特許第5995787号(P5995787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5995787橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法及びその方法に使用される外ケーブルの中間定着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995787
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法及びその方法に使用される外ケーブルの中間定着装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20160908BHJP
   E01D 19/10 20060101ALI20160908BHJP
   E01D 19/16 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   E01D22/00 Z
   E01D19/10
   E01D19/16
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-118576(P2013-118576)
(22)【出願日】2013年6月5日
(65)【公開番号】特開2014-234687(P2014-234687A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】505413255
【氏名又は名称】阪神高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】茂呂 拓実
(72)【発明者】
【氏名】杉山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】山岸 達也
(72)【発明者】
【氏名】南 浩郎
(72)【発明者】
【氏名】内村 祥史
(72)【発明者】
【氏名】木部 洋
(72)【発明者】
【氏名】中井 督介
【審査官】 桐山 愛世
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−316295(JP,A)
【文献】 特開平10−068106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/10−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の橋梁における下部構造の既設梁に連続し、この既設梁の軸方向両側に時期を異にして増築される一方及び他方の新設梁と前記既設梁を一体化させながら、前記一方及び他方の新設梁と前記既設梁を前記一方及び他方の新設梁上に新設される橋桁の拡幅分の荷重に対して補強するための外ケーブルを前記一方及び他方の新設梁と前記既設梁の断面外に配置し、前記一方の新設梁から前記他方の新設梁までに亘って架設し、前記一方及び他方の新設梁に定着させる方法であり、
前記既設梁の軸方向の一方側に先行して構築された一方の新設梁の断面外に前記外ケーブルの一端を定着させる一方、前記既設梁の、前記他方の新設梁寄りの断面外に固定された中間定着装置に、前記外ケーブルを緊張した状態で前記外ケーブルの他端を定着させ、
前記中間定着装置に定着されている前記外ケーブルの前記他方の新設梁側に、前記外ケーブルの前記緊張状態と定着状態を維持したまま、前記他方の新設梁の区間に架設される付加ケーブルを接続し、この付加ケーブルを前記中間定着装置と前記他方の新設梁の断面外との間に架設し、前記付加ケーブルを緊張した状態で前記他方の新設梁に定着させることを特徴とする橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法。
【請求項2】
前記付加ケーブルを前記他方の新設梁に定着させるときに、前記外ケーブルに与えられている張力と同一の張力を前記付加ケーブルに与えることを特徴とする請求項1に記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法。
【請求項3】
前記付加ケーブルの、前記他方の新設梁への定着後、前記中間定着装置を撤去することを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法に使用される前記中間定着装置であり、
前記既設梁の幅より大きい長さを持ち、前記既設梁の上面上に配置される上部ブラケットと、前記既設梁の幅より大きい長さを持ち、前記既設梁の下面下に配置され、前記既設梁を挟んで前記上部ブラケットと対になる下部ブラケットと、
前記既設梁の断面外の、前記外ケーブルと干渉しない位置において前記上部ブラケットと前記下部ブラケットを貫通して両者間に架設され、前記上部ブラケットと前記下部ブラケットを前記既設梁に固定する引張材と、
前記上部ブラケット及び前記下部ブラケットの、前記他方の新設梁側に配置され、前記外ケーブルと干渉しない位置において前記上部ブラケットと前記下部ブラケットに跨って双方に前記一方の新設梁側へ係止し、前記外ケーブルに導入される張力の反力を負担する定着部材とを備えることを特徴とする橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置。
【請求項5】
前記定着部材は前記上部ブラケットと前記下部ブラケットに前記一方の新設梁側へ係止し、前記既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置される複数本の係止材と、この係止材に前記一方の新設梁側へ係止し、前記外ケーブルが仮定着される定着材を持ち、
前記定着材は前記外ケーブルの断面の周方向に複数の定着材構成材に分割されていることを特徴とする請求項に記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置。
【請求項6】
前記上部ブラケットと前記下部ブラケットは前記既設梁の軸方向に複数本のブラケット構成材に分割されていることを特徴とする請求項、もしくは請求項に記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置。
【請求項7】
前記上部ブラケットの下面と前記既設梁の上面との間、及び前記下部ブラケットの上面と前記既設梁の下面との間に、それぞれの面間の間隔を保持する支圧材が介在していることを特徴とする請求項乃至請求項のいずれかに記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置。
【請求項8】
前記支圧材の前記既設梁側の接触面は前記外ケーブルの定着側端部から前記外ケーブルの中間部側へかけて、前記既設梁に近い側から遠い側へ向かって傾斜していることを特徴とする請求項に記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置。
【請求項9】
前記支圧材の前記接触面は前記既設梁の軸方向に複数、繰り返されて形成されていることを特徴とする請求項に記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既設橋桁の拡幅に伴い、橋桁の拡幅部分を支持するための新設梁を既設梁の両側に連続させて新たに構築する場合に、連続する既設梁と新設梁を一体化させながら、両梁を橋桁の拡幅分の荷重に対して補強するための外ケーブルを両梁に亘って架設する橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法と、その方法において外ケーブルの中間部の定着に使用される外ケーブルの中間定着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図15に示すように既設橋桁を拡幅する目的で、既設橋桁1Aの幅方向(幅員方向)両側に新設の橋桁2A、3Aを増築する場合には、既設の橋脚等、下部構造の既設梁1に連続して新設梁2、3を新たに構築する必要が生ずる。それに伴い、両新設梁2、3を既設梁1に一体化させ、新設の橋桁2A、3A上の拡幅分の荷重に対し、既設梁1と新設梁2、3を補強するための手当を両梁に施すことが必要になる。但し、既設梁1にプレストレスが加えられている場合、または梁内部の鉄筋に損傷を加える恐れがある場合は、補強のために既設梁1を損傷させることができないため、既設梁1と新設梁2、3に対する補強は両梁の断面外に外ケーブルを配置する方法に依らざるを得ない(非特許文献1、2参照)。「橋桁の幅方向」は主に橋軸直角方向を指すが、橋桁に支持される床版が長方形でない、例えば平行四辺形状の場合には床版の短辺方向を指す。
【0003】
外ケーブルの架設により既設梁とその両側に構築される新設梁を補強する場合、外ケーブルは最終的には既設梁の軸方向一方側に構築された一方の新設梁の端部等と、既設梁の他方側に構築された他方の新設梁の端部等との間に架設され、それぞれに定着される必要がある。しかしながら、既設梁を挟んだ一方の新設梁と他方の新設梁の構築の時期が異なる場合には、後から構築される他方の新設梁の構築が完了するまでは、既設梁を挟んだ新設梁間の全長に亘って一括で外ケーブルを架設することはできない。
【0004】
一方、後から構築される新設梁の構築完了前に、先行して構築された一方の新設梁上の橋桁(床版)を使用に供しなければならない場合には、後から構築される他方の新設梁の構築前の時点から外ケーブルを架設する必要が生ずる。この場合、一方の新設梁と既設梁の軸方向全長に亘り、一方の新設梁の端部位置から既設梁の端部位置までの区間に一旦、外ケーブルを架設し、定着した後、他方の新設梁の構築完了後に、架設済みの外ケーブルに付加ケーブルを接続することで、外ケーブルを後から完成した新設梁の端部にまで延長する作業が必要になる。
【0005】
ここで、架設済みの外ケーブル4に図2−(c)に示す付加ケーブル5を接続する際に、図1−(a)に示すように例えば既設梁1自体の回りに、コンクリートを引張力に対して補強するための補強繊維シート20を巻き付けることが予定されている場合には、既設梁の、他方の新設梁側の端部に仮固定されている定着具を撤去しなければならない。
【0006】
定着具はそれに定着される複数本の外ケーブルの緊張力を負担する必要と、前記した既設梁に対する損傷回避の目的から、既設梁には例えば既設梁の周囲に架設されるPC鋼棒等の緊張材を用いた圧着接合により固定されるため、定着具を残せば、既設梁自体の回りに補強繊維シートを巻き付けることができないことによる。定着具を撤去しなければならない理由の根拠には、既設梁周りに補強繊維シートを巻き付けること以外に、外ケーブルを延長させる上で、定着具の存在が付加ケーブルとの接続の障害になるようなこともある。また定着具は既設梁の幅方向に固定されているため、落下の恐れがある他、美観を考慮すれば、必要がなくなり次第、直ちに撤去されることが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中井三夫、「外ケーブルによる桁および橋脚の補強」、報文、プレストレストコンクリート技術協会、平成2年、第32巻、第5号、p.27−36
【非特許文献2】松崎久倫、外3名、「レベル2地震動に対する外ケーブル補強橋脚の耐震性照査事例」、土木学会年次学術講演会講演概要集、土木学会、平成17年9月、第60巻、第1号、p.261−262
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、外ケーブルは一方の新設梁の端部等と既設梁の端部等に固定される定着具を既設梁の軸方向に貫通して定着具に定着されることから、定着状態にある外ケーブルに直接、付加ケーブルを接続すれば、外ケーブルは定着具を貫通した状態にあるため、定着具が外ケーブルの架設状態に影響しないような解体自在な構造をしていない限り、外ケーブルの緊張力を維持したまま既設梁の端部等に固定されている定着具を外ケーブルから離脱させ、既設梁から撤去することが難しい。
【0009】
外ケーブルが定着されている、解体自在でない定着具を撤去するには、通常、外ケーブルを一旦、その定着位置を外した位置に配置替えをしなければならないが、その場合、外ケーブルに導入されている緊張力の解除を伴うため、既設梁と新設梁に対する補強効果が一時的に失われ、橋桁(床版)の使用状態を中断せざるを得なくなることが想定される。また穿孔によって新たな定着を行う方法では、プレストレスが加えられている既設梁に損傷を与えることとなり、望ましくない。従って橋桁(床版)の使用状態を継続させながら、定着具を撤去するには、外ケーブルに導入されている緊張力を維持したまま、外ケーブルに付加ケーブルを接続し、定着具を撤去することが不可欠になる。
【0010】
本発明は上記背景より、外ケーブルへの付加ケーブルの接続時に外ケーブルに導入されていた緊張力を維持しながら、外ケーブルと付加ケーブルの接続を可能にし、また外ケーブルを定着していた、既設梁に固定された定着具の撤去も可能にする橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法及びその方法に使用される外ケーブルの中間定着装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法は、既設の橋梁における下部構造の既設梁に連続し、この既設梁の軸方向両側に時期を異にして増築される一方及び他方の新設梁と前記既設梁を一体化させながら、前記一方及び他方の新設梁と前記既設梁を前記一方及び他方の新設梁上に新設される橋桁の拡幅分の荷重に対して補強するための外ケーブルを前記一方及び他方の新設梁と前記既設梁の断面外に配置し、前記一方の新設梁から前記他方の新設梁までに亘って架設し、前記一方及び他方の新設梁に定着させる方法であり、
前記既設梁の軸方向の一方側に先行して構築された一方の新設梁の断面外に前記外ケーブルの一端を定着させる一方、前記既設梁の、前記他方の新設梁寄りの断面外に固定された中間定着装置に、前記外ケーブルを緊張した状態で前記外ケーブルの他端を定着させ、
前記中間定着装置に定着されている前記外ケーブルの前記他方の新設梁側に、前記外ケーブルの前記緊張状態と定着状態を維持したまま、前記他方の新設梁の区間に架設される付加ケーブルを接続し、この付加ケーブルを前記中間定着装置と前記他方の新設梁の断面外との間に架設し、前記付加ケーブルを緊張した状態で前記他方の新設梁に定着させることを構成要件とする。
【0012】
一方の新設梁は既設梁の軸方向の一方の端部に連続して構築され、他方の新設梁は既設梁の軸方向の他方の端部に連続して構築されるが、構築の時期が異なり、一方の新設梁が他方の新設梁に先行して構築され、他方の新設梁の構築、または他方の新設梁上の橋桁(床版)の使用に先行して一方の新設梁上の橋桁(床版)が使用に供される。他方の新設梁は一方の新設梁上の橋桁(床版)が使用状態のまま、後から構築され、一方の新設梁と既設梁、及び他方の新設梁が連続した梁になる。いずれかの新設梁の構築の結果、梁の下部構造からの張り出し長さが大きくなる場合は、図15に示すように新設梁の下に下部構造(柱)が新たに構築される。下部構造には橋脚と橋台が含まれる。
【0013】
外ケーブル4は例えば図1−(a)に示すように既設梁1の軸方向(橋桁1Aの幅方向)の一方側の端部である一方の新設梁2の軸方向の端部から既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部との間に架設され、一方の新設梁2の端部に固定された定着具2Bと、既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部に固定された中間定着装置6に定着される。但し、外ケーブル4の架設区間は一方の新設梁2上に新設される橋桁2Aの幅等に応じて決まり、必ずしも一方の新設梁2の軸方向の端部から架設されるとは限らず、定着具2Bは一方の新設梁2の端部より既設梁1側へ寄った位置に固定されることもある。
【0014】
外ケーブル4と付加ケーブル5が架設される「梁の断面外」とは、梁の幅方向の少なくともいずれかの側面を指すが、外ケーブル4と付加ケーブル5に導入される張力による梁へのプレストレスの偏心を回避するために、外ケーブル4と付加ケーブル5は原則として梁の幅方向両側に架設される。外ケーブル4と付加ケーブル5の架設位置(架設側)に応じ、定着具2Bと中間定着装置6及び後述の定着具3Bの固定位置が決まる。
【0015】
また既設梁1に固定される中間定着装置6は後から構築される他方の新設梁3寄りの既設梁1の端部等に固定され、外ケーブル4に接続される付加ケーブル5を架設するまでの期間中、一方の新設梁2と既設梁1との間に先行して架設される外ケーブル4を既設梁1に定着させるために設置される。但し、中間定着装置6の既設梁1への固定位置は他方の新設梁3寄りの端部であるとは限らず、一方の新設梁2側へ寄った位置であることもある。中間定着装置6は一方の新設梁2の定着具2Bと、後から構築される他方の新設梁3の端部等に固定され、付加ケーブル5が定着される定着具3Bとの間の中間地点として位置付けられる。付加ケーブル5は図1−(b)、図2−(c)に示すように中間定着装置6に定着されている外ケーブル4の端部に接続され、新設梁3の端部等、軸方向のいずれかの部分に固定される定着具3Bに定着される。
【0016】
外ケーブル4への付加ケーブル5の接続後に中間定着装置6が撤去される場合(請求項)、あるいは撤去が予定される場合には、中間定着装置6は既設梁1には撤去可能な状態に仮固定される。付加ケーブル5は前記のように中間定着装置6から他方の新設梁3の端部等に固定された定着具3Bまでの区間に架設される。既設梁1の軸方向は橋桁1Aの幅方向(幅員方向)であり、前記のように主に橋軸直角方向を指すが、橋軸直角方向に交差した方向になることもある。
【0017】
外ケーブル4はプレストレスを既設梁1と一方の新設梁2の軸方向に一様に作用させるために原則として両梁の幅方向両側に架設される。一方の新設梁2の端部等に定着される外ケーブル4用の定着具2Bと、既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部等に定着される外ケーブル4の中間定着装置6はそれぞれの梁の幅方向両側から張り出す形で配置され、一方の新設梁2側の定着具2Bは新設梁2に固定される。中間定着装置6も既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部等に固定されるが、上記のように外ケーブル4への付加ケーブル5接続後の撤去を予定する場合は仮固定される。「仮固定」とは、中間定着装置6が解体自在な構造をしている場合に、外ケーブル4への付加ケーブル5の接続後に、構成要素単位に解体され、外ケーブルの緊張力を維持したまま撤去可能な状態に固定されることを言う。中間定着装置6が撤去される理由には主に、前記のように中間定着装置6の存在が既設梁1自体の回りに補強繊維シート20を巻き付ける作業の障害になることと、外ケーブル4と付加ケーブル5との接続上の障害になることがある。
【0018】
付加ケーブル5が外ケーブル4の他方の新設梁3側に、外ケーブル4が中間定着装置6に定着されている状態のまま接続されることで、外ケーブル4に与えられている緊張力(張力)を維持したまま外ケーブル4に付加ケーブル5を接続し、付加ケーブル5を他方の新設梁3の端部等に定着することが可能になる。外ケーブル4は付加ケーブル5の接続によって実質的に延長させられる。外ケーブル4に与えられている張力を維持することは具体的には、外ケーブル4に付加ケーブル5を接続し、付加ケーブル5を緊張した状態で、付加ケーブル5の端部を他方の新設梁3の端部位置等に固定された定着具3Bに定着した後、外ケーブル4の中間定着装置6への定着を解除することにより可能になる。
【0019】
付加ケーブル5の外ケーブル4への接続後、外ケーブル4が中間定着装置6に定着された状態のまま、外ケーブル4に与えられている張力と同一の張力を付加ケーブル5に与え、その状態で付加ケーブル5を定着具3Bに定着すれば(請求項2)、理論上、外ケーブル4と付加ケーブル5の張力は等しくなるため、付加ケーブル5の定着具3Bへの定着後に、外ケーブル4の中間定着装置6への定着を解除すれば、外ケーブル4の定着を解除しながらも、外ケーブル4に与えられている張力を維持することは可能である。
【0020】
外ケーブル4の定着を解除しながらも、外ケーブル4に与えられている張力を維持できることで、外ケーブル4による既設梁1と一方の新設梁2に対する補強効果が失われる期間が発生しないため、橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を中断させる必要がなくなる。この結果、一方の新設梁2の構築が先行し、他方の新設梁3の構築(完成)が時期を異にする場合にも、一方の新設梁2と既設梁1上の橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を継続させることが可能になる。
【0021】
特に中間定着装置6が、外ケーブル4の架設状態に影響を与えずに解体自在な構造をしている場合には、外ケーブル4の中間定着装置6への定着を解除した後、中間定着装置6の解体による撤去が可能になる。中間定着装置6の撤去は付加ケーブル5の、他方の新設梁3への定着後に行われる(請求項)。「外ケーブルの架設状態に影響を与えない」とは、外ケーブル4の定着を解除した中間定着装置6の各構成要素が外ケーブル4に干渉(衝突)しない形状をすると共に、例えば中間定着装置6を構成し、外ケーブル4が直接、定着される定着材12が外ケーブル4の断面の中心(軸)に関して周方向に分割可能であるようなことを言う。定着材12を分割、離脱させた後の中間定着装置6の各構成要素が外ケーブル4に干渉しない形状であることで、中間定着装置6自体も完成状態で外ケーブル4に干渉しない形状になる。
【0022】
外ケーブル4が直接、定着される定着材12が外ケーブル4の断面の中心(軸)に関して周方向に複数個の定着材構成材12aに分割されている場合には、外ケーブル4と定着材12との間の接触圧力(摩擦力)が実質的に0になるか、0に近くなれば、外ケーブル4に張力が与えられた状態のままでも、各定着材構成材12aを外ケーブル4の中心(軸)から抵抗なく外周側へ外すことが可能になるため、外ケーブル4から定着材12を離脱させることが可能になる。
【0023】
外ケーブル4が定着材12に定着されているとき、外ケーブル4に付加ケーブル5が接続される以前の時点では、定着材12には外ケーブル4に与えられている張力の反力が作用し、この反力は定着材12から係止材11を介して上部ブラケット7及び下部ブラケット8に伝達され、上部ブラケット7の下面と既設梁1の上面との間、及び下部ブラケット8の上面と既設梁1の下面との間の摩擦力を通じて既設梁1に伝達される。定着材12は具体的には後述(請求項)のように上部ブラケット7と下部ブラケット8に直接、係止する複数本の係止材11に一方の新設梁2側へ係止することで、外ケーブル4からの反力を係止材11に伝達し、係止材11から上部ブラケット7と下部ブラケット8に伝達する。係止材11は定着材12を受け止めながら、上部ブラケット7と下部ブラケット8に係止することで、外ケーブル4からの反力を圧縮力として負担する。
【0024】
上部ブラケット7及び下部ブラケット8は既設梁1に直接、接触することもあるが、摩擦力(摩擦係数)を稼ぐ(大きくする)ために、あるいは既設梁1の上面と下面の保護のために、後述のように上部ブラケット7及び下部ブラケット8と既設梁1との間に支圧材13が介在させられることもある(請求項)。
【0025】
前記のように外ケーブル4に付加ケーブル5を接続した後、外ケーブル4の定着状態で外ケーブル4に与えられている張力と同一の張力を付加ケーブル5に与えれば、理論上は定着材12に定着されている外ケーブル4と定着材12との接触圧力は0になるが、外ケーブル4の張力は維持されるため、外ケーブル4の張力を持続しながらも、定着材12を抵抗なく外ケーブル4から離脱させることができる。定着材12が外ケーブル4から離脱させられることで、定着材12以外の、中間定着装置6の他の構成要素を外ケーブル4と非接触状態にすることができ、各構成要素が外ケーブル4に干渉しない形状をすることで、中間定着装置6の全構成要素を外ケーブル4から離脱させ、中間定着装置6を解体することが可能になる。結果として、外ケーブル4を架設したまま、中間定着装置6を解体し、撤去することができることで(請求項)、コンクリートを引張力に対して補強するための補強繊維シート20を巻き付けることが可能になり、不要な部材が落下する恐れもなくなる。
【0026】
請求項に記載の発明の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの中間定着装置は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の橋梁の下部構造補強用外ケーブルの架設方法に使用される前記中間定着装置であり、
前記既設梁の幅より大きい長さを持ち、前記既設梁の上面上に配置される上部ブラケットと、前記既設梁の幅より大きい長さを持ち、前記既設梁の下面下に配置され、前記既設梁を挟んで前記上部ブラケットと対になる下部ブラケットと、
前記既設梁の断面外の、前記外ケーブルと干渉しない位置において前記上部ブラケットと前記下部ブラケットを貫通して両者間に架設され、前記上部ブラケットと前記下部ブラケットを前記既設梁に固定する引張材と、
前記上部ブラケット及び前記下部ブラケットの、前記他方の新設梁側に配置され、前記外ケーブルと干渉しない位置において前記上部ブラケットと前記下部ブラケットに跨って双方に前記一方の新設梁側へ係止し、前記外ケーブルに導入される張力の反力を負担する定着部材とを備えることを構成要件とする。
【0027】
上部ブラケット7と下部ブラケット8が既設梁1を挟んで鉛直方向に対になって配置され、上部ブラケット7と下部ブラケット8を貫通して両者間に引張材9が架設されることで、上部ブラケット7と下部ブラケット8が既設梁1に圧着接合により固定され、外ケーブル4に導入される張力に対しては上部ブラケット7及び下部ブラケット8と既設梁1との間に直接、もしくは間接的に生ずる摩擦力が抵抗する。上部ブラケット7と下部ブラケット8が共に、既設梁1の幅より大きい長さを持つことで、上部ブラケット7と下部ブラケット8の長さ方向両側が既設梁1から幅方向に突出し、その突出部分に引張材9が貫通し、固定されることで上部ブラケット7と下部ブラケット8が既設梁1に接合される。引張材9は既設梁1の幅方向両側に架設される。上部ブラケット7と下部ブラケット8の長さ方向両側は既設梁1の幅方向両側である。
【0028】
中間定着装置6を構成する引張材9と、外ケーブル4が定着される定着部材10が共に、外ケーブル4と干渉しない(衝突しない)位置に配置されることで、中間定着装置6が既設梁1に設置(固定)されている状態が外ケーブル4の架設状態に影響することはない。このため、前記のように付加ケーブル5を外ケーブル4に接続した後、外ケーブル4が中間定着装置6に定着されている状態で、外ケーブル4の張力と同一の張力を付加ケーブル5に与え、付加ケーブル5を定着具3Bに定着した後に、外ケーブル4の中間定着装置6(定着部材10)を構成する後述の定着材12への定着を解除することで、外ケーブル4の定着を解除しながらも、外ケーブル4に与えられている張力を維持することが可能である。
【0029】
引張材9と外ケーブル4は互いに干渉しない(衝突しない)位置に配置されることで、図2−(c)に示すように既設梁1の縦断面上、一方が既設梁1寄りに配置される。定着部材10も外ケーブル4と互いに干渉しない位置に配置されることで、図2−(f)に示すように例えば定着部材10が外ケーブル4を挟むように配置される。請求項における「外ケーブル4と干渉しない(衝突しない)位置」とは、引張材9と定着部材10(後述の係止材11と定着材12を含む)が外ケーブル4と衝突せず、外ケーブル4の架設を阻害しない位置にあることを言う。
【0030】
請求項では中間定着装置6を構成する引張材9と定着部材10が共に、外ケーブル4と干渉しない位置に配置されることで、外ケーブル4の定着を解除しながら、外ケーブル4に与えられている張力を維持できるため、外ケーブル4による既設梁1と新設梁2に対する補強効果が失われる期間を発生させることがない。この結果、橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を中断させる必要がなくなり、一方の新設梁2の構築が先行し、他方の新設梁3の構築(完成)の時期が異なる場合にも、一方の新設梁2と既設梁1上の橋桁(床版)1A、2Aの使用状態を継続させることが可能になる。
【0031】
請求項において特に定着部材10が上部ブラケット7と下部ブラケット8に一方の新設梁2側へ係止し、既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置される複数本の係止材11、11と、係止材11、11に一方の新設梁2側へ係止し、外ケーブル4が仮定着される定着材12を持ち、定着材12が外ケーブル4の断面の周方向に複数の定着材構成材12aに分割されている場合(請求項)には、前記のように外ケーブル4と付加ケーブル5を接続することにより、外ケーブル4の緊張状態を保持したまま、外ケーブル4が係止し、定着されていた定着材12が定着材構成材12aに分離自在になる。従って外ケーブル4に与えられている張力を維持しながら、中間定着装置6を解体し、撤去することが可能である。外ケーブル4は定着材12には方法を問わず、直接、もしくは間接的に定着されている。
【0032】
この場合、定着部材10を構成する複数本の係止材11、11は上部ブラケット7と下部ブラケット8に直接、係止することで、外ケーブル4の張力を上部ブラケット7と下部ブラケット8に分担させる役目を持つ。複数本の係止材11、11は上部ブラケット7と下部ブラケット8に跨りながら、既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置されることで、上部ブラケット7と下部ブラケット8に同時に係止しながら、外ケーブル4を既設梁1の幅方向に挟み込むように配置される。複数本の係止材11、11が外ケーブル4を外周側から挟み込むように配置されることで、外ケーブル4に干渉しない状態に配置されるため、中間定着装置6の撤去時には外ケーブル4に接触することなく、係止材11、11を離脱させることが可能になる。
【0033】
係止材11が2本あれば、既設梁1の幅方向への外ケーブル4の配列数が1列である場合に、図2−(e)、(f)に示すように1列に配列した1本、もしくは複数本の外ケーブル4を2本の係止材11、11が既設梁1の幅方向に挟み込む状態になる。係止材11が3本あれば、図7−(b)に示すように既設梁1の幅方向への外ケーブル4の配列数が2列である場合に、2列に配列した1本、もしくは複数本の外ケーブル4を3本の係止材11が既設梁1の幅方向に挟み込む状態になる。
【0034】
外ケーブル4が定着される定着材12が外ケーブル4の断面の周方向に複数の定着材構成材12aに分割されていることで、前記のように外ケーブル4が定着材12に接触した状態にあっても、外ケーブル4との接触圧力が実質的に0になるか、0に近くなれば、抵抗なく定着材12を外ケーブル4から離脱させることが可能である。
【0035】
「外ケーブルの断面の周方向に分割」とは、外ケーブル4の断面の中心(軸)からの放射方向の線に沿って分割されることであり、定着材12が外ケーブル4の周囲を包囲した状態、あるいは外ケーブル4が定着材12を厚さ方向に貫通した状態にある場合に、外ケーブル4の周方向に定着材12が複数の定着材構成材12aに分割されることを言う。具体的には図7−(a)、(b)に示すように定着材12が既設梁1の成方向(鉛直方向)に分割される場合と、(c)、(d)に示すように既設梁1の幅方向(水平方向)に分割される場合の他、(e)に示すように水平方向、あるいは鉛直方向に対して傾斜した方向に分割される場合がある。
【0036】
例えば図2−(f)、図7−(a)、(b)に示すように定着材12が既設梁1の成方向に2枚の定着材構成材12a、12aに分割されている場合には、複数本の係止材11、11が既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置されることと併せ、既設梁1の成方向に分割された定着材構成材12a、12aは隣接する係止材11、11に跨って両係止材11、11に接合されることが可能であり、外ケーブル4から受ける張力の反力を複数本の係止材11、11に分散させて伝達可能な状態になる。図7−(a)は係止材11が既設梁1の幅方向に2本、配置される場合、(b)は3本、配置される場合を示している。図7−(c)、(d)に示すように定着材12が既設梁1の幅方向に分割されている場合にも、隣接する係止材11、11間につなぎ材11fが架設され、互いに連結されていれば、定着材構成材12a、12aが隣接する係止材11、11に跨って両係止材11、11に接合されることが可能であり、外ケーブル4から受ける張力の反力を係止材11、11に分散させて伝達可能な状態になる。
【0037】
図7−(e)に示すように定着材12が水平方向、もしくは鉛直方向に対して傾斜した方向に分割されている場合にも、同様に隣接する係止材11、11に跨って両係止材に接合されることが可能である。定着材12のいずれの分割例においても、外ケーブル4の反力が定着材12に実質的に作用していない、接触圧力が0になるか、0に近い状態にあれば、抵抗なく定着材12を外ケーブル4から離脱させることが可能である。結局、定着材12はそれが受ける外ケーブル4の反力を隣接する係止材11、11に分散させるように、複数個の定着材構成材12a、12aに分割されていればよいことになる。
【0038】
定着材12(定着材構成材12a)が受ける外ケーブル4の張力による反力は前記のように定着材12から係止材11に伝達され、係止材11から上部ブラケット7と下部ブラケット8への係止部11aを通じて上部ブラケット7と下部ブラケット8に伝達され、両ブラケット7、8からそれが圧着接合されている既設梁1に摩擦力を介して伝達され、負担される。互いに分離している定着材12と係止材11、係止材11と上部ブラケット7及び下部ブラケット8とは外ケーブル4の反力の伝達時に変位(ずれ)が生じないよう、互いに分離自在に接合される。
【0039】
上部ブラケット7と下部ブラケット8は単一の部材で製作される他、請求項に記載のように複数本のブラケット構成材71、81に幅方向に分割された形で製作される。上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向は既設梁1の軸方向である。上部ブラケット7と下部ブラケット8が複数本のブラケット構成材71、81に分割される場合には、1本の部品の質量が軽量化されるため、取り扱い作業性が向上し、地上からの吊り上げに使用される重機の規模を小型化し、地上での重機の占有面積を縮小化することが可能になる。上部ブラケット7と下部ブラケット8が複数本のブラケット構成材71、81に分割される場合には、橋桁(床版)の使用状態を継続させながら、中間定着装置6を既設梁1から撤去する場合の解体作業性と搬出作業性も向上する利点がある。
【0040】
この場合、上部ブラケット7と下部ブラケット8は部品としては複数本のブラケット構成材71、81に分割されるが、使用状態では単一の部材として既設梁1の上面側と下面側に設置されるため、使用状態で分離することがないよう、図4−(a)、図5−(a)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向両側に配置される拘束部材72、82に分割方向(既設梁1の軸方向)に挟持されることにより分割方向に互いに連結され、拘束される。
【0041】
拘束部材72、82は図4−(a)、図5−(a)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向両側に位置し、対になる2本の拘束材72a、72b(82a、82b)と、両拘束材72a、72b(82a、82b)を連結する鋼棒、PC鋼材、鉄筋等の連結材72c(82c)からなり、連結材72c(82c)が両拘束材72a、72b(82a、82b)に上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向に圧縮力を加えることで、分割されている複数本のブラケット構成材71、81を束ね、上部ブラケット7と下部ブラケット8として一体化させる。
【0042】
上部ブラケット7と下部ブラケット8はそれぞれ既設梁1の上面と下面に直接、接触した状態で設置されることもあるが、引張材9に与えられる張力の反力による既設梁1の上面と下面への損傷を防止し、あるいは既設梁1との間の摩擦力を増すために、上部ブラケット7の下面と既設梁1の上面との間、及び下部ブラケット8の上面と既設梁1の下面との間に、それぞれの面間の間隔を保持する支圧材13を介在させることもある(請求項)。
【0043】
この場合、上部ブラケット7と既設梁1との間、及び下部ブラケット8と既設梁1との間に支圧材13が介在することで、上部ブラケット7と既設梁1との間、及び下部ブラケット8と既設梁1が直接、接触しないため、上部ブラケット7と下部ブラケット8が直接、接触する場合の既設梁1の損傷が回避、あるいは軽減される。上部ブラケット7と下部ブラケット8が負担する外ケーブル4の反力は支圧材13と既設梁1との間の摩擦力を介して既設梁1に伝達される。
【0044】
特に支圧材13の既設梁1側の接触面が、外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1に近い側から遠い側へ向かって傾斜している場合(請求項)には、外ケーブル4に与えられている張力の反力の一部が上記接触面における摩擦力に加算されるため、摩擦力を増大させる利点がある。上部ブラケット7と既設梁1との間に介在する支圧材13の場合、支圧材13の接触面は外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1の上面に近い側から遠い側へ向かって傾斜し、下部ブラケット8と既設梁1との間に介在する支圧材13の場合、支圧材13の接触面は既設梁1の下面に近い側から遠い側へ向かって傾斜する。
【0045】
図13−(a)に示すように既設梁1上に上部ブラケット7が設置され、上部ブラケット7の下面が外ケーブル4の定着側端部(中間定着装置6側)から中間部側(一方の新設梁2側)へかけて、既設梁1の上面に近い側から遠い側へ向かって傾斜している場合に、上部ブラケット7に外ケーブル4の張力Tと、上部ブラケット7を既設梁1に圧着接合する引張材9の張力Pが作用している状況下において、上部ブラケット7の下面(接触面(傾斜面))に生じる摩擦力を考える。ここでは上部ブラケット7に外ケーブル4の張力Tと引張材9の張力Pが作用している様子を示しているが、実際には上部ブラケット7には外ケーブル4の張力Tの反力と引張材9の張力Pの反力が作用している。図13−(a)は既設梁1の上面が水平面であると仮定した場合に、上部ブラケット7の下面が水平面に対して傾斜している状況を想定している。
【0046】
傾斜面の水平面に対する傾斜角度をθとすると、張力Tの反力は傾斜面に平行な方向の成分Tcosθと垂直な方向の成分Tsinθに分解され、張力Pの反力は傾斜面に平行な方向の成分Psinθと垂直な方向の成分Pcosθに分解される。PsinθはTcosθとは反対側を向くため、傾斜面に平行な方向には張力Tの反力の向きにTcosθ−Psinθが作用する。傾斜面に垂直な方向にはTsinθ+Pcosθが作用する。
【0047】
このとき、上部ブラケット7と既設梁1の上面との間の静止摩擦係数をμとすれば、傾斜面に平行な方向に作用するTcosθ−Psinθが摩擦力μ(Tsinθ+Pcosθ)と釣り合うから、Tcosθ−Psinθ=μ(Tsinθ+Pcosθ)……(1)が成立する。この式よりPを求めると、P=(cosθ−μ・sinθ)/(μ・cosθ+sinθ)・Tが得られる。上部ブラケット7の下面と既設梁1の上面が水平面である場合には、T=μ・Pであるから(上記式(1)においてθ=0の場合)、P=(1/μ)・T……(2)である。
【0048】
一方、傾斜面が図13−(a)とは逆に、すなわち上部ブラケット7の下面が外ケーブル4の定着側端部から中間部側へかけて、既設梁1の上面に遠い側から近い側へ向かって傾斜している(b)の場合には、Tcosθ+Psinθ=μ(Pcosθ−Tsinθ)より、P=(cosθ+μ・sinθ)/(μ・cosθ−sinθ)・T……(3)になる。ここで、(1)〜(3)を通じてTの係数βとすると、(1)のβはβ=(cosθ−μ・sinθ)/(μ・cosθ+sinθ)、(2)のβはβ=(1/μ)、(3)のβはβ=(cosθ+μ・sinθ)/(μ・cosθ−sinθ)になるが、θとμに具体的数値を与えたときの係数βの値の一覧を図14に示す。
【0049】
図14に示すように摩擦係数μが一定であれば、θが大きくなる程、βが小さくなることが分かる。βが小さいことは外ケーブル4の張力Tに抵抗させるために必要となる引張材9の張力Pを小さくできることを意味するから、引張材9に導入すべき引張力を低減でき、引張材9の能力、あるいは規模を縮小できることになる。また引張力によって上部ブラケット7と下部ブラケット8から既設梁1に与える圧縮力を低減できるため、既設梁1に生じる損傷も軽減できる効果が得られることになる。
【0050】
支圧材13は上部ブラケット7の下面と下部ブラケット8の上面の全面に配置される場合と部分的に配置される場合があるが、支圧材13と既設梁1との間に生じる摩擦力は外ケーブル4の張力の作用方向に生じさせることが合理的であるから、外ケーブル4の架設方向(既設梁1の軸方向)には、支圧材13は上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向(既設梁1の軸方向)に全幅に亘る長さを持つことが適切である。但し、支圧材13が外ケーブル4の架設方向に上部ブラケット7と下部ブラケット8の全幅に亘る長さを持つ場合に、1枚の支圧材13の既設梁1側の単一の面(1面)に前記した傾斜角度θを与え、外ケーブル4の架設方向に緩やかに傾斜した面を持たせようとすれば、傾斜角度θが0に近くなり、傾斜角度を大きく取ることができない。
【0051】
既設梁1の上面が水平面である場合に、上部ブラケット7の下面(接触面)の、水平面に対する傾斜角度を大きく取ろうとしたとき、傾斜した接触面の傾斜角度が保たれると仮定すれば、接触面全面の内、既設梁1に近い側が既設梁1に接触し易いのに対し、既設梁1から遠い側が既設梁1に接触しにくいため、接触面の全面を一様に、あるいは均等に既設梁1の上面に接触させることが難しくなる。同じことは下部ブラケット8の上面(接触面)にも言える。
【0052】
そこで、支圧材13の既設梁1側の接触面を既設梁1の軸方向に複数の区間に区分し、各区分された区間単位で、外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1に近い側から遠い側へ向かって傾斜させ、傾斜した接触面を既設梁1の軸方向に複数、繰り返して形成することで(請求項)、各傾斜面の傾斜角度を大きく取りながらも、接触面の全体では接触面の全面を一様に、あるいは均等に既設梁1の上面と下面に接触させることが可能になる。
【0053】
実験結果によれば、支圧材13の既設梁1側の接触面の水平面に対する傾斜角度が0度で、摩擦係数μが0.5の場合、外ケーブル4の張力Tに十分に抵抗できるだけの摩擦力を上部ブラケット7と既設梁1との間に生じさせるために、上部ブラケット7に与えるべき圧縮力、すなわち引張材9に与えるべき張力Pは外ケーブル4の張力Tの2.0倍程度になる(P=2.0T)。これに対し、支圧材13の既設梁1との接触面を既設梁1の軸方向に複数、形成した上で、各接触面に、既設梁1の上面に対して4〜8度の傾斜角度を与えた場合には、引張材9に与えるべき張力Pが外ケーブル4の張力Tの1.45〜1.69倍になり(P=1.45〜1.69T)、接触面が既設梁1の上面と平行である場合より15.5〜27.5%程度、張力Pが低減されることが判明している。
【発明の効果】
【0054】
既設梁の軸方向の一方の端部に、他方の端部に連続して構築される他方の新設梁に先行して一方の新設梁が構築され、一方の新設梁の軸方向の端部等から既設梁の他方の新設梁側の端部等との間に外ケーブルが架設され、その端部が既設梁の端部等に固定された中間定着装置に定着されている状況下において、外ケーブルの他方の新設梁側に付加ケーブルを接続し、付加ケーブルを緊張した状態で、付加ケーブルの端部を他方の新設梁の端部位置等に固定された定着具に定着した後、外ケーブルの中間定着装置への定着を解除するため、外ケーブルに与えられている張力を維持したまま外ケーブルに付加ケーブルを接続し、付加ケーブルを他方の新設梁の端部等に定着することが可能である。
【0055】
この結果、外ケーブルに与えられている張力を一時的にも解除する事態を生じさせることがないため、外ケーブルによる既設梁と新設梁に対する補強効果が失われる期間を発生させることがなく、橋桁(床版)の使用状態を中断させる必要がない。従って一方の新設梁の構築が先行し、他方の新設梁の構築(完成)が時期を異にする場合にも、一方の新設梁と既設梁上の橋桁(床版)の使用状態を継続させることが可能になる。
【0056】
特に外ケーブルが直接、定着される定着材が外ケーブルの断面の中心(軸)に関して周方向に複数個の定着材構成材に分割されている場合には、外ケーブルに付加ケーブルを接続し、外ケーブルの定着状態で外ケーブルに与えられている張力と同一の張力を付加ケーブルに与えることができれば、定着材に定着されている外ケーブルと定着材との接触圧力を実質的に0にすることができるため、外ケーブルの張力を持続しながらも、定着材を抵抗なく外ケーブルから離脱させることができる。
【0057】
定着材を外ケーブルから離脱させることができる結果、中間定着装置の、定着材以外の他の構成要素が外ケーブルと非接触状態になるため、中間定着装置の全構成要素を外ケーブルから離脱させ、中間定着装置を解体することが可能であり、中間定着装置を解体できることで、外ケーブルを架設したまま、コンクリートを引張力に対して補強するための補強繊維シートを巻き付けることが可能であり、不要な部材が落下する恐れもなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】(a)は一方の新設梁の端部等から既設梁の、他方の新設梁側の端部寄りまでの区間に外ケーブルを架設し、それぞれの端部を定着具と中間定着装置に定着した様子を示した既設梁の橋軸方向の立面図、(b)は中間定着装置に定着されている外ケーブルの端部に付加ケーブルを接続し、その端部を他方の新設梁の端部等の定着具に定着した様子を示した立面図である。
図2】(a)〜(d)は図1−(a)における外ケーブルの、他方の新設梁側の端部が定着される中間定着装置の既設梁への設置から、外ケーブルを延長させる付加ケーブルの外ケーブルへの接続と中間定着装置の撤去までの手順を示した既設梁の立面図、(e)は(a)のa−a線断面図、(f)は(b)のb−b線断面図である。
図3】(a)は図2−(c)の詳細を示した拡大図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の直交方向の断面図であり、中心線の左側は(a)のc−c線矢視図、右側は(a)のd−d線矢視図、(d)は(b)の中間定着装置部分の拡大図である。
図4】(a)は図3−(a)における上部ブラケット部分の拡大図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)における1本のブラケット構成材を示した正面図、(d)は(c)の平面図、(e)は(c)のe−e線断面図である。
図5】(a)は図3−(a)における下部ブラケット部分の拡大図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)における1本のブラケット構成材を示した正面図、(d)は(c)の平面図、(e)は(c)のf−f線断面図である。
図6】(a)は図3−(a)における定着部材の単体を示した正面図、(b)は(a)のA−A線矢視図、(c)は(a)のB−B線断面図、(d)は(a)のC−C線断面図、(e)は(a)のD−D線断面図、(f)は(a)のE−E線断面図である。
図7】(a)は図2−(f)に示す定着部材の定着材と係止材の関係を示した正面図、(b)は(a)の変形例として係止材が3本ある場合の定着材と係止材の関係を示した正面図、(c)は定着材が既設梁の幅方向に2分割された場合の定着材と係止材の関係を示した正面図、(d)は(c)の場合における重なる前の定着材と係止材の関係を示した正面図、(e)は定着材が水平に対して傾斜した方向に2分割された場合の定着材を示した正面図である。
図8】(a)は図6−(b)における定着材を構成する定着材構成材を示した正面図、(b)は(a)の側面図、(c)は図6−(b)におけるつなぎ材を示した正面図、(d)は(c)の側面図である。
図9】(a)は図4−(a)における上部ブラケットを保持する一方の拘束材を示した正面図、(b)は(a)の側面図である。
図10】(a)は図5−(a)における下部ブラケットを保持する一方の拘束材を示した正面図、(b)は(a)の側面図である。
図11】(a)は図4−(a)における上部ブラケットと既設梁との間に介在する支圧材を示した正面図、(b)は(a)の平面図、(c)は(a)の一部拡大図である。
図12】(a)は図5−(a)における下部ブラケットと既設梁との間に介在する支圧材を示した正面図、(b)は(a)の平面図である。
図13】(a)は上部ブラケットの下面が外ケーブルの定着側端部から中間部側へかけて既設梁に近い側から遠い側へ向かって傾斜しているときに、上部ブラケットに外ケーブルの張力Tと、上部ブラケットを既設梁に圧着接合する引張材の張力Pが同時に作用している状況を示した説明図、(b)は上部ブラケットの下面が水平面に対して(a)とは逆向きに傾斜しているときに、外ケーブルの張力Tと引張材の張力Pが同時に作用している状況を示した説明図である。
図14図13−(a)、(b)に示す上部ブラケットに鉛直方向に与えるべき圧縮力(引張材の張力)と上部ブラケットに作用する外ケーブルの反力との関係を表す係数βの、摩擦係数μと傾斜角度θの変化に伴う数値の変化を示した表である。
図15】既設梁の軸方向両側に一方の新設梁と他方の新設梁を構築した状況を示した橋軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0060】
図1−(a)、(b)は既設の橋梁における下部構造の既設梁1に連続し、既設梁1の軸方向両側に時期を異にして増築される一方及び他方の新設梁2、3と既設梁1を一体化させながら、一方及び他方の新設梁2、3と既設梁1を一方及び他方の新設梁2、3上に新設される橋桁2A、3Aの拡幅分の荷重に対して補強するための外ケーブル4を一方及び他方の新設梁2、3と既設梁1の断面外に配置し、一方の新設梁2から他方の新設梁3までに亘って架設し、一方及び他方の新設梁2、3に定着させる外ケーブル4の架設方法の施工要領を示した橋軸方向の立面(断面)を示す。下部構造は橋脚と橋台を含む。
【0061】
図1−(a)は他方の新設梁3に先行して構築される一方の新設梁2の構築後、一方の新設梁2の軸方向の端部等、いずれかの部分の断面外(幅方向側面側)に設置された定着具2Bと、既設梁1の軸方向の、他方の新設梁3寄りの部分等、いずれかの部分の断面外(幅方向側面側)に設置された中間定着装置6との間に外ケーブル4を架設し、外ケーブル4の両端部を定着具2Bと中間定着装置6に定着させた様子を示す。定着具2Bは一方の新設梁2の、既設梁1の反対側の端部等に固定され、中間定着装置6は既設梁1の他方の新設梁3寄りの端部等に固定(仮固定)される。
【0062】
外ケーブル4の架設後には、一方の新設梁2上に、既設梁1上の橋桁1Aの幅方向(橋軸直角方向)に隣接して橋桁2Aが構築され、橋桁2Aが使用可能状態になる。図1−(b)は既設梁1の中間定着装置6側の端部に、既設梁1に連続して他方の新設梁3を構築し、他方の新設梁3の断面外(幅方向側面側)に、外ケーブル4に接続され、外ケーブル4を延長させる役目を持つ付加ケーブル5を定着させる定着具3Bを設置した様子を示す。
【0063】
既設梁1の軸方向両側に構築された一方の新設梁2と他方の新設梁3との間への外ケーブル4の架設と延長は、一方の新設梁2と既設梁1との間に外ケーブル4を先行して架設した後、一方の新設梁2と橋桁2Aの使用状態で、後から構築された他方の新設梁3との間に外ケーブル4を延長させる付加ケーブル5を架設し、その他方の新設梁3側の端部を定着具3Bに定着させることにより行われる。
【0064】
具体的には、図1−(a)に示すように既設梁1の軸方向の一方側に先行して構築された一方の新設梁2の端部等の断面外に外ケーブル4の一端をその側に固定された定着具2Bに定着させる一方、既設梁1の、他方の新設梁3寄りの端部等の断面外に固定された中間定着装置6に外ケーブル4の他端を定着させ、図2−(c)に示すように中間定着装置6に定着されている外ケーブル4の他方の新設梁3側に、外ケーブル4の定着状態を維持したまま、他方の新設梁3の区間に架設される付加ケーブル5を接続し、付加ケーブル5を中間定着装置6と他方の新設梁3の端部等の断面外との間に架設し、付加ケーブル5を緊張した状態で他方の新設梁3の端部等に固定された定着具3Bに定着させることが行われる。
【0065】
中間定着装置6は図2−(a)、図3−(b)に示すように既設梁1の幅より大きい長さを持ち、既設梁1の上面上に配置される上部ブラケット7と、既設梁1の幅より大きい長さを持ち、既設梁1の下面下に配置され、既設梁1を挟んで上部ブラケット7と対になる下部ブラケット8と、図2−(e)に示すように既設梁1の断面外の、外ケーブル4と干渉しない位置において上部ブラケット7と下部ブラケット8を貫通して両者間に架設され、上部ブラケット7と下部ブラケット8を既設梁1に固定する引張材9を基本的な構成要素として備える。加えて図2−(b)、(c)、(f)に示すように上部ブラケット7及び下部ブラケット8の、他方の新設梁3側に配置され、外ケーブル4と干渉しない位置において上部ブラケット7と下部ブラケット8に跨って双方に一方の新設梁2側へ係止し、外ケーブル4が定着される定着部材10とを備える。
【0066】
中間定着装置6が外ケーブル4の架設状態で、外ケーブル4(既設梁1)から撤去されることが予定される場合には、定着部材10は図2−(b)、(f)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8に一方の新設梁2側へ係止する複数本の係止材11、11と、係止材11、11に一方の新設梁2側へ係止し、外ケーブル4が仮定着される定着材12から構成される。複数本の係止材11、11は図2−(f)、図6−(b)、(c)に示すように既設梁1の幅方向に間隔を置いて配置され、定着材12は外ケーブル4の断面の周方向に複数の定着材構成材12a、12aに分割される。定着材12には外ケーブル4が挿通する挿通孔12bが形成され、この挿通孔12bの周囲に外ケーブル4が定着される。定着材12が複数枚の定着材構成材12a、12aに分割される場合には、複数枚の定着材構成材12a、12aが集合して1個の挿通孔12bが形成される。
【0067】
図2−(b)に示す定着部材10の単体を図6−(a)〜(f)に、定着部材10の使用状態を図3−(a)〜(c)に示す。図3図6に示すように定着部材10は上部ブラケット7と下部ブラケット8に一方の新設梁2側へ係止し、既設梁1の幅方向に並列する複数本の係止材11、11と、隣接する係止材11、11に一方の新設梁2側へ係止し、外ケーブル4が定着される定着材12とから組み立てられる。
【0068】
係止材11は図2−(b)、図3−(a)、図6−(a)〜(c)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8の、他方の新設梁3側の側面に、一方の新設梁2側へ係止する係止部11a、11aと、定着材12が一方の新設梁2側へ係止し、定着材12が着脱自在に接合される被係止部11bと、係止部11a、11aと被係止部11bをつなぎ、両者間で外ケーブル4に導入される張力の反力を負担する荷重受け部11cを持つ。
【0069】
係止部11a、11aには図6−(a)、(c)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8に係止した状態でのずれを防止するために、上部ブラケット7と下部ブラケット8のそれぞれに着脱自在に接合される接合部11d、11dが一体的に形成、あるいは接合される。上部の接合部11dは図3−(d)、図6−(a)、(c)、(f)に示すように上部ブラケット7の上面に重なる位置に配置され、下部の接合部11dは下部ブラケット8の下面に重なる位置に配置され、各接合部11dは上部ブラケット7の上面と下部ブラケット8の下面にボルト等によって着脱自在に接合される。
【0070】
荷重受け部11cは図6−(c)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8に跨る長さを持ち、係止部11a、11aは荷重受け部11cの上下に溶接等により一体化し、上部の係止部11aは上部ブラケット7の幅方向の側面に接触(当接)し、下部の係止部11aは下部ブラケット8の幅方向の側面に接触(当接)する。図面では定着部材10が2本の係止材11、11からなることから、2本の係止材11、11を同一の形状に形成し、外ケーブル4の軸線に関して対称な状態で使用しているが、係止材11が3本以上ある場合は、隣接する係止材11、11が対称な状態に配置される。
【0071】
荷重受け部11cは既設梁1の成方向には上下の係止部11a、11aが上部ブラケット7と下部ブラケット8の側面に係止できるだけの長さを持てばよいが、図面では図−(a)、(c)に示すように荷重受け部11cに、係止部11a、11aの位置より一方の新設梁2側へ張り出し、対向する上部ブラケット7の下面と下部ブラケット8の上面間に入り込む部分を連続させて形成している。この荷重受け部11cの張り出し部分は係止材11が上部ブラケット7と下部ブラケット8との間に配置されたときに、上部ブラケット7の下面と下部ブラケット8の上面に係止し得る状態になり、係止材11自身が鉛直方向にずれを生じないよう、位置を規制する機能を持つ。
【0072】
荷重受け部11cの張り出し部分はまた、図3−(b)及びその一部拡大図である(d)に示すように既設梁1の幅方向に隣接する係止材11、11の荷重受け部11c、11cの張り出し部分が対になって配置されることで、外ケーブル4の定着材12側の端部を、ナット15を用いて定着するための雄ねじの切られたねじスリーブ16を既設梁1の幅方向両側から挟み込み、保護する役目も果たす。
【0073】
係止材11の、定着材12が係止する被係止部11bと、上部ブラケット7と下部ブラケット8に係止する係止部11aは図3−(d)、図6−(e)に示すように荷重受け部11cに関して同一面側に形成(突設)され、被係止部11bが定着材12から受ける張力の反力を係止部11a、11aから上部ブラケット7と下部ブラケット8に伝達し、被係止部11bと係止部11a間の荷重受け部11cに圧縮力が作用するときに、偏心の影響が極力、小さくなるようにしている。
【0074】
荷重受け部11cの少なくとも片面には図6−(a)、(c)に示すように被係止部11bと係止部11aから圧縮力を受けるときの座屈防止のためにリブ11eが突設される。図示する例の場合、荷重受け部11cは被係止部11bと係止部11aの突設側の面に既設梁1の軸方向(外ケーブル4の軸方向)に圧縮力を受けるため、被係止部11b等の突設側の面に、水平に向けてリブ11eを突設している。
【0075】
既設梁1の幅方向に隣接する係止材11、11間には図3−(c)、図6−(b)に示すようにつなぎ材11fが跨り、つなぎ材11fが両係止材11、11にボルト等により着脱自在に接合されることにより係止材11、11間の間隔を一定に保持する。定着材12、または分割された定着材構成材12aが隣接する係止材11、11間に跨る場合は、定着材12もつなぎ材11fと同じ役目を果たす。
【0076】
定着部材10を係止材11と定着材12から構成することと同様に、外ケーブル4(既設梁1)からの撤去をし易くする理由から、図面では上部ブラケット7と下部ブラケット8をそれぞれ既設梁1の軸方向に複数本のブラケット構成材71、81に分割し、使用状態で分離している複数本のブラケット構成材71、81をその分割方向両側から挟持する拘束部材72、82によって束ね、拘束している。上部ブラケット7と下部ブラケット8を複数本のブラケット構成材71、81に分割することには、上部ブラケット7と下部ブラケット8を構成する1本(1個)の部材の軽量化を図り、中間定着装置6の既設梁1への設置時と撤去時の取り扱い作業性を向上させる意味もあるが、必ずしも上部ブラケット7と下部ブラケット8はブラケット構成材71、81に分割される必要はない。
【0077】
図示する例では図2等に示すように既設梁1の上面が水平面をなしていることから、それに直接、もしくは間接的に接触する上部ブラケット7の下面も水平面をなしているが、既設梁1の上面が水平面に対して傾斜した面をなしている場合には、上部ブラケット7の下面も既設梁1の上面に対応して傾斜した面をなす。一方、既設梁1の下面は既設梁1の柱寄りから軸方向先端側へかけて下方から上方へ向かって傾斜した面をなしていることに対応し、それに直接、もしくは間接的に接触する下部ブラケット8の上面も既設梁1の柱寄りから軸方向先端側へかけて下方から上方へ向かって傾斜した面をなしているが、既設梁1の下面が水平面をなしている場合には、下部ブラケット8の上面も水平面をなす。
【0078】
図示する例では上部ブラケット7の下面が水平面をなすことに伴い、図4−(a)に示すように分割されたブラケット構成材71の下面と上面も水平面をなしている。同様に下部ブラケット8の上面が既設梁1の柱寄りから軸方向先端側へかけて下方から上方へ向かって傾斜した面をなしていることに伴い、図5−(a)に示すように分割されたブラケット構成材81の下面と上面も柱寄りから軸方向先端側へかけて下方から上方へ向かって傾斜した面をなしている。
【0079】
上部ブラケット7と下部ブラケット8は両者を貫通して両者間に架設される引張材9に導入される張力の反力を鉛直方向の圧縮力として負担するため、各ブラケット構成材71、81はこの圧縮力に抵抗できる構造を有する。図面では図4−(a)〜(e)、図5−(a)〜(e)に示すように鉛直方向を向き、水平方向に並列する2枚のウェブプレート71a、71a(81a、81a)とその上下に一体化する2枚のフランジプレート71b、71b(81b、81b)から箱形の断面形状にブラケット構成材71、81を形成している。
【0080】
図示する例では1本のブラケット構成材71(81)単位で引張材9が貫通し、各ブラケット構成材71(81)が独立して引張材9の張力による反力の圧縮力を負担させていることから、図4−(c)〜(e)に示すように対向するフランジプレート71b、71b(81b、81b)間に補強用のリブプレート71c(81c)を配置している。
【0081】
フランジプレート71b、71b(81b、81b)の、引張材9の貫通位置には図4−(b)、図5−(b)に示すように引張材9が挿通する挿通孔71d(81d)が形成され、ウェブプレート71a、71a(81a、81a)の、後述の拘束部材72(82)の連結材72c(82c)の貫通位置には図4−(e)、図5−(e)に示すように連結材72c(82c)が挿通する挿通孔71e(81e)が形成される。図示する例では引張材9が各ブラケット構成材71(81)を貫通しているが、必ずしもその必要はなく、1本置きのブラケット構成材71(81)を貫通するようなこともある。
【0082】
上部ブラケット7のブラケット構成材71を束ねる拘束部材72は図4−(a)に示すように上部ブラケット7の幅方向(既設梁1の軸方向)両側に位置し、対になる2本の拘束材72a、72bと、両拘束材72a、72bと全ブラケット構成材71を上部ブラケット7の幅方向に貫通し、両拘束材72a、72bに上部ブラケット7の幅方向に圧縮力を与えることにより両拘束材72a、72bと全ブラケット構成材71を連結し、一体化させる連結材72cから構成される。連結材72cには鉄筋、PC鋼材、繊維強化プラスチック等、引張力の導入が可能な材料が使用される。図9−(a)、(b)は図4−(a)に示す右側の拘束材72aの立面と側面を示しているが、左側の拘束材72bは右側の拘束材72aと同一の(対称な)形状をしている。図10−(a)、(b)は図5−(a)に示す右側の拘束材82aの立面と側面を示している。
【0083】
図4では両拘束材72a、72bに、ブラケット構成材71の内、上部ブラケット7の幅方向(既設梁1の軸方向)両側に位置するブラケット構成材71、71の鉛直方向の位置決めと幅方向への挟持のために、ブラケット構成材71の上下のフランジプレート71b、71b間に入り込みながら、対向する拘束材72b、72a側へ向かって両フランジプレート71b、71bに係止する形状を与えている。両拘束材72a、72bの、連結材72cの端部が定着される定着面は連結材72cの軸に垂直な面をなしている。
【0084】
下部ブラケット8のブラケット構成材81を束ねる拘束部材82も図5−(a)に示すように下部ブラケット8の幅方向(既設梁1の軸方向)両側に位置し、対になる2本の拘束材82a、82bと、両拘束材82a、82bと全ブラケット構成材81を下部ブラケット8の幅方向に貫通し、両拘束材82a、82bに下部ブラケット8の幅方向に圧縮力を与えることにより両拘束材82a、82bと全ブラケット構成材81を連結し、一体化させる連結材82cから構成される。
【0085】
図示する例では下部ブラケット8は既設梁1の柱寄りから軸方向先端側へかけて下方から上方へ向かって傾斜した下面に沿って設置されることから、下部ブラケット8の上面はこの傾斜した下面に平行な面をなしているが、既設梁1の下面が水平面をなしている場合には、下部ブラケット8自体が上部ブラケット7と同様の形状に形成される。
【0086】
図5では既設梁1の下面が傾斜していることに対応し、下部ブラケット8を構成するブラケット構成材81が前記した2枚のウェブプレート81a、81aとその上下に一体化する2枚のフランジプレート81b、81bから平行四辺形の断面形状をした箱形に形成されている。両拘束材82a、82bの、連結材82cの端部が定着される定着面は連結材82cの軸に垂直な面を与えるために、拘束材82a、82bの側面の形状は図10−(a)に示すように台形状になっている。
【0087】
上部ブラケット7と下部ブラケット8は直接、既設梁1の上面と下面に接触することもあるが、図面では既設梁1の上面と下面を保護するためと、既設梁1の上面と下面との間の摩擦力を増大させるために、図4−(a)、図5−(a)に示すように上部ブラケット7の下面と既設梁1の上面との間、及び下部ブラケット8の上面と既設梁1の下面との間にそれぞれの面間の間隔を保持する支圧材13を介在させている。
【0088】
支圧材13には上部ブラケット7の下面の、既設梁1の上面に対向する全面と、下部ブラケット8の上面の、既設梁1の下面に対向する全面に亘る面積を持たせることもできる。但し、その場合、上部ブラケット7と下部ブラケット8を貫通する引張材9の張力による圧縮力が支圧材13の全面に均等に作用することにならないことが想定されるため、図面では支圧材13を設置した面に圧縮力を集中的に作用させるためと、材料の節減のために、支圧材13に上部ブラケット7と下部ブラケット8の全面の内の一部の領域を占める大きさ(面積)を与えている。
【0089】
この場合、支圧材13は上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅に相当する長さを持てばよいが、図面では支圧材13に上部ブラケット7と下部ブラケット8の設置時の位置決めの手掛かりを持たせるために、図3−(b)、図4−(a)、図5−(a)に示すように上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅より大きい長さを与えている。その上で、長さ方向の一方側(既設梁1の柱側)の、上部ブラケット7側の面と下部ブラケット8側の面に、上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向の端部(幅方向の一方側に位置するブラケット構成材71、81)が係止し得る凸部14を形成、あるいは突設している。
【0090】
支圧材13には主に鋼板が使用されるが、その上部ブラケット7(下部ブラケット8)側に突設される凸部14にも鋼板が使用される場合には、凸部14は溶接等によって支圧材13に一体化させられる。図面では溶接により凸部14を支圧材13に接合する上で、溶接金属の長さを稼ぐために、図11−(b)に示すように上部ブラケット7(下部ブラケット8)の反対側を凹凸状に形成している。
【0091】
上部ブラケット7と下部ブラケット8の設置時には支圧材13に一体化している凸部14にその側の端部に位置するブラケット構成材71、81を係止させて位置決めした状態で、残りのブラケット構成材71、81を隣接させながら配列させることにより上部ブラケット7と下部ブラケット8が組み立てられる。その状態で上部ブラケット7と下部ブラケット8の幅方向両側から拘束部材72、82の連結材72c、82cが全ブラケット構成材71、81を挟持し、拘束することにより上部ブラケット7と下部ブラケット8が完成する。
【0092】
図示する例では水平面をなす既設梁1の上面上に設置される上部ブラケット7用の支圧材13の下面に、外ケーブル4に導入される張力の反力を上部ブラケット7が負担したときの既設梁1上面との間の摩擦力を増大させるために、図11−(a)及びその拡大図である(c)に示すように外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1に近い側から遠い側へ向かう傾斜が複数、繰り返して形成されている。
【0093】
「外ケーブル4の定着側端部」は上部ブラケット7に関して定着材12寄りの端部であり、「外ケーブル4の中間部側」は上部ブラケット7に関して凸部14側であり、一方の新設梁2側である。「既設梁1に近い側」とは、支圧材13の既設梁1側の面(下面)から見たときに既設梁1に近い側の意味であり、「既設梁1に近い側から遠い側へ向かう傾斜」とは、図11−(c)に示すように外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて(図中、右側から左側へかけて)、支圧材13の下面が既設梁1の上面に近い位置から遠い位置へ向かって傾斜することを言う。
【0094】
この場合、支圧材13の下面を外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて一様に傾斜する連続する面として形成し、単一の傾斜面を形成した場合には、下面全体が均等に既設梁1に接触(密着)した状態になりにくくなることが想定される。このことから、図面では支圧材13の下面を上部ブラケット7の幅方向(既設梁1の軸方向)に複数の区間に区分し、各区分された区間単位で、外ケーブル4の定着側端部から外ケーブル4の中間部側へかけて、既設梁1に近い側から遠い側へ向かって傾斜させ、この傾斜面を上部ブラケット7の幅方向に複数個、繰り返して形成している。
【0095】
図11では上部ブラケット7用の支圧材13の下面に、上部ブラケット7の幅方向に複数個の傾斜面を形成したことに伴い、支圧材13の下面が既設梁1の上面に直接、接触したときに空隙が発生する可能性があることから、支圧材13の下面と既設梁1の上面との間には空隙を埋めるための無収縮モルタル、接着剤等の充填材131が充填される。充填材131の充填により支圧材13の下面の複数個の全傾斜面が既設梁1との間で、図13−(a)に示す状況に置かれることになる。支圧材13の下面と既設梁1の上面との間に充填材131が充填される場合、既設梁1の上面には充填材131の付着面積を増すために目荒しが施される。
【0096】
下部ブラケット8の上面と既設梁1の下面との間に介在する支圧材13の既設梁1側の上面には、図12−(a)に示すように上部ブラケット7用の支圧材13の下面のような傾斜は付けられていない。前記のように既設梁1の下面は柱寄りから軸方向先端側へかけて下方から上方へ向かって傾斜していることから、支圧材13と既設梁1は図13−(b)に示す関係にあり、外ケーブル4の張力の反力を受けて支圧材13の既設梁1側の面(上面)に生ずる摩擦力が増大する状態にないため、支圧材13の上面に傾斜を付ける効果が期待できないことによる。
【0097】
下部ブラケット8用の支圧材13が重なる既設梁1の下面が上面と同様に水平面をなしているか、水平に近い面をなしている場合には、支圧材13の上面に傾斜を付けることもある。図面では下部ブラケット8用の支圧材13の上面には傾斜面が形成されていないが、既設梁1の下面との間での空隙の発生を防止するために、必要により支圧材13と既設梁1との間には充填材131が充填される。
【0098】
図示する例では外ケーブル4は前記のように定着部材10の定着材12にナット15を用いて定着されるため、外ケーブル4のナット15が螺合する部分には、図2−(b)〜(d)に示すようにねじスリーブ16が周囲から圧着されることにより一体化させられている。図2−(b)、図3−(d)に示すように外ケーブル4の中間定着装置6側(他方の新設梁3側)の端部であるねじスリーブ16が隣接する係止材11、11の荷重受け部11c、11c間を挿通した状態で、定着材12にナット15により定着されている。
【0099】
外ケーブル6の他方の新設梁3側の端部が中間定着装置6の定着材12に定着されている状態から、外ケーブル4を延長させる付加ケーブル5を接続するときには、前記の通り、図2−(c)、図3−(a)に示すように外ケーブル4の定着材12への定着状態を維持したまま、外ケーブル4の端部に付加ケーブル5の一端を接続し、付加ケーブル5の他端を他方の新設梁3の端部に固定された定着具3Bに定着させることが行われる。付加ケーブル5の一端には後述のカプラー17に接続されるためのねじスリーブ18が接続され、他端にはナット15により定着されるためのねじスリーブ18が接続されている。
【0100】
外ケーブル4の端部への付加ケーブル5の接続から付加ケーブル5の端部の定着の作業は、外ケーブル4を定着材12に定着しているナット15から付加ケーブル5側へ突出している外ケーブル4の端部にカプラー17を接続すると共に、カプラー17に付加ケーブル5の一端である外ケーブル4側の端部を接続する一方、外ケーブル4の中間定着装置6への定着状態を維持したま、付加ケーブル5を他端側(定着具3B側)から緊張して付加ケーブル5に張力を与えた状態で、付加ケーブル5の他端を他方の新設梁3の軸方向の端部の断面外に固定されている定着具3Bに定着する、という要領で行われる。
【0101】
付加ケーブル5の軸線は外ケーブル4の軸線の延長線上に位置していればよいため、付加ケーブルの他端が定着される定着具3Bの定着材3B1も新設梁3の断面外の、外ケーブル4の軸線の延長線上に位置していればよく、定着具3B自体の構成と材料は一切問われない。図2図3では定着材3B1を含め、付加ケーブル5の軸線に垂直な面をなす鋼板(プレート)と、それに直交し、定着材3B1が受ける付加ケーブル5の反力を負担し、また定着材3B1を補剛する鋼板(プレート)の、2方向の鋼板を組み立てて定着具3Bを製作しているが、定着具3Bは鉄筋コンクリート造で製作されることもある。
【0102】
上記のようにカプラー17に接続される付加ケーブル5の外ケーブル4側の端部と、定着具3B側の端部にも外ケーブル4の端部と同様にねじスリーブ18、18が一体化しており、外ケーブル4側のねじスリーブ18は軸回りの回転による螺合によりカプラー17に接続され、定着具3B側のねじスリーブ18には定着具3Bの定着板を貫通した部分にナット19が螺合することにより定着具3B(定着材3B1)に定着される。
【0103】
ここで、カプラー17を外ケーブル4のねじスリーブ16に先行して接続(螺合)しておくとすると、カプラー17に対して付加ケーブル5の全長を軸回りに回転させる必要が生じ、作業性が低下するため、カプラー17は予め付加ケーブル5のねじスリーブ18に接続(螺合)されており、付加ケーブル5の外ケーブル4への接続時にカプラー17を軸回りに回転させて外ケーブル4側へ移動させ、外ケーブル4のねじスリーブ16に螺合させることが行われる。
【0104】
カプラー17を介しての付加ケーブル5の外ケーブル4への接続後、外ケーブル4に導入されている張力が解除されないよう、外ケーブル4を中間定着装置6に定着させた状態で、外ケーブル4の張力を維持したまま、カプラー17から付加ケーブル5の定着具3B側のねじスリーブ18までの区間が緊張させられて付加ケーブル5に張力が与えられ、その定着具3B側のねじスリーブ18が定着具3Bにナット19により定着される。このとき、付加ケーブル5に与えられる張力の大きさは外ケーブル4に与えられている張力と実質的に同一である。
【0105】
付加ケーブル5の定着具3Bへの定着が完了した時点では、付加ケーブル5の張力と外ケーブル4の張力は等しく、両ケーブル4、5の張力は一方の新設梁2に固定されている定着具2Bと他方の新設梁3に固定されている定着具3Bに負担されているため、中間定着装置6はそれまで負担していた外ケーブル4の張力の負担から解放される。
【0106】
中間定着装置6が外ケーブル4の張力の負担から解放されることで、外ケーブル4が直接、定着されている定着材12の付加ケーブル5側の面に生じている圧力は実質的に0か、0に近い数値になるため、外ケーブル4の張力に影響を与えることなく、定着材12を定着材構成材12a毎に外ケーブル4と中間定着装置6から離脱させることが可能になる。
【0107】
そこで、係止材11に接合されている定着材12のボルトが外されることで、定着材12が外ケーブル4と係止材11から離脱させられる。引き続き、上部ブラケット7と下部ブラケット8に接合されている係止材11のボルトが外されることで、係止材11が外ケーブル4と上部ブラケット7及び下部ブラケット8から離脱させられる。
【0108】
更に下部ブラケット8のブラケット構成材81を束ねている拘束部材82の拘束材82a、82b間に架設されている連結材82cが拘束材82a、82bから外されることで、拘束材82a、82bが下部ブラケット8から離脱させられ、下部ブラケット8がブラケット構成材81単位で解体させられる。同様に上部ブラケット7のブラケット構成材71を束ねている拘束部材72の拘束材72a、72b間に架設されている連結材72cが拘束材72a、72bから外されることで、拘束材72a、72bが上部ブラケット7から離脱させられ、上部ブラケット7が引張材9と共にブラケット構成材71単位で解体させられる。
【0109】
上部ブラケット7及び下部ブラケット8の解体と撤去に続き、支圧材13の撤去より図2−(d)に示すように中間定着装置6は完全に撤去され、既設梁1の上面と下面及び側面からは中間定着装置6を仮固定するために使用されていた一切の部材が不在になり、外ケーブル4と付加ケーブル5を除き、既設梁1は中間定着装置6を仮固定する以前の状態に復帰する。
【0110】
既設梁1が中間定着装置6の設置前の状態に戻ることで、図1−(b)に示すように既設梁1のコンクリートを引張力(せん断力)に対して補強するための補強繊維シート20を巻き付けることが可能になる。
【0111】
他方の新設梁3の構築以前には一方の新設梁2の端部の定着具2Bと中間定着装置6との間に架設されていた外ケーブル4のみで既設梁1と一方の新設梁2に対する補強が足りていながらも、他方の新設梁3の構築に伴い、一体化した既設梁1とその両側の新設梁2、3の全体に対する補強が先行する外ケーブル4のみでは不足する場合には、図2−(d)に示すように一方の新設梁2の定着具2Bと他方の新設梁3の定着具3Bとの間に新たに外ケーブル40が架設され、両端部が各定着具2B、3Bに定着される。
【符号の説明】
【0112】
1……既設梁、1A……橋桁、
2……一方の新設梁、2A……橋桁、2B……定着具、
3……他方の新設梁、3A……橋桁、3B……定着具、3B1……定着材、
4……外ケーブル、5……付加ケーブル、40……外ケーブル、
6……中間定着装置、
7……上部ブラケット、71……ブラケット構成材、71a……ウェブプレート、71b……フランジプレート、71c……リブプレート、71d……挿通孔(引張材9用)、71e……挿通孔(連結材72c用)、
72……拘束部材、72a、72b……拘束材、72c……連結材、
8……下部ブラケット、81……ブラケット構成材、81a……ウェブプレート、81b……フランジプレート、81c……リブプレート、81d……挿通孔(引張材9用)、81e……挿通孔(連結材82c用)、
82……拘束部材、82a、82b……拘束材、82c……連結材、
9……引張材、
10……定着部材、11……係止材、11a……係止部、11b……被係止部、11c……荷重受け部、11d……接合部、11e……リブ、11f……つなぎ材、
12……定着材、12a……定着材構成材、12b……挿通孔、
13……支圧材、131……充填材、14……凸部、
15……ナット、16……ねじスリーブ(外ケーブル)、17……カプラー、
18……ねじスリーブ(付加ケーブル)、19……ナット、
20……補強繊維シート。
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