特許第5995237号(P5995237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995237
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞からの好酸球の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0787 20100101AFI20160908BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160908BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160908BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   C12N5/0787
   C12Q1/02
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-546958(P2012-546958)
(86)(22)【出願日】2011年12月2日
(86)【国際出願番号】JP2011077955
(87)【国際公開番号】WO2012074106
(87)【国際公開日】20120607
【審査請求日】2014年12月2日
(31)【優先権主張番号】61/419,496
(32)【優先日】2010年12月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】中畑 龍俊
(72)【発明者】
【氏名】辻 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】馬 峰
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 博久
(72)【発明者】
【氏名】松本 健治
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/120891(WO,A2)
【文献】 国際公開第99/003980(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/066684(WO,A1)
【文献】 都留英美 他,ES細胞から好酸球への分化,炎症と免疫,2006年,Vol.14, No.1,p.3-9
【文献】 UEDA T. et al.,Expansion of human NOD/SCID-repopulating cells by stem cell factor, Flk2/Flt3 ligand, thrombopoietin,J Clin Invest.,2000年,Vol.105, No.7,p.1013-1021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09 − 15/90
C12N 5/07 − 5/10
C12Q 1/02
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト人工多能性幹細胞からヒト好酸球を製造する方法であって、以下の工程を含む方法。(1)ヒト人工多能性幹細胞をVEGFの存在下で哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞と共培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞をIL-3、IL-6、Flt3リガンド、SCF、TPOおよび血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞をIL-3、SCF、GM-CSFおよび血清を含有する培地を用い
て浮遊培養する工程。
【請求項2】
さらに、以下の工程を含む、請求項1に記載の方法。
(4)工程(3)で得られた細胞をIL-3、IL-5および血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程。
【請求項3】
前記哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞が、AGMS-3である、請求項1または2
記載の方法。
【請求項4】
工程(2)、工程(3)および工程(4)がそれぞれ7日間である、請求項2または3
記載の方法。
【請求項5】
工程(2)、工程(3)および工程(4)における血清濃度が10%である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
製造されたヒト好酸球が、サイトカインの刺激に応答して遊走する好酸球である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
サイトカインが、IL-5、Eotaxinおよび/またはfMLPである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法でヒト人工多能性幹細胞からヒト好酸球を製造し、得られたヒト好酸球と試験物質とを接触して、当該好酸球の遊走能を減少させる試験物質を選択する、気管支喘息、アレルギー性疾患、またはアトピー性皮膚炎の治療薬をスクリーニングする方法。
【請求項9】
前記ヒト人工多能性幹細胞が、気管支喘息、アレルギー性疾患、またはアトピー性皮膚炎を罹患する対象の体細胞から製造されたヒト人工多能性幹細胞である、請求項8に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞からヒト好酸球を効率よく製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、(1)ヒト多能性幹細胞をVEGFの存在下で哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞と共培養する工程、(2)IL-3、IL-6、Flt3リガンド、SCF、TPOおよび血清を含有する培地を用いて培養する工程、(3)IL-3、SCF、GM-CSFおよび血清を含有する培地を用いて培養する工程、および任意に(4)IL-3、IL-5および血清を含有する培地を用いて培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞からヒト好酸球を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好酸球は骨髄由来の顆粒球であり、自然免疫および獲得免疫のいずれの場合においても炎症部位にリクルートされる。このようにリクルートされた好酸球は、アレルギー疾患や喘息などの疾患に大きく関与している。喘息、花粉症、鼻炎、皮膚炎の主な原因であるアレルギー反応の異常は、人口の20%以上が有しているといわれ、社会上の問題となっている。
現在、アレルギー性疾患の治療薬の開発と評価のため好酸球を用いることが求められている。
【0003】
近年、線維芽細胞に、Oct3/4, Sox2, Klf4及びc-Myc遺伝子を導入し強制発現させることによって、マウスおよびヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)が相次いで樹立された(特許文献1, 非特許文献1, 2)。このヒトiPS細胞もしくは胚性幹細胞などの多能性幹細胞から効率よく分化誘導し成熟したヒト好酸球を得る方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2007/069666 A1
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 126: 663-676 (2006)
【非特許文献2】Takahashi, K. et al., Cell, 131: 861-872 (2007)
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、多能性幹細胞から効率よく好酸球を製造することである。したがって、本発明の課題は、ヒト多能性幹細胞、特にヒト人工多能性幹細胞を好酸球へ分化誘導する培養条件を提供することである。
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、まず樹立された人工多能性幹細胞をマウス胎仔のAGM領域から分離された細胞と共培養を行った後、得られた細胞を適切なサイトカインを含有する培地へと段階ごとに交換することで成熟した好酸球を分化誘導することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ヒト多能性幹細胞からヒト好酸球を製造する方法であって、以下の工程を含む方法。
(1)ヒト多能性幹細胞をVEGF(血管内皮細胞増殖因子)の存在下で哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞と共培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞をIL-3、IL-6、Flt3リガンド、SCF(幹細胞因子)、TPO(トロンボポエチン)および血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞をIL-3、SCF、GM-CSFおよび血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程、および任意に
(4)工程(3)で得られた細胞をIL-3、IL-5および血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程。
[2]前記哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞が、AGMS-3である、[1]に記載の方法。
[3]ヒト多能性幹細胞が、ヒト人工多能性幹細胞である、[1]に記載の方法。
[4]工程(2)、工程(3)および工程(4)がそれぞれ7日間である、[1]に記載の方法。
[5]工程(2)、工程(3)および工程(4)における血清濃度が10%である、[1]に記載の方法。
[6]製造されたヒト好酸球が、サイトカインの刺激に応答して遊走する好酸球である、[1]に記載の方法。
[7]サイトカインが、IL-5、Eotaxinおよび/またはfMLP(N‐Formyl‐Met‐Leu‐Phe‐OH)である、[6]に記載の方法。
[8][1]に記載の方法でヒト人工多能性幹細胞からヒト好酸球を製造し、得られたヒト好酸球と試験物質とを接触して、当該好酸球の遊走能を減少させる試験物質を選択する、気管支喘息,アレルギー性疾患、またはアトピー性皮膚炎の治療薬をスクリーニングする方法。
[9]前記ヒト人工多能性幹細胞が、気管支喘息,アレルギー性疾患、またはアトピー性皮膚炎を罹患する対象の体細胞から製造された人工多能性幹細胞である、[8]に記載のスクリーニング方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ES細胞(H1)由来のCD34陽性細胞へ各サイトカインの組み合わせ((1)ヒトIL-3、ヒトIL-5およびヒトGM-CSF、(2)ヒトIL-3およびヒトGM-CSF、(3)ヒトIL-3およびヒトIL-5、(4)ヒトIL-3、(5)ヒトGM-CSF、(6)ヒトIL-5)を添加した培地で培養した後の全細胞数とeosinophil peroxidase(EPO)陽性細胞数(黒色)のグラフである。左図は、培養14日目の結果を示し、右図は培養21日目の結果を示す。図中の数字は、EPO陽性細胞率を表す。
図2】末梢血由来の好酸球とES細胞(H1)由来の好酸球のEDN放出能を表す。
図3】各濃度のIL-5(上図)、Eotaxin(中央)およびfMLP(下図)を添加した際のES細胞(H1)由来の好酸球の遊走能を示す。
図4】iPS細胞(253G1、253G4、201B6および201B7)由来の好酸球のEPO、MBP、2D7およびProMBP1による染色像を示す顕微鏡写真。図中の数字は各マーカーの陽性細胞率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ヒト多能性幹細胞を適切なサイトカインを含有する培地を用いて分化誘導し、ヒト好酸球を製造する方法を提供する。
【0011】
I.多能性幹細胞
本発明において「多能性幹細胞」とは、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)に代表される未分化・多能性を維持する細胞を指す。ES細胞は体細胞から核初期化されて生じたES細胞であっても良い。またES細胞以外では、始原生殖細胞に由来するEmbryonic Germ Cell(EG cell)、精巣から単離されたMutipotent germline stem cell (mGS cell)、骨髄から単離されるMultipotent adult progenitor cell (MAPC)などが挙げられる。本発明において、これら多能性幹細胞の由来はヒト由来である。本発明において、多能性幹細胞は好ましくはES細胞またはiPS細胞である。
【0012】
iPS細胞の製造方法は以下に示す。
II.iPS細胞の製造方法
(A) 体細胞ソース
iPS細胞作製のための出発材料として用いることのできる体細胞は、ヒト由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取されるヒトの齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0013】
患者の薬剤有効性を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、同様に患者本人から体細胞を採取することが望ましい。
ヒトから分離した体細胞は、核初期化工程に供するに先立って、細胞の種類に応じてその培養に適した自体公知の培地で前培養することができる。そのような培地としては、例えば、約5〜20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、それらに限定されない。核初期化物質及びp53の機能阻害物質(さらに必要に応じて、他のiPS細胞の樹立効率改善物質)との接触に際し、例えば、カチオニックリポソームなど導入試薬を用いる場合には、導入効率の低下を防ぐため、無血清培地に交換しておくことが好ましい場合がある。
【0014】
(B) 核初期化物質
本発明において「核初期化物質」とは、体細胞からiPS細胞を誘導することができるタンパク性因子(群)またはそれをコードする核酸(ベクターに組み込まれた形態を含む)でありうる。本発明に用いられる核初期化物質は、WO 2007/069666に記載の遺伝子であってもよい。より詳細には、Oct3/4, Klf4, Klf1, Klf2, Klf5, Sox2, Sox1, Sox3, Sox15, Sox17, Sox18, c-Myc, L-Myc, N-Myc, TERT, SV40 Large T antigen, HPV16 E6, HPV16 E7, Bmil, Lin28, Lin28b, 、Sall1, Sall4, Nanog, Esrrb, Esrrg, Nr5a2, Tbx3またはGlis1が例示される。これらの初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、組み合わされて使用されてもよく、上記初期化物質を、少なくとも1つ、2つもしくは3つ含む組み合わせであり、好ましくは4つを含む組み合わせである。具体的には、以下の組み合わせが例示される(以下においては、タンパク性因子の名称のみを記載する)。
(1) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc(ここで、Sox2はSox1, Sox3, Sox15, Sox17またはSox18で置換可能である。Klf4はKlf1, Klf2またはKlf5で置換可能である。また、c-MycはL-MycまたはN-Mycで置換可能である。)
(2) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, TERT, SV40 Large T antigen(以下、SV40LT)
(3) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, TERT, HPV16 E6
(4) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, TERT, HPV16 E7
(5) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, TERT, HPV6 E6, HPV16 E7
(6) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, TERT, Bmil
(7) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, Lin28
(8) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, Lin28, SV40LT
(9) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, Lin28, TERT, SV40LT
(10) Oct3/4, Klf4, Sox2, c-Myc, SV40LT
(11) Oct3/4, Esrrb, Sox2, c-Myc (EsrrbはEsrrgで置換可能である。)
(12) Oct3/4, Klf4, Sox2
(13) Oct3/4, Klf4, Sox2, TERT, SV40LT
(14) Oct3/4, Klf4, Sox2, TERT, HPV16 E6
(15) Oct3/4, Klf4, Sox2, TERT, HPV16 E7
(16) Oct3/4, Klf4, Sox2, TERT, HPV6 E6, HPV16 E7
(17) Oct3/4, Klf4, Sox2, TERT, Bmil
(18) Oct3/4, Klf4, Sox2, Lin28
(19) Oct3/4, Klf4, Sox2, Lin28, SV40LT
(20) Oct3/4, Klf4, Sox2, Lin28, TERT, SV40LT
(21) Oct3/4, Klf4, Sox2, SV40LT
(22) Oct3/4, Esrrb, Sox2 (EsrrbはEsrrgで置換可能である。)
(23) Oct3/4, Klf4, Sox2, L-Myc
(24) Oct3/4, Klf4, Sox2, L-Myc, Lin28, Glis1
上記において、Lin28に代えてLin28bを用いることもできる。
また、上記(1)-(24)には該当しないが、それらのいずれかにおける構成要素をすべて含み、且つ任意の他の物質をさらに含む組み合わせも、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。また、核初期化の対象となる体細胞が上記(1)-(24)のいずれかにおける構成要素の一部を、核初期化のために十分なレベルで内在的に発現している条件下にあっては、当該構成要素を除いた残りの構成要素のみの組み合わせもまた、本発明における「核初期化物質」の範疇に含まれ得る。
これらの組み合わせの中で、Oct3/4, Sox2, Klf4およびc-Mycの4因子並びにOct3/4, Sox2, およびKlf4の3因子が、好ましい核初期化物質の例として挙げられる。さらにSV40 Large T antigenを加えた5因子または4因子も好ましい。
【0015】
上記の各核初期化物質のヒトcDNA配列情報は、WO 2007/069666またはWO2010/098419に記載のNCBI accession numbersを参照することにより取得することができ、当業者は容易にこれらのcDNAを単離することができる。尚、Oct3/4, Sox2, Klf4、c-Myc、Lin28、Lin28b、Esrrb、EsrrgのヒトcDNA配列情報は、それぞれ下記にしめす;Oct3/4(NM_002701)、Sox2(NM_003106)、Klf4(NM_004235)、c-Myc(NM_002467)、Lin28(NM_024674)、Lin28b(NM_001004317)、Esrrb(NM_004452)およびEsrrg(NM_001438)。
【0016】
核初期化物質としてタンパク性因子自体を用いる場合には、得られたcDNAを適当な発現ベクターに挿入して宿主細胞に導入し、該細胞を培養して得られる培養物から組換えタンパク性因子を回収することにより調製することができる。一方、核初期化物質としてタンパク性因子をコードする核酸を用いる場合、得られたcDNAを、ウイルスベクター、プラスミドベクター、エピゾーマルベクター等に挿入して発現ベクターを構築し、核初期化工程に供される。
【0017】
(C) 核初期化物質の体細胞への導入方法
核初期化物質の体細胞への導入は、該物質がタンパク性因子である場合、自体公知の細胞へのタンパク質導入方法を用いて実施することができる。そのような方法としては、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)もしくは細胞透過性ペプチド(CPP)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)及びProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)及びChariot Kit(Active Motif)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコルに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。核初期化物質を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
【0018】
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT (Frankel, A. et al, Cell 55, 1189-93 (1988); Green, M. & Loewenstein, P.M. Cell 55, 1179-88 (1988))、Penetratin (Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994))、Buforin II (Park, C. B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000))、Transportan (Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998))、MAP (model amphipathic peptide) (Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998))、K-FGF (Lin, Y. Z. et al. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995))、Ku70 (Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003))、Prion (Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002))、pVEC (Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001))、Pep-1 (Morris, M. C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001))、Pep-7 (Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002))、SynBl (Rousselle, C. et al. MoI. Pharmacol. 57, 679-86 (2000))、HN-I (Hong, F. D. & Clayman, G L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000))、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。PTD由来のCPPとしては、11R (Cell Stem Cell, 4:381-384(2009)) や9R (Cell Stem Cell, 4:472-476(2009))等のポリアルギニンが挙げられる。
【0019】
核初期化物質のcDNAとPTDもしくはCPP配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。
タンパク質導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下等)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回又は4回)繰り返して行うことができる。導入操作を繰り返し行う場合の間隔としては、例えば6〜48時間、好ましくは12〜24時間が挙げられる。
iPS細胞の樹立効率を重視するのであれば、核初期化物質を、タンパク性因子自体としてではなく、それをコードする核酸の形態で用いることが好ましい。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。好ましくは該核酸は二本鎖DNA、特にcDNAである。
【0020】
核初期化物質のcDNAは、宿主となる体細胞で機能し得るプロモーターを含む適当な発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクター、動物細胞発現プラスミド(例、pA1-11,pXT1,pRc/CMV,pRc/RSV,pcDNAI/Neo)などが用いられ得る。
用いるベクターの種類は、得られるiPS細胞の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、アデノウイルスベクター、プラスミドベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクター、エピゾーマルベクターなどが使用され得る。
発現ベクターにおいて使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0021】
発現ベクターは、プロモーターの他に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子、SV40複製起点などを含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
核初期化物質である核酸(初期化遺伝子)は、各々別個の発現ベクター上に組み込んでもよいし、1つの発現ベクターに2種類以上、好ましくは2〜3種類の遺伝子を組み込んでもよい。遺伝子導入効率の高いレトロウイルスやレンチウイルスベクターを用いる場合は前者が、プラスミド、アデノウイルス、エピソーマルベクターなどを用いる場合は後者を選択することが好ましい。さらに、2種類以上の遺伝子を組み込んだ発現ベクターと、1遺伝子のみを組み込んだ発現ベクターとを併用することもできる。
【0022】
上記において複数の初期化遺伝子(例えば、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycから選択される2つ以上、好ましくは2〜3遺伝子)を1つの発現ベクターに組み込む場合、これら複数の遺伝子は、好ましくはポリシストロニック発現を可能にする配列を介して発現ベクターに組み込むことができる。ポリシストロニック発現を可能にする配列を用いることにより、1種類の発現ベクターに組み込まれている複数の遺伝子をより効率的に発現させることが可能になる。ポリシストロニック発現を可能にする配列としては、例えば、口蹄疫ウイルスの2A配列(PLoS ONE3, e2532, 2008、Stem Cells 25, 1707, 2007)、IRES配列(U.S. Patent No. 4,937,190)などが挙げられ、好ましくは2A配列を用いることができる。
初期化遺伝子を含む発現ベクターは、ベクターの種類に応じて、自体公知の手法により細胞に導入することができる。例えば、ウイルスベクターの場合、該核酸を含むプラスミドを適当なパッケージング細胞(例、Plat-E細胞)や相補細胞株(例、293細胞)に導入して、培養上清中に産生されるウイルスベクターを回収し、各ウイルスベクターに応じた適切な方法により、該ベクターを細胞に感染させる。例えば、ベクターとしてレトロウイルスベクターを用いる具体的手段が WO2007/69666、Cell, 126, 663-676 (2006) 及び Cell, 131, 861-872 (2007) に開示されており、ベクターとしてレンチウイルスベクターを用いる場合については、Science, 318, 1917-1920 (2007) に開示がある。iPS細胞を再生医療のための細胞ソースとして利用する場合、初期化遺伝子の発現(再活性化)は、iPS細胞由来の分化細胞から再生された組織における発癌リスクを高める可能性があるので、初期化遺伝子は細胞の染色体に組み込まれず、一過的に発現することが好ましい。かかる観点からは、染色体への組込みが稀なアデノウイルスベクターの使用が好ましい。アデノウイルスベクターを用いる具体的手段は、Science, 322, 945-949 (2008)に開示されている。また、アデノ随伴ウイルスも染色体への組込み頻度が低く、アデノウイルスベクターと比べて細胞毒性や炎症惹起作用が低いので、別の好ましいベクターとして挙げられる。センダイウイルスベクターは染色体外で安定に存在することができ、必要に応じてsiRNAにより分解除去することができるので、同様に好ましく利用され得る。センダイウイルスベクターについては、J. Biol. Chem., 282, 27383-27391 (2007) や特許第3602058号に記載のものを用いることができる。
【0023】
レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを用いる場合は、いったん導入遺伝子のサイレンシングが起こったとしても、後に再活性化される可能性があるので、例えば、Cre/loxPシステムを用いて、不要となった時点で核初期化物質をコードする核酸を切り出す方法が好ましく用いられ得る。即ち、該核酸の両端にloxP配列を配置しておき、iPS細胞が誘導された後で、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞にCreリコンビナーゼを作用させ、loxP配列に挟まれた領域を切り出すことができる。また、LTR U3領域のエンハンサー−プロモーター配列は、挿入突然変異によって近傍の宿主遺伝子を上方制御する可能性があるので、当該配列を欠失、もしくはSV40などのポリアデニル化配列で置換した3'-自己不活性化(SIN)LTRを使用して、切り出されずゲノム中に残存するloxP配列より外側のLTRによる内因性遺伝子の発現制御を回避することがより好ましい。Cre-loxPシステムおよびSIN LTRを用いる具体的手段は、Chang et al., Stem Cells, 27: 1042-1049 (2009) に開示されている。
【0024】
一方、非ウイルスベクターであるプラスミドベクターの場合には、リポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。ベクターとしてプラスミドを用いる具体的手段は、例えばScience, 322, 949-953 (2008) 等に記載されている。
【0025】
プラスミドベクターやアデノウイルスベクター等を用いる場合、遺伝子導入は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下など)行うことができる。2種以上の発現ベクターを体細胞に導入する場合には、これらの全ての種類の発現ベクターを同時に体細胞に導入することが好ましいが、この場合においても、導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下など)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回又は4回)繰り返して行うことができる。
【0026】
尚、アデノウイルスやプラスミドを用いる場合でも、導入遺伝子が染色体に組み込まれることがあるので、結局はサザンブロットやPCRにより染色体への遺伝子挿入がないことを確認する必要がある。そのため、上記Cre-loxPシステムのように、いったん染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、該遺伝子を除去する手段を用いることは好都合であり得る。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる。piggyBacトランスポゾンを用いる具体的手段は、Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)、Woltjen et al., Nature, 458: 766-770 (2009) に開示されている。
【0027】
別の好ましい非組込み型ベクターとして、染色体外で自律複製可能なエピゾーマルベクターが挙げられる。エピゾーマルベクターを用いる具体的手段は、Yu et al., Science, 324, 797-801 (2009)に開示されている。本発明の特に好ましい一実施態様においては、エピソーマルベクターの複製に必要なベクター要素の5'側および3'側にloxP配列を同方向に配置したエピソーマルベクターに初期化遺伝子を挿入した発現ベクターを構築し、これを体細胞に導入することにより、該ベクターを構成する外来核酸因子(初期化遺伝子を含む)が一過的にも細胞のゲノム中に組み込まれることなく、早い段階でエピソームとして存在する該ベクターがiPS細胞から脱落する。
【0028】
本発明に用いられるエピゾーマルベクターとしては、例えば、EBV、SV40等に由来する自律複製に必要な配列をベクター要素として含むベクターが挙げられる。自律複製に必要なベクター要素としては、具体的には、複製開始点と、複製開始点に結合して複製を制御するタンパク質をコードする遺伝子であり、例えば、EBVにあっては複製開始点oriPとEBNA-1遺伝子、SV40にあっては複製開始点oriとSV40 large T antigen遺伝子が挙げられる。
【0029】
また、エピゾーマル発現ベクターは、初期化遺伝子の転写を制御するプロモーターを含む。該プロモーターとしては、前記と同様のプロモーターが用いられ得る。また、エピゾーマル発現ベクターは、前記と同様に、所望によりエンハンサー、ポリA付加シグナル、選択マーカー遺伝子などをさらに含有していてもよい。選択マーカー遺伝子としては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0030】
エピソーマルベクターは、例えばリポフェクション法、リポソーム法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム共沈殿法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃法などを用いて該ベクターを細胞に導入することができる。具体的には、例えばScience, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0031】
iPS細胞から初期化遺伝子の複製に必要なベクター要素が除去されたか否かの確認は、該ベクター要素内部および/またはloxP配列近傍の塩基配列を含む核酸をプローブまたはプライマーとして用い、該iPS細胞から単離したエピソーム画分を鋳型としてサザンブロット分析またはPCR分析を行い、バンドの有無または検出バンドの長さを調べることにより実施することができる。エピソーム画分の調製は当該分野で周知の方法と用いて行えばよく、例えば、Science, 324: 797-801 (2009)等に記載される方法を用いることができる。
【0032】
(D) p53の機能阻害物質
本発明は、上記の核初期化物質に加えて、p53の機能阻害物質を接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をさらに高めることが期待できる。p53タンパク質の機能を阻害する物質としては、例えば、WO 2009/157593に記載のp53の化学的阻害物質、p53のドミナントネガティブ変異体もしくはそれをコードする核酸、抗p53アンタゴニスト抗体もしくはそれをコードする核酸、p53応答エレメントのコンセンサス配列を含むデコイ核酸、p53経路を阻害する物質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
(E) iPS細胞の樹立効率改善物質
上記の初期化因子等に加え、公知の他のiPS細胞樹立効率改善物質を体細胞に接触させることにより、iPS細胞の樹立効率をさらに高めることが期待できる。そのようなiPS細胞の樹立効率改善物質としては、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool( (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-calcium channel agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、UTF1(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、2i/LIF (2iはmitogen-activated protein kinase signallingおよびglycogen synthase kinase-3の阻害剤、PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、ES細胞特異的miRNA(例えば、miR-302-367クラスター (Mol. Cell. Biol. doi:10.1128/MCB.00398-08、WO2009/075119)、miR-302 (RNA (2008) 14: 1−10)、miR-291-3p, miR-294およびmiR-295 (以上、Nat. Biotechnol. 27: 459-461 (2009)))等が挙げられるが、それらに限定されない。前記において核酸性の発現阻害剤はsiRNAもしくはshRNAをコードするDNAを含む発現ベクターの形態であってもよい。
尚、前記核初期化物質の構成要素のうち、例えば、SV40 large T等は、体細胞の核初期化のために必須ではなく補助的な因子であるという点において、iPS細胞の樹立効率改善物質の範疇にも含まれ得る。核初期化の機序が明らかでない現状においては、核初期化に必須の因子以外の補助的な因子について、それらを核初期化物質として位置づけるか、あるいはiPS細胞の樹立効率改善物質として位置づけるかは便宜的であってもよい。即ち、体細胞の核初期化プロセスは、体細胞への核初期化物質およびiPS細胞の樹立効率改善物質の接触によって生じる全体的事象として捉えられるので、当業者にとって両者を必ずしも明確に区別する必要性はない。
【0034】
(F) 培養条件による樹立効率の改善
体細胞の核初期化工程において低酸素条件下で細胞を培養することにより、iPS細胞の樹立効率をさらに改善することができる。本明細書において「低酸素条件」とは、細胞を培養する際の雰囲気中の酸素濃度が、大気中のそれよりも有意に低いことを意味する。具体的には、通常の細胞培養で一般的に使用される5-10% CO2/95-90%大気の雰囲気中の酸素濃度よりも低い酸素濃度の条件が挙げられ、例えば雰囲気中の酸素濃度が18%以下の条件が該当する。好ましくは、雰囲気中の酸素濃度は15%以下(例、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下など)、10%以下(例、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下など)、または5%以下(例、4%以下、3%以下、2%以下など)である。また、雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1%以上(例、0.2%以上、0.3%以上、0.4%以上など)、0.5%以上(例、0.6%以上、0.7%以上、0.8%以上、0.95以上など)、または1%以上(例、1.1%以上、1.2%以上、1.3%以上、1.4%以上など)である。
【0035】
細胞の環境において低酸素状態を創出する手法は特に制限されないが、酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーター内で細胞を培養する方法が最も容易であり、好適な例として挙げられる。酸素濃度の調節可能なCO2インキュベーターは、種々の機器メーカーから販売されている(例えば、Thermo scientific社、池本理化学工業、十慈フィールド、和研薬株式会社などのメーカー製の低酸素培養用CO2インキュベーターを用いることができる)。
【0036】
低酸素条件下で細胞培養を開始する時期は、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、体細胞への核初期化物質の接触より前であっても、該接触と同時であっても、該接触より後であってもよいが、例えば、体細胞に核初期化物質を接触させた直後から、あるいは接触後一定期間(例えば、1ないし10(例、2,3,4,5,6,7,8または9)日)おいた後に低酸素条件下で培養することが好ましい。
【0037】
低酸素条件下で細胞を培養する期間も、iPS細胞の樹立効率が正常酸素濃度(20%)の場合に比して改善されることを妨げない限り特に限定されず、例えば3日以上、5日以上、7日以上または10日以上で、50日以下、40日以下、35日以下または30日以下の期間等が挙げられるが、それらに限定されない。低酸素条件下での好ましい培養期間は、雰囲気中の酸素濃度によっても変動し、当業者は用いる酸素濃度に応じて適宜当該培養期間を調整することができる。また、一実施態様において、iPS細胞の候補コロニーの選択を、薬剤耐性を指標にして行う場合には、薬剤選択を開始する迄に低酸素条件から正常酸素濃度に戻すことが好ましい。
【0038】
さらに、低酸素条件下で細胞培養を開始する好ましい時期および好ましい培養期間は、用いられる核初期化物質の種類、正常酸素濃度条件下でのiPS細胞樹立効率などによっても変動してもよい。
【0039】
III. 多能性幹細胞の好酸球への分化誘導方法
本発明の多能性幹細胞の好酸球への分化誘導方法は、以下の4つの工程を含む方法である。
(1)ヒト多能性幹細胞をVEGFの存在下で哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞と共培養する工程、
(2)工程(1)で得られた細胞をIL-3、IL-6、Flt3リガンド、SCF、TPOおよび血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程、
(3)工程(2)で得られた細胞をIL-3、SCF、GM-CSFおよび血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程、および任意に
(4)工程(3)で得られた細胞をIL-3、IL-5および血清を含有する培地を用いて浮遊培養する工程。
【0040】
ここで、「AGM(aorta, gonad and mesonephros)領域」とは、胎仔内部の背側大動脈,生殖腺・中腎で囲まれた部分を指し、好ましくは、10.5日のマウス胎仔の前記領域である。AGM領域から分離された細胞は、好ましくは造血細胞を除くためにγ線処理される。AGM領域から分離された細胞として具体的には、特開2001−37471に記載の方法で樹立された細胞が挙げられ、この細胞ではVECAM-1、CD13およびSca-1が陽性であり、IL-6とoncostatin Mが産生されている。特に好ましくは、特開2001−37471に記載のAGM-S3である。共培養の際、ヒト多能性幹細胞に対してAGM領域から分離された細胞が過剰に存在していることが望ましい。また、AGM領域から分離された細胞は、共培養前に、放射線処理もしくはマイトマイシンC処理により増殖機能を欠損させることが望ましい。
【0041】
「浮遊培養」とは、非接着型の培養容器を用いて、細胞を培養することを意味する。
【0042】
Flt3リガンドとは、 NM_001459で示された核酸配列情報であらわされることができる、細胞膜貫通型のチロシンリン酸化酵素であるflt3をレセプターとするサイトカインである。
【0043】
本発明において使用するVEGF、IL-3、IL-5、IL-6、Flt3リガンド、SCF、TPOおよびGM-CSFなどのサイトカインは、天然のものを用いてもよいし、遺伝子工学により調製したリコンビナントサイトカインを用いてもよい。その際、これらのサイトカインの全長を含む必要は無く、レセプターとの結合に関る領域を含む一部分の蛋白質やペプチドでもよい。また、レセプターとの結合力を失わない程度にアミノ酸配列や立体構造に改変を加えた蛋白質やペプチドでもよい。さらには、これらのサイトカインのレセプターに対してアゴニストとして機能しうる蛋白質やペプチドや薬剤等でもよい。
【0044】
各サイトカインの濃度は、目的の細胞が得られる濃度であれば特に問わないが、VEGFの場合は、5 ng/mlから50 ng/mlでもよく、好ましくは、10 ng/mlから20 ng/mlであり、IL-3の場合は、5 ng/mlから50 ng/mlであり、好ましくは、10 ng/mlであり、IL-5の場合は、5 ng/mlから50 ng/mlであり、好ましくは、10 ng/mlであり、IL-6の場合は、50 ng/mlから200 ng/mlであり、好ましくは、100 ng/mlであり、Flt3リガンドの場合は、5 ng/mlから50 ng/mlであり、好ましくは、10 ng/mlであり、SCFの場合は、50 ng/mlから200 ng/mlであり、好ましくは、100 ng/mlであり、TPOの場合は、5 ng/mlから50 ng/mlであり、好ましくは、10 ng/mlであり、GM-CSFの場合は、5 ng/mlから50 ng/mlであり、好ましくは、10 ng/mlである。
血清の濃度は、5%から20%でもよく、好ましくは10%である。
【0045】
分化誘導の工程において用いる培地は、哺乳類細胞の培養用の培地ならばいずれのものを用いても良く、Iscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)、最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが例示され、好ましくは、IMDMである。また、培地には上記以外にも、アルブミン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax、非必須アミノ酸、ビタミン、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。
【0046】
工程(1)において、培養初期のストレスを軽減するため、ヒト多能性幹細胞と哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞とを、1日から5日、好ましくは3日間、VEGFを含まない多能性幹細胞用の培地で培養してもよい。多能性幹細胞用の培地として、例えば、H. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932 に記載の培地である(1) 10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培地(これらの培地にはさらに、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または(2) bFGFまたはSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)または霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地(リプロセル)、mTeSR-1)、などが含まれる培地が例示される。
【0047】
本発明における好酸球は、major basic protein (MBP) 、eosinophil cationic protein (ECP)、eosinophil peroxidase (EPO)、eosinophil-derived neurotoxin (EDN)をその顆粒内に有する細胞であり、より好ましくは、secretory immunoglobulin A (sIgA)の刺激によりEDNを放出する能力と、IL-5、EotaxinおよびfMLPの刺激により遊走能とを有する細胞である。
【0048】
各工程の期間は、「(1)ヒト多能性幹細胞をVEGFの存在下で哺乳動物胎仔のAGM領域から分離された細胞と共培養する」工程は、10日以上であり、好ましくは、10日以上18日以下であり、より好ましくは14日である。「(2)IL-3、IL-6、Flt3リガンド、SCF、TPOおよび血清を含有する培地を用いて浮遊培養する」工程は、4日以上であり、好ましくは、5日以上10日以下であり、より好ましくは7日である。「(3)IL-3、SCF、GM-CSFおよび血清を含有する培地を用いて浮遊培養する」工程は、4日以上であり、好ましくは、5日以上10日以下であり、より好ましくは7日である。「(4)IL-3、IL-5および血清を含有する培地を用いて浮遊培養する」工程は、4日以上であり、好ましくは、5日以上10日以下であり、より好ましくは7日である。
【0049】
IV.スクリーニング方法
有効成分のスクリーニング方法
本発明は、前述のようにして得られた好酸球と試験物質とを接触させ、当該好酸球の遊走能を減少させる物質のスクリーニング方法を提供する。
本発明における試験物質は、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
スクリーニングの方法としては、試験物質の非接触の場合の検出値と試験物質との接触の場合の検出値を比較して、接触時の検出値が、より低いものを有効成分として選択する方法である。
ここで、好酸球の遊走能の検出は、例えばtranswell(コーニング社)を用いて行う事ができる。
このようにして、スクリーニングされた試験物質は、気管支喘息,アレルギー性疾患およびアトピー性皮膚炎の治療薬として使用しうる。
【0050】
オーダーメード治療薬をスクリーニングする方法
本発明において、「オーダーメード治療薬」とは、ある患者個人の個性にかなった最適な治療薬を意味する。
本発明では、気管支喘息,アレルギー性疾患およびアトピー性皮膚炎を罹患する対象の体細胞から製造された人工多能性幹細胞を分化誘導させることにより得られた前記好酸球と既存の治療薬を接触させ、該好酸球に対する遊走能を減少させる治療薬のスクリーニング方法を提供する。このように、スクリーニングされた治療薬は、人工多能性幹細胞を樹立された対象にとって最適な治療薬と成りうる。
【0051】
本発明における既存の治療薬として、ケミカルメディエーター遊離抑制剤(例えば、クロモグリク酸ナトリウム(インタール)、トラニラスト(リザベン)、アンレキサノクス(ソルファ)、ペミロラストカリウム(アレギサール)等)、ケミカルメディエーター受容体拮抗薬(例えば、(1)d-マレイン酸クロルフェニラミン(ポララミン)、フマル酸クレマスチン(タベジール)、フマル酸ケトチフェン(ザジデン)、塩酸アゼラスチン(アゼプチン)、オキサトミド(セルテクト)、メキタジン(ゼスラン、ニポラジン)、フマル酸エメダスチン(ダレン、レミカット)、塩酸セチリジン(ジルテック)、塩酸レボカバスチン(リボスチン)、塩酸フェキソフェナジン(アレグラ)、塩酸オロパタジン(アレロック)等の抗ヒスタミン薬、(2)ラマトロバン(バイナス)等のトロンボキサンA2拮抗薬、(3)プランルカスト水和物(オノン)等のロイコトリエン拮抗薬等)、Th2サイトカイン抑制薬(例えば、トシル酸スプラタスト(アイピーディー)等)、ステロイド薬(例えば、(1)プロピオン酸ベクロメタゾン(ベコナーゼ、アルデシン、リノコート)、フルニソリド(シナクリン)、プロピオン酸フルチカゾン(フルナーゼ)等の局所ステロイド薬、(2)セレスタミン(マレイン酸クロルフェニラミン配合剤)等の経口ステロイド薬等)、自律神経作用薬(例えば、(1)硝酸ナファゾリン(プリビナ)、硝酸テトラヒドロゾリン(ナーベル)、塩酸オキシメタゾリン(ナシビン)、塩酸トラマゾリン(トーク)等のα刺激薬、(2)臭化イプラトロピウム(アトロベント)、臭化フルトピウム(フルブロン)等の抗コリン薬等)、生物製剤(例えば、ノイロトロピン、アストレメジン、MSアンチゲン等)等が挙げられるが、これらに限定されない。今後、開発され、実際にスクリーニングを行う時点で利用可能となっている治療薬であってもよい。
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0053】
細胞
AGM-S3細胞およびiPS細胞(253G1)の樹立および培養は、以下に記載の従来の方法で行った(特開2001-37471およびNakagawa M, et al., Nat Biotechnol 26 (1), 101, 2008)。簡潔には、AGMS-3細胞は、マウス胎仔からAGM領域を切除し、造血細胞を除去させるためγ線を照射した後、限界希釈法によりクローニングして樹立した。このAGMS-3は、ヒト造血幹細胞の増殖支持活性を有することが確認されている。
ES細胞は、Thomson JA, et al, Science. 282:1145-7 (1998)に記載のH1株を用いた。また、iPS細胞は、Takahashi K, et al, Cell. 131:861-72 (2007)に記載の201B6および201B7、およびNakagawa M, et al, Nat Biotechnol. 26:101-6253 (2008)に記載の253G1および253G4を用いた。なお、H1は、WiCell Reserch Instituteから、201B6、201B7、253G1および253G4はRIKEN CELL BANKから入手することも可能である。
【0054】
好酸球への分化誘導法の検討
あらかじめ培養し放射線処理(15-18 Gy)を行ったAGMS-3細胞の上に、ピックアップしたES細胞(H1)のコロニーを置き、ES細胞またはiPS細胞の維持培地( 10 μg/mlbFGFを含有するPrimate ES培地(ReproCELL))中で、3日間培養した。続いて、10% FBS (Hyclone社)、Non-essential Amino Acid Solution (Gibco社)、Transferrin (Sigma社)、2-メルカプトエタノール (Wako社)、Glutamine (Gibco社)、Ascorbic Acid (Sigma社)および 20 ng/ml のrhVEGF (Wako社)を含有するIMDM (Gibco社)へ培地交換をし、11日間培養を続けた。さらに、0.25% trypsin/EDTA solution (Gibco社)を用いてプレートをから剥離させ、10% FBS 、100ng/mlのヒトSCF(Wako社)、10ng/mlのヒトIL-3、100ng/mlのヒトIL-6、10ng/mlのヒトFlt3-ligand (R&D Systems)および10ng/mlのヒトthrombopoietin(TPO)を含有するIMDMを培地として用いて7日間、非接着ディッシュ(Sumilon)上で浮遊培養した。ここで得られたCD34陽性細胞をFACSにより5 ×103個を単離し、各サイトカインの組み合わせ((1)ヒトIL-3、ヒトIL-5およびヒトGM-CSF、(2)ヒトIL-3およびヒトGM-CSF、(3)ヒトIL-3およびヒトIL-5、(4)ヒトIL-3、(5)ヒトGM-CSF、(6)ヒトIL-5)を培地へ添加して浮遊培養を14日および21日行った。細胞数およびeosinophil peroxidase(EPO)の陽性率を測定したところ、(1)ヒトIL-3、ヒトIL-5およびヒトGM-CSFを用いた場合には、細胞数が多くなり、(3)ヒトIL-3およびヒトIL-5を用いた場合には、EPO陽性率が高くなった(図1)。以上の検討から、以下の好酸球の誘導方法を確立した。
【0055】
好酸球への分化誘導法
ステップ1
あらかじめ培養し放射線処理(15-18 Gy)を行ったAGMS-3細胞の上に、ピックアップしたES細胞(H1)またはiPS細胞(201B6、201B7、253G1および253G4)コロニーを置き、ES細胞またはiPS細胞の維持培地中で、3日間培養した。続いて、10% FBS (Hyclone社)、Non-essential Amino Acid Solution (Gibco社)、Transferrin (Sigma社)、2-メルカプトエタノール (Wako社)、Glutamine (Gibco社)、Ascorbic Acid (Sigma社)および 20 ng/ml のrhVEGF (Wako社)を含有するIMDM (Gibco社)へ培地交換をし、11日間培養を続けた。
ステップ2
ステップ1で樹立した細胞を0.25% trypsin/EDTA solution (Gibco社)を用いてプレートをから剥離させ、10% FBS 、100ng/mlのヒトSCF(Wako社)、10ng/mlのヒトIL-3、100ng/mlのヒトIL-6、10ng/mlのヒトFlt3-ligand (R&D Systems)および10ng/mlのヒトthrombopoietin(TPO)を含有するIMDMを培地として用いて7日間、非接着ディッシュ(Sumilon)上で浮遊培養した。
ステップ3
10% FBS 、100ng/mlのSCF、10ng/mlのヒトIL-3および10ng/mlのヒトGM-CSFを含有したIMDM培地へ交換し、7日間浮遊培養した。
ステップ4
10% FBS 、10ng/mlのヒトIL-3および10ng/mlのヒトIL-5を含有したIMDM培地へ交換し、7日間浮遊培養した。
【0056】
EDN放出量測定(好酸球の評価)
上記の方法で樹立した好酸球(H1-Eos)を、400 μlあたり1または100 μg/mlの secretory immunoglobulin A (sIgA)(ICN Biomedicals)で予めコートしたディッシュで培養し、EDN-ELISA kit (R&D)を用いて培地中のEDN量を測定した。末梢血由来の好酸球とEDNの放出量を比較したところ(図2)、ES細胞(H1)由来の好酸球では若干EDNの放出量が少なかったが、ステップ4を行わなかった場合の好酸球と比較して、ステップ4を行った方がより末梢血の好酸球からのEDNの放出量に近かった。
【0057】
遊走能の測定(好酸球の評価)
ES細胞(H1)から上記の方法で樹立した好酸球を、Transwellへ移し、5% FBSを含有する1640培地を加えた。各濃度のIL-5(0.2ng/ml〜25ng/ml)、Eotaxin(0.4nM〜250 nM)およびfMLP(10pMから100nM)を添加して1から2時間培養し、上層から下層へ移動した細胞数を測定した(図3)。するとES細胞由来の好酸球は、各刺激に応答して遊走することが確認され、成熟した機能を有していることが確認された。
【0058】
iPS細胞由来の好酸球
iPS細胞(201B6、201B7、253G1および253G4)を用いてステップ3までの分化誘導を行い、EPO、MBP、2D7およびProMBP1の陽性細胞数を測定した(図4)。するとEPOおよびMBP陽性ならびに2D7およびProMBP1陰性である成熟した好酸球が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明を用いることで、ヒト多能性幹細胞から効率よくヒト好酸球が製造できる。このことより、ヒト好酸球を用いたアレルギー性疾患の治療薬のスクリーニング方法、または、個々の患者から樹立したヒト好酸球を用いて個人に最適な治療薬を選別する、いわゆるオーダーメード治療薬の選択において極めて有用である。
図1
図2
図3
図4