(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、その一般的形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する形態によって限定されるものではない。
【0017】
本発明の修復方法は、表面に陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系部材を修復対象とする。かかる修復方法により、アルミニウム系材料を部品等に加工してアルミニウム系部材とする際や、そのアルミニウム系部材を組み付けた際の応力などによって生じるクラックや傷を、修復することができる。アルミニウム系材料としては、アルミニウムのほか、シリコンや銅等の合金成分を含むアルミニウム合金等、アルミニウムやアルミニウム合金のアルミ展伸材、アルミ鋳造材、アルミダイカスト材等が挙げられる。
【0018】
陽極酸化皮膜は、アルミニウム系材料の表面に形成される。陽極酸化皮膜は、陽極酸化処理液中にアルミニウム系材料を陽極として、チタンやステンレス板等を陰極としてそれぞれ配置し、処理液を電気分解することによって得られる。陽極酸化処理液としては、硫酸、シュウ酸、リン酸、クロム酸等の酸性水溶液、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム等の塩基性水溶液のいずれを用いてもよい。また、本発明において陽極酸化処理の対象となるアルミニウム系材料は、特定の陽極酸化処理液を使用したものには限定されない。陽極酸化皮膜の膜厚も特に限定されないが、通常3μm〜40μmがよい。電気分解の方法としては、特に限定されるものではなく、例えば直流電解、交流電解、交直重畳電解、Duty電解等、いずれの電解方法を用いてもよい。
【0019】
本発明の修復方法は、上記した表面に陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系材料を加工したアルミニウム系部材の陽極酸化皮膜に生じたクラックや傷を修復する方法である。さらには、陽極酸化皮膜のみならず、その下にあるアルミニウムやアルミニウム合金等にまで到達したクラックや傷も、修復することができる。修復するための修復処理液は、ハロゲン化合物および/またはアルカリ金属化合物を少なくとも含む。
【0020】
修復処理液に含まれるハロゲン化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等が挙げられる。また、アルカリ金属化合物としては、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム等が挙げられる。これらのハロゲン化合物やアルカリ金属化合物が、陽極酸化皮膜を溶解し、陽極酸化皮膜を構成していたアルミニウム化合物と水が反応してアルミニウムと酸素で構成される水和化合物が生成する。そして、この水和化合物がクラック部や傷部で析出することにより、クラックや傷が修復される。または、修復処理液により陽極酸化皮膜が溶解した際、封孔生成物であるリチウム化合物がクラックや傷部へ移動することでクラックや傷を修復する。なお、これらのハロゲン化合物およびアルカリ金属化合物は、例示であり、これらの化合物に限定されない。また、ハロゲン化合物やアルカリ金属化合物は、修復処理液に単独で含むことができるし、ハロゲン化合物とアルカリ金属化合物を共存して含むこともできる。本発明において、修復処理液は、上記ハロゲン化合物や上記アルカリ金属化合物の他、pH調整剤等を含むことができる。
【0021】
クラックや傷が、陽極酸化皮膜のみならず、その下にあるアルミニウムやアルミニウム合金等にまで達している場合、上記ハロゲン化合物および/またはアルカリ金属化合物を少なくとも含む修復処理液を用いることにより、酸化アルミニウム等からなる不動態皮膜がアルミニウムやアルミニウム合金等のクラック部や傷部に生成する。この不動態皮膜の皮膜厚さは、1μm未満であり、元素分析を行うと陽極酸化皮膜と同様の元素から構成されていることがわかる。しかしながら、この不動態皮膜は、耐食性能およびクラックや傷を修復する効果がほとんど無い膜である。本発明では、クラック部や傷部で不動態皮膜がすばやく生成し、この不動態皮膜の上にアルミニウムおよび酸素の水和化合物または封孔生成物であるリチウム化合物のどちらか、もしくは両方で構成される層が生成することで、2層構造が形成される。この2層構造により、アルミニウムやアルミニウム合金等そのものの腐食を防止するとともに、クラックや傷を修復により塞いで目立たなくする効果が得られる。
【0022】
本発明の修復方法は、上記修復処理液を用いて修復する修復工程を少なくとも含む。例えば、修復対象となるアルミニウム系部材を修復処理液に浸漬することにより、クラックや傷を修復することができる。また、修復処理液をしみこませた布や紙、スポンジ等、吸水性のある加工品や天然素材でクラック部や傷部を被覆する方法や、スプレーによりクラックや傷に吹き付ける等、修復処理液をクラックや傷に接触させることによっても、修復することができる。修復工程は、例えば浸漬による修復の場合、幅が数μm程のクラックであれば、30分〜1時間浸漬することにより修復可能であり、幅が1mm前後の目視可能な傷であれば、1日〜5日程で修復することができる。
【0023】
本発明の修復方法は、上記修復工程の他、修復工程の前にアルミニウム系部材の汚れや油分、ダスト等を除去する除去工程や修復工程後にアルミニウム系部材を純水等で洗浄する洗浄工程、洗浄工程後にアルミニウム系部材の水分を除去する乾燥工程等を含むことができる。
【0024】
本発明の修復方法において、前記アルミニウム系部材の陽極酸化皮膜が、リチウムイオンを少なくとも含む封孔処理液を用いて封孔処理されていることが好ましい。リチウムイオンを含む封孔処理液を用いた封孔処理では、封孔の対象となる孔にLiH(AlO
2)
2・5H
2Oといったリチウム化合物や、ジアスポア(AlO・OH)が生成して封孔する。この封孔処理がされた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系部材であれば、水と反応することのできるアルミニウム化合物を陽極酸化皮膜に存在させることが可能である。そのため、上記修復処理液を用いることにより、アルミニウムと酸素で構成される水和化合物を生成させ、前記アルミニウム系部材を修復することができる。また、リチウム化合物は陽極酸化皮膜表面に大量に生成しており、修復処理液に浸漬して陽極酸化皮膜が溶解した際にクラックや傷部へと移動することでも修復することができる。
【0025】
例えば、一般的な封孔処理である高温水和型の封孔処理は、陽極酸化皮膜の水和物で孔を封孔している。そのため、封孔処理後の陽極酸化皮膜のアルミニウムの大部分が水和物となっている。この場合に、本発明における修復処理液を用いても、新たにアルミニウムと酸素で構成される水和化合物を生成することは困難であり、クラックや傷を修復することができない。さらに、水和化合物の生成が困難である一方で、陽極酸化皮膜は修復処理液により溶解する。その結果として、クラックがさらに大きくなったり、傷によって露出したアルミニウム系材料そのものが溶解して腐食が進行する等、悪影響が生じるおそれがある。
【0026】
本発明において、リチウムイオンを少なくとも含む封孔処理液を用いる封孔処理は、具体的には、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系部材を封孔処理液に浸漬し、又は処理対象物に封孔処理液を塗布やスプレーする等、封孔処理液を陽極酸化皮膜の表面に付着させることにより封孔する処理である。
【0027】
封孔処理後のアルミニウム系部材は、乾燥により水分を除去することが好ましい。乾燥温度は、好ましくは100℃〜150℃の範囲内である。また、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系部材を封孔処理液に浸漬し、5分以下で封孔処理液から取り出し、水洗、乾燥することが好ましい。塗布やスプレーによる封孔処理方法は、部分的に封孔処理することができ、封孔処理対象が大型部品である場合でも、浸漬する必要がないため、大型の槽を必要としない。
【0028】
封孔処理液はリチウムイオンを含む水溶液であり、リチウムイオン源となる薬品としては、硫酸リチウム、塩化リチウム、ケイ酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、水酸化リチウム、及びそれらの水和物などを使用することができる。そのうち、水溶液が塩基性を示すものとして水酸化リチウム、炭酸リチウム、ケイ酸リチウムが好ましい。但し、ケイ酸リチウムは毒性が強く、水に溶けにくいため、実用的ではない。よって、炭酸リチウムと水酸化リチウムがより好適である。
【0029】
封孔処理液のリチウムイオン濃度は、0.02g/L〜20g/Lにする必要がある。0.02g/L以上の濃度のリチウムイオンで封孔処理の反応が促進される。下限は、好ましくは0.08g/Lであり、より好ましくは2g/Lである。上限は、より好ましくは10g/Lである。リチウムイオン濃度が10g/Lを超えた封孔処理液では、急速に反応が進み、陽極酸化皮膜のないアルミニウム素地の溶解が起こる場合がある。
【0030】
封孔処理液のpH値は、10.5以上にする必要がある。好ましくはpH値11以上であり、さらに好ましくはpH値12以上である。また、pH値の上限は14が好ましい。封孔処理液が塩基性のため、酸性水溶液で処理した皮膜と反応しやすく、後述するリチウム化合物を速やかに生成する。また、pH値12以上では、リチウム化合物をより速やかに生成する。pH値が10.5未満の封孔処理液では、腐食率が高く、耐食性を向上させる効果が低くなる場合がある。また、リチウムイオン源によってpH値は異なるので、硫酸、シュウ酸、リン酸、クロム酸等の酸や、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム等の塩基を用いてpHを調整することができる。
【0031】
封孔処理液の温度は、65℃以下にする必要がある。下限は10℃以上が好ましい。より好ましくは25℃〜50℃である。25℃よりも低い温度で処理を施すと、活性が低く、反応が弱くなるが、ある程度の耐食性は期待できる。逆に、65℃を超える温度では、陽極酸化皮膜表面からの皮膜の溶解が急速に進み、皮膜が消失して高い耐食性は得られなくなる場合がある。
【0032】
封孔処理液の処理時間(浸漬時間)は、少なくとも0.5分あれば、高い耐食性が発揮される。上限は好ましくは5分以下である。5分を超える処理時間では、皮膜の溶解が急速に進み、耐食性が低下する場合がある。
【0033】
封孔処理を行う前に、処理対象物であるアルミニウム系部材に対して、水洗浄等の前処理を行うことが好ましい。前処理により、陽極酸化皮膜を形成する際に付着した陽極酸化処理液が、封孔処理液に混入することを防止することができると共に、また孔内の陽極酸化処理液を除去することができる。
【0034】
封孔処理にリチウムイオンを使用する理由としては、リチウムは非常に小さい元素であり、陽極酸化皮膜の隙間に入って反応しやすいことが挙げられる。リチウムと同族の元素であるナトリウムやカリウムは、陽極酸化皮膜の封孔処理回数に対して敏感であり、処理回数の増加に伴い、耐食性は顕著に低下する。また、薬液管理に関してコスト高を招くため、生産を考慮すると望ましくない。これに対して、リチウムは処理回数に鈍感で、安定して耐食性を付与することができる。
【0035】
本発明の修復方法において、前記修復処理液のpH値が、5〜10であることが好ましい。pH値が上記範囲内であれば、陽極酸化皮膜を構成するアルミニウム化合物の溶解、およびクラック部や傷部での水和化合物の析出、あるいはリチウム化合物の移動がバランスよく起こるため、クラックや傷を効率的に修復することができる。pH値が5より小さい酸性の場合や、pH値が10よりも大きいアルカリ性の場合には、陽極酸化皮膜やアルミニウム系部材を溶解する溶解力が高いため、クラックや傷が大きくなるおそれや、陽極酸化皮膜が溶解してその下にあるアルミニウムやアルミニウム合金等が露出するおそれがある。
【0036】
本発明の修復方法において、前記修復処理液のハロゲン化合物および/またはアルカリ金属化合物の濃度が、0.01mol/L〜3.5mol/Lであることが好ましい。この濃度範囲であれば、修復処理液の温度を制御することにより、クラックや傷を修復することができる。より具体的には、修復処理液の濃度が0.01mol/L〜0.14mol/Lのときは温度を60℃〜95℃とすることが好ましく、濃度が0.15mol/L〜1.0mol/Lのときは温度を5℃〜95℃とすることが好ましく、濃度が1.1mol/L〜2.5mol/Lのときは温度を5℃〜60℃とすることが好ましく、濃度が2.6mol/L〜3.5mol/Lのときは温度を5℃〜25℃とすることが好ましい。
【0037】
上記したように、修復処理液の濃度によって好ましい温度が異なる理由として、次のことが考えられる。クラックや傷が認められる陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系部材を、本発明における修復処理液に浸漬した際、陽極酸化皮膜の溶解反応が起こり、溶解したアルミニウム化合物と水との水和反応によりアルミニウムと酸素の水和化合物の生成、析出が順次起こる。修復処理液の濃度が0.01mol/L〜0.14mol/Lと低い場合は、修復処理液の温度を高くしないと、溶解反応自体が起こりにくいため水和反応は起こりにくく、結果としてクラックや傷を効率的に修復することが難しくなる。修復処理液の濃度が0.15mol/L〜1.0mol/Lの場合には、修復処理液の温度が5℃〜95℃と広い温度域において、クラックや傷を効率良く修復することができる。陽極酸化皮膜の溶解と水和反応がバランスよく起こっているためと考えられる。修復処理液の濃度が1.1mol/L〜2.5mol/Lや2.6mol/L〜3.5mol/Lと高い場合は、陽極酸化皮膜を溶解する溶解力が高いため、修復処理液の温度が高いと陽極酸化皮膜の溶解速度が水和化合物の析出によりクラックや傷を修復する速度を上回るため、修復効果が得られなくなり、場合によってはクラックや傷が伸展し大きくなってしまう。リチウム化合物の移動による修復も同様であり、濃度や温度変化による皮膜溶解量が適切でない場合、リチウム化合物が修復液中へと拡散してしまい、修復することができなくなる。
【0038】
本発明において、修復処理液の濃度が0.01mol/L〜3.5mol/Lである場合、修復処理液の温度を5℃未満とすることは、修復処理液の冷却に大量のエネルギーが必要になるため好ましくない。また、修復処理液の温度が95℃を超えると、水分の蒸発量が多く、濃度を均一に保つことが難しいため好ましくない。
【0039】
本発明の修復方法において、クラックや傷を修復するのに要する修復工程の時間は、クラックや傷の大きさによって異なるため特に限定しないが、例えば修復処理液に浸漬する場合、クラックで30分〜60分、目に見える大きさの傷では1日〜5日浸漬すれば良い。なお、クラックや傷が修復された後、アルミニウム系部材を引続き修復処理液に浸漬しても、陽極酸化皮膜が過剰に溶解する等の反応は起きず、クラックや傷は塞がったままであるため、問題は生じない。
【0040】
次に、本発明のアルミニウム系材料の製造方法について、以下に説明する。
本発明のアルミニウム系材料の製造方法は、陽極酸化皮膜形成工程と、封孔処理工程と、修復工程を少なくとも含む。かかる製造方法であれば、製造過程で生じるクラックや傷を修復することが可能であり、耐食性に優れたアルミニウム系材料を提供することができる。
【0041】
陽極酸化皮膜形成工程は、アルミニウム系材料の表面に陽極酸化皮膜を形成する工程である。陽極酸化処理液中でアルミニウム系材料を陽極、チタンやステンレス板などを陰極として配置し、電解処理を行う。これによりアルミニウム系材料の表面に酸化アルミニウムを主成分とした陽極酸化皮膜が形成される。陽極酸化処理液としては、硫酸やシュウ酸、リン酸、クロム酸などの酸性水溶液、または水酸化ナトリウムやリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウムなどのアルカリ性水溶液のいずれを用いてもよく、特定の陽極酸化処理液を用いたものに限定されない。陽極酸化皮膜の膜厚も特に限定されないが、3μm〜40μmとするのが一般的である。電解処理は、直流電解や交流電解、交直重畳電解、Duty電解など様々あるが、いずれの電解方法を用いてもよく、これについても特定の電解方法に限定されない。
【0042】
本発明の製造方法において、封孔処理工程は、リチウムイオンを少なくとも含む封孔処理液を用いて封孔する工程である。かかる封孔処理工程の詳細は、上記したとおりである。
【0043】
本発明の製造方法において、修復工程は、前記封孔処理工程後、前記アルミニウム系材料をハロゲン化合物および/またはアルカリ金属化合物を少なくとも含む修復処理液を用いて修復する工程である。この工程により、上記封孔処理工程や、下記の乾燥工程等によって発生する製造上やむを得ないクラックや傷等を修復する。かかる修復工程の詳細は、上記したとおりである。
【0044】
本発明の製造方法は、上記工程の他、陽極酸化皮膜形成工程の前にアルミニウム系材料の汚れや油分、ダスト等を除去する除去工程や、封孔処理工程や修復工程の前に陽極酸化皮膜の汚れ等を除去する除去工程、陽極酸化皮膜形成工程後や封孔処理工程後、または修復工程後にアルミニウム系材料を純水等で洗浄する洗浄工程、洗浄工程後にアルミニウム系材料の水分を除去する乾燥工程等を含むことができる。
【0045】
本発明のアルミニウム系材料の製造方法において、前記修復処理液のpH値が、5〜10であることが好ましい。pH値が上記範囲内であれば、陽極酸化皮膜を構成するアルミニウム化合物の溶解、およびクラック部や傷部での水和化合物の析出やリチウム化合物の移動がバランスよく起こるため、クラックや傷を効率的に修復することができる。pH値が5より小さい酸性の場合や、pH値が10よりも大きいアルカリ性の場合には、陽極酸化皮膜やアルミニウム系材料を溶解する溶解力が高いため、クラックや傷が大きくなるおそれや、陽極酸化皮膜が溶解してアルミニウム系材料が露出するおそれがある。
【0046】
本発明のアルミニウム系材料の製造方法において、前記修復処理液のハロゲン化合物および/またはアルカリ金属化合物の濃度が、0.01mol/L〜3.5mol/Lであることが好ましい。この濃度範囲であれば、修復処理液の温度を制御することにより、クラックや傷を修復することができる。より具体的には、修復処理液の濃度が0.01mol/L〜0.14mol/Lのときは温度を60℃〜95℃とすることが好ましく、濃度が0.15mol/L〜1.0mol/Lのときは温度を5℃〜95℃とすることが好ましく、濃度が1.1mol/L〜2.5mol/Lのときは温度を5℃〜60℃とすることが好ましく、濃度が2.6mol/L〜3.5mol/Lのときは温度を5℃〜25℃とすることが好ましい。
【0047】
次に、本発明の修復処理液について、以下に説明する。
本発明の修復処理液は、ハロゲン化合物および/またはアルカリ金属化合物を少なくとも含み、アルミニウム系部材の修復および/またはアルミニウム系材料の製造に用いる。上記した本発明の修復方法や製造方法に用いることで、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系材料およびアルミニウム系部材に発生したクラックや傷を修復することができる。本発明の修復処理液が含むハロゲン化合物やアルカリ金属化合物については、上記したとおりである。本発明の修復処理液は、上記した理由により、pH値が、5〜10であることが好ましい。
【0048】
次に、本発明のアルミニウム系材料について、以下に説明する。
本発明のアルミニウム系材料は、表面に陽極酸化皮膜を有する。これにより、アルミニウム系材料の耐食性や耐摩耗性等を付与することができる。前記陽極酸化皮膜は、バリア層と多孔質層の2層からなり、当該多孔質層には耐食性を低下させる一因となる微細な孔が多数存在する。陽極酸化皮膜の形成方法は、上記したとおりである。
【0049】
本発明のアルミニウム系材料では、前記陽極酸化皮膜の孔は、LiH(AlO
2)
2・5H
2Oおよび/またはAlO(OH)で封孔されている。これにより、アルミニウム系材料の耐食性が向上する。封孔処理方法は、上記したとおりである。
【0050】
本発明のアルミニウム系材料は、表面の前記陽極酸化皮膜のクラックおよび/または傷は、アルミニウムおよび酸素の水和化合物、および/またはリチウム化合物で被覆されている。これにより、アルミニウム系材料の耐食性が向上する。クラックや傷の修復方法は、上記したとおりである。
【0051】
本発明のアルミニウム系材料において、クラックや傷が、陽極酸化皮膜のみならず、アルミニウム系材料にまで達している場合、前記アルミニウム系材料のクラックおよび/または傷は、酸化アルミニウムの不動態皮膜で被覆されていることが好ましい。本発明では、アルミニウム系材料にまで達したクラック部や傷部で不動態皮膜がすばやく生成し、この不動態皮膜の上にアルミニウムおよび酸素の水和化合物または封孔生成物であるリチウム化合物のどちらか、もしくはこれらの両方で構成される層が生成することで、2層構造が形成される。この2層構造により、アルミニウム系材料そのものの腐食を防止するとともに、クラックや傷が修復により塞がれて目立たなくなる。
【0052】
本発明のアルミニウム系材料は、船外機用オイルパンやギヤケース、プロペラなどの船外機用部品に加工することができる。船外機は、装着式の船舶の推進システムであり、海水や潮風と接触することから、船外機を構成する部品には、高い耐食性が要求される。例えばオイルパンは、エンジンオイルを貯めておくと共に、走行風でエンジンオイルを冷却する役割も果たすことから、海水や潮風と直接接触するため、高い耐食性が要求される。本発明のアルミニウム系材料であれば、封孔処理およびクラックや傷の修復処理がされており、十分な耐食性を有することから、耐食性の要求される船外機用部品の用途に用いることができる。
【0053】
以下、本発明のアルミニウム系部材の修復方法、修復処理液、アルミニウム系材料およびその製造方法について、その実施の形態を、図面を参照して説明する。この場合において、本発明は図面の実施形態に限定されるものではない。
【0054】
図1は、本発明における封孔処理を実施した後のアルミニウム系材料の断面の模式図である。アルミニウム系材料1は、表面に陽極酸化皮膜2が形成されている。陽極酸化皮膜2には細孔が存在しており、その細孔内には、封孔処理によりジアスポア3(AlO・OH)とリチウム化合物4(例えばLiH(AlO
2)
2・5H
2O)が生成している。アルミニウム系材料がシリコンを含むアルミニウム合金の場合、薄片状の下にはもともと陽極酸化皮膜表面に内包されていたシリコン5が、封孔処理時の皮膜の溶解により析出している(
図1)。陽極酸化皮膜の表層は多くのリチウム化合物4が緻密に存在しており、このリチウム化合物4は陽極酸化皮膜の奥深くまで生成していることが特徴である。
【0055】
図2は、本発明における封孔処理を実施した後の、アルミニウム系材料の表面をFE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で撮影した写真である。陽極酸化皮膜の表面は、リチウム化合物とジアスポアが花弁のような薄片形状になっている。
【0056】
図3は、本発明における封孔処理を実施した後の、アルミニウム系材料の断面をFE−SEMで撮影した写真である。陽極酸化皮膜表面には、深さ約1μm程度のクラック6が発生している(
図1〜3)。
【0057】
封孔処理を行うことで、陽極酸化皮膜は化学反応を起こすため、孔と孔の間の陽極酸化皮膜部分は強度が低下する。本発明におけるリチウムイオンを含む水溶液での封孔処理では、陽極酸化皮膜の表層にリチウム化合物が特に密集して生成する。そのため、陽極酸化皮膜の表層部分では、孔内から陽極酸化皮膜側へ圧力が発生する。この圧力により陽極酸化皮膜にクラックが発生し、孔と孔が繋がる。孔内のリチウム化合物やジアスポアは、極小の化合物が集まったものであるため強度は高くない。そのため、孔と孔が繋がった際の衝撃等で、孔内のリチウム化合物やジアスポアの集合体にもクラックが発生する。これらナノレベルの大きさのクラックが多数繋がることで、大きなクラックへと成長し、リチウム化合物が特に密集して生成している深さ約1μmの部分に、クラックが多く生成する。
【0058】
図4は、本発明における封孔処理を実施した後に、更に加熱処理を行ったアルミニウム系材料の表面をFE−SEMで撮影した写真である。加熱処理を行うことにより、
図2に示すクラックが成長し、より大きくなっている。
図5は、
図4のアルミニウム系材料を、本発明における修復処理液に浸漬して修復処理した後、その表面をFE−SEMで撮影した写真である。クラックが修復されており、陽極酸化皮膜と見分けがつき難くなっている。また、本発明における修復処理液が陽極酸化皮膜を溶解したことにより、封孔処理後に見られた陽極酸化皮膜表面の薄片形状は(
図2、
図4)、所々消失している(
図5)。
【0059】
図6は、本発明における封孔処理を実施した後に、更に加熱処理を行ったアルミニウム系材料の断面をFE−SEMで撮影した写真である。加熱処理を行うことにより、
図3に示すクラックが成長し、より大きくなっている。
図7は、
図6のアルミニウム系材料を、本発明における修復処理液に浸漬して修復処理した後、その断面をFE−SEMで撮影した写真である。クラックが修復されており、陽極酸化皮膜と見分けがつき難くなっている。
【0060】
図8、
図9は、アルミニウム合金(ADC12材)に本発明における封孔処理および修復処理をした後、エネルギー分散型X線分析により元素分析をした結果を示す図である。
図8は、陽極酸化皮膜の元素スペクトルであり、
図9は、クラック内に生成したリチウム化合物またはアルミニウムおよび酸素の水和化合物の元素スペクトルである。
図8と
図9を比べると、
図9の方が、Si元素が少ない。すなわち、シリコン等の合金成分元素は、陽極酸化皮膜よりもクラック内の方が少ないことがわかる。分析方法の特性上、リチウムイオンは検出できず、またクラック内部だけでなく周囲の陽極酸化皮膜部分も同時に分析してしまうため、クラック内部と陽極酸化皮膜部分は同じ元素が検出されてしまうが、合金成分のピーク強度を比較することで、陽極酸化皮膜であるのか、クラック内に生成した化合物であるのかを、判別することができる。
【0061】
図10、
図11は、アルミニウム合金(A1100材)に本発明における封孔処理および修復処理をした後、X線粉末回折法により元素分析をした結果を示す図である。
図10は、陽極酸化皮膜の元素スペクトルであり、
図11は、クラック内に生成したリチウム化合物またはアルミニウムおよび酸素の水和化合物の元素スペクトルである。A1100材は、シリコン成分をほとんど含まないため、Si元素は検出されていない。
図10と
図11を比べると、クラック内部は陽極酸化皮膜部分と比べて、Al元素とO元素のピーク強度が小さい結果が得られている。
【0062】
図12は、アルミニウム系材料にまで達している傷を、本発明における修復処理液に浸漬して修復処理した後、その断面をFE−SEMで撮影した写真である。このような傷は、アルミニウム系材料を加工した部品を他の部品にぶつけた場合や、陽極酸化皮膜をカッターやヤスリで傷つけてしまった場合において生じる。このような傷を修復処理した場合、その過程において、まず1μm未満の酸化アルミニウムの不動態皮膜8がアルミニウム系材料1の表面に生成する。この不動態皮膜を元素分析すると、陽極酸化皮膜と同様の元素スペクトルが得られる(
図13)。ただし、この不動態皮膜は、耐食性能がほとんど認められず、また、クラックや傷を塞ぐ効果もほとんどない皮膜である。不動態皮膜8は速やかに形成され、その上にアルミニウムおよび酸素の水和化合物または封孔生成物であるリチウム化合物のどちらか、もしくは両方で構成される層9が形成される(
図12)。この不動態皮膜8と化合物層9との2層構造により、アルミニウム系材料の腐食を防止するとともに、傷を塞ぎ目立たなくする効果が得られる。この2層構造は、クラックがアルミニウム系材料まで達している場合も、同様に形成されていると認識することができる。
【0063】
以上説明したように、本発明の修復方法によれば、リチウムイオンを含む封孔液で封孔処理を行った陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系部材に発生したクラックや傷を修復することができる。この方法は、強酸への浸漬や電解処理を行う必要が無いため、アルミニウム系部材に塗装を施した後や他部品の組み付け後であっても、塗装や他部品へ悪影響が生じることなくクラックや傷を修復することができる。また、本発明の表面に陽極酸化皮膜を有するアルミニウム系材料およびその製造方法によれば、製造過程においてクラックや傷を修復することができるため、耐食性に優れたアルミニウム系材料を提供することができる。本発明の修復処理液は、アルミニウム系部材の修復やアルミニウム系材料の製造に用いることができる。本発明のアルミニウム系材料は、例えば耐食性の要求される船外機用部品の用途に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
[封孔処理の違いによるクラックの修復効果の検証]
[実施例1]
アルミニウム系材料であるアルミニウム合金(ADC12材)を、試験片として用いた。濃度200g/Lの硫酸浴に試験片を陽極として浸漬し、電流密度1.5A/dm
2で直流電流を10分間通電することにより、膜厚3μmの陽極酸化皮膜を作製した。陽極酸化皮膜を形成後、試験片を濃度0.8g/Lのリチウムイオンを含み、pH値12、温度40℃の封孔処理液に1分間浸漬して封孔処理を行った。その後、塗装の焼付けを想定して、試験片をオーブンで温度150℃、30分加熱処理を行い、陽極酸化皮膜にクラックを作製した。クラックを作製後、アルカリ金属であるナトリウムイオン濃度1.0mol/L、温度50℃、pH7の塩化ナトリウム水溶液に試験片を15分〜24時間浸漬して修復処理を行い、水洗後、エアブローにて乾燥した。クラックの修復の有無は、試験片表面をFE−SEMにて観察することにより評価した。
【0066】
[比較例1]
実施例1に記載した封孔処理に替えて、封孔処理材として濃度40ml/L、温度90℃の酢酸ニッケル水溶液(トップシールH−298:奥野製薬工業株式会社製)を用いることにより、一般的な高温水和型の封孔処理を行った。その他の条件は、実施例1と同様とし、アルミニウム系材料のクラックの修復処理を行った。
【0067】
修復処理液へ浸漬した時間を変化させた場合における、クラックの修復効果について評価した結果を、表1に示す。表1において、クラックが修復されて塞がっている場合、およびクラック内部にアルミニウムと酸素の水和化合物または封孔生成物であるリチウム化合物が存在している場合を、修復効果があるとして○、クラックが修復されていない場合を×とした。また、修復処理工程の前後における実施例1の陽極酸化皮膜表面のFE−SEMの写真を
図14に示す。同様に、比較例1の陽極酸化皮膜表面のFE−SEMの写真を
図15に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例1に記載した封孔処理および修復処理により、修復処理液への浸漬時間が30分を超えたあたりで、クラックの内部にアルミニウムと酸素の水和化合物が生成やリチウム化合物の移動が始まり、浸漬時間が45分〜60分で、クラックの大部分が塞がって修復された。修復処理液へ1時間以上浸漬を続けても、クラックは塞がったままであり、変化は認められなかった(表1)。この実施例1により、修復処理液に30分以上浸漬することで、クラックが修復されることがわかった。ただし、修復処理液への浸漬時間はあくまで目安であり、クラックや傷の大きさによって完全に塞がるまでの浸漬時間は異なる。そのため、本発明では、好ましい浸漬時間を特に限定しない。
【0070】
一方、一般的な高温水和型の封孔処理を行った比較例1では、修復処理液へ24時間浸漬を行っても、クラックが塞がる効果は認められなかった。高温水和型の封孔処理は、陽極酸化皮膜を水和させた化合物で封孔処理を行う。そのため、封孔処理が終わった時点で陽極酸化皮膜の大部分が水和物となっており、新たに水和反応が起きないためにクラックを塞ぐことはできないものと考えられる。
【0071】
図14(a)は、実施例1における修復処理工程前の陽極酸化皮膜の写真であり、
図14(b)は、修復処理工程後の陽極酸化皮膜の写真である。これらの写真より、実施例1の処理を行ったアルミニウム系材料は、修復処理によりクラックが修復されて塞がれていることがみとめられる。
【0072】
図15(a)は、比較例1における修復処理工程前の陽極酸化皮膜の写真であり、
図15(b)は、修復処理工程後の陽極酸化皮膜の写真である。これらの写真より、比較例1の処理を行ったアルミニウム系材料は、修復処理をしてもクラックが修復されないことがわかる。
【0073】
[修復処理液の濃度と温度が与える修復効果への影響の検証]
実施例1と同様の処理により、アルミニウム合金(ADC12材)を試験片として、陽極酸化皮膜の作成、封孔処理、加熱処理を行った。加熱処理によりクラックを作成後、アルカリ金属であるナトリウムイオン濃度を0mol/L〜6.0mol/Lまで変化させると共に、温度を5℃〜95℃まで変化させたpH7の塩化ナトリウム水溶液に、試験片を30分浸漬して修復処理を行った。修復処理後、アルミニウム合金を実施例1と同様に水洗後、エアブローにて乾燥した。クラックの修復の有無について、試験片表面をFE−SEMにて観察することにより評価した。
【0074】
修復処理液の濃度、および温度を変化させた場合における、クラックの修復効果について評価した結果を、表2、および表3に示す。表2、および表3では、表1と同様に、修復効果が認められた場合を○、クラックが修復されていない場合を×とした。また、表2、表3の結果を基に、修復処理液の温度変化を縦軸、濃度変化を横軸とし、修復効果の有無についてプロットしたものを
図16、および
図17に示す。
図16、および
図17においても、修復効果が認められた場合を○、クラックが修復されていない場合を×とした。
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表2、および表3を基に作成した
図16、および
図17より、修復処理液の濃度によって、修復効果が認められる温度に違いがみられた。具体的には、修復処理液の濃度が0.01mol/L〜0.15mol/L未満のときは60℃〜95℃、濃度が0.15mol/L〜1.0mol/Lのときは5℃〜95℃、濃度が1.0mol/Lより大きく2.5mol/Lまでのときは5℃〜60℃、濃度が2.5mol/Lより大きく3.5mol/Lまでのときは5℃〜25℃で修復効果を確認することができた。
【0078】
修復処理液の濃度によって、修復効果が得られる修復処理液の温度が異なる理由として、次のことが考えられる。クラックを有する試験片を修復処理液である塩化ナトリウム溶液に浸漬した際、陽極酸化皮膜の溶解反応が起こり、溶解したアルミニウム化合物の水和反応が次に起こる。修復処理液の濃度が0.01mol/L〜0.15mol/L未満である場合のように(実施例2〜実施例10、比較例2〜比較例9)、濃度が低い場合は温度を高くしないと、溶解反応自体が起こりにくいため水和反応は起こりにくく、クラックを修復することができない。修復処理液の濃度が0.15mol/L〜1.0mol/Lである場合は(実施例11〜実施例28)、5℃〜95℃の温度範囲の全てにおいて、修復効果が認められた。この濃度範囲と温度範囲の修復処理液を用いれば、陽極酸化皮膜の溶解と水和反応、およびリチウム化合物の移動がバランスよく起こり、良好な結果が得られたものと考えられる。修復処理液の濃度が1.0mol/Lより大きい場合は(実施例29〜実施例40、比較例10〜比較例25)、修復処理液の濃度が濃いため、もともと陽極酸化皮膜を溶解する効果が高く、修復処理液の温度を上げることで陽極酸化皮膜の溶解速度が水和反応によるクラックや傷を修復する速度を上回るため効果が得られず、場合によってはクラックが伸展し大きくなってしまうと考えられる。また、リチウム化合物の移動による修復も同様であり、濃度や温度変化による皮膜溶解量が適切でない場合、リチウム化合物が修復液中へと拡散してしまい、修復することができなくなると考えられる。今回実施した全ての濃度範囲の修復処理液において、修復処理液の温度が5℃未満の場合は、修復処理液の冷却に大量のエネルギーが必要になるため好ましくない。また、修復処理液の温度が95℃を超えると、水分の蒸発量が多くなり、修復処理液の濃度を均一に保つことが難しいため、好ましくない。
【0079】
[目視可能な傷に対する修復効果の確認]
[実施例41]
実施例1と同様の処理により、アルミニウム合金(ADC12材)を試験片として、陽極酸化皮膜の作成、および封孔処理を行った。その後、部品の組み立てにより試験片に傷がつくことを想定し、試験片に対してカッターでADC12材に達する傷をつけた後、アルカリ金属であるナトリウムイオン濃度1.0mol/L、温度25℃、pH7の塩化ナトリウム水溶液に試験片を120時間浸漬して修復処理を行った。修復処理後、アルミニウム合金を実施例1と同様に水洗後、エアブローにて乾燥した。傷の修復の有無について、乾燥後の傷部表面を肉眼にて観察すると共に、傷部断面をFE−SEMにて観察することにより評価した。修復処理工程の前後における試験片表面の写真、および試験片断面の金属顕微鏡の写真を
図18に示す。
【0080】
[比較例26]
比較例1と同様の処理により、アルミニウム合金(ADC12材)を試験片として、陽極酸化皮膜の作成、および封孔処理を行った。実施例41と同様にカッターで傷をつけて修復処理を行い、水洗、乾燥を行った。修復処理工程の前後における試験片表面の写真、および試験片断面の金属顕微鏡の写真を
図19に示す。
【0081】
図18(a)は、実施例41の試験片表面の修復処理前の写真であり、
図18(b)は、修復処理後の写真である。両写真を比べると、修復処理により傷が目立たなくなっていることがわかる。
図18(c)は、実施例41の試験片の傷部断面の修復処理前の金属顕微鏡の写真であり、
図18(b)は、修復処理後の金属顕微鏡の写真である。両写真を比べると、修復処理により、アルミニウムと酸素の水和化合物または封孔生成物であるリチウム化合物のどちらか、もしくは両方で構成される層9と不動態皮膜8からなる2層構造が形成されていることを確認することができる。これらの写真より、実施例41の処理を行ったアルミニウム系材料は、修復処理により傷が修復されていることがわかる。
【0082】
図19(a)は、比較例26の試験片表面の修復処理前の写真であり、
図19(b)は、修復処理後の写真である。両写真を比べると、試験片の傷部は、修復処理後に白錆の発生が認められた。
図19(c)は、比較例26の試験片の傷部断面の修復処理前の金属顕微鏡の写真であり、
図19(b)は、修復処理後の金属顕微鏡の写真である。両写真を比べると、白錆に起因する腐食物11が認められた。これらの写真より、比較例26の処理を行ったアルミニウム系材料は、修復処理をしても傷が修復されないことがわかる。
【0083】
以上の結果より、本発明によれば、クラックのみならず、目視可能な傷も修復可能であることが確認できた。
【0084】
[ハロゲン化合物およびアルカリ金属化合物が与える修復効果の検証]
実施例1と同様の処理により、アルミニウム合金(ADC12材)を試験片として、陽極酸化皮膜の作成、封孔処理、加熱処理を行った。加熱処理によりクラックを作成後、濃度を1.0mol/L、温度を50℃に調製した表4に示す修復処理液に、試験片を2分〜30分浸漬して修復処理を行った。修復処理後、アルミニウム合金を実施例1と同様に水洗後、エアブローにて乾燥した。クラックの修復の有無について、試験片表面をFE−SEMにて観察することにより評価した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
表4中、Aグループは、ハロゲン化合物またはアルカリ金属化合物を含む試薬を使用した水溶液であり、Bグループは、AグループのpH値を調整した水溶液である。また、Cグループは、ハロゲン化合物またはアルカリ金属化合物のいずれも含まない試薬を使用した水溶液である。ハロゲン化合物またはアルカリ金属化合物を含むAグループのうち、pH値が6〜10の水溶液は、修復効果が認められた(実施例42〜実施例47)。Aグループであっても、強酸性や強アルカリ性の水溶液では、陽極酸化皮膜を溶解する効果が高いため、浸漬時間を短くしても修復効果が認められず、陽極酸化皮膜の大部分が消失したり、クラックがより大きくなる結果となった(比較例27〜比較例33)。ただし、このような強酸性の塩酸や強アルカリ性のリン酸三ナトリウムを用いた水溶液であっても、pH値を調整することにより、修復効果が認められた(実施例48、実施例49)。なお、ハロゲン化合物またはアルカリ金属化合物のいずれも含まない試薬を使用した水溶液の場合には、修復効果は全く認められなかった(比較例34、比較例35)。