(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995712
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】飛翔体誘導方式、飛翔体誘導方法
(51)【国際特許分類】
F42B 15/01 20060101AFI20160908BHJP
F42B 10/66 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
F42B15/01
F42B10/66
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-286020(P2012-286020)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-126355(P2014-126355A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102864
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】安藤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】世良 義宏
(72)【発明者】
【氏名】古谷 正二郎
【審査官】
畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−279995(JP,A)
【文献】
特開2011−242105(JP,A)
【文献】
特開2008−280967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 15/01
F42B 10/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチパルス式の飛翔体に適用される飛翔体誘導方式であって、
ロックオンから終末誘導開始までの間に、飛翔体のヘディングエラー量を算出する誤差算出手段と、
前記算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取り、前記姿勢角を維持した状態で終末誘導に移行する姿勢制御手段と、
終末誘導用の推力を発生させる加速推力発生手段と
を具備する
飛翔体誘導方式。
【請求項2】
請求項1に記載の飛翔体誘導方式であって、
前記姿勢制御手段は、前記算出されたヘディングエラー量に応じてピッチ回転及びヨー回転のうち少なくとも1つを行い、目標に対する姿勢角を取る
飛翔体誘導方式。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の飛翔体誘導方式であって、
前記姿勢制御手段は、前記算出されたヘディングエラー量に応じてロール回転し、首振可能範囲が大きい方向に姿勢角を取る
飛翔体誘導方式。
【請求項4】
マルチパルス式の飛翔体に適用される飛翔体誘導方法であって、
ロックオンから終末誘導開始までの間に、飛翔体のヘディングエラー量を算出することと、
前記算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取ることと、
前記姿勢角を維持した状態で終末誘導に移行することと、
終末誘導用の推力を発生させることと
を含む
飛翔体誘導方法。
【請求項5】
請求項4に記載の飛翔体誘導方法であって、
前記算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取る際、前記算出されたヘディングエラー量に応じてピッチ回転及びヨー回転のうち少なくとも1つを行い、目標に対する姿勢角を取ること
を更に含む
飛翔体誘導方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の飛翔体誘導方法であって、
前記算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取る際、前記算出されたヘディングエラー量に応じてロール回転し、首振可能範囲が大きい方向に姿勢角を取ること
を更に含む
飛翔体誘導方法。
【請求項7】
マルチパルス式の飛翔体におけるロックオンから終末誘導開始までの間に、飛翔体のヘディングエラー量を算出するステップと、
前記算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取るステップと、
前記姿勢角を維持した状態で終末誘導に移行するステップと、
終末誘導用の推力を発生させるステップと
を電子機器に実行させるための
プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムであって、
前記算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取る際、前記算出されたヘディングエラー量に応じてピッチ回転及びヨー回転のうち少なくとも1つを行い、目標に対する姿勢角を取るステップ
を更に電子機器に実行させるための
プログラム。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のプログラムであって、
前記算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取る際、前記算出されたヘディングエラー量に応じてロール回転し、首振可能範囲が大きい方向に姿勢角を取るステップ
を更に電子機器に実行させるための
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体誘導方式に関し、特に終末誘導への移行の際の飛翔体誘導方式に関する。
【背景技術】
【0002】
飛翔体誘導方式の分野における現在の技術では、ロックオン(Lock on:目標捕捉)前に目標との予想会合点を算出し、ロックオン後も終末誘導を行うのに適切なタイミングに達するまで予想会合点の方向に向けて飛翔させ、適切なタイミングに達した時点で、目標の方向に誘導する終末誘導に移行する。
【0003】
終末誘導時に別途推力を発生させる2パルス式の飛翔体では、終末誘導時には、加速度指令に追従するため、大きな姿勢角(大迎角)を取ることになる。このように姿勢角が変化するような状況においても、飛翔体の機首のシーカ(Seeker:目標捜索装置)に備え付けられたジンバル(Gimbal:回転台)によって目標を捕捉し続ける。そして、シーカからの誘導信号に従って飛翔することで目標と会合する。
【0004】
[関連技術]
関連技術として、特許文献1(特開昭59−052200号公報)に飛翔体誘導方式が開示されている。この技術では、飛翔体と目標との相対的位置を検出する手段によって目標が捕捉されない場合には、飛翔体の姿勢角を変化させることによって目標を視野領域内(照準)に捉え、それによって目標に誘導するようにしたことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−052200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常の飛翔体では問題とならないが、終末誘導時に別途推力を発生させる2パルス式の飛翔体では、以下のような問題が発生する。
【0007】
例えば高高度において、
図1に示すように、飛翔体の姿勢角が大きく変化するような飛翔を行う場合、飛翔体の首振角がロックオン状態維持のための首振可能範囲を逸脱/超過してしまい、ロックオフしてしまう可能性があった。特に、首振角が上下非対称(下側の首振角が著しく小さい等)の場合において、このような事象が顕著に現れる。
【0008】
本発明では、マルチパルス(複数のパルス)式の飛翔体において、ロックオンから終末誘導開始までの時間を有効活用し、ロックオンから終末誘導開始までの間に、飛翔体の動翼等を使用して徐々に姿勢角を変更し、終末誘導開始時には目標の方向に向けた姿勢角を取っている状態にする飛翔体誘導方式を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る飛翔体誘導方式は、マルチパルス式の飛翔体に適用される飛翔体誘導方式であって、ロックオンから終末誘導開始までの間に、飛翔体のヘディングエラー量を算出する誤差算出手段と、算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取り、姿勢角を維持した状態で終末誘導に移行する姿勢制御手段と、終末誘導用の推力を発生させる加速推力発生手段を備える。
【0010】
本発明に係る飛翔体誘導方法は、マルチパルス式の飛翔体に適用される飛翔体誘導方法であって、ロックオンから終末誘導開始までの間に、飛翔体のヘディングエラー量を算出することと、算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角を取ることと、姿勢角を維持した状態で終末誘導に移行することと、終末誘導用の推力を発生させることとを含む。
【0011】
本発明に係るプログラムは、上記の飛翔体誘導方法における処理を、計算機等の電子機器に実行させるためのプログラムである。なお、本発明に係るプログラムは、記憶装置や記憶媒体に格納することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
終末誘導用の推力発生時に既に最終的な予想会合点の方向に向けた姿勢角を取っているため、既存方式に比べて終末誘導開始後の首振角の変化が抑制される(微調整の機会減少)。また、既存方式に比べて終末誘導用の推力発生時の旋回性能(加速度の立ち上がり等)が改善し、加速による迎角変化が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明に係る飛翔体誘導方式の構成例についての説明図である。
【
図4】本発明の第1実施形態についての説明図である。
【
図5】本発明の第2実施形態についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、マルチパルス式の飛翔体に適用される飛翔体誘導方式を対象としている。ここでは、2パルス式の飛翔体に適用される飛翔体誘導方式について説明する。
【0015】
<第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0016】
[飛翔体誘導方式の構成例]
図2に示すように、本実施形態に係る飛翔体誘導方式は、誤差算出部10と、姿勢制御部20と、加速推力発生部30を備える。
【0017】
誤差算出部10は、ロックオンから終末誘導開始までの間に、ロックオン前に算出された予想会合点と、ロックオン後に算出された真の会合点との誤差を示すヘディングエラー量を算出する。
図3に、ヘディングエラーについての説明図を示す。
【0018】
姿勢制御部20は、ロックオンから終末誘導開始までの間に、算出されたヘディングエラー量に応じた姿勢角(迎角/横滑り角)を取り、飛翔体の機首を予想会合点の方向ではなく目標の方向に向ける。例えば、姿勢制御部20は、ヘディングエラー量に基づいて、動翼等の操向装置(操舵翼、可動ノズル、推力偏向板等)を制御して姿勢角を変更するための指示(姿勢角指令)を行い、飛翔体をピッチ回転(左右を軸とした回転:上下首振)/ヨー回転(上下を軸とした回転:左右首振)させて姿勢角を変更し、終末誘導開始までに飛翔体の機首を徐々に目標の方向に向ける。姿勢制御部20は、終末誘導開始時に、上記の姿勢角を維持した状態で終末誘導に移行する。
【0019】
加速推力発生部30は、終末誘導に移行した際に、終末誘導用の推力を発生させる。例えば、加速推力発生部30は、飛翔体の主エンジンをラムジェットエンジンからスクラムジェットエンジンに切り替える。或いは、推進ブースターを作動させる。但し、実際には、これらの例に限定されない。
【0020】
[本実施形態の詳細]
図4を参照して、本実施形態の詳細について説明する。
【0021】
飛翔体は、飛翔中に目標を捕捉(ロックオン)した場合、その目標との予想会合点を算出し、その予想会合点の方向に向けて飛翔する。この動作自体は、既存技術と同様である。
【0022】
誤差算出部10は、ロックオンから終末誘導開始までの間に、ヘディングエラー量を算出する。なお、誤差算出部10は、ロックオンから終末誘導開始までの間、周期的にヘディングエラー量を算出しても良い。
【0023】
姿勢制御部20は、算出されたヘディングエラー量に応じて、飛翔体の動翼に対して姿勢角指令を行い、飛翔体をピッチ回転/ヨー回転させて姿勢角を徐々に調整して、最終的に飛翔体の機首を目標の方向に向け、その姿勢角を維持する。
【0024】
加速推力発生部30は、飛翔体の機首を目標の方向に向けた姿勢角を維持した状態で、飛翔体の動力機関に対して指令を出力し、終末誘導用の推力を発生させ、飛翔体を加速させる。
【0025】
[本実施形態の作用・効果]
本実施形態では、加速後に飛翔体の姿勢角を調整する必要性が従来に比べて大きく減少するため、加速開始時点において最大限の推力を発生させることができる。従って、旋回性能(加速度の立ち上がり等)が大幅に改善される。また、終末誘導中の加速度指令が減少する。
【0026】
<第2実施形態>
以下に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0027】
本実施形態に係る飛翔体誘導方式の構成自体については、基本的に、第1実施形態と同様である。すなわち、
図2に示すように、本実施形態に係る飛翔体誘導方式は、誤差算出部10と、姿勢制御部20と、加速推力発生部30を備える。
【0028】
誤差算出部10及び加速推力発生部30については、基本的に、第1実施形態と同様である。
【0029】
本実施形態では、姿勢制御部20は、算出されたヘディングエラー量に応じてロール回転(前後を軸とした回転)し、首振範囲が大きい方向に姿勢角(ロール角)を変更する。予想会合点に対して目標及び真の会合点が大きく乖離しており、ピッチ回転/ヨー回転だけでは対応が十分ではない場合に有効である。無論、本実施形態に係る姿勢制御部20も、第1実施形態と同様の機能を有していても良い。
【0030】
[本実施形態の詳細]
図5を参照して、本実施形態の詳細について説明する。
【0031】
本実施形態では、飛翔体は、飛翔中に目標を捕捉(ロックオン)した場合、その目標との予想会合点を算出し、その予想会合点の方向に向けて飛翔する。この動作自体は、既存技術と同様である。
【0032】
誤差算出部10は、ロックオンから終末誘導開始までの間に、ヘディングエラー量を算出する。なお、誤差算出部10は、ロックオンから終末誘導開始までの間、周期的にヘディングエラー量を算出しても良い。
【0033】
姿勢制御部20は、算出されたヘディングエラー量に応じて、飛翔体の動翼に対して姿勢角指令を行い、飛翔体をロール回転させて姿勢角を徐々に調整して、最終的に飛翔体の機首を首振範囲が大きいと予想される方向に向け、その姿勢角を維持する。
【0034】
加速推力発生部30は、飛翔体の機首を首振範囲が大きいと予想される方向に向けた姿勢角を維持した状態で、飛翔体の動力機関に対して指令を出力し、終末誘導用の推力を発生させ、飛翔体を加速させる。
【0035】
図5に示すように、本実施形態では、終末誘導を開始した際に、予想会合点に対して目標及び真の会合点が大きく乖離している場合、旋回加速度については、目標に会合するため、大きな旋回加速度が必要となり、大きな加速度指令が発生することになる。また、迎角については、大きな旋回加速度を発生させるため、大きな迎角を取ることになる。しかし、首振角については、首振範囲の大きい方向等に飛翔体を回転(旋回)させるため、飛翔体の首振角が首振可能範囲を逸脱/超過しない。
【0036】
[本実施形態の作用・効果]
本実施形態では、首振可能範囲の大きい方向や、首振のみでは対応困難な方向に、飛翔体を回転(旋回)させることで、飛翔体の首振角がロックオン状態維持のための首振可能範囲を逸脱/超過することによるロックオフの発生を防止する。
【0037】
<各実施形態の関係>
なお、上記の各実施形態は、組み合わせて実施することも可能である。また、上記の各実施形態では、指令誘導方式であるものとして説明しているが、実際には、指令誘導方式に限らず、ホーミング誘導方式やプログラム誘導方式、或いは他の誘導方式と組み合わせた複合誘導方式を採用することも考えられる。
【0038】
<ハードウェアの例示>
以下に、上記の各実施形態に係る飛翔体誘導方式を実現するための具体的なハードウェアの例について説明する。
【0039】
図示しないが、上記の各実施形態に係る飛翔体誘導方式は、プログラムに基づいて駆動し所定の処理を実行するプロセッサと、当該プログラムや各種データを記憶するメモリを備えた計算機等の電子機器によって実現される場合がある。
【0040】
上記のプロセッサの例として、CPU(Central Processing Unit)、ネットワークプロセッサ(NP:Network Processor)、マイクロプロセッサ(microprocessor)、マイクロコントローラ(microcontroller)、或いは、専用の機能を有する半導体集積回路(LSI:Large Scale Integration)等が考えられる。
【0041】
上記のメモリの例として、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリ等の半導体記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置、又は、DVD(Digital Versatile Disk)等のリムーバブルディスクや、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等の記憶媒体(メディア)等が考えられる。また、バッファ(buffer)やレジスタ(register)等でも良い。
【0042】
なお、上記のプロセッサ及び上記のメモリは、一体化していても良い。例えば、近年では、マイコン等の1チップ化が進んでいる。従って、電子機器等に搭載される1チップマイコンが、上記のプロセッサ及び上記のメモリを備えている事例も考えられる。
【0043】
また、上記の計算機等の電子機器は、飛翔体自体に搭載されていることを想定しているが、実際には、外部から飛翔体に対して指令誘導を行うものでも良い。この場合、上記の計算機等の電子機器及び飛翔体の各々は、アンテナ等の通信装置又は通信用インターフェースを備えているものとする。
【0044】
但し、実際には、これらの例に限定されない。
【0045】
<備考>
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、実際には、上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10… 誤差算出部
20… 姿勢制御部
30… 加速推力発生部