特許第5995807号(P5995807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5995807鉄道用前方監視カメラ装置および鉄道車両ならびに制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995807
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】鉄道用前方監視カメラ装置および鉄道車両ならびに制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/225 20060101AFI20160908BHJP
   B61D 37/00 20060101ALI20160908BHJP
   G03B 15/00 20060101ALI20160908BHJP
   H04N 5/222 20060101ALI20160908BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H04N5/225 C
   B61D37/00 G
   G03B15/00 P
   G03B15/00 S
   H04N5/222 B
   H04N5/232 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-181425(P2013-181425)
(22)【出願日】2013年9月2日
(65)【公開番号】特開2015-50651(P2015-50651A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長峯 望
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 正人
【審査官】 佐藤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−330425(JP,A)
【文献】 特開2000−032601(JP,A)
【文献】 特表2008−502538(JP,A)
【文献】 特開平08−172620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/225
B61D 37/00
G03B 15/00
H04N 5/222
H04N 5/232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の前方の画像を撮像する広角型カメラと望遠型カメラとを有し、前記広角型カメラの画像情報にしたがって、前記望遠型カメラの撮像方向を設定する鉄道用前方監視カメラ装置において、
前記広角型カメラの画像情報上で、鉄道の2本のレールが重なり合って見えるかまたは途切れるレール消失点を前記広角型カメラの画像情報から検出し、検出した前記レール消失点の方向を前記望遠型カメラの撮像方向に決定して前記望遠型カメラを決定した撮像方向に移動させる制御手段を有し、
前記制御手段は、現在の撮像方向から新たな撮像方向に前記望遠型カメラを移動させるときに、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離を視野制御を行う時間間隔Δtで除算した移動速度で前記望遠型カメラを移動させる制御を実行する、
ことを特徴とする鉄道用前方監視カメラ装置。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道用前方監視カメラ装置を有することを特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
鉄道車両の前方の画像を撮像する広角型カメラと望遠型カメラとを有し、前記広角型カメラの画像情報にしたがって、前記望遠型カメラの撮像方向を設定する鉄道用前方監視カメラ装置の制御方法において、
制御手段が、前記広角型カメラの画像情報上で、鉄道の2本のレールが重なり合って見えるかまたは途切れるレール消失点を前記広角型カメラの画像情報から検出し、検出した前記レール消失点の方向を前記望遠型カメラの撮像方向に決定して前記望遠型カメラを決定した撮像方向に移動させる制御ステップを有し、
前記制御ステップは、現在の撮像方向から新たな撮像方向に前記望遠型カメラを移動させるときに、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離を視野制御を行う時間間隔Δtで除算した移動速度で前記望遠型カメラを移動させる制御を実行するステップを有する、
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用前方監視カメラ装置および鉄道車両ならびに制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の最前部にカメラ装置を搭載し、列車前方の鉄道信号や標識を識別したり(たとえば特許文献1参照)、踏切の障害物等を検出することが行われている。
【0003】
また、広角型カメラと望遠型カメラを併せて設置し、広角型カメラによって得られた広い視野の中から撮像すべき箇所を探し出し、その箇所に望遠型カメラを向けて撮像するという技術もある(たとえば特許文献2参照)。このような技術を鉄道車両の前方監視に利用することもできる。
【0004】
ここで望遠型カメラは、電動式の雲台上に載置されていて、広角型カメラの画像情報に基づいて雲台が旋回して望遠型カメラの撮像方向が決定する。このとき、望遠型カメラの撮像方向を素早く移動させるために、雲台を最高速で駆動することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−215938号公報
【特許文献2】特許第5152758号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、電動式の雲台上に載置された望遠型カメラの撮像方向を素早く移動させるために、雲台を最高速で駆動することは頻繁に撮像方向が変化する状況下においては有用である。これに対し、鉄道のレールは、一般的に、可能な限り直進区間を多くし、カーブではなるべく緩いカーブとなるように敷設されている。このため、望遠型カメラの撮像方向が大きく頻繁に変化する状況は少ない。
【0007】
このような鉄道の場合、望遠型カメラの撮像方向を雲台の最高速で常に移動させることには弊害がある。たとえば、望遠型カメラが撮像すべき方向が、実際にはゆっくりと変化しているにも係わらず、望遠型カメラの挙動としては、最高速で初めに決定された撮像方向まで移動し、ここで次の撮像方向が決定されるのを待ち、次の撮像方向が決定されると再び最高速で次に決定された撮像方向まで移動する、といったことを繰り返すことになる。すなわち、ゆっくりとした撮像方向の変化に合わせて望遠型カメラの撮像方向もゆっくりと移動することが望ましいが、望遠型カメラは、高速移動と停止を繰り返しながらガクガクとした動きとなり、撮像方向を小刻みに変化させることになる。
【0008】
このような状況下において、望遠型カメラの画像情報をみると、ガクガクと高速移動と停止を繰り返しながら撮像方向を小刻みに変化させているので、被写体の画像は、ブレを生じ易い。このため、ブレを含んだ画像情報に基づいて画像解析が行われ、画像解析の精度が低下する。上述のように、画像解析の結果は、列車前方の鉄道信号や標識を識別したり、踏切の障害物等を検出するために利用されるので、画像解析の精度の低下は誤検出の原因になり好ましくない。
【0009】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、撮像方向の変化の速度に合わせて雲台の移動速度を変更することができる鉄道用前方監視カメラ装置および鉄道車両ならびに制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の観点は、鉄道用前方監視カメラ装置である。本発明は、鉄道車両の前方を撮像する広角型カメラと望遠型カメラとを有し、広角型カメラの画像情報にしたがって、望遠型カメラの撮像方向を設定する鉄道用前方監視カメラ装置において、広角型カメラの画像情報上で、鉄道の2本のレールが重なり合って見えるかまたは途切れるレール消失点を広角型カメラの画像情報から検出し、検出したレール消失点の方向を望遠型カメラの撮像方向に決定して望遠型カメラを決定した撮像方向に移動させる制御手段を有し、制御手段は、現在の撮像方向から新たな撮像方向に望遠型カメラを移動させるときに、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離を視野制御を行う時間間隔Δtで除算した移動速度で望遠型カメラを移動させる制御を実行するものである。
【0011】
本発明の第二の観点は、鉄道車両としての観点である。本発明は、本発明の鉄道用前方監視カメラ装置を有することを特徴とする鉄道車両である。
【0012】
本発明の第三の観点は、鉄道用前方監視カメラ装置の制御方法である。本発明は、鉄道車両の前方を撮像する広角型カメラと望遠型カメラとを有し、広角型カメラの画像情報にしたがって、望遠型カメラの撮像方向を設定する鉄道用前方監視カメラ装置の制御方法において、制御手段が、広角型カメラの画像情報上で、鉄道の2本のレールが重なり合って見えるかまたは途切れるレール消失点を広角型カメラの画像情報から検出し、検出したレール消失点の方向を望遠型カメラの撮像方向に決定して望遠型カメラを決定した撮像方向に移動させる制御ステップを有し、制御ステップは、現在の撮像方向から新たな撮像方向に望遠型カメラを移動させるときに、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離を視野制御を行う時間間隔Δtで除算した移動速度で望遠型カメラを移動させる制御を実行するステップを有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、撮像方向の変化の速度に合わせて雲台の移動速度を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る鉄道用前方監視カメラ装置のブロック構成図である。
図2】レール消失点を説明するための図であり、レールが直進状態であることを示す図である。
図3】レール消失点を説明するための図であり、レールが左カーブしている状態を示す図である。
図4】レール消失点を説明するための図であり、レールが右カーブしている状態を示す図である。
図5】レール消失点を説明するための図であり、レールが前方で下り勾配になっている状態を示す図である。
図6】レール消失点を説明するための図であり、レールが前方で上り勾配になっている状態を示す図である。
図7】レール消失点の変化の過程を説明するための図であり、レールが直進状態であることを示す図である。
図8】レール消失点の変化の過程を説明するための図であり、レールがやや左カーブの状態を示す図である。
図9】レール消失点の変化の過程を説明するための図であり、レールが図8よりもさらに大きく左カーブしている状態を示す図である。
図10】レール消失点の変化の過程を説明するための図であり、レールが図9よりもさらに大きく左カーブしている状態を示す図である。
図11】レール消失点の変化の過程を説明するための図であり、レールが図10よりもさらに大きく左カーブしている状態を示す図である。
図12図7図11で説明したレール消失点の変化の状態をレール消失点を抜き出して示す図である。
図13図12で示したレール消失点の変化の状態を時間軸上で示す図である。
図14図13で示したレール消失点の時間軸上の変化に伴う比較例の雲台の動作の状態を示す図である。
図15図13で示したレール消失点の時間軸上の変化に伴う本実施の形態の雲台の動作の状態を示す図である。
図16図15で示した雲台の動作の一部の状況を横軸を時刻、雲台の移動距離を縦軸にとって示す図である。
図17図1の撮像位置決定部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る鉄道用前方監視カメラ装置1(以下では、カメラ装置1と略記する。)について、図1図12を参照しながら説明する。
【0016】
カメラ装置1は、図1に示すように、鉄道車両2(以下では、車両2と略記する。)の進行方向前部に搭載され、レールRを含む車両2の前方を撮像する。カメラ装置1が取得した車両2の前方の画像情報は、車両2の安全な運行を図るために、たとえば、線路上や踏切内の障害物の発見等に利用される。
【0017】
カメラ装置1は、車両2の前方の画像を撮像する広角型カメラ3と望遠型カメラ4とを有し、広角型カメラ3の画像情報にしたがって、望遠型カメラ4の撮像方向を設定する。望遠型カメラ4は、電動式の雲台5に載置される。雲台5は、撮像位置決定部6によって駆動を制御され、撮像位置決定部6に指示された方向に移動することで、望遠型カメラ4の撮像方向を設定する。望遠型カメラ4の画像情報は、前方監視用画像処理部7に取り込まれて画像解析され、画像解析結果は、車両2の前方の監視に利用される。なお、本実施の形態では、撮像方向の移動とは、地面に対してほぼ平行な面上で旋回することである。
【0018】
撮像位置決定部6は、広角型カメラ3の画像情報上で、鉄道の2本のレールRが重なり合って見えるかまたは途切れるレール消失点を広角型カメラ3の画像情報から検出し、検出したレール消失点の方向が望遠型カメラ4の撮像方向となるように雲台5を駆動する。
【0019】
さらに、撮像位置決定部6は、現在の撮像方向から新たな撮像方向に望遠型カメラ4を移動させるときに、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離を視野制御を行う時間間隔Δtで除算した移動速度で望遠型カメラ4を移動させる制御を実行する。また、本実施の形態では、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動は、雲台5の旋回によって行う。このため、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離は、雲台5のたとえば外周の1点が雲台5の旋回によって外周の円弧上を動いた距離になる。
【0020】
ここで、レール消失点について、図2図6を参照しながら詳細に説明する。図2は、真っ直ぐなレールR1,R2におけるレール消失点D1の例である。真っ直ぐなレールR1,R2の場合には、遠方で2本のレールR1,R2が分解能の限界を超えて画像情報上で重なり合って見える点がレール消失点D1になる。
【0021】
図3は、左にカーブしているレールR3,R4におけるレール消失点D2の例である。左にカーブしているレールR3,R4では、レールR3,R4が画像情報上で重なり合って見える点がレール消失点D2になる。
【0022】
図4は、右にカーブしているレールR5,R6におけるレール消失点D3の例である。右にカーブしているレールR5,R6では、レールR5,R6が画像情報上で重なり合って見える点がレール消失点D3になる。
【0023】
図5は、前方で下り勾配になっているレールR7,R8におけるレール消失点D4の例である。前方で下り勾配になっているレールR7,R8では、2本のレールR7,R8が画像情報上で分解能の限界を超えて重なり合って見える以前に、レールR7,R8が共に画像情報上で途切れる。このような場合には、レールR7,R8が画像情報上で途切れたときのレールR7とレールR8との間の最遠方の中間点付近をレール消失点D4とする。
【0024】
図6は、前方で上り勾配になっているレールR9,R10におけるレール消失点D5の例である。前方で上り勾配になっているレールR9,R10では、2本のレールR9,R10が画像情報上で分解能の限界を超えて重なり合って見える以前に、レールR9,R10が共に上り勾配の頂点に達する。このような場合には、レールR9,R10が上り勾配の頂点に達したときのレールR9とレールR10との間の中間点付近をレール消失点D5とする。
【0025】
次に、レール消失点の位置の変化を図7図11を参照しながら説明する。図7図11は、鉄道のレールRが直進状態から左方にカーブするまでの一連のレール消失点D10〜D14の変化の様子を一例として示している。
【0026】
図7は、レールRは、真っ直ぐの状態であり、レール消失点D10は、ほぼ水平方向の中央部で垂直方向の上部に位置する。図8は、レールRは、やや左に曲がり始めており、レール消失点D11は、レール消失点D10に比べると、水平方向の中央部からはやや左寄りで垂直方向の上部に位置する。図9は、レールRは、図8の状態よりもさらに左に曲がっており、レール消失点D12は、レール消失点D11に比べると、水平方向の中央部よりもさらに左寄りで垂直方向のやや上部に位置する。図10は、レールRは、図9の状態よりもさらに左に曲がっており、レール消失点D13は、レール消失点D12に比べると、水平方向の左寄りで垂直方向のやや上部に位置する。図11は、レールRは、図10の状態よりもさらに左に曲がっており、レール消失点D14は、レール消失点D13に比べると、水平方向の左寄りで垂直方向のやや下部に位置する。このような図7図11のレール消失点D10〜D14を同じ空間軸上にプロットすると図12に示すようになる。
【0027】
図7に示すように、レールRが真っ直ぐな状態であるときには、レール消失点D10は、ほとんど動くことなく一点に留まっている。やがて、図8に示すように、左カーブに差し掛かると、新たなレール消失点D11が検出され、望遠型カメラ4の新たな撮像方向が決定される。さらに、図9図11に示すように、左カーブの中では、次々に新たなレール消失点D12〜D14が検出され、次々に望遠型カメラ4の新たな撮像方向が決定される。
【0028】
このようなレール消失点D10〜D14の変化の様子を時間軸上でみると、図13に示すようになる。すなわち、左カーブに差し掛かったときは、レールの曲率は緩く、レール消失点D10からレール消失点D11に切り替わる時間t1は、比較的長い。やがて左カーブに突入すると、レール消失点D11からレール消失点D12に切り替わる時間t2は、時間t1よりも短くなる。続いて、レール消失点D12からレール消失点D13に切り替わる時間t3は、時間t2よりも短くなる。さらに、レール消失点D13からレール消失点D14に切り替わる時間t4は、時間t3よりも短くなる。
【0029】
ここで、比較例として、従来のように、雲台5を最高速で移動(旋回)させた場合の雲台5の状態を図14に示す。図14に示すように、雲台5を一定の最高速度で移動させると、最高速度に対応したほぼ一定の時間tmで移動が完了し、次にレール消失点Dが変化するまで停止状態になる。これにより、図14に示すように、雲台5の高速移動と停止が繰り返されることがわかる。このとき、雲台5は最高速度から急停止するので、雲台5を駆動するギア(不図示)のバックラッシュ等により、望遠型カメラ4は、左右に振動する状態となり、望遠型カメラ4の画像情報はブレを多く含んだ不鮮明なものになる。
【0030】
次に、本実施の形態の撮像位置決定部6によって駆動制御される雲台5の状態を図15に示す。図15に示すように、雲台5は、レール消失点D10〜D14の移動距離に応じて速度を変化させて移動時間をtm1〜tm4と変更しながら移動する。さらに望ましくは、停止時間はなくなることがよい。なお、出願人が行った検証結果によれば、図15に示す停止時間は、ほぼ無くすことができた。
【0031】
図16は、レール消失点D10を出発点として、移動時間tmで距離|x2−x1|を移動した場合の移動速度(一点鎖線)と、移動時間tm1で同じ距離|x2−x1|を移動した場合の移動速度(実線)の違いをそれぞれのグラフの傾きで比較している。移動時間tm1であれば、グラフの傾きは緩く、時間Δtでほぼレール消失点D11に達することがわかる。これによれば、移動時間tmで高速に移動した場合と比べ、移動時間tm1で雲台5はゆっくりと移動(旋回)するので、望遠型カメラ4の画像情報にブレはほとんど含まれない。したがって、前方監視用画像処理部7は、ブレのない精度の高い画像情報に基づき画像処理を行うことができ、誤検出を無くすことができる。
【0032】
次に、撮像位置決定装置6の動作を図17のフローチャートを参照しながら説明する。図17のフローチャートの「START」の条件は、カメラ装置1が稼動状態であり、既にレール消失点が検出されて決定され、望遠型カメラ4の撮像方向がそのレール消失点に向いているという条件である。なお、図17のフローチャートの「START」から「END」までの処理は、1周期分の処理である。したがって、1周期分の処理が終了(END)したときに、「START」の条件が満たされていれば処理は再び実行される。
【0033】
ステップS1において、撮像位置決定部6は、新たなレール消失点が検出されたか否かを判定する。なお、新たなレール消失点とは、既に検出されているレール消失点とは位置の異なるレール消失点である。ステップS1において、新たなレール消失点が検出されたと判定されると、フローは、ステップS2に進む。一方、ステップS1において、新たなレール消失点が検出されないと判定されると、ステップS1の処理が繰り返される。
【0034】
ステップS2において、撮像位置決定部6は、新たに検出されたレール消失点を望遠カメラ4の新たな撮像方向として決定し、処理は、ステップS3に進む。
【0035】
ステップS3において、撮像位置決定部6は、新たなレール消失点が検出されるまでの時間Δtを計算する。この例では、1時刻前のレール消失点検出時刻と現時刻でのレール消失点検出時刻とを元に、時間Δtとして計算される。
【0036】
次に、ステップS4において、撮像位置決定部6は、「START」時点での撮像方向(x1)からステップS2で決定された新たな撮像方向(x2)までの望遠型カメラ4(すなわち雲台5)の移動距離|x2−x1|を計算し、フローは、ステップS5に進む。
【0037】
ステップS5において、撮影位置決定部6は、望遠型カメラ4(すなわち雲台5)の移動速度として、
|x2−x1|/Δt
を計算し、フローは、ステップS6に進む。
【0038】
ステップS6において、撮影位置決定部6は、望遠型カメラ4が新たな撮像方向に向くように、雲台5に移動先と移動速度を指示して1周期分の処理を終了する(END)。
【0039】
このように、撮影位置決定部6は、現在の撮像方向から新たな撮像方向に望遠型カメラ4を移動させるときに、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離を視野制御を行う時間間隔Δtで除算した移動速度で望遠型カメラ4を移動させる。これにより、撮像方向の変化率に合わせて雲台5の移動速度を変更することができる。したがって、望遠型カメラ4の画像情報にはブレが少なく良好な精度の高い画像解析を実施することができる。上述したように、画像解析結果は、前方監視用画像処理部7による車両2の前方の監視に利用されるので、精度の高い画像解析結果により、車両2の前方の監視の際の誤検出を無くすことができる。
【0040】
なお、視野制御を行う時間間隔は、2つの要因により決定される。その1つは、撮像位置決定部6などの情報処理装置の処理能力により決定される処理時間であり、この処理時間はほぼ一定である。もう1つは、撮像する前方の状況によって決定される処理時間であり、この処理時間は一定ではない。
【0041】
ここで、後者の処理時間について、さらに詳細に説明する。たとえば、広角型カメラ3の視野に、雑草や線路脇に置いてある構造物等が写り込み、レール消失点が視認し難いような場合、あるいはレール消失点付近の線路に太陽光等が反射して正常な撮像が妨げられるような場合には、レール消失点の検出に時間を要する場合がある。このような場合には、新たなレール消失点を検出してから次の画像を読み込み、処理する時間は、比較的長くなる。この場合、現在の撮像方向から新たな撮像方向への移動距離を視野制御を行う時間間隔Δtで除算すると、移動速度は比較的速くなる。
【0042】
このように、レール消失点の検出に時間を要する状況下では、望遠型カメラ4の撮像についても的確に撮像を行うことが難しい状況である場合が多い。よって、上述のように、処理時間が長くなると雲台5の移動速度もゆっくりとなるので、望遠型カメラ4が視認性の良い撮像を的確に行うためにも有用である。
【0043】
また、撮像位置決定部6は、情報処理装置が予めインストールされている所定のプログラムを実行することによって実現することができる。このような情報処理装置は、たとえば、メモリ、CPU(Central Processing Unit)、入出力ポートなどを有する。情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、情報処理装置には、撮像位置決定部6の機能が実現される。なお、CPUの代わりにASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などを用いてもよい。また、前方監視用画像処理部7の機能についても同様である。
【0044】
また、上述の所定のプログラムは、カメラ装置1の出荷前に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、カメラ装置1の出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、プログラムの一部が、カメラ装置1の出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。カメラ装置1の出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されるプログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0045】
また、上述の所定のプログラムは、情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0046】
このように、情報処理装置とプログラムによってカメラ装置1を実現することにより、大量生産や仕様変更(または設計変更)に対して柔軟に対応可能となる。
【0047】
なお、情報処理装置が実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0048】
上述の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限りにおいて、様々に変更が可能である。たとえば、上述の実施の形態では、雲台5は、左右方向への旋回のみの動作であるが上下方向への動作も併せて行うようにしてもよい。これによれば、望遠型カメラ4は、撮像方向を上下左右に動かすことができる。さらに、望遠型カメラ4は、ズーム機構を有してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…鉄道用前方監視カメラ装置、2…鉄道車両、3…広角型カメラ、4…望遠型カメラ、5…雲台、6…撮像位置決定部(制御手段)、D1〜D5,D10〜D14…レール消失点、R,R1〜10…レール
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