【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法は、既設の橋梁における下部構造の既設梁に連続し、この既設梁の軸方向両側に時期を異にして増築される一方及び他方の新設梁と前記既設梁を一体化させながら、前記一方及び他方の新設梁と前記既設梁を前記一方及び他方の新設梁上に新設される橋桁の拡幅分の荷重に対して補強するための外ケーブルを前記一方及び他方の新設梁と前記既設梁の断面外に配置し、前記一方の新設梁から前記他方の新設梁までに亘って架設し、前記一方及び他方の新設梁に定着させる方法であり、
前記既設梁の軸方向の一方側に先行して構築された一方の新設梁の断面外に前記外ケーブルの一端を定着させる一方、前記既設梁の、前記他方の新設梁寄りの断面外に固定された中間定着装置に
、前記外ケーブルを緊張した状態で前記外ケーブルの他端を定着させ、
前記中間定着装置に定着されている前記外ケーブルの前記他方の新設梁側に、前記外ケーブルの
前記緊張状態と定着状態を維持したまま、前記他方の新設梁の区間に架設される付加ケーブルを接続し、この付加ケーブルを前記中間定着装置と前記他方の新設梁の断面外との間に架設し、前記付加ケーブルを緊張した状態で前記他方の新設梁に定着させることを構成要件とする。
【0012】
一方の新設梁は既設梁の軸方向の一方の端部に連続して構築され、他方の新設梁は既設梁の軸方向の他方の端部に連続して構築されるが、構築の時期が異なり、一方の新設梁が他方の新設梁に先行して構築され、他方の新設梁の構築、または他方の新設梁上の橋桁(床版)の使用に先行して一方の新設梁上の橋桁(床版)が使用に供される。他方の新設梁は一方の新設梁上の橋桁(床版)が使用状態のまま、後から構築され、一方の新設梁と既設梁、及び他方の新設梁が連続した梁になる。いずれかの新設梁の構築の結果、梁の下部構造からの張り出し長さが大きくなる場合は、
図15に示すように新設梁の下に下部構造(柱)が新たに構築される。下部構造には橋脚と橋台が含まれる。
【0013】
外ケーブル4は例えば
図1−(a)に示すように既設梁1の軸方向(橋桁1Aの幅方向)の一方側の端部である一方の新設梁2の軸方向の端部から既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部との間に架設され、一方の新設梁2の端部に固定された定着具2Bと、既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部に固定された中間定着装置6に定着される。但し、外ケーブル4の架設区間は一方の新設梁2上に新設される橋桁2Aの幅等に応じて決まり、必ずしも一方の新設梁2の軸方向の端部から架設されるとは限らず、定着具2Bは一方の新設梁2の端部より既設梁1側へ寄った位置に固定されることもある。
【0014】
外ケーブル4と付加ケーブル5が架設される「梁の断面外」とは、梁の幅方向の少なくともいずれかの側面を指すが、外ケーブル4と付加ケーブル5に導入される張力による梁へのプレストレスの偏心を回避するために、外ケーブル4と付加ケーブル5は原則として梁の幅方向両側に架設される。外ケーブル4と付加ケーブル5の架設位置(架設側)に応じ、定着具2Bと中間定着装置6及び後述の定着具3Bの固定位置が決まる。
【0015】
また既設梁1に固定される中間定着装置6は後から構築される他方の新設梁3寄りの既設梁1の端部等に固定され、外ケーブル4に接続される付加ケーブル5を架設するまでの期間中、一方の新設梁2と既設梁1との間に先行して架設される外ケーブル4を既設梁1に定着させるために設置される。但し、中間定着装置6の既設梁1への固定位置は他方の新設梁3寄りの端部であるとは限らず、一方の新設梁2側へ寄った位置であることもある。中間定着装置6は一方の新設梁2の定着具2Bと、後から構築される他方の新設梁3の端部等に固定され、付加ケーブル5が定着される定着具3Bとの間の中間地点として位置付けられる。付加ケーブル5は
図1−(b)、
図2−(c)に示すように中間定着装置6に定着されている外ケーブル4の端部に接続され、新設梁3の端部等、軸方向のいずれかの部分に固定される定着具3Bに定着される。
【0016】
外ケーブル4への付加ケーブル5の接続後に中間定着装置6が撤去される場合(請求項
3)、あるいは撤去が予定される場合には、中間定着装置6は既設梁1には撤去可能な状態に仮固定される。付加ケーブル5は前記のように中間定着装置6から他方の新設梁3の端部等に固定された定着具3Bまでの区間に架設される。既設梁1の軸方向は橋桁1Aの幅方向(幅員方向)であり、前記のように主に橋軸直角方向を指すが、橋軸直角方向に交差した方向になることもある。
【0017】
外ケーブル4はプレストレスを既設梁1と一方の新設梁2の軸方向に一様に作用させるために原則として両梁の幅方向両側に架設される。一方の新設梁2の端部等に定着される外ケーブル4用の定着具2Bと、既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部等に定着される外ケーブル4の中間定着装置6はそれぞれの梁の幅方向両側から張り出す形で配置され、一方の新設梁2側の定着具2Bは新設梁2に固定される。中間定着装置6も既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部等に固定されるが、上記のように外ケーブル4への付加ケーブル5接続後の撤去を予定する場合は仮固定される。「仮固定」とは、中間定着装置6が解体自在な構造をしている場合に、外ケーブル4への付加ケーブル5の接続後に、構成要素単位に解体され、外ケーブルの緊張力を維持したまま撤去可能な状態に固定されることを言う。中間定着装置6が撤去される理由には主に、前記のように中間定着装置6の存在が既設梁1自体の回りに補強繊維シート20を巻き付ける作業の障害になることと、外ケーブル4と付加ケーブル5との接続上の障害になることがある。
【0018】
付加ケーブル5が外ケーブル4の他方の新設梁3側に、外ケーブル4が中間定着装置6に定着されている状態のまま接続されることで、外ケーブル4に与えられている緊張力(張力)を維持したまま外ケーブル4に付加ケーブル5を接続し、付加ケーブル5を他方の新設梁3の端部等に定着することが可能になる。外ケーブル4は付加ケーブル5の接続によって実質的に延長させられる。外ケーブル4に与えられている張力を維持することは具体的には、外ケーブル4に付加ケーブル5を接続し、付加ケーブル5を緊張した状態で、付加ケーブル5の端部を他方の新設梁3の端部位置等に固定された定着具3Bに定着した後、外ケーブル4の中間定着装置6への定着を解除することにより可能になる。
【0019】
付加ケーブル5の外ケーブル4への接続後、外ケーブル4が中間定着装置6に定着された状態のまま、外ケーブル4に与えられている張力と同一の張力を付加ケーブル5に与え、その状態で付加ケーブル5を定着具3Bに定着すれば
(請求項2)、理論上、外ケーブル4と付加ケーブル5の張力は等しくなるため、付加ケーブル5の定着具3Bへの定着後に、外ケーブル4の中間定着装置6への定着を解除すれば、外ケーブル4の定着を解除しながらも、外ケーブル4に与えられている張力を維持することは可能である。
【0020】
外ケーブル4の定着を解除しながらも、外ケーブル4に与えられている張力を維持できることで、外ケーブル4による既設梁1と一方の新設梁2に対する補強効果が失われる期間が発生しないため、橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を中断させる必要がなくなる。この結果、一方の新設梁2の構築が先行し、他方の新設梁3の構築(完成)が時期を異にする場合にも、一方の新設梁2と既設梁1上の橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を継続させることが可能になる。
【0021】
特に中間定着装置6が、外ケーブル4の架設状態に影響を与えずに解体自在な構造をしている場合には、外ケーブル4の中間定着装置6への定着を解除した後、中間定着装置6の解体による撤去が可能になる。中間定着装置6の撤去は付加ケーブル5の、他方の新設梁3への定着後に行われる(請求項
3)。「外ケーブルの架設状態に影響を与えない」とは、外ケーブル4の定着を解除した中間定着装置6の各構成要素が外ケーブル4に干渉(衝突)しない形状をすると共に、例えば中間定着装置6を構成し、外ケーブル4が直接、定着される定着材12が外ケーブル4の断面の中心(軸)に関して周方向に分割可能であるようなことを言う。定着材12を分割、離脱させた後の中間定着装置6の各構成要素が外ケーブル4に干渉しない形状であることで、中間定着装置6自体も完成状態で外ケーブル4に干渉しない形状になる。
【0022】
外ケーブル4が直接、定着される定着材12が外ケーブル4の断面の中心(軸)に関して周方向に複数個の定着材構成材12aに分割されている場合には、外ケーブル4と定着材12との間の接触圧力(摩擦力)が実質的に0になるか、0に近くなれば、外ケーブル4に張力が与えられた状態のままでも、各定着材構成材12aを外ケーブル4の中心(軸)から抵抗なく外周側へ外すことが可能になるため、外ケーブル4から定着材12を離脱させることが可能になる。
【0023】
外ケーブル4が定着材12に定着されているとき、外ケーブル4に付加ケーブル5が接続される以前の時点では、定着材12には外ケーブル4に与えられている張力の反力が作用し、この反力は定着材12から係止材11を介して上部ブラケット7及び下部ブラケット8に伝達され、上部ブラケット7の下面と既設梁1の上面との間、及び下部ブラケット8の上面と既設梁1の下面との間の摩擦力を通じて既設梁1に伝達される。定着材12は具体的には後述(請求項
4)のように上部ブラケット7と下部ブラケット8に直接、係止する複数本の係止材11に一方の新設梁2側へ係止することで、外ケーブル4からの反力を係止材11に伝達し、係止材11から上部ブラケット7と下部ブラケット8に伝達する。係止材11は定着材12を受け止めながら、上部ブラケット7と下部ブラケット8に係止することで、外ケーブル4からの反力を圧縮力として負担する。
【0024】
上部ブラケット7及び下部ブラケット8は既設梁1に直接、接触することもあるが、摩擦力(摩擦係数)を稼ぐ(大きくする)ために、あるいは既設梁1の上面と下面の保護のために、後述のように上部ブラケット7及び下部ブラケット8と既設梁1との間に支圧材13が介在させられることもある(請求項
7)。
【0025】
前記のように外ケーブル4に付加ケーブル5を接続した後、外ケーブル4の定着状態で外ケーブル4に与えられている張力と同一の張力を付加ケーブル5に与えれば、理論上は定着材12に定着されている外ケーブル4と定着材12との接触圧力は0になるが、外ケーブル4の張力は維持されるため、外ケーブル4の張力を持続しながらも、定着材12を抵抗なく外ケーブル4から離脱させることができる。定着材12が外ケーブル4から離脱させられることで、定着材12以外の、中間定着装置6の他の構成要素を外ケーブル4と非接触状態にすることができ、各構成要素が外ケーブル4に干渉しない形状をすることで、中間定着装置6の全構成要素を外ケーブル4から離脱させ、中間定着装置6を解体することが可能になる。結果として、外ケーブル4を架設したまま、中間定着装置6を解体し、撤去することができることで(請求項
3)、コンクリートを引張力に対して補強するための補強繊維シート20を巻き付けることが可能になり、不要な部材が落下する恐れもなくなる。
【0026】
請求項
4に記載の発明の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置は、請求項1
乃至請求項3のいずれかに記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法に使用される前記中間定着装置であり、
前記既設梁の幅より大きい長さを持ち、前記既設梁の上面上に配置される上部ブラケットと、前記既設梁の幅より大きい長さを持ち、前記既設梁の下面下に配置され、前記既設梁を挟んで前記上部ブラケットと対になる下部ブラケットと、
前記既設梁の断面外の、前記外ケーブルと干渉しない位置において前記上部ブラケットと前記下部ブラケットを貫通して両者間に架設され、前記上部ブラケットと前記下部ブラケットを前記既設梁に固定する引張材と、
前記上部ブラケット及び前記下部ブラケットの、前記他方の新設梁側に配置され、前記外ケーブルと干渉しない位置において前記上部ブラケットと前記下部ブラケットに跨って双方に前記一方の新設梁側へ係止し、前記外ケーブルに導入される張力の反力を負担する定着部材とを備えることを構成要件とする。
【0027】
上部ブラケット7と下部ブラケット8が既設梁1を挟んで鉛直方向に対になって配置され、上部ブラケット7と下部ブラケット8を貫通して両者間に引張材9が架設されることで、上部ブラケット7と下部ブラケット8が既設梁1に圧着接合により固定され、外ケーブル4に導入される張力に対しては上部ブラケット7及び下部ブラケット8と既設梁1との間に直接、もしくは間接的に生ずる摩擦力が抵抗する。上部ブラケット7と下部ブラケット8が共に、既設梁1の幅より大きい長さを持つことで、上部ブラケット7と下部ブラケット8の長さ方向両側が既設梁1から幅方向に突出し、その突出部分に引張材9が貫通し、固定されることで上部ブラケット7と下部ブラケット8が既設梁1に接合される。引張材9は既設梁1の幅方向両側に架設される。上部ブラケット7と下部ブラケット8の長さ方向両側は既設梁1の幅方向両側である。
【0028】
中間定着装置6を構成する引張材9と、外ケーブル4が定着される定着部材10が共に、外ケーブル4と干渉しない(衝突しない)位置に配置されることで、中間定着装置6が既設梁1に設置(固定)されている状態が外ケーブル4の架設状態に影響することはない。このため、前記のように付加ケーブル5を外ケーブル4に接続した後、外ケーブル4が中間定着装置6に定着されている状態で、外ケーブル4の張力と同一の張力を付加ケーブル5に与え、付加ケーブル5を定着具3Bに定着した後に、外ケーブル4の中間定着装置6(定着部材10)を構成する後述の定着材12への定着を解除することで、外ケーブル4の定着を解除しながらも、外ケーブル4に与えられている張力を維持することが可能である。
【0029】
引張材9と外ケーブル4は互いに干渉しない(衝突しない)位置に配置されることで、
図2−(c)に示すように既設梁1の縦断面上、一方が既設梁1寄りに配置される。定着部材10も外ケーブル4と互いに干渉しない位置に配置されることで、
図2−(f)に示すように例えば定着部材10が外ケーブル4を挟むように配置される。請求項
4における「外ケーブル4と干渉しない(衝突しない)位置」とは、引張材9と定着部材10(後述の係止材11と定着材12を含む)が外ケーブル4と衝突せず、外ケーブル4の架設を阻害しない位置にあることを言う。
【0030】
請求項
4では中間定着装置6を構成する引張材9と定着部材10が共に、外ケーブル4と干渉しない位置に配置されることで、外ケーブル4の定着を解除しながら、外ケーブル4に与えられている張力を維持できるため、外ケーブル4による既設梁1と新設梁2に対する補強効果が失われる期間を発生させることがない。この結果、橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を中断させる必要がなくなり、一方の新設梁2の構築が先行し、他方の新設梁3の構築(完成)の時期が異なる場合にも、一方の新設梁2と既設梁1上の橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を継続させることが可能になる。
【0031】
請求項
4において特に定着部材10が上部ブラケット7と下部ブラケット8に一方の新設梁2側へ係止し、既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置される複数本の係止材11、11と、係止材11、11に一方の新設梁2側へ係止し、外ケーブル4が仮定着される定着材12を持ち、定着材12が外ケーブル4の断面の周方向に複数の定着材構成材12aに分割されている場合(請求項
5)には、前記のように外ケーブル4と付加ケーブル5を接続することにより、外ケーブル4の緊張状態を保持したまま、外ケーブル4が係止し、定着されていた定着材12が定着材構成材12aに分離自在になる。従って外ケーブル4に与えられている張力を維持しながら、中間定着装置6を解体し、撤去することが可能である。外ケーブル4は定着材12には方法を問わず、直接、もしくは間接的に定着されている。
【0032】
この場合、定着部材10を構成する複数本の係止材11、11は上部ブラケット7と下部ブラケット8に直接、係止することで、外ケーブル4の張力を上部ブラケット7と下部ブラケット8に分担させる役目を持つ。複数本の係止材11、11は上部ブラケット7と下部ブラケット8に跨りながら、既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置されることで、上部ブラケット7と下部ブラケット8に同時に係止しながら、外ケーブル4を既設梁1の幅方向に挟み込むように配置される。複数本の係止材11、11が外ケーブル4を外周側から挟み込むように配置されることで、外ケーブル4に干渉しない状態に配置されるため、中間定着装置6の撤去時には外ケーブル4に接触することなく、係止材11、11を離脱させることが可能になる。
【0033】
係止材11が2本あれば、既設梁1の幅方向への外ケーブル4の配列数が1列である場合に、
図2−(e)、(f)に示すように1列に配列した1本、もしくは複数本の外ケーブル4を2本の係止材11、11が既設梁1の幅方向に挟み込む状態になる。係止材11が3本あれば、
図7−(b)に示すように既設梁1の幅方向への外ケーブル4の配列数が2列である場合に、2列に配列した1本、もしくは複数本の外ケーブル4を3本の係止材11が既設梁1の幅方向に挟み込む状態になる。
【0034】
外ケーブル4が定着される定着材12が外ケーブル4の断面の周方向に複数の定着材構成材12aに分割されていることで、前記のように外ケーブル4が定着材12に接触した状態にあっても、外ケーブル4との接触圧力が実質的に0になるか、0に近くなれば、抵抗なく定着材12を外ケーブル4から離脱させることが可能である。
【0035】
「外ケーブルの断面の周方向に分割」とは、外ケーブル4の断面の中心(軸)からの放射方向の線に沿って分割されることであり、定着材12が外ケーブル4の周囲を包囲した状態、あるいは外ケーブル4が定着材12を厚さ方向に貫通した状態にある場合に、外ケーブル4の周方向に定着材12が複数の定着材構成材12aに分割されることを言う。具体的には
図7−(a)、(b)に示すように定着材12が既設梁1の成方向(鉛直方向)に分割される場合と、(c)、(d)に示すように既設梁1の幅方向(水平方向)に分割される場合の他、(e)に示すように水平方向、あるいは鉛直方向に対して傾斜した方向に分割される場合がある。
【0036】
例えば
図2−(f)、
図7−(a)、(b)に示すように定着材12が既設梁1の成方向に2枚の定着材構成材12a、12aに分割されている場合には、複数本の係止材11、11が既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置されることと併せ、既設梁1の成方向に分割された定着材構成材12a、12aは隣接する係止材11、11に跨って両係止材11、11に接合されることが可能であり、外ケーブル4から受ける張力の反力を複数本の係止材11、11に分散させて伝達可能な状態になる。
図7−(a)は係止材11が既設梁1の幅方向に2本、配置される場合、(b)は3本、配置される場合を示している。
図7−(c)、(d)に示すように定着材12が既設梁1の幅方向に分割されている場合にも、隣接する係止材11、11間につなぎ材11fが架設され、互いに連結されていれば、定着材構成材12a、12aが隣接する係止材11、11に跨って両係止材11、11に接合されることが可能であり、外ケーブル4から受ける張力の反力を係止材11、11に分散させて伝達可能な状態になる。
【0037】
図7−(e)に示すように定着材12が水平方向、もしくは鉛直方向に対して傾斜した方向に分割されている場合にも、同様に隣接する係止材11、11に跨って両係止材に接合されることが可能である。定着材12のいずれの分割例においても、外ケーブル4の反力が定着材12に実質的に作用していない、接触圧力が0になるか、0に近い状態にあれば、抵抗なく定着材12を外ケーブル4から離脱させることが可能である。結局、定着材12はそれが受ける外ケーブル4の反力を隣接する係止材11、11に分散させるように、複数個の定着材構成材12a、12aに分割されていればよいことになる。
【0038】
定着材12(定着材構成材12a)が受ける外ケーブル4の張力による反力は前記のように定着材12から係止材11に伝達され、係止材11から上部ブラケット7と下部ブラケット8への係止部11aを通じて上部ブラケット7と下部ブラケット8に伝達され、両ブラケット7、8からそれが圧着接合されている既設梁1に摩擦力を介して伝達され、負担される。互いに分離している定着材12と係止材11、係止材11と上部ブラケット7及び下部ブラケット8とは外ケーブル4の反力の伝達時に変位(ずれ)が生じないよう、互いに分離自在に接合される。
【0039】
上部ブラケット7と下部ブラケット8は単一の部材で製作される他、請求項
6に記載のように複数本のブラケット構成材71、81に幅方向に分割された形で製作される。上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向は既設梁1の軸方向である。上部ブラケット7と下部ブラケット8が複数本のブラケット構成材71、81に分割される場合には、1本の部品の質量が軽量化されるため、取り扱い作業性が向上し、地上からの吊り上げに使用される重機の規模を小型化し、地上での重機の占有面積を縮小化することが可能になる。上部ブラケット7と下部ブラケット8が複数本のブラケット構成材71、81に分割される場合には、橋桁(床版)の使用状態を継続させながら、中間定着装置6を既設梁1から撤去する場合の解体作業性と搬出作業性も向上する利点がある。
【0040】
この場合、上部ブラケット7と下部ブラケット8は部品としては複数本のブラケット構成材71、81に分割されるが、使用状態では単一の部材として既設梁1の上面側と下面側に設置されるため、使用状態で分離することがないよう、
図4−(a)、
図5−(a)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向両側に配置される拘束部材72、82に分割方向(既設梁1の軸方向)に挟持されることにより分割方向に互いに連結され、拘束される。
【0041】
拘束部材72、82は
図4−(a)、
図5−(a)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向両側に位置し、対になる2本の拘束材72a、72b(82a、82b)と、両拘束材72a、72b(82a、82b)を連結する鋼棒、PC鋼材、鉄筋等の連結材72c(82c)からなり、連結材72c(82c)が両拘束材72a、72b(82a、82b)に上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向に圧縮力を加えることで、分割されている複数本のブラケット構成材71、81を束ね、上部ブラケット7と下部ブラケット8として一体化させる。
【0042】
上部ブラケット7と下部ブラケット8はそれぞれ既設梁1の上面と下面に直接、接触した状態で設置されることもあるが、引張材9に与えられる張力の反力による既設梁1の上面と下面への損傷を防止し、あるいは既設梁1との間の摩擦力を増すために、上部ブラケット7の下面と既設梁1の上面との間、及び下部ブラケット8の上面と既設梁1の下面との間に、それぞれの面間の間隔を保持する支圧材13を介在させることもある(請求項
7)。
【0043】
この場合、上部ブラケット7と既設梁1との間、及び下部ブラケット8と既設梁1との間に支圧材13が介在することで、上部ブラケット7と既設梁1との間、及び下部ブラケット8と既設梁1が直接、接触しないため、上部ブラケット7と下部ブラケット8が直接、接触する場合の既設梁1の損傷が回避、あるいは軽減される。上部ブラケット7と下部ブラケット8が負担する外ケーブル4の反力は支圧材13と既設梁1との間の摩擦力を介して既設梁1に伝達される。
【0044】
特に支圧材13の既設梁1側の接触面が、外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1に近い側から遠い側へ向かって傾斜している場合(請求項
8)には、外ケーブル4に与えられている張力の反力の一部が上記接触面における摩擦力に加算されるため、摩擦力を増大させる利点がある。上部ブラケット7と既設梁1との間に介在する支圧材13の場合、支圧材13の接触面は外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1の上面に近い側から遠い側へ向かって傾斜し、下部ブラケット8と既設梁1との間に介在する支圧材13の場合、支圧材13の接触面は既設梁1の下面に近い側から遠い側へ向かって傾斜する。
【0045】
図13−(a)に示すように既設梁1上に上部ブラケット7が設置され、上部ブラケット7の下面が外ケーブル4の定着側端部(中間定着装置6側)から中間部側(一方の新設梁2側)へかけて、既設梁1の上面に近い側から遠い側へ向かって傾斜している場合に、上部ブラケット7に外ケーブル4の張力Tと、上部ブラケット7を既設梁1に圧着接合する引張材9の張力Pが作用している状況下において、上部ブラケット7の下面(接触面(傾斜面))に生じる摩擦力を考える。ここでは上部ブラケット7に外ケーブル4の張力Tと引張材9の張力Pが作用している様子を示しているが、実際には上部ブラケット7には外ケーブル4の張力Tの反力と引張材9の張力Pの反力が作用している。
図13−(a)は既設梁1の上面が水平面であると仮定した場合に、上部ブラケット7の下面が水平面に対して傾斜している状況を想定している。
【0046】
傾斜面の水平面に対する傾斜角度をθとすると、張力Tの反力は傾斜面に平行な方向の成分Tcosθと垂直な方向の成分Tsinθに分解され、張力Pの反力は傾斜面に平行な方向の成分Psinθと垂直な方向の成分Pcosθに分解される。PsinθはTcosθとは反対側を向くため、傾斜面に平行な方向には張力Tの反力の向きにTcosθ−Psinθが作用する。傾斜面に垂直な方向にはTsinθ+Pcosθが作用する。
【0047】
このとき、上部ブラケット7と既設梁1の上面との間の静止摩擦係数をμとすれば、傾斜面に平行な方向に作用するTcosθ−Psinθが摩擦力μ(Tsinθ+Pcosθ)と釣り合うから、Tcosθ−Psinθ=μ(Tsinθ+Pcosθ)……(1)が成立する。この式よりPを求めると、P=(cosθ−μ・sinθ)/(μ・cosθ+sinθ)・Tが得られる。上部ブラケット7の下面と既設梁1の上面が水平面である場合には、T=μ・Pであるから(上記式(1)においてθ=0の場合)、P=(1/μ)・T……(2)である。
【0048】
一方、傾斜面が
図13−(a)とは逆に、すなわち上部ブラケット7の下面が外ケーブル4の定着側端部から中間部側へかけて、既設梁1の上面に遠い側から近い側へ向かって傾斜している(b)の場合には、Tcosθ+Psinθ=μ(Pcosθ−Tsinθ)より、P=(cosθ+μ・sinθ)/(μ・cosθ−sinθ)・T……(3)になる。ここで、(1)〜(3)を通じてTの係数βとすると、(1)のβはβ=(cosθ−μ・sinθ)/(μ・cosθ+sinθ)、(2)のβはβ=(1/μ)、(3)のβはβ=(cosθ+μ・sinθ)/(μ・cosθ−sinθ)になるが、θとμに具体的数値を与えたときの係数βの値の一覧を
図14に示す。
【0049】
図14に示すように摩擦係数μが一定であれば、θが大きくなる程、βが小さくなることが分かる。βが小さいことは外ケーブル4の張力Tに抵抗させるために必要となる引張材9の張力Pを小さくできることを意味するから、引張材9に導入すべき引張力を低減でき、引張材9の能力、あるいは規模を縮小できることになる。また引張力によって上部ブラケット7と下部ブラケット8から既設梁1に与える圧縮力を低減できるため、既設梁1に生じる損傷も軽減できる効果が得られることになる。
【0050】
支圧材13は上部ブラケット7の下面と下部ブラケット8の上面の全面に配置される場合と部分的に配置される場合があるが、支圧材13と既設梁1との間に生じる摩擦力は外ケーブル4の張力の作用方向に生じさせることが合理的であるから、外ケーブル4の架設方向(既設梁1の軸方向)には、支圧材13は上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向(既設梁1の軸方向)に全幅に亘る長さを持つことが適切である。但し、支圧材13が外ケーブル4の架設方向に上部ブラケット7と下部ブラケット8の全幅に亘る長さを持つ場合に、1枚の支圧材13の既設梁1側の単一の面(1面)に前記した傾斜角度θを与え、外ケーブル4の架設方向に緩やかに傾斜した面を持たせようとすれば、傾斜角度θが0に近くなり、傾斜角度を大きく取ることができない。
【0051】
既設梁1の上面が水平面である場合に、上部ブラケット7の下面(接触面)の、水平面に対する傾斜角度を大きく取ろうとしたとき、傾斜した接触面の傾斜角度が保たれると仮定すれば、接触面全面の内、既設梁1に近い側が既設梁1に接触し易いのに対し、既設梁1から遠い側が既設梁1に接触しにくいため、接触面の全面を一様に、あるいは均等に既設梁1の上面に接触させることが難しくなる。同じことは下部ブラケット8の上面(接触面)にも言える。
【0052】
そこで、支圧材13の既設梁1側の接触面を既設梁1の軸方向に複数の区間に区分し、各区分された区間単位で、外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1に近い側から遠い側へ向かって傾斜させ、傾斜した接触面を既設梁1の軸方向に複数、繰り返して形成することで(請求項
9)、各傾斜面の傾斜角度を大きく取りながらも、接触面の全体では接触面の全面を一様に、あるいは均等に既設梁1の上面と下面に接触させることが可能になる。
【0053】
実験結果によれば、支圧材13の既設梁1側の接触面の水平面に対する傾斜角度が0度で、摩擦係数μが0.5の場合、外ケーブル4の張力Tに十分に抵抗できるだけの摩擦力を上部ブラケット7と既設梁1との間に生じさせるために、上部ブラケット7に与えるべき圧縮力、すなわち引張材9に与えるべき張力Pは外ケーブル4の張力Tの2.0倍程度になる(P=2.0T)。これに対し、支圧材13の既設梁1との接触面を既設梁1の軸方向に複数、形成した上で、各接触面に、既設梁1の上面に対して4〜8度の傾斜角度を与えた場合には、引張材9に与えるべき張力Pが外ケーブル4の張力Tの1.45〜1.69倍になり(P=1.45〜1.69T)、接触面が既設梁1の上面と平行である場合より15.5〜27.5%程度、張力Pが低減されることが判明している。