(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度推定部は、前記関係式に、ガスタービン出力値若しくは燃料流量と圧縮機に流入する空気の流量及び温度とからガスタービンのヒートバランスデータを用いて得られたガスタービンの複数の状態量の設計値と、当該状態量に含まれる所定の温度の設計値に対応する計測可能な温度の計測値とを代入して前記タービン入口温度を推定する
ことを特徴とする請求項1に記載の温度推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態による温度推定装置を
図1〜
図5を参照して説明する。
図1は本発明に係る第一実施形態におけるガスタービンプラントの系統図である。
本実施形態のガスタービンプラントは、
図1に示すように、ガスタービン10と、ガスタービン10の駆動で発電する発電機16と、ガスタービン10へ燃料を供給する燃料供給装置22と、燃料供給の制御を行う燃料制御装置26と、燃料供給の制御に必要なタービン入口温度を推定する温度推定装置30とを備えている。ガスタービン10と発電機16は、ロータ15で連結されている。
ガスタービン10は、空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機11と、圧縮空気と燃料ガスとを混合して燃焼させ、高温の燃焼ガスを生成する燃焼器12と、燃焼ガスにより駆動するタービン13と、を備えている。
【0022】
圧縮機11には、IGV14が設けられている。IGV14は圧縮機11へ流入する空気の量を調整する。IGV14は、IGV制御装置(図示せず)のIGV開度指令により制御される。IGV制御装置は、IGV開度指令値を温度推定装置30に出力する。圧縮機11の入り口側には、温度計18が設けられている。温度計18は、大気温度を計測し温度推定装置30に出力する。圧縮機11の出口側には、温度計19が設けられている。温度計19は、圧縮機11の出口における圧縮空気の温度(車室温度)を計測し温度推定装置30に出力する。
【0023】
燃焼器12は、燃焼器12に燃料を供給する燃料供給装置22と接続されている。燃焼器12には、火炎の安定燃焼や低NOxを実現するために複数の系統から燃料が供給される。燃料供給装置22と、燃焼器12の間には、燃料の供給系統ごとに燃料の供給量を調節する弁23〜25が設けられている。燃料制御装置26は、弁23〜25の弁開度を調整し、燃焼器12に供給する燃料の流量を制御する。
タービン13の排気口側には、温度計20が設けられている。温度計20は、タービン13から排気される排ガスの温度を計測し温度推定装置30に出力する。
【0024】
発電機16には、電力計21が備えられており、発電機16による発電電力を計測し、温度推定装置30へ出力する。
温度推定装置30は、タービン入口温度を推定する。上述のとおりタービン入口温度は、高温・高圧のため計測するのが困難である。温度推定装置30は、各燃料供給系統への燃料配分比を決定するために必要なタービン入口温度を推定し、推定したタービン入口温度を燃料制御装置26へ出力する。以下、タービン入口温度をT1Tと称する場合がある。
【0025】
次に、各部を流れる気体の流量[kg/s]や温度[℃]、比エンタルピ[kcal/kg]などの表記について説明する。圧縮機への空気の吸気流量をG
1、燃焼器への空気の流量をG
a、圧縮機からタービンへの抽気流量をG
c、燃焼器への燃料流量をG
f、タービンへの燃焼ガスの流量をG
gと表記する。また、車室における空気の比エンタルピをh
cs、燃焼器への燃料の比エンタルピをh
f、タービンへの燃焼ガスの比エンタルピをh
g、タービンから排出されるガスの比エンタルピをh
EXと表記する。また、吸気の大気温度をT
1、車室の空気温度をT
cs、排ガスの排気温度をT
EXと表記する。
また、温度から比エンタルピへの変換関数をfで表し、例えば、h
cs=f(T
cs)や、T
cs=f
−1(h
cs)が成り立つ。また、G
g=G
a+G
fが成り立つ。
【0026】
図2は、本発明に係る第一実施形態における温度推定装置の一例を示すブロック図である。
温度推定装置30は、パラメータ取得部31、タービン入口温度推定部32、記憶部33を有している。
パラメータ取得部31は、電力計21から定期的にガスタービン出力の計測値を取得し、記憶部33へ記録する。また、パラメータ取得部31は、温度計18から定期的に大気温度の計測値を取得し、記憶部33へ記録する。また、パラメータ取得部31は、温度計19から定期的に車室温度の計測値を取得し、記憶部33へ記録する。また、パラメータ取得部31は、温度計20から定期的に排気温度の計測値を取得し、記憶部33へ記録する。また、パラメータ取得部31は、IGV制御装置からIGV開度指令値を定期的に取得し、記憶部33へ記録する。
【0027】
タービン入口温度推定部32は、パラメータ取得部31が取得した各温度などのパラメータを用いてタービン13の入口における燃料ガスの温度を推定する。燃焼器12で燃焼させられた燃料ガスの温度は、1500℃を超える高温となる為、温度計などで計測することができない。従って、タービン入口温度推定部32は、取得したパラメータを用いて、タービン入口温度を推定する。具体的な推定方法については後述する。
【0028】
記憶部33は、ガスタービン設計時にシミュレーションなどで定められたガスタービンの熱収支を表すヒートバランスデータを記憶している。このヒートバランスデータは、例えばガスタービン出力計測値(以下、GT出力計測値)または燃料流量指令値、大気温度計測値、IGV開度指令値を入力値とする関数であって、ヒートバランスデータを用いると、これら3つの入力値の条件を満たす、タービン入口温度、GT出力値、車室温度、排気温度、吸気流量、抽気流量、燃料流量などの設計値を得ることができる。また、記憶部33は、タービン入口温度推定の計算に用いるプログラムや、パラメータ取得部31が取得した各種パラメータを記憶している。また、記憶部33は、温度から比エンタルピを求める関数fやその逆関数f
−1を記憶している。
【0029】
次にタービン入口温度の推定方法について説明する。まず、従来の推定方法とその問題点について
図14〜16を用いて説明する。
図14は、従来の温度推定方法の一例を示す図である。
図14が示すように、従来は、GT出力計測値、大気温度計測値、IGV開度指令値を入力値とし、ヒートバランスデータを用いて、タービン入口温度の設計値(T1T推定値)を算出していた。このT1T推定値は、ガスタービンの設計時のデータを基に算出された値であるため、運転状況の変化が生じると、実際のタービン入口温度とずれが生じる。運転状況を示す指標には、燃料カロリー、燃焼効率、タービン効率、圧縮機効率などがある。これらの指標が経年劣化などによって変化すると、実際のタービン入口温度も変化する。しかし、従来の方法でガスタービン入口温度を推定すると、運転状況の変化に関わらず、設計時に設定されたT1T推定値となる。
【0030】
図15は、従来の方法による温度推定値の推移の一例を示す第一の図である。
図15は、運転状況変化時におけるT1T推定値と、実際のタービン入口温度の関係を示している。
図15の縦軸はタービン入口温度(T1T)であり、横軸は時間である。
図15において符号41は、実際のタービン入口温度(実T1T値)の時間的推移を示している。符号42は、T1T推定値の時間的推移を示している。運転状況が変化しガスタービンの性能が低下すると、ガスタービンの出力計測値も低下する。符号42は、その低下したガスタービン出力計測値を入力値としてヒートバランスデータから算出したT1T推定値を示している。
図15が示すようにガスタービンの稼働状態が定常状態であるか過渡状態であるかに関わらず、T1T推定値42は、実T1T値41から乖離している。
図15から、従来の方法によるT1T推定値の信頼性は、運転状況に変化によって低下することがわかる。
【0031】
図16は、従来の方法による温度推定値の推移の一例を示す第二の図である。
図16は、ガスタービンの稼働状態が過渡状態におけるT1T推定値と、実際のタービン入口温度の関係を示している。
図16の縦軸はT1Tであり、横軸は時間である。
図16は、
図15と異なり、運転状況の変化があまり生じていない場合のグラフである。この場合、定常状態においては、T1T推定値42が、実T1T値41に近い値となっている。しかし、ヒートバランスデータは、定常状態の状態量に基づく大気温度等とT1T推定値42との関係性を定めたものである。従ってヒートバランスデータを用いて算出したT1T推定値42の過渡状態における推定精度は低くなってしまう。その結果、
図16が示すように過渡状態においては、T1T推定値42と実T1T値41とが乖離してしまう。
図16から、従来の方法によるT1T推定値42の信頼性は、過渡状態において低下することがわかる。
このように従来のT1T推定値42には、運転状況が変化した状態や過渡状態においては実際のT1T値からずれが生じてしまうという問題があった。
【0032】
次に第一実施形態におけるT1Tの推定方法について
図3を用いて説明する。
図3は、本発明に係る第一実施形態における温度推定方法の一例を示す図である。
本実施形態によるT1T推定方法でも、従来と同様にGT出力計測値または燃料流量指令値、大気温度計測値、IGV開度指令値を入力値としてヒートバランスデータによってT1T推定値を算出する。本実施形態においては、このT1T推定値を補正前のT1T推定値として、このT1T推定値(補正前)に対して補正を行う。この補正を行うために、GT出力の設計値、車室温度の設計値、排気温度の設計値、吸気温度の設計値、抽気温度の設計値、燃料流量の設計値、GT出力計測値、車室温度計測値、排気温度計測値などを用いる。GT出力の設計値、車室温度の設計値、排気温度の設計値、吸気温度の設計値、抽気温度の設計値、燃料流量などの設計値は、GT出力計測値、大気温度計測値、IGV開度指令値を入力値として、ヒートバランスデータを用いてタービン入口温度推定部32が算出した値である。なお、タービン入口温度推定部32は、ヒートバランスデータを用いてT1T推定値だけではなく、ここで例示したガスタービンに関する各状態量の設計値を算出することができる。また、GT出力計測値は、電力計21の計測値である。車室温度計測値は、温度計19の計測値である。排気温度計測値は、温度計20の計測値である。
【0033】
次に、T1T推定値(補正前)に対する補正の方法について説明する。本実施形態では、
圧縮機仕事、タービン仕事、GT出力値の関係、及び設計値を用いて表した仕事と実機で計測した仕事の差を用いて補正後のT1T推定値(補正後)を求める。
<圧縮機仕事>
圧縮機仕事をMW
compとし、圧縮機に入る空気流量をG
incomp、比エンタルピをh
incomp、圧縮機から出る空気流量をG
outcomp、比エンタルピをh
outcompとすると、圧縮機仕事は、圧縮機に入るエネルギーと出るエネルギーの差であるから以下の式で表すことができる。
MW
comp = G
incomp × h
incomp
− G
outcomp × h
outcomp
・・・・(1)
また、実際の圧縮機仕事をMW
compc、設計値によって想定する圧縮機仕事をMW
comprefとすると、実際と想定の圧縮機仕事の差は以下の式で表すことができる。
ΔMW
comp = MW
compc − MW
compref ・・・・(2)
【0034】
<タービン仕事>
タービン仕事についても圧縮機と同様である。ただし、タービン入口温度(Tg)は計測困難なため、タービン仕事とタービンに入る流体の比エンタルピは、タービン入口温度(Tg)の関数として表す。タービン仕事をMW
turb[Tg]とし、タービンに入る燃焼ガスの流量をG
inturb、比エンタルピをh
inturb、タービンから出る排ガスの流量をG
outturb、比エンタルピをh
outturbとすると、タービン仕事は、以下の式で表すことができる。
MW
turb[Tg] = G
inturb × h
inturb
− G
outturb × h
outturb
・・・・(3)
また、実際のタービン仕事をMW
turbc、想定上のタービン仕事をMW
turbrefとすると、実際と想定のタービン仕事の差は以下の式で表すことができる。
ΔMW
turb[Tg] = MW
turbc[Tg] − MW
turbref
・・・・(4)
【0035】
<ガスタービン出力>
実際のGT出力計測値をGTMW
c、ヒートバランスデータから求めた各種パラメータを用いて算出した想定上のタービン仕事をGTMW
refとすると、実際のGT出力と想定上のGT出力の差は以下の式で表すことができる。
ΔGTMW = GTMW
c − GTMW
ref ・・・・(5)
また、GT出力値は、タービン仕事と圧縮機仕事の差である。従って以下の式が成り立つ。
GTMW = MW
turb − MW
comp ・・・・(6)
【0036】
<T1T推定値(補正後)>
(6)式の関係を、実際と想定の差の式として表すと以下の式が得られる。
ΔMW
turb[Tg] = ΔMW
comp + ΔGTMW ・・・・(7)
ここで、式(7)に式(2)、式(4)、式(5)を代入してタービン入口温度(Tg)について解く。そこで得られたTgが、本実施形態における補正後のタービン入口温度(T1T推定値(補正後))である。
【0037】
ここで、圧縮機11について例えば、式(1)を
図1で説明した記号を用いて表すと以下の式になる。
MW
comp = G1 × f(T1)
− ( G
a × f(T
cs)+ Gc × f(T
cs))
・・・・(1´)
また、式(2)は、以下の式で表すことができる。
【0039】
なお、添字
cは実際の値を表し、添字
refは設計値を用いた想定値を表す。
【0040】
また、タービン13について例えば、式(3)は以下の式で表すことができる。
【0042】
ここで式(7)の左辺に式(4)を代入して整理すると以下の式が得られる。
MW
turbc[Tg] = ΔMW
comp + ΔGTMW
+ MW
turbref
・・・・(7´)
この式(7´)にさらに、式(3)を代入すると以下の式が得られる。
【0044】
ここで、G
inturbは、G
gである。また、h
in[Tg]は、関数fを用いて表せばf(Tg)である。この式(7´´)に、式(1´)などを代入してTgについて解くと、次の式(8)が得られる。
【0046】
この式に、温度計19で計測した車室温度、温度計20で計測した排気温度、ヒートバランスデータから算出した圧縮機への吸気流量、燃焼器に流入する空気流量、抽気流量、燃料流量、車室温度、排気温度の設計値、T1T推定値(補正前)などを代入し、温度から比エンタルピへ変換する関数fの逆関数によってTgを求めることができる。求めたTgがT1T推定値(補正後)である。式(8)により、従来からT1T推定に使用していたGT出力計測値、大気温度計測値、IGV開度指令値に加え、車室温度と排気温度の計測値が取得できれば、後はヒートバランスデータを用いて取得できる各種状態量と、逆関数f
−1によってT1T推定値(補正後)を求めることができる。
【0047】
次に
図4を用いて本実施形態におけるタービン入口温度の推定処理について説明する。
図4は、本発明に係る第一実施形態における温度推定処理のフローチャートである。
まず、温度推定装置30のパラメータ取得部31が、電力計21からGT出力計測値、温度計18から大気温度の計測値、温度計19から車室温度の計測値、温度計20から排気温度の計測値、IGV制御装置からIGV開度指令値を取得し、取得したそれぞれの値を記憶部33へ記録する(ステップS1)。次にタービン入口温度推定部32が、取得したGT出力計測値、大気温度の計測値、IGV開度指令値を記憶部33から読み出して、これらの値を入力値として、記憶部33に格納されたヒートバランスデータを用いて、T1T推定値(補正前)、車室温度、吸気流量など各種状態量の設計値を算出する(ステップS2)。次にタービン入口温度推定部32は、圧縮機仕事、タービン仕事、GT出力値の関係性(式(6))及び、圧縮機の実仕事と想定上仕事の差(式(2))、タービンの実仕事と想定上仕事の差(式(4))、ガスタービンの出力計測値と設計値の差(式(5))の関係式に基づいてT1T推定値(補正後)を算出する(ステップS3)。具体的な算出方法は上述のとおりである。タービン入口温度推定部32は、算出したT1T推定値(補正後)を記憶部33に記録し、また、燃料制御装置26に出力する。なお、ヒートバランスデータの入力値として燃料流量指令値を用いることが可能である。
【0048】
図5は、本発明に係る第一実施形態による温度推定値の推移の一例を示す図である。
図5は、ガスタービンの運転状況が経年劣化などにより変化した後の本実施形態によるT1T推定値(補正後)42と実T1T値41の関係を示している。
図5の縦軸はT1Tであり、横軸は時間である。
図15と異なり、T1T推定値(補正後)42は、定常状態においては実T1Tとほぼ同じ値となっている。これは、本実施形態による実際の温度計測値を用いた補正により、運転状況の変化による推定精度の劣化を防ぐことができたためである。また、従来の方法によれば、例えば運転開始からあまり時間が経過していない場合など、運転状況に変化がないときには
図16のグラフで表されたようなT1Tを推定することができたが、本実施形態によれば、運転状況に変化が生じた後もT1T推定値の推定精度を保つことができる。
【0049】
本実施形態によれば、タービン入口温度の関数で示されるタービン仕事の実際値と前記タービン仕事の推定値との差分を示すタービン仕事差から、圧縮機仕事の実際値と推定値との差分を示す圧縮機仕事差を減じた値に、GT出力の計測値と推定値との差分を示すガスタービン出力差が等しいことの関係(式(6))と、ガスタービンの各構成要素における計測可能な温度及びガスタービン出力値の計測値を用いて、従来の方法によるT1T推定値を補正することで、燃焼カロリー、燃焼効率、タービン効率、圧縮機効率などの運転状況が変化しても、精度の高いT1T推定値を求めることが可能である。
【0050】
<第二実施形態>
以下、本発明の第二実施形態による燃料制御装置を
図6〜
図8を参照して説明する。
図6は、本発明に係る第二実施形態における温度推定装置の一例を示すブロック図である。
図6で示すように、本実施形態において温度推定装置30は、定常状態判定部34と、第1補正部35を備えている点が第一の実施形態とは異なる。他の構成は第一の実施形態と同様である。
定常状態判定部34は、ガスタービンの稼働状態が定常状態かどうかを判定する。定常状態の判定には、例えば燃料温度、排気温度、GT出力値など定常状態で収束する値を用いて判定する。例えば、定常状態判定部34は、パラメータ取得部31が取得したGT出力計測値を確認して所定の期間におけるGT出力計測値が所定の範囲に収まっている場合、定常状態であると判定する。
【0051】
第1補正部35は、第一実施形態で算出したT1T推定値(補正後)(以下、T1Tsとする)に対してさらに補正を行う。具体的には第1補正部35は、ガスタービン稼働状態が定常状態である場合に、非定常時における燃焼器のエネルギー収支を表した過渡モデルを用いて算出した第2タービン入口温度推定値(T1Tt)に対するタービン入口温度推定部32の推定した第1タービン入口温度推定値(第一実施形態によるT1Ts)の比を示す第1係数(ε)を計算して記録する。また、第1補正部35は、ガスタービン稼働状態にかかわらず、第2タービン入口温度推定値に記録した第1係数(ε)を乗じて補正後の新たなタービン入口温度を推定する。本実施形態による補正後のタービン入口温度推定値を以下、T1T推定値(補正後2)と称する。
【0052】
図7は、本発明に係る第二実施形態における温度推定方法の一例を示す図である。
図7を用いて本実施形態のT1Tの推定方法について説明する。
まず、符号51で示した、第1補正部35が過渡モデルを用いてT1Ttを算出する処理について説明する。過渡モデルは、燃焼器回りの非定常物理式である以下の式で表される。
M・dh
g/dt=Gf・hf + Ga・ha + η・Gf・HV
− (Ga + Gf)・hg ・・・・・(9)
第1補正部35は、この式を用いてタービン入口での比エンタルピh
gを算出し、次式からT1Ttを算出する。
T1Tt=f
g−1(h
g) ・・・・・(10)
ここで、Mは保有重量[kg]であり、ηは燃焼効率であり、HVは燃料ガスの単位あたりの発熱量[kcal/kg]である。また、f
gは、タービン入口における温度から比エンタルピへの変換関数であり、f
g−1はその逆関数である。これら、η、HV、f
g−1は、予め記憶部33に格納されているものとする。また、G
a、G
fは、ヒートバランスデータから算出し、h
f、h
aは、T
f、T
aからf
−1を用いて算出した値である。第1補正部35は、式(9)を用いて過渡状態におけるタービン入口温度T1Ttを算出する。
【0053】
次に、符号52で示した処理について説明する。この処理ではタービン入口温度推定部32が、第一実施形態で説明した方法でT1Tsを算出する。タービン入口温度推定部32は、T1Tsを第1補正部へ出力する。
【0054】
次に、符号53で示した処理について説明する。この処理では定常状態判定部34がガスタービンの稼働状態が定常状態か否かを判定する。定常状態判定部34は、例えば温度計20が計測した排気温度や電力計21が計測したGT出力値の時系列での分散を算出し、所定の値に収束すると定常状態と判定する。また、定常状態判定部34は、ガスタービンが定常状態であるか否かを示すフラグを第1補正部35へ出力する。
【0055】
次に、符号54で示した処理について説明する。この処理では、定常状態判定部34から取得したフラグが定常状態を示しているときに、第1補正部35が、第1係数(ε)を計算し、その値を記憶部33に記録する。第1係数(ε)は、以下の式で表すことができる。
ε = T1Ts ÷ T1Tt ・・・(11)
第1補正部35は、ガスタービンが定常状態のときのみ、この第1係数(ε)を学習する。εの算出に用いるT1Tsは、定常状態のときにタービン入口温度推定部32が推定した値である。また、T1Ttは、定常状態のときに第1補正部が式(9)、式(10)を用いて算出した値である。定常状態時の値を用いて計算したεは、定常状態で推定精度の高いT1Tsを信頼性のある参照データとした場合のT1Ttの値を補正するための係数という意味を持つ。つまり、式(9)を用いて算出したT1Ttの値の大きさをεによって補正する。第1補正部35は、εを計算するとその値を記憶部33に記録する。
【0056】
次に、符号55で示した処理について説明する。この処理では、第1補正部35が、εを記憶部33から読み出し、T1Ttに乗算してT1T推定値(補正後2)を算出する。
T1T推定値(補正後2)= T1Tt × ε ・・・・(12)
このT1T推定値(補正後2)が本実施形態で算出する最終的なT1T推定値である。本実施形態では、過渡状態及び定常状態を通じたタービン入口温度の変動を式(9)を用いて算出し、第一実施形態で求めたT1Tsを用いてタービン入口温度の大きさを調整してT1T推定値(補正後2)を求める。なお、式(12)によれば定常状態においては、T1T推定値(補正後2)はT1Tsと等しくなる。
以上の処理全体の流れについて説明する。まず、符号51〜53の処理を並行して行い、次にこれらの処理の結果を用いて第1補正部35が符号54の第1係数の学習を行う。続いて第1補正部35が符号55の処理を行ってT1T推定値(補正後2)を算出する。
【0057】
図8は、本発明に係る第二実施形態による温度推定値の推移の一例を示す図である。
図8は、ガスタービンの運転状況が経年劣化などにより変化した後の本実施形態によるT1T推定値(補正後2)と実T1T値の関係を示している。
図8の縦軸はT1Tであり、横軸は時間である。
図8には、実T1T値の時間的推移(符号41)と、T1Tsの時間的推移(符号42)に加え、本実施形態によるT1T推定値(補正後2)の時間的推移(符号43)が示されている。この図によれば、T1T推定値(補正後2)は、定常状態だけではなく過渡状態においても実T1T値に近い値となっていることがわかる。
【0058】
本実施形態によれば、第一実施形態のT1T推定値(補正後)を参照データとして推定精度の確保を図りつつ、外乱に対する応答を考慮することで、第一実施形態の効果に加えて過渡状態におけるタービン入口温度の推定精度も向上することができる。
【0059】
<第三実施形態>
以下、本発明の第三実施形態による温度推定装置を
図9〜
図11を参照して説明する。
図9は、本発明に係る第三実施形態における温度推定装置の一例を示すブロック図である。
図9で示すように、本実施形態において温度推定装置30は、第1補正部35に代えて第2補正部36を備えている。他の構成は第二の実施形態と同様である。
第2補正部36は、第一実施形態で算出したT1Tsに対してさらに補正を行う。具体的には、第2補正部36は、ガスタービンの稼働状態が定常状態である場合に、非定常時の燃焼器のエネルギー収支を表した過渡モデルに用いる第2係数(ηまたはHV)を計算して記録する。また、第2補正部36は、ガスタービン稼働状態にかかわらず、記録した第2係数を適用した過渡モデルを用いてタービン入口温度を推定する。本実施形態による補正後のタービン入口温度推定値を以下、T1T推定値(補正後3)と表記する。
【0060】
図10は、本発明に係る第三実施形態における温度推定方法の一例を示す図である。
図10を用いて本実施形態のT1Tの推定方法について説明する。
まず、符号61で示した処理について説明する。この処理ではタービン入口温度推定部32が、第一実施形態と同様にT1Tsを算出し、T1Tsを第2補正部36へ出力する。
次に、符号62で示した処理について説明する。この処理では第二実施形態と同様に定常状態判定部34がガスタービンの稼働状態が定常状態か否かを判定し、ガスタービンが定常状態であるか否かを示すフラグを第2補正部36へ出力する。
【0061】
次に、符号63で示した処理について説明する。この処理では第2補正部36が、定常状態判定部34から取得したフラグが定常状態を示しているときに、第二実施形態で示した過渡モデルの式(9)とT1Tsとを用いて、式(9)の燃焼効率(η)または燃料ガス発熱量(HV)を計算し、記憶部33に記録する。以下、燃焼効率(η)を計算する場合を例にして説明を行う。定常状態の場合、式(9)の左辺は0である。従って、式(9)は、以下で表すことができる。
0 =G
f・h
f + G
a・h
a + η・G
f・HV
− (G
a + G
f)・h
g ・・・・・(9´)
この式の右辺のh
gに、T1Tsを関数fで比エンタルピに変換した値を代入する。また、予め記憶部33に格納されたまたは外部から与えられた燃料ガス発熱量(HV)の値やヒートバランスデータから算出したG
a、G
f及び温度の設計値から関数fを用いて求めたh
a、h
fをそれぞれ式(9´)に代入する。すると熱効率ηの方程式となるので、ηを算出することができる。式(9´)より、ηは、以下の式で求めることができる。
η = {(G
a + G
f)× h
g − G
f×h
f − G
a×h
a}
÷ ( G
f× HV ) ・・・・(13)
【0062】
燃料ガス発熱量(HV)を計算する場合も同様である。式(9´)より、HVは、以下の式で求めることができる。
HV = {(G
a + G
f)× h
g − G
f×h
f − G
a×h
a}
÷ ( G
f× η ) ・・・・(14)
燃焼効率(η)や燃料ガス発熱量(HV)を計算して学習するのは、運転状況の変化の影響や燃料カロリーの変動が表れるのは、式(9)における第3項であるため、これらの物性値の精度を向上させることによりT1T推定値の推定精度も高まると考えられるからである。また、定常状態における状態量を用いて計算することで第一実施形態による精度の高いT1T推定値(補正後)に基づいた係数(ηまたはHV)を計算することができる。第2補正部36は、計算した係数(ηまたはHV)を記憶部33に記録する。
【0063】
次に、符号64で示した処理について説明する。この処理では第2補正部36が、上述の処理で計算した係数を適用した式(9)、式(10)を用いて、タービン入口温度を算出する。この値が本実施形態で算出する最終的なT1T推定値(補正後3)である。第二実施形態で説明したように式(9)のG
aなどの流量を示す値や比エンタルピに対応する温度は、ヒートバランスデータから算出した値を用いる。また、比エンタルピを求める逆関数f
−1や係数ηまたはHVなどは、予め記憶部33に記録されているものとする。
以上の処理全体の流れについて説明する。まず、符号61〜62の処理を並行して行い、次にこれらの処理の結果を用いて第2補正部36が符号63の第2係数の学習を行う。続いて第2補正部36が符号64の処理を行ってT1T推定値(補正後3)を算出する。
【0064】
図11は、本発明に係る第三実施形態による温度推定値の推移の一例を示す図である。
図11は、ガスタービンの運転状況が経年劣化などにより変化した後の本実施形態によるT1T推定値(補正後3)と実T1T値の関係を示したグラフである。
図11の縦軸はT1Tであり、横軸は時間である。
図11には、実T1T値の時間的推移(符号41)と、T1Tsの時間的推移(符号42)に加え、本実施形態によるT1T推定値(補正後3)の時間的推移(符号43)が示されている。この図によれば、T1T推定値(補正後3)は、定常状態だけではなく過渡状態においても実T1T値にほぼ等しい値となっていることが分かる。
図11によれば、T1T推定値(補正後3)は、
図8で示した第二実施形態によるT1T推定値(補正後2)よりも過渡状態においてより実T1Tに近い値を取っていることが分かる。これは、第二実施形態においては、過渡モデルの出力値全体に係数εをかけている為、過渡状態におけるT1T推定値の推定精度が上がるとはいえ、ある程度のずれが生じ得ると考えられるに対し、本実施形態では、運転状況の変化に関する係数に絞って補正を行うことでより推定精度を高めることができるためと考えられる。
【0065】
本実施形態によれば、過渡モデル内の運転状況の変化に関係する係数に補正を加えることで、第一実施形態、第二実施形態の効果に加えて、さらに過渡状態におけるタービン入口温度の推定精度を向上することができる。
なお、係数HVを予め定められた値として補正後の係数ηをまず求め、その係数ηを用いて補正後の係数HVを算出してもよい。
【0066】
<第四実施形態>
以下、本発明の第四実施形態による温度推定装置30を
図12を参照して説明する。
本実施形態の温度推定装置30は、第二実施形態の構成と同様である。但し、第1補正部35が計算したεを、GT出力値ごとに記憶部33に記録する点が第二実施形態と異なる。
【0067】
図12は、本発明に係る第四実施形態における温度推定方法の一例を示す図である。
図12を用いて本実施形態のT1Tの推定方法について説明する。
符号51〜55を付した処理は第二実施形態と同様である。つまり、第1補正部35は、過渡モデル式(9)、式(10)を用いてT1Ttを算出する(符号51)。また、並行してタービン入口温度推定部32は、第一実施形態の方法を用いてT1T推定値(補正後)を算出し、その値を第1補正部35へ出力する(符号52)。また、定常状態判定部34は、ガスタービンが定常状態か否かを判定しその結果を第1補正部35へ出力する(符号53)。次に第1補正部35は、定常状態判定部34の判定結果が定常状態を示すときに入力したT1TtとT1Tsを用いてε=T1Ts÷T1Ttを計算する。次に第1補正部35は、今回のヒートバランスデータの入力値として用いたGT出力計測値をパラメータ取得部31から取得し、GT出力値とεを対応付けて記憶部33に記録する(符号56)。次に第1補正部35は、パラメータ取得部31から最新のGT出力計測値を取得し、記憶部33からGT出力計測値に対応するεを読み出して、T1Ttにεを乗じてT1T推定値(補正後4)を算出する。なお、このT1T推定値(補正後4)は、本実施形態によって推定するタービン入口温度である。
【0068】
本実施形態によれば、GT出力値ごとに第1係数εを学習し記録することによって、例えば負荷が変化したような場合に、その負荷の変化に応じたεを用いてタービン入口温度を推定する。それにより、第一実施形態、第二実施形態の効果に加え、タービン入口温度の推定精度をより高める効果を得ることができる。なお、εと対応付けて記憶する値はGT出力値計測に限らない、GT出力の設計値や燃料流量指令値であってもよい。
【0069】
<第五実施形態>
以下、本発明の第五実施形態による温度推定装置30を
図13を参照して説明する。
本実施形態の温度推定装置30は、第三実施形態の構成と同様である。但し、第2補正部36は、計算した係数(ηまたはHV)を、GT出力値ごとに記憶部33に記録する点が第三実施形態と異なる。
【0070】
図13は、本発明に係る第五実施形態における温度推定方法の一例を示す図である。
図13を用いて本実施形態のT1Tの推定方法について説明する。
符号61〜64を付した処理は第二実施形態と同様である。つまり、タービン入口温度補正部32は、第一実施形態の方法を用いてT1T推定値(補正後)を算出し、その値を第2補正部36へ出力する(符号61)。また、定常状態判定部34は、ガスタービンが定常状態か否かを判定しその結果を第2補正部36へ出力する(符号62)。次に第2補正部36は、定常状態判定部34の判定結果が定常状態を示すときに過渡モデル式(9)を用いて第2係数ηまたはHVを算出する(符号63)。次に第2補正部36は、今回のヒートバランスデータの入力値として用いたGT出力計測値をパラメータ取得部31から取得し、GT出力値と第2係数ηまたはHVを対応付けて記憶部33に記録する(符号64)。次に第2補正部36は、パラメータ取得部31から最新のGT出力計測値を取得し、記憶部33からGT出力計測値に対応する第2係数ηまたはHVを読み出して、式(9)、式(10)よりT1T推定値(補正後5)を算出する。なお、このT1T推定値(補正後5)は、本実施形態によって推定するタービン入口温度である。
【0071】
本実施形態によれば、GT出力値ごとに第2係数(燃焼効率:ηまたは燃料ガス発熱量:HV)を学習し記録することによって、例えば負荷が変化したような場合に、その負荷の変化に応じた第2係数を用いた応答モデルからタービン入口温度を推定する。それにより、第一実施形態、第三実施形態の効果に加え、タービン入口温度の推定精度をより高める効果を得ることができる。なお、第2係数と対応付けて記憶する値はGT出力値計測に限らない、GT出力の設計値や燃料流量指令値であってもよい。
【0072】
なお、ガスタービンは、熱機関の一例であり、タービンは、熱機関を構成する第一機器の一例であり、圧縮機は、熱機関を構成する第二機器の一例である。また、式(6)は、
熱機関の出力値の計測値と推定値の差分を示す熱機関出力差が、前記熱機関を構成する第一機器による仕事の実際値であって、当該第一機器に関する温度の関数で示される実際値と前記第一機器による仕事の推定値との差分を示す第一機器仕事差から、前記熱機関を構成する第二機器による仕事の実際値と前記第二機器による仕事の推定値との差分を示す第二機器仕事差を減じた値に等しいことを示す関係式の一例である。タービン入口温度推定部32は、温度推定部の一例であり、定常状態判定部34は、状態判定部の一例である。
【0073】
なお上述の温度推定装置30は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した温度推定装置30における各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0074】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
パラメータ取得部31、タービン入口温度推定部32、定常状態判定部34、第1補正部35、第2補正部36は、コンピュータがプログラムを実行することにより備わる機能である。また、温度推定装置30は、1台のコンピュータで構成されていても良いし、通信可能に接続された複数のコンピュータで構成されていてもよい。
【0075】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、ガスタービンの他にも、航空機用エンジン、ボイラ、蒸気タービンなど他の熱機関においても熱機関全体の仕事と熱機関を構成する各要素機器の仕事との間で成り立つ関係を用いて、ある要素機器(第一機器)に関する温度を推定する用途で用いることができる。例えば、ジェットエンジン等において、エンジンの仕事と、圧縮機の仕事と、タービン等のエンジンの出力を取り出すための機構を備えた出力機関の仕事との間で、エンジン出力値の計測値と推定値との差分を示すエンジン出力差が、出力機関入口温度の関数で示される出力機関仕事の実際値と出力機関仕事の推定値との差分を示す出力機関仕事差から、圧縮機仕事の実際値と推定値との差分を示す圧縮機仕事差を、減じた値に等しいことの関係式が成立する場合、出力機関の入口温度を推定するために本発明を用いることが可能である。