特許第5994750号(P5994750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994750
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】制震構造物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20160908BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   E04H9/02 321B
   F16F15/02 L
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-162816(P2013-162816)
(22)【出願日】2013年8月5日
(62)【分割の表示】特願2009-234664(P2009-234664)の分割
【原出願日】2009年10月8日
(65)【公開番号】特開2013-253473(P2013-253473A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2013年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098095
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 武志
(72)【発明者】
【氏名】澤田 毅
(72)【発明者】
【氏名】長島 和央
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清春
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−084871(JP,A)
【文献】 特開2004−197402(JP,A)
【文献】 特開2001−182361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00−9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに並置された一対の建物柱と、この一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の建物梁と、一対の建物柱及び建物梁により規定された建物壁空間に配されていると共に一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の横部材と、この一対の横部材間に配されていると共に建物壁空間の鉛直面内での水平方向の一対の建物柱の震動を減衰する制震壁とを具備しており、一対の横部材の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、一対の建物柱のうちの他方の建物柱に他の軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、制震壁は、水平方向に伸びる上縁部で上取付機構を介して一対の横部材のうちの上方に配された横部材に固定的に連結されて当該上方に配された横部材から垂下すると共に建物壁空間の鉛直面内に配された制動板と、水平方向に伸びる下縁部で一対の横部材のうちの下方に配された横部材に固定的に連結されていると共に制動板の外面に対して内面で隙間をもって当該制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に該隙間に配された粘性体とを具備しており、上取付機構は、一対の建物梁のうちの上方に配された建物梁に水平方向に伸びる上縁で固定的に連結された上ガセットプレートと、制動板の上縁部に下面で固定的に連結されたフランジプレートと、このフランジプレートの上面に水平方向に伸びる下縁で固定的に連結された下ガセットプレートと、複数のボルトを介して上ガセットプレート及び下ガセットプレートを挟持して上ガセットプレート及び下ガセットプレートを連結した一対のスプライスプレートとを具備しており、当該制震壁は、建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動に起因して一対の横部材を介して生じる箱体に対する制動板の建物壁空間の鉛直面内での相対的な震動で粘性体に少なくとも粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動を減衰するようになっており、制動板は、その上縁部で上取付機構を介して一対の横部材のうちの上方に配された横部材において他方の建物柱から一対の建物柱の間の間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されており、箱体は、その下縁部で一対の横部材のうちの下方に配された横部材において他方の建物柱から一対の建物柱の間の間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されている制震構造物。
【請求項2】
一対の建物梁のうちの一方の建物梁は、一対の横部材のうちの上方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されており、一対の建物梁のうちの他方の建物梁は、一対の横部材のうちの下方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されている請求項1に記載の制震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の建物柱の震動を減衰する制震壁を建物壁空間に配置した制震構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
制動板と、この制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に制動板及び箱体間の隙間に配された粘性体とを具備した制震壁を一対の建物柱及び一対の建物梁で規定される建物壁空間に設置して一対の建物柱の震動を減衰する制震構造物は知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−324392号公報
【特許文献2】特開2004−197402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ラーメン構造(架構)にされた各建物梁は、その端部で建物柱に溶接、リベット接合等で剛接合される一方、その端部からやや離れた部位では曲げ剛性を低下させて曲げ変形し易くなるようにして、その破壊を防止するように構成される場合がある。
【0005】
斯かる建物梁において、上方の建物梁に、制動板を、この上方の建物梁に下方において隣接する下方の建物梁に、隙間をもって制動板を受容する箱体を夫々取付けて、一対の建物柱の震動に起因する上方の建物梁に対する下方の建物梁の相対的な変位で制動板に対して箱体に相対的な変位を生じさせ、この変位で箱体に収容された粘性体に粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の震動を減衰する場合、上記のように各建物梁がその端部からやや離れた部位で曲げ変形し易くなっていると、制動板に対する箱体の相対的な変位が少なくなって、建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行い得なくなる虞がある。
【0006】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる制震構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による制震構造物は、互いに並置された一対の建物柱と、この一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の建物梁と、一対の建物柱及び建物梁により規定された建物壁空間に配されていると共に建物壁空間の鉛直面内での水平方向の一対の建物柱の震動を減衰する制震壁とを具備しており、一対の建物梁の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、制震壁は、水平方向に伸びる上縁部で一対の建物梁のうちの一方の建物梁において他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されて一方の建物梁から垂下すると共に建物壁空間の鉛直面内に配された制動板と、水平方向に伸びる下縁部で一対の建物梁のうちの他方の建物梁において他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されていると共に制動板の外面に対して内面で隙間をもって当該制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に該隙間に配された粘性体とを具備しており、当該制震壁は、建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動に起因して一対の建物梁を介して生じる箱体に対する制動板の建物壁空間の鉛直面内での相対的な震動で粘性体に少なくとも粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動を減衰するようになっている。
【0008】
本制震構造物によれば、制動板の上縁部が他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されている一方の建物梁と箱体の下縁部が他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されている他方の建物梁との夫々の水平方向の一方の端部が、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されているために、一対の建物柱の震動において両建物梁の夫々の他方の建物柱から水平方向間隔の半分以上離れた一方の端部側の部位に曲げ変形を殆ど生じさせないようにでき、而して、一対の建物柱の震動に起因する両建物梁の水平方向の一方の端部側での水平方向の相対的な変位を効果的に生じさせることができて、箱体に収容された粘性体の制動板による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる。
【0009】
斯かる制震構造物では、一対の建物梁の夫々の水平方向の他方の端部は、一対の建物柱のうちの他方の建物柱に固定的に連結されているとよい。
【0010】
また本発明による制震構造物は、互いに並置された一対の建物柱と、この一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の建物梁と、一対の建物柱及び建物梁により規定された建物壁空間に配されていると共に一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の横部材と、一対の横部材間に配されていると共に建物壁空間の鉛直面内での水平方向の一対の建物柱の震動を減衰する制震壁とを具備しており、一対の横部材の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、制震壁は、水平方向に伸びる上縁部で一対の横部材のうちの一方の横部材に固定的に連結されて一方の横部材から垂下すると共に建物壁空間の鉛直面内に配された制動板と、水平方向に伸びる下縁部で一対の横部材のうちの他方の横部材に固定的に連結されていると共に制動板の外面に対して内面で隙間をもって当該制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に該隙間に配された粘性体とを具備しており、当該制震壁は、建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動に起因して一対の横部材を介して生じる箱体に対する制動板の建物壁空間の鉛直面内での相対的な震動で粘性体に少なくとも粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動を減衰するようになっている。
【0011】
斯かる本発明の制震構造物によれば、制動板の上縁部が固定的に連結されている一方の横部材と箱体の下縁部が固定的に連結されている他方の横部材との夫々の水平方向の一方の端部が、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されているために、一対の建物柱の震動において横部材に曲げ変形を殆ど生じさせないようにでき、而して、一対の建物柱の震動に起因する両横部材の相対的な変位を効果的に生じさせることができて、箱体に収容された粘性体を制動板により大きく粘性剪断させることができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる。
【0012】
本発明の好ましい例において、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、一対の建物柱のうちの他方の建物柱に固定的に連結されていてもよいが、一方の端部と同様に、他の軸部材を介して他方の建物柱に建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されていてもよく、このように一対の横部材の夫々の水平方向の両端部を、各軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結すると、一対の建物柱の震動に起因する両横部材の相対的な変位を更に効果的に生じさせることができて、箱体に収容された粘性体の制動板による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰をより効果的に行うことができる。
【0013】
一対の横部材を具備した本発明では、一対の建物梁のうちの一方の建物梁は、一対の横部材のうちの上方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されており、一対の建物梁のうちの他方の建物梁は、一対の横部材のうちの下方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されていてもよい。
【0014】
このような一対の建物梁を具備していると、本来の梁の機能をもった制震構造物を提供できる上に、斯かる建物梁を、その破壊を防止するために、その端部からやや離れた部位では曲げ変形し易くなるように構成することもできるが、本発明では、一対の建物梁に斯かる曲げ変形し易い領域を必ずしも設ける必要はない。
【0015】
制動板は、その上縁部で一対の横部材のうちの一方の横部材において他方の建物柱から一対の建物柱の間の間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されており、箱体は、その下縁部で一対の横部材のうちの他方の横部材において他方の建物柱から一対の建物柱の間の間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されていてもよく、斯かる制動板及び箱体によれば、一対の建物柱の震動をほぼそのまま反映する一対の横部材の水平方向の相対的な震動を利用できて、箱体に収容された粘性体の制動板による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰をより効果的に行うことができる。
【0016】
本発明の他の制震構造物は、互いに並置された一対の建物柱と、この一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の建物梁と、一対の建物柱及び建物梁により規定された建物壁空間に配された一対の横部材と、この一対の横部材間に配されていると共に建物壁空間の鉛直面内での水平方向の一対の建物柱の震動を減衰する制震壁とを具備しており、一対の建物梁のうちの一方の建物梁は、一対の横部材のうちの上方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されており、一対の建物梁のうちの他方の建物梁は、一対の横部材のうちの下方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されており、一対の横部材の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に連結されており、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、当該一対の横部材の夫々に隣接されて並置されている建物梁の夫々の水平方向の略中央部に建物壁空間の鉛直面内で回動自在及び直動自在のうちの少なくとも一方の自在性をもって連結されており、制震壁は、水平方向に伸びる上縁部で一対の横部材のうちの一方の横部材に固定的に連結されて一方の横部材から垂下すると共に建物壁空間の鉛直面内に配された制動板と、水平方向に伸びる下縁部で一対の横部材のうちの他方の横部材に固定的に連結されていると共に制動板の外面に対して内面で隙間をもって当該制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に該隙間に配された粘性体とを具備しており、当該制震壁は、建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動に起因して一対の横部材を介して生じる箱体に対する制動板の建物壁空間の鉛直面内での相対的な震動で粘性体に少なくとも粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動を減衰するようになっている。
【0017】
建物梁の端部の夫々が建物柱の夫々に固定的に連結されている場合、建物梁の水平方向の略中央部は、変形の節となって、建物柱の震動においても殆ど変位することがないので、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部が、建物梁の水平方向の略中央部に回動自在及び直動自在のうちの少なくとも一方の自在性をもって連結されていると、建物柱の震動において建物梁の曲げ変形の影響を極力少なくでき、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を更により効果的に行うことができる。
【0018】
本発明の他の制震構造物において、一対の横部材の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に固定的に連結されていてもよいが、好ましくは、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、また、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、当該一対の横部材の夫々に隣接されて並置されている建物梁の夫々の水平方向の略中央部に建物壁空間の鉛直面内で回動自在に連結されていてもよく、これに代えて又はこれと共に、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、当該一対の横部材の夫々に隣接されて並置されている建物梁の夫々の水平方向の略中央部に建物壁空間の鉛直面内で直動自在に連結されていてもよい。
【0019】
本発明に係る制震構造物は、低層、中層若しくは高層の事業ビル又は住居ビルを含み、一対以上の建物柱及び建物梁を有していると共に各層若しくは必要な層の必要な一対の建物柱及び建物梁に関して制震壁を有していてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる制震構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の好ましい例の正面説明図である。
図2図2は、図1に示す例のII−II線矢視断面説明図である。
図3図3は、図1に示す例のIII−III線矢視断面説明図である。
図4図4は、本発明の好ましい他の例の正面説明図である。
図5図5は、本発明の好ましい更に他の例の正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明の実施の形態を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0023】
図1及び図2において、本例の制震構造物1は、互いに平行となって並置されていると共に夫々直立されたH型鋼からなる一対の建物柱2及び3と、一対の建物柱2及び3を水平方向(横方向)Hにおいて橋絡して互いに平行となって並置されていると共に夫々リブ部材4により補強されたH型鋼からなる一対の建物梁5及び6と、一対の建物柱2及び3並びに建物梁5及び6により規定された建物壁空間7に上下方向Vにおいて建物梁5及び6間に配されていると共に建物壁空間7の鉛直面内(図面の紙面内)での一対の建物柱2及び3の水平方向Hの震動を減衰する制震壁8とを具備している。
【0024】
一対の建物柱2及び3を橋絡して互いに並置されていると共に一対の建物柱2及び3と協働して建物壁空間7を囲繞した一対の建物梁5及び6において、上方に配された上側の建物梁5の水平方向Hの一方の端部15は、一方の建物柱2に軸連結機構18の軸部材24を介して建物壁空間7の鉛直面内でR1方向に回転自在に連結されており、建物梁5に下方に隣接して配された下側の建物梁6の水平方向Hの一方の端部16もまた、建物柱2に軸連結機構20の軸部材24を介して建物壁空間7の鉛直面内でR1方向に回転自在に連結されており、建物梁5の水平方向Hの他方の端部17は、他方の建物柱3に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されており、建物梁6の水平方向Hの他方の端部19もまた、他方の建物柱3に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されている。
【0025】
軸連結機構18と軸連結機構20とは、同様に構成されているので、以下、軸連結機構20を説明すると、軸連結機構20は、建物柱2のH型鋼のフランジ部21に溶接、リベット、ボルト等により固着された二又軸受22と、二又軸受22の二又部及び建物梁6のH型鋼のウェブ部23の夫々を回転自在に貫通した軸部材24とを具備しており、軸部材24を介して端部16は建物柱2に建物壁空間7の鉛直面内でR1方向に回転自在に連結されている。
【0026】
制震壁8は、水平方向Hに伸びる上縁部31で上取付機構32を介して建物梁5のフランジ部45において建物柱3から建物柱2及び3の間の水平方向間隔Dの半分以上離れた範囲d1の部位に固定的に連結されて建物梁5から垂下すると共に建物壁空間7の鉛直面内に配された制動板33と、水平方向Hに伸びる下縁部34で下取付機構35としての複数のボルト−ナット36を介して建物梁6のフランジ部37において建物柱3から水平方向間隔Dの半分以上離れた範囲d2の部位に固定的に連結されていると共に制動板33の外面38に対して内面39で隙間40をもって当該制動板33を受容した箱体41と、隙間40に配されていると共に高粘度のシリコーンオイル又は瀝青等の粘性体42とを具備している。
【0027】
上取付機構32は、建物梁5のH型鋼のフランジ部45の範囲d1内の部位に水平方向Hに伸びる上縁で溶接等により固定的に連結された上ガセットプレート46と、制動板33の上縁部31に下面で溶接等により固定的に連結されたフランジプレート47と、フランジプレート47の上面に水平方向Hに伸びる下縁で溶接等により固定的に連結された下ガセットプレート48と、複数のボルト49を介して上ガセットプレート46及び下ガセットプレート48を挟持して上ガセットプレート46及び下ガセットプレート48を連結した一対のスプライスプレート50及び51と、上ガセットプレート46及び下ガセットプレート48の夫々に溶接等により固着された複数の補強リブ52とを具備している。
【0028】
粘性体42を収容する箱体41は、複数のボルト−ナット36を介して建物梁6のH型鋼のフランジ部37の範囲d2内の部位に固定的に連結された下縁部34としての底板56と、底板56に溶接等により固着された矩形状の筒体57と、筒体57の側壁の外面に溶接等により固着されていると共に水平方向Hに伸びた複数の補強部材58とを具備しており、箱体41の内面39は、底板56の上面59と筒体57の内周面60とからなっており、箱体41の隙間40は、筒体57の開口上端から挿入された制動板33の全外面38と内面39との間に位置している。
【0029】
制震壁8は、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動に起因して建物梁5及び6を介して生じる箱体41に対する制動板33の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの相対的な震動で粘性体42に粘性剪断を生じさせて建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動を減衰するようになっている。
【0030】
以上の制震構造物1では、地盤に設置された制震構造物1に地震が加わって、建物柱2及び3が建物壁空間7の鉛直面内で水平方向Hに同方向に震動すると、建物梁5に対して建物梁6が鉛直面内で水平方向Hに相対的に震動変位し、この震動変位で箱体41に対して制動板33も鉛直面内で水平方向Hに相対的に震動変位し、箱体41内の収容されて隙間40に配置された粘性体42は、斯かる震動変位する制動板33により剪断される結果、制動板33に剪断抵抗力に基づく減衰力を震動変位する制動板33に与えて、制動板33に建物梁5を介して連結された建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動に減衰力を与え、延いては、制震構造物1の水平方向Hの震動に減衰力を与え、制震構造物1の水平方向Hの震動を早期に減少させる。
【0031】
ところで、制震構造物1では、制動板33の上縁部31が範囲d1以内の部位に固定的に連結されている建物梁5と箱体41の下縁部34が範囲d2以内の部位に固定的に連結されている建物梁6との夫々の水平方向Hの端部15及び16が、建物柱2に軸部材24を介して建物壁空間7の鉛直面内でR1方向に回転自在に連結されているために、当該端部15及び16が端部17及び19と同様に固定的に連結されている場合と比較して、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動における建物梁5及び6の夫々の水平方向の一方の端部側15及び16に殆ど曲げ変形を生じさせないようにでき、而して、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動に起因する両建物梁5及び6の相対的な変位を効果的に生じさせることができて、箱体41に収容された粘性体42の制動板33による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間7に配置した制震壁8による建物柱2及び3の震動減衰、延いては制震構造物1の震動減衰を効果的に行うことができる。
【0032】
換言すれば、建物梁5及び6の夫々がその水平方向Hの両端部15及び16並びに17及び19で建物柱2及び3に固定的に連結されてラーメン架構、特に、両端部15及び16並びに17及び19からやや離れた建物梁5及び6の部位に曲げ剛性を低下させて曲げ変形し易い塑性変形領域をもってラーメン架構されていると、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動において建物梁5及び6の夫々が大きく波打つように撓み変形されて、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動の大きさに対応した大きさの相対的な変位を箱体41と制動板33との間に得られ難くなるが、上記のように建物柱2に軸部材24を介して端部15及び16を建物壁空間7の鉛直面内でR1方向に回転自在に連結すると、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動における建物柱3から水平方向間隔Dの半分以上離れた端部側15及び16側の部位での建物梁5及び6の夫々の撓み変形を抑制できて、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動の大きさにほぼ対応した大きさの相対的な変位を箱体41と制動板33との間に得ることができ、而して、建物壁空間7に配置した制震壁8による建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる。
【0033】
以上の制震構造物1では、建物梁5及び6の一方の端部15及び16を建物柱2に軸部材24を介して建物壁空間7の鉛直面内で回転自在に連結したが、これに代えて、図4に示すように、建物梁5及び6の夫々がその水平方向Hの両端部15及び16並びに17及び19で建物柱2及び3の夫々に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されてラーメン架構されている制震構造物70において、建物壁空間7に配されていると共に建物柱2及び3と協働して建物壁空間7を囲繞した一対の横部材71及び72を設けて、上下方向Vにおいて一対の横部材71及び72の間に制震壁8を設けてもよい。
【0034】
一対の建物柱2及び3を橋絡して互いに並置されていると共に一対の建物柱2及び3と協働して建物壁空間7を囲繞した一対の横部材71及び72を具備している上に、一対の横部材71及び72のうちの上方に配された横部材71に隣接されて並置されていると共に端部15及び17で一対の建物柱2及び3の夫々に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されている建物梁5と、一対の横部材71及び72のうちの下方に配された横部材72に隣接されて並置されていると共に端部の16及び19の夫々で一対の建物柱2及び3の夫々に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されている建物梁6とを具備した制震構造物70においては、横部材71及び72の夫々の水平方向Hの一方の端部75及び76は、軸連結機構18と同様の軸連結機構77及び78の軸部材79及び80の夫々を介して建物柱2に夫々建物壁空間7の鉛直面内でR1方向に回転自在に連結されており、横部材71及び72の夫々の水平方向Hの他方の端部85及び86は、軸連結機構18と同様の他の軸連結機構87及び88の軸部材89及び90を介して建物柱3に夫々建物壁空間7の鉛直面内でR2方向に回転自在に連結されており、一対の建物柱2及び3並びに建物梁5及び6により規定された建物壁空間7に配されていると共に建物壁空間7の鉛直面内での一対の建物柱2及び3の水平方向Hの震動を減衰する制震壁8の制動板33は、上縁部31で上取付機構32を介して横部材71に固定的に連結されて横部材71から垂下すると共に建物壁空間7の鉛直面内に配されており、当該制震壁8の箱体41は、その底板56で複数のボルト−ナット36を介して横部材72の上面に固定的に連結されている。
【0035】
制震構造物70においても、地盤に設置された制震構造物70に地震が加わって、建物柱2及び3が建物壁空間7の鉛直面内で水平方向Hに同方向に震動すると、建物梁5及び横部材71に対して建物梁6及び横部材72が水平方向Hに相対的に震動変位し、この震動変位で箱体41に対して制動板33も建物壁空間7の鉛直面内で水平方向Hに相対的に震動変位し、箱体41内の収容されて隙間40に配置された粘性体42は、斯かる震動変位する制動板33により剪断される結果、制動板33に剪断抵抗力に基づく減衰力を震動変位する制動板33に与えて、制動板33に横部材71を介して連結された建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動に減衰力を与え、延いては、制震構造物70の水平方向Hの震動に減衰力を与え、制震構造物70の水平方向Hの震動を早期に減少させる。
【0036】
制震構造物70の場合では、制動板33の上縁部31が固定的に連結されている横部材71と箱体41の下縁部34が固定的に連結されている横部材72との両横部材71及び72の夫々の水平方向Hの端部75及び76が、建物柱2に軸部材79及び80を介して建物壁空間7の鉛直面内でR2方向に回転自在に連結されていると共に、制動板33の上縁部31が固定的に連結されている横部材71と箱体41の下縁部34が固定的に連結されている横部材72との両横部材71及び72の夫々の水平方向Hの端部85及び86が、建物柱3に軸部材89及び90を介して建物壁空間7の鉛直面内でR1方向に回転自在に連結されているために、建物梁5がその端部15及び17で一対の建物柱2及び3の夫々に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されていると共に建物梁6がその端部の16及び19の夫々で一対の建物柱2及び3の夫々に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されていても、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動における横部材71及び72の曲げ変形を少なくでき、而して、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動に起因する両横部材71及び72の鉛直面内での水平方向Hの相対的な変位をより効果的に生じさせることができて、箱体41に収容された粘性体42を制動板33により大きく粘性剪断させることができる結果、建物壁空間7に配置した制震壁8による建物柱2及び3の震動減衰、延いては制震構造物1の震動減衰をより効果的に行うことができる。
【0037】
制震構造物70の場合では、横部材71及び72の夫々の両端部75及び76並びに85及び86を建物柱2及び3に対して回転自在としたが、横部材71及び72の夫々の端部75及び76を建物柱2に対してR1方向に回転自在とする一方、横部材71及び72の夫々の端部85及び86を建物柱3に対して固定的にしてもよく、この逆でもよく、更には、横部材71及び72の夫々の端部75及び86を建物柱2及び3に対してR1方向及びR2方向の夫々に回転自在とする一方、横部材71及び72の夫々の端部76及び85を建物柱2及び3に対して固定的にしてもよく、この逆でもよい。
【0038】
制震構造物70において、横部材71及び72の夫々の端部75及び76を建物柱2に対してR1方向に回転自在とする一方、横部材71及び72の夫々の端部85及び86を建物柱3に対して固定的にする場合、制震構造物1と同様に、制動板33の上縁部31を横部材71において建物柱3から水平方向間隔Dの半分以上離れた建物柱2側の部位に固定的に連結すると共に箱体41の下縁部34を同じく横部材72において建物柱3から水平方向間隔Dの半分以上離れた建物柱2側の部位に固定的に連結するとよく、横部材71及び72の夫々の端部85及び86を建物柱3に対してR2方向に回転自在とする一方、横部材71及び72の夫々の端部75及び76を建物柱2に対して固定的にする場合には、これらとは逆に、制動板33の上縁部31を横部材71において建物柱2から水平方向間隔Dの半分以上離れた建物柱3側の部位に固定的に連結すると共に箱体41の下縁部34を同じく横部材72において建物柱2から水平方向間隔Dの半分以上離れた建物柱3側の部位に固定的に連結するとよい。
【0039】
制震構造物70では、横部材71及び72の夫々の両端部75及び76並びに85及び86を建物柱2及び3に対してR1及びR2方向に回転自在としたが、これに代えて、図5に示すように、前記と同様に、横部材71及び72の夫々の両端部75及び76を建物柱2にR2方向に回転自在に連結する一方、横部材71及び72の夫々の両端部85及び86を建物梁5及び6の夫々の水平方向Hの略中央部に滑り支持機構95及び96を介して建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hに直動自在に連結して、上記と同様に、上下方向Vにおいて一対の横部材71及び72の間に制震壁8を設けてもよい。
【0040】
滑り支持機構95と滑り支持機構96とは、同様に構成されているので、滑り支持機構95について説明すると、滑り支持機構95は、横部材71の端部85に固着されたロッド97と、ロッド97が水平方向Hに滑り移動自在に貫通していると共に建物梁5に溶接等により固定的に連結された滑り軸受部材98とを具備しており、建物梁5に対する横部材71の端部85の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの相対的な直動を許容するようになっている。
【0041】
一対の横部材71及び72の夫々の水平方向Hの端部85及び86が当該一対の横部材71及び72の夫々に隣接されて並置されている建物梁5及び6の夫々の水平方向Hの略中央部に可動、即ち建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hに直動自在に連結されて建物柱3に連結されている図5に示す制震構造物99でも、建物梁5がその端部15及び17で一対の建物柱2及び3の夫々に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されていると共に建物梁6がその端部の16及び19の夫々で一対の建物柱2及び3の夫々に溶接、リベット、ボルト等により固定的に連結されていても、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの同方向の震動における横部材71及び72の曲げ変形を少なくでき、而して、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動に起因する両横部材71及び72の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの相対的な変位をより効果的に生じさせることができて、箱体41に収容された粘性体42の制動板33による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間7に配置した制震壁8による建物柱2及び3の震動減衰、延いては制震構造物1の震動減衰をより効果的に行うことができる。
【0042】
制震構造物99では、特に、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動における建物梁5及び6の変形において節となる建物梁5及び6の水平方向Hの略中央部に固着された滑り軸受部材98を介して一対の横部材71及び72の夫々の水平方向Hの端部85及び86が建物梁5及び6に建物壁空間7の鉛直面内で水平方向Hに直動自在に連結されているために、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動における横部材71及び72の曲げ変形を更に少なくでき、而して、建物柱2及び3の建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hの震動に起因する両横部材71及び72の鉛直面内での水平方向Hの相対的な変位を更により効果的に生じさせることができて、箱体41に収容された粘性体42の制動板による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間7に配置した制震壁8による建物柱2及び3の震動減衰、延いては制震構造物1の震動減衰をより更に効果的に行うことができる。
【0043】
制震構造物99では、一対の横部材71及び72の夫々の水平方向Hの端部85及び86を建物梁5及び6の夫々の水平方向Hの略中央部に建物壁空間7の鉛直面内での水平方向Hに直動自在に連結したが、これに代えて又はこれと共に回動自在に連結してもよく、例えば自在継手、好ましくは球面軸受等を使用して連結してもよく、要は、回動自在及び直動自在のうちの少なくとも一方の自在性をもって連結されていればよい。
【符号の説明】
【0044】
1 制震構造物
2、3 建物柱
4 リブ部材
5、6 建物梁
7 建物壁空間
8 制震壁
図1
図2
図3
図4
図5