【実施例1】
【0020】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr
3C
2粉末、TiN粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Eを形成した。
【0021】
ついで、前記工具基体A〜Eのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、
図1の概略図に示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に工具基体を装着し、下記の条件でボンバード処理を行った。
工具基体温度:400〜430℃、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:10kW、
アシストプラズマガン放電電力:2kW、
放電ガス流量割合:アルゴン(Ar)ガス 35vol%、
工具基体に印加するバイアス電圧:1kV、
処理時間:15min.、
【0022】
前記ボンバード処理に引き続き、一度、工具基体温度を300℃まで下げたのち、
工具基体温度:380〜430℃、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:8〜9kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:9〜11kW、
反応ガス流量割合:窒素(N
2)ガス 80vol%
放電ガス流量割合:アルゴン(Ar)ガス 20vol%、
蒸着初期10分間に工具基体に印加するバイアス電圧:−30〜−20V、
という表2に示される形成条件のもと10分間蒸着形成を行い、続いて
工具基体温度:380〜430℃、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:8〜9kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:9〜11kW、
反応ガス流量割合:窒素(N
2)ガス 80vol%
放電ガス流量割合:アルゴン(Ar)ガス 20vol%、
蒸着初期10分以降に工具基体に印加するバイアス電圧:−90V、
蒸着時間:40〜280min.、
という表2に示される形成条件のもと表3に示される所定の目標層厚および組成を有するTiとAlの複合窒化物層の形成を行い、本発明表面被覆切削工具としての本発明インサート1〜8をそれぞれ製造した。
【0023】
また、比較の目的で、工具基体A〜Eを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、本発明と同様、
図1の概略図に示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に工具基体を装着し、
工具基体温度:380〜430℃、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:8〜9kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:9〜11kW、
反応ガス導入口1および2の反応ガス流量割合:窒素(N
2)ガス 100vol%
プラズマガン用放電ガスの流量割合:アルゴン(Ar)ガス 35vol%、
蒸着初期10分間に工具基体に印加するバイアス電圧:−90V〜−30V、
蒸着初期10分以降に工具基体に印加するバイアス電圧:−90V〜−30V、
という表4に示される形成条件のもと表5に示される所定の目標層厚および組成を有するTiとAlの複合窒化物層の形成を行い、比較表面被覆切削工具としての比較インサート1〜8をそれぞれ製造した。
【0024】
また、前記複合窒化物層形成後に、通常の物理蒸着法を用いて、TiN、(Ti,Al)N、Ti(C,N)、(Al,Cr)N、CrNからなる1層または2層以上の合計平均層厚0.1〜0.5μmの上部層を形成することにより、表3および表5に示される本発明インサート9〜12、比較インサート9〜12をそれぞれ製造した。
【0025】
つぎに、前記の各種のインサートを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明インサート1〜12および比較インサート1〜12について、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220 m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.25 mm/rev.、
切削時間: 4分、
の条件(切削条件A)での合金鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、200m/min.)、
被削材:JIS・S45Cの長さ方向等間隔8本縦溝入り丸棒、
切削速度: 220m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.15mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件(切削条件B)での炭素鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、220m/min.)、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔6本縦溝入り丸棒
切削速度: 230m/min.、
切り込み: 1.5mm、
送り: 0.25mm/rev.、
切削時間: 5分、
の条件(切削条件C)での合金鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は、200m/min.)を行い、いずれの断続旋削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
【表4】
【0030】
【表5】
【0031】
【表6】
【0032】
この結果得られた本発明インサート1〜12および比較インサート1〜12の硬質被覆層を構成する各層の平均層厚を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて断面測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均層厚を求めたところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示した。
【0033】
さらに、本発明インサート1〜12、比較インサート1〜12を集束イオンビーム加工装置により、層厚方向に
高さ:層厚の2倍相当 × 幅:50μm × 厚さ:100nm
の薄片に加工した後、透過型電子顕微鏡を用いて、観察加速電圧200kVの条件のもと、本発明インサート1〜12および比較インサート1〜12の複合窒化物層を観測し、さらに、直径が複合窒化物層の層厚相当の電子線を複合窒化物層に照射してエネルギー分散型分光分析装置を用いて、複合窒化物層の組成を求めたところ、その組成が表3、5に示す目標組成と実質的に同じ組成を有していることを確認した。
【0034】
さらに、本発明インサート1〜12および比較インサート1〜12の硬質被覆層の工具基体に垂直な断面研磨面を1μm×1μmの範囲にわたって走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、窪み部における平均界面を中心にして高さ200nm×窪み部の幅相当の範囲における複合窒化物領域と突出部における平均界面から200nm×突出部の幅相当の範囲における複合窒化物領域について、その観察像から微細結晶粒の面積割合(%)を測定した。その結果を、同じく、表3、5に示した。
【0035】
表3および表6に示される結果から、本発明インサートは、硬質被覆層を断面方向から観察した場合に、粒子幅が10nm以上の結晶粒が50面積%以上存在し、且つ、工具基体の界面の平均界面を示す線分よりも工具基体側に深さ50nm以上、幅50nm以上の窪み部が存在するとともに該窪み部において工具基体の平均界面を中心にして高さ200nm×窪みの幅で規定される複合窒化物領域が、粒子幅が10nm以上の結晶粒の存在割合が5面積%以下である低結晶質領域であることによって、硬質被覆層全体として、すぐれた付着強度および耐欠損性を有し、また、すぐれた耐摩耗性を示し、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた工具特性を長期に亘って発揮することが明らかである。
また、本発明工具のより応用的な実施例として、表3に示すように、硬質被覆層の上部に、(Al,Ti)N、(Al,Cr)N、Ti(C,N)といった耐摩耗性にすぐれる硬質膜、あるいは、TiNやCrNなどの潤滑性にすぐれる膜を被覆しても、剥離、欠損、チッピングを発生することなくすぐれた工具特性を長期に亘って発揮することが明らかである。
【0036】
一方、表5および表6に示される結果から、比較インサートは、硬質被覆層が、(Ti
1−xAl
x)N(x=0.5〜0.7)(但し:xは原子比)の成分系からなる複合窒化物層を含むものの、工具基体の界面の平均界面を示す線分よりも工具基体側に深さ50nm以上、幅50nm以上の窪み部が存在しておらず、その結果、低結晶質領域も形成されないため、硬質被覆層全体として、付着強度および耐欠損性の面で劣り、剥離、欠損、チッピングを発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【0037】
前述のように、本発明の表面被覆切削工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな負荷がかかるステンレス鋼、合金鋼などの高硬度鋼の高速断続旋削加工においても、すぐれた付着強度および耐欠損性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。