特許第5994890号(P5994890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994890
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】アナライト検出プローブ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/542 20060101AFI20160908BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20160908BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   G01N33/542 A
   G01N33/553
   G01N33/543 595
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-81742(P2015-81742)
(22)【出願日】2015年4月13日
(62)【分割の表示】特願2011-552784(P2011-552784)の分割
【原出願日】2011年2月1日
(65)【公開番号】特開2015-129773(P2015-129773A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2015年4月13日
(31)【優先権主張番号】特願2010-20976(P2010-20976)
(32)【優先日】2010年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-20975(P2010-20975)
(32)【優先日】2010年2月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】金子 智典
(72)【発明者】
【氏名】二宮 英隆
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/100344(WO,A2)
【文献】 特表平07−504843(JP,A)
【文献】 特表2007−513334(JP,A)
【文献】 特開2009−080011(JP,A)
【文献】 特開2009−128141(JP,A)
【文献】 特開2010−019765(JP,A)
【文献】 特開2008−203187(JP,A)
【文献】 特開2007−139540(JP,A)
【文献】 特表2009−520101(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/074083(WO,A1)
【文献】 ZHAN Jian et al, Enhanced Foerster Resonance Energy Transfer on Single Metal Particle. 2. Dependence on Donor-Acceptor Separation Distance, Particle Size, and Distance from Metal Surface J Phys Chem C,2007年,Vol.111 No.32 Page.11784-11792
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/542
G01N 33/543
G01N 33/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、励起光を照射したときに局在プラズモン共鳴を生じる金属粒子と、該金属粒子結合した1つ以上のリガンドと、該金属粒子に結合した1つ以上の直鎖状高分子と、該直鎖状高分子に結合した複数のFRETにおけるドナーまたはアクセプターとなり得る蛍光体とにより構成されるアナライト検出プローブであって、
2以上の当該プローブがリガンドを介してアナライトと複合体を形成したときに、2以上の金属粒子から生じた局在プラズモン共鳴による電場増強効果が得られる領域内で、FRETが起きる距離内に蛍光体が配置されうるよう、記蛍光体が記金属粒子上に保持されていることを特徴とする、アナライト検出プローブ。
【請求項2】
前記金属粒子が金、銀、銅、アルミニウム、白金およびこれら2種以上の合金からなる群より選択された金属からなる粒子である、請求項1に記載のアナライト検出プローブ。
【請求項3】
前記金属粒子の体積平均粒径が10〜100nmである、請求項1または2に記載のアナライト検出プローブ。
【請求項4】
前記リガンドが抗体またはそのFab断片もしくはF(ab')2断片である、請求項1〜のいずれかに記載のアナライト検出プローブ。
【請求項5】
前記直鎖状高分子が多糖類またはその誘導体である、請求項1〜4のいずれかに記載のアナライト検出プローブ。
【請求項6】
少なくとも、励起光を照射したときに局在プラズモン共鳴を生じる金属粒子と、該金属粒子に結合した1つ以上のリガンドと、該金属粒子に結合した1つ以上の直鎖状高分子と、該直鎖状高分子に結合した複数のFRETにおけるドナーまたはアクセプターとなり得る蛍光体とにより構成されることを特徴とする、アナライト検出プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体などに含まれるアナライトを検出するためのプローブおよびこれを用いたアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
医学、生物学などの分野では、各種の生体関連物質(アナライト)の検出、追跡、定量等を行うための、様々な分析手法およびそれに用いられるプローブの研究開発が進められている。上記アナライトとプローブを接触させる等の操作を、それらの溶液を混合するだけで行うことのできるいわゆる液液系(ホモジーニアス系)の測定系は、プローブ等がガラス基板等に固定化されたチップ状の器具を用いるいわゆる固液系の測定系よりも、分析の迅速性および簡便性において優れた面を有する。
【0003】
非特許文献1には、抗体、核酸、受容体タンパク質などの分子に蛍光物質および金ナノ粒子(粒径1.4nm程度)が結合した構造のプローブが記載されている。しかしながらこのプローブは、たとえば細胞内に存在する特定の生体関連物質を、蛍光顕微鏡(蛍光物質)および電子顕微鏡(金ナノ粒子)のどちらによっても観察できるようにするためのものである。金ナノ粒子の粒径は極めて小さく、細胞等への浸透性を向上させる上で効果的ではあるが、その表面で局在プラズモン共鳴を起こすには不十分である。
【0004】
また、特許文献1には、粒径2〜30nmの金ナノ粒子の表面に、少なくとも1の有機プローブ分子(オリゴヌクレオチド等)と、少なくとも10の発光活性を有する分子(蛍光有機色素等)とが結合したハイブリッドプローブが記載されている。しかしながら、このようなプローブを液液系の分析において用いる態様は何ら具体的に記載も示唆もされていない(固液系については、たとえば図3において、基板上のセファロースボールに固定化されたオリゴヌクレオチドを標識化するような態様が開示されている)。
【0005】
一方、ドナーおよびアクセプターと呼ばれる一組の蛍光体が所定の距離(1〜10nm程度)にあるときに限って起こる、FRET(蛍光体の共鳴による励起エネルギーの移動)を利用した測定系が公知である。この測定系は、たとえば、プローブが有するリガンドがアナライトと所定の様式(核酸のハイブリダイゼーション等)で結合したときにFRETが発生し、アクセプターの蛍光が測定されるように構築される。すなわち、蛍光シグナルの変化によってアナライトの有無や濃度を分析することができるため、アナライトと結合しなかったプローブを分離する操作は不要であるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−512522号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】NANOPROBES E-NEWS, Vol. 10, No.1, January 31, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、迅速かつ簡便にアナライトの分析を行えるという液液系の利点を生かしつつ、従来よりも感度が向上した分析方法およびそれに用いられる検出プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、局在プラズモン共鳴を生じる2以上の金属粒子に挟まれた領域、すなわち著しい電場増強効果が得られる領域にFRETのドナーおよびアクセプターとなる蛍光体が配置されるよう、記金属粒子および蛍光体を有する2以上の検出プローブを1つの標的物質に結合させるような測定系を構築すること、好ましくは記蛍光体を多糖類のような直鎖状高分子に多数担持させることにより、前述のような課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は一つの側面において、アナライトを検出するための検出プローブとして、少なくとも、励起光を照射したときに局在プラズモン共鳴を生じる金属粒子と、該金属粒子結合した1つ以上のリガンドと、該金属粒子に結合した1つ以上の直鎖状高分子と、該直鎖状高分子に結合した複数のFRETにおけるドナーまたはアクセプターとなり得る蛍光体とにより構成されるアナライト検出プローブであって、2以上の当該プローブがリガンドを介してアナライトと複合体を形成したときに、2以上の金属粒子から生じた局在プラズモン共鳴による電場増強効果が得られる領域内で、FRETが起きる距離内に蛍光体が配置されうるよう、記蛍光体が記金属粒子上に保持されていることを特徴とする、アナライト検出プローブを提供する。
【0013】
なお、本発明では、検出プローブを使用する蛍光分析の対象となる物質(主に生体関連物質)を「アナライト」と称し、またアナライトと特異的に結合する物質を「リガンド」と称する。
【0014】
前記金属粒子としては、金、銀、銅、アルミニウム、白金およびこれら2種以上の合金からなる群より選択された金属からなる粒子が好ましい。前記金属粒子の体積平均粒径は10〜100nmが好ましい。一方、前記リガンドとしては、たとえば抗体またはそのFab断片もしくはF(ab')2断片を用いることができる。
【0018】
前記工程(2)は、SPFS用測定装置を用いて、誘電体部材上に形成された金属薄膜の上部の領域に前記複合体が位置する状態で、前記励起光を金属薄膜の裏面から照射することにより行われることも好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検出プローブを用いることにより、アナライトが存在するときに発せられる蛍光シグナルは従来よりも極めて高くなる(相対的にバックグラウンドノイズが低減される)ので、従来の分析よりもアナライトの検出限界値を下げ、ごく微量のアナライトであっても高い精度で定量することができるようになる。しかも、本発明の検出プローブは、FRETを利用しているためB/F分離が不要であり、液々系において迅速かつ簡便に分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1態様の検出プローブがアナライトと複合体を形成し、FRETが起きたときの状態を示す模式図。
図2】本発明の第2態様の検出プローブがアナライトと複合体を形成し、FRETが起きたときの状態を示す模式図。
図3】本発明の測定方法の測定例1等に示した態様を示す概略図。
図4】本発明の測定方法の測定例2に等示した態様で用いられるSPFS用測定装置(システム)の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、リガンドと金属粒子が「結合する」とは、本来の(修飾されていない)リガンドが金属粒子と直接反応して結合する場合に限らず、いわゆるリンカー分子、スペーサー分子のように、本来は結合し得ない2つの物質を連結する機能を果たす所定の分子を介してそれらが結合する場合、あるいは金属粒子(コア)の表面に特定の被覆層(シェル)が形成されていて、リガンドがその被覆層と結合する(被覆層を介して金属粒子に結合する)場合などを含むものとし、結合が直接的であるか間接的であるかを問わない。蛍光体とリガンド、直鎖状高分子と金属粒子、または蛍光体と直鎖状高分子が「結合する」ことについても同様、結合が直接的であるか間接的であるかを問わない。ただし、直鎖状高分子が金属粒子に結合することについては、直鎖状高分子がリガンドに結合し、そのリガンドが金属粒子に結合する、つまりリガンドを介して直鎖状高分子が間接的に金属粒子に結合する態様は、上記の「結合する」ことから除外される。
【0022】
− 検出プローブ −
本発明の第1態様の検出プローブ1および検出プローブ2は、図1に示す通り、少なくとも、励起光を照射したときに局在プラズモン共鳴を生じる金属粒子10と、該金属粒子10に結合した1つ以上のリガンド20と、該リガンド20に結合した1つ以上の蛍光体(ドナー31またはアクセプター32)とを構成要素として含み、さらに金属粒子10表面に形成された誘電体層11を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の第2態様の検出プローブ1および検出プローブ2は、図2に示す通り、少なくとも、励起光を照射したときに局在プラズモン共鳴を生じる金属粒子10と、該金属粒子10に結合した1つ以上のリガンド20と、該金属粒子10に結合した1つ以上の直鎖状高分子30と、該直鎖状高分子30に結合した1つ以上の蛍光体(ドナー31またはアクセプター32)とを構成要素として含み、さらに金属粒子10表面に形成された誘電体層11を含んでいてもよい。
【0024】
第1態様、第2態様いずれにおいても、このような検出プローブ1および検出プローブ2とアナライト40とが複合体50を形成したときに励起光を照射すると、所定の距離内に近接するドナー31およびアクセプター32の間でFRETが起こる。
【0025】
・金属粒子
本発明の検出プローブは、励起光を照射したときに局在プラズモン共鳴を生じる金属粒子を構成要素の一つとする。
【0026】
金属の種類は、プラズモン共鳴を生じる粒子を調製できる限り特に限定されるものではないが、金、銀、銅、アルミニウム、白金、またはこれら2種以上の合金が好ましい。また、金属粒子の粒径は、局在プラズモン共鳴が生じる範囲であれば特に限定されるものではなく、当業者が適切に設定することができるが、10〜100nmが好ましく、平均粒径がそのような範囲にある金属粒子の集団を利用することが好適である。金属粒子(そのコロイド溶液)は公知の方法に従って調製することができ、また各種の商品が入手可能である。なお、本発明における金属粒子の平均粒径は「体積平均粒径」であり、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計などを用いることにより測定することができる。
【0027】
・誘電体層
本発明の検出プローブの金属粒子は、蛍光体の金属消光を防止するため、表面の一部または全部が誘電体からなる層で被覆されていてもよい。
【0028】
そのような誘電体層を構成する誘電体としては、たとえばSiO2や酸化チタン、合成ポリマーが好適であり、その他の公知の誘電体を用いることもできる。本発明では、誘電体層としてSiO2からなる層を含むことが好ましい。第2態様の検出プローブにおいては、そこに用いられるデキストラン等の直鎖状高分子が誘電体層に相当しうるが、必要に応じてそれ以外の誘電体層(たとえばSiO2からなる層)をさらに金属表面に設けておいてもよい。
【0029】
表面に誘電体からなる層が形成された金属粒子は公知の方法に従って調製することができる。たとえば、SiO2からなる誘電体層を有する金属粒子は、金属粒子を酸性ケイ酸液に添加するなどの方法により調製することができる。また、デキストラン等からなる誘電体層を金属粒子に形成する場合は、後記「直鎖状高分子」に記載するような方法を適用することができる。誘電体層(たとえばSiO2からなるもの)の厚さは1〜20nmとすることが好ましく、誘電体層の材質に応じて誘電体層を形成する際の反応条件を調整することにより、厚さを上記の範囲内にすることができる。
【0030】
・リガンド
本発明の検出プローブは、アナライトと複合体を形成するためのリガンドを構成要素の一つとする。
【0031】
リガンドは分析対象とするアナライトに応じて適切なものを選択すればよく、特に限定されるものではない。たとえばアナライトがタンパク質であれば、その特定の構造単位(エピトープ)に結合する抗体(免疫グロブリン)をリガンドとすることができる。この場合、ドナー蛍光体を有するプローブ(D)の抗体およびアクセプター蛍光体を有するプローブ(A)の抗体としては、ポリクローナル抗体か、互いに異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が用いられる。同一のモノクローナル抗体を用いると、プローブ(D)および(A)が競合し、1分子のタンパク質にこれら両方のプローブが結合できず、FRETが起きなくなるためである。一方、ウイルスやバクテリアなどをアナライトとする場合には、同一種類のエピトープが通常は複数個存在するので、プローブ(D)および(A)のリガンドとして同一のモノクローナル抗体を用いることもできる。また、抗体(Fab領域およびFc領域を含む全体)ではなく、Fab、F(ab')2などの抗原認識部位を有する抗体断片を用いてもよい。
【0032】
リガンドは公知の方法に従って金属粒子またはその表面に形成された被覆層に結合させることができる。たとえば、一端に金属粒子または被覆層に結合する官能基(チオール基、シラノール基等)を有し、もう一端にリガンドと結合しうる官能基(アミノ基、カルボキシル基、水酸基等)を有する分子(SAM、シランカップリング剤など)を用いて、リガンドと金属粒子または被覆層とを結合させることができる。このようなSAM試薬としては、たとえば10−カルボキシ−1−デカンチオール、7−カルボキシ−1−ヘプタンチオール、5−カルボキシ−1−ペンタンチオール、チオセミカルバジド、チオ尿素、チオアセトアミド、チオカルバジド(チオカルボヒドラジド)、11−アミノ−1−ウンデカンチオール、8−アミノ−1−オクタンチオール、6−アミノ−1−ヘキサンチオールが挙げられる。またシランカップリング剤としては、たとえば(Me)2SiCl−(CH2)m−CO−NHS、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。上記のような分子を先にリガンドと反応させ、得られたリガンド誘導体を金属粒子に反応させることも、また先に金属粒子と反応させ、そのような分子で表面が修飾された金属粒子にリガンドを反応させることもできる。反応条件を調整することにより、金属粒子に結合するリガンドの数(密度)を増減させることも可能である。
【0033】
・直鎖状高分子
本発明の検出プローブは、蛍光体を担持するための直鎖状高分子を構成要素の一つとする。
【0034】
直鎖状高分子としては、金属粒子またはその表面に形成された被覆層と結合させるための官能基と、蛍光体と結合させるための通常は複数の反応性官能基とを有する、直鎖状の(分岐構造は有していてもよいが、架橋構造を有さない)構造の高分子を用いることができる。
【0035】
生体関連物質を対象とする分析は通常水性溶媒中で行われることから、直鎖状高分子は、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水基を多数有する、水性溶媒との親和性が高い(水溶性の)ものであることが好ましい。そのような直鎖状高分子としては、たとえば、デキストラン、グリコーゲン、デンプン(アミロース、アミロペクチン)、セルロース、グルカン(β1,3−グルカン)などの多糖類(これらはいずれもグルコースの重合体である)、またはそれらに水溶性を高めるための官能基(カルボキシメチル基等)や蛍光体を連結させるための部位などを導入した誘導体が挙げられる。特に、分岐構造が少なく冷水への溶解度が高いカルボキシメチルデキストラン(デキストランのグルコース単位の水酸基の一部がカルボキシメチル基で置換された化合物)が好適である。
【0036】
直鎖状高分子の分子量は、結合させる蛍光体の数などを考慮しながら適切な範囲で調整すればよい。たとえばカルボキシメチルデキストランであれば平均分子量が約3000〜10万の範囲にあるものが好ましく、通常は分子量1万あたり数個程度の蛍光体を結合させることができる。
【0037】
直鎖状高分子は公知の方法に従って金属粒子またはその表面に形成された被覆層に結合させることができる。たとえば、一端に金属粒子または被覆層に結合する官能基(チオール基、シラノール基等)を有し、もう一端に直鎖状高分子の還元性末端のアルデヒド基等と結合しうる官能基(アミノ基等)を有する分子(いわゆるシランカップリング剤)を用いて、直鎖状高分子と金属粒子または被覆層とを結合させることができる。上記分子を先に直鎖状高分子と反応させ、得られた直鎖状高分子誘導体を金属粒子に反応させることも、また先に金属粒子と反応させ、そのような分子で表面が修飾された金属粒子に直鎖状高分子を反応させることもできる。反応条件を調整することにより、金属粒子に結合する直鎖状高分子の数(密度)を増減させることも可能である。
【0038】
・蛍光体
本発明の検出プローブは、アナライトを蛍光標識化するための蛍光体を構成要素の一つとする。
【0039】
上記蛍光体としては、より具体的には、FRETのドナーとなる蛍光体(以下単に「ドナー」と称することもある。)およびアクセプターとなる蛍光体(以下単に「アクセプター」と称することもある。)、つまり一方の蛍光体の蛍光スペクトルがもう一方の蛍光体の励起スペクトルと大きく重複していてドナー/アクセプターとして適切な関係にある蛍光体が用いられる。
【0040】
FRETペア(ドナー/アクセプター)の組み合わせは特に限定されるものではないが、たとえば、以下のようなものが挙げられる:
Alexa Fluor647/Cy5,HiLyte Fluor647/Cy5,フルオレセインイソチオシアネート(FITC)/テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC),R−フィコエリトリン(R-PE)/アロフィコシアニン(APC),フルオレセイン/Cy5,Naphthalene14/Dansyl,Dansyl95/FITC,Dansyl14/ODR,ε-A14/NBD,IAF14/TMR,Pyrene14/Coumarin,FITC14/TMRI,AEDANS14/FITC,IAEDANS14/IAF,IAF14/EIA,CF/TR,Bodipy25/Bodipy,BPE14/Cy5,Terbium96/Rhodamine,Europium94/Cy5,Europium97/APC;蛍光タンパク質ではCFP/YFP,GFP/RFP。
【0041】
また、ユウロピウム(Eu)錯体をドナーとし、アロフィコシアニンをアクセプターとする、LANCE TR-FRETで用いられている組み合わせも好適である。ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)等の希土類の錯体は、一般的に励起波長(310〜340nm程度)と発光波長(Eu錯体で615nm付近、Tb錯体で545nm付近)との波長差が大きく、蛍光寿命が数百マイクロ秒以上と長い(したがって、時間分解蛍光測定により、様々な短寿命のバックグラウンド蛍光をなくすことができ、高感度な測定が可能である。)という特徴がある。
【0042】
上記のような蛍光体としては各種の商品が入手可能であり、励起・蛍光スペクトルや金属粒子の吸収スペクトルなどを考慮して、公知の蛍光体のなかから適切なものを選択すればよい。
【0043】
本発明では、2以上の検出プローブがアナライトと複合体を形成したときに、ドナー蛍光体(D)およびアクセプター蛍光体(A)をFRETが起きる距離内かつ金属粒子に挟まれた電場増強効果が高い領域に効率的に位置させるようにする。そのため、それらの蛍光体は、第1態様では、リガンドと別個に金属粒子に結合されるのではなくリガンドに結合(担持)され、第2態様では、直鎖状高分子に結合(担持)される。
【0044】
第1態様において、蛍光体は公知の方法に従って各種のリガンドに結合させることができる。たとえば、リガンドとして抗体(タンパク質)を用いる場合、それを構成するアミノ酸の側鎖または末端に現れるアミノ基、カルボキシル基、チオール基等を利用することができる。それらの官能基に結合しうる官能基を有する蛍光体またはそのような官能基を導入した蛍光体誘導体を用意し、その蛍光体または蛍光体誘導体とリガンドを所定の方法で反応させることにより、両者を結合することができる。また、炭素数3〜20程度のアルキレン基やポリエチレングリコール鎖のような、いわゆるリンカーと呼ばれる分子を介してリガンドと蛍光体を結合させてもよい。さらに、リガンドをビオチン化し、これにアビジン(ストレプトアビジン等を含む)を反応させた後、ビオチン化した蛍光体を反応させることにより、アビジン1分子あたり1〜4の蛍光体を結合させることもできる。なお、リガンドは上記のようにして蛍光体を結合させる前にあらかじめ金属粒子に結合させておいてもよく、上記蛍光体を結合させたリガンドを金属粒子に結合させるようにしてもよい。
【0045】
第2態様において、蛍光体は公知の方法に従って直鎖状高分子(高分子多糖類)に結合させることができる。たとえば、直鎖状高分子が有する水酸基、構成単糖に含まれる1,2−ジオール部分の一部をメタ過ヨウ素酸等で酸化的に開裂して形成したアルデヒド基、その他高分子多糖類に導入された反応性官能基(たとえばカルボキシメチルデキストランが有するカルボキシル基)を利用することができる。それらの官能基と反応し得る官能基を有する蛍光体、あるいはそのような官能基を導入した蛍光体誘導体を用意し、その蛍光体または蛍光体誘導体と上記直鎖状高分子を所定の方法により反応させることにより、両者を結合することができる。また、炭素数3〜20程度のアルキレン基やポリエチレングリコール鎖のような、いわゆるリンカーと呼ばれる分子を介して直鎖状高分子と蛍光体を結合させてもよい。さらに、直鎖状高分子をアビジン(ストレプトアビジン等を含む)化し、蛍光体をビオチン化した後にこれらを反応させることにより、アビジン1分子あたり1〜4のビオチン化した蛍光体を結合させることもできる。なお、直鎖状高分子は上記のようにして蛍光体を結合させる前にあらかじめ金属粒子に結合させておいてもよく、上記蛍光体を結合させた直鎖状高分子を金属粒子に結合させるようにしてもよい。
【0046】
反応性官能基や反応条件などを変更することにより、リガンドまたは直鎖状高分子に結合する蛍光体の位置や数を調整することが可能である。FRETは、ドナーおよびアクセプターがおよそ1〜10nmの範囲の適切な距離にあるときに高いエネルギー移転効率を達成しうるので、そのような位置にドナーおよびアクセプターが位置する可能性をなるべく高めるように設計することが望ましい。たとえば、抗体または抗体断片をリガンドとする場合、そのFab領域(N末端)に蛍光体(蛍光タンパク質)が結合した合成タンパク質を用いてもよい。
【0047】
・アナライト検出試薬
本発明のアナライト検出試薬は、ドナーとなる蛍光体を有するプローブ(D)とアクセプターとなる蛍光体を有するプローブ(A)の両方を含有する。少なくとも1種のドナー/アクセプターの組み合わせが含有されていればよく、同時に複数のアナライトの分析を行うような用途のために2種以上のドナー/アクセプターの組み合わせが含有されていてもよい。
【0048】
アナライト検出試薬は、すべてのプローブ(D)および(A)を含有する1液型の試薬として調製されていても、プローブ(D)および(A)が分包された2液型または多液型の試薬として調製されていてもよい。
【0049】
このようなアナライト検出試薬は、分析の利便性を向上させるための各種の部材と組み合わせてキット化されていてもよい。たとえば、試料や試薬などの混合液を調製して分析装置に装着するための容器、検量線を作製するためのアナライトを所定の濃度で含有する標準溶液などをキットの構成部材とすることができる。
【0050】
− 測定方法 −
本発明の検出プローブを使用する蛍光分析は、基本的には従来のFRETを利用した蛍光分析と同じような手順によって、すなわちプローブ(D)およびプローブ(A)をアナライトに接触させてそれらの複合体を形成させる工程(1)、およびこの複合体に励起光を照射したときに生じる蛍光シグナルを測定する工程(2)を経ることによって、アナライトを定性的または定量的に検出することができる。
【0051】
工程(1)においてプローブ(D)およびプローブ(A)とアナライトとを接触させるためには、通常はプローブ(D)およびプローブ(A)が溶解した溶液(アナライト検出試薬)とアナライトが溶解した溶液(試料)とを混合すればよく、接触ないし混合の態様は特に限定されるものではない。アナライト検出試薬が1液型であれば、通常は試料にその試薬を添加して混合するようにし、またアナライト検出試薬が2液型であれば、通常は試料にそれぞれに溶液を同時または順次添加するようにして混合する。
【0052】
工程(2)において蛍光を測定する際は、上記のような操作により作製された混合液に、ドナー蛍光体(D)の励起波長を含む光(以下単に「励起光」と称する。)を照射する。ただし、この励起光は、金属粒子の吸収波長、すなわち局在プラズモン共鳴が発生し電場増強効果が得られる波長をさらに含んでいなければならない。この電場増強効果によって、金属粒子に挟まれた領域における励起波長、ドナー蛍光体(D)の蛍光波長、および最終的なアクセプター蛍光体(A)の蛍光波長の強度を飛躍的に向上させることが可能となる。励起光は、適切な光源(レーザーダイオード、水銀ランプ等)から照射すればよく、また必要に応じて波長スペクトルを調整するための適切な部材(フィルター、ダイクロックミラー等)を透過させたものであってもよい。
【0053】
金属粒子の吸収波長のスペクトル(極大波長)は、金属粒子の金属種や粒径、金属粒子の表面の修飾状態等によって変動するが、その吸収波長のスペクトル(極大波長)からやや長波長側にドナー(D)の励起波長のスペクトル(極大波長)が存在するような関係となるよう、金属粒子およびドナー(D)を設計することが適切である。
【0054】
励起光を照射した際に、混合液中でアナライトと検出プローブの複合体が形成されていない場合、偶然近接した蛍光体間を除いてFRETは起きないため、観察される蛍光はほとんどドナー(D)のみのものである。一方、混合液中でアナライトと検出プローブの複合体が形成された場合、FRETによってドナー(D)の蛍光が弱まるとともにアクセプター(A)の蛍光が観察されるようになる。混合の前後に亘って蛍光の波長および強度を測定すれば、そのような変化が起きているかどうかを観察することができる。蛍光は、必要に応じて適切なフィルターを透過させ、適切な検出器を用いて検出すればよい。
【0055】
別途、アナライトの濃度が既知の一または複数の標準試料、および必要に応じてアナライトを含有しない標準試料(バックグラウンドノイズ用)を用い、上記と同様にして蛍光強度を測定し、その測定結果から検量線を作製すれば、各試料について測定された蛍光強度から、その試料中のアナライトの濃度を定量することができる。
【0056】
工程(2)は、一般的なFRETを利用した蛍光観察を行うときと同様に、蛍光プレートリーダなどの測定装置を用いて行うことができるが、本発明の一態様として、SPFS(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:表面プラズモン励起増強蛍光分光法)用の測定装置を利用して行ってもよい。なお、SPFSの原理および基本的な態様は、たとえば特許第3294605号公報および特開2006−218169号公報などにより公知である。
【0057】
SPFSでは、誘電体部材(プリズムまたは透明平面基板)の上に形成された金属薄膜に誘電体部材側から全反射減衰(ATR)が生じる角度で励起光を照射したときに、金属薄膜を透過したエバネッセント波が当該金属薄膜に生ずる表面プラズモンと共鳴して数十倍〜数百倍に増強される効果を利用して、蛍光体が発する蛍光を測定する。
【0058】
したがって、工程(2)が、SPFS用測定装置を用いて、誘電体部材上に形成された金属薄膜の上部の領域に前記複合体が位置する状態で、前記照射光を金属薄膜の裏面から照射することにより行われる場合、通常よりも強い励起光(エバネッセント波)がアナライトと検出プローブの複合体に照射される効果が得られる。また、上記SPFSと組み合わせて利用することのできるLPFS(Localized surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:局在表面プラズモン励起増強蛍光分光法)においても見られる効果であるが、上記金属薄膜の近傍に金属粒子が位置すると、その金属粒子の表面にもプラズモン(局在プラズモン)が発生し、この局在プラズモンとの共鳴によってもエバネッセント波が増強されるという効果も得られる。このような効果が、励起光が2以上の金属粒子に挟まれた領域において増強される本発明の本来の効果に加わることにより、SPFS用測定装置を用いない態様に比べてより一層高感度で試料中のアナライトの濃度を定量することができる。
【0059】
上記のような態様において用いられるSPFS用測定装置(検出システム)は、基本的に光源、プリズム、光検出器などを備え、通常はさらに集光レンズ、カットフィルタなどを備えるものであって(図3参照)、公知のSPFS測定法で用いられている装置を利用することができる。各種の流体を所定の流速、タイミング等で所定の領域に送液するための手段(送液ポンプなど)や、各種の操作や情報処理を制御するコンピュータなどが上記測定装置に一体化されていてもよい。
【0060】
金属薄膜は、プリズムの水平面に直接形成されていてもよいが、多数のサンプルを分析するための利便性などを考慮すると、プリズムの水平面上に着脱可能な透明平面基板(ガラス等)の一方の表面に形成されていることが望ましい。
【0061】
なお、便宜上、誘電体部材から金属薄膜に向かう方向を「上」、その反対の方向を「下」と称し、また誘電体部材および金属薄膜を含む積層体の金属薄膜の位置する側の面を「表」、誘電体部材が位置する側の面を「裏」と称する。
【0062】
そのような、少なくとも透明平面基板と当該透明平面基板の上層に形成された金属薄膜とからなる部材(「センサ基板」と称する。)は、通常はさらに、各種の流体を送液したり貯留したりするための「流路」を形成する部材(流路の側壁を形成する厚みを有するシートまたはプレート、天板等)と組み合わせて用いられる。これらはしばしば一体化され、チップ状の構造体(「フローセル」と称する。)の態様をとる。このフローセルには、流体を導入または排出するための開口が設けられ、たとえばポンプおよびチューブを用いて外部と流体を行き来させる。送液の条件(流速、時間、温度、検体や標識リガンドの濃度等)は、適宜調整することができる。
【0063】
フローセル(センサ基板)の金属薄膜は、酸化に対して安定であり、かつ表面プラズモンによる電場増強効果が大きい、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる(合金の形態であってもよい)ことが好ましく、特に金からなることが好ましい。透明平面基板としてガラス製平面基板を用いる場合には、ガラスと上記金属薄膜とをより強固に接着するため、あらかじめクロム、ニッケルクロム合金またはチタンの薄膜を形成することが好ましい。
【0064】
表面プラズモンが発生し易いよう、金、銀、アルミニウム、銅、白金、またはそれらの合金からなる金属薄膜の厚さはそれぞれ5〜500nmが好ましく、クロム薄膜の厚さは1〜20nmが好ましい。電場増強効果の観点からは、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、およびそれらの合金:10〜70nmがより好ましく、クロム薄膜の厚さは1〜3nmがより好ましい。
【0065】
・アナライト
本発明におけるアナライトは、FRETが起きる距離にリガンドが結合しうるものであれば特に限定されないが、たとえば、腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモン等のタンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等を含む)、ウイルスやバクテリア等の病原微生物などが挙げられる。また、核酸(一本鎖または二本鎖の、DNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等を含む)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等を含む)、脂質などのその他の分子も、必要に応じてビオチン化等の修飾処理をした上で、アナライトとすることが可能である。
【0066】
なお、アナライトを含むまたは含んでいる可能性のある、本発明の検出プローブを使用する蛍光分析に供される物質を「検体」と称する。たとえば、ヒト、ヒト以外のほ乳類(モデル動物、ペット等)、その他の動物から採取される血液(血清・血漿)、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが検体として挙げられる。分析の際、検体は必要に応じて、各種の溶媒(純水、生理食塩水、緩衝液、試薬溶液等)と混合して用いてもよい。このような混合物または検体そのもの、あるいは所定の目的のために調製したアナライトを含有する溶液で、本発明のアナライト検出試薬と混合されるものを「試料」または「サンプル」と総称する。
【実施例】
【0067】
[実施例1](本発明の第1態様)
作製例1:アナライト検出プローブの作製
(ステップ1)金属粒子の準備
(1)金ナノ粒子:粒径50nm(金コロイド)の調製
超純水200mlに、テトラクロロ金(III)酸四水和物の1%水溶液を10ml添加し、80℃に加熱した。溶液を撹拌しながら、その中にクエン酸の3%水溶液を20ml加え、80℃に加熱したまま更に20分激しく撹拌した。粒径は50nmであった。粒径は体積平均粒径を測定することで求めた。体積平均粒径は動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置「Nanotrac UPA-EX150」(日機装株式会社)にて測定を行った。以下金属ナノ粒子の粒径は同様の手法にて測定を行った。
【0068】
(2)金ナノ粒子:粒径1.4nm(金コロイド)
粒径1.4nmの金ナノ粒子はフナコシ株式会社より購入し入手した。商品名は「Nanogold Particles, φ1.4 nm」である。
【0069】
(3)合金ナノ粒子:粒径10nm(合金コロイド)の調製
Au−Ag合金コロイド(Au:Ag=50:50重量比)は、Au源としてNa3Au(SO3)2水溶液、Ag源としてAgNO3水溶液を所定量混合して総金属固形分として0.03wt%になる水溶液を作成し、さらにクエン酸3ナトリウム2水和物を金属成分に対して等モル量添加・溶解して原料水溶液とした。この原料水溶液を40℃に加温した後、NaBH4を原料水溶液の金属成分に対して0.5モル量溶解した水溶液を5分で滴下させ、還元反応を行った。得られたコロイドは10nm程度の平均粒径を有しほぼ均一な粒径分布を示すことを確認した。
【0070】
(ステップ2)SAM被覆金属粒子の調製
ステップ1の(1)〜(3)により準備した金属粒子を10-carboxy-1-decanethiolの2μMエタノール溶液に浸し、表面が10-carboxy-1-decanethiolからなるSAMで被覆された金属粒子を調製した。
【0071】
(ステップ3)シリカ被覆金属粒子の調製
前記ステップ1の(1)または(3)により準備した金属粒子の分散液100gを採取し、これに濃度1重量%のNaOH水溶液を添加して分散液のpHを10.5に調整し、95℃に昇温し30分間加熱した。その後、SiO2濃度3重量%の酸性珪酸液1.3gを15分間で添加して、シリカ被覆金ナノ粒子分散液を調製した。この分散液から粒子を分離した後、120℃で1時間乾燥してシリカ被覆金ナノ粒子を調製した。シリカ層の厚みは3nm程度であった。
【0072】
そして、上記シリカ被覆金ナノ粒子の懸濁液にシランカップリング剤(Me)2SiCl−(CH2)m−CO−NHS(式中、NHSはN-Hydroxysulfosuccinimideを表す。)(アルテック株式会社)を添加することで、表面にNHSエステルを有するシリカ被覆金ナノ粒子を調製した。
【0073】
(ステップ4)蛍光標識抗体の調製
表1に示す蛍光標識抗体を蛍光物質ラベリングキットを利用して作製した。たとえば、標識抗体1はanti-αfetoprotein 1D5 IgG1-κ抗体に「Cy5」を、標識抗体4はanti-αfetoprotein 6D2 IgG2a-κ抗体に「Alexa Fluor 647」を、それぞれキット付属のプロトコールにしたがって標識を行った(CyDye Antibody Labelling Kits)。その他の標識抗体についても同様に、1D5または6D2に各々のキット付属のプロトコールにしたがって標識を行った。なお、標識抗体4/1(Alexa Fluor647/Cy5)、標識抗体5/2(FITC/TRITC)、標識抗体6/3(R-PE/APC)は、それぞれFRETペア(ドナー/アクセプター)を形成する。
【0074】
【表1】
【0075】
(ステップ5)SAM被覆金属粒子への蛍光標識抗体の固定
N-Hydroxysulfosuccinimide(NHS:同仁化学研究所社製)および1-Ethyl-3-[3-dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(EDC:同仁化学研究所社製)それぞれを50mg/mLの濃度で25mM MES bufferに溶解した。得られたNHS溶液およびEDC溶液をミックスした溶液に、ステップ2で調製したSAMで被覆された金属粒子を添加し、粒子表面をスクシンイミド基で修飾した。そして、ステップ4で調製した蛍光標識抗体を加え、室温で30分間インキュベートし、金属粒子表面のスクシンイミド基とanti-αfetoprotein抗体のアミノ基を反応させることにより、蛍光標識抗体を金属粒子表面に固定化した。金属粒子表面の未反応のスクシンイミド基は、tris(hydroxymethyl)aminomethaneを添加して脱離させた。このようにして表2に示すアナライト検出プローブ1〜8,11,12を作製した。
【0076】
(ステップ6)シリカ被覆金属粒子への蛍光標識抗体の固定
ステップ3で調製したすでに表面がスクシンイミド基で修飾されているシリカ被覆金属粒子に対しては、その分散液にステップ4で調製した蛍光標識抗体を加え、室温で30分間インキュベートし、金属粒子表面のスクシンイミド基(NHSエステル)とanti-αfetoprotein抗体のアミノ基を反応させることにより、蛍光標識抗体を金属粒子表面に固定化した。金属粒子表面の未反応のスクシンイミド基は、tris(hydroxymethyl)aminomethaneを添加して脱離させた。このようにして表2に示すアナライト検出プローブ9,10,13,14を作製した。
【0077】
【表2】
【0078】
測定例1
まず、作製例1で作製したanti-αfetoprotein抗体を固定化した検出プローブ(2種類:6D2, 1D5を固定化したもの、実験によっては1種類)を溶液中に分散させた。そこに、anti-αfetoprotein抗体の抗原となるαfetoprotein(AFP)を含む溶液を添加した(図3参照)。
【0079】
抗原を添加する前(0 min)の状態を初期値とし、また抗原を添加してから10分後(10min)および20分後(20min)の蛍光量を計測した。10minおよび20minのシグナルそれぞれを0minのシグナルで割った値を検出プローブの性能S/N値として算出し、検出プローブの性能を評価した。本測定例で用いた検出装置(蛍光プレートリーダ)はフルオロスキャンアセント(Thermo Fisher Scientific, Inc.(アメリカ))である。また、この検出装置に装着したフィルターは、励起用フィルター:584nm、測定用フィルター:612nmであり、これに装着した。結果を表3に示す。
【0080】
表3の実験No.1−1,1−2の結果から、1種類の検出プローブを使用しただけではほとんどシグナルが得られないことを確認した。実験No.1−3の結果から、直径1.4nmの金ナノ粒子を用いた場合、金微粒子表面にてプラズモンが発生しないため電場増強効果が得られず、ごく小さなシグナルしか得られないことを確認した。
【0081】
一方、実験No.1−4,1−5,1−6の結果から、FRETペアである2種類の検出プローブを使用した場合、抗原添加とともにシグナルが徐々に上昇し抗原添加していない状態に比べ有意に高いシグナル値を得られることが確認できた。また、3種類のFRETペアを利用しそれぞれシグナル値は異なるがどれも十分なS/N比が得られていることを確認した。実験No.1−7の結果から、金ナノ粒子表面に誘電体層(SiO2)で被覆した微粒子では電場増強効果が高いためか最も良いS/N比が得られることを確認した。実験No.1−8の結果から、金と銀の合金を利用した場合も十分なS/N比が得られていることを確認した。また、プローブ(A)および(D)ともに合金が誘電体層(SiO2)で被覆されている実験No.1−9では、実験No.1−8より高いS/N比が得られた。プローブ(A)または(D)の一方のみが誘電体層(SiO2)で被覆されている実験No.1−10,1−11はいずれも、両方のプローブが誘電体層(SiO2)で被覆されている実験No.1−7と同等とまではいかないが、十分なS/N比が得られることを確認した。
【0082】
【表3】
【0083】
測定例2
まず、作製例1で作製したanti-αfetoprotein抗体を固定化した検出プローブ(2種類:6D2, 1D5を固定化したもの、実験によっては1種類)を溶液中に分散させた。そこに、anti-αfetoprotein抗体の抗原となるαfetoprotein(AFP)を含む溶液を添加した。
【0084】
添加後ただちに図4に示すSPFS用測定装置(検出システム)のフローセルに送液し、フローセルが溶液で十分満たされたら送液を停止した。その後、励起光を金膜下部より照射して金膜表面にプラズモンによる強力な電場が発生させ、励起された蛍光量を経時的に測定した。
【0085】
結果を表4に示す。蛍光プレートリーダ(フルオロスキャンアセント)を用いた前記測定例1と同様の傾向が見られるが、検出装置の金薄膜による表面プラズモンの効果により測定例1よりもS/N比が向上していることを確認した。さらに、金ナノ粒子表面に誘電体層を持った検出プローブが最も性能が高いことが確認できた。
【0086】
【表4】
【0087】
[実施例2](本発明の第2態様)
作製例2:アナライト検出プローブの作製
(ステップ1)金属粒子の準備
(1)金ナノ粒子:粒径50nm(金コロイド)の調製
超純水200mlに、テトラクロロ金(III)酸四水和物の1%水溶液を10ml添加し、80℃に加熱した。溶液を撹拌しながら、その中にクエン酸の3%水溶液を20ml加え、80℃に加熱したまま更に20分激しく撹拌した。粒径は50nmであった。
【0088】
(2)金ナノ粒子:粒径1.4nm(金コロイド)
粒径1.4nmの金ナノ粒子はフナコシ株式会社より購入し入手した。商品名は「Nanogold Particles, φ1.4 nm」である。
【0089】
(3)合金ナノ粒子:粒径10nm(合金コロイド)の調製
Au−Ag合金コロイド(Au:Ag=50:50重量比)は、Au源としてNa3Au(SO3)2水溶液、Ag源としてAgNO3水溶液を所定量混合して総金属固形分として0.03wt%になる水溶液を作成し、さらにクエン酸3ナトリウム2水和物を金属成分に対して等モル量添加・溶解して原料水溶液とした。この原料水溶液を40℃に加温した後、NaBH4を原料水溶液の金属成分に対して0.5モル量溶解した水溶液を5分で滴下させ、還元反応を行った。得られたコロイドは10nm程度の平均粒径を有しほぼ均一な粒径分布を示すことを確認した。
【0090】
(ステップ2)蛍光標識デキストランの調製
N-Hydroxysulfosuccinimide(NHS:同仁化学研究所社製)および1-Ethyl-3-[3-dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(EDC:同仁化学研究所社製)それぞれを11.5mg/mL, 19.2mg/mLの濃度でMilliQ水に溶解した。得られたNHS溶液およびEDC溶液をミックスした溶液とカルボキシルメチルデキストラン(分子量500,000Da)をそれぞれ5μLずつとり混合した。さらに300μLのPBSで希釈した後、蛍光体(Cy5またはAlexa Fluor 647)を添加した。室温で30分間インキュベートし標識反応を行い、つづけて限外ろ過により蛍光標識デキストランを精製した。なお、Alexa Fluor647/Cy5はFRETペア(ドナー/アクセプター)を形成する。
【0091】
(ステップ3)抗体への有機硫黄分子の導入
N-Hydroxysulfosuccinimide(NHS:同仁化学研究所社製)および1-Ethyl-3-[3-dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride(EDC:同仁化学研究所社製)それぞれを50mg/mLの濃度で25mM MES bufferに溶解した。
【0092】
得られたNHS溶液およびEDC溶液をミックスした溶液に10−カルボキシ−1−デカンチオールを添加し、続いて、anti-αfetoprotein抗体(1D5 IgG1-κ抗体または6D2 IgG2a-κ抗体)を加え、室温でインキュベートした。その後、未反応のカルボキシデカンチオールを限外ろ過により除去し、抗体−カルボキシデカンチオール複合体を精製した。
【0093】
(ステップ4)蛍光標識デキストランへの有機硫黄分子の導入
ステップ2で調製された蛍光デキストランへの有機硫黄分分子の導入は、還元的アミノ化反応を応用した。アルデヒドまたはケトンを第一級アミン・第二級アミンとともにヒドリド還元剤の存在下反応させると、還元的アミノ化が起こり、対応するアミンが得られる。還元剤としてSodium cyanoborohydride (NaBH3CN)を用いる条件で反応を行い、蛍光デキストランの還元末端と11−アミノ−1−ウンデカンチオールのアミノ基との間にアミンを形成させた。生成物を精製後、凍結乾燥により得た白色粉末を得た。
【0094】
(ステップ5)金属粒子への抗体および蛍光標識デキストランの固定
ステップ3で調製された抗体−有機硫黄分子およびステップ4で調製された蛍光デキストラン−有機硫黄分子をそれぞれ終濃度1μMで混合し、ステップ1で準備した金ナノ粒子(1)〜(3)を添加することで、抗体および蛍光デキストランを適度な密度で固定化したナノ粒子の形成を行った。このようにして表5に示すアナライト検出プローブ15〜20を作製した。
【0095】
【表5】
【0096】
測定例3
まず、作製例2で作製したanti-αfetoprotein抗体を固定化した検出プローブ(2種類:6D2, 1D5を固定化したもの、実験によっては1種類)を溶液中に分散させた。そこに、anti-αfetoprotein抗体の抗原となるαfetoprotein(AFP)を含む溶液を添加した(図3参照)。
【0097】
抗原を添加する前(0 min)の状態を初期値とし、また抗原を添加してから10分後(10min)および20分後(20min)の蛍光量を計測した。10minおよび20minのシグナルそれぞれを0minのシグナルで割った値を検出プローブの性能S/N値として算出し、検出プローブの性能を評価した。本測定例で用いた検出装置(蛍光プレートリーダ)はフルオロスキャンアセント(Thermo Fisher Scientific, Inc.(アメリカ))である。また、この検出装置に装着したフィルターは、励起用フィルター:584nm、測定用フィルター:612nmであり、これに装着した。
【0098】
結果を表6に示す。実験No.3−1,3−2の結果から、1種類の検出プローブを使用しただけではほとんどシグナルが得られないことを確認した。実験No.3−3の結果から、直径1.4nmの金ナノ粒子を用いた場合、金微粒子表面にてプラズモンが発生しないため電場増強効果が得られず、ごく小さなシグナルしか得られないことを確認した。
【0099】
一方、実験No.3−4の結果から、FRETペアである2種類の検出プローブを使用した場合、抗原添加とともにシグナルが徐々に上昇し抗原添加していない状態に比べ有意に高いシグナル値を得られることを確認した。実験No.3−5の結果から、金と銀の合金を利用した場合も十分なS/N比が得られていることを確認した。
【0100】
なお、実験No.3−4シグナルの値およびS/N比の方が、同様の蛍光体(ドナーおよびアクセプター)を用いた前記実施例1の実験No.1−4よりも有意に高い。すなわち、この対比において、蛍光標識抗体を用いた第1態様のプローブに比べ、蛍光標識デキストランを用いた第2態様のプローブの方が、より高いシグナル値およびS/N比が得られるために好ましいことが示された。
【0101】
【表6】
【0102】
測定例4
まず、作製例2で作製したanti-αfetoprotein抗体を固定化した検出プローブ(2種類:6D2, 1D5を固定化したもの、実験によっては1種類)を溶液中に分散させた。そこに、anti-αfetoprotein抗体の抗原となるαfetoprotein(AFP)を含む溶液を添加した。
【0103】
添加後ただちに図4に示すSPFS用測定装置(検出システム)のフローセルに送液し、フローセルが溶液で十分満たされたら送液を停止した。その後、励起光を金膜下部より照射して金膜表面にプラズモンによる強力な電場が発生させ、励起された蛍光量を経時的に測定した。
【0104】
結果を表7に示す。蛍光プレートリーダ(フルオロスキャンアセント)を用いた前記測定例3と同様の傾向が見られるが、検出装置の金薄膜による表面プラズモンの効果により測定例3よりもS/N比が向上していることを確認した。
【0105】
【表7】
【符号の説明】
【0106】
1:プローブ(D)
2:プローブ(A)
10:金属粒子
11:被覆層
20:リガンド(たとえば抗体)
30:直鎖状高分子
31:蛍光体(ドナー)
32:蛍光体(アクセプター)
40:アナライト(たとえば抗原)
50:複合体
100:SPFS用測定装置(システム)
101:ガラス基板(S-LAL100, Au:Cr=49:1 nm)
102:フローセル
103:三角プリズム(S-LAL100, n=1.72)
104:レーザーダイオード(635nm, 0.95mW)
105:レンズ
106:偏光プリズム
107:フォトダイオード
108:回転ステージ
109:対物レンズ(×20)
110:干渉フィルタ(670nm)
111:CCDカメラ
120:PC
121:ステージコントローラー
150:SPFS部
151:SPR部
図1
図2
図3
図4