特許第5995120号(P5995120)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5995120蓄電池用蓋の製造方法及び蓄電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995120
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】蓄電池用蓋の製造方法及び蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/04 20060101AFI20160908BHJP
   H01M 2/06 20060101ALI20160908BHJP
   H01M 2/30 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H01M2/04 B
   H01M2/06 B
   H01M2/30 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-192810(P2015-192810)
(22)【出願日】2015年9月30日
(62)【分割の表示】特願2012-99813(P2012-99813)の分割
【原出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2016-21411(P2016-21411A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2015年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】塩田 匡史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 亮史
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−38810(JP,A)
【文献】 特開2005−116387(JP,A)
【文献】 実開昭56−9672(JP,U)
【文献】 実開昭56−165359(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/04
H01M 2/06
H01M 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極板から延びる極柱が挿入される挿入孔を有する筒状をなす金属製の蓄電池用ブッシングを、樹脂製の蓋本体にインサート成型する蓄電池用蓋の製造方法であって、
前記蓄電池用ブッシングの前記挿入孔が開口する下端部は、筒状の本体部と、前記本体部の外側周面に形成された環状突起部と、前記本体部の下面に形成されて上側に凹んだ環状凹部とを有しており、
前記下端部における前記環状凹部よりも外側の下端面が、前記環状凹部よりも内側の下端面に対して、上側に位置しており、
前記環状突起部、前記環状凹部、前記外側の下端面及び前記内側の下端面を、インサート成型により前記蓋本体に埋め込むことを特徴とする蓄電池用蓋の製造方法。
【請求項2】
蓄電池用蓋を備えた蓄電池の製造方法であって、
前記蓄電池用蓋を請求項1に記載の製造方法を用いて製造することを特徴とする蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用鉛蓄電池等といった蓄電池の端子構造に用いられる蓄電池用ブッシングを用いた蓄電池用蓋の製造方法、及び当該蓄電池用蓋を用いた蓄電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、極板群が収容された電槽を塞ぐ電槽蓋として、例えば合成樹脂製の蓋本体に鉛又は鉛合金などの金属製のブッシングをインサート成型して形成されたものがある。
【0003】
そしてこのブッシングの蓋本体に埋設される埋設部の外側周面には、特許文献1に示すように、上下方向に沿って複数の環状突起部が形成されている。この複数の環状突起部により、ブッシング及び蓋本体の互いに接触する部分の沿面距離(つまり、電解液の移動経路)を長くして、蓋本体及びブッシングの間の隙間を通じて電槽蓋の上面に電解液が漏れ出ないように構成している。
【0004】
ところが、上記のように複数の環状突起部を形成して沿面距離を長くしても、合成樹脂製の蓋本体と鉛又は鉛合金製のブッシングとでは、材料の熱膨張率が異なること等から、インサート成型等の温度変化による膨張や収縮により、ブッシング及び蓋本体の間に隙間が発生してしまい、電槽蓋の上面に電解液が漏れ出ることがある。
【0005】
ここで、特許文献2に示すように、ブッシングXの下面に環状凹部X1を形成し、環状凹部X1の内径側の内側筒状部X2よりも環状凹部X1の外径側の外側筒状部X3を下方に突出させて形成し、当該内側筒状部X2の下端面X2aを外側筒状部X3の下端面X3aよりも上側に位置させたものが考えられている(図3参照)。
【0006】
しかしながら、このブッシングXでは、合成樹脂製の蓋本体Yにインサート成型する場合に、環状凹部X1内に合成樹脂が流れ込みにくいという問題がある。そしてこれにより、環状凹部X1内の合成樹脂の充填が不十分となり易く、環状凹部X1内面と蓋本体Yとの密着性を十分に確保することが難しい。
【0007】
また、図3に示すように、ブッシングXに形成された挿入孔X4の開口端部(以下、ブッシング開口端部X5という。)に接触する蓋本体Yの開口端部(以下、蓋本体開口端部Y1)は、合成樹脂の硬化収縮によって前記ブッシング開口端部X5から剥がれ易く、これに伴って、環状凹部X1内の合成樹脂も剥がれ易くなり、密着性を十分に確保することが難しい。つまり、蓋本体開口端部Y1及び環状凹部X1内に充填された合成樹脂が全体として肉薄円筒状をなすため、蓋本体開口端部Y1がブッシング開口端部X5から剥がれてしまうと、その剥離領域が簡単に環状凹部X1内まで拡大してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4466271号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第1347522号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであって、蓋本体を形成する樹脂をブッシングの凹凸構造内に流れ込み易くするとともに、蓋本体及びブッシングの間の密着性を向上させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る蓄電池用蓋の製造方法は、極板から延びる極柱が挿入される挿入孔を有する筒状をなす金属製の蓄電池用ブッシングを、樹脂製の蓋本体にインサート成型する蓄電池用蓋の製造方法であって、前記蓄電池用ブッシングの前記挿入孔が開口する下端部は、筒状の本体部と、前記本体部の外側周面に形成された環状突起部と、前記本体部の下面に形成されて上側に凹んだ環状凹部とを有しており、前記下端部における前記環状凹部よりも外側の下端面が、前記環状凹部よりも内側の下端面に対して、上側に位置しており、前記環状突起部、前記環状凹部、前記外側の下端面及び前記内側の下端面を、インサート成型により前記蓋本体に埋め込むことを特徴とする。
また、本発明に係る蓄電池の製造方法は、上述した蓄電池用蓋の製造方法により製造された蓄電池用蓋を用いて蓄電池を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成した本発明によれば、蓋本体を形成する樹脂を充填し易くするとともに、蓋本体及びブッシングの間の密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の電槽蓋における蓄電池用ブッシングを主として示す断面図。
図2】蓄電池用ブッシングの下端部を示す部分拡大断面図。
図3】従来の蓄電池用ブッシングを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明に係る電池用ブッシングの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態の蓄電池用ブッシング1は、図1に示すように、電槽に収容された極板群(いずれも不図示)から延びる極柱Pが挿入されるとともに、当該極柱Pの先端面Paとブッシング1の上端面(先端面)1aとが溶接されるものである。これにより、蓄電池用ブッシング1は、極柱Pとともに、例えば自動車用鉛蓄電池等の蓄電池の外部端子構造100を構成する。なお、外部端子構造100は正極端子部及び負極端子部において構成は同一である。
【0015】
具体的に蓄電池用ブッシング1は、図1に示すように、概略円筒形状をなすものであり、その中心軸Cに極柱Pが挿入される概略円形状をなす挿入孔2が形成されている。また、蓄電池用ブッシング1は、金属材料を鍛造して形成されており、例えば鉛蓄電池においては、鉛又は鉛合金により形成されている。
【0016】
また、図1及び図2に示すように、蓄電池用ブッシング1における前記挿入孔2が開口する下端部1xの下面に、前記挿入孔2を周方向に包囲するとともに、上側に凹んだ環状凹部3が形成されている。前記下端部1xは、インサート成型により、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、又はポリエチレン・ポリプロピレンコポリマー等の合成樹脂からなる蓋本体6の内部に埋設される。なお、ブッシング1の上側とは、インサート成型によって、蓋本体6の上面から上方に延出する側である。
【0017】
本実施形態の環状凹部3は、図1及び図2に示すように、その断面形状が概略コの字状をなすものである。なお、合成樹脂を環状凹部3内に隙間なく充填しやすくするためには、環状凹部3の底部全体が例えば半円状等の概略円弧状をなすものや、環状凹部3の底部の角部がR形状(円弧状)をなすものとすることが望ましい。
【0018】
そして、前記下端部1xにおける環状凹部3よりも外径側に形成される外部筒状部4の下端面41(以下、外径側下端面41という。)が、環状凹部3よりも内径側に形成される内部筒状部5の下端面51(以下、内径側下端面51という。)よりも、中心軸C方向において上側に位置するように構成されている。なお、外径側下端面41は、挿入孔2と同心円状に形成された環状をなす平面である。また、内径側下端面51も、前記外径側下端面41と同様に、挿入孔2と同心円状に形成された環状をなす平面である。つまり、外径側下端面41及び内径側下端面51は、互いに同心円状に形成されている。
【0019】
また、本実施形態のブッシング1の下端部1xは、概略円筒状をなす本体部11と、当該本体部11の外側周面に上下方向に並んで形成された複数段(図1では4段)の環状突起部12a〜12dとを有する。
【0020】
そして、最上段に形成された環状突起部12aは、図1に示すように、その上面が蓋本体6の上面と略面一となるものである。また、当該最上段の環状突起部12aの下面には、ブッシング1が蓋本体6に対して周方向に回転しないようにするための、中心軸C方向から見て星形の回り止め突起部13が形成されている。回り止め突起部13の下面には、環状突起部12bが形成されている。そして、環状突起部12b及び環状突起部12cは、凹部を介して接続されている。また、環状突起部12c及び環状突起部12dも同様に凹部を介して接続されている。すなわち、下段に形成された2段の環状突起部12c、12dは、凹部とともに凹凸形状をなしている。
【0021】
また、最下段に形成された環状突起部12dの下面及び本体部11の下面に、前記環状凹部3が形成されるように構成されている。また、最下段の環状突起部12dは、その下面が、本体部11の下面よりも上側に位置するように形成されている。つまり、最下段の環状突起部12dにおいて、環状凹部3が形成されない部分が上述した外部筒状部4となり、環状凹部3が形成されない部分の下面が上述した外径側下端面41となる。また、本体部11において、環状凹部3が形成されない部分が上述した内部筒状部5となり、環状凹部3が形成されない部分の下面が上述した内径側下端面51となる。
【0022】
このように最下段に形成された環状突起部12dの下面に環状凹部3の一部を形成することで、環状凹部3が、ブッシング1の下端部1xにおいて挿入孔2から離間する方向(中心軸C方向に直交する径方向)における外側寄りに形成される。これにより、ブッシング開口端部1zと蓋本体開口端部6z(図2参照)との密着性が不十分であっても、その影響により環状凹部3及びその近傍での密着性が劣化することを防止している。
【0023】
そして、図2に示すように、環状突起部12bと環状突起部12cとの間の凹部の上下方向の幅L1は、0.5mm〜3mmとするのが好ましい。また、外径側下端面41から環状凹部3の底面までの深さL2は、0.2mm〜2mmとするのが好ましい。そして、環状凹部3の径方向の幅L3は、0.5mm〜3mmとするのが好ましい。さらに、外径側下端面41の径方向の幅L4は、0.2mm〜2mmとするのが好ましい。上記のような範囲で構成することで、蓄電池用ブッシング1を鍛造により形成する場合においても歩留り良く形成することができる。
【0024】
次にこのように構成した蓄電池用ブッシング1の下端部1xにおけるインサート成型時における樹脂の流れ及び樹脂硬化時における収縮圧力について説明する。
【0025】
蓄電池用ブッシング1をインサート成型する場合には、ブッシング1の下端部1xに流れ込む樹脂は、外径側下端面41の下側を通って径方向内側に流れる。このように流れた合成樹脂は、当該外径側下端面41よりも下側にあるブッシング1の外側周面5aに当たり、環状凹部3に流れ込む。つまり、外径側下端面41の下側を流れた樹脂は、内部筒状部5の外側周面5aに当たることになり、これにより、環状凹部3内に合成樹脂が流れ込み易くなる。
【0026】
そして、樹脂硬化時においては、図2に示すように、外部筒状部4の外径側下端面41の下側にある合成樹脂が硬化収縮することによって、内部筒状部5の外側周面5aにおける外径側下端面41よりも下側を押圧して締め付ける。これにより、当該内部筒状部5の外側周面5a及び蓋本体6の対向面との密着性を向上させることができ、電槽内の電解液が、蓋本体6の上面に漏れ出ることを防ぐことができる。
【0027】
このように構成した本実施形態に係るブッシング1によれば、ブッシング1の下端部1xにおける環状凹部3よりも外側の外径側下端面41が、環状凹部3よりも内側の内径側下端面51に対して、上側に位置しているので、インサート成型の際に、合成樹脂を環状凹部3の内部に充填し易くすることができる。
【0028】
また、前記外径側下端面41よりも下側にある合成樹脂が、硬化して径方向内側に収縮するため、前記ブッシング1の側面視において、前記外径側下端面41よりも下側にある外側周面5aに硬化収縮による収縮圧力が作用することになり、ブッシング1の下端部1xにおける蓋本体6との密着性を向上させることができる。これにより、ブッシング開口端部1z及び蓋本体開口端部6zでの密着性の確保が難しい場合であっても、前記外径側下端面41よりも下側にあるブッシング1の外側周面5aでの密着性を確保することができ、電槽内の電解液が、蓋上面6に漏れ出ることを防ぐことができる。
【0029】
さらに、ブッシング1の下端部1xに環状凹部3を形成しているので、複数の環状突起部12a〜12dとともに、ブッシング1及び当該ブッシング1がインサート成型される蓋本体6の接触部分における沿面距離を長くすることができ、電槽内の電解液が、蓋上面に漏れ出ることを防ぐことができる。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0031】
例えば、前記実施形態では本体部11の下面及び最下段の環状突起部12dの下面に亘って環状凹部3が形成されているが、本体部11の下面のみに環状凹部3が形成されるものであっても良いし、最下段の環状突起部12dの下面のみに環状凹部3が形成されるものであっても良い。なお、環状凹部3をブッシング開口端部から可及的に離間させるためには、最下段の環状突起部12dの下面に環状凹部3を形成することが望ましい。
【0032】
また、複数の環状突起部12a〜12dを有するものの場合には、最下段の環状突起部12dの下面に環状凹部3を形成する他、その他の環状突起部(例えば12bや12c)の下面に環状凹部を形成するようにしても良い。さらに、下端部1xに形成された環状突起部12の上面に環状凹部を形成するようにしても良い。なお、凹凸形状を形成する環状突起部の数は下2段に限られず、1段であってもよいし、3段以上であっても良い。
【0033】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0034】
100・・・蓄電池用端子構造
P ・・・極柱
1 ・・・蓄電池用ブッシング
1z ・・・下端部
12 ・・・環状突起部
2 ・・・挿入孔
3 ・・・環状凹部
41 ・・・外側の下端面
51 ・・・内側の下端面
図1
図2
図3