(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車車体の下部構造部、即ち、床裏部、ホイルハウス(タイヤハウス)部、ロッカパネル、サイドシル部、フロントエプロン部、フロント・リアフェンダー部、ドアの下部等においては、自動車走行時にタイヤが撥ね上げる小石や砂利等の衝突により塗膜が剥がされるというチッピング現象が発生する。このため、従来から、チッピング現象の防止を図るべく、塗装工程で自動車用鋼板の表面に、塩化ビニル系樹脂のプラスチゾルを使用したアンダーコートを塗布後、乾燥して、車体保護用のコーティング膜を形成してきた。
【0003】
一方で、この塩化ビニル系樹脂のプラスチゾル塗料が塗布されてコーティング膜が形成される自動車車体の下部構造部等には、路面から撥ね上げられた小石や砂利等が車体の下部構造部等に当たることによって生じる衝突音・石撥ね音、所謂、スプラッシュノイズも発生する。したがって、自動車の床裏部、ホイルハウス部、ロッカパネル等の車体の下部構造部等に施工されるコーティング材としてのアンダーコートには、耐チッピング性に加え、スプラッシュノイズを低減させる防音機能も必要とされる。
しかし、従来の塩化ビニル系樹脂のプラスチゾル塗料は、通常、耐チッピング性を重視していることから、強靭で硬い塗膜を形成するものであり、このような強靭で硬い塗膜であっては、チッピング現象に対して有効であるが、小石や砂利等が衝突したときに発生するスプラッシュノイズを効果的に低減することができなかった。
【0004】
そこで、スプラッシュノイズを効果的に低減する方策として、例えば、特許文献1に示されるように、耐チッピング用のプラスチゾル塗料にアゾジカルボンアミド(ADCA)等の熱により化学反応を起こして気体を発生する化学発泡剤(分解形発泡剤)を配合することによって、形成する塗膜を厚くして防音性を高めることが知られている。
しかしながら、このような化学発泡剤を用いる方法は、ラインの昇温条件、塗装箇所、塗布量等に左右されて均一発泡性に劣り、また、独立気泡になり難くて大形の連続気泡が多発しやすく、更に、塗膜表面には気泡(セル)が複数つながって膨れ(セル荒れ)が生じやすく、気泡の制御が難しいことから、防音性や耐チッピング性等の特性を安定して得るのが容易でなかった。
【0005】
ここで、このようにアンダーコートにおいて耐チッピング性及び防音性に優れることが要求されるのに加え、近年、自動車の高性能化や高級化が進み、更には、地球温暖化の抑制と地球環境の保護等の環境側面から自動車の燃費の向上を主目的とした自動車の低燃費化が加速しているのに伴い、車両の軽量化が求められている。このため、それに使用されるアンダーコートについても、低比重化のニーズが高まっている。即ち、自動車用のアンダーコートは、車両の大きさにもよるが、通常、1台当たり2kg〜5kg使用されており、このアンダーコートについて低比重化できれば、自動車の燃費向上に貢献できる。
【0006】
低比重化する方法に関しては、例えば、特許文献2や特許文献3に示されるように、プラスチックまたは無機質の中空体を耐チッピング用プラスチゾル塗料に配合することが開示されている。また、特許文献4においては、未膨張マイクロカプセルをアンダーコート剤に配合することによって、焼付け時に未膨張マイクロカプセルが膨張し塗膜の密度が低下することで、軽量化に寄与することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、プラスチックまたは無機質の中空体を配合することで軽量化が可能であるものの、これらの配合によっては近年厳しくなった防音性の確保が難しい。
一方、未膨張マイクロカプセルにあっては、焼付け時に膨張することで厚膜を確保できるものの、プラスチックまたは無機質の中空体と比較すると、その軽量効果が小さく、所望とする低比重の塗膜を得るためには多量の未膨張マイクロカプセルを配合する必要があり、かかる場合、多量の膨張したマイクロカプセルのバルーン膜によりクッション性が低下し、耐チッピング性を低下させることになる。
【0009】
そこで、本発明は、防音性が高く、かつ、低比重でありながら耐チッピング性が良好で、防音性や耐チッピング性等の特性が安定して得られる塗膜を形成できる塩化ビニルプラスチゾル組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を主材とし、熱膨張性マイクロカプセル及び
中位径が10μm〜50μmの範囲内であり、真比重が0.1〜0.5の範囲内である中空フィラーを含有
し、前記熱膨張性マイクロカプセルの配合量が、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2重量部〜12重量部の範囲内、より好ましくは、5重量部〜10重量部の範囲内であり、前記塩化ビニルプラスチゾル組成物は、前記中空フィラーの配合量が、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して10重量部〜50重量部の範囲内、より好ましくは、15重量部〜30重量部の範囲内であるものである。
ここで、上記熱膨張性マイクロカプセルは、内部(コア)に気化物質を包含したシェル(殻)構造を有するカプセル状のものであり、所定の温度域になるとシェルが軟化し、シェル内部に包含された気化物質が気体に変化し、そのシェル内の気体の圧力(膨張力・蒸気圧)の増加によってシェルが膨張して容積が増大し、中空状のマイクロバルーンとなるものである。例えば、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、アクリルニトリル−塩化ビニリデン共重合体、アクリルニトリル−メタクリル酸メチル共重合体等の熱可塑性樹脂(シェル)によって低沸点炭化水素等の低沸点の有機溶剤(コア)を包み込んだものを使用することができる。
また、上記中空フィラーは、焼付け時の熱によっても溶融したり膨張したりすることなく所定の中空度が維持される中空状のバルーン(中空体)であり、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、炭素無機中空体等の無機中空状フィラーや、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、ポリビニリデンクロライド、またはこれらの共重合体等の有機合成樹脂からなるプラスチック中空体等の有機中空状フィラーが使用される。
【0011】
なお、JIS Z 8901「試験用粉体及び試験用粒子」の本文及び解説の用語の定義によれば、「中位径」とは、粉体の粒径分布において、ある粒子径より大きい個数(または質量)が、全粉体のそれの50%を占めるときの粒子径(直径)、即ち、オーバサイズ50%の粒径であり、通常、メディアン径または50%粒子径といいD50と表わされる。定義的には、平均粒子径と中位径で粒子群のサイズを表現されるが、ここでは、商品説明の表示、レーザ回折・散乱法によって測定した中位径の値である。そして、この「レーザ回折・散乱法によって測定した中位径」とは、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いてレーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布において積算重量部が50%となる粒子径(D50)をいう。なお、上記粒子径の数値は、厳格ものでなく概ねの値であり、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。この誤差を鑑みれば、中心(50%径)に対して粒度分布が左右対称に近い場合、平均粒子径≒中位径と見做すこともできる。
【0012】
請求項2の発明の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が70℃〜130℃の範囲内、より好ましくは、80℃〜120℃の範囲内であるものである。
なお、上記膨張開始温度は、熱膨張性マイクロカプセルを加熱していった際に、殻(シェル)を構成する熱可塑性樹脂等の軟化が開始すると同時に、内包されている炭化水素等の気化物質がガス化を始めることで内圧が上がり、マイクロカプセルが膨張を開始する温度のことであ
る。
【0013】
請求項3の発明の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、前記塩化ビニル系樹脂が組成物中に15重量%〜50重量%の範囲内で含有するものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係る塩化ビニルプラスチゾル組成物は、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを含有するものである。
ここで、熱膨張性マイクロカプセルを含有することから、焼付け時の加熱により熱膨張性マイクロカプセルは、内部の気化物質が気化されその圧力でシェルが膨張して中空状のマイクロバルーンとなり、この膨張した中空状のマイクロバルーンによって、所定部位に塗布した組成物のコーティング層は膨張し厚膜化される。よって、塗布量を増大させることなく防音性が高い塗膜を形成できる。
このとき、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用して厚膜化された塗膜は比重が小さく厚膜化による塗膜重量の増大は抑制されており、更に中空フィラーを配合したことで、極めて比重が小さく軽量である塗膜を形成できる。
また、本発明のように内部の気化物質を気化させその圧力でシェルを膨張させる熱膨張性マイクロカプセルの加熱による体積膨張を利用して中空状のマイクロバルーンを形成しコーティング層(塗膜)の厚膜化を行う場合は、化学発泡剤の分解によるガス発生によって気泡を形成し厚膜化を行う場合と比較して、気泡である中空状のマイクロバルーンの形成が加熱硬化条件、塗装箇所、塗布量等の塗装条件や加熱硬化時の粘度等に影響され難く、そして、中空状のマイクロバルーンが均一で小さな独立気泡となりやすいことから、耐チッピング性の低下を抑制しやすく安定した防音性が確保できる。
このように、組成物において熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを含有することで、形成された塗膜は軽量でありながら良好な防音性と耐チッピング性を確保できる。
【0015】
前記中空フィラーは、中位径が10μm〜50μmの範囲内であり、真比重が0.1〜0.5の範囲内である。前記中空フィラーの中位径が該範囲内であれば、所望の耐圧強度を有してスプレー塗装等によっても破壊され難く、かつ、塗膜強度等の特性を確保できる。また、前記中空フィラーの真比重が該範囲内であれば、取扱性や作業性が良好で、かつ、少ない配合量でも所望の高い軽量効果を確保できる。よって、塗膜強度等の物性を確保しつつ、安定した比重低減効果を確保できる。
【0016】
前記熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2重量部〜12重量部の範囲内であり、該範囲内であれば、熱膨張性マイクロカプセルの膨張による塗膜の厚膜化効果(塗膜の膨張率)が高くて十分な防音性を得ることができ、かつ、耐チッピング性も良好となる。即ち、自動車用アンダーコートとして要求される防音性及び耐チッピング性が十分に確保された塗膜を形成することができる。
【0017】
前記中空フィラーの配合量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して10重量部〜50重量部の範囲内であり、該範囲内であれば、形成される塗膜において、良好な耐チッピング性を確保しつつ、比重低減効果が高いものとなる。
【0018】
こうして
、この発明の塩化ビニルプラスチゾル組成物によれば、防音性が高く、かつ、低比重でありながら耐チッピング性が良好で、更に、防音性や耐チッピング性等の特性が安定して得られる塗膜を形成できる。そして、塗膜の低比重化によって車両の軽量化を図ることができることから、自動車等の燃料の向上にも貢献できる。
【0019】
請求項2の発明に係る塩化ビニルプラスチゾル組成物によれば、前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が70℃〜130℃の範囲内であることから、熱膨張性マイクロカプセルの最大膨張温度は110℃〜210℃程度となり、現行の自動車塗装ラインで採用されている焼付け時の加熱温度(通常、120℃〜160℃)の範囲内において、熱膨張性マイクロカプセルは、そのシェル(外殻)が破裂することなく、膨張率が高い中空状のマイクロバルーンとなる。故に、請求項1に記載の効果に加えて、現行の自動車塗装ラインに好適に用いることができ、熱膨張性マイクロカプセルによるコーティング層(塗膜)の厚膜化効率が高く、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が少なくとも所望の耐チッピング性を確保し、防音性の向上を図ることができ
る。
【0020】
請求項3の発明に係る塩化ビニルプラスチゾル組成物によれば、前記塩化ビニル系樹脂は、組成物中に15重量%〜50重量%の範囲内で含有するものであり、該範囲内であれば、請求項1
または請求項2に記載の効果に加えて、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーが添加されても自動車用のアンダーコートに要求される耐ピッチング性が十分に確保された塗膜を形成でき、かつ、組成物の貯蔵安定性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
なお、実施の形態において、表1及び表2の同一欄に記載の数値は、数量の大きさを示すものであり、基本的に材料に違いはないので、ここでは重複する説明を省略する。
【0022】
本発明の実施の形態に係る塩化ビニルプラスチゾル組成物は、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を主材とし、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを必須の添加剤として含有するものである。
【0023】
塩化ビニル系樹脂(PVC)としては、塩化ビニルや塩化ビニリデンの単独重合体、または、共重合体、即ち、塩化ビニルや塩化ビニリデンと他のビニル系単量体との共重合体が用いられる。
この塩化ビニルや塩化ビニリデンと共重合させるビニル系単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、ジエチルマレエート等のマレイン酸エステル類、ジブチルフマレート等のフマル酸エステル類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステル類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−ジヒドロキシエチルメタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルアミド類、アクリロニトリル等が挙げられ、これらは一般に40重量%以下、好ましくは30重量%以下の割合で塩化ビニルと共重合させることができる。これらの中でも、塩化ビニルや塩化ビニリデンと共重合させる単量体としては、可塑剤に対する膨潤ゲル化性や金属表面への高密着性の観点から、酢酸ビニルが好適であり、更に、この共重合させる酢酸ビニルの割合は、貯蔵安定性、耐水性、耐薬品性等の観点から10重量%以下とするのが好ましい。塩化ビニルは−CH
2ROH基をもつ架橋性コポリマーとすることもできる。
そして、このような塩化ビニル系樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0024】
なお、塩化ビニル系樹脂は、高い貯蔵安定性、良好な耐チッピング性、強靭な塗膜性を得る観点から、平均重合度が500〜2500の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは、850〜2000の範囲内であり、更に好ましくは、1000〜1900の範囲内である。また、塩化ビニル系樹脂の粒子径は、通常、0.1μm〜100μmの範囲内であり、好ましくは、1μm〜50μmの範囲内、より好ましくは、1μm〜40μmの範囲内である。
【0025】
そして、この塩化ビニル系樹脂は、組成物中に15重量%〜50重量%の範囲内で含有するのが好ましい。塩化ビニル系樹脂の含有量が低すぎる場合、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを添加することによる耐チッピング性の低下を補うことができず、自動車用のアンダーコートに要求される耐ピッチング性を十分に確保できない。一方で、含有量が多すぎる場合には、組成物の貯蔵安定性が低下したり、組成物の液粘性が過大となってスプレー塗装の場合において使用される材料圧送装置からの吐出性が悪くなり塗布作業性が低下したりする。組成物中に塩化ビニル系樹脂が15重量%〜50重量%の範囲内で含有することで、組成物の良好な貯蔵安定性を確保でき、かつ、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーが添加されても自動車用のアンダーコートに要求される耐ピッチング性が十分に確保された塗膜を形成できる。
【0026】
塩化ビニル系樹脂を可塑化するための可塑剤としては、基本的には、この種のプラスチゾル組成物を形成するために一般に使用されている任意のものを使用することができる。このような可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘキシルフタレート(DHP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ−n−オクチルフタレート(DnOP)、ジイソオクチルフタレート(DIOP)、ジデシルフタレート(DDP)、ジノニルフタレート(DNP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ビス−2−エチルヘキシルフタレート(DEHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、C
6〜C
10混合高級アルコールフタレート、ブチルベンジルフタレート(BBP)、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート、ジメチルシクロヘキシルフタレート(DMCHP)等のフタル酸エステル系や、ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルセバケート(DOS)等の直鎖二塩基酸エステル類や、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリオクチルホスフェート(TOF)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、モノオクチルジフェニルホスフェート、モノブチル−ジキシレニルホスフェート(B−Z−X)等のリン酸エステル系や、トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM)、トリ−n−オクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等の安息香酸エステル系や、ブチルフタルブチルグリコレート(BPBG)、トリブチル・クエン酸エステル、トリオクチル・アセチルクエン酸エステル、トリメット酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステルC
6〜C
10脂肪酸のトリ又はテトラエチレングリコールエステル、アルキルスルホン酸エステル、メチルアセチルリシノレート等のエステル類や、大豆油等の不飽和脂肪酸グリセライドの二重結合を過酸化水素や過酢酸でエポキシ化したもの(ESBO)、ブチルまたはオクチルのアルキルオレイン酸エステル等のエポキシ化合物等のエポキシ化植物油、アジピン酸のような二塩基酸のプロピレングリコールエステル単位を直鎖状に連結した平均分子量500〜8000程度の粘稠な低重合度ポリエステル系(例えば、アジピン酸ポリエステル、フタル酸系ポリエステル)等が挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。中でも、フタル酸エステルは最も一般的な可塑剤で入手も容易であるため低コスト化でき、更に塩化ビニル系樹脂をより一層均一に分散して安定な塩化ビニルプラスチゾルを形成することができる。特に、環境負荷とならない点、取り扱い易さ、溶解性、塗装性、貯蔵安定性等を考えると、フタル酸エステルの中でもフタル酸ジイソノニル(DINP)やジオクチルフタレート(DOP)が最も一般的に使用される。
【0027】
このような可塑剤は、小石や砂利の石撥ね等による衝撃を低減するために硬化後の塗膜を軟質にし、かつ、塗膜中の熱膨張性カプセルを十分に膨張させるために、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、40重量部〜400重量の範囲内で配合するのが好ましい。可塑剤の配合量が少なすぎると、塩化ビニル系樹脂の柔軟性が低下して、防音性や耐チッピング性を十分に発揮できない。また、組成物の貯蔵安定性が低下したり、スプレー塗装の場合においては塗布作業時の吐出性が悪くなり塗布作業性が低下したりする恐れがある。一方で、配合量が多すぎると、塗料の粘性が低下してスプレー塗装の場合においては塗料流れ(タレ落ち)が生じる可能性がある。なお、より好ましい可塑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して45重量部〜300重量部の範囲内である。
【0028】
熱膨張性マイクロカプセル(マイクロバルーンとも呼ばれる)は、焼付け時等の加熱によってシェル(殻)が軟化すると共に、シェル中の気化物質が気体に変化してその圧力(蒸気圧)でシェルが膨張する材料から形成され、熱によって膨張が制御できるものであればよい。即ち、熱膨張性マイクロカプセルのシェルは所定の温度によって軟化するものであればよく、例えば、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、アクリルニトリル−塩化ビニリデン共重合体、アクリルニトリル−メタクリル酸メチル共重合体等の熱可塑性樹脂等の高分子化合物で形成される。また、シェル内部(コア)に包含する気化物質はシェルの軟化温度で気化するものであれば良く、例えば、イソブタン等の低沸点炭化水素等の低沸点の有機溶剤が使用される。なお、熱膨張性マイクロカプセルは、1種に限らず2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0029】
この熱膨張性マイクロカプセルは、その中位径が5μm〜50μmの範囲内であるものが好ましい。即ち、十分な膨張が得られて防音機能を発揮する所望の厚みを確保するには、5μm以上が好ましく、より好ましくは10μm以上である。また、良好な耐チッピング性を確保するためには、50μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下である。中位径が5μm〜50μmの範囲内のものにあっては、膨張によって最大時には50〜100倍程度に体積膨張するため、十分な膨張が得られて安定した防音性が発揮され、かつ、良好な耐チッピング性が確保される。
【0030】
また、この熱膨張性マイクロカプセルは、その膨張開始温度が70℃〜130℃の範囲内であることが好ましい。70℃〜130℃の範囲内の比較的低温で膨張するものであれば、一般的に、最大膨張温度は110℃〜210℃程度となり、現行の自動車塗装ラインで採用されている焼付け時の熱処理温度が比較的低温(通常、120℃〜160℃の範囲内)であることから、熱膨張性マイクロカプセルは、焼付け時の熱処理によってそのシェル(外殻)が破裂することなく大きく膨張した膨張率の高い中空状のマイクロバルーンとなる。即ち、現行の自動車塗装ラインにて好適に用いることができ、所望の厚みを有した厚膜が効率的に形成されて、少ない配合量で耐チッピング性を確保したうえで塗膜の防音性の向上を図ることができる。即ち、膨張開始温度が70℃〜130℃の範囲内であり、かつ、最大膨張温度が110℃〜160℃の範囲内である熱膨張性マイクロカプセルを使用することによって、焼付け時等の熱処理温度において熱膨張性マイクロカプセルが収縮する前の最大の膨張率とすることができ、より少ない配合量で所望の厚みの厚膜を効率よく得ることができ、耐チッピング性と防音性の両特性を兼ね備えた塗膜とすることができるのである。
【0031】
更に、熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2重量部〜12重量部の範囲内とするのが好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が少なすぎると、熱膨張性マイクロカプセルの膨張による塗膜の厚膜化効果(塗膜の膨張率)が少なくて、十分な防音性を得ることができない。一方で、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が多すぎると、耐チッピング性が低下する。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2重量部〜12重量部の範囲内であれば、自動車用アンダーコートとして要求される防音性及び耐チッピング性を十分に確保できる。 なお、より好ましい熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して5重量部〜10重量部の範囲内である。
【0032】
中空フィラーとしては、焼付け等の熱によっても溶融したり膨張したりすることなく所定の中空度が維持される中空状のバルーンであればよく、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、炭素無機中空体等の無機中空状フィラーや、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、ポリビニリデンクロライド、またはこれらの共重合体等の有機合成樹脂からなるプラスチック中空体等の有機中空状フィラーが使用される。なお、これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて使用することが可能である。
【0033】
この中空フィラーは、その中位径が10μm〜50μmの範囲内であるものが好ましい。即ち、少ない配合量でも所望の高い軽量効果を確保し、また、所望の耐圧強度を有してスプレー塗装でも破壊されることなく、適度な流動特性で良好な塗布作業性を確保するためには10μm以上が好ましい。一方で、乾燥後の塗膜強度等の特性を確保し、また、スプレー塗装の場合において目詰まりを生じさせることなく均一なスプレーパターンを形成して塗布作業性を良好とするためには、50μm以下が好ましい。
【0034】
更に、この中空フィラーは、その真比重が0.1〜0.5の範囲内であるものが好ましい。即ち、取扱性や作業性の観点から0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上である。一方で、配合量が少なくても所望の高い軽量効果を確保する観点から0.5以下が好ましく、より好ましくは、0.4以下である。
【0035】
中空フィラーの配合量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して10重量部〜50重量部の範囲内とするのが好ましい。中空フィラーの配合量が少なすぎる場合、比重低減効果が小さく、所望とする低比重を確保できない。一方で、配合量が多すぎる場合、耐チッピング性が低下する。中空フィラーの配合量が塩化ビニル系樹脂100重量部に対して10重量部〜50重量部の範囲内であれば、良好な耐チッピング性を確保しつつ、比重低減効果が高いものとなり塗膜重量を極めて小さくできる。なお、より好ましい中空フィラーの配合量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し15重量部〜30重量部の範囲内である。
【0036】
そして、このような主材としての塩化ビニル系樹脂及び可塑剤に、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを配合する本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物においては、必要によりその他、充填剤、接着性付与剤、水分吸収剤、溶剤等を適宜配合することが可能である。
【0037】
ここで、充填剤は、プラスチゾル組成物の増量化を図ったり、プラスチゾル組成物の粘性、流動特性、チキソ性、分散性等を調節して、塗布作業性、塗布性、貯蔵安定性を改善させたり、乾燥後の塗膜強度、塗膜外観を向上させたりするために使用できる。このような充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩及び硫酸塩、マイカ、シリカ、タルク、珪藻土、カオリン、クレイ、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、ゼオライト、カルシウムメタシリケート、ゾノライト、チタン酸カリ、ロックウール、ガラスファイバー、カーボンファイバー、アルミニウムシリケート、アラミドファイバー等が挙げられ、これらは、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。因みに、シリカや炭酸カルシウムの中でも、無機質の微粒子からなる微粒子シリカや超微粒子炭酸カルシウム(コロイダル炭酸カルシウム)は、タレ止め剤としても機能して組成物のチキソ性を向上し、低剪断速度下での粘度を高め、塗膜の耐タレ性をより向上させることができる。
なお、このような充填剤は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、一般に、200重量部以下の割合で配合することができる。配合量が多すぎると、粘度が高くなり過ぎて均一に塗布することが困難となったり、耐チッピング性等の塗膜特性が低下したりする恐れがあるからである。
【0038】
また、接着性付与剤は、電着塗装面等のコーティング部位との接着性(密着性、付着性)を向上させるために用いることができ、このような接着性付与剤としては、例えば、プラスチゾル組成物が一般に電着塗装による下塗り塗装後に施されることから、特にカチオン型電着塗装面に対して優れた接着性を発現するブロックイソシアネート(例えば、キシレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、メチルキシレンジイソシアネート等)や、ポリアミド、ポリアミン、ポリオール等のアミド化合物等が使用できる。
【0039】
更に、水分吸収剤は、プラスチゾル組成物に吸湿された水分を捕獲して、水分による塗膜の膨れを防止する耐吸湿発泡性の向上のために使用でき、このような水分吸収剤としては、例えば、水和反応により水と結合する性質を有する酸化カルシムや酸化マグネシウム等が好適である。
【0040】
また、溶剤は、塗布作業性を改善したり、塗装後の塗膜のレベリング性を高めてその外観性を向上させたりする減粘剤等として用いることができ、このような溶剤としては、例えば、ナフサ、テレピン油、パラフィン、ミネラルスピリット等の石油系溶剤や、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素系溶剤や、アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤の比較的高沸点の有機溶剤等を使用できる。
【0041】
このような配合材料からなる本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、プラネタリーミキサー、グレンミル、ニーダー等の混合分散機を用いて材料を均一に混合分散して調製したのち、従来公知の塗装方法、即ち、エアレススプレー塗装、エアスプレー塗装、刷毛塗り、ローラー塗装、静電塗装等により、所定のコーティング部位へ塗装することが可能である。
そして、例えば、自動車製造ラインの塗装ラインにおいて、ホイルハウス部や床裏部等の自動車車体の下部構造部における鋼板表面に本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物を塗装するにあたっては、脱脂工程、化成処理工程及び電着塗装による下塗り塗装工程を終えた鋼板の電着塗装面にコーティング塗布し、その後になされる車体外板部の中塗り塗装または仕上げ塗装等の焼付乾燥と合わせて加熱硬化させることにより、コーティング塗膜を形成できる。
【0042】
ここで、本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物においては、熱膨張性マイクロカプセルを含有するため、塩化ビニルプラスチゾル組成物を所定のコーティング部位にコーティング塗布した後、塗装の焼付け工程によって加熱が開始されると、塩化ビニルプラスチゾル組成物の温度が上がり、熱膨張性マイクロカプセルの殻(シェル)を構成する熱可塑性樹脂等の軟化が開始すると共に、殻に内包されている低沸点炭化水素等の気化物質がガス化を始めて内圧が上がり、膨張開始温度で熱膨張性マイクロカプセルが膨張を開始して、塩化ビニルプラスチゾル組成物のコーティング層(被覆層)の厚みが厚くなる。また、塩化ビニルプラスチゾル組成物の温度が上がると、塩化ビニルプラスチゾル組成物の主材である塩化ビニル系樹脂の重合が始まる。そして、所定の温度に一定時間(自動車製造ラインの塗装ラインにおいては、通常、120℃〜160℃で20〜40分間)維持されることで、熱膨張性マイクロカプセルの膨張と塩化ビニル系樹脂の重合が完了し、焼付け前よりも厚み(嵩)が増し、かつ、比重が低下した塗膜が得られる。
【0043】
このように、本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物によれば、熱膨張性マイクロカプセルを含有することで、焼付け時に、この熱膨張性マイクロカプセルの内部の気化物質が気化しその内圧でシェルが膨張し、その体積膨張を利用してコーティング層の塗膜を厚膜化させることができることから、車体に小石や砂利等が衝突したときに発生するスプラッシュノイズを減少させる防音性が向上する。
【0044】
このとき、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用してコーティング層の塗膜の厚膜化を行っていることで、焼付け前よりもコーティング層の比重は小さくなり、加えて、焼付けによっては変化しない中空フィラーが配合されていることで、厚膜であっても塗膜重量(乾燥塗膜比重)は小さく軽量なものとなる。
即ち、本実施の形態においては、防音性確保のために、塗布量を増大させてコーティング層の厚膜化を行うのではなく、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用してコーティング層の厚膜化を行っていることで、塗膜重量を増大させることなく厚膜化できることから塗膜の比重を低減させ、更に、中空フィラーを併用したことで、熱膨張性マイクロカプセルを多量に配合せずとも極めて比重が小さく軽量である塗膜を形成でき、塗膜の防音性及び軽量性を両立させることができる。
【0045】
一方、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーの添加による耐チッピング性の低下が懸念されるが、本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物においては、このように塗布重量を増大させることなく熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用して塗膜が厚膜化されることから塗膜比重は低減され、更に、中空フィラーを配合することで熱膨張性マイクロカプセルを多量に配合しなくとも所望の低比重化を達成できる。このため熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーの配合量が抑えられる。この熱膨張性マイクロカプセルと中空フィラーの配合量を所定の範囲内に抑えて塩化ビニル系樹脂の配合量を規定の範囲内にすることで所望の耐チッピング性が確保できる。
この耐チッピング性に関しては、組成物に熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを含有することにより、焼付け後の塗膜内には粒度分布・粒径を異にする2種の中空バルーン、即ち、熱膨張性マイクロカプセルから形成された中空状のマイクロバルーンと中空フィラーとが併存することになるが、この併存によって小石や砂利等による衝撃に対する抵抗が高められ、小石や砂利が塗膜を突き破って被塗布面を損傷させることを防止する効果を発揮しているとも推定できる。
【0046】
ここで、塗膜を膨張させて厚膜化を図るために化学発泡剤を使用した場合にあっては、化学発泡剤が加熱によって分解されることでガスを発生して発泡することにより、塗膜を膨張させるものであることから、自動車ラインの昇温条件、塗装箇所、塗布量等に左右されて気泡が連続し不均一で大きいものとなりやすく、気泡の制御が難しく、防音性及び耐チッピング性等の特性を安定的に確保するのが容易でない。
これに対し、熱膨張性マイクロカプセルにおいては、加熱によって内部の気化物質を気化させその圧力でシェルを膨張させて中空状のマイクロバルーンとし、塗膜を膨張させるものであることから、加熱硬化条件、塗装箇所、塗布量等の塗装条件や加熱硬化時の粘度等に左右され難く、膨張した中空状のマイクロバルーンは均一で小さな独立気泡となりやすい。このため、耐チッピング性の悪化を招き難く、防音性及び耐チッピング性等の特性を安定的に確保できる。そして、塗装条件や粘度等に左右され難いことから、その添加量のみならず粒度分布・粒径を調節することによっても、熱膨張性マイクロカプセルの膨張を容易に制御することができ、コーティング層の膜厚や塗膜特性の制御が容易にできる。
【0047】
こうして、本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物によれば、例えば、自動車のホイルハウス部や床裏部等の車体の下部構造部等に塗布されることにより、自動車の鋼板に対して小石や砂利等が衝突した際のスプラッシュノイズを減少させる防音性を発揮するのみならず、軽量であり、しかも、良好な耐チッピング性を有する塗膜が得られるとしている。特に、熱膨張性マイクロカプセルが加熱によって体積膨張し中空状のバルーンとなることでコーティング層の塗膜が厚膜化されるものであり、この中空状のバルーンの形成においては塗装条件や粘度等に左右され難く、また、中空状のバルーンは均一で小さな独立気泡となるため、化学発泡剤の発泡によって厚膜化を行う場合よりも安定した防音性や耐チッピング性等の特性が発揮される。
【0048】
また、本実施の形態においては、このように熱膨張性マイクロカプセルが焼付け時等の加熱で膨張することによって、コーティング層の塗膜が厚膜化されるため、焼付け前における所望のコーティング部位へのプラスチゾル組成物の塗布は薄膜塗布が可能となる。これにより、塗布量を軽減できると共に、プラスチゾル組成物の粘度を低く設定しても良好な塗布作業性及び塗布性(タレ性等)が得られる。
【0049】
更に、塗膜を膨張させて厚膜化を図るために化学発泡剤を使用した場合にあっては、化学発泡剤が加熱により分解することで発泡ガスを発生して、塗膜を膨張させるものであることから、塩化ビニルプラスチゾル組成物の粘度が低い場合、ガス発生により形成された発泡体を捕捉するのが困難で脱泡しやすいため、所望の厚みを有した厚膜を得るのが困難である。
これに対し、熱膨張性マイクロカプセルにおいては、加熱によって内部の気化物質を気化させその圧力でシェルを膨張させ中空状のバルーンを形成して塗膜を膨張させるものであるから、塩化ビニルプラスチゾル組成物の粘度が低くても、バルーン膜によって中空状のバルーンが塗膜内に保持され所望とする厚みを有する塗膜を得ることができる。
【0050】
こうして、本実施の形態の塩化ビニルプラスチゾル組成物においては、その粘度を低く設定することが可能であり、それ故に、貯蔵安定性を向上させることも可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施の形態に係る塩化ビニルプラスチゾル組成物について、実施例を挙げて具体的に説明する。
本発明の実施例に係る塩化ビニルプラスチゾル組成物は、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、熱膨張性マイクロカプセル、中空フィラー、充填剤、接着性付与剤、溶剤、水分吸収剤を含有するものである。
【0052】
具体的に、本実施例においては、主材である塩化ビニル系樹脂として塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体((株)カネカ製;『カネビニルペーストPCH−175』、塩化ビニル(95%)−酢酸ビニル(5%)共重合体)、同じく主材である可塑剤としてフタル酸ジオクチル(DINP:(株)ジェイ・プラス製)を使用した。
【0053】
また、熱膨張性マイクロカプセルは、気化物質としての液状の低沸点炭化水素をアクリルニトリル−塩化ビニリデン共重合体からなる熱可塑性高分子殻(シェル)で包み込んだマイクロカプセル(松本油脂製薬(株)製;『マツモトマイクロスフェアーF−82D』、膨張開始温度:120℃、最大膨張温度:160℃、平均粒子径(商品表示):20μm)を使用した。
更に、中空フィラーは、ソーダ石灰硼珪酸ガラス(住友3M(株)製;『グラスバブルズK37』、真密度:0.37g・cm
3、中位径:45μm)を使用した。
【0054】
加えて、充填剤として炭酸カルシウム(神島化学工業(株)製;『カルシーズPL』)、接着性付与剤(密着性付与剤)として『ヌーリーボンド308』(エアプロダクツ(株)製)、粘度調整用に塩ビゾル希釈剤として高沸点溶剤の『ミネラルスピリットA』(JX日鉱日石(株)製)、水分吸収剤として酸化カルシウム(井上石灰工業(株)製;『QC−X』)を使用した。
実施例1乃至実施例3の塩化ビニルプラスチゾル組成物の各配合組成を、表1の上段に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1の上段に示されるように、実施例1においては、塩化ビニル系樹脂を塩化ビニルプラスチゾル組成物中に16.4重量%含有し、この塩化ビニル系樹脂100重量部に対して熱膨張性マイクロカプセルを9.8重量部、中空フィラーを18.3重量部の割合で配合している。
実施例2においては、塩化ビニル系樹脂を塩化ビニルプラスチゾル組成物中に25.8重量%含有し、この塩化ビニル系樹脂100重量部に対して熱膨張性マイクロカプセルを5.8重量部、中空フィラーを29.1重量部の割合で配合している。
実施例3においては、塩化ビニル系樹脂を塩化ビニルプラスチゾル組成物中に45.6重量%含有し、この塩化ビニル系樹脂100重量部に対して熱膨張性マイクロカプセルを5.9重量部、中空フィラーを20.2重量部の割合で配合している。
【0058】
また、比較のために、表2の比較例1乃至比較例6の各配合による塩化ビニルプラスチゾル組成物も作製した。比較例1乃至比較例6の各配合組成については、表2の上段に示した。
【0059】
表2の上段に示されるように、比較例1の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを使用せず、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、充填剤、接着性付与剤、溶剤、及び水分吸収剤からなるものである。
比較例2の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、熱膨張性マイクロカプセルを使用せず、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、中空フィラー、充填剤、接着性付与剤、溶剤、及び水分吸収剤からなるものである。
比較例3の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、中空フィラーを使用せず、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、熱膨張性マイクロカプセル、充填剤、接着性付与剤、溶剤、及び水分吸収剤からなるものである。
【0060】
また、比較例4乃至比較例6の塩化ビニルプラスチゾル組成物は、実施例1乃至実施例3と同様、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、熱膨張性マイクロカプセル、中空フィラー、充填剤、接着性付与剤、溶剤、及び水分吸収剤を含有するが、比較例4では、塩化ビニル系樹脂の含有量を塩化ビニルプラスチゾル組成物中に11.7重量%として実施例よりも塩化ビニル系樹脂の含有量を少なくしており、更に、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して熱膨張性マイクロカプセルを13.7重量部、中空フィラーを62.4量部の割合で配合している。
また、比較例5では、塩化ビニル系樹脂の含有量を塩化ビニルプラスチゾル組成物中に52.7重量%として実施例よりも塩化ビニル系樹脂の含有量を増やしており、更に、この塩化ビニル系樹脂100重量部に対して熱膨張性マイクロカプセルを0.8重量部、中空フィラーを19.2重量部の割合で配合し、実施例よりも塩化ビニル系樹脂に対する熱膨張性マイクロカプセルの配合割合を少なくしている。
更に、比較例6では、塩化ビニル系樹脂を塩化ビニルプラスチゾル組成物中に16.7重量%含有し、この塩化ビニル系樹脂100重量部に対して熱膨張性マイクロカプセルを9.6重量部、中空フィラーを6.6重量部の割合で配合し、実施例よりも塩化ビニル系樹脂に対する中空フィラーの配合割合を少なくしている。
【0061】
そして、これら実施例1乃至実施例3及び比較例1乃至比較例6の塩化ビニルプラスチゾル組成物について、その物性及び特性(性能)を評価した。即ち、表1及び表2の下段に示されるように、比重、防音性、耐チッピング性、貯蔵安定性の各項目についての評価を実施した。なお、評価を行うにあたり、表1及び表2の配合材料からなる各塩化ビニルプラスチゾル組成物は、プラネタリーミキサーの混合分散機を用いて材料を均一に混合分散することにより調製を行った。
【0062】
比重については、調製後の塩化ビニルプラスチゾル組成物のWet比重を、比重カップ法により20℃で測定し算出(重量/体積)した。
【0063】
防音性については、まず、300mm×300mm×1.6mmの電着塗装鋼板の表面における中央部分の190mm×190mmの範囲に、エアレスポンプでのスプレー塗装方法により、調製後の塩化ビニルプラスチゾルを2mmの膜厚で塗装し、電気加熱炉で一般的な車体外板部の中塗り塗装または仕上げ塗装の焼付と同じ加熱条件、即ち、130℃で20分間焼付け後、20℃に冷却して、硬化した塗膜が形成された試験用塗装板を準備した。そして、この塗装板を垂直に対して45°の角度で保持し、塗装板の塗膜中央部の上2mの高さから直径8mmの鋼球を落下させ、鋼球が塗装板の塗膜に衝突した時の衝撃音を、塗装板中心から横水平に200mm離れた位置に設置したマイクロホンにより測定した。衝撃音が75dB以下であった場合に○、75dBを超えた場合には×と判定した。なお、衝撃音の測定は、以下の条件にて実施した。
測定条件:Chシングルモード(800ライン)
周波数レンジ10kHzデータ取り込み条件:時間80ms
8回平均周波数分析:1/3オクターブ
A特性補正
【0064】
耐チッピング性については、70×150×0.8mmの電着塗装鋼板に対し、調製後の塩化ビニルプラスチゾルを1mmの厚みで塗布し、130℃で20分間焼付けた。その後、20℃に冷却して、硬化した塗膜が形成されたこの鋼板を60°の角度に固定した。鋼板の上2mの高さから、JISB1181に規定されたM4真鍮ナットを、直径2cmのパイプを通して落下させ、塗膜の素地に達する穴があいた時の落下させたナットの総重量を測定した。ナット落下重量40kg以上でもチッピングが生じない場合に○、ナット落下重量40kg未満でチッピングが生じた場合には×と判定した。
【0065】
貯蔵安定性(粘度安定性)については、粘度測定器としてB型回転粘度計(東機産業(株)製)を用い、35℃で10日間保存したときの初期からの増粘率(粘度変化率)で評価した。即ち、調製後の塩化ビニルプラスチゾル組成物の20℃における初期粘度をB型回転粘度計(20rpmで1分)で測定した後、この塩化ビニルプラスチゾル組成物を密閉容器に入れて35℃で10日間保存し、その後、20℃まで冷却して同様にB型回転粘度計(20rpmで1分)で粘度を測定した。そして、初期からの増粘率を次式(1)にしたがって算出した。
増粘率={10日後粘度−初期粘度}÷初期粘度×100 ‥‥(1)
増粘率が35%以下であった場合に○、35%を超えた場合には×と判定した。
【0066】
表1の下段に示されるように、実施例1乃至実施例3に係る塩化ビニルプラスチゾル組成物のいずれにおいても、組成物のWet比重が1.1以下と低比重で、更に、形成された塗膜は75dB以下と高い防音性を示し、かつ、耐チッピング性も良好で、アンダーコートに要求される防音性及び耐チッピング性を十分に満足するものであった。即ち、耐チッピング性の要求性能を満足し、軽量性と防音性を兼備えている塗膜が形成された。
また、35℃で10日間保存したときの増粘率が低く、自動車用アンダーコートとしての貯蔵安定性にも優れており、夏季の高温時における長期間の保存にも耐えることが分かった。
【0067】
これに対し、表2の下段に示されるように、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを含有していない比較例1では、組成物の貯蔵安定性及び形成された塗膜の耐チッピング性は良好であるものの、組成物のWet比重が1.1を超えて軽量性に欠け、更に、形成された塗膜の防音性測定においても所望の防音性に欠けていた。
また、中空フィラーを含有するが熱膨張性マイクロカプセルを含有しない比較例2においては、組成物のWet比重が小さく、組成物の貯蔵安定性及び形成された塗膜の耐チッピング性も良好であるものの、形成された塗膜は防音性に欠けていた。
更に、熱膨張性マイクロカプセルを含有するが中空フィラーを含有しない比較例3においては、組成物の貯蔵安定性、並びに、形成された塗膜の耐チッピング性及び防音性は良好であるものの、組成物のWet比重が大きく、所望の低比重としてWet比重が1.1以下である高い軽量性を達成するものではなかった。
【0068】
また、塩化ビニル系樹脂の含有量を少なくした比較例4においては、組成物のWet比重が小さく、組成物の貯蔵安定性及び形成された塗膜の防音性は良好であるものの、耐チッピング性に欠けていた。
更に、塩化ビニル系樹脂に対する熱膨張性マイクロカプセルの配合割合を少なくした比較例5では、組成物のWet比重が小さく、形成された塗膜の耐チッピング性は良好であるものの、防音性に劣る評価結果となった。加えて、この比較例5においては、塩化ビニル系樹脂の含有量が多いことから粘性が高く、貯蔵安定性も劣っていった。
そして、塩化ビニル系樹脂に対する中空フィラーの配合割合を少なくした比較例6においては、組成物の貯蔵安定性、並びに、形成された塗膜の耐チッピング性及び防音性は良好であるものの、Wet比重が1.1以下とならず、軽量性に劣る評価結果となった。
【0069】
ここで、比較例5から、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が少なすぎると、75dB以下の優れた防音性を確保することができない。一方で、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が多すぎると、耐チッピング性が低下する。優れた防音性を確保しつつ、良好な耐チッピング性を確保するためには、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2重量部〜12重量部の範囲内とするのが好ましく、より好ましくは、5重量部〜10重量部の範囲内である。
【0070】
また、比較例6から、中空フィラーの配合量が少なすぎると、Wet比重1.1以下の高い軽量性を確保することができない。一方で、中空フィラーの配合量が多すぎると、耐チッピング性が低下する。高い軽量性を確保しつつ、良好な耐チッピング性を確保するためには、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して10重量部〜50重量部の範囲内とするのが好ましく、より好ましくは、15重量部〜30重量部の範囲内である。
【0071】
更に、比較例4から、塩化ビニル系樹脂の含有量が少なすぎると、自動車用のアンダーコートに要求される耐チッピング性を十分に確保することができない。一方で、比較例5から、塩化ビニル系樹脂の含有量が多いと、自動車用アンダーコート剤として夏季の高温時における長期間の保存にも耐えうる優れた貯蔵安定性が確保できない。熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを添加しても自動車用のアンダーコートに要求される耐チッピング性を確保し、かつ、優れた貯蔵安定性を確保するためには、塩化ビニル系樹脂が組成物中に15重量%〜50重量%の範囲内で含有されるのが好ましい。
【0072】
このように、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを配合した実施例1乃至実施例3にかかる塩化ビニルプラスチゾル組成物によれば、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2重量部〜12重量部の範囲内である熱膨張性マイクロカプセル、及び、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して10重量部〜50重量部の範囲である中空フィラーを添加することで、熱膨張性マイクロカプセルによる体積膨張によって塗布時の塗膜が塗布重量を増大させることなく厚膜化され、更に、中空フィラーが添加されることで熱膨張性マイクロカプセルを多量に配合せずとも低比重化が実現され、防音性及び軽量性を兼ね備えた塗膜となる。そのうえ、塩化ビニル系樹脂が塩化ビニルプラスチゾル組成物中に15重量%〜50重量%の範囲内で配されていることから防音性を高め低比重化しても良好な貯蔵安定性と耐チッピング性が保持される。
【0073】
以上説明してきたように、熱膨張性マイクロカプセル及び中空フィラーを併用した上記実施の形態及び実施例にかかる塩化ビニルプラスチゾル組成物から形成される塗膜は、防音性が高く、低比重であっても耐チッピング性が良好である。また、熱膨張性マイクロカプセルは、塗装条件や加熱硬化時の粘度等の影響を殆ど受けることなく膨張して均一で小さな独立気泡の中空状のマイクロバルーンとなり、中空状のマイクロバルーンの気泡制御が容易であることから、形成される塗膜は安定した特性が確保される。
そして、塗膜の低比重化が達成されることで車両が軽量化されるため、自動車等の燃料の向上に貢献できる。
【0074】
なお、上記実施の形態及び実施例では、塩化ビニルプラスチゾル組成物の自動車用アンダーコートの塗料としての適用について説明してきたが、それ以外、例えば、シーリング剤や接着剤等としての適用も可能である。
【0075】
また、本発明を実施するに際しては、塩化ビニルプラスチゾル組成物のその他の部分の構成、成分、配合、材質、製造方法等についても、本実施例に限定されるものではない。例えば、組成物に、エポキシ系安定剤、金属石ケン類、無機酸塩類、有機金属化合物等の安定剤や、カドミウムイエロー、フタロシアニンブルー、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料や、シリコン樹脂、高粘度型または低粘度型のダイマー酸変性エポキシ樹脂等のレベリング剤や、二酸化ケイ素等のチキソ性付与剤を配合することも可能である。
【0076】
更に、本発明の実施の形態及び実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。