特許第5995050号(P5995050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995050
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】バッテリの充放電制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20160908BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20160908BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H01M10/44 P
   H01M10/48 P
   H01M10/48 301
   H02J7/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-45263(P2012-45263)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-182768(P2013-182768A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】小熊 宏和
【審査官】 坂本 聡生
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/078552(WO,A1)
【文献】 特開2000−123886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00− 7/12
H02J 7/34− 7/36
H01M 10/42−10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ(11)を充放電する電流を最大電流値以下に制限する電流制御部(16)と、
前記バッテリ(11)の濃度分極を算出する濃度分極算出部(24)と、
前記濃度分極の単位時間当りの平均値である平均濃度分極を算出する平均濃度分極算出部(26)と、
前記バッテリ(11)が連続して充放電している連続充放電時間を算出する連続充放電時間算出部(25)と、
前記平均濃度分極および前記連続充放電時間に基づいて濃度分極低減の要否を判定する濃度分極低減要否判定部(27)と、
前記濃度分極低減の要否の判定に基づいて前記最大電流値を設定する最大電流値設定部(28)と、
を備えることを特徴とするバッテリの充放電制御装置。
【請求項2】
前記最大電流値が第1の電流値であるときの前記平均濃度分極が所定値以上であり、かつ前記連続充放電時間が所定時間以上である場合に、前記濃度分極低減要否判定部(27)は濃度分極低減が必要であると判定し、前記最大電流値設定部(28)は前記最大電流値を前記第1の電流値よりも小さい第2の電流値に設定することを特徴とする、請求項1に記載のバッテリの充放電制御装置。
【請求項3】
前記最大電流値設定部(28)は前記第2の電流値を前記バッテリ(11)の温度に基づいて設定するとともに、前記バッテリ(11)の温度が高いときほど高い値に設定することを特徴とする、請求項2に記載のバッテリの充放電制御装置。
【請求項4】
前記最大電流値設定部(28)は更に前記第2の電流値で充放電できる許容充放電時間を設定することを特徴とする、請求項2に記載のバッテリの充放電制御装置。
【請求項5】
前記最大電流値設定部(28)は、前記第2の電流値と該第2の電流値で充放電できる前記許容充放電時間との関係を示す電流値−許容充放電時間マップを備え、前記電流値−許容充放電時間マップは前記第2の電流値が大きいほど前記許容充放電時間が短くなるように設定されることを特徴とする、請求項4に記載のバッテリの充放電制御装置。
【請求項6】
前記濃度分極低減要否判定部(27)は、前記平均濃度分極と前記連続充放電時間との関係を示す平均濃度分極−連続充放電時間マップを備え、前記平均濃度分極−連続充放電時間マップは前記連続充放電時間が長いほど許容できる前記平均濃度分極が小さくなるように設定され、前記最大電流値設定部(28)は前記平均濃度分極−連続充放電時間マップに基づいて前記第2の電流値に設定するか否かを判定することを特徴とする、請求項2に記載のバッテリの充放電制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリに濃度分極による電圧低下が発生するのを抑制しながら充放電を行うためのバッテリの充放電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次バッテリを大電流でパルス充電する際に、パルス印加時に濃度分極の進行に伴って緩やかに上昇する分担電圧と、パルス印加終了時に濃度分極の解消に伴って緩やかに低下する分担電圧との少なくとも一方を読み取り、その値が所定の閾値以上になったときに、過充電による濃度分極が発生してバッテリが劣化する虞があると判定してパルス充電を終了するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−181866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のものは、同一の単発パルスを印加して電圧の挙動から濃度分極の発生を判定するため、濃度分極がかなり進行した状態でないとその発生を判定することができず、パルス充電を終了するタイミングが遅れてバッテリの劣化を招く虞があるだけでなく、電気自動車やハイブリッド自動車のような複雑な入出力が行われるシステムでは正確な判定が困難になる可能性がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、バッテリに加わる負荷を監視し、上述した濃度分極による電圧低下を事前に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、バッテリを充放電する電流を最大電流値以下に制限する電流制御部と、前記バッテリの濃度分極を算出する濃度分極算出部と、前記濃度分極の単位時間当りの平均値である平均濃度分極を算出する平均濃度分極算出部と、前記バッテリが連続して充放電している連続充放電時間を算出する連続充放電時間算出部と、前記平均濃度分極および前記連続充放電時間に基づいて濃度分極低減の要否を判定する濃度分極低減要否判定部と、前記濃度分極低減の要否の判定に基づいて前記最大電流値を設定する最大電流値設定部とを備えることを特徴とするバッテリの充放電制御装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記最大電流値が第1の電流値であるときの前記平均濃度分極が所定値以上であり、かつ前記連続充放電時間が所定時間以上である場合に、前記濃度分極低減要否判定部は濃度分極低減が必要であると判定し、前記最大電流値設定部は前記最大電流値を前記第1の電流値よりも小さい第2の電流値に設定することを特徴とするバッテリの充放電制御装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記最大電流値設定部は前記第2の電流値を前記バッテリの温度に基づいて設定するとともに、前記バッテリの温度が高いときほど高い値に設定することを特徴とするバッテリの充放電制御装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記最大電流値設定部は更に前記第2の電流値で充放電できる許容充放電時間を設定することを特徴とするバッテリの充放電制御装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項4の構成に加えて、前記最大電流値設定部は、前記第2の電流値と該第2の電流値で充放電できる前記許容充放電時間との関係を示す電流値−許容充放電時間マップを備え、前記電流値−許容充放電時間マップは前記第2の電流値が大きいほど前記許容充放電時間が短くなるように設定されることを特徴とするバッテリの充放電制御装置が提案される。
【0011】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記濃度分極低減要否判定部は、前記平均濃度分極と前記連続充放電時間との関係を示す平均濃度分極−連続充放電時間マップを備え、前記平均濃度分極−連続充放電時間マップは前記連続充放電時間が長いほど許容できる前記平均濃度分極が小さくなるように設定され、前記最大電流値設定部は前記平均濃度分極−連続充放電時間マップに基づいて前記第2の電流値に設定するか否かを判定することを特徴とするバッテリの充放電制御装置が提案される。
【0012】
尚、実施の形態のタイマ25は本発明の連続充放電時間算出部に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、濃度分極算出部でバッテリの濃度分極を算出し、平均濃度分極算出部で濃度分極の単位時間当りの平均値である平均濃度分極を算出し、連続充放電時間算出部でバッテリが連続して充放電している連続充放電時間を算出し、濃度分極低減要否判定部で平均濃度分極および連続充放電時間に基づいて濃度分極低減の要否を判定し、最大電流値設定部で濃度分極低減の要否の判定に基づいて最大電流値を設定し、電流制御部でバッテリを充放電する電流を最大電流値以下に制限するので、バッテリが過大な電流で充放電されて濃度分極が増長する前に電流を低減し、内部抵抗の増大による電圧低下を最小限に抑えることができる。さらに、同一の単発パルスを印加して電圧の挙動から濃度分極の発生を判定するものと異なり、電気自動車やハイブリッド自動車のような複雑な入出力が行われるシステムにおいても、バッテリの濃度分極を正確に判定することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、最大電流値が第1の電流値であるときの平均濃度分極が所定値以上であり、かつ連続充放電時間が所定時間以上である場合に、濃度分極低減要否判定部は濃度分極低減が必要であると判定するので、濃度分極低減の要否を的確に判定することができる。しかも最大電流値設定部は最大電流値を第1の電流値よりも小さい第2の電流値に設定するので、過大な電流で充放電することによる濃度分極の増長を未然に防止することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、最大電流値設定部は第2の電流値をバッテリの温度が高いときほど高い値に設定するので、バッテリが高温であって濃度分極が発生し難い(解消され易い)ときに第2の電流値を高い値に設定し、不要な電流制限を回避してバッテリの性能を最大限に引き出すことができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、最大電流値設定部は最大電流値である第2の電流値に加えて、第2の電流値で充放電できる許容充放電時間を設定するので、バッテリを充放電する電流がセンサの誤差等により一時的に第2の電流値を超えても、その度に不必要な電流制限が行われるのを防止することができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、最大電流値設定部は第2の電流値と該第2の電流値で充放電できる許容充放電時間との関係を示す電流値−許容充放電時間マップを備え、そのマップは第2の電流値が大きいほど許容充放電時間が短くなるように設定されるので、濃度分極の発生傾向に応じて、例えばハイブリッド自動車のように電流値は高いが充放電時間が短い場合や、電気自動車のように電流値は低いが充放電時間が長い場合に応じて、電流値および許容充放電時間の組み合わせを柔軟に設定することができる。
【0018】
また請求項6の構成によれば、濃度分極低減要否判定部は連続充放電時間が長いほど許容できる平均濃度分極が小さくなるように設定された平均濃度分極−連続充放電時間マップを備え、このマップに基づいて最大電流値設定部が第2の電流値に設定するか否かを判定するので、平均濃度分極および連続充放電時間の二つのパラメータにより電流制限の要否を柔軟に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】バッテリの充放電制御装置の全体構成を示すブロック図。
図2】メインルーチンのフローチャート。
図3】メインルーチンのステップS1のサブルーチンのフローチャート。
図4】メインルーチンのステップS2のサブルーチンのフローチャート。
図5】メインルーチンのステップS3のサブルーチンのフローチャート。
図6】メインルーチンのステップS6のサブルーチンのフローチャート。
図7】平均濃度分極および連続充放電時間から一過性抵抗上昇率を検索するマップ。
図8】平均濃度分極および連続充放電時間が制御介入ラインを超えないための平均濃度分極上限値を算出する手法の説明図。
図9】平均濃度分極上限値から第2の電流値および許容充放電時間の組み合わせを検索するマップ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1図9に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0021】
図1に示すように、電気自動車あるいはハイブリッド自動車は、充放電が可能なリチウムイオンバッテリ等で構成されるバッテリ11を備える。バッテリ11は図示せぬモータ・ジェネレータに接続されており、モータ・ジェネレータに電力を供給して走行用のトルクやエンジンをアシストするトルクを発生させるとともに、回生制動によりモータ・ジェネレータが発電した電力で充電される。バッテリ11の充放電を制御するバッテリECU12は、バッテリ11の温度を検出するバッテリ温度センサ13と、バッテリ11の電流を検出するバッテリ電流センサ14と、バッテリ11の電圧を検出するバッテリ電圧センサ15とからの信号に基いてバッテリ11を充放電可能な最大電流値を算出する。バッテリECU12に接続された電流制御部16は、前記最大電流値に基づいてバッテリ11の充放電を制御する。
【0022】
バッテリECU12は、SOC算出部21と、SOC−OCVマップ22と、抵抗算出部23と、濃度分極算出部24と、タイマ25と、平均濃度分極算出部26と、濃度分極低減要否判定部27と、最大電流値設定部28とを備える。SOC:State of Charge はバッテリ11の残容量であり、OCV:Open Circuit Voltageはバッテリ11の開放電圧である。
【0023】
次に、バッテリ11の充放電制御の概要を、図1のブロック図および図2図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0024】
先ず図2のメインルーチンのフローチャートのステップS1で、濃度分極算出部24によりバッテリ11の濃度分極を算出する。バッテリから電流を外部に取り出した場合、バッテリの端子電圧は起電力よりも小さくなる。この現象を分極と呼び、あるいはこの現象により発生するバッテリの端子電圧の低下量を分極と呼ぶ。濃度分極は上記分極の一種であり、例えばリチウムイオンバッテリでは、ハイレートでの充放電により電解液中のリチウムイオンの濃度が正極側で薄くなって負極側で濃くなるため、バッテリの内部抵抗が増加して端子電圧が低下することになる。
【0025】
図3のフローチャートは前記ステップS1のサブルーチンを示すもので、先ずステップS11でバッテリ11のOCVを取得する。即ち、SOC算出部21がバッテリ電流センサ14で検出したバッテリ電流からSOCを算出し、このSOCおよびバッテリ温度センサ13で検出したバッテリ温度をSOC−OCVマップ22に適用することで、OCVを算出する。SOC算出部21は、バッテリ電流センサ14で検出したバッテリ電流を所定時間毎に積算して積算充電量および積算放電量を算出し、積算充電量および積算放電量を初期状態あるいは充放電開始直前のSOC(初期SOC)に加算または減算することでSOCを算出する。またSOC−OCVマップ22をバッテリ温度毎に応じて持ち替えることで、より精度の高いOCVを算出することができる。
【0026】
尚、OCVはバッテリ11が充放電を行っていないときの端子電圧に相当するため、バッテリ11が充放電を行っていない場合には、そのときの端子電圧をバッテリ電圧センサ15で検出した値をOCVとして使用することができる。
【0027】
続くステップS12で抵抗算出部23によりバッテリ11の瞬間抵抗R1を取得する。即ち、バッテリ電圧センサ15で検出したバッテリ電圧の変化量と、バッテリ電流センサ14で検出したバッテリ電流の変化量とに最小二乗法等による統計処理を加えることで、バッテリの瞬間抵抗R1を算出する。続くステップS13でバッテリ11の濃度分極Vcを、Vc=OCV−V−I*R1により算出する。ここでVはバッテリ電圧センサ15で検出したバッテリ電圧であり、Iはバッテリ電流センサ14で検出したバッテリ電流である。このとき、バッテリ温度センサ13で検出したバッテリ温度を考慮すれば、より高い精度で濃度分極Vcを算出することができる。
【0028】
図2のメインルーチンに戻り、ステップS2で平均濃度分極算出部26によりバッテリ11の平均濃度分極を取得する。
【0029】
図4のフローチャートは前記ステップS2のサブルーチンを示すもので、先ずステップS21で濃度分極算出部24からバッテリ11の濃度分極Vcを取得する。続くステップS22で濃度分極Vcを絶対値に変換した後、ステップS23でバッテリ11の積算濃度分極∫Vc(k+1)を、∫Vc(k+1)=Vc+∫Vc(k)により算出する。即ち、前回ループの積算濃度分極∫Vc(k)に今回ループの濃度分極Vcを加算することで、今回ループの積算濃度分極∫Vc(k+1)を算出する。続くステップS24でタイマ25によりバッテリ電流が流れている連続充放電時間tを計時し、ステップS25で平均濃度分極算出部26により、平均濃度分極AVE.Vcを、AVE.Vc=[∫Vc(k+1)]/tにより算出する。前記ステップS22で濃度分極Vcを絶対値に変換する理由は、充電時と放電時とで濃度分極Vcの符号が正負に異なるため、絶対値に変換せずに積算するとゼロになって平均濃度分極AVE.Vcを正しく算出できないからである。
【0030】
図2のメインルーチンに戻り、ステップS3で濃度分極低減要否判定部27によりバッテリ11の平均濃度分極AVE.Vcを低減する制御の要否を判定する。
【0031】
図5のフローチャートは前記ステップS3のサブルーチンを示すもので、先ずステップS31で平均濃度分極算出部26からバッテリ11の平均濃度分極AVE.Vcを取得する。続くステップS32でタイマ25によりバッテリ電流が流れている連続充放電時間tを計時し、ステップS33で濃度分極低減要否判定部27に記憶した平均濃度分極−連続充放電時間マップに平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tを適用する。平均濃度分極−連続充放電時間マップは、縦軸に平均濃度分極AVE.Vcをとり横軸に連続充放電時間tをとったもので、そこに制御介入ラインおよび入出力禁止ラインが設定される。
【0032】
制御介入ラインおよび入出力禁止ラインは、連続充放電時間tが増加すると平均濃度分極AVE.Vcが減少し、逆に平均濃度分極AVE.Vcが増加すると連続充放電時間tが減少するように設定されている。そして平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tが指示する点が制御介入ラインを原点側から反原点側に横切ると、バッテリ11に濃度分極による一過性の抵抗上昇が発生する可能性があると判定し、濃度分極の発生を抑制すべく充放電の最大電流値を抑制する。充放電の最大電流値を抑制する制御は制御介入ラインおよび入出力禁止ラインに挟まれた領域で実行され、平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tが指示する点が入出力禁止ラインを原点側から反原点側に横切ると、バッテリ11に一過性の抵抗上昇が既に発生していると判定してバッテリ11の充放電を禁止する。
【0033】
図2のメインルーチンに戻り、ステップS4で平均濃度分極−連続充放電時間マップにおいて平均濃度分極AVE.Vcが閾値未満であるか、あるいは連続充放電時間tが閾値未満であるとき、つまり平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tが指示する点が制御介入ラインよりも原点側にあれば、バッテリ11に濃度分極による一過性の抵抗上昇が発生する可能性がないと判定し、ステップS5で充放電電流を通常制御における最大値、つまりバッテリ11のSOCに応じた第1の電流値に制限する。
【0034】
一方、前記ステップS4で平均濃度分極−連続充放電時間マップにおいて平均濃度分極AVE.Vcが閾値以上であり、かつ連続充放電時間tが閾値以上であるとき、つまり平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tが指示する点が制御介入ラインよりも反原点側にあれば、バッテリ11に濃度分極による一過性の抵抗上昇が発生する可能性があると判定し、ステップS6で濃度分極を解消するための最大電流値である第2の電流値を設定する。
【0035】
図6のフローチャートは前記ステップS6のサブルーチンを示すもので、先ずステップS61で平均濃度分極−連続充放電時間マップにより平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tを制御介入ラインよりも原点側に維持するための平均濃度分極上限値Vc(DOWN)を取得する。図7のマップは、縦軸に平均濃度分極AVE.Vcをとり横軸に連続充放電時間tをとったもので、平均濃度分極AVE.Vcが増加するほど、あるいは連続充放電時間tが増加するほど、濃度分極によりバッテリ11の一過性の内部抵抗が増加することを示している。図7に破線のラインで示すように、濃度分極を解消するための最大電流値の制限を実行しないと、平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tの増加に伴って一過性抵抗上昇率が次第に大きくなることが分かる。
【0036】
図8において、平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tが破線のラインに沿って変化するとき、A点で制御介入ラインを原点側から反原点側に横切ったとする。A点を通って横軸と平行に延びるラインが入出力禁止ラインと交差する点をB点とし、B点を通って縦軸と平行に延びるラインが制御介入ラインと交差する点をC点としたとき、A点からC点に向けて平均濃度分極AVE.Vcを所定の減少率で減少させれば、平均濃度分極AVE.Vcを制御介入エリアよりも原点側に維持することができる。
【0037】
A点の時刻をaとし、B点およびC点の時刻をbとし、C点の平均濃度分極AVE.Vcをcとし、A点およびB点の平均濃度分極AVE.Vcをdとしたとき、A点(つまり時刻a)での濃度分極はd×aで与えられ、C点(つまり時刻b)での濃度分極はc×bで与えられる。平均濃度分極AVE.VcをA点からC点に向けて変化させるための平均濃度分極の時間変化率ΔAVE.Vcは、C点の濃度分極(つまりc×b)からA点の濃度分極(つまりd×a)を減算した差分を、A点からB点までの時間b−aで除算することで算出される。
【0038】
ΔAVE.Vc={(c×b)−(d×a)}/(b−a)
上式において、例えば、a=60min、b=120min、c=60mV、d=80mVとすると、
ΔAVE.Vc={(60×120)−(80×60)}/(120−60)
=40(mV/min)
となり、この平均濃度分極の時間変化率ΔAVE.Vcを、平均濃度分極上限値Vc(DOWN)と定義する。従って、この平均濃度分極上限値Vc(DOWN)で平均濃度分極AVE.Vcを低減すれば、平均濃度分極−連続充放電時間マップにおいて平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tを制御介入ラインよりも原点側に維持することができる。
【0039】
続くステップS62でバッテリ温度センサ13によってバッテリ温度を取得し、ステップS63でバッテリ温度毎に設定された電流値−許容充放電時間マップから最大電流値および許容充放電時間を算出する。図9のマップは、縦軸に電流値をとり横軸に許容充放電時間をとったもので、そこにはバッテリ温度25°Cにおける平均濃度分極上限値Vc(DOWN)が40mのラインと、50mVのラインと、通常利用のラインとが示される。平均濃度分極上限値Vc(DOWN)が小さいということは、濃度分極を解消するために、充放電の最大電流値をより小さくし、かつ許容充放電時間をより短くする必要があるということで、そのために特性ラインが原点に接近する。またバッテリ温度が高いときは濃度分極が解消し易いため、例えば30°Cの時における40mVのラインはバッテリ温度25°Cのときよりも反原点側に移動する。
【0040】
バッテリ温度25°Cで平均濃度分極上限値Vc(DOWN)が40mVのとき、充放電の電流値が高いI1であれば許容充放電時間は短いt1になり、充放電の電流値が中程度のI2であれば許容充放電時間は中程度のt2になり、充放電の電流値が低いI3であれば許容充放電時間は長いt3になる。よって、バッテリ11に供給する最大電流値および許容充放電時間を、電流値−許容充放電時間マップにおける所定の平均濃度分極上限値Vc(DOWN)のラインを反原点側に超えないように相互に関連して制御することで、バッテリ11の濃度分極を確実に抑制して急激な電圧低下の発生を未然に防止することができる。
【0041】
以上のように、本実施の形態によれば、バッテリ11の濃度分極Vcの単位時間当りの平均値である平均濃度分極AVE.Vcが所定値以上であり、かつバッテリ11が連続して充放電している連続充放電時間tが所定値のときに濃度分極低減が必要であると判定し、バッテリ11を充放電する最大電流値を第1の電流値からそれよりも小さい2の電流値に低減するので、バッテリ11が過大な電流で充放電されて濃度分極が増長する前に電流を低減し、バッテリ11の内部抵抗の増大による電圧低下を最小限に抑えることができる。しかも同一の単発パルスを印加して電圧の挙動から濃度分極の発生を判定するものと異なり、電気自動車やハイブリッド自動車のような複雑な入出力が行われるシステムにおいてもバッテリ11の濃度分極を正確に判定することができる。
【0042】
また濃度分極低減要否判定部27の平均濃度分極−連続充放電時間マップは、連続充放電時間tが長いほど許容できる平均濃度分極AVE.Vcが小さくなるように設定されるので、このマップに基づいて最大電流値設定部28が第2の電流値に設定するか否かを判定する際に、平均濃度分極AVE.Vcおよび連続充放電時間tの二つのパラメータにより電流制限の要否を柔軟に判定することができる。
【0043】
また最大電流値設定部28は、第2の電流値をバッテリ温度が高いときほど高い値に設定するので、バッテリ11が高温であって濃度分極が解消され易いときに第2の電流値を高い値に設定し、不要な電流制限を回避してバッテリ11の性能を最大限に引き出すことができる。
【0044】
また最大電流値設定部28は、バッテリ11を充放電可能な最大電流値である第2の電流値に加えて、第2の電流値で充放電できる許容充放電時間を設定するので、バッテリ11を充放電する電流がセンサの誤差等により一時的に第2の電流値を超えても、その度に不必要な電流制限が行われるのを防止することができる。しかも最大電流値設定部28の電流値−許容充放電時間マップは、第2の電流値が大きいほど許容充放電時間が短くなるように設定されるので、例えばハイブリッド自動車のように電流値は高いが充放電時間が短い態様や、電気自動車のように電流値は低いが充放電時間が長い態様でバッテリ11を使用する場合であっても、電流値および許容充放電時間の組み合わせを柔軟に設定することができる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0046】
例えば、本発明のバッテリはリチウムイオンバッテリに限定されるものではなく、その用途も電気自動車およびハイブリッド自動車に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
11 バッテリ
16 電流制御部
24 濃度分極算出部
25 タイマ(連続充放電時間算出部)
26 平均濃度分極算出部
27 濃度分極低減要否判定部
28 最大電流値設定部
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