【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、環状尿素化合物とグリオキサールとの付加生成物を主剤として配合することにより、木質材料の寸法安定化、表面のベトツキがない表面硬化、及び、光による変色を大幅に改善できることを見出し本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明に係る木質材料の処理方法は、請求項1の記載によると、
2−イミダゾリジノンとグリオキサールとの付加生成物からなる第1成分と、
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分とを含有する処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第1成分及び上記第2成分を反応硬化させることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、木質材料中に含浸された環状尿素化合物
である2−イミダゾリジノンとグリオキサールとの付加生成物からなる第1成分が、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分と反応硬化して、当該反応物が木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される。このことにより、木質材料の強度が向上し、更に、木質材料の表面が硬化して表面強度も向上する。
【0014】
また、木質材料中に含浸された4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分は、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する可能性を有している。このことにより、木質材料の細胞壁の強度が向上すると共に、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0015】
また、上記第1成分及び第2成分は、未反応物による木質材料表面のベトツキも残さず、且つ、光による黄褐変などの変色を生じることがない。
【0016】
よって、請求項1に記載の発明においては、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供することができる。
【0017】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の木質材料の処理方法において、
上記第1成分及び上記第2成分に加えて、グリコール類からなる第3成分を含有する処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第3成分を上記第1成分及び上記第2成分と共に反応硬化させることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、第1成分及び第2成分に加えて、グリコール類からなる第3成分を追加するようにしてもよい。この第3成分は、上述の第1成分及び第2成分と共に反応硬化して、当該反応物が木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される。このことにより、木質材料の強度が向上すると共に、木質材料の表面が硬化して表面強度も向上する。更に、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定化が図られる。
【0019】
よって、請求項2に記載の木質材料の処理方法においても、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を達成することができる。
【0020】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載の木質材料の処理方法において、
上記第1成分は
、2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加してなることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、第1成分の付加生成物は、2つの成分である2−イミダゾリジノンとグリオキサールとが等モル数に近い割合で付加されている。すなわち、2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサール0.9モル〜1.2モルの範囲に限られている。
【0022】
よって、この反応から生成した付加生成物においては、その分子の両末端が異なる成分から構成されている可能性が高くなる。従って、第1成分の分子同士が木質材料中で自己重合反応を生じる機会が多くなる。このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される重合物の重合度が大きくなり、充填効果による木質材料の強度向上と寸法安定化がより一層向上する。
【0023】
よって、請求項3に記載の木質材料の処理方法においても、請求項1又は2に記載の発明と同様の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0024】
また、本発明は、請求項4の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の木質材料の処理方法において、
上記第2成分は、
1,3−ジメチル−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする。
【0025】
上記構成によれば、第2成分が4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの特定の誘導体であることが好ましい。すなわち、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン分子中の1位と3位の2つの窒素原子にそれぞれ、メチル基、ヒドロキシメチル基或いはヒドロキシエチル基が付加された化合物であることが好ましい。また、第2成分は、これらの誘導体の配合であってもよい。
【0026】
これらの第2成分は、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間との反応性が高く、セルロース分子間を強固に架橋する。また、第1成分の重合物或いは第1成分と第3成分の重合物とも良好に反応して、当該重合物間を架橋し、或いは、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する。このことにより、木質材料の強度が更に向上すると共に、木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0027】
よって、請求項4に記載の木質材料の処理方法においても、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0028】
また、本発明に係る木質材料の処理方法は、請求項5の記載によると、
2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加した付加生成物からなる第1成分と、
1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる第2成分とを含有し、
これらの含有量が固形分比率(重量比)で上記第1成分を1とすると、上記第2成分が3〜6の範囲内にある処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第1成分及び上記第2成分を反応硬化させることを特徴とする。
【0029】
上記構成によれば、2つの成分が等モル数に近い割合で付加された第1成分においては、その分子の両末端が異なる成分から構成されている可能性が高くなる。従って、第1成分の分子同士が木質材料中で自己重合反応を生じる機会が多くなる。このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される重合物の重合度がより大きくなる。
【0030】
一方、第2成分である1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンは、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間との反応性が高く、セルロース分子間を強固に架橋する。また、第1成分の重合物とも良好に反応して、当該重合物間を架橋し、或いは、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する。このことにより、木質材料の強度が更に向上すると共に、木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0031】
更に、上記構成によれば、第1成分と第2成分との固形分比率(重量比)を所定の範囲内にすることにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填、細胞壁を構成するセルロース分子間の架橋、第1成分の重合物間の架橋、及び、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間との架橋をより効率よく行うことができる。
【0032】
また、上記第1成分及び第2成分を上記固形分比率で配合することにより、未反応物による木質材料表面のベトツキも残さず硬い表面を形成し、且つ、光による黄褐変などの変色を生じることがない。
【0033】
よって、請求項5に記載の木質材料の処理方法においては、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供することができる。
【0034】
また、本発明に係る木質材料の処理方法は、請求項6の記載によると、
2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加した付加生成物からなる第1成分と、
1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる第2成分と、
ジプロピレングリコールからなる第3成分とを含有し、
これらの含有量が固形分比率(重量比)で上記第1成分を1とすると、上記第2成分が3〜6の範囲内にあり、上記第3成分が2.5〜5.5の範囲内にある処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第1成分、上記第2成分及び上記第3成分を反応硬化させることを特徴とする。
【0035】
上記構成によれば、2つの成分が等モル数に近い割合で付加された第1成分においては、その分子の両末端が異なる成分から構成されている可能性が高くなる。従って、第1成分の分子同士が木質材料中で自己重合反応を生じる機会が多くなる。また、第3成分であるジプロピレングリコールは、第1成分或いはその重合物と反応し、また、第2成分とも反応し得る。このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される重合物の重合度がより大きくなる。
【0036】
一方、第2成分である1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンは、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間との反応性が高く、また、第1成分の重合物或いは第1成分と第3成分との重合物とも良好に反応して、当該重合物間を架橋し、或いは、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する。このことにより、木質材料の強度が更に向上すると共に、木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0037】
更に、上記構成によれば、第1成分と第2成分と第3成分との固形分比率(重量比)を所定の範囲にすることにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填、細胞壁を構成するセルロース分子間の架橋、第1成分の重合物或いは第1成分と第3成分との重合物間の架橋、及び、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間との架橋をより効率よく行うことができる。
【0038】
また、上記第1成分、第2成分及び第3成分を上記固形分比率で配合することにより、未反応物による木質材料表面のベトツキも残さず硬い表面を形成し、且つ、光による黄褐変などの変色を生じることがない。
【0039】
よって、請求項6に記載の木質材料の処理方法においては、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供することができる。
【0040】
また、本発明に係る木質材料は、請求項7の記載によると、
2−イミダゾリジノンとグリオキサールとの付加生成物からなる第1成分と、
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分とを含有する処理液が木質材料中で反応硬化し
たことを特徴とする。
【0041】
上記構成によれば、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料を提供することができる。
【0042】
また、本発明に係る集成材は、請求項8の記載によると、
請求項7に記載の木質材料からなる一次ラミナを縦継ぎしてなる二次ラミナを幅はぎ又は/及び積層してなる集成材において、
上記二次ラミナは、上記一次ラミナの木目の繊維方向が互いに交差するようにして接合した縦継ぎ部分を有することを特徴とする。
【0043】
上記構成は、本発明に係る木質材料の一つの用途に係る集成材に関するものであり、この集成材には、請求項7に記載の木質材料が採用されている。上記構成によれば、集成材は、寸法安定化が施された一次ラミナ同士を縦継ぎして二次ラミナを構成し、この二次ラミナ同士を幅はぎ或いは積層し、又は、幅はぎと積層の両方を行って構成されている。
【0044】
ここで、一次ラミナ同士の縦継ぎ部分においては、一方の一次ラミナの木目の繊維方向と、これに縦継ぎされる他方の一次ラミナの木目の繊維方向とが交差している。この結果、幅はぎされた接合部位及び積層された接合部位においても一次ラミナの木目の繊維方向が交差した部分が生じる。
【0045】
従来の集成材においては、一次ラミナの含水率の変化による厚さ、幅及び長さ方向の寸法変化の程度が異なり、例えば、幅方向と長さ方向を接合した場合には、含水率の変化に伴って接合部位に歪が生じて剥がれることになる。この歪は例え蟻桟を入れて補強しても防ぐことができない。
【0046】
これに対して、上記構成による集成材においては、一次ラミナに請求項7に記載の木質材料が採用され寸法安定化が施された結果、一次ラミナの含水率の変化による厚さ、幅及び長さ方向の寸法変化がいずれも小さくなる。更に、厚さ、幅及び長さ方向の寸法変化の差も小さくなり、一次ラミナ同士の木目の繊維方向を交差して接合することができる。
【0047】
このことにより、上記構成による集成材は、含水率の変化による反りや捩れなどの狂いが生じることがない。更に、この集成材を造作用に使用する場合には、木目の繊維方向が交差した接合部位を表面に露出させて繊維方向にとらわれない自由な組み合わせが可能となり集成材の意匠性を高めることができる。
【0048】
よって、請求項8に記載の発明によれば、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる集成材を提供することができる。
【0049】
また、本発明に係る集成材は、請求項9の記載によると、
請求項7に記載の木質材料からなる一次ラミナを積層してなる二次ラミナを縦継ぎ又は/及び幅はぎしてなる集成材において、
上記二次ラミナは、上記一次ラミナの木目の繊維方向が互いに交差するようにして接合した積層部分を有することを特徴とする。
【0050】
上記構成は、上記請求項8と同様に、本発明に係る木質材料の一つの用途に係る集成材に関するものであり、この集成材には、請求項7に記載の木質材料が採用されている。上記構成によれば、集成材は、寸法安定化が施された一次ラミナ同士を積層して二次ラミナを構成し、この二次ラミナ同士を縦継ぎ或いは幅はぎし、又は、縦継ぎと幅はぎの両方を行って構成されている。
【0051】
このことにより、上記構成による集成材は、上記請求項8と同様に、含水率の変化による反りや捩れなどの狂いが生じることがない。更に、この集成材を造作用に使用する場合には、木目の繊維方向が交差した接合部位を表面に露出することにより意匠性を高めることができる。
【0052】
よって、請求項9に記載の発明においても、請求項8と同様の作用効果を発揮することができる。