(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加速度をベクトル量として測定可能な加速度センサと、地磁気をベクトル量として測定可能な地磁気センサとを備え、測定された加速度ベクトルA及び地磁気ベクトルMに基づいて、端末を携帯したユーザの進行に関連する向きを決定する携帯端末であって、
前記携帯端末が静止しているか否かを判定する静止判定手段と、
前記携帯端末に固定された端末座標系における、前記携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAの向きである静止時加速度向きを決定する静止時加速度向き決定手段と、
前記携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での地磁気ベクトルMの前記静止時加速度向きへの射影成分である地磁気鉛直成分MGSを決定する地磁気鉛直成分決定手段と、
各時点における地磁気ベクトルMの前記静止時加速度向きへの射影成分である地磁気射影成分MGWを算出する地磁気射影成分算出手段と、
算出された当該地磁気射影成分MGWと、決定された前記地磁気鉛直成分MGSとを比較することによって、前記静止時加速度向きを鉛直下向きに決定することが可能な時点である鉛直静止時点を決定する鉛直静止時点決定手段と
を有することを特徴とする携帯端末。
前記右/左向きベクトル算出手段は、当該立脚期又は遊脚期における複数の加速度ベクトルAから、ユーザの歩行動作によって生じる加速度面を決定し、前記加速度面の法線ベクトルとして右/左向きベクトルUを算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の携帯端末。
前記携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAに基づいて重力加速度ベクトルGを算出し、前記重力加速度ベクトルGと、前記鉛直静止時点での地磁気ベクトルMとから、北向き又は南向きのベクトルである北/南向き加速度ベクトル及び東向き又は西向きのベクトルである東/西向き加速度ベクトルを算出して水平方向加速度成分の群を決定し、
当該水平方向加速度成分の群における分散Vxx,Vyy及び共分散Vxyを算出して、当該分散及び当該共分散に基づき、固有値λを算出し、
当該固有値λを用いて、固有ベクトル[e1,e2]を算出し、当該固有ベクトル[e1,e2]から算出される角度Tan-1(e1/e2)を、進行方向に決定する
進行関連向き決定手段を更に有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の携帯端末。
加速度をベクトル量として測定可能な加速度センサと、地磁気をベクトル量として測定可能な地磁気センサとを備え、測定された加速度ベクトルA及び地磁気ベクトルMに基づいて、端末を携帯したユーザの進行に関連する向きを決定する携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記携帯端末が静止しているか否かを判定する静止判定手段と、
前記携帯端末に固定された端末座標系における、前記携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAの向きである静止時加速度向きを決定する静止時加速度向き決定手段と、
前記携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での地磁気ベクトルMの前記静止時加速度向きへの射影成分である地磁気鉛直成分MGSを決定する地磁気鉛直成分決定手段と、
各時点における地磁気ベクトルMの前記静止時加速度向きへの射影成分である地磁気射影成分MGWを算出する地磁気射影成分算出手段と、
算出された当該地磁気射影成分MGWと、決定された前記地磁気鉛直成分MGSとを比較することによって、前記静止時加速度向きを鉛直下向きに決定することが可能な時点である鉛直静止時点を決定する鉛直静止時点決定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする携帯端末用のプログラム。
加速度をベクトル量として測定可能な加速度センサと、地磁気をベクトル量として測定可能な地磁気センサとを備えた携帯端末を携帯したユーザの進行に関連する向きを、測定された加速度ベクトルA及び地磁気ベクトルMに基づいて決定する進行関連向き決定方法であって、
静止判定手段が、前記携帯端末が静止しているか否かを判定する第1のステップと、
静止時加速度向き決定手段が、前記携帯端末に固定された端末座標系における、前記携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAの向きである静止時加速度向きを決定する第2のステップと、
地磁気鉛直成分決定手段が、前記携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での地磁気ベクトルMの前記静止時加速度向きへの射影成分である地磁気鉛直成分MGSを決定する第3のステップと、
地磁気射影成分算出手段が、各時点における地磁気ベクトルMの前記静止時加速度向きへの射影成分である地磁気射影成分MGWを算出する第4のステップと、
鉛直静止時点決定手段が、算出された当該地磁気射影成分MGWと、決定された前記地磁気鉛直成分MGSとを比較することによって、前記静止時加速度向きを鉛直下向きに決定することが可能な時点である鉛直静止時点を決定する第5のステップと
を有することを特徴とする進行関連向き決定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したような従来技術では、歩行者が携帯端末をズボンのポケットに挿入する等の形で身に着けている場合に、進行(歩行動作)に関連する向き、例えば鉛直下向き又は進行方向、を正確に決定することが困難であった。
【0011】
例えば、特許文献4に記載された技術は、歩行者の身に着けられた携帯端末の姿勢が大凡一定であることを想定しており、所定閾値を超える加速度が検出された方向を、進行方向の候補とする。また、特許文献5、6、7に記載された技術も、歩行者の身に着けられた携帯端末の姿勢が大凡一定であることを想定しており、歩行の際に検出される水平方向の加速度の分布から進行方向を決定している。
【0012】
しかしながら、実際には、歩行者の身に着けられた携帯端末の姿勢が、大凡一定になるとは限らない。このため、特許文献4の技術のように所定閾値を超える加速度が検出された方向を求めても、その方向が進行方向とはならない場合も多い。また、特許文献5、6、7の技術のように水平方向の加速度の分布から進行方向を求めても、その方向が進行方向とはならない場合も多い。
【0013】
さらに、特許文献8及び9に記載された技術は、携帯端末を把持した歩行者の手(腕)が振られる動作を検出することによって進行方向を決定するものであり、携帯端末が腕振り運動に伴って移動することを想定している。従って、歩行者が、携帯端末を例えばズボンのポケットに挿入して歩行している場合には、進行方向を決定することができない。
【0014】
また、特許文献10に記載された技術は、確かに、歩行者が携帯端末をズボンのポケットに挿入している場合に進行方向を決定するものである。しかしながら、歩行中における携帯端末の姿勢が変動することによって、算出された重力加速度ベクトルの向きに誤差が含まれてしまい、決定された進行方向における精度の劣化を招くことがあった。
【0015】
そこで、本発明は、歩行者が携帯端末をズボンのポケットに挿入する等の形で身に着けている場合であっても、進行に関連する向き、例えば鉛直下向き又は進行方向、をより正確に決定することができる携帯端末、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、加速度をベクトル量として測定可能な加速度センサと、地磁気をベクトル量として測定可能な地磁気センサとを備え、測定された加速度ベクトルA及び地磁気ベクトルMに基づいて、端末を携帯したユーザの進行に関連する向きを決定する携帯端末であって、
携帯端末が静止しているか否かを判定する静止判定手段と、
携帯端末に固定された端末座標系における、携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAの向きである静止時加速度向きを決定する静止時加速度向き決定手段と、
携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での地磁気ベクトルMの静止時加速度向きへの射影成分である地磁気鉛直成分M
GSを決定する地磁気鉛直成分決定手段と、
各時点における地磁気ベクトルMの静止時加速度向きへの射影成分である地磁気射影成分M
GWを算出する地磁気射影成分算出手段と、
算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとを比較することによって、静止時加速度向きを鉛直下向きに決定することが可能な時点である鉛直静止時点を決定する鉛直静止時点決定手段と
を有する携帯端末が提供される。
【0017】
この携帯端末の鉛直静止時点決定手段についての一実施形態として、鉛直静止時点決定手段は、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとが一致する時点若しくは所定範囲内の差を有する時点、又は地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとの差の符号が互いに異なる隣接する時点のうち当該差の絶対値の小さい方を有する時点を、鉛直静止時点として決定することも好ましい。
【0018】
また、本発明による携帯端末の一実施形態として、本携帯端末は、各時点での加速度ベクトルAにおける1つの加速度成分又は加速度の大きさを算出する加速度時間変化算出手段と、
加速度成分又は加速度の大きさの時間変化における極大点又は極小点に基づいて、ユーザの歩行周期、ユーザの足が地面に着いている期間である立脚期、又はユーザの足が地面から離れて前に運ばれている期間である遊脚期を検出し、歩行周期内、立脚期内又は遊脚期内における、決定された鉛直静止時点の相対位置である相対静止時点を算出する相対静止時点算出手段とを更に有し、
鉛直静止時点決定手段は、周期的に発生する相対静止時点を使用して、鉛直静止時点を決定することも好ましい。
【0019】
さらに、相対静止時点を用いる上記実施形態において、鉛直静止時点決定手段は、周期的に発生する相対静止時点を含む所定の計測時間でのみ、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとを比較することも好ましい。
【0020】
さらにまた、相対静止時点を用いる上記実施形態において、鉛直静止時点決定手段は、相対静止時点算出手段が相対静止時点を算出してから所定の期間、地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとに依らずに、周期的に発生する相対静止時点を鉛直静止時点に決定することも好ましい。
【0021】
また、本発明による携帯端末の他の実施形態として、本携帯端末は、各時点での加速度ベクトルAにおける1つの加速度成分又は加速度の大きさを算出する加速度時間変化算出手段と、
加速度成分又は加速度の大きさの時間変化における極大点又は極小点に基づいて、ユーザの足が地面に着いている期間である立脚期、又はユーザの足が地面から離れて前に運ばれている期間である遊脚期を検出し、立脚期又は遊脚期における複数の加速度ベクトルAから、進行方向に向いたユーザの右方又は左方を示す右/左向きベクトルUを算出する右/左向きベクトル算出手段と、
携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAに基づいて重力加速度ベクトルGを算出し、この重力加速度ベクトルGと、鉛直静止時点での地磁気ベクトルMと、算出された右/左向きベクトルUとから、鉛直静止時点における進行方向を決定する進行関連向き決定手段と
を更に有することも好ましい。
【0022】
さらに、右/左向きベクトルUを用いる上記実施形態において、右/左向きベクトル算出手段は、立脚期又は遊脚期の開始及び終了時点での加速度ベクトルAの外積をとることによって右/左向きベクトルUを算出することも好ましい。
【0023】
さらにまた、右/左向きベクトルUを用いる上記実施形態において、右/左向きベクトル算出手段は、立脚期又は遊脚期における複数の加速度ベクトルAから、ユーザの歩行動作によって生じる加速度面を決定し、加速度面の法線ベクトルとして右/左向きベクトルUを算出することも好ましい。
【0024】
また、本発明による携帯端末の他の実施形態として、
携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAに基づいて重力加速度ベクトルGを算出し、この重力加速度ベクトルGと、鉛直静止時点での地磁気ベクトルMとから、
北向き又は南向きのベクトルである北/南向き加速度ベクトル及び
東向き又は西向きのベクトルである東/西向き加速度ベクトルを算出して、歩行周期毎に取得される水平方向加速度成分の群を決定し、
水平方向加速度成分の群における分散Vxx,Vyy及び共分散Vxyを算出して、これらの分散及び共分散に基づき、固有値λを算出し、
固有値λを用いて、固有ベクトル[e
1,e
2]を算出し、算出された固有ベクトル[e
1,e
2]から算出される角度Tan
-1(e
1/e
2)を、進行方向に決定する
進行関連向き決定手段を更に有することも好ましい。
【0025】
本発明によれば、さらに、加速度をベクトル量として測定可能な加速度センサと、地磁気をベクトル量として測定可能な地磁気センサとを備え、測定された加速度ベクトルA及び地磁気ベクトルMに基づいて、端末を携帯したユーザの進行に関連する向きを決定する携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
携帯端末が静止しているか否かを判定する静止判定手段と、
携帯端末に固定された端末座標系における、携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAの向きである静止時加速度向きを決定する静止時加速度向き決定手段と、
携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での地磁気ベクトルMの静止時加速度向きへの射影成分である地磁気鉛直成分M
GSを決定する地磁気鉛直成分決定手段と、
各時点における地磁気ベクトルMの静止時加速度向きへの射影成分である地磁気射影成分M
GWを算出する地磁気射影成分算出手段と、
算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとを比較することによって、静止時加速度向きを鉛直下向きに決定することが可能な時点である鉛直静止時点を決定する鉛直静止時点決定手段と
してコンピュータを機能させる携帯端末用のプログラムが提供される。
【0026】
本発明によれば、さらにまた、加速度をベクトル量として測定可能な加速度センサと、地磁気をベクトル量として測定可能な地磁気センサとを備えた携帯端末を携帯しているユーザの進行に関連する向きを、測定された加速度ベクトルA及び地磁気ベクトルMに基づいて決定する進行関連向き決定方法であって、
静止判定手段が、携帯端末が静止しているか否かを判定する第1のステップと、
静止時加速度向き決定手段が、携帯端末に固定された端末座標系における、携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での加速度ベクトルAの向きである静止時加速度向きを決定する第2のステップと、
地磁気鉛直成分決定手段が、携帯端末が静止しているとの判定が行われた際での地磁気ベクトルMの静止時加速度向きへの射影成分である地磁気鉛直成分M
GSを決定する第3のステップと、
地磁気射影成分算出手段が、各時点における地磁気ベクトルMの静止時加速度向きへの射影成分である地磁気射影成分M
GWを算出する第4のステップと、
鉛直静止時点決定手段が、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとを比較することによって、静止時加速度向きを鉛直下向きに決定することが可能な時点である鉛直静止時点を決定する第5のステップと
を有する進行関連向き決定方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の携帯端末、プログラム及び方法によれば、歩行者が携帯端末をズボンのポケットに挿入する等の形で身に着けている場合であっても、進行に関連する向き、例えば鉛直下向き又は進行方向、をより正確に決定することができる。特に、歩行者が携帯端末を自身の下半身部分に着ける形で携帯した場合に、鉛直下向き又は進行方向をより正確に決定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
図1は、ユーザが本発明による携帯端末を下半身のポケットに挿入した状態で歩行する態様を示す説明図である。
【0031】
図1によれば、ユーザ(歩行者)は、本発明による携帯端末1を下半身(ズボン)のポケットに挿入した状態で歩行している。この状態では、携帯端末1の姿勢は、一定とならず、歩行動作に応じて変動する。また、この状態において、歩行者は携帯端末1を操作していないが、携帯端末1自体が、何らかのアプリケーションを起動させて歩行者の進行方向を検出する。
【0032】
携帯端末1は、加速度をベクトル量として測定可能な「加速度センサ」と、地磁気をベクトル量として測定可能な「地磁気センサ」とを、端末に固定する形で内蔵している。このため、携帯端末1の向きに応じて、これらのセンサにおける3軸の座標系が一意に決定される。従って、以後、このセンサ座標系を「端末座標系」と称する。「端末座標系」は、
図1ではxyz座標系として表されている。また、携帯端末1には、この「端末座標系」とは別に、歩行者の進行方向を前向きとした、前向き−後向き、右向き−左向き、鉛直上向き−鉛直下向きを軸とする「歩行座標系」も設定される。
【0033】
ここで、「歩行座標系」は、携帯端末1が歩行中にその姿勢を変動させるのに対応して、携帯端末1に対して変動する。また、歩行周期における所定の時点での「端末座標系」と「歩行座標系」との関係も、携帯端末1がズボンのポケットに如何なる向きで挿入されているかに依存して決まるので、予め想定することができない。
【0034】
このような状況下で、携帯端末1は、「歩行座標系」における進行(歩行動作)に関連する1つの向きである「鉛直下向き」をより正確に決定することができる。さらに、この正確に決定された「鉛直下向き」に基づいて、歩行者の「進行方向」をより正確に導出することができるのである。
【0035】
このような正確な「鉛直下向き」を決定するために、携帯端末1は、
(a)「端末座標系」における、携帯端末1の静止判定時での加速度ベクトルAの向きである「静止時加速度向き」を決定し、
(b)携帯端末1の静止判定時での地磁気ベクトルMの「静止時加速度向き」への射影成分である「地磁気鉛直成分M
GS」を決定し、
(c)各時点における地磁気ベクトルMの「静止時加速度向き」への射影成分である「地磁気射影成分M
GW」を算出し、
(d)算出された「地磁気射影成分M
GW」と、決定された「地磁気鉛直成分M
GS」とを比較することによって、「静止時加速度向き」を「鉛直下向き」に決定することが可能な時点である「鉛直静止時点」を決定する。
【0036】
ここで、「端末座標系」における「静止時加速度向き」は、静止判定時において正確に鉛直下向きとなる。また、地磁気ベクトルMは、一般に地球上の一地点において、各時点で測定可能であって、且つ絶対的な向きの基準となる。従って「地磁気射影成分M
GW」を、決定された「地磁気鉛直成分M
GS」と比較することによって、即ち、地磁気ベクトルMの測定によって、「静止時加速度向き」が鉛直下向きとなる時点である「鉛直静止時点」を決定することができる。
【0037】
尚、
図1に示した実施形態では、携帯端末1は、歩行者のズボンのポケットに挿入された状態であるが、当然に、この状態に限定されるものではない。例えば、携帯端末1が、歩行者の下半身のいずれかの部分に装着・挿入された形で携帯されていることも好ましい。また、特に、携帯端末1は、歩行者の左右の脚のいずれかの側に寄った位置に装着・挿入されていることも好ましい。
【0038】
[携帯端末1]
図2は、本発明による携帯端末1の一実施形態を示す機能構成図である。
【0039】
図2によれば、携帯端末1は、加速度センサ100と、地磁気センサ101と、表示部102と、プロセッサ・メモリとを有する。ここで、プロセッサ・メモリは、プログラムを実行することによってその機能を実現させる。携帯端末1は、測位部103を更に有することも好ましい。
【0040】
また、プロセッサ・メモリは、機能構成部として、静止判定部110と、静止時加速度向き決定部111と、地磁気鉛直成分決定部112と、地磁気射影成分算出部113と、鉛直静止時点決定部114と、加速度時間変化算出・蓄積部115と、相対静止時点算出部116と、進行関連向き決定部117と、右/左ベクトル算出部118と、地図情報記憶部119と、表示制御部120とを有する。
【0041】
加速度センサ100は、加速度をベクトル量として測定可能な加速度測定部であり、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて形成された、例えば静電容量方式又はピエゾ抵抗方式による、3軸タイプの加速度計測計とすることができる。
【0042】
地磁気センサ101は、地磁気をベクトル量として測定可能な磁気測定部であり、例えば、磁気抵抗(AMR、GMR又はTMR)効果、磁気インピーダンス(MI)効果、フラックスゲート(FG)方式又はホール効果を利用して地磁気を測定する3軸タイプの地磁気計測計とすることができる。
【0043】
静止判定部110は、携帯端末1が静止しているか否かを判定する。この静止判定は、種々の方法によって実施可能であるが、以下、幾つかの実施形態を説明する。
【0044】
<加速度の最大値と最小値との差による静止判定>
静止判定時間をT
1とし、この時間T
1の間に、加速度ベクトルAをn回測定し、端末xyz座標系における各軸方向の加速度成分である3n個の加速度データ、即ち、
A
xi、A
yi、及びA
zi(i=1,2,・・・,n)
をサンプリングする。ここで、サンプリング時間Δtは(T
1/n)となる。尚、T
1は、例えば1.0sec(秒)に設定される。
【0045】
サンプリングされたn個のA
xi、n個のA
yi、及びn個のA
ziの各々について、n個のデータを比較し、以下のように最大値及び最小値を決定する。
時間T
1内での加速度x軸方向成分の最大値:maxA
x
時間T
1内での加速度x軸方向成分の最小値:minA
x
時間T
1内での加速度y軸方向成分の最大値:maxA
y
時間T
1内での加速度y軸方向成分の最小値:minA
y
時間T
1内での加速度z軸方向成分の最大値:maxA
z
時間T
1内での加速度z軸方向成分の最小値:minA
z
【0046】
ここで、所定の閾値をφ
x、φ
y及びφ
zとして、上記最大値及び最小値が、以下の条件式
(1a) maxA
x−minA
x<φ
x、
(1b) maxA
y−minA
y<φ
y、且つ
(1c) maxA
z−minA
z<φ
z
を満たす場合、時間T
1内において、携帯端末1は静止していた、と判定する。尚、閾値φ
x、φ
y及びφ
zはそれぞれ、例えば0.5(m/s
2)に設定される。
【0047】
<加速度の標準偏差による静止判定>
最初に、上述した方法と同じく、静止判定時間T
1の間に、加速度をn回測定し、3n個の加速度データA
xi、A
yi、及びA
zi(i=1、2、・・・、n)を得る。次いで、加速度の大きさ|A|
iを
|A|
i=((A
xi)
2+(A
yi)
2+(A
zi)
2)
0.5
とし、加速度の大きさ|A|
i(i=1、2、・・・、n)の平均を、
av|A|=(|A|
1+|A|
2+・・・+|A|
n)/n
とする。
【0048】
次いで、これらの値から、加速度の標準偏差σ
accを、次式を用いて算出する。
σ
acc=(Σ(|A|
i−av|A|)
2/n)
0.5
ここで、Σは、i=1からi=nまでの総和(summation)である。
【0049】
ここで、所定の閾値をSとして、得られた標準偏差σ
accが、以下の条件式
(2) σ
acc<S
を満たす場合、時間T
1内において、携帯端末1は静止していた、と判定する。閾値Sは、例えば0.22(m/s
2)に設定される。尚、以上に述べた静止判定において、標準偏差σ
accの代わりに分散V
acc=Σ(|A|
i−av|A|)
2/nを用いて静止判定を行うことも当然に可能である。
【0050】
<加速度の各軸方向成分の分散による静止判定>
最初に、上述したように、静止判定時間T
1での測定によって3n個の加速度データA
xi、A
yi、及びA
zi(i=1、2、・・・、n)を取得する。次いで、加速度の各軸方向成分における分散V
x、V
y及びV
zを以下の通りに算出する。
(3a) V
x=Σ(A
xi−avA
x)
2/n
(3b) V
y=Σ(A
yi−avA
y)
2/n
(3c) V
z=Σ(A
zi−avA
z)
2/n
ここで、avA
xはA
xi(i=1、2、・・・、n)の平均値であり、avA
y及びavA
zも同様である。また、Σは、i=1からi=nまでの総和(summation)である。
【0051】
次いで、所定の閾値をTh
0として、得られた分散が、以下の条件式
(4) V
x<Th
0,且つV
y<Th
0,且つV
z<Th
0
を満たす場合、時間T
1内について、携帯端末1は静止していた、と判定する。閾値Th
0は、例えば0.05(m
2/s
4)に設定される。尚、以上に述べた静止判定において、分散V
x、V
y及びV
zの代わりに、これら分散の平方根である標準偏差σ
x、σ
y及びσ
zを用いて静止判定を行うことも当然に可能である。
【0052】
静止判定部110は、以上に述べたような方法で静止判定を行い、判定結果を静止時加速度向き決定部111及び地磁気鉛直成分決定部112に出力する。
【0053】
静止時加速度向き決定部111は、携帯端末1に固定された端末座標系における、静止判定部110での静止判定が行われた際での加速度ベクトルA(「静止時加速度ベクトル」)の向きである静止時加速度向きを決定する。ここで、具体的には、「静止時加速度ベクトル」の単位ベクトルとして静止時加速度単位ベクトルe
GSを決定することも好ましい。尚、「静止時加速度ベクトル」を、静止判定時における静止判定時間T
1での測定によって取得された加速度ベクトルAの平均ベクトルとし、このような「静止時加速度ベクトル」の単位ベクトルを静止時加速度単位ベクトルe
GSとすることも好ましい。静止時加速度向き決定部111は、次いで、決定した(静止時加速度向きを有する)静止時加速度単位ベクトルe
GSを、地磁気鉛直成分決定部112及び地磁気射影成分算出部113に出力する。
【0054】
地磁気鉛直成分決定部112は、静止判定部110での静止判定が行われた際での地磁気ベクトルMの静止時加速度向き(静止時加速度単位ベクトルe
GS)への射影成分である地磁気鉛直成分M
GSを決定する。また、決定した地磁気鉛直成分M
GSを鉛直静止時点決定部114に出力する。
【0055】
地磁気射影成分算出部113は、各時点における地磁気ベクトルMの静止時加速度向き(静止時加速度単位ベクトルe
GS)への射影成分である地磁気射影成分M
GWを算出する。また、算出した地磁気射影成分M
GWを鉛直静止時点決定部114に出力する。
【0056】
鉛直静止時点決定部114は、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとを比較することによって、加速度ベクトルAが鉛直下向きとなる時点である「鉛直静止時点」を決定する。具体的には、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとが一致する時点若しくは所定範囲内の差を有する時点、又は地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとの差の符号が互いに異なる隣接する時点のうち当該差の絶対値の小さい方を有する時点を、「鉛直静止時点」として決定することも好ましい。また、決定された「鉛直静止時点」を進行関連向き決定部117に出力する。
【0057】
加速度時間変化算出・蓄積部115は、各時点での加速度ベクトルAにおける1つの加速度成分又は加速度の大きさを算出する。ここで、
(a)各時点における加速度ベクトルAの静止時加速度向き(静止時加速度単位ベクトルe
GS)への射影成分である加速度射影成分A
Vを算出することも好ましい。または、
(b)各時点における加速度ベクトルAの大きさ|A|(各軸成分の二乗和の平方根)を算出してもよい。
【0058】
また、加速度時間変化算出・蓄積部115は、各時点における算出した加速度成分(加速度射影成分A
V)又は加速度の大きさを蓄積し、時間の関数としての加速度成分(加速度射影成分A
V)又は加速度の大きさのデータを、相対静止時点算出部116、進行関連向き決定部117及び右/左ベクトル算出部118に出力することも好ましい。
【0059】
進行関連向き決定部117は、「静止時加速度ベクトル」を、鉛直下向きのベクトル(即ち、重力加速度ベクトル)に決定する。また、決定された「鉛直静止時点」での地磁気ベクトルMを地磁気向きのベクトルに決定する。さらに、決定された「鉛直静止時点」での静止時加速度向きを、鉛直下向きに決定することも好ましい。
【0060】
相対静止時点算出部116は、加速度成分(加速度射影成分A
V)又は加速度の大きさの時間変化における極大点(時間の関数としての極大点)に基づいて、歩行者(ユーザ)の歩行周期、歩行者の足が地面に着いている期間である立脚期、又は歩行者の足が地面から離れて前に運ばれている期間である遊脚期を検出し、歩行周期内、立脚期内又は遊脚期内における、決定された「鉛直静止時点」の相対位置である「相対静止時点」を算出する。尚、「相対静止時点」、立脚期及び遊脚期については、後に
図4を用いて詳細に説明する。
【0061】
この「相対静止時点」を入力した進行関連向き決定部117は、周期的に発生する相対静止時点を使用して、鉛直静止時点を決定することも好ましい。
【0062】
また、「相対静止時点」を採用する場合、鉛直静止時点決定部114は、周期的に発生する「相対静止時点」を含む所定の計測時間でのみ、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとを比較することも好ましい。さらに、鉛直静止時点決定部114は、相対静止時点算出部116が「相対静止時点」を算出してから所定の期間、地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとに依らずに、周期的に発生する「相対静止時点」を「鉛直静止時点」に決定することも好ましい。
【0063】
右/左ベクトル算出部118は、加速度成分(加速度射影成分A
V)又は加速度の大きさの時間変化における極大点に基づいて立脚期又は遊脚期を検出し、立脚期又は遊脚期における複数の加速度ベクトルAから、進行方向に向いた歩行者の右方又は左方を示す右/左向きベクトルUを算出する。具体的には、
(a)立脚期又は遊脚期の開始及び終了時点での加速度ベクトルAの外積をとることによって右/左向きベクトルUを算出することも好ましい。または、
(b)立脚期又は遊脚期における複数の加速度ベクトルAから、歩行者の歩行動作によって生じる加速度面を決定し、加速度面の法線ベクトルとして右/左向きベクトルUを算出することも好ましい。
【0064】
この右/左向きベクトルUを入力した進行関連向き決定部117は、
(a)重力加速度ベクトルGと、
(b)「鉛直静止時点」での地磁気ベクトルMと、
(c)算出された右/左向きベクトルUと
から、「鉛直静止時点」における進行方向を決定する。
【0065】
また、変更態様として、進行関連向き決定部117は、鉛直下向きとして決定した静止時加速度ベクトルを重力加速度ベクトルGとして、
(a)重力加速度ベクトルGと、鉛直静止時点での地磁気ベクトルMとから、北/南向き加速度ベクトル及び東/西向き加速度ベクトルを算出して、歩毎又は歩行周期毎に取得される水平方向加速度ベクトルの群を決定し、
(b)水平方向加速度ベクトルの群における分散Vxx,Vyy及び共分散Vxyを算出して、これらの分散及び共分散に基づき、固有値λを算出し、
(c)固有値λを用いて、固有ベクトル[e
1,e
2]を算出し、当該固有ベクトル[e
1,e
2]から算出される角度Tan
-1(e
1/e
2)を、進行方向に決定することも好ましい。
【0066】
尚、以上に述べた、右/左向きベクトルUを用いた、又は水平方向加速度ベクトルの群における分散を用いた進行方向の決定方法は、後に
図5を用いて詳細に説明される。
【0067】
地図情報記憶部119は、地図情報を蓄積しており、表示制御部15から指定された携帯端末1の所在位置等に対応する地図情報を、表示制御部15へ出力する。
【0068】
測位部103は、GPS衛星からの測位電波を捕捉し、さらにGPS測位方式によって携帯端末1の所在位置(緯度、経度)を測定する。また、この所在位置情報を表示制御部120に出力する。
【0069】
表示制御部120は進行関連向き決定部117から進行方向データを入力し、測位部103から所在位置情報を入力する。また、所在位置情報を地図情報記憶部119へ出力し、所在位置に関する地図情報を取得する。次いで、表示制御部15は、地図の上に所在位置を表示すると共に、その進行方向を矢印等で示した画像を生成する。この画像は、表示部102に出力される。
【0070】
表示部102は、例えばディスプレイ部であり、表示制御部15から入力した画像を表示して、携帯端末1を携帯して歩行するユーザ(歩行者)に対し、ナビゲーション(経路案内)を行う。
【0071】
[地磁気鉛直成分M
GS及び地磁気射影成分M
GW]
図3は、端末座標系における地磁気ベクトルMの地磁気鉛直成分M
GS及び地磁気射影成分M
GWを決定する方法を説明するためのグラフである。
【0072】
図3(A)に、歩行者の静止時における端末座標系及び歩行座標系を示す。この端末座標系として、例えば、携帯端末1の画面を鉛直方向に立てて見た際に、x軸は携帯端末1の上側から下側へ向かう軸として、y軸は携帯端末1の左側から右側へ向かう軸として、z軸は携帯端末1の裏側から表側へ向かう軸として定義される。当然に、端末座標系の設定は、これに限定されるものではない。
【0073】
また、携帯端末1には、この端末座標系とは別に、歩行者の進行方向を前向きとした、前向き−後向き、右向き−左向き、鉛直上向き−鉛直下向きを軸とする歩行座標系も設定される。
【0074】
最初に、静止時加速度向き(静止時加速度単位ベクトルe
GS)を決定する。(静止判定部110(
図2)による)静止判定時に、加速度センサ100(
図2)によって測定された加速度ベクトルA(静止時加速度ベクトル)の端末座標系(xyz座標系)における向きを、静止時加速度向きとする。さらに、この向きの単位ベクトルである静止時加速度単位ベクトルe
GS、即ち、
(5) e
GS=(e
Gx,e
Gy,e
Gz)
を算出する。この静止時加速度単位ベクトルe
GSは、この後、鉛直下向きを決定するための基準として保持される。
【0075】
次いで、(静止判定部110(
図2)による)静止判定時に、地磁気センサ101(
図2)によって測定された地磁気ベクトルM=(M
x,M
y,M
z)における地磁気鉛直成分M
GSを、次式
(6) M
GS=e
Gx×M
x+e
Gy×M
y+e
Gz×M
z
を用いて算出する。上式(6)に示すように、地磁気鉛直成分M
GSは、静止判定時における地磁気ベクトルMの静止時加速度単位ベクトルe
GSへの射影成分となっている。
【0076】
図3(B)に、ユーザの歩行時での、端末座標系における地磁気ベクトルMを示す。尚、歩行座標系は、(図示していないが)携帯端末1が歩行中にその姿勢を変動させるのに対応して、端末座標系(携帯端末1)に対して変動する。同じく、端末座標系において、地磁気ベクトルMは、歩行とともに変動する。
【0077】
ここで、各(サンプリング)時点における、地磁気ベクトルM=(m
x,m
y,m
z)の静止時加速度単位ベクトルe
GSへの射影成分である地磁気射影成分M
GWを、次式
(7) M
GW=e
Gx×m
x+e
Gy×m
y+e
Gz×m
z
を用いて算出する。
【0078】
この各時点で算出された地磁気射影成分M
GWを、地磁気鉛直成分M
GSと比較することによって、「鉛直静止時点」が決定されるのである。
【0079】
[鉛直静止時点の決定]
図4(A)は、歩行時における加速度成分の時間変化を示すグラフである。また、
図4(B)は、静止時加速度単位ベクトルe
GSが鉛直下向きに対してなす角度(余弦)の時間変化を示すグラフである。さらに、
図4(C)は、時間変化する地磁気射影成分M
GWと、地磁気鉛直成分M
GSとの関係を示すグラフである。
【0080】
最初に、各時点において、加速度センサ100(
図2)によって測定された加速度ベクトルA=(A
x,A
y,A
z)の加速度射影成分A
Vを、次式
(8) A
V=e
Gx×A
x+e
Gy×A
y+e
Gz×A
z
を用いて算出する。このように、加速度射影成分A
Vは、加速度ベクトルAの静止時加速度単位ベクトルe
GSへの射影成分となっている。
【0081】
図4(A)に示すように、加速度射影成分A
Vの時間変化においては、小さな(1歩の)変動と、大きな(1歩の)変動とが交互に観測される。尚、このような変動は、加速度射影成分A
Vだけではなく、加速度Aの大きさ|A|(各軸成分の二乗和の平方根)においても観測されるため、このような加速度成分又は加速度の大きさを用いて、以後説明する方法を実施することも可能である。
【0082】
この観測された小さな(1歩の)変動及び大きな(1歩の)変動を合わせた期間が「歩行周期」に相当する。「歩行周期」は、携帯端末1と同側の足における初期接地から、次の初期接地までの時間であり、この時間は、以下の通り、「立脚期」と「遊脚期」とに区分される。
「立脚期」:足が地面に着いている期間
「遊脚期」:足が地面から離れ、スイングによって前に運ばれている期間
【0083】
例えば、携帯端末1が挿入された(ズボンの)ポケットの側の足に着目する。ここで、このポケットの側の足が地面に着いているのが「立脚期」であり、このポケットの側の足が前に運ばれているのが「遊脚期」である。「立脚期」では足(脚)の動きが小さく、「遊脚期」では足(脚)の動きが大きい。また、人の歩行では、左右の足が交互に前に運ばれるので、「立脚期」と「遊脚期」とは交互に繰り返される。このような歩行の結果として、加速度射影成分A
Vの時間変化において、小さな(1歩の)変動と、大きな(1歩の)変動とが交互に観測されるのである。
【0084】
図4(A)に示すように、加速度射影成分A
Vのグラフでは、小さいA
V値の極大点(極大点(小))と、大きいA
V値の極大点(極大点(大))とが交互に現れる。ここで、「歩行周期」は、1つの極大点から、2つ目の極大点までの期間となる。また、「立脚期」は、極大点(小)から次の極大点(大)までの期間となり、「遊脚期」は、極大点(大)から次の極大点(小)までの期間となる。
【0085】
具体的に、以下のステップ1〜3によって「歩行周期」、「立脚期」(「遊脚期」)を抽出する。
(ステップ1)時間の関数としての加速度射影成分A
Vから、連続する極大点(極大点(小)、極大点(大))を検出する。
(ステップ2)1つの極大点から、2つ目の極大点までの期間(例えば、極大点(小)から次の極大点(小)までの期間)を「歩行周期」として抽出する。
(ステップ3)「歩行周期」において、極大点が(小)から(大)となる期間を「立脚期」(極大点が(大)から(小)となる期間を「遊脚期」)として抽出する。
【0086】
このような「歩行周期」内では、「立脚期」と「遊脚期」とが繰り返されることによって、携帯端末1の姿勢も一定にならずに変動する。この姿勢(静止時加速度単位ベクトルe
GS)の変動を示すグラフを
図4(B)に示す。この
図4(B)の時間軸(時間帯)は、
図4(A)の時間軸(時間帯)と一致している。
【0087】
図4(B)によれば、
図4(A)に示すように加速度射影成分A
Vが時間変化する間、静止時加速度単位ベクトルe
GSと鉛直下向きとのなす角度θの余弦cosθも、時間と共に変動する。ここで、余弦cosθは、「立脚期」において1回、さらに「遊脚期」において1回、1(θ=0°)となる。即ち、静止時での加速度ベクトルAの向きを表す静止時加速度単位ベクトルe
GSが鉛直下向きとなるタイミングが、「立脚期」及び「遊脚期」のそれぞれに1回ずつ存在することが分かる。
【0088】
ここで、静止時において、加速度ベクトルAの向きは鉛直下向きである。従って、このタイミングは、静止時において鉛直下向きであった端末座標系での1つの向き(静止時加速度単位ベクトルe
GSの向き)が、鉛直下向きと一致するタイミングとなる。
【0089】
一般に、歩行時に検出される加速度ベクトルは、重力加速度ベクトルと、運動加速度ベクトルとの合成ベクトルとなっているので、そのままでは重力の向き、即ち鉛直下向きを決定することはできない。しかしながら、静止時において鉛直下向きであった端末座標系での1つの向き(静止時加速度単位ベクトルe
GSの向き)が、鉛直下向きと一致するタイミングにおいては、この向き(静止時加速度単位ベクトルe
GSの向き)を、「鉛直下向き」として用いることができる。
【0090】
尚、
図4(B)に示した、静止時加速度単位ベクトルe
GSが鉛直下向きに対してなす角度θの余弦cosθのデータは、例えばジャイロセンサを用いて携帯端末1の向きの転換を計測する等の手間をかけなければ取得できない。これに対し、本発明は、次に説明するように、地磁気ベクトルMを用いて、静止時加速度向きが鉛直下向きと一致するタイミングを決定する。
【0091】
図4(C)によれば、地磁気射影成分M
GWも、歩行による携帯端末1の姿勢・向きの変動とともに、時間変化する。この
図4(C)の時間軸(時間帯)も、
図4(A)の時間軸(時間帯)と一致している。また、地磁気射影成分M
GW及び地磁気鉛直成分M
GSは共に、最大値が1となるように正規化されている。ここで、地磁気射影成分M
GWは、「立脚期」において1回、さらに「遊脚期」において1回、地磁気鉛直成分M
GSと一致している。この一致するタイミングは、まさに、上述した、静止時加速度単位ベクトルe
GSの向きが鉛直下向きと一致するタイミングに等しくなっている。
【0092】
このことから、各時点において地磁気射影成分M
GWを算出し、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとが一致する時点若しくは所定範囲内の差を有する時点、又は地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとの差の符号が互いに異なる隣接する時点のうち当該差の絶対値の小さい方を有する時点を求めることによって、この時点を、静止時加速度ベクトル(静止時加速度単位ベクトルe
GS)が鉛直下向きになる時点である「鉛直静止時点」に決定することができる。尚、地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとが所定範囲内の差を有する時点は、例えば、実際の測定において、地磁気射影成分M
GWの値が、地磁気鉛直成分M
GSの値に接近はするものの至ることなく変動する場合において、「鉛直静止時点」を決定する時点として採用することができる。さらに、差の符号が互いに異なる隣接する時点のうち当該差の絶対値の小さい方を有する時点は、次に説明するような場合において採用することができる。
【0093】
例えば、地磁気鉛直成分M
GS=0.8として、地磁気射影成分M
GWが、t=0の際に0.70、t=1の際に0.77、t=2の際に0.82、t=3の際に0.85のように観測されたとすると、地磁気射影成分M
GWが地磁気鉛直成分M
GSとが一致する時点は、t=1とt=2との間であると推測される。しかしながら、観測時点は離散的であるので、t=1とt=2との間の時点でのM
GW値は知り得ない。そこで、0.8に最も近い(差の絶対値が最小である)M
GW=0.82の時点、即ちt=2を「鉛直静止時点」とするのである。
【0094】
尚、上述したように、「鉛直静止時点」は、「立脚期」及び「遊脚期」のそれぞれに1回ずつ存在する。このうち両方を「鉛直静止時点」として採用してもよく、または、いずれか一方のみを採用することも可能である。
【0095】
このようにして決定された「鉛直静止時点」において測定された静止時加速度ベクトルを、「鉛直下向き」のベクトル(即ち、重力加速度ベクトル)として決定することができる。これにより、歩行中であって携帯端末1の姿勢が変動する状況であっても、正確に「鉛直下向き」を決定することが可能となるのである。
【0096】
以上説明したように、本発明では、地磁気ベクトルMを用いて「鉛直静止時点」を決定する。この地磁気ベクトルMは、一般に、地上における通常の歩行によって到達し得る範囲内において、安定した大きさと鉛直下向きに対して安定した一定の向きとを有し、且つ常時測定可能であるので、各時点での向きの基準となり得る。従って、このような地磁気ベクトルMの地磁気射影成分M
GWを地磁気鉛直成分M
GSと比較することによって、(静止時において鉛直下向きである)静止時加速度ベクトル(静止時加速度単位ベクトルe
GS)がまさに鉛直下向きとなる時点である「鉛直静止時点」を、より正確に決定することができる。従って、歩行中であっても、より正確な「鉛直下向き」のベクトル(即ち、重力加速度ベクトル)を取得することができるのである。
【0097】
また、後に説明するように、重力加速度ベクトルGと、「鉛直静止時点」での地磁気ベクトルM
Tと、後に説明する右/左向きベクトルUとから、歩行するユーザの「進行方向」を決定することができる。この際、重力加速度ベクトルGをより正確に算出することが、決定される「進行方向」の精度を向上させる上で決定的に重要となる。ここで、本発明を用いて、より正確な「鉛直下向き」のベクトル、即ち重力加速度ベクトル、を取得することによって、歩行するユーザの「進行方向」をより正確に決定することが可能となるのである。
【0098】
ここで、変更態様として、決定された「歩行周期」内、「立脚期」内、又は「遊脚期」内における、決定された「鉛直静止時点」の相対位置である「相対静止時点」を算出することも可能である。例えば、
図4(C)に示すように、
(a)第1の(「立脚期」内の)鉛直静止時点の歩行周期T
W内での位置を、「相対静止時点」p×T
W(1<p<1)とし、
(b)第2の(「遊脚期」内の)鉛直静止時点の歩行周期T
W内での位置を、「相対静止時点」q×T
W(p<q<1)とする。
【0099】
この場合、歩行周期T
Wとp(又はq)とが決定されれば、「相対静止時点」p×T
W(又はq×T
W)が決定される。このように周期的に発生する「相対静止時点」を使用して、「鉛直静止時点」を決定することも好ましい。例えば、
(a)周期的に発生する「相対静止時点」を含む所定の計測時間でのみ、算出された地磁気射影成分M
GWと、決定された地磁気鉛直成分M
GSとを比較し、両者が一致する時点若しくは所定範囲内の差を有する時点、又は地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとの差の符号が互いに異なる隣接する時点のうち当該差の絶対値の小さい方を有する時点を「鉛直静止時点」としてもよい。
さらに、
(b)「相対静止時点」を算出してから所定の期間、地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとに依らずに、周期的に発生する「相対静止時点」を「鉛直静止時点」に決定することも可能である。
【0100】
このように、「相対静止時点」を使用することによって、毎回「鉛直静止時点」を直接算出するよりも演算量を減らして鉛直下向きの決定をより速やかに行い、さらに、消費電力を低減させることができる。
【0101】
また、歩行中に通過する場所によって生じる地磁気の変動に対処することも可能となる。即ち、歩行中に、歩行環境の影響で地磁気ベクトルMが変動すると、地磁気射影成分M
GWと地磁気鉛直成分M
GSとから直接算出される「鉛直静止時点」にも誤差が生じ得る。しかしながら、周期的に発生する「相対静止時点」を使用し、「鉛直静止時点」をこの「相対静止時点」と比較することによって、この誤差を補正することが可能となる。また、地磁気の大きさをモニタし、当該大きさが所定範囲内に収まらない場合、「相対静止時点」を使用して周期的に「鉛直静止時点」を決定してもよい。
【0102】
[進行方向の決定]
図5は、決定された鉛直下向き(重力加速度ベクトル)から歩行するユーザの進行方向を決定する方法を説明するためのベクトル図である。
【0103】
最初に、決定された「鉛直静止時点」における地磁気ベクトルM
T、即ち、
(9) M
T=(M
Tx,M
Ty,M
Tz)
を算出する。さらに、決定された「鉛直静止時点」において、鉛直下向きの静止時加速度ベクトルを、重力加速度ベクトルG
S、即ち、
(10) G
S=(G
Sx,G
Sy,G
Sz)
として算出する。
【0104】
以下、「進行方向」は、次の2つの方法を用いて決定されることができる。
(イ)進行方向に向いた歩行者の右方又は左方を示す「右/左向きベクトルU」を算出し、重力加速度ベクトルG
Sと、地磁気ベクトルM
Tと、算出された「右/左向きベクトルU」とから、「鉛直静止時点」における進行方向を決定する。
(ロ)重力加速度ベクトルG
Sと、地磁気ベクトルM
Tとから、「北/南向き加速度ベクトル」及び「東/西向き加速度ベクトル」を算出して、「鉛直静止時点」における進行方向を決定する。
ここで、方法(イ)は、特開2012−168004号公報に記載された方法を利用したものであり、方法(ロ)は、特開2011−163861号公報に記載された方法を利用したものである。最初に、方法(イ)から説明する。
【0105】
[方法(イ):右/左向きベクトルUを用いる方法]
(第1の方法)
図5(A)によれば、重力加速度ベクトルG
Sと、地磁気ベクトルM
Tと、「右/左向きベクトルU」とが示されている。「右/左向きベクトルU」は、進行方向に向いた歩行者の右方又は左方を示すベクトルであり、検出された立脚期又は遊脚期における複数の加速度ベクトルAから算出される。
【0106】
ここで、最初に、立脚期又は遊脚期における複数の加速度ベクトルAから、ユーザの歩行動作によって生じる加速度面を決定する。次いで、加速度面の法線ベクトルV
LR及び重力加速度ベクトルG
Sから、前向き又は後向きの前/後向きベクトルV
FGを、次式
(11) V
FG=V
LR×G
S (×:クロス積(ベクトル積、外積))
を用いて算出する。
【0107】
次いで、算出された前/後向きベクトルV
FGが前向きであるか後向きであるかを、遊脚期の終了時点での加速度ベクトルBに基づいて決定する。遊脚期における歩行者の足は、後から前へ運ばれる。従って、ズボンのポケットに挿入された携帯端末1は、振り子状に概ね円弧を描いて運動する。その結果、携帯端末1が前方にあるとき、加速度ベクトルは、後向きに検出される。即ち、遊脚期の終了時点での加速度ベクトルBの向きを「後」として決定できる。尚、遊脚期の終了時点は立脚期の開始時点となる。
【0108】
具体的には、この後向きの加速度ベクトルBと、前/後向きベクトルV
FGの向きの単位ベクトルe
FB=(e
FBx,e
FBy,e
FBz)との内積、即ち、加速度前後方向成分B
FG=e
FGx×B
x+e
FGy×B
y+e
FGz×B
zが、
負値→前/後向きベクトルV
FG:前向きであり、
正値→前/後向きベクトルV
FG:後向きとなる。
尚、立脚期の終了時(遊脚期の開始時)での加速度ベクトルFを用いて、同様の前/後向きの判定を行うことも当然に可能である。
【0109】
ここで、
(a)前/後向きベクトルV
FGが前向き(前向きベクトル)の場合、このV
FGの算出に用いた法線ベクトルV
LRを、右向きの「右/左向きベクトルU」(右向きベクトル)とし、
(b)前/後向きベクトルV
FGが後向き(後向きベクトル)の場合、このV
FGの算出に用いた法線ベクトルV
LRを、左向きの「右/左向きベクトルU」(左向きベクトル)とする。
【0110】
(第2の方法)
また、立脚期(又は遊脚期)の開始及び終了時点での加速度ベクトルB及び加速度ベクトルFの外積をとることによっても、右/左向きベクトルU=B×F(右向き)(又はU=F×B(左向き))を算出することができる。
【0111】
(第3の方法)
さらに、立脚期(又は遊脚期)の開始及び終了時点での加速度ベクトルB及び加速度ベクトルFの外積をとることによって算出された仮右/左向きベクトルU'と、法線ベクトルV
LRとの内積U'・V
LRを算出することによって、法線ベクトルV
LRの向きを、
内積U'・V
LRが負値→U'が右向きならV
LR左向き、U'が左向きならV
LR右向き
内積U'・V
LRが正値→U'が右向きならV
LR右向き、U'が左向きならV
LR左向き
のように決定することもできる。次いで、このように決定された法線ベクトルV
LRの向きにつき、
(a)V
LRが右向きの場合、法線ベクトルV
LRを、右向きの「右/左向きベクトルU」(右向きベクトル)とし、
(b)V
LRが左向きの場合、法線ベクトルV
LRを、左向きの「右/左向きベクトルU」(左向きベクトル)とする
ことができる。
【0112】
(第4の方法)
また、xyz軸の中で、立脚期(又は遊脚期)の開始及び終了時点での加速度ベクトルB及び加速度ベクトルFの外積をとることによって算出された仮右/左向きベクトルU'の向きに最も近い軸について、最小二乗法に基づいて加速度面を推定した場合には、仮右/左向きベクトルU'と法線ベクトルV
LRとに基づいて、右/左向きベクトル(法線ベクトル)の向きを決定することも可能である。この場合、
(a)V
LRが右向きの場合、法線ベクトルV
LRを、右向きの「右/左向きベクトルU」(右向きベクトル)とし、
(b)V
LRが左向きの場合、法線ベクトルV
LRを、左向きの「右/左向きベクトルU」(左向きベクトル)とする
ことができる。
【0113】
(進行方向決定)
次いで、
図5(B)に示すように、重力加速度ベクトルG
Sと、地磁気ベクトルM
Tと、算出された右/左向きベクトルUとから、「鉛直静止時点」における進行方向を決定する。具体的には、最初に、東向き単位ベクトルe
East又は北向き単位ベクトルe
Northを、次式
(12) e
East =G
S×M
T/|G
S×M
T|
(13) e
North=G
S×M
T×G
S/|G
S×M
T×G
S|
を用いて算出する。ここで×は、クロス積(ベクトル積、外積)である。
【0114】
次いで、右向きベクトルUの単位ベクトルである右向き単位ベクトルe
Rightを算出し、この右向き単位ベクトルe
Rightと、東向き単位ベクトルe
Eastとのなす角αを、次式
(14) α=arccos((e
East・e
Right)/(|e
East||e
Right|))
を用いて算出する。
【0115】
尚、当然に、右向き単位ベクトルe
Rightの代わりに左向き単位ベクトルe
Leftを用いて角度αを算出することも可能である。また、北向き単位ベクトルe
Northと、右向き(左向き)単位ベクトルe
Right(e
Left)とのなす角αを算出することも可能である。但し、これらの場合、最終的に算出される角度の基準は変更される点に留意しなければならない。
【0116】
次いで、算出された角αを用いて、進行方向を示す方位角θを決定する。ここで、角αは、劣角(0〜180度)である。これに対し、求める方位角θは、0〜360度(北方位を0度とした時計回りの角度)であり、優角を含む。従って、角αを方位角θに変換する必要がある。
【0117】
図6は、角αと方位角θとの関係を説明するための概略図である。
【0118】
図6(A)に示すように、180度未満の方向角θは、角αに一致する(θ=α)。この際、東向き単位ベクトルe
Eastと右向き単位ベクトルe
Rightとの外積ベクトルe
East×e
Rightの向きは、重力加速度ベクトルGの向きと一致する。一方、
図6(B)に示すように、180度以上の方位角θの場合、θ=360(度)−αとなる。この際、e
East×e
Rightの向きは、重力加速度ベクトルGとは逆になる。
【0119】
従って、東向き単位ベクトルe
Eastに対する方向角θは、e
East×e
Rightと重力ベクトルGとのなす角をβとして、以下の式によって決定されることができる。
cosβ>0の場合:θ=α
cosβ≦0の場合:θ=360(度)−α
【0120】
[方法(ロ):北/南及び東/西向き加速度ベクトルを用いる方法]
次に、上述した方法(ロ)について説明する。最初に、上述した式(12)及び(13)を用いて、北向き単位ベクトルe
North=(e
Nx、e
Ny、e
Nz)及び東向き単位ベクトルe
East=(e
Ex、e
Ey、e
Ez)を算出する。次いで、加速度ベクトルA=(A
x,A
y,A
z)の北向き加速度成分A
N及び東向き加速度成分A
Eを、次式
(15) A
N=e
Nx×A
x+e
Ny×A
y+e
Nz×A
z
(16) A
E=e
Ex×A
x+e
Ey×A
y+e
Ez×A
z
を用いて算出する。
【0121】
尚、北向き単位ベクトルの代わりに南向き単位ベクトルを、更に東向き単位ベクトルの代わりに西向き単位ベクトルを用いても以下と同様の計算を行うことが可能である。但し、この場合、最終的に算出される角度の基準は変更される点に留意しなければならない。
【0122】
算出されたこれらの北向き加速度成分A
North及び東向き加速度成分A
Eastは、例えば歩毎又は歩行周期毎に集められて水平方向加速度成分(加速度データ)群を構成する。この加速度データ群から、主成分分析法を用いて、方位角θを決定する。この主成分分析法は、多数の成分分布の中から、相関関係にある1つ以上の主成分を算出する方法である。その中で最も大きい相関関係を有する主成分が、歩行者の進行方向を示す角度を表す。
【0123】
具体的に、水平方向加速度データにおける2変数x、y(北向き成分:x,東向き成分:y)のi番目のデータをそれぞれ、x
i、y
iとする。このとき、n個のデータの固有値λは、以下の行列式によって算出される。
【数1】
(Vxx−λ)・(Vyy−λ)−Vxy・Vxy=0
Vxx・Vyy−(Vxx+Vyy)・λ+λ
2−Vxy
2=0
この固有方程式を解くことによって、2つの固有値λが算出される。
【0124】
ここで、Vxx、Vyy、Vxyは、北向き成分をxとし東向き成分をyとした際の、北向き加速度成分A
North及び東向き加速度成分A
Eastの分散及び共分散である。
Vxx=1/n・Σ
i=1n(x
i−x
 ̄)
2
Vyy=1/n・Σ
i=1n(y
i−y
 ̄)
2
Vxy=1/n・Σ
i=1n(x
i−x
 ̄)(y
i−y
 ̄)
【0125】
算出された2つの固有値λのうち、大きい方をλ
1とすると、以下の式で固有ベクトルが算出される。
【数2】
【0126】
算出された固有ベクトル[e
1,e
2]を用いると、水平加速度データ群における進行方向を示す角度は、以下の式によって算出される。
(進行方向を示す角度)=Tan
-1(e
2/e
1)
【0127】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、歩行者が携帯端末をズボンのポケットに挿入する等の形で身に着けている場合であっても、進行に関連する向きである鉛直下向きをより正確に決定することができる。また、この正確な鉛直下向きのベクトル、即ち重力加速度ベクトル、を取得することによって、歩行者の進行方向をより正確に決定することが可能となる。
【0128】
以上に述べた本発明の種々の実施形態において、本発明の技術思想及び見地の範囲内での種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。以上に述べた説明はあくまでも例であって、何ら制約を意図するものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。