特許第5995361号(P5995361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5995361-除染方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995361
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20160908BHJP
【FI】
   G21F9/28 551Z
   G21F9/28 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-206202(P2012-206202)
(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公開番号】特開2014-62736(P2014-62736A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】高畑 陽
(72)【発明者】
【氏名】根岸 昌範
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−223393(JP,A)
【文献】 特表2008−544997(JP,A)
【文献】 特開2002−037685(JP,A)
【文献】 2−3).芝・牧草の剥ぎ取り,[online],日本,農林水産省,2011年 9月14日,p.7-8,農林水産技術会議 農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)についての[別添4]各技術についての解説,[平成28年1月22検索],URL,http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/110914-04.pdf
【文献】 農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)作業の手引き 第1版,[online],日本,農林水産省,2012年 3月 2日,p.7-11,[平成28年1月22日検索],URL,http://www.s.affrc.go.jp/docs/press/pdf/120302-01.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
B09B 1/00−5/00
A01C 1/00−1/08
A01N 57/20
A01M 21/00−21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が繁茂している狭隘でかつ不陸の多い土地が放射性セシウムで汚染された場合に、当該土地の土壌を除染する除染方法であって、
前記土壌にグリホサート系の茎葉処理剤を散布して、前記植物の根を枯らす手順と、
前記枯れた植物および当該植物の根を含む表層土を一緒に手作業で除去する手順と、を備えることを特徴とする除染方法。
【請求項2】
前記表層土を除去した直後に、前記表層土を除去した土壌表面に芝草を植生する手順をさらに備え、
前記表層土を除去する手順では、当該表層土を地表から1.5cmまでの深さで除去することを特徴とする請求項1に記載の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除染方法に関する。詳しくは、植物が繁茂している土壌を除染する除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉛、ヒ素、六価クロムなどの重金属により汚染された土壌を浄化処理することが行われている。具体的には、この浄化処理では、例えば土壌を数10cm単位で掘削した後に、分級洗浄している。
【0003】
一方、原子力発電所において事故が発生し、この原子力発電所から放出された放射性セシウムにより土壌が汚染される場合がある。この場合、上述の分級洗浄を用いて汚染された土壌を除染することが考えられるが、放射性セシウムは、細粒分だけでなく礫や砂にも強固に吸着される性質があるため、従来の分級洗浄では放射性セシウムを効果的に除去できないという問題があった。そこで、分級洗浄に加えて、礫や砂の表面を研磨することで、放射性セシウムの除去率を向上させることが提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】放射性セシウム汚染土壌の浄化処理に関する研究,中島卓夫,鴻池組技研報告,2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、除染対象となる地域では、居住者が避難しているため、土壌が長期間に亘って放置されており、雑草の繁茂が進んでいることが多い。そのため、このような地域で除染作業を行う場合、まず、雑草を刈り取って回収する。この回収した雑草はフレキシブルコンテナ等に保管するが、回収した生草はかさ容積が大きいため、回収した雑草を乾燥させた後に焼却することで、減容化する。また、土壌については、手作業もしくは重機を用いて表層土の鋤き取りを行い、放射性セシウムで汚染された土壌を回収する。
【0006】
しかしながら、刈り取った雑草を仮置きして乾燥させる際に、この乾燥した雑草が飛散することにより、二次的汚染が生じる可能性があった。
また、雑草の根が土壌に強固に張っているため、手作業では表層土壌の除去に手間がかかって作業効率が低くなるので、除染コストが増大するという問題があった。
さらに、表層土を回収する際、雑草の根が株状に発達している状況では、深部に到達している根を土壌と共に塊状に巻き込みながら回収してしまうため、除去する土壌が深くなってしまい、土壌の回収量が増大する、という問題があった。
【0007】
本発明は、除染コストを低減しつつ、二次的汚染を防止でき、かつ、土壌の回収量を減容化できる除染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の除染方法は、植物が繁茂している狭隘でかつ不陸の多い土地が放射性セシウムで汚染された場合に、当該土地の土壌を除染する除染方法(例えば、後述の除染方法1)であって、前記土壌にグリホサート系の茎葉処理剤を散布して、前記植物の根を枯らす手順と、前記枯れた植物および当該植物の根を含む表層土を一緒に手作業で除去する手順と、を備えることを特徴とする。
【0009】
ここで、茎葉処理剤としては、グリホサート系、グルホシネート系、2,4−ジメチルアミン、MCPP(フェノキシ系)、アシュラムなどが挙げられる。
【0010】
この発明によれば、茎葉処理剤を散布して植物を枯らせた後、この枯れた植物およびこの植物の根を含む表層土を除去する。
よって、茎葉処理剤を散布するだけでよいため、狭隘な土地や不陸の多い土地においても、除染作業を円滑に行えるので、除染コストを低減できる。また、植物を刈り取る必要がないので、二次的汚染が生じることもない。
【0011】
また、土壌を除去する際には、植物の根が枯れているので、表層土を容易に薄層で除去できるから、除染コストを低減できるうえに、土壌の回収量を低減して、回収した土壌を保管する仮置場や貯蔵施設の規模を縮小できる。
【0012】
すなわち、放射性セシウムは土壌の数cm程度の表層に大部分が付着していることが判明している(農地土壌の放射性物質濃度分布マップ関連調査研究報告書(第3編)、農林水産省 農林水産技術会議事務局、2012年)。よって、汚染土壌の表層のみを薄層で除去してそのまま保管するだけで、かなりの放射性セシウムを除去できるうえに、汚染土壌を採取した後に分級洗浄などの処理をする場合に比べて、作業時間を短縮してコストを低減できる。
【0013】
本発明の除染方法は、前記茎葉処理剤は、グルホシネート系であってもよい
【0014】
グリホサート系またはグルホシネート系の茎葉処理剤は安全性が確認されており、植物の根を確実に枯らすことができる。
【0015】
本発明の除染方法は、前記除去した植物および表層土をコンポスト化して減容化する手順をさらに備えることが好ましい
【0016】
植物を枯らすことにより減容化できているが、表層土の回収時には、植物は原形を留めた状態である。そこで、この発明によれば、土壌と混合してコンポスト化することで、微生物により植物を分解させて、さらに減容化できる。
また、コンポスト化により、散布した茎葉処理剤が残存した場合でも、微生物による茎葉処理剤の分解を促進できる。
【0017】
また、土壌を攪拌したり土壌内に通気管を設置したりして、通気を行うことにより、短時間で微生物による分解を促進できる。
また、土壌に窒素やリン等の栄養塩を適宜添加することで、コンポスト化を促進できる。
【0018】
請求項に記載の除染方法は、前記表層土を除去した直後に、前記表層土を除去した土壌表面に芝草を植生する手順をさらに備え、前記表層土を除去する手順では、当該表層土を地表から1.5cmまでの深さで除去することを特徴とすることを特徴とする。
【0019】
植物および表層土を除去した後の地盤は、除去前と比較して空間線量的には問題のないレベルまで放射性セシウムを除去できるが、完全に除去できるわけではない。そこで、この発明によれば、表層土を除去した土壌に植生を行うことで、土壌表面を被覆する。よって、表層土除去後に残留した放射性セシウムの拡散を防止できるうえに、残留した放射性セシウムからの放射線量をさらに低減できる。
ここで、この土壌に植え付ける植物としては、芝草が好ましい。芝草を植え付けることにより、低コストかつ広範囲に亘って密に被覆できる。
【0020】
また、茎葉処理剤は土に吸着し易いため、散布した茎葉処理剤の大部分は表層土と共に回収されるが、一部は除去後の地盤に浸透して残留している可能性がある。本発明によれば、植え付けた植物の根圏微生物の働きにより、残留している茎葉処理剤を効率的に分解できる(ファイトレメディエーション)。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、茎葉処理剤を散布して植物を枯らせた後、この枯れた植物およびこの植物の根を含む表層土を除去する。よって、茎葉処理剤を散布するだけでよいため、狭隘な土地や不陸の多い土地においても、除染作業を円滑に行えるので、除染コストを低減できる。また、植物を刈り取る必要がないので、二次的汚染が生じることもない。また、土壌を除去する際には、植物の根が枯れているので、表層土を容易に薄層で除去できるから、除染コストを低減できるうえに、土壌の回収量を低減して、回収した土壌を保管する仮置場や貯蔵施設の規模を縮小できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る除染方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る除染方法1のフローチャートである。
本発明の除染方法1は、植物としての雑草が繁茂している土壌が放射性セシウムで汚染された場合に、この土壌を除染するものである。
まず、ステップS1では、土壌にグリホサート系の茎葉処理剤を散布して、雑草を枯らす。
ステップS2では、枯れた雑草とともに土壌の表層土を除去する。ここで、手作業、あるいは、1cm単位の薄層で表層土を除去可能な重機を用いて、枯れた雑草およびこの雑草の根を含む表層土を一緒に除去する。
【0024】
次に、ステップS3では、除去した雑草および表層土(混合土)に窒素やリン等の栄養塩を適宜添加した後にフレキシブルコンテナに詰めて通気管等を挿入し、空気を供給してコンポスト化する。
【0025】
次に、ステップS4では、表層土を除去した土壌に芝草などで植生を行って、土壌表面を被覆する。この作業は、再度雑草が繁茂しないように、表層土を除去した後に迅速に行う。
【0026】
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。
放射性セシウムで汚染された敷地のうち雑草が繁茂している場所で、試験区−1〜3の3つの試験区画を設定した。試験区−1は比較例、試験区−2、3は実施例である。
このうちの試験区−2、3について、以下の表1に示すように、異なる茎葉処理剤として除草剤−1、2を散布した。ここで、除草剤−1として、日産化学工業株式会社製の商品名「ラウンドアップ(登録商標)マックスロード」を用いた。また、除草剤−2として、石偉貿易有限公司製の商品名「コンパカレール(登録商標)液剤」を用いた。
【0027】
【表1】
【0028】
除草剤−1、2を散布して41日経過した後に、以下の手順で雑草および表層土壌を回収、各測定を行った。
【0029】
まず、地表面の上方1cmより高い位置に繁茂している雑草(1m)を手作業により全量刈り込んで回収し、重量、かさ比重、含水率、放射性セシウム濃度を測定した。
次に、雑草の根および表層土を手作業によりできるだけ薄く回収し、根および表層土の混合物の放射性セシウム濃度を測定した。また、土壌および根を回収した際に除去された表層土の深度を測定した。
次に、表層土掘削後の原地盤の放射性セシウム濃度について測定した。この試験結果を以下の表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
除草剤未散布区では、数種類の雑草(メヒシバやスギナ等)が草丈30cm〜50cm程度で一面に隙間無く繁茂しており、根は手作業で容易に抜けないほど地盤に張っている状況であった。
一方、除草剤散布区では、ほぼ全ての雑草が枯れており、多くが地表部に乾燥して倒れている状態であった。本試験では、これらの雑草のうち地表面の上部1cmより高い部分を切断して、表2に示す「刈り込み後の草」として回収して測定を行った。
【0032】
除草剤未散布区における根を含む表層土は、根が強固に地盤に張りめぐされた状態であったため、手作業での除去に時間を要した。また、根を回収する際に、土壌を根と共に巻き込んで回収してしまうため、地表下1.5cmの深さで表層土を除去することが困難であり、地表下5cmの深さで除去することとなった。
一方、除草剤散布区については、表層土を根と共に容易に除去できるため、地表下1.5cmの深さで表層土を速やかに回収した。
除草剤未散布区と除草剤散布区の結果をまとめて比較した結果を、以下の表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
以上より、除草剤(茎葉処理剤)をあらかじめ散布して雑草を枯らしておいた場合(実施例)は、除草剤(茎葉処理剤)を散布しなかった場合(比較例)に比べて、以下のような効果があることが判明した。
雑草および表層土の手作業による除去時間を約60%短縮できる。また、刈り込み可能な雑草を重量で約90%、容積で約80%減容化できる。また、表層土の回収量を約70%減容化できる。また、放射性セシウムの除去量は、地表下1.5cmの深さで表層土を除去すれば、表層土を地表下5cmの深さで除去した場合の95%以上となる。
【0035】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)茎葉処理剤を散布して雑草を枯らせた後、この枯れた雑草およびこの雑草の根を含む表層土を除去する。
よって、茎葉処理剤を散布するだけでよいため、狭隘な土地や不陸の多い土地においても、除染作業を円滑に行えるので、除染コストを低減できる。また、雑草を刈り取る必要がないので、二次的汚染が生じることもない。また、土壌を除去する際には、雑草の根が枯れているので、表層土を容易に薄層で除去できるから、除染コストを低減できるうえに、土壌の回収量を低減して、回収した土壌を保管する仮置場や貯蔵施設の規模を縮小できる。
【0036】
(2)グリホサート系の茎葉処理剤は安全性が確認されており、雑草の根を確実に枯らすことができる。
【0037】
(3)土壌と混合してコンポスト化することで、微生物により雑草を分解させて、さらに減容化できる。
また、コンポスト化により、散布した茎葉処理剤が残存した場合でも、微生物による茎葉処理剤の分解を促進できる。
また、土壌内に通気管を設置して通気を行ったので、短時間で微生物による分解を促進できる。
また、土壌に窒素やリン等の栄養塩を適宜添加したので、コンポスト化を促進できる。
【0038】
(4)表層土を除去した土壌に植生を行うことで、土壌表面を被覆して、表層土除去後に残留した放射性セシウムの拡散を防止できるうえに、残留した放射性セシウムからの放射線量をさらに低減できる。
また、芝草を土壌に植え付けたので、低コストでかつ広範囲に亘って容易に密に被覆できる。
また、植え付けた植物の根圏微生物の働きにより、残留している茎葉処理剤を効率的に分解できる(ファイトレメディエーション)。
【0039】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、雑草を完全に枯らせた後に除去したが、これに限らず、雑草の根を弱らせた段階で除去してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1…除染方法
図1