(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高分子分散剤溶液を作製する第一の工程と、前記高分子分散剤溶液に顔料を混合し分散機を用いて顔料分散体を作製する第二の工程と、エタノールを50重量%以上含有する溶剤に酸価80〜85のセラックを溶解させたセラック溶液と前記顔料分散体を撹拌混合する第三の工程とを経て、ジルコニウム濃度が0.01〜10ppmであるドロップオンデマンド用インクジェットインクを作製する、インクジェットインクの作製方法。
前記ドロップオンデマンドインクジェット装置としてインクジェットヘッドを少なくとも2台備えたものを用い、前記インクジェットヘッドの少なくとも1台をインクジェットインクの吐出に供している間、他の少なくとも1台をインクジェットインクの吐出に適した状態で待機させておく、請求項9から13までのいずれかに記載の印字方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの可食性インクジェットインクは、液体成分、顔料及び当該顔料を液体成分に良好に分散させるための分散剤を含む。当該顔料は、一般に、インクジェットで吐出可能な大きさに粉砕され、かつ凝集の無いよう分散処理され、時間が経っても分散の安定性が損なわれないよう調整されている。
【0006】
そして、このように色材として顔料を含むインクジェットインクを製造する場合における分散処理では、一般的に、ビーズミルと呼ばれる分散機を用いる。ビーズミルとは、ビーズと呼ばれる球体の媒体(「分散メディア」ともいう)を特殊な形状を持つディスクを用いて弾き飛ばしてビーズに強い運動エネルギーを与え、粉体と衝突させ、粉体を細かく粉砕し分散させる装置である。粉体をより微細化し、安定に分散させるためには、比重が大きく、表面硬度が高いジルコニア(酸化ジルコニウム)のビーズが用いられることが多い。また、ジルコニアビーズを弾き飛ばすディスクもビーズ同様の理由からジルコニア製が用いられることが多い。
【0007】
分散機としてビーズミルを使用すると、ディスクとビーズが衝突しそれぞれが磨耗するため、当該粉体中に微量ながらディスク及びビーズの材料であるジルコニアが混入することは避けられない。同様に、インクジェットインクの分散処理に、分散メディアとしてジルコニアビーズを用いてかつジルコニア製ディスクを用いた場合にも、微量ではあるが当該インクジェットインクにはジルコニアが混入している。ジルコニアやジルコニウムは、人体への経口摂取に対して安全性に問題がないと考えられているが、とりわけ安全性を規制する規定値等は定められていないため、逆に、インクジェットインクへの混入を避けた方が好ましいと考えられる。
【0008】
したがって、インクジェットインクを製造するための分散処理においては、例えば、高圧ホモジナイザーに代表されるメディアレスの分散機を用いる場合もある。しかし、粉体を細かく粉砕し、安定して分散させる方法としては、ビーズミルに代表される分散メディアを用いる分散機の方が使いやすく分散効率も良いため、生産性が高くなる。
【0009】
以上より、本発明は、インクジェットインクの製造において分散メディアを用いた分散機により分散処理を行い、かつ、ジルコニアやジルコニウムの混入を抑制させたインクジェットインク及びその作製方法を提供し、さらに当該インクジェットインクを用いて長期の連続した印字が可能な印字方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ジルコニアの混入を抑制させる分散方法にて、可食性の材料を含むインクジェットインク及びその作製方法を開発した。
【0011】
すなわち、本発明のインクジェットインクは、少なくとも、水、エタノール、高分子分散剤、樹脂及び顔料を含み、
前記樹脂が酸価80〜85のセラックであり、ジルコニウム濃度が0.01〜10ppmであることを特徴とする。
上記において、前記高分子分散剤がヒドロキシプロピルセルロースであることが好ま
しい。
前記顔料は、酸化チタン、酸化鉄、炭末色素及び食用色素のアルミニウムレーキから選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
前記高分子分散剤、前記樹脂及び前記顔料のいずれもが可食性の材料から選択されるものであることが好ましい。
更に該インクジェットインクは可食材料として認可されたpH調整剤を含んでいることが好ましい。
【0012】
また、本発明のインクジェットインクの作製方法は、高分子分散剤溶液を作製する第一の工程と、前記高分子分散剤溶液に顔料を混合し分散機を用いて顔料分散体を作製する第二の工程と、エタノールを50重量%以上含有する溶剤に
酸価80〜85のセラックを溶解させたセラック溶液と前記顔料分散体を撹拌混合する第三の工程とを経て、ジルコニウム濃度が0.01〜10ppmであるインクジェットインクを作製することを特徴とする。
上記において、前記分散機としてビーズミルを用い、前記ビーズミルのビーズ撹拌ディスクがウレタン樹脂製であることが好ましい。前記ビーズミルにおいてビーズ撹拌ディスクの周速が6〜15m/secであることが好ましい。
【0013】
本発明の印字方法は、上述の本発明のインクジェットインクをドロップオンデマンドインクジェット装置より吐出させて、被印字対象物に前記インクジェットインクを付着させて印字するに当たり、ドロップオンデマンドインクジェット装置より吐出される前記インクジェットインクを、前記ドロップオンデマンドインクジェット装置のインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させておくことを特徴とする。
また、本発明の印字方法においては、前記インクジェットインクを前記インクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させる際に、脱気、脱泡、温度調整などを行うことができる。
さらに、本発明の印字方法においては、前記ドロップオンデマンドインクジェット装置としてインクジェットヘッドを少なくとも2台備えたものを用い、前記インクジェットヘッドの少なくとも1台をインクジェットインクの吐出に供している間、他の少なくとも1台をインクジェットインクの吐出に適した状態で待機させておくことができる。
そして、所定の時間内にインクを吐出しないノズルに、一定間隔の時間でプリカーサをすることが好ましい。
また、インクジェットヘッドの少なくとも1台をインクジェットインクの吐出に適した状態に維持しておくために、フラッシングやワイピングを行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、水、エタノール、高分子分散剤、樹脂及び顔料を含有するドロップオンデマンド用のインクジェットインクとして調製するので、ジルコニア製ディスクを使用せずとも、印字が良好で、印字対象物上でのインク塗膜の乾燥性、印字対象物への定着性に優れ、保存安定性にも優れたインクジェットインクが製造できる。したがって、ジルコニアやジルコニウムの混入量が0.01〜10ppmであるドロップオンデマンド用のインクジェットインクを提供することができる。
【0015】
また、本発明の印字方法は、インクジェットインクを、前記ドロップオンデマンドインクジェット装置のインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させるので、顔料を分散させたインクジェットインクでの印字であっても、経時的に発生する顔料沈降を当該循環により防止し、長時間安定して印字することができる。当該インクジェットインクは揮発性の高いエタノールを含むが、当該循環により常にインクジェットヘッドにインクが供給される状態にあるため、ノズル孔における乾燥すなわちインク詰まりを防止し、長時間安定して印字することができる。
また、当該循環の際には、温度調整、脱気、消泡を行うことにより、インクジェット装置中を循環するインクジェットインクの物性の変化や劣化を防ぐことができる。さらに、インクへの振動や圧力変動等に伴う、泡の発生や、気泡の発生を制御できるので、インクの吐出を安定化することができる。
さらに、ドロップオンデマンドインクジェット装置としてインクジェットヘッドを少なくとも2台備えたものを用い、前記インクジェットヘッドの少なくとも1台をインクジェットインクの吐出に供している間、他の少なくとも1台は印字を行わせずにインクジェットインクの吐出に適した状態で待機させておくこととし、印字させるインクジェットヘッドと、印字させずに待機させるインクジェットヘッドとを所定の時間ごとに変更することで、吐出不良や飛び曲りを回避し、印字品質を保ち、さらに長期の連続した印字が可能となる。
【0016】
以上のようにして、規制量が規定されていないジルコニアやジルコニウムの混入が抑制された本発明のインクジェットインクは、より安全性の高い可食性インクジェットインクを提供し、さらに、本発明の印字方法を用いることで長時間高い印字精度で安定した印字が可能となるため、当該インクジェットインクを使用する使用者は、安心してその印字対象物や、印字の応用用途を拡大することができる。これにより、錠剤への印字方法としても対応可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態及び実施例を説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、本実施の形態の記載内容のみに限定して解釈されるものではないことを記載しておく。
【0018】
本発明のインクジェットインクは、少なくとも、水、エタノール、高分子分散剤、樹脂及び顔料を含む。
【0019】
水の含有は、分散良好性というメリットと、乾燥性低下というデメリットがあり、インクジェットインクに求められる性質を鑑みて使用量を決定する。水を多く含む液体に顔料となる粉体を分散させると、顔料を微細に粉砕する効率が高くなり、さらに顔料の分散安定性が得られる。しかし、水を多く含むと、インクジェットインクの乾燥性が低下する。したがって、印字対象物の表面が多孔質で水を吸収するような場合には多く使えるが、印字対象物の表面が平坦で吸水性がないような場合には、水は少量用い、代わりに揮発性の高い他の水溶性溶媒を多く用いることで乾燥させやすくすることができる。
【0020】
溶剤成分としてエタノールを用いるとインク塗膜の定着性を向上させる樹脂を溶解させ、さらに印字対象物上のインク塗膜の乾燥速度を向上させる。本発明において使用できるエタノールは、食品用の発酵エタノールまたは変性エタノールである。
【0021】
また、溶剤としては、インク塗膜の乾燥性を低下させない範囲において、さらにはノズル(又はオリフィスともいう)での乾燥性を調整するため、湿潤剤を用いても構わない。このような湿潤剤は、インクの乾燥性の調整、インク粘度の調整等の役目をなす。また、被記録物の下地によっては、浸透性を調整する効果も使用目的として適している。このような湿潤剤は、インク全体の0〜10重量%の範囲で用いると、記録対象物への適度な浸透、乾燥の調整が可能となる。湿潤剤の含有量が10重量%を超えると、目的とする乾燥性の向上が果たせなくなる。湿潤剤としてはプロピレングリコール、グリセリン等、水よりも沸点が高く、かつ人体へ経口摂取されても問題ない水溶性の有機溶剤を用いることがきる。
【0022】
本発明で使用する樹脂はセラックが好ましい。セラックはラックカイガラ虫由来の樹脂状物質を精製して得た可食性樹脂であり、多種類の樹脂酸およびそのエステル化物、ワックス、色素等の混合物とされていて、アルコール可溶性タイプのものが特に好ましく用いられる。このセラックは、本発明にて使用する炭末色素の分散および耐水性を有する定着に寄与し、アルコールに溶解してインクの粘度を上昇させる働きも有する。また、このセラックは、水/アルコール混合系の溶剤にも溶解する。このように水を一部混合した溶剤に使える点でも好ましいバインダーとして寄与する。
【0023】
またセラックはエタノール溶液としたとき、酸価(セラック1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数)が90mg程度、pHが3.6程度を示すことが多い。この状態だと再溶解性が不足し、インクジェットヘッドのノズルにて固化したインクを再度溶解させることができず、ノズル詰まりを引き起こし、安定吐出を継続させることが困難な場合が多い。このような場合、セラックのエタノール溶液を30日以上保管、または固体の酸触媒で処理し、酸価を80〜85、pHが0.5〜3.0とすることが好ましい。こうすることで、インクの再溶解性が向上し、ノズル詰まりを引き起こさなくなる。セラックは精製しさらに漂白処理された白色セラックを用いることが再溶解性の点から好ましい。セラックの酸価はエタノール溶液の状態で食品添加物公定書(第8版、油脂試験法、3章.酸価)に則して測定することができる。
上記のような固体の酸触媒としてはH
+型陽イオン交換樹脂であることが、比較的短時間にて行なえるために好ましい。ここで用いられる酸触媒としては、オルガノ株式会社より市販されているXN−1004、XN−1005、アンバーリスト15DRY、アンバーリスト15WET、アンバーリスト15JWET、アンバーリスト31WET等が例示される。特に、強酸性タイプのものが好ましい。
セラックのこのような酸価、pHの調整は、例えば、以下のようにして行うことができる。
すなわち、粉末のセラックからエタノールの25〜50重量%の樹脂溶液を調製したのち、固体の酸触媒(例えば、H
+型陽イオン交換樹脂)を20〜40重量%添加して攪拌し、接触処理することを3〜10時間程度実施する。処理温度としては、20〜30℃にて行なうことができる。その後、酸触媒を濾過にて取り出す。また、酸触媒をカラム充填し、このカラムにセラックのエタノール溶液を通過させるという接触処理でも対応可能である。
常法により酸価を滴定し、酸価が80〜85、また、pHメーターにてpHを測定し、pHが0.5〜3.0であることを確認して、インクジェットインクの材料として使用する。
尚、酸価の調整に伴うセラック溶液の特性の変化としては、固形分が約10%弱低下する。また、粘度は半分程度に低下する。再溶解性が格段に向上する。また、エタノール溶液を乾燥させてフィルム形成した表面のエタノールによる拭き取りにおいても2倍程度のふき取り速さの向上が確認できる。
【0024】
尚、このセラックを水と一部混合する形態にする場合、安定した溶解性を維持させるために、インクのpHを7.5〜10.5の塩基性側に調整することが好ましい。インクのpHが7.5よりも低いと、セラックの一部が析出しやすくする。他方で、インクのpHが10.5を超えると、プリンタ内や印字時の臭気が問題になってくる。インクのpHを上記範囲内に調整するpH調整剤としては、食品添加物であって印字後に揮発していく成分であることが耐水性の観点より好ましく、例えば水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。なかでも、残留が問題にならない観点から、水酸化アンモニウムないし炭酸アンモニウムを用いてpHを調整することが好ましい。
【0025】
セラックは本発明のインクジェットインクにおいて印字対象物へのインクの密着性や、印字後のインクの強度を付与するための接着用の樹脂(バインダー)として機能する。バインダーを用いることで、印字後の印字対象物を擦ったり、それが水に浸漬したりしても、記録したインクの剥がれや溶出を極力抑え、耐摩擦性や耐水性を持たせることができる。
このようなバインダーとして、特に食品に添加可能な樹脂としては、セラックのほか、ダンマル樹脂、コーパル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂はアルコール系溶剤への溶解性が高いことからインクジェットインクに用いやすい。
その他に、バインダーとして、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、アラビアゴム、シクロデキストリン等の樹脂、とりわけ水溶性の樹脂が好ましく挙げられる。これらの樹脂は、バインダーとしてのみならず、分散剤としての機能を有するものもあり、これらはインクジェットインクに用いる溶剤への可溶性に応じて選択し用いることができる。
【0026】
本発明のインクジェットインクは、基本的に、可食性インクとしての適用を想定したものであるから、当該インクジェットインクに用いる顔料としても、可食性の顔料を用いることを想定している。例えば、食品添加物として認められているもの、又は、薬事法に準拠した顔料を用いる。このような顔料としては、酸化チタン、食用色素のアルミニウムレーキ、酸化鉄、炭末色素、イカスミ等が挙げられる。とりわけ、炭末色素としては、備長炭、竹炭、活性炭等を粉砕したものを用いることができる。
これらの顔料は、平均粒子径が0.01〜10μmのものが好ましい。例えば、顔料の平均粒子径が10μmよりも大きいと、分散処理に時間がかかる、又は、安定に分散しにくくなるなどの問題が生じる恐れがある。とりわけ、分散処理では熱を発生し、分散処理を長時間行うと過剰に熱の影響を受けて、顔料を分散させるための高分子分散剤の特性を変えてしまう恐れがある。
【0027】
本発明のインクジェットインクに含まれる顔料の量は、他の成分の含有重量部と関連するが、インクジェットインク全量を100重量部とするとき、0.1〜20重量部の範囲で含まれることが好ましい。さらに好ましくは、1〜10重量部、最も好ましくは、0.5〜5重量部である。顔料の含有量が0.1重量部より少ないと、印字した時のインクの濃度が不十分となる恐れがある。逆に、顔料の含有量が20重量部を越えると、顔料の分散性が低下し、流動性も低下するため、インクジェット装置で長時間連続して印字することができなくなる恐れがある。
【0028】
高分子分散剤は、顔料を良好に分散させるために用いる。この高分子分散剤としては、セルロース系の樹脂が好ましく用いられる。セルロース系の樹脂とは、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等である。なかでも、ヒドロキシプロピルセルロースは、水やエタノール等の水溶性溶剤に溶解するため、これを用いることが好ましい。また、セルロース系樹脂は種々の分子量のものを用いることができるが、本発明のインクジェットインクにおいては、分散性及び粘度の適性から、低分子量のものを用いることが好ましい。特に、20℃における2重量%濃度の水溶液において、1〜7mPa・sの粘度を示す分子量のものを用いることがより好ましい。
【0029】
セルロース系樹脂に代表される高分子分散剤は、インクジェットインク全量を100重量部とするとき、0.1〜20重量部の範囲で含まれることが好ましく、0.2〜15重量部の範囲で含まれることがより好ましい。高分子分散剤の含有量が0.1重量部より少ないと、顔料を安定して分散することが困難となる。逆に、20重量部を超えると、インクジェットインクの粘度が高くなりすぎてインクジェット装置で吐出することができなくなる恐れがある。これは、液体、特にインクジェットインクのような混合系の液体の粘度は温度に依存して大きく変化し、低温では粘度が高く、高温では粘度が低くなる性質を有するためで、インクを充填したインクジェット装置の周囲の温度が低くなると、インクジェットインクの粘度が高くなり、インクジェット装置で長時間連続して印字することができなくなる恐れがある。
【0030】
また、高分子分散剤の含有量の好適範囲は、顔料の含有量にも依存する。例えば、高分子分散剤としてセルロース系樹脂を用いる場合において、顔料10重量部に対して2〜5重量部のセルロース系樹脂を用いると、優れた分散性が得られる。セルロース系樹脂の前記含有量が2重量部よりも少ないと、顔料の分散を十分に行なうことができず、5重量部を超えると、セルロース系樹脂の溶解性が不十分となる場合があり、また、分散時の粘度が高くなりすぎるため、分散作業自体ができなくなる恐れもあり、さらに、インクジェットインクの粘度が高くなりすぎて、インクジェット装置で吐出することができなくなる恐れもある。
【0031】
なお、高分子分散剤として、セルロース系樹脂のほかに、食品添加物の乳化剤を用いても良い。乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は可食性で水や水溶性溶剤中での安定性に優れ、インクジェットインク中の顔料の分散安定性に寄与する。
これらの乳化剤は水や水溶性溶剤への溶解性を鑑みると、インクジェットインク全量を100重量部とするとき、0.1〜9重量部の範囲で使用することが好ましく、1〜5重量部で使用することがより好ましい。これらの範囲内では十分な分散効果を得ることができる。
また、これらの乳化剤のうち、非イオン活性剤は、印字対象物の種類に応じてインクジェットインクの親水親油バランス(HLB)を考慮して選択することが好ましい。例えば、印字対象物が食品等を包む包装用のフィルムである場合、HLBが8〜16、油脂分の多い食品に対しては、HLBが1〜2のようなインクジェットインクに調整すると印字の質が良好になる。
【0032】
以上、水、エタノール、樹脂、顔料及び高分子分散剤を含む本発明のインクジェットインクは、例えば、以下に詳述する本発明のインクジェットインクの作製方法によって、作製することが好ましい。
本発明のインクジェットインクの作製方法は、高分子分散剤溶液を作製する第一の工程と、前記高分子分散剤溶液に顔料を混合し分散機を用いて顔料分散体を作製する第二の工程と、エタノールを50重量%以上含有する溶剤にセラックを溶解させたセラック溶液と前記顔料分散体を撹拌混合する第三の工程とを経て、ジルコニウム濃度が0.01〜10ppmであるドロップオンデマンド用インクジェットインクを作製するものである。このような作製方法を採用することで、顔料の分散性に優れたものが得られる。
【0033】
前記第一の工程において、高分子分散剤溶液の作製は、水に高分子分散剤を溶解させることにより行うことができる。とりわけ、高分子分散剤としてセルロース系樹脂を用いる場合には、水のみ、又は、水とアルコール(好ましくはエタノール)との混合溶液にセルロース系樹脂を溶解させる。
セルロース系樹脂を溶解させる溶液としては、インクジェットインク全量を100重量部とするとき、水の含有量が50重量部以上、エタノールの含有量が50重量部未満であることが好ましい。エタノールを50重量部以上含有する溶液での分散は、第二の工程において、顔料の分散が安定しなくなる恐れがある。
【0034】
前記第二の工程において、高分子分散剤溶液に顔料を混合して分散させるための分散機としては、メディアレスの分散機を用いることもできるし、分散メディアを用いるビーズミルを用いることもできる。メディアレス分散機としては、マイクロフルイダイザー(商品名)、ナノマイザー(商品名)、スターバースト(登録商標)などが挙げられる。
目的外成分の混入(コンタミネーション)を避けるためには、メディアレスの分散機が好ましいが、処理量に制限がある、処理時間が長い、顔料の粒子径を小さくすることができない、などにより、生産性が低くなるという短所がある。また、分散時の発熱の影響で分散剤の効果が発揮されにくく、十分な分散効果が得られにくいという短所もある。
このため、本発明のインクジェットインクを作製する場合にも、分散メディアを用いる分散機、とりわけ、ビーズミルを用いる方法が好ましい。用いるビーズの直径は0.1〜2mmが好ましい。
上記の課題に記載したジルコニアや、ジルコニウムの混入を抑えるため、分散メディア撹拌ディスクはウレタン樹脂製、ステンレス製、超硬製、アルミナ製を用いることが好ましい。
ビーズミルにおいてウレタン樹脂製の分散メディア撹拌ディスクを用いることが好ましい。ウレタン樹脂は高分子化合物であるため、仮に分散メディアの衝突により磨耗し、インク中に混入し経口摂取したとしても、人体内で分解、吸収されずに排泄されるため無害である。
【0035】
ビーズミルにおいてビーズ撹拌ディスクの周速は6〜15m/secであることが好ましい。この周速の範囲内では安定性、分散性に優れた顔料分散体を得ることができる。周速が6m/sec未満だとビーズに顔料を粉砕するのに十分な運動エネルギーを与えることができず、顔料の微細化が困難となり、分散不足となりやすい。周速が15m/secより大きいと、顔料を十分に微細化することは可能だが、ビーズに過剰な運動エネルギーがかかってしまい、それとともに顔料が過剰に微細化され過分散状態となり、顔料粒子の凝集を招く。また、ビーズ同士も強いエネルギーで衝突するので磨耗が激しくなり、ビーズ材質の顔料分散体及びインク中への混入を招くことになる。
【0036】
また、分散メディアとしてジルコニアビーズを用いることができる。ジルコニアビーズは主としてZrO
2からなり、さらに硬度を高めたHfO
2、Y
2O
2を含むジルコニアビーズを用いることが好ましい。
分散メディアの構成成分が混入しないよう、分散機内部にポリエチレン、あるいは、ポリウレタン樹脂等を用いてライニング(表面被覆)を設けることが好ましい。また、ジルコニアや、ジルコニウム、その他の夾雑物を除去するため、濾過、遠心分離、分離膜法、イオン交換樹脂処理法、逆浸透法、活性炭法、ゼオライト法、水洗、溶剤抽出等の精製や洗浄を併用することも有効である。これらの精製や洗浄は、顔料分散処理後又はインク調製後のいずれの段階で行ってもよいが、ジルコニアやジルコニウム、その他夾雑物の混入は分散処理時の分散メディアや分散容器からが主と考えられるため、顔料分散処理後が最も有効であると考えられるが、複数の段階で行うのがより好ましい。
【0037】
さらに、インクジェットインクに含まれる樹脂や高分子分散剤の溶解性や安定性を調整するために、pH調整剤を加えることもできる。酸性への調整には、酢酸、クエン酸等、アルカリ性への調整には、炭酸アンモニウム等が例示できる。
【0038】
次に、本発明のインクジェットインクは、以下に説明する本発明の印字方法に好適に利用できる。
本発明の印字方法では、本発明の上記インクジェットインクをドロップオンデマンドインクジェット装置より吐出させて、被印字対象物に前記インクジェットインクを付着させて印字するに当たり、ドロップオンデマンドインクジェット装置より吐出される前記インクジェットインクを、前記ドロップオンデマンドインクジェット装置のインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させておく。
このようにインクをインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させるためのドロップオンデマンドインクジェット装置としては、例えば、インクジェットヘッドとインクタンク筐体との間にインク循環経路を有するものを用いる。
また、ドロップオンデマンド型のインクジェットヘッド内にもインクの循環流路を設けることで、インクジェットヘッド内においてもインクを循環させることが好ましい。これにより、インクジェットヘッド内でのインクの滞留を防止して、顔料の堆積によるトラブルを防ぐことができる。
さらに本発明のインクジェットインクは揮発性の高いエタノールを含んでいるため、インクジェットヘッドのノズル面において乾燥しやすいものであるが、該循環を実施することでノズル面下を常にインクが通過する状態にあるため、ノズル面で固化したインクを溶解しノズル詰まりを防ぐことができる。
インクの循環は、インク供給経路にインク循環用のポンプを設け、インクがノズル(又はオリフィスともいう)から吐出(ないし排出)しないような条件、環境下で行う。このようなインクジェット装置は、一般的にコンティニアス型インクジェット(CIJ)と呼ばれるインクジェットとは異なり、インクの循環はヘッドのノズルからインクを吐出することなく行われる。
【0039】
本発明の実施の形態では、インクジェットインクを前記インクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させる際に、循環インクの温度調整を行うことが好ましい。
このような温度調整は、例えば、インク循環経路の少なくとも一部において、循環インクを加熱及び/又は放熱するための加熱手段(ヒーター)及び/又は放熱手段を配置することで実施することができる。
このような温度調整は、インクジェット装置が設置されている環境の温度変化が激しいと、インクジェットヘッド内のインクの温度が変化するという点を考慮したものである。すなわち、インクジェットヘッド内のインクの温度が変化するとインクの体積や粘度等の物性が変化し、印字の乱れを生じることがある。本実施の形態では、インクジェットヘッド内の温度を一定に保つため温度調整を可能とすることで、インク粘度を一定にし、印字の精度、印字品質を一定にすることができる。
また、インクジェットインクをインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させる際に、循環インクの脱気や脱泡を行うようにして気泡の発生を防止し、あるいはフィルタ等を設けてゴミの混入を除去することが好ましい。
【0040】
さらに、本発明の印字方法では、連続した長期の稼働のため、複数のインクジェットヘッドを設け、少なくとも1台のインクジェットヘッドが印字のために稼働している(インクの吐出に供されている)間、他の少なくとも1台のインクジェットヘッドを、インクジェットインクの吐出に適した状態で待機させておくことが好ましい。
そのためには、例えば、少なくとも1台のインクジェットヘッドが印字のために稼働している間、他の少なくとも1台のインクジェットヘッドを、所定の領域(以下、これを「メンテナンス領域」あるいは「メンテステーション」と称する)にて待機させるようにすればよい。そして、印字のために駆動しているインクジェットヘッドと、メンテナンス領域で待機しているインクジェットヘッドとが、所定の時間ごとに交換されるようにする。
メンテナンス領域(メンテステーション)に待機させたインクジェットヘッドは、フラッシング、ワイピング、プリカーサ等を行って、インクジェットインクの吐出に適した状態に維持しておくようにすることができる。
ここで、フラッシングとは、インクジェットヘッドのノズル近傍の付着物をとりのぞき、飛行の曲りをなくすためのものであり、ヘッドの全ノズルからインクを強制的に吐出させることをいい、ワイピングとはノズルに付着したごみや飛びはねたインクを払拭することをいう。また、プリカーサとは、インクジェットヘッドのノズルからインクが吐出しない程度の微振動を発生させ、インクメニスカスを振動することをいう。
このようなメンテステーションでの工程は、インクの乾燥性を発揮させるようなインク組成において、特に、効果が発揮される。メンテステーションでのフラッシング、ワイピング、プリカーサ等の実施の間隔も、インクの乾燥性の許容値に応じた対応が必要となる。
【0041】
以上より、本発明は、食品添加物又は薬剤への添加が許容される材料のみを含むインクジェットインクを提供することができるため、食品や食品の包装材料に対して安心して使用することができる。また、本発明のインクジェットインクは、高い濃度の顔料を安定に分散できる配合となっているため、これを用いて種々の食品、食品と接する材料、食品包装材料等に印字した場合でも、その印刷された文字に十分な視認性をもたらすことができる。さらに、印字対象物が濃色であっても、染料を用いた場合のような視認性の低下を招くことがなく、顔料による明瞭な印刷文字を形成することができる。そして、水に濡れても溶出がなく、見た目に嫌悪感を与えない。
【0042】
さらに、本発明のインクは、食品素材、食品添加物又は薬剤用の材料として認められたもののみで調製することができるため、食品のデザイン、装飾、品質のトレーサビリティー等にも有効に用いることができる。トレーサビリティー又はデザインのデータとしては、例えば、生産地、収穫日時、生産者、日付、特殊記号、キャラクタ画像等がある。包装容器や梱包材ではなく、最終消費者が手にし、かつ流通の途中で変更することができない食品そのものに直接これらのデータを印刷することは、流通経路の確実な表示方法として、トレーサビリティーの観点から商品流通の信頼性も付与することができる。
【0043】
本発明のインクジェットインクを用いて印字できる対象物として、食品類を包装する包装材料及び食品と接触する材料、ならびに食品類が挙げられる。例えば包装材料としては、パンの包装、食品のトレイ、弁当容器、パック等があり、食品と接触する材料としては、割りはし、楊枝、串等が挙げられる。食品類としては、例えばガム、キャンディー、ビスケット、クッキー、饅頭、チョコレート等が挙げられる。また、みかん、りんご、スイカ、メロン、マンゴー、柿、桃等の果物や、野菜、加工肉類等にも記録することができる。
【0044】
また、本発明のインクジェットインクは、上記課題に記載したように、規制がないためにかえって厳しく自主規制されがちとなるジルコニアやジルコニウム又はジルコニウムイオン等が殆ど検出されないため、薬剤関連での用途展開も容易となる。したがって、健康食品や、医療用の錠剤等への記録も可能である。健康食品又は医薬品用の錠剤は、コーティングの施された錠剤、コーティングのない素錠、易崩壊性の錠剤等、様々な種類の錠剤にも使用できる。
【0045】
また、本発明の印字方法では、インクジェットインクを、ドロップオンデマンドインクジェット装置のインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させるので、本発明のインクジェットインクのように顔料を分散させたインクジェットインクであっても、経時的に発生する顔料沈降を当該循環により防止し、長時間安定して印字することができる。また、当該循環の際には、温度調整、脱気、脱泡等を行うことにより、インクジェット装置中を循環するインクジェットインクの物性の変化や劣化を防ぎ、さらに吐出を安定することができる。
また、少なくとも2台以上のインクジェットヘッドを設け、少なくとも1台のインクジェットヘッドが印字を行う稼働中に、他の少なくとも1台のインクジェットヘッドは印字を行わせずにメンテナンス領域に待機させることとし、メンテナンス領域にあるインクジェットヘッドは、フラッシング、ワイピング、プリカーサを一定間隔で実施する。そして、印字させるインクジェットヘッドと、メンテナンス領域で待機するインクジェットヘッドとを、所定の時間ごとに変更することで、吐出不良やとび曲りを回避し、印字品質を保ち、さらに長期の連続した印字が可能となる。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
本実施例1では、インクジェットインク作製の中間工程で得られる顔料分散体として、表1に示す分散体1を作製した。
具体的には、まず、水にヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と記載)を溶解させて高分子分散剤溶液を作製した(第一の工程)。
次に、前記高分子分散剤溶液中に、うばめかしを原料とする備長炭を混合し、ジルコニアビーズ(ビーズ組成:ZrO
2を95重量%含有する他、HfO
2及びY
2O
3を微量含有、ビーズ粒径:φ0.3mm)を充填した横型サンドミル(ウレタン樹脂製のビーズ撹拌ディスクを備え、ジルコニア強化アルミナライニングを施したウィリー・エ・バッコーフェン社製のダイノーミルマルチラボ)にて周速12m/secで2時間分散処理して分散体1を作製した(第二の工程)。
【0047】
続いて本実施例1では、分散体1を用いたインクジェットインクを作製した。本実施例1では、25%白色セラック(酸価83)−エタノール溶液70重量部、炭酸アンモニウム1.5重量部、エタノール4.5重量部、精製水20重量部を撹拌混合して得たセラック溶液と4重量部の分散体1とをガラス製のビーカーに入れ、ステンレス製のプロペラにて撹拌混合した(第三の工程)。
その後、保留粒子径1μmのフィルタにて濾過し、ドロップオンデマンド用のインクジェットインクを作製した。本実施例にて作製したインクジェットインクのジルコニウム濃度をICP発光分析装置(堀場製作所製型式ULTIMA2)で測定したところ、分散体1と同様、ジルコニウムの含有量は1.0mg/kg、すなわち百万分率で1.0ppmであった。
【0048】
[実施例2]
顔料として酸化チタンを用い、分散体1で用いたものとは異なるHPCを用いて、下記の表1に示す処方で、メディア撹拌ディスクの周速を9m/secとした以外は実施例1と同様の分散処理を行い、分散体2を作製した。さらに、この分散体2を用いて、実施例1と同様に表2に記載された処方に基づき、25%白色セラック(酸価83)−エタノール溶液65重量部、炭酸アンモニウム1重量部、エタノール5重量部、精製水24重量部を撹拌混合して得たセラック溶液と5重量部の分散体2とをガラス製のビーカーに入れ、ステンレス製のプロペラにて撹拌混合した後、濾過精度1μmのフィルタにて濾過し、ドロップオンデマンド用のインクジェットインクを作製した。このインクジェットインクについてもジルコニウムの濃度を測定したところ、ジルコニウムの含有量は0.5ppmであった。
【0049】
[実施例3]
顔料として三二酸化鉄を用い、溶剤として水とエタノールの混合溶剤を用い、下記の表1に示す処方で、メディア撹拌ディスクの周速を13m/secとした以外は実施例1と同様の分散処理を行い、分散体3を作製した。さらに、この分散体3を用いて、実施例1と同様に表2に記載された処方に基づき、25%白色セラック(酸価83)−エタノール溶液72重量部、炭酸アンモニウム1.3重量部、エタノール1.7重量部、精製水20重量部を撹拌混合して得たセラック溶液と5重量部の分散体3とをガラス製のビーカーに入れ、ステンレス製のプロペラにて撹拌混合した後、濾過精度1μmのフィルタにて濾過し、ドロップオンデマンド用のインクジェットインクを作製した。このインクジェットインクについてもジルコニウムの濃度を測定したところ、ジルコニウムの含有量は1.2ppmであった。
【0050】
[実施例4]
顔料として食用青色1号レーキを用い、下記の表1に示す処方で、実施例1と同様の分散処理を行い、分散体4を作製した。さらに、この分散体4を用いて、実施例1と同様に表2に記載された処方に基づき、50%白色セラック(酸価85)−エタノール溶液35重量部、炭酸アンモニウム1.5重量部、エタノール33.5重量部を撹拌混合して得たセラック溶液と30重量部の分散体4とをガラス製のビーカーに入れ、ステンレス製のプロペラにて撹拌混合した後、濾過精度1μmのフィルタにて濾過し、ドロップオンデマンド用のインクジェットインクを作製した。このインクジェットインクについてもジルコニウムの濃度を測定したところ、ジルコニウムの含有量は2.1ppmであった。
【0051】
[実施例5]
顔料として食用黄色5号レーキを用い、分散体1で用いたものとは異なるHPCを用いて、下記の表1に示す処方で、実施例1と同様の分散処理を行い、分散体5を作製した。さらに、この分散体5を用いて、実施例1と同様に表2に記載された処方に基づき、50%白色セラック(酸価85)−エタノール溶液35重量部、炭酸アンモニウム1.5重量部、エタノール33.5重量部を撹拌混合して得たセラック溶液と30重量部の分散体4とをガラス製のビーカーに入れ、ステンレス製のプロペラにて撹拌混合した後、濾過精度1μmのフィルタにて濾過し、ドロップオンデマンド用のインクジェットインクを作製した。このインクジェットインクについてもジルコニウムの濃度を測定したところ、ジルコニウムの含有量は2.0ppmであった。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
なお、各表中で、処方を示す数値は重量部を表している。また、表1中でHPCはヒドロキシプロピルセルロースを示し、(*1)を付したものは2重量部のHPC水溶液の粘度が、20℃において2.5mPa・sとなるもの、(*2)を付したものは2重量部のHPC水溶液の粘度が、20℃において3.85mPa・sとなるものである。
【0055】
また、表2に示すインクジェットインクの物性については次の通り、測定、評価したものである。
「平均粒子径」は、日機装株式会社製の粒度分布計(UPA型)を用いてインクジェットインク中の顔料のメジアン径(d50)を測定した。
「粘度」(20℃、mPa・s)は、TOKI産業社製の粘度計(EHコーン型)を用いて測定した。
「pH」は、pHメーターを用いて測定した。
「再分散性」は、作製後24時間以上放置したインクジェットインクを、人の手によって20回振とうさせたのちに濾過し、その濾紙に顔料が残留するか否かで評価した。
【0056】
さらに、表2に示した物性項目のうち、下記に挙げるものは、各実施例にて作製したインクジェットインクを、ドロップオンデマンド式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製 試作品)に充填し、連続して印字テストを行ない、その印字テストに基づいて性能を評価した。このときの印字対象物には、リンゴ、マンゴー、菓子類、錠剤、食品用ポリアミドフィルムを用いている。いずれにおいても良好な印字を示した。
「耐水性(溶出)」は、各実施例にて作製したインクジェットインクで印字した印字対象物の印字面を、水で湿らせたときのインクの溶け出しの有無とその水への着色により確認した。
「密着性(剥離)」は、印字対象物を疑似錠剤とし、当該錠剤に対して各実施例にて作製したインクジェットインクを用いて印字し、印字部分を綿棒で擦ったときの剥離の有無により確認した。
「高温環境での印字性能」は、室温を45℃に保持した環境室内にてインクジェットプリンタでの印字テストを行なったときの、連続吐出性及び印字性能を評価した。
「低温環境での印字性能」は、室温を5℃に保持した環境室内にてインクジェットプリンタでの印字テストを行なったときの、連続吐出性及び印字性能を評価した。
「連続吐出性」は、ノズルの詰り、印字不良、フォント異常等の有無で判定した。
【0057】
[比較例1]
本比較例1では、実施例1の分散体を作製する工程において、ウレタン樹脂製のメディア撹拌ディスクの代わりにジルコニア製のメディア撹拌ディスクを備えた横型サンドミル(ジルコニア強化アルミナライニングを施したウィリー・エ・バッコーフェン社製のダイノーミルマルチラボ)を用いて、周速16m/secで2時間分散し、その後、実施例1と同様の処方及び工程にてインクジェットインクを作製した。本比較例1にて作製したインクジェットインクのジルコニウムを実施例1と同様の測定方法で測定したところ、ジルコニウムの含有量は15mg/kg、つまり15ppmであった。なお、本比較例1にて作製した分散体及びインクジェットインクの分散性、ならびに循環型DOD(後述の実施例9で用いたもの)を用いた本比較例1のインクジェットインクの印字特性には、とりわけ問題はなかった。
【0058】
[比較例2]
本比較例2では、実施例2の分散体を作製する工程において、周速を20m/secとした以外は比較例1と同様の方法で分散処理し、その後、実施例2と同様の処方にてインクジェットインクを作製したが顔料の凝集が生じ、保留粒子径1μmのフィルタを通過することができなかった。本比較例2にて作製したインクジェットインクのジルコニウムを実施例1と同様の測定方法で測定したところ、ジルコニウムの含有量は18ppmであった。本比較例2にて作製したインクジェットインクでは凝集が生じ、粒子径(d50)が1.2μmまで上昇しているため、循環型DOD(後述の実施例9で用いたもの)においても吐出させることができなかった。
【0059】
[比較例3]
本比較例3では、実施例3の分散体を作製する工程において、比較例1と同様の方法で分散処理し、その後、実施例3と同様の処方及び工程にてインクジェットインクを作製した。本比較例3にて作製したインクジェットインクのジルコニウムを実施例1と同様の測定方法で測定したところ、ジルコニウムの含有量は14ppmであった。なお、本比較例1にて作製した分散体及びインクジェットインクの分散性、ならびに循環型DOD(後述の実施例9で用いたもの)を用いた本比較例3のインクジェットインクの印字特性には、とりわけ問題はなかった。
【0060】
[比較例4]
本比較例4では、実施例4の分散体を作製する工程において、比較例1と同様の方法で分散処理し、その後、実施例4と同様の処方及び工程にてインクジェットインクを作製した。本比較例4にて作製したインクジェットインクのジルコニウムを実施例1と同様の測定方法で測定したところ、ジルコニウムの含有量は21ppmであった。なお、本比較例4にて作製した分散体及びインクジェットインクの分散性、ならびに循環型DOD(後述の実施例9で用いたもの)を用いた本比較例4のインクジェットインクの印字特性には、とりわけ問題はなかった。
【0061】
[比較例5]
本比較例5では、実施例5の分散体を作製する工程において、比較例1と同様の方法で分散処理し、その後、実施例5と同様の処方及び工程にてインクジェットインクを作製した。本比較例5にて作製したインクジェットインクのジルコニウムを実施例1と同様の測定方法で測定したところ、ジルコニウムの含有量は20.5ppmであった。なお、本比較例5にて作製した分散体及びインクジェットインクの分散性、ならびに循環型DOD(後述の実施例9で用いたもの)を用いた本比較例5のインクジェットインクの印字特性には、とりわけ問題はなかった。
【0062】
[比較例6]
本比較例6では、実施例1の分散体を作製する工程において、周速を4m/secとした以外は実施例1と同様の方法で分散処理し、その後、実施例1と同様の処方にてインクジェットインクを作製したところ、保留粒子径1μmのフィルタを通過することができなかった。本比較例6にて作製した分散体、及びインクジェットインクの顔料粒子径(d50)は1.1μmであり、分散処理が不足していた。また、本比較例6にて作製したインクジェットインクは、循環型DOD(後述の実施例9で用いたもの)においても吐出させることができなかった。
【0063】
[実施例6]
本実施例6では、実施例1にて作製した分散体1を10重量部と、25%白色セラック(酸価85)−エタノール溶液64重量部、炭酸アンモニウム1.5重量部、エタノール4.5重量部、精製水20重量部を撹拌混合して得たセラック溶液とをガラス製のビーカー内でステンレス製のプロペラ撹拌機にて攪拌、混合した後、遠心分離機を用いて沈降物を除去し、濾過精度1μmのフィルタにて濾過を行い、ドロップオンデマンド用のインクジェットインクを作製した。本実施例6にて作製したインクジェットインクのジルコニウム濃度を、実施例1と同様の方法にて測定したところ、ジルコニウムの含有量は、2.1ppmであった。さらに、このインクジェットインクを、サーマル方式のインクジェット装置に充填し、上記実施例1〜5と同様の連続印字検査をおこなったところ、にじみのない、また、耐光性の良好な印字物が得られた。
【0064】
[実施例7]
本実施例7では、実施例1で分散体を作製する工程において、ウレタン樹脂製のメディア撹拌ディスクの代わりにステンレス製のメディア撹拌ディスクを備えた横型サンドミル(ジルコニア強化アルミナライニングを施したウィリー・エ・バッコーフェン社製のダイノーミルマルチラボ)を用いて分散体を作製し、その後、実施例1と同様の処理を経てインクジェットインクを作製した。本実施例7にて作製したインクジェットインクのジルコニウム濃度を、実施例1と同様の方法にて測定したところ、ジルコニウムの含有量は、2.5ppmであった。
【0065】
[実施例8]
本実施例では、実施例1で分散体を作製する工程において、メディア撹拌ディスクの周速を6m/secとして分散体を作製し、その後、実施例1と同様の処理を経てインクジェットインクを作製した。本実施例7にて作製したインクジェットインクのジルコニウム濃度を、実施例1と同様の方法にて測定したところ、ジルコニウムの含有量は、1.9ppmであった。ただし、本実施例8では、ビーズミルの周速を12m/secとした場合に比べ、分散処理時間を長くしても、顔料粉体が微細にならなかった。この分散体を用いてインクジェットインクを作製したところ、濾過精度1μmのフィルタが顔料粉体による目詰まりを起こし、何度もフィルタを交換しなければならないという点で、濾過工程に支障があった。
【0066】
[実施例9]
本実施例9では、上記実施例1〜6において作製したインクジェットインクを、ドロップオンデマンド型インクジェット装置に充填し、連続した印字を実施した。使用したドロップオンデマンド型インクジェット装置は、インクジェットヘッドとインクタンク筐体との間及びインクジェットヘッド内にインク循環経路を有する(循環型DOD)。このような循環機構を有するインクジェット装置を使用することにより、インクジェットヘッド内にインクの滞留や顔料の沈降、ノズル面でのインク固化がなくなり、長時間安定した吐出及び高精細な印字を得た。さらに長時間、無印字のまま放置した後であっても全てのノズルからのインク吐出を確認した。このインク循環経路には、加熱手段及び放熱手段が設けられており、このような温度調整機構を利用することにより、環境温度変化、また、稼働状況でのインク温度の変化をなくすことができ、安定した吐出及び高精細な印字を継続することができた。
【0067】
[実施例10]
本実施例10では、上記実施例1〜6において作製したインクジェットインクを、循環型DODに充填し、連続した印字を実施した。本実施例10では、インクジェットインクをインクジェットヘッドとインクタンク筐体との間で循環させる際に、循環インクの脱気や脱泡を行うようにした。具体的には、循環経路に、カートリッジ状の中空糸繊維を使用した脱気機構、及び、多孔質部材を使用した脱泡機構を付した。これにより、インク圧力変化による気泡の発生、インクの流動に伴う振動や、外部からの振動による泡の発生があった場合にも、当該脱気機構及び消泡機構によりインクジェットインク中の気体や気泡を除去することができ、高速での印字を安定に継続できた。
【0068】
[実施例11]
本実施例11では、上記実施例1〜6において作製したインクジェットインクを用い、インクジェット装置で印字対象物へ印字するために、循環型DODのインクジェットヘッドを2台設置した。インクジェット装置が稼働し、上記2台の内、一方のインクジェットヘッドが印字対象物へ印字を行っている間、他方のインクジェットヘッドをメンテステーションに待機させ、待機中に、プリカーサ、フラッシング、ワイピングを一定間隔にて実施した。そして、2台のインクジェットヘッドの内、印字に用いるインクジェットヘッドと、メンテナンスステーションに待機させるインクジェットヘッドとを、所定の時間ごとに変更することで、さらに、長時間安定した吐出及び印字を継続することができた。また、印字の精度、印字品質共に良好であった。