(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995706
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法および炭素繊維強化プラスチック製補強材
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20160908BHJP
【FI】
C08J5/24CEZ
C08J5/24CFC
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-284262(P2012-284262)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-125583(P2014-125583A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080322
【弁理士】
【氏名又は名称】牛久 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100104651
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100114786
【弁理士】
【氏名又は名称】高城 貞晶
(72)【発明者】
【氏名】青木 幸子
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 太輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩
(72)【発明者】
【氏名】蜂須賀 俊次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 建司
【審査官】
佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−074606(JP,A)
【文献】
特開昭61−106634(JP,A)
【文献】
特開2000−198112(JP,A)
【文献】
特開2010−179558(JP,A)
【文献】
特開2014−046618(JP,A)
【文献】
特開平05−025787(JP,A)
【文献】
特開平02−127583(JP,A)
【文献】
特開平05−321178(JP,A)
【文献】
特開平01−198639(JP,A)
【文献】
特開平05−024042(JP,A)
【文献】
特開2006−069188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08 − 15/14
C08J 5/04 − 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた,繊維方向が長手方向に揃っている複数本の炭素繊維から構成される横断面円形の炭素繊維束にらせん状にテープ材を巻付け,
テープ材が巻き付けられた横断面円形の炭素繊維束を横断面方形に変形し,
横断面方形のテープ材が巻き付けられた炭素繊維束を加熱して上記熱硬化性樹脂を硬化する,
炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【請求項2】
連続して供給される複数本の炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸し,
熱硬化性樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維を,上記炭素繊維の方向を長手方向に揃えた状態で横断面円形に成形して炭素繊維束にし,
熱硬化性樹脂を含浸させた横断面円形の炭素繊維束にらせん状にテープ材を巻付け,
テープ材が巻き付けられた横断面円形の炭素繊維束を横断面方形に変形し,
横断面方形のテープ材が巻き付けられた炭素繊維束を加熱して上記熱硬化性樹脂を硬化する,
炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【請求項3】
炭素繊維が巻き回された複数台の繰出しリールのそれぞれから炭素繊維を繰出し,
繰出しリールから繰出された複数本の炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸し,
熱硬化性樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維を,上記炭素繊維の方向を長手方向に揃えた状態でその横断面が円形となるようにダイスを通して成形して炭素繊維束にし,
上記横断面円形の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維束にらせん状にテープ材を巻付け,
上記テープ材が巻き付けられた炭素繊維束を押圧して横断面を長方形に形成し,
横断面が長方形に形成されたテープ材が巻き付けられた炭素繊維束を加熱して上記熱硬化性樹脂を硬化し,
熱硬化性樹脂が硬化した炭素繊維束を巻取りリールに巻取る,
炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【請求項4】
上記テープ材を,隣接するテープ材の側部と重なり合う側部を持つように上記横断面が円形の炭素繊維束に巻き付ける,
請求項1から3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【請求項5】
上記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である,
請求項1から4のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【請求項6】
熱硬化性樹脂が硬化した炭素繊維束から上記テープ材をはぎ取る,
請求項1から5のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【請求項7】
熱硬化性樹脂が硬化した炭素繊維束の表面を研削ないし研磨する,
請求項1から6のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【請求項8】
上記テープ材が多孔質のものである,
請求項1から7のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法および炭素繊維強化プラスチック製補強材に関する。
【背景技術】
【0002】
多数本の炭素繊維にエポキシ樹脂等のマトリックスを含浸させたプリプレグをシート状に形成し,このシート状プリプレグを複数層積層したもの(擬似等方性積層板)が知られている。各層の炭素繊維の方向を( 360/n)°ずつずらしてn層積層することで,様々な方向に補強効果が発揮される。しかしながら,擬似等方性積層板はそこに含まれる炭素繊維に最大の強度(引張強度および圧縮強度)を発揮させることができない。炭素繊維にその最大強度を発揮させるには,炭素繊維の方向を全体として一方向に揃えることが必要である。
【0003】
炭素繊維の方向を一方向に揃える場合,一般に引抜き成形(プルトリュージョン)が用いられる(特許文献1)。しかしながら,引抜き成形では金型にプリプレグが接触して擦れ合うために,特に表層において炭素繊維を一方向に揃えることは容易ではない。表層に位置する炭素繊維が切れたり,毛羽立つこともある。またプリプレグと金型との間の潤滑が必要とされるので,プリプレグにおけるエポキシ樹脂等のマトリックスの体積含有率は60%程度は確保しなればならず,逆に言えば炭素繊維の体積含有率は40%程度にとどめざるを得ない。さらに,引抜き成形では金型とプリプレグの接触抵抗をプリプレグの全周において均一とするのは難しい。金型の出口において上記接触抵抗に偏りがあると,最終的に得られる炭素繊維強化プラスチック製品が湾曲してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−535527号公報
【発明の開示】
【0005】
この発明は,長手方向の強度が大きい炭素繊維強化プラスチック製の補強材の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
この発明はまた,長手方向の強度が大きい炭素繊維強化プラスチック製の補強材を提供することを目的とする。
【0007】
第1の発明による炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法は,未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた,繊維方向が長手方向に揃っている複数本の炭素繊維から構成される横断面円形の炭素繊維束にらせん状にテープ材を巻付け,テープ材が巻き付けられた横断面円形の炭素繊維束を横断面方形に変形し,横断面方形のテープ材が巻き付けられた炭素繊維束を加熱して上記熱硬化性樹脂を硬化する。
【0008】
第1の発明による製造方法によって製造される炭素繊維強化プラスチック製補強材は,熱硬化性樹脂が含浸された複数本の炭素繊維を横断面が方形となるように形成したもので,有限の長さを有しかつその全長にわたって長手方向に上記複数本の炭素繊維の方向が揃えられている。補強材の全長にわたって横断面の方形の形状は同一である。
【0009】
第1の発明によると,テープ材によって周囲を拘束した状態の未硬化の熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維束を横断面円形から横断面方形に変形し,その後熱硬化性樹脂を硬化するので,炭素繊維の方向を乱すことなく補強材を製造することができる。横断面円形から横断面方形への変形と熱硬化性樹脂の硬化(加熱)は同時進行で行ってもよい。複数本の炭素繊維の方向が補強材の長手方向に揃っている(補強材の長手方向と複数本の炭素繊維の長手方向が平行である)補強材が製造されるので,補強材の長手方向に炭素繊維の引張強度および圧縮強度を最大に発揮させることができる。すなわち,長手方向(繊維方向)の強度が格段に大きい補強材を製造することができる。
【0010】
変形後の炭素繊維束の横断面の形状は方形の4つの隅に丸みがあるものでもよく,若干の外側に膨らむ湾曲を持つものであってもよい。もっとも熱硬化性樹脂が硬化した炭素繊維束の表面を研削ないし研磨することで隅の丸みや外側に膨らむ湾曲を無くすようにしてもよい。
【0011】
第1の発明による製造方法によって製造される炭素繊維強化プラスチック製補強材は,典型的には,風力発電機のブレード(翼),コンクリート構造物,自動車の外板などの補強材として用いられる。たとえば,複数本の補強材を組み合わせて一体化したものが,風力発電機のブレードの長手方向にその長手方向を向けてブレードの内部に固定される。第1の発明によって製造される補強材は長手方向の強度が大きく,軽く,しかも腐食しにくい。長期間にわたって補強材としての機能を発揮し続けることができる。
【0012】
補強材の強度は,炭素繊維と熱硬化性樹脂の体積含有率(体積割合)にも依存する。補強材を占める炭素繊維の体積含有率が大きいほど補強材の長手方向の強度は大きくなる。
【0013】
好ましくは,上記テープ材は,隣接するテープ材の側部と重なり合う側部を持つようにして上記横断面が円形の炭素繊維束に巻き付けられる。テープ材によって全周にわたって拘束した状態の熱硬化性樹脂が含浸された炭素繊維束を断面円形から断面方形に変形し,その後熱硬化性樹脂を硬化することによって,炭素繊維の方向を乱すことなく補強材を製造することができる。また横断面の形状を円形から方形に変形するときに余剰の未硬化の熱硬化性樹脂をテープ材のすき間から外部に(テープ材の内側から外側に)排出することができるので,熱硬化性樹脂の体積含有率が減少し,相対的に炭素繊維の体積含有率が増加する。また,余剰の熱硬化性樹脂を外部に排出することで空洞(ボイド)も除去することができる。すべての炭素繊維が長手方向に揃っており,炭素繊維の体積含有率が大きく,高品質の補強材を製造することができる。さらに炭素繊維束はその横断面の形状が円形から方形に変形するので,炭素繊維束の横断面における周長は変形に伴って長くなり,余剰の熱硬化性樹脂がテープ材の外部に排出されてもテープ材による炭素繊維束の拘束(締付け)効果を持続することができ,これも炭素繊維の方向の乱れの発生を無くすまたは軽減することに寄与する。55%〜70%の炭素繊維の体積含有率を持つ補強材を製造することができる。
【0014】
一実施態様では上記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である。
【0015】
熱硬化性樹脂が硬化した炭素繊維束から上記テープ材をはぎ取ってもよい。
【0016】
一実施態様では,上記テープ材は多孔質のもの,たとえば不織布が用いられる。不織布を通して熱硬化性樹脂を外部に排出することができる。
【0017】
第2の発明による炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法は,連続して供給される複数本の炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸し,熱硬化性樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維を,上記炭素繊維の方向を長手方向に揃えた状態で横断面円形に成形して炭素繊維束にし,熱硬化性樹脂を含浸させた横断面円形の炭素繊維束にらせん状にテープ材を巻付け,テープ材が巻き付けられた横断面円形の炭素繊維束を横断面方形に変形し,横断面方形のテープ材が巻き付けられた炭素繊維束を加熱して上記熱硬化性樹脂を硬化する。
【0018】
第2の発明による製造方法においても,すべての炭素繊維が長手方向に揃っており,炭素繊維の体積含有率が大きく,高品質の補強材を製造することができる。
【0019】
第3の発明による炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法は,炭素繊維が巻き回された複数台の繰出しリールのそれぞれから炭素繊維を繰出し,繰出しリールから繰出された複数本の炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸し,熱硬化性樹脂を含浸させた複数本の炭素繊維を,上記炭素繊維の方向を長手方向に揃えた状態でその横断面が円形となるようにダイスを通して成形して炭素繊維束にし,上記横断面円形の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維束にらせん状にテープ材を巻付け,上記テープ材が巻き付けられた炭素繊維束を押圧して横断面を長方形に形成し,横断面が長方形に形成されたテープ材が巻き付けられた炭素繊維束を加熱して上記熱硬化性樹脂を硬化し,熱硬化性樹脂が硬化した炭素繊維束を巻取りリールに巻取る。
【0020】
第3の発明による製造方法においても,すべての炭素繊維が長手方向に揃っており,炭素繊維の体積含有率が大きく,高品質の補強材を製造することができる。
【0021】
この発明は上述した第1,第2および第3の発明による炭素繊維強化プラスチック製補強材の製造方法によって製造される炭素繊維強化プラスチック製補強材も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】炭素繊維強化プラスチック製の補強材の平面図である。
【
図2】炭素繊維強化プラスチック製の補強材の側面図である。
【
図3】
図2のIII−III線に沿う拡大断面図である。
【
図4】
図2のIV−IV線に沿う部分拡大断面図である。
【
図5】多数本の補強材がまとめられている様子を示す斜視図である。
【
図6】他の実施例の炭素繊維強化プラスチック製の補強材の平面図である。
【
図7】他の実施例の炭素繊維強化プラスチック製の補強材の側面図である。
【
図8】
図7のVIII−VIII線に沿う拡大断面図である。
【
図9】
図7のIX−IX線に沿う部分拡大断面図である。
【
図10】炭素繊維強化プラスチック製の補強材の製造装置を示す。
【
図11】炭素繊維強化プラスチック製の補強材の製造装置を示す。
【
図12】炭素繊維束にテープ材を巻き付けている様子を示す。
【
図13】テープ材が巻き付けられた炭素繊維束の拡大断面図である。
【
図14】プレス成形後の炭素繊維束の拡大断面図である。
【
図15】
図11に対応する,他の実施例の炭素繊維強化プラスチック製の補強材の製造装置を示す。
【
図17】他の実施例のプレスヘッドの横断面を示す。
【
図18】さらに他の実施例のプレスヘッドの横断面を示す。
【実施例】
【0023】
図1は炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic )(CFRP)製補強材1の平面図を示している。
図2は補強材1の側面図を示している。
図3は
図2のIII−III線に沿う補強材1の拡大横断面図である。
図4は
図2のIV−IV線に沿う一部拡大縦断面図である。
図5は複数本の補強材1が規則的に配列されて一体化されている様子を示す斜視図である。
【0024】
補強材1は扁平状であり,その横断面はほぼ長方形で,横断面に表れる2つの長辺が補強材1の幅に,2つの短辺が補強材1の厚さにそれぞれ相当する。補強材1はたとえば8mm〜10mm程度の幅を有しかつ3mm〜5mmの厚さを持つように形成される。
【0025】
補強材1は,それぞれの直径がたとえば5μmの,熱硬化性樹脂12たとえばエポキシ樹脂を含浸した,多数本のたとえば60万本の炭素繊維11から構成され,補強材1に含まれる多数本の炭素繊維11はすべて補強材1の長手方向に揃っている(一方向性)。
図3および
図4には上記炭素繊維11が強調して(かなり太く)描かれている。補強材1を占める炭素繊維11の体積含有率Vfは最終的にはたとえば55%から70%程度とされる。
【0026】
補強材1はたとえば風力発電機のブレード(翼)の補強材として用いられる。たとえば
図5に示すように規則的に配列されて一組にまとめられ,互いに接着された複数本の補強材1が,その長手方向をブレードの長手方向に一致させてブレードの内部に固定される。補強材1の長さは補強材1が用いられる最終製品,上述の場合ブレードの長さに依存して適宜選択される。
【0027】
図6は他の実施例の補強材2の平面図である。
図7は補強材2の側面図である。
図8は
図7のVIII−VIII線に沿う拡大横断面図である。
図9は
図7のIX−IX線に沿う一部拡大縦断面図である。補強材2はその表層の近くに長手方向にらせん状に巻付けられた厚さ 0.1mm程度の不織布テープ21を有する点が,
図1から
図4に示す補強材1と異なる。不織布テープ21は隣接する不織布テープ21の側部と重なり合う側部を持つようにしてらせん状に巻き付けられている。不織布テープ21は多孔質であるので,補強材2の製造工程において熱硬化性樹脂12が不織布テープ21に染込み,これにより補強材2の表面(不織布テープ21の外側)には薄い熱硬化性樹脂12の層が形成される。表面の熱硬化性樹脂12の層が薄いので,表層近くの不織布テープ21を外部から視認することができる。不織布テープ21同士が上下に重なっている範囲(二層範囲)では不織布テープ21の色がやや強く見え,不織布テープ21同士が重なっていない範囲(単層範囲)では熱硬化性樹脂12の色がやや強く見える。このため,
図6および
図7に示すように,補強材2の表面には二層の不織布テープ21の範囲(
図6および
図7において左右方向に幅広の範囲)と単層の不織布テープ21の範囲(
図6および
図7において左右方向に幅狭の範囲)とが長手方向に交互に現れ,これが補強材2の表面に模様となって現れる。
【0028】
以下,
図10〜
図14を参照して補強材1の製造工程を説明する。
【0029】
図10および
図11は補強材1を連続して製造する製造装置を概略的に示している。
図10を参照して, 120,000本の炭素繊維11を束ねた炭素繊維トウ(以下,「CFトウ11」という)がそれぞれ巻き回された50個の繰出しリール41が用意される(
図10には9つの繰出しリール41のみが示されている)。張力調整装置を備えるクリールスタンドに取り付けられた50個の繰出しリール41のそれぞれから,50本のCFトウ11が等しい張力で繰出される。
【0030】
多数(50個以上)のガイド孔(図示略)が形成されたガイド板42,43,44,45が間隔をあけて設けられている。50台の繰出しリール41から繰出された50本のCFトウ11のそれぞれはガイド板42〜45の各ガイド孔を1本ずつ通されて整列した状態で進行する。
【0031】
50本のCFトウ11はガイド板43,44の位置で浴槽46に溜められた液状の熱硬化性樹脂(たとえばエポキシ樹脂)12に浸される。浴槽46を通過するときにCFトウ11に熱硬化性樹脂12が含浸する。CFトウ11に熱硬化性樹脂を含浸させたものは一般にプリプレグと呼ばれる。
【0032】
50本のプリプレグは次にダイス48に進む。ダイス48には通過孔48aが形成されている。通過孔48aはその横断面が円形で,入口から出口に向かうにつれて先細に形成されている。50本のプリプレグはダイス48の通過孔48aをその入口から出口に向けて通されて,ここで50本のプリプレグが束ねられて,横断面がほぼ円形のプリプレグの束(以下,これを「CF束31」という)が形成される。1本のCF束31には60万本(= 120,000本×50)の炭素繊維11が含まれ,そのすべてがCF束31の長手方向に揃っている。CF束31の状態において炭素繊維11の体積含有率Vfは40%〜60%程度である。
【0033】
図12に拡大して示すように,次にCF束31の周囲にテープ材(ラッピング材)32を長手方向にらせん状に巻き付ける。テープ材32は隣接するテープ材32の側部と重なり合う側部を持つようにしてらせん状に巻き付けられる。テープ材32としては,片面に粘着材が塗布されたたとえば幅15.0mm,厚さ0.04mmのポリエステル製テープが用いることができる。約6.70mmの直径を持つ,テープ材32が巻き付けられた横断面が円形のCF束31に仕上げられる。テープ材32が巻き付けられた状態のCF束31の横断面を
図13に拡大して示す。
【0034】
図11を参照して,テープ材32が巻き付けられたCF束31は次にプレス装置に進む。プレス装置は,CF束31をその両面から挟んでプレスするプレス面が互いに平行な姿勢で対向するように設けられた2つの環状のステンレス製エンドレスベルト51を備える。2つの環状のエンドレスベルト51のそれぞれはその両端が駆動輪50に掛けられており,駆動輪50が回転駆動することで連続して移動する。
【0035】
2つのエンドレスベルト51のそれぞれのプレス面の背面がわに,プレス面の平行な姿勢を保ちかつ均等な押圧を確保するための複数の補助ローラ52が設けられている。また,2つのエンドレスベルト51のそれぞれのプレス面の背面がわにはヒータ53もそれぞれ設けられており,ヒータ53によってCF束31はたとえば140℃に加熱される。
【0036】
テープ材32が巻き付けられた横断面円形のCF束31は加熱されながらプレスされる。プレス成形のときに未硬化(硬化前)の熱硬化性樹脂12が流動することでテープ材32同士の上記粘着材による接着が部分的に剥がれ,テープ材32同士が重なり合っている箇所のすき間から熱硬化性樹脂12の一部が外にはみ出てくる。プレス成形を経ることでテープ材32が巻き付けられたCF束31は扁平となり,厚さ3mm,幅10mm程度のほぼ矩形の横断面を持つものとなる。
図14にプレス成形後のテープ材32が巻き付けられているCF束31の横断面を拡大して示す。
【0037】
熱硬化性樹脂12の硬化後,らせん状に巻き付けられているテープ材32およびはみ出した熱硬化性樹脂12を除去し,さらに表面を研削ないし研磨することによって補強材1が完成する。幅方向の両側の膨み(
図14参照)およびテープ材32を巻き付けていたことによって表面に生じる熱硬化性樹脂12のらせん状の微細な凸部は,表面の研削ないし研磨によって除去される(
図3,
図4参照)。
【0038】
完成した補強材1は,2m程度の胴径を持つ巻取りリール(ドラム)(図示略)に巻取られて保管,出荷等される。必要に応じて,上述したように複数本の補強材1が一組に束ねられて(
図5参照),たとえば風力発電機のブレードの補強部材として用いられる。
【0039】
テープ材32によってCF束31の周囲を拘束した状態でプレス成形は行われるので,CF束31を厚さ方向にプレスしてもCF束31は幅方向(
図14における左右方向)に際限なく広がってしまうことはなく,炭素繊維11の方向の乱れはほとんど生じない。また,プレス時にテープ材32のすき間から熱硬化性樹脂12の一部が外にはみ出すので,最終的に形成される補強材1中の炭素繊維11の体積含有率Vfは,横断面が円形のCF束31のときの体積含有率Vfよりも10%〜15%程度増加し,おおよそ55%〜70%となる。補強材1中に空洞(ボイド)も生じにくい。さらに,引抜き成形する場合よりも直線性のよい(湾曲していない)補強材1を成形することができる。引抜き成形する場合に生じることがある表面不良(炭素繊維11の切れ,毛羽立ち)も発生しない。なお,熱硬化性樹脂12の一部が外にはみ出すので,横断面長方形のCF束31(補強材1)の断面積は横断面円形のときのCF束31の断面積よりも小さくなるが,横断面円形の形状から横断面長方形の形状に変形するので,横断面長方形のCF束31(補強材1)の断面周長は横断面円形のときのCF束31の周長よりも数%長くすることができ,このためテープ材32によるCF束31の周囲の拘束は熱硬化性樹脂12の一部が外に排出されても継続する。
【0040】
なお,テープ材32は必ずしもはぎ取る必要はなく,補強材1の表面にそのまま残しておいてもよい。
【0041】
補強材2(
図6〜
図9)についても補強材1と同様にして製造される。上述したように補強材2については不織布テープ21に熱硬化性樹脂12が染込み,不織布テープ21は補強材2に概略一体化されるので,不織布テープ21ははぎ取らずにそのまま残しておいてもよい。もっとも補強材2についても表面の薄い熱硬化性樹脂12を研削ないし研磨してもよいし,研削ないし研磨によってさらに不織布テープ21の一部または全部をはぎ取ってもよい。
【0042】
図15は
図11に相当する他の実施例のプレス装置を示している。
図16は
図15のXVI−XVI線に沿う後述するプレスヘッドの横断面を拡大して示している。
図15に示すプレス装置は,エンドレスベルト51のプレス面によってテープ材32が巻き付けられたCF束31がプレスされるのではなく,2つのエンドレスベルト51のそれぞれのプレス面がわに多数設けられたプレスヘッド半体61によってCF束31がプレスされる点が,
図11に示すプレス装置と異なる。
図11に示すプレス装置と同一部材には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0043】
図16を参照して,プレスヘッド半体61はその両側に側壁部61bを備え,両側の側壁部61bによって挟まれる凹部(溝部)61aを有している。2つの同一形状のプレスヘッド半体16がその凹部61aを対向させて重ね合わされることで,横断面が矩形の空間を持つプレス型が形成される。テープ材32が巻き付けられた横断面円形のCF束31は2つのプレスヘッド半体61の凹部61aに入って挟まれ,ここでプレスされて横断面長方形に形成される。
【0044】
図17は変形例のプレスヘッドを示すもので,
図16に相当する横断面図である。このプレスヘッドは平板状プレス板63とプレスヘッド半体62とから構成され,一方のエンドレスベルト51(
図15参照)に平板状プレス板63が,他方のエンドレスベルト51にプレスヘッド半体62が,それぞれ多数設けられる。プレスヘッド半体62の両側の側壁部62bの高さが
図16に示すプレスヘッド半体61の側壁部61bよりも高く,このためプレスヘッド半体62の凹部62aの深さは
図16に示すプレスヘッド半体61の凹部61aよりも深い。平板状プレス板63によってプレスヘッド半体62の凹部62aの上面を閉じるようにしてテープ材32が巻き付けられた断面円形のCF束31はプレスされる。平板状プレス板63を用いることなく,エンドレスベルト51自体によってプレスするようにしてもよい。
【0045】
図18はさらに他の変形例のプレスヘッドを示すもので,
図16に相当する横断面図である。プレスヘッド半体16Aにはエンドレスベルト51の幅方向に3つの凹部61aが間隔をあけて形成されている。複数本の補強材1を同時に製造することができる。
【符号の説明】
【0046】
1,2 炭素繊維強化プラスチック製補強材
11 炭素繊維
12 熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)
21 不織布テープ
31 炭素繊維束(CF束)
32 テープ材
41 繰出しリール
48 ダイス
53 ヒータ