特許第5995183号(P5995183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995183
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】燃料電池装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04701 20160101AFI20160908BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20160908BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20160908BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20160908BHJP
【FI】
   H01M8/04 T
   H01M8/04 X
   !H01M8/12
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-33198(P2012-33198)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-171636(P2013-171636A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 昌之
【審査官】 相羽 昌孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−009206(JP,A)
【文献】 特開2007−242626(JP,A)
【文献】 特開2008−243592(JP,A)
【文献】 特開2010−186675(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0176136(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/2485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端より燃料ガスを排出する燃料電池セルと、
複数の前記燃料電池セルより構成され、略同一平面上から略同一方向へ燃料ガスが排出されるよう前記燃料電池セルが併設して配置された燃料電池セル集合体と、
酸化剤ガスと燃料電池セルより排出された燃料ガスを燃焼させるよう、前記燃料電池セルの燃料ガス排出方向側に前記燃料電池セル集合体に隣接して設けられた燃焼領域と、
前記燃焼領域において燃料電池セルより排出された燃料ガスに着火する着火手段と、
前記燃焼領域を第一の所定温度まで加熱する加熱手段と、
前記着火手段および前記加熱手段を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記加熱手段により、前記第一の所定温度まで前記燃焼領域を加熱する予備加熱を行った後、前記着火手段によって燃料ガスに着火を行うことにより、前記第一の所定温度よりも高い、前記燃料電池セルを発電可能な第二の所定温度まで加熱する本加熱を行い、
前記加熱手段は、前記燃料電池セルから排出される燃料ガスに着火することにより発生する燃焼の燃焼熱によって前記燃焼領域を第一の所定温度まで加熱するものであり、
前記制御手段は、燃焼領域を前記加熱手段により第一の所定温度まで加熱した後、燃焼により生じている炎を失火させ、前記着火手段によって前記燃料電池セルから排出される燃料ガスに再着火することによって本加熱を行なうことを特徴とする燃料電池装置。
【請求項2】
請求項に記載の燃料電池装置は、さらに、燃料電池セルへ燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、燃焼領域へ酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、を備え、
前記加熱手段は、前記燃料ガス供給手段と前記酸化剤ガス供給手段と前記着火手段から構成されており、
前記予備加熱は、前記燃料ガス供給手段および前記酸化剤ガス供給手段より供給された燃料ガスと酸化剤ガスの混合ガスを前記着火手段により燃焼させることによって行われることを特徴とする請求項に記載の燃料電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸化剤ガスにより発電を行う燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと発電用空気(酸化剤ガス)とを用いて電力を得ることができる複数の燃料電池セルをケーシング内に収容し、それら複数の燃料電池セルに燃料ガスと発電用空気とを供給して発電する燃料電池装置が種々提案されている。このような燃料電池装置では、起動初期時等の低温時において、迅速に昇温し、少しでも早く発電状態に移行することが要求される。その要求に応えるために、燃料ガスと発電用空気を燃焼させ、その燃焼熱を利用して燃料電池セルの昇温を図る燃料電池装置が知られている。その一つとして、特許文献1に開示されている燃料電池装置が挙げられる。
【0003】
特許文献1に開示された燃料電池装置は、多数の円筒型燃料電池セルが列を成すようにして配置された燃料電池セル集合体の一端側に位置する一の燃料電池セルの先端上方に着火プラグが配置されている。上記一の燃料電池セル内部の燃料ガス流路を経由して、燃料電池セル先端から排出された燃料ガスは、この着火プラグが発した火花により着火され、この着火により生じた上記一の燃料電池セル先端の燃焼炎が、燃料電池セル集合体上部の一端側から他端側に向かって、順次、隣接する燃料電池セル先端から排出された燃料ガスに引火(火移り)していくことで、全ての燃料電池セル先端に燃焼が生じるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−67547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記構成においては、冷間起動時、燃料ガスに着火を行う際、燃焼室内に供給された燃料ガスの温度が、発火点に大きく達しておらず、着火プラグによる着火動作時、火移りが途中で止まってしまうことがある。火移りが途中で止まってしまうと、先端に燃焼を生じていないセルより排出された未燃の燃料ガスが、燃料電池装置外部に放出されてしまい、それらの燃料ガスが無駄になってしまう。また、火移りが途中で止まってしまった場合、先端に燃焼を生じていないセルが存在するため、その分、燃料電池セル集合体に加えられる熱量が減少し、燃料電池装置の昇温速度が低下してしまう。したがって、燃料電池装置が発電可能な温度に達するまでの時間がより長くなってしまう。これは、使用者にとっては大変不便である。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、着火手段による着火動作時の燃焼炎の火移り性を向上させることが可能な燃料電池装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池装置は、一端より燃料ガスを排出する燃料電池セルと、複数の前記燃料電池セルより構成され、略同一平面上から略同一方向へ燃料ガスが排出されるよう前記燃料電池セルが併設して配置された燃料電池セル集合体と、酸化剤ガスと燃料電池セルより排出された燃料ガスを燃焼させるよう、燃料電池セルの燃料ガス排出方向側に燃料電池セル集合体に隣接して設けられた燃焼領域と、燃焼領域において燃料電池セルより排出された燃料ガスに着火するために火花を発生する着火手段と、燃焼領域を第一の所定温度まで加熱する加熱手段と、着火手段および加熱手段を制御する制御手段と、を有し、制御手段は、加熱手段により、第一の所定温度まで燃焼領域を加熱する予備加熱を行った後、着火手段によって燃料ガスに着火を行うことにより、第一の所定温度よりも高い、燃料電池セルを発電可能な第二の所定温度まで加熱する本加熱を行うことを特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明においては、本加熱を行う際、すでに、燃焼領域が、第一の所定の温度まで加熱された状態で、燃料電池セルより排出された燃料ガスに着火することが可能となる。したがって、燃焼領域の低い温度によって、燃料電池セルより排出された燃料ガスが冷やされることがないのみならず、加熱された燃焼領域において、燃料電池セルより排出された燃料ガスが、より引火が生じやすくなる発火点まで温められやすくなるため、燃料ガスへの着火動作時、例え冷間起動時であっても、燃焼炎が未着火の燃料ガスへ引火しやすくなり、火移り性を向上させることができる。
【0009】
本発明は、好ましくは、制御手段は、第一の所定温度まで燃焼領域を加熱すると、加熱手段による燃焼領域の加熱を停止する。
【0010】
このように構成された本発明においては、燃焼領域が第一の所定温度に達すると、加熱手段による燃焼領域の加熱を停止するため、この加熱手段によって燃焼領域を必要以上に加熱することがなくなる。したがって、加熱手段に必要以上に負荷をかけることなく、火移り性を向上させることができる。
【0011】
本発明は、好ましくは、加熱手段は、燃料電池セルから排出される燃料ガスに着火することにより発生する燃焼の燃焼熱によって燃焼領域を第一の所定温度まで加熱するものであり、制御手段は、燃焼領域を加熱手段により第一の所定温度まで加熱した後、燃焼により生じている炎を失火させ、着火手段によって燃料電池セルから排出される燃料ガスに再着火することによって本加熱を行なう。
【0012】
燃焼炎の火移りを生じさせるには、燃焼炎を揺らがせたり、燃料電池セルより排出される燃料ガスを周囲に拡散させるための外乱を加える必要がある。この外乱は、通常、着火手段により燃料ガスに着火した瞬間に、炎の燃料ガスへの広がりによって生じる爆発によりもたらされるものである。上記のように構成された本発明においては、本加熱前に、燃焼により生じている燃焼炎を失火させるため、本加熱時に、既に燃焼炎が存在することにより、着火対象となる未着火の燃料ガスが着火手段の火花発生位置近傍に存在せず、着火手段により燃料ガスへ着火が行えなくなるという状況に陥ることがない。したがって、確実に着火手段の発する火花によって燃料ガスに着火することが可能となるため、より安定して火移り性を向上させることができる。
また、このように構成された本発明においては、別途、第一の所定温度まで燃焼領域を加熱し続ける熱源を設ける必要がないため、熱源に要する設備コストを費やすことなく、火移り性の向上を図ることができる。
【0013】
本発明は、好ましくは、さらに、セルへ燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、燃焼領域へ酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、を備え、加熱手段は、燃料ガス供給手段と酸化剤ガス供給手段と着火手段から構成されており、予備加熱は、燃料ガス供給手段および酸化剤ガス供給手段より供給された燃料ガスと酸化剤ガスの混合ガスを着火手段により燃焼させて行われる。
【0014】
このように構成された本発明においては、加熱装置が、燃料電池装置の運転に必須の構成のみからなっているため、加熱手段として、別途、新たな構成を追加する必要がない。したがって、設備コストを上昇させることなく、容易に火移り性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の燃料電池装置によれば、着火手段による着火動作時の燃焼炎の火移り性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池装置1を示す全体構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る燃料電池モジュール2の外観を示す斜視図である。
図3図2の中央近傍における断面図であって、図2のA方向から見た断面を示す断面図である。
図4図2の中央近傍における断面図であって、図2のB方向から見た断面を示す断面図である。
図5図2のケーシング56から一部の外板を取り除いた状態を示す斜視図である。
図6図3に相当する模式図であって、発電用空気及び燃焼ガスの流れを示す模式図である。
図7図4に相当する模式図であって、発電用空気及び燃焼ガスの流れを示す模式図である。
図8】本発明の実施形態に用いられる燃料電池セルユニット16を示す部分断面図である。
図9】本発明の実施形態に係る燃料電池セルスタック14の構成を示す斜視図である。
図10】本発明の実施形態に係るイグナイタ42と燃焼領域温度センサ48の配置位置を示す平面図である。
図11】本発明の実施形態に係る制御部10周辺の電気的構成および制御部10の機能的構成を示すブロック図である。
図12】本発明の実施形態に係る燃料電池装置1の制御内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である燃料電池装置の全体構成図である。図1に示すように、本発明の一実施形態における燃料電池装置1は、燃料電池モジュール2と補機ユニット4を備えている。
【0019】
まず、燃料電池モジュール2の主要な構成について説明する。燃料電池モジュール2は、ケーシング56を備え、このケーシング56内部下方の発電室6には、燃料ガスと発電用空気(酸化剤ガス)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。発電室6の上方には、発電反応に使用されなかった燃料ガスと発電用空気(酸化剤ガス)とが燃焼される燃焼領域18が設けられており、燃焼領域18における燃焼により燃焼ガスが発生するようになっている。また、この燃焼領域18の上方には、燃料ガスを改質する改質器20が配置されており、燃焼領域18における燃焼の燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、燃焼熱により内部を通過する発電用空気を加熱するための熱交換器22が配置されている。
【0020】
次に、補機ユニット4について説明する。補機ユニット4は、水道等の水供給源26からの水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク28と、この純水タンク28から燃料電池モジュール2へ供給する水の流量を調整する水流量調整ユニット30(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源32から燃料電池モジュール2へ供給する燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット34(燃料ガス供給手段に相当するものであり、モータで駆動される「燃料ポンプ」等)と、空気供給源36から燃料電池モジュール2へ供給する発電反応用の空気の流量を調整する発電用空気流量調整ユニット38(酸化剤ガス供給手段に相当するものであり、モータで駆動される「空気ブロア」等)と空気供給源36から燃料電池モジュール2へ供給する改質反応用の空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット40(モータで駆動される「空気ブロア」等)を備えている。さらに、補機ユニット4には、燃料ガスや発電用空気の供給量等を制御するための制御手段である制御部10が設置されている。
【0021】
次に、図2図5に基づき、本実施形態における燃料電池モジュール2の構造について、詳しく説明する。図2は、本実施形態における燃料電池モジュール2の斜視図であり、燃料電池モジュール2の高さ方向をy軸方向としている。このy軸に直交する平面に沿ってx軸及びz軸を定義し、燃料電池モジュール2の短手方向に沿った方向をx軸方向とし、燃料電池モジュール2の長手方向に沿った方向をz軸方向としている。図3以降において図中に記載しているx軸、y軸、及びz軸は、図2におけるx軸、y軸、及びz軸を基準としている。また、z軸の負方向に沿った方向をA方向とし、x軸の正方向に沿った方向をB方向としている。図3は、燃料電池モジュール2をその中央近傍において図2のA方向から見た断面図である。図4は、燃料電池モジュール2をその中央近傍において図2のB方向から見た断面図である。図5は、図2に示す燃料電池モジュール2から燃料電池セル集合体12を覆うケーシング56の一部を取り外した状態を示す斜視図である。
【0022】
燃料電池モジュール2は、上述したように、燃料電池セル集合体12を収容するケーシング56と、ケーシング56の上部に設けられている熱交換器22を備えている。ケーシング56の一方の長辺側面には、イグナイタ挿入口44が形成されており、このイグナイタ挿入口44に、燃焼領域18での燃焼を誘発するために火花を発生するイグナイタ42(着火手段)が挿入設置されている。そして、もう一方の長辺側面には、温度センサ挿入口46が形成されており、この温度センサ挿入口46に、燃焼領域18内部の温度を検出する熱電対等の燃焼領域温度センサ48(温度検出手段)が挿入設置されている。また、このケーシング56には、燃料ガス・改質用空気供給管60と、水供給管62とが繋げられている。一方、熱交換器22には、発電用空気導入管74と、燃焼ガス排出管82とが繋げられている。
【0023】
燃料ガス・改質用空気供給管60は、ケーシング56の内部に燃料ガス(都市ガス等の改質用の被改質ガス)と、燃料ガスを改質する際に用いられる空気を供給する管路であり、上流端が、燃料流量調整ユニット34と改質用空気流量調整ユニット40に繋げられている。水供給管62は、燃料ガスを改質する際に用いられる水を供給する管路であり、上流端は、水流量調整ユニット30に繋げられている。燃焼ガス排出管82は、発電反応に使用されなかった残余の燃料ガスと発電用空気とを燃焼した結果生じる燃焼ガスを排出する管路である。発電用空気導入管74は、改質後の燃料ガスと発電反応を起こさせるための発電用空気を供給する管路であり、上流端は、発電用空気流量調整ユニット38へ繋げられている。
【0024】
本実施形態の場合、水供給管62から供給される水を蒸発させるための蒸発混合器(図に明示しない)は、改質器20の内部に設けられている。蒸発混合器は、燃焼ガスにより加熱され、水を水蒸気にすると共に、この水蒸気と、燃料ガス(被改質ガス)と空気とを混合するためのものである。
【0025】
燃料ガス・改質用空気供給管60及び水供給管62は、ケーシング56の内部に導かれた後、共に改質器20に繋がれている。より具体的には、図4に示すように、改質器20の上流端である図中右側の端部に繋がれている。
【0026】
改質器20は、燃料電池セル集合体12の上方に形成された燃焼領域18の更に上方に配置されている。したがって、改質器20は、燃料ガス及び発電用空気による燃焼熱によって熱せられ、蒸発混合器としての役割と、改質反応を起こす改質器20としての役割とを果たすように構成されている。
【0027】
改質器20の下流端(図4の左端)には、燃料供給管66の上端が接続されている。この燃料供給管66の下端側66aは、燃料ガスタンク68内に入り込むように配置されている。
【0028】
図3図5に示すように、燃料ガスタンク68は、燃料電池セル集合体12の真下に設けられている。また、燃料ガスタンク68内に挿入された燃料供給管66の下端側66aの外周には、長手方向(A方向)に沿って複数の小穴(図示せず)が形成されている。改質器20を経由した燃料ガスは、これら複数の小穴(図示せず)によって燃料ガスタンク68内に長手方向に均一に供給されるようになっている。燃料ガスタンク68に供給された燃料ガスは、燃料電池セル集合体12を構成する各燃料電池セルユニット16の内側にある燃料ガス流路88(詳細は後述する)内に供給され、燃料電池セルユニット16内を上昇して、燃焼領域18に至るようになっている。
【0029】
続いて、発電用空気を燃料電池モジュール2の内部へ供給するための構造を、図3図5及び図6図7に基づき説明する。図6は、図3に対応する模式図であって、発電用空気及び燃焼ガスの流れを示す図である。図7は、図4に対応する模式図であって、同様に発電用空気及び燃焼ガスの流れを示す図である。これらの図に示すように、改質器20の上方に、熱交換器22が設けられている。熱交換器22には、複数の燃焼ガス配管70と、この燃焼ガス配管70の周囲に形成された発電用空気流路72とが設けられている。
【0030】
熱交換器22の上面における一端側(図4における右端)には、発電用空気導入管74が取り付けられている。この発電用空気導入管74により、発電用空気流量調整ユニット38から、発電用空気が、熱交換器22内に導入されるようになっている。
【0031】
熱交換器22の上側の他端側(図4における左端)には、図3に示すように、発電用空気流路72の出口ポート76aが一対形成されている。この出口ポート76aは、一対の連絡流路76につながっている。さらに、燃料電池モジュール2のケーシング56の幅方向(B方向:短辺側面方向)の両側の外側には、発電用空気供給路77が形成されている。
【0032】
したがって、発電用空気供給路77には、発電用空気流路72の出口ポート76a及び連絡流路76から、発電用空気が供給されるようになっている。この発電用空気供給路77は、燃料電池セル集合体12の長手方向に沿って形成されている。さらに、その下方側であり且つ燃料電池セル集合体12の下方側に対応する位置に、発電室6内の燃料電池セル集合体12の各燃料電池セルユニット16に向けて発電用空気を吹き出すための複数の吹出口78a、78bが形成されている。これらの吹出口78a、78bから吹き出された発電用空気は、各燃料電池セルユニット16の外側面に沿って、下方から上方へ流れるようになっている。
【0033】
続いて、燃料ガスと発電用空気とが燃焼して生成される燃焼ガスを排出するための構造を説明する。燃料電池セルユニット16の上方にある燃焼領域18では、発電反応に使用されなかった燃料ガスと発電用空気とが燃焼することで、燃焼ガスが発生する。この燃焼ガスは、燃焼領域18内を上昇し、燃焼ガス集合部21に至る。燃焼ガス集合部21には、図7に示すように、開口21aが設けられており、開口21a内に燃焼ガスが導かれる。この開口21aを通った燃焼ガスは、熱交換器22の他端側に至る。熱交換器22内には、燃焼ガスを排出するための複数の燃焼ガス配管70(燃焼ガス流路)が設けられている。これらの燃焼ガス配管70の下流端側には、燃焼ガス排出管82が接続され、燃焼ガスが外部に排出されるようになっている。
【0034】
次ぎに、図8に基づき、燃料電池セルユニット16について説明する。図8は、本実施形態の燃料電池セルユニット16を示す部分断面図である。図8に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の上下方向端部にそれぞれ接続された内側電極端子86とを備えている。
【0035】
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
【0036】
燃料電池セルユニット16の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する連通流路98が形成されている。
【0037】
続いて、図9に基づき、燃料電池セルスタック14について説明する。図9は、本実施形態における燃料電池セルスタック14を示す斜視図である。
【0038】
図9に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16の下端側及び上端側が、それぞれ、セラミック製の燃料ガスタンク上板68a及び上支持板100により支持されている。これらの燃料ガスタンク上板68a及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴がそれぞれ形成されている。
【0039】
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と、隣接する燃料電池セルユニット16の空気極である外側電極層92の外周面とを電気的に接続するものであり、これにより燃料電池セルユニット16が全て直列接続されるようになっている。
【0040】
図10は、燃料電池セル集合体12上方における、イグナイタ42と燃焼領域温度センサ48の配置位置を説明するための平面図である。図10に示すように、イグナイタ42は、A方向末端側に配置されている。イグナイタ42は、陽極43aと陰極(接地電極)43bよりなる着火プラグ43を先端に有し、図示しない電源から、これらの電極間に高電圧を印加することにより、陽極43a先端と陰極43b先端の隙間に火花放電を発生させ、このとき生じた火花によって、A方向末端側の燃料電池セルユニット16の排出口99から排出された燃料ガスに着火を行う。本実施形態においては、イグナイタ42はA方向末端より2列目、B方向基端より2列目に配置された燃料電池セルユニット16の排出口99より排出された燃料ガスに着火を行うよう配置されている。なお、この着火により燃料電池セルユニット16先端に生じた燃焼炎が、順次、隣接する燃料電池セルユニット16より排出される燃料ガスに引火していくことにより、燃料電池セル集合体12の上部全体で、燃焼が生じるようになっている。
【0041】
一方、燃焼領域温度センサ48は、A方向基端側に配置され、A方向基端側の燃料電池セル集合体12上方の温度の検出を行っており、本実施形態においては、この燃焼領域温度センサ48により検出された温度が、燃焼領域18の温度と同等であるとみなしている。
【0042】
次に、図11に基づき、制御部10について説明する。図11は、本実施形態における制御部10周辺の電気的構成および制御部10の機能的構成を示すブロック図である。図11に示すように、制御部10には複数のセンサが接続されている。発電用空気流量センサ108は、発電室6に供給される発電用空気の流量を検出するためのものであり、発電用空気流量調整ユニット38に設けられている。改質用空気流量センサ110は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものであり、改質用空気流量調整ユニット40に設けられている。燃料流量センサ112は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものであり、燃料流量調整ユニット34に設けられている。水流量センサ114は、改質器20に供給される純水(水蒸気)の流量を検出するためのものであり、水流量調整ユニット30に設けられている。また、燃焼領域温度センサ48は、上述した通り、A方向基端側の燃料電池セル集合体12上方の温度の検出を行うものである。発電室温度センサ116(例えば、熱電対等)は、図3に示すように、ケーシング56の内部の燃料電池セル集合体12近傍に設けられており、燃料電池セル集合体12近傍の温度を検出して、燃料電池セル84の温度を推定するためのものである。
【0043】
制御部10は、図示しないCPU、ROM、RAMおよびタイマ等を内蔵しており、CPUは、各種センサが検出した結果をデータとして取り込むとともに、ROMに記憶された各種のプログラムやRAMに記憶されたデータ等に基づいて、後述する各種処理や制御を行う。
【0044】
本実施形態における制御部10は、これを機能的に捉えた場合、図11に示すように、流量比較処理部10aと、発電用空気流量制御部10bと、改質用空気流量制御部10cと、燃料流量制御部10dと、水流量制御部10eと、着火状態判定処理部10fと、着火制御部10gと、目標供給量設定処理部10hと、本加熱開始処理部10iを有している。
【0045】
流量比較処理部10aは、各種流量センサ(108、110、112、114)の検出結果と、RAMに記憶されている各々の供給物の目標供給量とを比較して、それらの差を、各種流量調整ユニット(30、34、38、40)に対応する制御部(10b、10c、10d、10e)へ出力する。
【0046】
各種流量調整ユニット(30、34、38、40)に対応する制御部(10b、10c、10d、10e)は、流量比較処理部10aからの出力に基づき、各種流量調整ユニット(30、34、38、40)へ制御信号を出力し、それらの流量調整ユニットにおける供給量を制御する。例えば、発電用空気流量調整ユニット38が空気ブロワにより構成されている場合には、発電用空気流量制御部10bは、流量比較処理部10aからの出力に基づき、空気ブロワの回転数を制御する。同様に、燃料流量調整ユニット34が燃料ポンプにより構成されている場合には、燃料制御部10dは、流量比較処理部10aからの出力に基づき、燃料ポンプの回転数を制御する。なお、燃料電池装置1の運転状況によっては、流量比較処理部10aにおける目標供給量は、発電室温度センサ116の検出結果に基づき目標供給量設定処理部10hから流量比較処理部10aへ出力された信号に応じて設定される。また、本加熱開始処理部10iは、燃焼領域温度センサ48の検出結果が、予めRAMに記憶されている、燃焼炎が未着火の燃料ガスへ引火しやすくなる所定の温度Ta(第一の所定温度)より大きい場合、燃料電池セル84を発電可能な所定の温度Tb(第二の所定温度)まで加熱する本加熱を開始するために、燃料流量制御部10dに信号を出力し、燃料流量制御部10dによって燃料流量調整ユニット34を制御する。上記所定の温度Tbは所定の温度Taよりも大きく、所定の温度Taは、燃料ガスの発火点近傍の温度であることが好ましい。本実施形態においては、この所定の温度Taは発火点以上の温度に設定されているものとする。ただし、この所定の温度Taは、燃料電池装置の仕様や、供給する燃料ガスの種類等に応じて、適宜変更可能である。
【0047】
着火状態判定処理部10fは、燃焼領域温度センサ48の検出結果が、予めRAMに記憶されている所定の温度Tfより大きい場合、燃焼領域である燃料電池セル集合体12上部に燃焼が生じている状態(着火状態)であると判定し、その判定結果を、着火制御部10gへ出力する。着火状態判定処理部10fからの出力を受けた着火制御部10gは、イグナイタ42をOFF状態にする。一方、燃焼領域温度センサ48の検出結果が、予めRAMに記憶されている所定の温度以下の場合は、着火状態ではないと判定するが、この場合は、特に出力は行わない。
【0048】
次に、本実施形態に係る燃料電池装置1の制御内容について説明する。なお、本実施形態にかかる燃料電池装置1は、起動を開始すると、燃料ガスに着火する燃焼運転、部分酸化改質反応(POX)、オートサーマル改質反応(ATR)、水蒸気改質反応(SR)を経て、発電運転に移行するものであるが、以下の説明では、本発明の要旨と直接関係のある制御内容のみを取り上げ、その他の制御内容については説明を省略する。
【0049】
図12は、本実施形態における燃料電池装置1の起動開始から本加熱が完了するまでの制御内容を示すフローチャートである。
【0050】
ステップ121は、燃料電池装置1の起動開始のステップであり、起動を開始すると、制御部10は、発電用空気流量調整ユニット38により、所定の供給量で発電用空気の燃料電池モジュール2への供給を開始する(S122)。続いて、燃焼領域温度センサ48の検出温度に基づき、燃焼領域18が、所定の温度Taよりも小さいか否かの判定を行う(S123)。所定の温度Ta以上である場合(S123でNO)は、ステップ131(S131)へ進み、所定の温度Taよりも小さい場合(S123でYES)は、燃料流量調整ユニット34により所定の供給量で燃料ガスの燃料電池モジュール2への供給を開始する(S124)。次に、イグナイタ42をON状態にし(S125)、燃料電池セル集合体12上方へ排出される燃料ガスへの着火を開始する。そして、燃焼領域の温度がTfよりも大きいか否かを判定(S126)することにより、燃焼領域18が、着火状態であるか否かの判定を行う。Tf以下と判定した場合(つまり、着火状態でないと判定した場合であり、S126でNO)は、判定を繰り返し、Tfよりも大きいと判定した場合(つまり、着火状態である判定した場合であり、S126でYES)は、イグナイタ42をOFF状態とする(S127)。その後、着火によって生じた燃料電池集合体12上部の燃焼の燃焼熱による加熱によって、燃焼領域18の温度が所定の温度Ta以上になったか否かの判定を行う(S128)。燃焼領域18の温度がTaより小さい場合(S128でNO)は、判定を繰り返し、Ta以上の場合(S128でYES)は、燃料流量調整ユニット34により燃料ガスの供給を停止する(S129)。(このS124〜S129までの動作が、予備加熱の一連の動作である。)なお、本実施形態においては、イグナイタ42をOFF状態とした(S127)後、燃焼領域18が所定の温度Taに至ったか否かで燃料ガスの供給停止のタイミングを図っているが、イグナイタをOFF状態とした後、所定時間が経過したか否かを判定することにより、燃料ガスの供給停止のタイミングを図っても構わない。
【0051】
燃料ガスの供給停止後、制御部10に内蔵されているタイマの動作を開始し、燃料ガスの供給を停止してからの経過時間を計測する。その後、このタイマの計測した経過時間が、所定時間を越えたか否かの判定を行う(S130)。この所定時間は、燃料電池セル集合体12上方における燃焼炎が完全に消え、なおかつ、予備加熱時に供給されたものの燃焼に使用されなかった酸化剤ガスおよび燃料ガスが熱交換器22を介して排出される時間以上になるよう予め設定されている。この所定時間が経過していない場合(S130でNO)は、同一の判定を繰り返し、所定時間が経過している場合(S130でYES)は、燃料流量調整ユニット34により所定の供給量で燃料電池モジュール2へ燃料ガスの供給を開始する(S131)。次に、イグナイタ42をON状態にし(S132)、その後、燃焼領域の温度がTfよりも大きいか否かを判定(S133)することにより、燃焼領域18が、着火状態に至ったか否かの判定を行う。Tf以下であると判定した場合(S133でNO)は、同一の判定を繰り返し、Tfよりも大きいと判定した場合(S133でYES)は、イグナイタ42をOFF(S134)状態とし、着火動作を終了する。その後、発電室温度センサ116の検出温度に基づき推定された燃料電池セル84の温度が、所定の温度Tb以上かの判定を行い(S135)、Tbより小さい場合(S135でNO)は、判定を繰り返し、Tb以上の場合(S135でYES)は、本加熱は終了したと判断する。(このS131〜S136までの制御内容が、本加熱の一連の制御内容である。)
【0052】
このように、起動後、まず、燃焼領域18において燃焼を生じさせることにより、燃焼領域18の温度が、燃料ガスの発火点に近付くように予備加熱を行うと、本加熱を行う際に、燃焼領域18に供給される燃料ガスが、すぐに発火点付近の温度まで温まり、イグナイタ42により火花を発生させる着火動作時に、燃料電池セルユニット16先端に生じた燃焼炎が、他の燃料電池セルユニット16より排出される燃料ガスに引火しやすくなる。したがって、例え冷間起動時であったとしても、火移りが途中で止まってしまうことを防止することができ、火移り性を向上することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、燃焼領域18の加熱手段として、燃料電池装置1の運転に必須の燃料流量調整ユニット34および発電用空気流量調整ユニット38およびイグナイタ42を用いているため、別途、燃焼領域18を加熱するための熱源や、他の部材等を追加する必要がない。したがって、設備コストを上昇させることなく、容易に着火動作時の火移り性を向上させることができる。
【0054】
以上のように火移り性を向上させることにより、例え冷間起動時であっても、より全ての燃料電池セルユニット16へ燃焼を生じさせやすくすることができるため、燃料電池セル集合体12や改質器20の昇温速度の低下に起因する起動速度の低下を防止することができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、燃焼領域温度センサ48によって、燃焼領域18の温度を検出しているが、改質器20や熱交換器22や発電室6の温度等から検出しても構わない。また、着火状態に至ったか否かの判定は、これらの温度上昇勾配に基づき判定しても構わない。
【符号の説明】
【0056】
1…燃料電池装置
2…燃料電池モジュール
4…補機ユニット
6…発電室
10…制御部
12…燃料電池セル集合体
14…燃料電池セルスタック
16…燃料電池セルユニット
18…燃焼領域
20…改質器
22…熱交換器
26…水供給源
28…純水タンク
30…水流量調整ユニット
32…燃料供給源
34…燃料流量調整ユニット
36…空気供給源
38…発電用空気流量調整ユニット
40…改質用空気流量調整ユニット
42…イグナイタ
43…着火プラグ
43a…陽極
43b…陰極
48…燃焼領域温度センサ
56…ケーシング
60…燃料ガス・改質用空気供給管
62…水供給管
66…燃料供給管
68…燃料ガスタンク
70…燃焼ガス配管
72…発電用空気流路
74…発電用空気導入管
76…連絡流路
76a…出口ポート
77…発電用空気供給路
78a、78b…吹出口
82…燃焼ガス排出管
84…燃料電池セル
86…内側電極端子
88…燃料ガス流路
90…内側電極層
92…外側電極層
94…電解質層
98…連通流路
99…排出口
108…発電用空気流量検出センサ
110…改質用空気流量センサ
112…燃料流量センサ
114…水流量センサ
116…発電室温度センサ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12