【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ラーメン構造(架構)にされた各建物梁は、その端部で建物柱に溶接、リベット接合等で剛接合される一方、その端部からやや離れた部位では曲げ剛性を低下させて曲げ変形し易くなるようにして、その破壊を防止するように構成される場合がある。
【0005】
斯かる建物梁において、上方の建物梁に、制動板を、この上方の建物梁に下方において隣接する下方の建物梁に、隙間をもって制動板を受容する箱体を夫々取付けて、一対の建物柱の震動に起因する上方の建物梁に対する下方の建物梁の相対的な変位で制動板に対して箱体に相対的な変位を生じさせ、この変位で箱体に収容された粘性体に粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の震動を減衰する場合、上記のように各建物梁がその端部からやや離れた部位で曲げ変形し易くなっていると、制動板に対する箱体の相対的な変位が少なくなって、建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行い得なくなる虞がある。
【0006】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる制震構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による制震構造物は、互いに並置された一対の建物柱と、この一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の建物梁と、一対の建物柱及び建物梁により規定された建物壁空間に配されていると共に建物壁空間の鉛直面内での水平方向の一対の建物柱の震動を減衰する制震壁とを具備しており、一対の建物梁の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、制震壁は、水平方向に伸びる上縁部で一対の建物梁のうちの一方の建物梁において他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されて一方の建物梁から垂下すると共に建物壁空間の鉛直面内に配された制動板と、水平方向に伸びる下縁部で一対の建物梁のうちの他方の建物梁において他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されていると共に制動板の外面に対して内面で隙間をもって当該制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に該隙間に配された粘性体とを具備しており、当該制震壁は、建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動に起因して一対の建物梁を介して生じる箱体に対する制動板の建物壁空間の鉛直面内での相対的な震動で粘性体に少なくとも粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動を減衰するようになっている。
【0008】
本制震構造物によれば、制動板の上縁部が他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されている一方の建物梁と箱体の下縁部が他方の建物柱から一対の建物柱の間の水平方向間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されている他方の建物梁との夫々の水平方向の一方の端部が、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されているために、一対の建物柱の震動において両建物梁の夫々の他方の建物柱から水平方向間隔の半分以上離れた一方の端部側の部位に曲げ変形を殆ど生じさせないようにでき、而して、一対の建物柱の震動に起因する両建物梁の水平方向の一方の端部側での水平方向の相対的な変位を効果的に生じさせることができて、箱体に収容された粘性体の制動板による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる。
【0009】
斯かる制震構造物では、一対の建物梁の夫々の水平方向の他方の端部は、一対の建物柱のうちの他方の建物柱に固定的に連結されているとよい。
【0010】
また本発明による制震構造物は、互いに並置された一対の建物柱と、この一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の建物梁と、一対の建物柱及び建物梁により規定された建物壁空間に配されていると共に一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の横部材と、一対の横部材間に配されていると共に建物壁空間の鉛直面内での水平方向の一対の建物柱の震動を減衰する制震壁とを具備しており、一対の横部材の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、制震壁は、水平方向に伸びる上縁部で一対の横部材のうちの一方の横部材に固定的に連結されて一方の横部材から垂下すると共に建物壁空間の鉛直面内に配された制動板と、水平方向に伸びる下縁部で一対の横部材のうちの他方の横部材に固定的に連結されていると共に制動板の外面に対して内面で隙間をもって当該制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に該隙間に配された粘性体とを具備しており、当該制震壁は、建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動に起因して一対の横部材を介して生じる箱体に対する制動板の建物壁空間の鉛直面内での相対的な震動で粘性体に少なくとも粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動を減衰するようになっている。
【0011】
斯かる本発明の制震構造物によれば、制動板の上縁部が固定的に連結されている一方の横部材と箱体の下縁部が固定的に連結されている他方の横部材との夫々の水平方向の一方の端部が、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されているために、一対の建物柱の震動において横部材に曲げ変形を殆ど生じさせないようにでき、而して、一対の建物柱の震動に起因する両横部材の相対的な変位を効果的に生じさせることができて、箱体に収容された粘性体を制動板により大きく粘性剪断させることができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を効果的に行うことができる。
【0012】
本発明の好ましい例において、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、一対の建物柱のうちの他方の建物柱に固定的に連結されていてもよいが、一方の端部と同様に、他の軸部材を介して他方の建物柱に建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されていてもよく、このように一対の横部材の夫々の水平方向の両端部を、各軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結すると、一対の建物柱の震動に起因する両横部材の相対的な変位を更に効果的に生じさせることができて、箱体に収容された粘性体の制動板による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰をより効果的に行うことができる。
【0013】
一対の横部材を具備した本発明では、一対の建物梁のうちの一方の建物梁は、一対の横部材のうちの上方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されており、一対の建物梁のうちの他方の建物梁は、一対の横部材のうちの下方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されていてもよい。
【0014】
このような一対の建物梁を具備していると、本来の梁の機能をもった制震構造物を提供できる上に、斯かる建物梁を、その破壊を防止するために、その端部からやや離れた部位では曲げ変形し易くなるように構成することもできるが、本発明では、一対の建物梁に斯かる曲げ変形し易い領域を必ずしも設ける必要はない。
【0015】
制動板は、その上縁部で一対の横部材のうちの一方の横部材において他方の建物柱から一対の建物柱の間の間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されており、箱体は、その下縁部で一対の横部材のうちの他方の横部材において他方の建物柱から一対の建物柱の間の間隔の半分以上離れた部位に固定的に連結されていてもよく、斯かる制動板及び箱体によれば、一対の建物柱の震動をほぼそのまま反映する一対の横部材の水平方向の相対的な震動を利用できて、箱体に収容された粘性体の制動板による粘性剪断量の低下を防ぐことができる結果、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰をより効果的に行うことができる。
【0016】
本発明の他の制震構造物は、互いに並置された一対の建物柱と、この一対の建物柱を橋絡して互いに並置された一対の建物梁と、一対の建物柱及び建物梁により規定された建物壁空間に配された一対の横部材と、この一対の横部材間に配されていると共に建物壁空間の鉛直面内での水平方向の一対の建物柱の震動を減衰する制震壁とを具備しており、一対の建物梁のうちの一方の建物梁は、一対の横部材のうちの上方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されており、一対の建物梁のうちの他方の建物梁は、一対の横部材のうちの下方に配された横部材に隣接されて並置されていると共に水平方向の各端部で一対の建物柱に固定的に連結されており、一対の横部材の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に連結されており、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、当該一対の横部材の夫々に隣接されて並置されている建物梁の夫々の水平方向の略中央部に建物壁空間の鉛直面内で回動自在及び直動自在のうちの少なくとも一方の自在性をもって連結されており、制震壁は、水平方向に伸びる上縁部で一対の横部材のうちの一方の横部材に固定的に連結されて一方の横部材から垂下すると共に建物壁空間の鉛直面内に配された制動板と、水平方向に伸びる下縁部で一対の横部材のうちの他方の横部材に固定的に連結されていると共に制動板の外面に対して内面で隙間をもって当該制動板を受容した箱体と、この箱体に収容されていると共に該隙間に配された粘性体とを具備しており、当該制震壁は、建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動に起因して一対の横部材を介して生じる箱体に対する制動板の建物壁空間の鉛直面内での相対的な震動で粘性体に少なくとも粘性剪断を生じさせて一対の建物柱の建物壁空間の鉛直面内での水平方向の震動を減衰するようになっている。
【0017】
建物梁の端部の夫々が建物柱の夫々に固定的に連結されている場合、建物梁の水平方向の略中央部は、変形の節となって、建物柱の震動においても殆ど変位することがないので、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部が、建物梁の水平方向の略中央部に回動自在及び直動自在のうちの少なくとも一方の自在性をもって連結されていると、建物柱の震動において建物梁の曲げ変形の影響を極力少なくでき、建物壁空間に配置した制震壁による建物柱の震動減衰、延いては構造物の震動減衰を更により効果的に行うことができる。
【0018】
本発明の他の制震構造物において、一対の横部材の夫々の水平方向の一方の端部は、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に固定的に連結されていてもよいが、好ましくは、一対の建物柱のうちの一方の建物柱に軸部材を介して建物壁空間の鉛直面内で回転自在に連結されており、また、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、当該一対の横部材の夫々に隣接されて並置されている建物梁の夫々の水平方向の略中央部に建物壁空間の鉛直面内で回動自在に連結されていてもよく、これに代えて又はこれと共に、一対の横部材の夫々の水平方向の他方の端部は、当該一対の横部材の夫々に隣接されて並置されている建物梁の夫々の水平方向の略中央部に建物壁空間の鉛直面内で直動自在に連結されていてもよい。
【0019】
本発明に係る制震構造物は、低層、中層若しくは高層の事業ビル又は住居ビルを含み、一対以上の建物柱及び建物梁を有していると共に各層若しくは必要な層の必要な一対の建物柱及び建物梁に関して制震壁を有していてもよい。