊維質多孔基材を製造した場合、発泡性粒子を含む基材層用不織布11Xを用いたときと、発泡性粒子を含まない基材層用不織布11Xを用いたときとを比べると、前者の方法による製品の方がより軽くなる。
【0068】
上記の好ましい製造方法は、上記工程PR1〜PR5以外にも他の工程を備えることができる。例えば、製品形状にトリミングを行うためのトリミング工程、他部品を配設するためのアッセンブリー工程、繊維質多孔基材の1面側から他面側への通気性を調節するための通気性調整工程等が挙げられる。
【0069】
上記の製造方法の説明では、基材層11及び表面層12の形成に、基材層用不織布11X及び表面層用不織布12Xを用いたが、予め、ガラス繊維111及び発泡性粒子が第1樹脂に接着された基材層用不織布と、樹脂繊維121が第2樹脂に接着された表面層用不織布とを用いて、上記積層体形成工程PR1に供してもよい。
【実施例】
【0070】
1.車両用部品の製造及び評価
実施例1では、一定厚さの板体を製造した。また、実施例2では、
図1に示すような、自動車の吸気系部品10を構成する吸気口部31、継手部32、エアクリーナハウジング33、継手部34、吸音直管部35及び継手部36と、これらの形成に用いられる半割形状成形体とを製造した。そして、実施例3では、
図4に示すような、自動車の車体の下面側に配設されるアンダーカバーであって、エンジン用アンダーカバー41、フロア用アンダーカバー42a及び42b、並びに、リア用アンダーカバー43を製造した。
【0071】
また、これらの成形体の製造に用いた不織布原料は、以下の通りである。
1−1.基材層用不織布11X
この基材層用不織布11Xは、下記のガラス繊維シートを2枚用いて、これらのシートを、各シートに含まれるガラス繊維同士の配向方向が、互いに略直交となるように重ね合わせた、厚さ約5mmのシートである。
ガラス繊維シート(1枚)は、ガラス繊維、並びに、複数本のガラス繊維の間に挟持された、ポリプロピレン樹脂(第1樹脂用の樹脂)からなる樹脂粒子及び発泡開始温度が190℃の発泡性粒子、により構成される、目付1100g/m
2のシートである。
基材層用不織布11Xの全体100質量%に対して、ガラス繊維が41.5質量%、樹脂粒子が51質量%、発泡性粒子が7.5質量%含有されている。
1−2.表面層用不織布12X
この表面層用不織布12Xは、ポリエチレンテレフタレート樹脂(第2樹脂用の樹脂)からなる高融点樹脂繊維(樹脂繊維121用)と、ポリプロピレン樹脂からなる低融点樹脂繊維(高融点樹脂繊維同士を接合する第3樹脂からなる樹脂繊維)とが混合されたものであり、目付300g/m
2、厚さ約1mmのシートである。
表面層用不織布12Xの全体100質量%に対して、高融点樹脂繊維が50質量%、低融点樹脂繊維が50質量%含有されている。
【0072】
実施例1
(1)積層物形成工程(PR1)
基材層用不織布11Xと表面層用不織布12Xとを重ね合わせて不織布積層物20を得た。
【0073】
(2)加熱プレス工程(PR2)
上記(1)で得られた不織布積層物20を、熱盤プレスを用いて、温度190℃、圧力5kg/cm
2で30秒間加熱加圧して、基材層用不織布11X及び表面層用不織布12Xが接合されたシート状の積層体21(厚さ約2mm)を得た。
【0074】
(3)第1非加熱プレス工程(PR3)
上記(2)で得られた積層体21を、冷間プレスを用いて、温度210℃、圧力5kg/cm
2で30秒間圧縮してシート状の積層体22(厚さ約5mm)を得た。
【0075】
(4)加熱工程(PR4)
上記(3)で得られた積層体22を、温度210℃の熱風恒温槽に入れて、発泡性粒子を発泡させてなる積層体23(厚さ約15mm)を得た。
【0076】
(5)第2非加熱プレス工程(PR5)
上記(4)で得られた積層体23を、冷間プレスを用いて圧縮し、厚さが8.5mmの板体(繊維質多孔基材からなる車両用部品)を得た。
その後、得られた板体(車両用部品)について、下記(A)及び(B)の評価を行った。
【0077】
(A)引張り強度
JIS K7161に準じて、SHIMADZU社製精密万能試験機「オートグラフ」にて測定部位幅が10mmであるダンベル形状の板体の引張り強度の測定を行った。尚、上記のように、2枚のガラス繊維シートを用いて基材層を形成させたため、引張り強度の測定は、引張る方向を90度変えて行った。その結果、いずれの方向においても、ポリプロピレン製の板体の引張り強度に対して1.27〜1.28倍の引張り強度が得られた。このことから、構造部材として機能する高い機械的特性を備えていることが分かった。
【0078】
(B)曲げ剛性
サイズが50mm×200mm×8.5mmの試験片を、支点間距離を100mmとした支持台に配置し、試験片の長さ方向の中央部を押圧して水平位置から30mm下方へ押し下げたときの最大曲げ荷重を測定した。その結果、ポリプロピレン製の板体の最大曲げ荷重に対して2.25倍の曲げ剛性が得られた。このことから、構造部材として機能する高い機械的特性を備えていることが分かった。
【0079】
実施例2
実施例1における(1)〜(4)の工程を行った後、(5)第2非加熱プレス工程(PR5)として、
図5に示す要領で、製品(吸気口部31、継手部32、エアクリーナハウジング33、継手部34、吸音直管部35及び継手部36)用の半割形状体のキャビティを備えた冷間プレスを用いて圧縮し、外表面が表面層からなり、肉厚部の厚さが8.5mmである半割形状成形体2種を製造した。「半割形状成形体2種」とは、相互の対向縁で接合して上記製品(繊維質多孔基材からなる車両用部品)とする2つの部材である。
【0080】
その後、吸気口部31、継手部32、エアクリーナハウジング33、継手部34、吸音直管部35、及び継手部36用の各半割形状成形体2種を接合して筒体を作製し、各部材を組み付けて、
図1に示す吸気系部品10を得た。
【0081】
得られた筒体について、下記(C)の評価を行った。
(C)耐水性
大気中、25℃の条件下に載置した筒体(直径60mm及び長さ300mm)の外表面に、連続的に水を吹きかけた。5分後、筒体の内表面を観察したところ、基材層に濡れは認められなかった。
【0082】
また、上記で得られた吸気系部品10について、下記(D)及び(E)の測定を行い、音の低減効果を評価した。
(D)音圧レベルの測定(1)
排気量1.8Lの4気筒エンジンのスロットルボディに、上記吸気系部品10の継手部36を接続し、試験機(T1)を作製した。
【0083】
この試験機(T1)を、無響室に載置し、FFTアナライザに接続されたマイクを、吸気口部31の開口部の直前に固定した。この状態で、エンジンを始動させ、エンジン回転数を1000rpmから6000rpmへと上昇させる間のA特性音圧レベルを測定した。この結果を
図7に示す。
図7は、エンジン回転数を横軸とし、測定されたA特性音圧レベルの値を縦軸としたグラフである。尚、比較のために、ポリプロピレン樹脂を用いて作製した、全てが中実体である、吸気口部31、継手部32、エアクリーナハウジング33、継手部34、吸音直管部35及び継手部36からなる吸気系部品(従来品)、を用いた測定(比較例)も行い、
図7にA特性音圧レベルを示した。
図7から、本発明の構成を有する吸気系部品10を用いると、エンジン回転数1000rpm以上の全範囲において、騒音低減効果に優れることが分かる。
【0084】
(E)音圧レベルの測定(2)
製造条件を変えて、表面層側から基材層側への通気度が1〜25cc/cm
2/secの範囲にある6種類の吸音直管部35を製造した。そして、上記(D)と同様に吸気系部品10を準備した。尚、他の吸気口部31、継手部32、エアクリーナハウジング33、継手部34及び継手部36における通気度は4cc/cm
2/secである。
上記(D)におけるエンジンのスロットルボディに代えてスピーカを継手部36に接続した試験機(T2)を作製した。
【0085】
この試験機(T2)を、無響室に載置し、FFTアナライザに接続されたマイクを、吸気口部31の開口部の直前に固定した。この状態で、上記スピーカからホワイトノイズを発振し、そのA特性音圧レベル(実機における吸気音に相当)を測定した(スピーカ加振法参照)。そして、吸気口部31の開口部の直前における測定結果を、通気度を横軸とし、測定されたA特性音圧レベルの値を縦軸として、その相関を
図8に「吸気音」の曲線として示した。残り5種の吸音直管部35を用いた場合についても、同様にして測定した。
【0086】
マイクの位置を、継手部32の外周面の近傍に変更した。この状態で、上記スピーカからホワイトノイズを発振し、そのA特性音圧レベル(実機における放射音に相当)を測定した(スピーカ加振法参照)。そして、継手部32の外周面の近傍における測定結果を、通気度を横軸とし、測定されたA特性音圧レベルの値を縦軸として、その相関を
図8に「放射音」の曲線として示した。残り5種の吸音直管部35を用いた場合についても、同様にして測定した。
【0087】
これらの測定結果をもとにして、上記吸気音と上記放射音とを加算した音圧を「放射音+吸気音」の曲線として
図8に併記した。
図8の結果から、「放射音+吸気音」の曲線には、通気度2〜6cc/cm
2/secの範囲に音圧レベルが最も効果的に低下する極小が認められた。即ち、通気度が2〜6cc/cm
2/secの範囲に調整された吸音直管部35を備える吸気系部品10は、吸気音と放射音の両方の騒音を非常に効果的に低減できることが分かる。
【0088】
実施例3
実施例1における(1)〜(5)と同様にして、
図4に示すアンダーカバー、即ち、(1)エンジンアンダーカバー41、(2)左右2つのフロアアンダーカバー42a及び42b、(3)リアアンダーカバー43を得た。
【0089】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。