特許第5995191号(P5995191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995191
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】制御弁式鉛蓄電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20160908BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20160908BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20160908BHJP
   H01M 4/20 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H01M4/62 B
   H01M4/14 Q
   H01M10/12 K
   H01M4/20 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-209291(P2012-209291)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-63689(P2014-63689A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】山内 賢治
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−257432(JP,A)
【文献】 特開2004−111198(JP,A)
【文献】 特開2011−210640(JP,A)
【文献】 特開昭58−111263(JP,A)
【文献】 特開2001−332252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/14
H01M 4/20
H01M 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛粉と硫酸バリウムとを含む負極活物質と、鉛粉を含む正極活物質と、電解液を保持する保液体とを有する制御弁式鉛蓄電池において、
前記硫酸バリウムは最大2次粒子径が10μm以下、平均2次粒子径が1.0μm以上2.5μm以下、さらに平均1次粒子径が0.5μm以上1.8μm以下であり、かつ負極活物質中の硫酸バリウム含有量が0.5mass%以上であることを特徴とする、制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
鉛粉と硫酸バリウムとを含む負極活物質ペーストを負極格子に充填し、鉛粉を含む正極活物質ペーストを正極格子に充填し、かつ電解液を保液体に保持させる、制御弁式鉛蓄電池の製造方法において、
負極活物質中の硫酸バリウム含有量を0.5mass%以上にすると共に、
硫酸バリウムから大きな2次粒子を除去するか、硫酸バリウムの2次粒子を破壊することにより、硫酸バリウムの粒子径の分布を、最大2次粒子径が10μm以下、平均2次粒子径が1.0μm以上2.5μm以下、さらに平均1次粒子径が0.5μm以上1.8μm以下にする工程を実行することを特徴とする、制御弁式鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は制御弁式鉛蓄電池に関し、特に高率放電性能に優れた制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
制御弁式鉛蓄電池では、リテイナーマット等の保液体に電解液を保持させて、流動性のある電解液を無くすと共に、制御弁を備えた密閉電槽を使用する。そして制御弁式鉛蓄電池は補水が不要である。しかしながら制御弁式鉛蓄電池では、高率放電時に負極活物質への硫酸イオンの供給が不足するため、低温高率放電性能が不十分であるとの問題がある。発明者は負極活物質に含有させる硫酸バリウムの粒径を制御することにより、制御弁式鉛蓄電池の低温高率放電性能を改善させることを検討した。
【0003】
関連する先行技術を示す。特許文献1(JPH08-236119A)、特許文献2(JP2003-36882A)、特許文献3(JP2004-273305A)は、鉛蓄電池の負極活物質へ加える硫酸バリウムの平均粒子径について記載している。ここで特許文献1は、1次粒子径を1.0μm以下にすると負極活物質の収縮を均一にでき、充放電寿命性能を向上できるとしている。特許文献2は、制御弁式鉛蓄電池に平均粒子径が0.5μm以上の硫酸バリウムを加えると、充電不足な使用条件での充電受入性を改善できるとしている。特許文献3は、平均粒子径が1〜4μmの硫酸バリウムを加えると、深い放電を頻繁に繰り返す際の充電受入性を改善できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JPH08-236119A
【特許文献2】JP2003-36882A
【特許文献3】JP2004-273305A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、制御弁式鉛蓄電池の高率放電性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、鉛粉と硫酸バリウムとを含む負極活物質と、鉛粉を含む正極活物質と、電解液を保持する保液体とを有する制御弁式鉛蓄電池において、
前記硫酸バリウムは最大2次粒子径が10μm以下、平均2次粒子径が1.0μm以上2.5μm以下、さらに平均1次粒子径が0.5μm以上1.8μm以下であり、かつ負極活物質中の硫酸バリウム含有量が0.5mass%以上であることを特徴とする。
【0007】
図3に最大2次粒子径と、高率放電の持続時間との関係を示す。ここでは負極活物質中の硫酸バリウムの含有量は、0.36mass%、0.40mass%、0.60mass%、1.00mass%、1.40mass%の5種類とした。硫酸バリウム含有量を共通にして、最大2次粒子径を増すと、高率放電の持続時間が減少した。そして最大2次粒子径が10μm超では、硫酸バリウム含有量を0.4mass%以上に増しても、高率放電の持続時間は増加しなかった。これに対して最大2次粒子径が10μm以下では、硫酸バリウム含有量を増すと高率放電の持続時間も増加し、高率放電性能を向上することができた。
【0008】
負極活物質中の硫酸バリウムの最大2次粒子径は、以下のようにして測定する。満充電した鉛蓄電池から負極板を取り出し、水洗と乾燥とにより硫酸を除去する。次いで負極活物質の断面が現れるように負極板を切断し、5個所においてEPMA(Electron Probe Micro Analysis)により、Ba原子の分布から硫酸バリウムの粒子を検出する。硫酸バリウム粒子を含む最小の直径の円を最大2次粒子径とし、5個所の画像での最大の2次粒子径を求める。図4に2次粒子径の求め方を示し、硫酸バリウム粒子2を含む最小の円4の直径Dが2次粒子径である。また硫酸バリウム含有量は例えばICP分析により求めることができる。
【0009】
硫酸バリウムでは1次粒子の凝集によって2次粒子が発達する。最大2次粒子径が小さな硫酸バリウムを製造するには、
・ 篩い分け、サイクロン等により大きな2次粒子を除去する、
・ 硫酸バリウムを水等に懸濁させ、撹拌、超音波等により2次粒子を破壊する、
・ 負極ペーストの製造時に混練条件を強めて、鉛粉との摩擦により2次粒子を破壊する、
等のことが可能である。
【0010】
好ましくは、負極活物質中の硫酸バリウム含有量は好ましくは0.6mass%以上とする。
また負極活物質中の硫酸バリウム含有量は好ましくは2mass%以下とし、より好ましくは1.5mass%以下とする。上限と下限とを含む範囲では、負極活物質中の硫酸バリウム含有量は好ましくは0.5mass%以上2mass%以下とし、より好ましくは0.6mass%以上1.5mass%以下とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の負極板のEPMA画像
図2】比較例の負極板のEPMA画像
図3】低温高率放電の持続時間への、硫酸バリウムの最大2次粒子径の影響を示す特性図
図4】相当円直径を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0013】
ボールミル法で製造した鉛粉に、硫酸バリウムとカーボンブラックとリグニンとを加え、硫酸により混練して負極活物質ペーストとした。負極活物質ペーストをPb-Ca系の負極格子に充填し、熟成した。ボールミル法で製造した鉛粉に硫酸を加えて混練した正極活物質ペーストを、Pb-Ca系の正極格子に充填し熟成した。負極活物質の組成は、硫酸バリウムが0〜1.40mass%、カーボンブラックが0.5mass%、リグニンが0.2mass%で、残りが鉛粉である。鉛粉はバートンポット法等により製造しても良く、また鉛丹含有量等の鉛粉の酸化度は任意である。さらに硫酸バリウム以外の添加物の種類と含有量は任意で、また合成樹脂繊維等を含有させても良い。
【0014】
用いた硫酸バリウムの粒径分布は、比較例が4種類、実施例が3種類で、粒径分布を低温高率放電性能及び吸油量と共に表1に示す。比較例の硫酸バリウムはいずれも市販の硫酸バリウムで、実施例の硫酸バリウムは市販の硫酸バリウムを水に懸濁させて、粉砕用の媒体を備えたミルにより粉砕したものである。市販の硫酸バリウムも実施例の硫酸バリウムも、平均1次粒子径と平均2次粒子径には大差がなく、異なるのは最大2次粒子径で、実施例では9.3μm〜3.6μmと小さく、比較例では11.5μm〜25.9μmと大きい。また実施例では吸油量は14〜16ml/100gで、比較例では12〜13.5ml/100gで、実施例の方が比表面積が大きい。硫酸バリウムの平均1次粒子径はレーザー光散乱法により測定し、2次粒子径は硫酸バリウムを電子顕微鏡により観察し、図4に示す相当円直径Dを2次粒子径とした。そして最大2次粒子径を求めると共に、粒子径が大きな側から小さな側へ積算して、硫酸バリウム質量の50%が平均2次粒子径以上となるように、平均2次粒子径を求めた。
【0015】
負極板をリテイナーマットで両側から挟み込み、その外側に正極板を配置して、圧迫を加えた状態で、制御弁を備えた電槽に収容した。極板は負極板が5枚、正極板が6枚であった。リテイナーマットは、硫酸をシリカ等でゲル化したシートあるいは顆粒、硫酸を保持する多孔質のゴムシート、等の任意の保液体に変更しても良い。電槽に硫酸を注液してリテイナーマットと正極板及び負極板に吸収させ、5時間率容量の770%の電気量で化成し、5時間率容量が30Ah、出力2Vの制御弁式鉛蓄電池とし、硫酸バリウムの種類と含有量毎に鉛蓄電池を2個作製した。
【0016】
-15℃で150Aの定電流放電を、電池の端子電圧が1.0Vとなるまで行って、低温高率での放電持続時間を測定した。また充電後の負極板を切断し、断面から任意に選んだ5個所に対しEPMA画像を求めて、図4の相当円直径法により、硫酸バリウムの最大2次粒子径を測定した。なお表1の最大2次粒子径は硫酸バリウム単独での値であるが、負極板断面のEPMA画像から求めた最大2次粒子径と一致した。低温高率放電性能は自動車エンジン等の起動時の性能である高率放電性能を代表するもので、一般的には、低温高率放電性能が高いと、常温での高率放電性能も高い。
【0017】
図1は表1での実施例4の負極活物質のEPMA画像を、図2は比較例7の負極活物質のEPMA画像を示す。図の右側のスケールはBa原子の濃度を示し、この値が60%以上の暗い粒子は硫酸バリウムの2次粒子である。硫酸バリウム粒子の境界にBa濃度が42〜46%の明るい領域が白線で縁取られ、内部が暗く、輪郭が白い粒子が硫酸バリウムである。例えば図2の左下に粒子径が10μmを越える硫酸バリウムの2次粒子が見られるが、図1には10μmを越える硫酸バリウムの2次粒子は見られない。
【0018】
図3は低温高率放電の持続時間を示し、最大2次粒子径を増すと持続時間が低下すること、及び最大2次粒子径が10μmを越えると硫酸バリウム含有量を増しても持続時間は増加しないことが分かる。これに対して、最大2次粒子径が10μm以下では、硫酸バリウム含有量を増すと持続時間も増加するので、低温高率放電性能を向上させることができることが分かる。硫酸バリウムの粒径分布等と共に、結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
比較例2(硫酸バリウムの最大2次粒子径11.5μm、含有量0.40mass%)では、116%の放電持続時間が得られ、比較例では硫酸バリウム含有量を1.40mass%まで増しても、放電持続時間は116%を越えなかった。また最大2次粒子径が10μm以下の硫酸バリウムを加えても、含有量が0.40mass%までは、比較例と大差のない結果となった。しかし最大2次粒子径が10μm以下の硫酸バリウムを0.60mass%以上含有させると、放電持続時間は119%以上となった。例えば硫酸バリウム含有量が1.40mass%では、比較例では110%以下で、実施例では120%以上となった。
【0021】
図3及び表1から、硫酸バリウムの最大2次粒子径を10μm以下とすることにより、低温高率放電性能が向上することが分かる。また実施例では最大9.3μmであったので、最大2次粒子径は9.3μm以下が好ましい。最大2次粒子径の下限は重要ではないが、平均2次粒子径が2.0μm未満の硫酸バリウムを用いているので、最大2次粒子径は2.0μm以上が好ましく、特に3.0μm以上が好ましい。さらに硫酸バリウムの吸油量は14ml/100g以上が好ましく、特に14〜16ml/100gが好ましい。また負極活物質中の硫酸バリウム含有量は0.6〜1.4mass%を中心とする範囲で良い結果が得られるので、0.5mass%以上、好ましくは0.6mass%以上とし、また好ましくは2.0mass%以下、特に好ましくは1.5mass%以下とする。硫酸バリウムの平均1次粒子径は例えば0.5μm以上1.8μm以下、好ましくは0.5μm以上1.6μm以下とし、平均2次粒子径は例えば1.0μm以上2.5μm以下、好ましくは1.0μm以上2.2μm以下とする。
【0022】
実施例では、硫酸バリウムの最大2次粒子径を10μm以下にし、かつ硫酸バリウム含有量を0.5mass%以上にすることにより、高率放電性能を向上できる。
【符号の説明】
【0023】
2 硫酸バリウム粒子
4 最小の円
図4
図1
図2
図3