【実施例1】
【0021】
本発明の実施例1に係る紡糸巻取装置100について、
図1から
図5を用いて説明する。以下では、まず紡糸巻取装置100の概略構成について説明し、その後、本発明の特徴部分である振動抑制装置60について説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施例の紡糸巻取装置100は、糸Yをトラバース装置40で綾振りさせながら複数の巻取ボビンB上に巻き取って複数のパッケージPを同時に形成する構成である。糸Yは上方にある紡糸装置(図示省略)で紡糸され、ローラR1、R2等を介して紡糸巻取装置100に送られる。糸Yの走行方向は、矢印で示すように上方の紡糸装置から巻取ボビンBに向かう方向である。
図1に示す紡糸巻取装置100は1台であるが、このような紡糸巻取装置100を複数台配置することで、紡糸巻取設備が構成される。尚、以下の説明では、紡糸巻取装置100の側面のうち、ボビンホルダ21の自由端FE側を紡糸巻取装置100の前面Fとし、ボビンホルダ21の固定端BE側を紡糸巻取装置100の後面Rとする(
図2参照。)。
【0023】
図1、
図2に示すように、紡糸巻取装置100は、主として機体10、ターレット20、揺動部30を備えている。機体10は、紡糸巻取装置100の本体をなすものである。
【0024】
ターレット20は、ボビンホルダ21を備えるとともに、機体10に対して回転するものである。ボビンホルダ21は、巻取ボビンBを装着する部材である。ボビンホルダ21は、ターレット20の回転軸22に対して対称となる位置に2本、それぞれ突出状態で片持ち支持されている。ボビンホルダ21の自由端FE側より、巻取ボビンBが着脱される。2本のボビンホルダ21の固定端BE側は、それぞれボビンホルダ駆動モータ23に接続されており、回転可能である。
【0025】
ターレット20は、ターレット駆動モータ(図示せず)の駆動により回転軸22を中心に回転する。ターレット20は、ターレット駆動モータによって約半回転することで、ボビンホルダ21の一方が上方の巻取位置に、他方が下方の待機位置となるように、2本のボビンホルダ21の位置を交代させることができる。また、ターレット駆動モータの回転角度を制御して、ターレット20を微少角度だけ回転させることで、巻取ボビンBの位置を細かく制御することもできる。
【0026】
揺動部30は、揺動アーム31、接触ローラ33、接圧調整部35、トラバース装置40を備えている。
【0027】
揺動アーム31は、揺動部30の基体をなすものであり、接触ローラ33、トラバース装置40が設けられている。揺動アーム31は、揺動軸32により機体10に対して揺動自在に支持され、揺動軸32回りに揺動することにより、接触ローラ33がパッケージPの表面に対してほぼ法線方向に揺動するように構成されている。
【0028】
接触ローラ33は、揺動アーム31に支持され、ボビンホルダ21に装着された複数の巻取ボビンBに形成される複数のパッケージPに接触するローラである。接触ローラ33の両端部は、回転軸34によって揺動アーム31に対して回転自在に支持されている。接触ローラ33は、パッケージPに接触して従動または能動回転し、トラバース装置40から糸Yを受け継いでパッケージPの外周に糸Yを送る。
【0029】
接圧調整部35は、揺動アーム31に設けられ、接触ローラ33とパッケージPとの接触圧力を調整するものである。接圧調整部35は、アクチュエータ36を備えている。アクチュエータ36は、揺動アーム31と機体10との間に設けられている。アクチュエータ36は、揺動アーム31の揺動する力を調整し、接触ローラ33をパッケージPに所定の接触圧力で接触させるものである。
【0030】
トラバース装置40は、複数の巻取ボビンBに形成される複数のパッケージPに対して糸Yを綾振りする装置である。本実施例のトラバース装置40は、回転羽根を用いたロータリー式トラバース装置である。トラバース装置40は、接触ローラ33に対して糸Yの進行方向の上流側に配置されている。
【0031】
トラバース装置40の構成をより詳細に説明する。
図2、
図3に示すように、トラバース装置40は、複数のトラバースユニット41、及びトラバースモータ51を備えている。複数のトラバースユニット41は、各巻取ボビンBごとに配設される。
【0032】
トラバースユニット41は、それぞれガイド板42、2枚の回転羽根43、44、及びギアユニット(図示せず)を有している。ギアユニットにより、回転羽根43、44は互いに逆方向に同速度で回転する。ガイド板42の左右両端部において、上下の回転羽根43、44間で糸Yの受け渡しを行うことにより、糸Yをガイド面に沿って左右に綾振りする。
【0033】
トラバースモータ51は、揺動アーム31に対して立設されている(
図1も参照。)。トラバースモータ51の駆動軸53には、プーリー45が設けられている。各ギアユニットの入力軸にはそれぞれプーリー46が設けられている。各ギアユニットのプーリー46、及びトラバースモーター51の出力軸のプーリー45に無端ベルト47が掛け回されている。トラバースモータ51を駆動させることにより、全てのトラバースユニット41が同時に作動する。
【0034】
以上の構成の紡糸巻取装置100において、主たる振動発生源となるのは、ボビンホルダ21である。ボビンホルダ21で発生した振動は、パッケージPを経て接触ローラ33に伝わり、接触ローラ33を支持する揺動アーム31を振動させる。揺動アーム31の振動の方向は、主として揺動アーム31を支持する揺動軸32を中心とする円弧方向の振動である。
【0035】
このような揺動アーム31の振動を抑制するため、揺動アーム31と機体10との間に回転式ダンパや伸縮式ダンパ等の揺動ダンパを設けることも考えられる。しかしながら、揺動アーム31と機体10との間に揺動ダンパを設けると、接圧調整部35の動作を妨げるため、好ましくない。
【0036】
また、揺動アーム31は揺動軸32で機体10に支持されているため、揺動アーム31の円弧方向の振動は、機体10側にはほとんど伝達されない。つまり、特許文献1と同様に、振動抑制装置60を機体10側に設けても、揺動アーム31の振動を効果的に抑制することはできない。
【0037】
よって、揺動アーム31の振動を効果的に抑制するためには、振動抑制装置60を揺動アーム31に設けることが好ましい。
【0038】
また、揺動アーム31に発生する振動は、ボビンホルダ21の回転周波数がパッケージPの巻径の増加に伴い変化すること、生産される糸Yの品種によって生産速度が様々であること、さらに振動が構造部材の複雑な要素が絡み合って発生することから、振動レベルや周波数は一定ではない。このような振動を抑制する振動抑制装置60として、衝撃ダンパを用いることが好ましい。衝撃ダンパは、質量体と規制部材との衝突により、振動エネルギーを熱エネルギーなどに変換して吸収するダンパである(
図4参照。)。衝撃ダンパは、揺動アーム31の振動特性に正確に一致しなくても、振動が大きい限り、揺動アーム31の振動を抑制できる。このため、揺動アーム31の振動が大きな部位に、衝撃ダンパを設けることにより、その部位の振動が大きなものである限り、振動を抑制することができる。
【0039】
ここで、質量体と規制部材からなる衝撃ダンパによって、揺動アーム31の振動を効果的に抑制するための条件について、
図1から
図3を参照して説明する。
【0040】
第1の条件は、衝撃ダンパの作用方向が、少なくとも、揺動アーム31を支持する揺動軸32を中心とする円弧方向の振動と略一致することである。これを言い換えると、質量体の自由度の成分が、少なくとも、揺動アーム31の揺動軸32に対して垂直な面内であって、かつ、揺動軸32を中心とする円周方向に設けられることである。尚、質量体の自由度の方向と揺動軸32を中心とする円周方向について、それぞれの方向のずれが30°の場合は約13%、45°の場合は約29%、60°の場合には約50%、振動抑制の性能が低減することになるため、質量体の自由度の方向は揺動軸32を中心とする円周方向に一致させることが望ましいが、円周方向に自由度方向の成分が残る方向であれば構わない。
【0041】
第2の条件は、衝撃ダンパは、揺動軸32から出来るだけ遠い位置に設置されることである。
【0042】
第3の条件は、衝撃ダンパを揺動アーム31に固定する部材は出来るだけ剛性が高いことである。
【0043】
第4の条件は、必須の条件ではないが、衝撃ダンパを設置する位置は、必ずしも揺動アーム31の端部のうち、ボビンホルダ21の自由端FE側(紡糸巻取装置100の前面F側)である必要は無い。このため、作業スペース、オペレータの作業性、デザイン性を考慮すると、揺動アーム31の端部のうち、ボビンホルダ21の固定端BE側(紡糸巻取装置100の後面R側)に近い位置が適当となる。これを言い換えると、揺動アーム31の長手方向の両端部のうち、ボビンホルダ21の自由端FEに近い端部を第1端部E1とし、第1端部E1の反対側の端部を第2端部E2とすると、衝撃ダンパは、揺動アーム31の第2端部E2側に設けることである。
【0044】
本実施例では、上記の諸条件に合致する位置として、振動抑制装置60としての衝撃ダンパを、揺動アーム31に立設されるトラバースモータ51上に設けている。
【0045】
振動抑制装置60としての衝撃ダンパ、及びトラバースモータ51への取り付け構造について説明する。
図4に示すように、振動抑制装置60は、質量体としての円形プレート61、規制部材としての規制軸部63、及び取付部材64を備えている。
【0046】
円形プレート61は、金属素材で形成された円盤状の部材である。本実施例では、円形プレート61の質量は約5kgである。円形プレート61には、重心位置を通るように、円形の穴62が形成される。
【0047】
規制軸部63は、円形プレート61を自由度が有るように保持する部材である。規制軸部63は略円柱形状である。規制軸部63の外径は、円形プレート61の穴62の内径よりやや小径である。穴62に規制軸部63を通した状態では、両者の間に所定の間隙が確保される。そのため、円形プレート61は、規制軸部63と垂直な面内においてあらゆる二次元方向に移動できる自由度を有する。規制軸部63には鍔部65が取り付けられる。鍔部65は、規制軸部63から円形プレート61が抜け出さないようにするための抜け止め手段である。
【0048】
取付部材64は、規制軸部63をトラバースモータ51に取り付けるための部材である。ここでトラバースモータ51の構造を説明すると、トラバースモータ51は、剛性のある円筒状のケーシング52を備えている。トラバースモータ51のケーシング52の一端からは、駆動軸53が突出している。ケーシング52の端部のうち、駆動軸53が突出している側を上面部とし、反対側を底面部54とする。トラバースモータ51は、上面部を揺動アーム31側に向けて立設されている。このため、取付部材64は、トラバースモータ51の底面部54に取り付けられる。
【0049】
振動抑制装置60をトラバースモータ51に取り付ける手順について説明する。まず、取付部材64に規制軸部63をボルトで取り付ける。次に取付部材64をトラバースモータ51の底面部54にボルトで取り付ける。取付部材64に円形プレート61の穴62を通す。取付部材64の端部に鍔部65をボルトで取り付けて、振動抑制装置60の取り付けが完了する。
【0050】
以上のように構成された振動抑制装置60は、円形プレート61、及び規制軸部63が揺動アーム31の振動の方向と同じ方向、つまり揺動アーム31を支持する揺動軸32を中心とする円弧方向に振動し、穴62の内周と規制軸部63の外周との衝突が繰り返される。この衝突により、振動エネルギーが熱エネルギーに変換され、振動が抑制される。
【0051】
図5は、振動抑制装置60の振動吸収特性を示すグラフである。縦軸は揺動アーム31の振動レベルであり、横軸はボビンホルダ21の回転数である。破線で示すグラフは、振動抑制装置60を設けていない状態を示している。実線で示すグラフは、振動抑制装置60を設けた場合を示している。振動抑制装置60が無い場合、ボビンホルダ21の回転数基準でN1の部分に共振点があるため、揺動アーム31の振動レベルは、回転数N1の近傍で大きくなり、振動レベルの許容値を上回っている。一方、振動抑制装置60を付けると、振動レベルが大きい程、円形プレート61と規制軸部63の衝突の程度が大きくなって、熱エネルギーに変換されやすい。そのため、回転数N1の近傍での振動レベルが大きく下がるが、振動レベルの低い部分での低下率はそれほど高くない。しかし、ボビンホルダ21の回転数の広い範囲で、揺動アーム31の振動レベルを許容値以下とすることができる。
【0052】
以上説明した実施形態に係る紡糸巻取装置11によれば、次のような効果を有する。
【0053】
円形プレート61と規制軸部63とからなる振動抑制装置60は、揺動アーム31に設けられている。また、円形プレート61の自由度の方向は、少なくとも、揺動アーム31の揺動軸32に対して垂直な面内であって、かつ、揺動軸32を中心とする円周方向の成分がある方向に設けられている。このため、振動抑制装置60は、揺動アーム31の揺動軸32回りの振動を抑制することができる。また、振動抑制装置60は、揺動アーム31の揺動、及び接圧調整部35の動作を妨げない。このため、接圧調整部35による接触ローラ33の接圧付与機能を損なうこともない。
【0054】
振動抑制装置60は、揺動アーム31の第2端部側E2、すなわち、ボビンホルダ21が機体10に片持ち支持されている固定端BEに近い位置に設けられている。振動抑制装置60をこのような位置に設けても、揺動アーム31の揺動軸32回りの振動を抑制することができる。また、この位置は、紡糸巻取装置100に対するオペレータの作業スペースから離れている。このため、オペレータの作業性を損なうこともない。
【0055】
振動抑制装置60は、揺動アーム31に対して立設されるトラバースモータ51に設けられている。揺動アーム31に設けられているトラバースモータ51を活用して、振動抑制装置60を設けることができるため、新たに振動抑制装置60を設置するスペースや部材を設ける必要がなく、振動抑制装置60の設置が容易となる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0057】
本実施例では、振動抑制装置60としての衝撃ダンパをトラバースモータ51に取り付けたが、これに限定されるものではない。例えば、振動抑制装置60を揺動アーム31に取り付けるための部材を新たに設けてもよい。この場合、トラバースモータ51の位置に制限されずに振動抑制装置60を設けることができる。
【0058】
また本実施例では、トラバースモータ51が揺動アーム31に立設される位置は、揺動アーム31の第2端部E2側である。しかしながら、トラバースモータ51がこれ以外の位置、例えば揺動アーム31の長手方向の中間位置に設けられている場合でも、トラバースモータ51に振動抑制装置60を設けてもよい。
【0059】
本実施例では、円形プレート61は、規制軸部63と垂直な面内においてあらゆる二次元方向に移動できる自由度を有する。しかしながら、円形プレート61の自由度を、揺動アーム31の揺動軸32に対して垂直な面内であって、かつ、揺動軸32を中心とする円周方向のみに設けるようにしてもよい。このように円形プレート61の自由度を限定しても、揺動アーム31の円弧方向の振動を抑制することができる。
【0060】
振動抑制装置60の取付け方向は、振動抑制装置60の効率という点では、揺動軸32を中心とする円周方向に衝撃ダンパの作用方向を一致させることが望ましく、例えば、
図6に示すように同方向を合わせるために振動抑制装置60をトラバースモータ51に対して傾けて設置してもよい。
【0061】
振動抑制装置60で抑制する振動の方向は、揺動アーム31の揺動軸32に対して垂直な面内で揺動軸32を中心とする円周方向の振動である。本実施例では、振動抑制装置60は、
図4に示す2自由度の円形構造であるが、
図7に示すような1方向自由度の衝撃ダンパを用いることも可能である。
図7の振動抑制装置160としての衝撃ダンパは、質量体161の移動方向が、規制部材163によって1方向に規制される構造である。
【0062】
本実施例では、円形プレート61と規制軸部63は、直接衝突する構造としたが、衝撃音の低減のため、円形プレート61と規制軸部63との間に弾性体を介在させてもよい。