特許第5995964号(P5995964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5995964イソホロンによる生産物吸収を包含するABE発酵法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995964
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】イソホロンによる生産物吸収を包含するABE発酵法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/28 20060101AFI20160908BHJP
   C12P 7/06 20060101ALI20160908BHJP
   C12P 7/16 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   C12P7/28
   C12P7/06
   C12P7/16
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-515163(P2014-515163)
(86)(22)【出願日】2012年6月13日
(65)【公表番号】特表2014-516575(P2014-516575A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】EP2012061141
(87)【国際公開番号】WO2012171929
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年5月14日
(31)【優先権主張番号】102011077705.9
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】イェアク−ヨアヒム ニッツ
(72)【発明者】
【氏名】ゲアダ グルント
(72)【発明者】
【氏名】フランツ ウルリヒ ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】パトリック シュティア
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−505839(JP,A)
【文献】 米国特許第05358608(US,A)
【文献】 米国特許第05795447(US,A)
【文献】 米国特許第05118392(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程段階:
A)アセトン、ブタノールおよびエタノールから成る群から選択される少なくとも1種の低分子量の有機化合物を生産する微生物を包含する水溶液を準備する工程;
B)該水溶液中に少なくとも1種のガス又はガス混合物を導入する工程;
C)該ガス流を、イソホロン含有組成物に導出する工程;及び、場合により
D)該低分子量の有機化合物を、該イソホロン含有組成物から分離する工程
を包含する方法。
【請求項2】
前記微生物が、クロストリジウム(Clostridium)、ザイモモナス(Zymomonas)、エシェリキア(Escherichia)、サルモネラ(Salmonella)、ロドコッカス(Rhodocuccus)、シュードモナス(Pseudomonas)、バチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、クレブシエラ(Klebsiella)、パエニバチルス(Paenibacillus)、アルトロバクター(Arthrobacter)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、ピチア(Pichia)、カンジダ(Candida)、ハンゼヌラ(Hansenula)及びサッカロミセス(Saccharomyces)を包含する群の属、有利にはクロストリジウム、ザイモモナス、エシェリキア、サルモネラ、ロドコッカス、シュードモナス、バチルス、ラクトバチルス、エンテロコッカス、アルカリゲネス、クレブシエラ、パエニバチルス、アルトロバクター、コリネバクテリウム、ブレビバクテリウム、ピチア、カンジダ、ハンゼヌラ及びサッカロミセスから成る群の属から選択されていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガス又はガス混合物が、空気、合成ガス、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、酸素及びメタンを包含する群から選択されている少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記低分子量の有機化合物が、アセトンであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記低分子量の有機化合物が、アセトン、エタノール及びブタノールであり、かつクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)及びクロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)を微生物として用い、かつ窒素、空気、合成ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、H2及びメタンを包含する群、有利には窒素、空気、合成ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、H2及びメタンから成る群から選択されるガス又はガス混合物を用いることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記低分子量の有機化合物がアセトンであり、かつ微生物として、アセトンを、アセチル補酵素Aから出発して、
アセチルCoAからアセトアセチルCoAへの酵素反応、
アセトアセチルCoAからアセトアセテート及びCoAへの酵素反応、その際、該補酵素Aは、受容体分子に転用されない、及び
アセトアセテートからアセトン及びCO2への脱炭酸
を介して生産するものを用いることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記低分子量の有機化合物がアセトンであり、アセトンを二酸化炭素及び一酸化炭素を含む群から選択される少なくとも1種の炭素源から形成することができる酢酸産生微生物を用い、かつ工程段階B)において用いられる前記ガス又はガス混合物が、窒素、合成ガス、二酸化炭素、一酸化炭素及びH2を包含する群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程段階C)において導出された前記ガス流を、空間的に切り離された複数のイソホロン含有組成物に通すことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記イソホロン含有組成物を抜ける前記ガス又はガス混合物を、工程段階A)の前記水溶液に再び供給することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
工程段階A)において、前記微生物が、前記低分子量の有機化合物を好気性条件下で生産し、かつ工程段階B)におけるガス又はガス混合物として、酸素元素を含むガス又はガス混合物を用いることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
工程段階A)において、前記微生物が、前記低分子量の有機化合物を嫌気性条件下で生産し、かつ工程段階B)において、酸素元素を含まないガス又はガス混合物を用いることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
アセトン、ブタノールおよびエタノールから成る群から選択される少なくとも1種の低分子量の有機化合物を含むガス又はガス混合物からアセトン、ブタノールおよびエタノールから成る群から選択される少なくとも1種の低分子量の有機化合物を吸収するためのイソホロンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、発酵プロセスにおける低分子量の生産物(<100g/モルの分子量)、殊にアセトン、ブタノール及びエタノールを低コストで後処理する新規の方法である。該後処理は、吸収剤としてイソホロンを用いた後続の吸収と組み合わせたガスストリッピングによって行われる。
【背景技術】
【0002】
溶媒のアセトン、エタノール及びブタノールは、需要が増え続けている、化学工業の重要なプラットフォーム化学物質である。殊にアセトン及びブタノールの製造のために、現時点では石油化学法が大部分適用され、これは、つまりは石油の"分解"に基づいており、そのため長期的に見ると将来性がない。
それゆえ、例えば再生原料又はそのうえさらに、例えば二酸化炭素(CO2)又は一酸化炭素(CO)のようなガス状の炭素源に由来するものといった将来有望な炭素源を基礎とする代替的な製造法を開発することへの大きな関心がある。発酵プロセスは、プラットフォーム化学物質、特別な化学物質、それに燃料を製造するための代替法を提供することができる。
発酵による大部分の製造法における最大の問題は、発酵ブロスからの有機生産物の分離であり、なぜなら、これは非常に複雑であることが多く、なによりも高い含水量を有しているからである。多量の水はプロセス技術的な見地から所望されておらず、なぜなら、これらは方法においてたくさんのエネルギーを必要とするからである。クロストリジウム属(Clostridien)(例えば:クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum))による古典的なアセトン−ブタノール−エタノール(ABE)発酵は、例えば、低分子量の有機化合物を製造するための微生物学的な方法であり、すでに1916年から工業的に利用されており、発酵ブロス中で3:6:1の比において生産物のアセトン−ブタノール−エタノールを生んでいた。
【0003】
Qureshi及びBlaschekは、Renewable Energy,22(4):第557頁〜第564頁の中で、そしてEzeji他は、Appl Microbiol Biotechnol,63(6):第653頁〜第658頁の中で、低分子量の有機化合物を、ガスストリッピングにより発酵ブロスから排出し、そして冷却トラップ内で吸着する方法を記載している。
この方法は、エネルギー需要が高いという欠点を有しており、なぜなら、冷却を連続的に保持しなければならないからである。更なる欠点は、冷却トラップ内では生産物が不十分にしか吸着されず、そのため、かなりの割合がトラップから再び排出され、かつ場合により発酵槽に返送され、それによって余計な製造阻害が起こり得ることである。
【0004】
本発明の課題は、単純かつエネルギーを節約する助剤を用いて、水性発酵ブロスからの低分子量の有機化合物の後処理を可能にすることができる方法を提供することであった。
【0005】
発明の詳細な説明
意想外にも、イソホロンによる低分子量の有機化合物の吸収を包含する以下に記載した方法が、本発明の設定した課題を解決できることを見出した。
イソホロンは、アセトンの縮合三量体生成物及び高沸点溶媒であり、それは、なかでも塗料、印刷インキ、接着剤及び農産物保護剤の産業において使用される。
【0006】
それゆえ、本発明の対象は、発酵による製造プロセスのための単純かつ低コストの後処理法であり、その際、生産物はインサイチューで発酵ブロスから除去する。後処理は、イソホロンを用いた後続の吸収及び場合により続けて行われる純粋な成分への分離と組み合わせたガスストリッピングによって成功する。
【0007】
本発明の利点は、本発明による後処理法を、嫌気性発酵にも好気性発酵にも適用することができる点である。つまり、ガスストリッピングは、キャリアガスとして元素状酸素を含むガスを用いても(殊に好気性条件下でのプロセスの場合)、任意に元素状酸素を含まないガスを用いても(殊に嫌気性条件下でのプロセスの場合)実施することができる。
【0008】
本発明の更なる利点は、ストリッピング除去された低分子量の有機化合物、特にアセトン、ブタノール及びエタノール、殊にアセトンを(ほぼ)定量的にガススクラビングによって吸収剤としてのイソホロンに濃縮させることができる点である。
本発明の更なる利点は、低分子量の有機化合物が再び非常に簡単にイソホロンから分離されえ、ひいては高純度で取得することができる点である。
本発明の更なる別の利点は、微生物の供給のために用いられるガスが同時にキャリアガスの役割も果たすことができる点であり、このことは、用いられるガスが、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、合成ガス又は前述のガスの任意の混合物の割合を有する場合に殊に当てはまる。
さらに、本発明は、低分子量の生産物をインサイチューで発酵ブロスから除去することができ、ひいては発酵槽ブロス中で、存在する微生物に毒性作用を及ぼす可能性のある高い生産物濃度が生じ得ないという利点を有する。
【0009】
低分子量の有機化合物を製造するための本発明による方法は、工程段階:
A)低分子量の有機化合物を生産する微生物を包含する水溶液を準備する工程;
B)該水溶液中に少なくとも1種のガス又はガス混合物を導入する工程;
C)該ガス流を、イソホロン含有組成物に導出する工程;及び、場合により
D)該低分子量の有機化合物を、該イソホロン含有組成物から分離する工程
を包含する。
【0010】
"低分子量"との用語は、100g/モル未満の分子量を有する特性と解される。
全てのパーセント(%)値は、別記しない限り、質量パーセントである。
別記しない限り、圧力、温度といった周囲パラメータに関しては標準条件を意図している。
【0011】
有利な低分子量の有機化合物は、3hPaより高い、有利には50hPaより高い、殊に150hPaより高い、20℃での蒸気圧を有する。
【0012】
本発明に従って殊に有利なのは、低分子量の有機化合物が、アセトン、ブタノール、エタノールを包含する群、有利にはアセトン、ブタノール、エタノールから成る群から選択されており、殊にアセトンであることである。
【0013】
本発明による方法において用いられる微生物は、殊に酵母菌及び細菌である。殊に、微生物は、クロストリジウム(Clostridium)、ザイモモナス(Zymomonas)、エシェリキア(Escherichia)、サルモネラ(Salmonella)、ロドコッカス(Rhodococcus)、シュードモナス(Pseudomonas)、バチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、エンテロコッカス(Enterococcus)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、クレブシエラ(Klebsiella)、パエニバチルス(Paenibacillus)、アルトロバクター(Arthrobacter)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、ピチア(Pichia)、カンジダ(Candida)、ハンゼヌラ(Hansenula)及びサッカロミセス(Saccharomyces)を包含する群の属、有利にはクロストリジウム、ザイモモナス、エシェリキア、サルモネラ、ロドコッカス、シュードモナス、バチルス、ラクトバチルス、エンテロコッカス、アルカリゲネス、クレブシエラ、パエニバチルス、アルトロバクター、コリネバクテリウム、ブレビバクテリウム、ピチア、カンジダ、ハンゼヌラ及びサッカロミセスから成る群の属から選択される微生物である。これらの属の例示的な種類は、大腸菌(Escherichia coli)、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、パエニバチルス・マセランス(Paenibacillus macerans)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・ガリナリウム(Enterococcus gallinarium)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)及びサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。本発明による方法においては、有利には、大腸菌(Escherichia coli)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、クロストリジウム(属)種(Clostridium spec.)、クロストリジウム・アセチカム(Clostridium aceticum)、アセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、サッカロミセス(属)種(Saccharomyces spec.)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びピチア・パストリス(Pichia Pastoris)が用いられる。
【0014】
本発明に従って有利なのは、微生物が遺伝子工学的に変異させられた微生物であることである。殊に、この場合、その野生型より多くの低分子量の有機化合物を生産することができるものとして遺伝子工学的に変異させられた微生物が用いられる。
係る遺伝子工学的に変異させられた微生物は、低分子量の有機化合物としてのアセトンの製造のために、例えばEP2181195に記載されている。この出願に開示される細胞は、本発明に従って有利には、アセトンを製造するための本発明による方法において用いられる。係る細胞は、殊に好気性条件下での製造法に適している。
低分子量の有機化合物としてアセトンを製造するための遺伝子工学的に変異させられた更なる微生物は、WO2010121849に記載されている。この出願に開示される細胞は、本発明に従って有利には、アセトンを製造するための本発明による方法において、殊に嫌気性条件下でのアセトンの製造法において用いられる。
低分子量の有機化合物としてブタノールを製造するための遺伝子工学的に変異させられた係る微生物は、WO2008124523、WO2008052973及びWO2008052596に記載されている。この出願に開示される細胞は、本発明に従って有利には、ブタノールを製造するための本発明による方法において用いられる。
低分子量の有機化合物としてエタノールを製造するための遺伝子工学的に変異させられた微生物は、WO2011003893及びWO2010130806に記載されている。この出願に開示される細胞は、本発明に従って有利には、エタノールを製造するための本発明による方法において用いられる。
【0015】
本発明による方法においては、工程段階B)において、低分子量の有機化合物と不所望な副反応を生じないか又は用いられる微生物にとって毒性である、あらゆる任意のガス又はガス混合物が用いられることができる
有利には、このガス又はガス混合物は、空気、合成ガス、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、酸素及びメタンを包含する群、有利には空気、合成ガス、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、酸素及びメタンから成る群から選択される少なくとも1種を含む。
【0016】
本発明に従って有利なのは、工程段階A)において微生物が低分子量の有機化合物を好気性条件下で生産する場合に、工程段階B)におけるガス又はガス混合物として酸素元素を含むガス又はガス混合物を用いることである。"好気性条件"との用語は、本発明との関わりにおいては、>0.01barの酸素分圧が存在することと解される。これと関連して、このガス又はガス混合物は、空気又は酸素元素を包含する群、有利には空気又は酸素から成る群から選択される少なくとも1種を含む。
【0017】
本発明に従って有利なのは、工程段階A)において微生物が低分子量の有機化合物を嫌気性条件下で生産する場合に、工程段階B)におけるガス又はガス混合物として、酸素元素を含まないガス又はガス混合物を用いることである。"嫌気性条件"との用語は、本発明との関わりにおいては、≦0.01barの酸素分圧が存在することと解される。これと関連して、このガス又はガス混合物は、合成ガス、窒素、CO2、CO、H2及びメタンを包含する群、有利には合成ガス、窒素、CO2、CO、H2及びメタンから成る群から選択される少なくとも1種を含む。
【0018】
本発明による方法の更なる実施形態においては、工程段階A)において用いられる微生物は、古典的なABE発酵を工程段階A)において行うものである;したがって、これと関連して、低分子量の有機化合物は、アセトン、エタノール及びブタノール、殊にアセトンである。古典的にABE発酵に際して用いられることができる係る有機体は、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)及びクロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)であり、これらは、厳密に嫌気性の条件下で増大し、かつ単糖、二糖及び多糖を変換する。
工程段階B)におけるこの変法において用いられるガス又はガス混合物は、有利には、窒素、空気、合成ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、H2、メタンを包含する群、有利には窒素、空気、合成ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、H2、メタンから成る群から選択される少なくとも1種である。
【0019】
本発明による方法の更なる有利な変形例においては、工程段階A)において用いられる微生物は、二酸化炭素及び一酸化炭素を含む群から選択される少なくとも1種の炭素源から低分子量の有機化合物としてアセトンを形成することができる酢酸産生微生物であり、かつ工程段階B)で用いられるガス又はガス混合物は、窒素、合成ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、H2を包含する群、有利には窒素、合成ガス、二酸化炭素、一酸化炭素、H2から成る群から選択される少なくとも1種である。この変法において有利には用いられる細胞は、WO2010/121849に記載されている。
【0020】
工程段階C)においては、低分子量の有機化合物が、少なくとも部分的に、ガス流を水溶液から導出することによって、イソホロン含有組成物に通される。有利には、イソホロン含有組成物は、全組成物を基準として、少なくとも50質量%のイソホロン、有利には少なくとも80質量%のイソホロン、特に有利には90質量%のイソホロンを有する。
【0021】
本発明に従って有利なのは、導出されたガス流が、空間的に切り離された複数のイソホロン含有組成物に通される場合である。これによって、保持用量を高めることができる。
【0022】
好ましくかつ有利なのは、イソホロン含有組成物が冷却されて存在する場合である。これによって−イソホロン含有組成物を基準として−多くの低分子量の有機化合物を吸収することができる。これと関連して、有利にはイソホロン含有組成物中で測定した温度は、−5℃〜50℃、殊に0℃〜30℃の範囲にある。
好ましく、かつそれゆえ有利なのは、イソホロン含有組成物を抜けるガス又はガス混合物が工程段階A)の水溶液に再び供給される場合である。
【0023】
工程段階D)においては、イソホロン含有組成物からの低分子量の有機化合物の分離が、有利には圧力変化及び/又は温度上昇(>20℃〜<200℃)によって行われる。
例えば、常圧での沸点は、アセトンについては56℃、水については100℃、イソホロンについては215℃である。
したがって、これと関連して、アセトン及びイソホロン含有組成物を含む系について、有利な温度は、イソホロン含有組成物からアセトンを分離するために、20℃〜75℃、殊に30〜60℃の範囲にあり、その際、温度はイソホロン含有組成物中で測定する。
これと関連して、有利な圧力は、0〜1.7bar、特に有利には0.9〜1.1barの範囲にある。
特に有利なのは、これと関連して、常圧(すなわち周囲圧力)と30〜60℃の範囲の温度の組合せである。
【0024】
本発明に従って有利なのは、少なくとも工程段階B)及びC)を、工程段階A)における低分子量の有機化合物の生産と同時に実施し、そうしてこれが、生産物を発生中若しくは発生後に水溶液から排出する連続的なインサイチュー法となる場合である。
【0025】
以下に挙げた例では、本発明を例示的に説明するが、ただし、本発明−その適用領域は、明細書全体及び請求項から明らかである−は、例に挙げた実施形態に制限されるものではない。
【0026】
本発明の更なる対象は、低分子量の有機化合物、有利にはアセトン、ブタノール、エタノール、殊にアセトンを、該低分子量の有機化合物、有利にはアセトン、ブタノール、エタノール、殊にアセトンを含むガス又はガス混合物から吸収するためのイソホロンの使用である。
【0027】
例:
発酵槽水溶液からの有機成分(アセトン/エタノール/ブタノール)の単離を試験した。全ての例において、最大15質量%の有機割合(例えば:アセトン/エタノール/ブタノール)を有する、ほぼ水性の発酵槽溶液を使用し、該有機構成成分をガス流によって発酵槽からストリッピング除去した。最終的な精製及び生産物単離は、蒸留分離によって行った。
【0028】
比較例1、本発明によらない:
アセトン2.0質量%の有機割合を有する1リットルの水溶液を、2リットルの発酵槽に入れた。該発酵槽を200rpmで攪拌し、かつ1分間における反応器体積1当たりのストリッピングガス(Stripgas)体積0.6(vvm)をガス供給した。ストリッピングガスとして窒素を使用し、かつ発酵槽溶液の温度を34℃に調節した。ガス状のアセトンを濃縮し、ひいては単離するために、発酵槽に2つの冷却容器を下流で連結した。冷却容器の受け器を、そのためにドライアイス中で−78℃にて貯蔵し、かつ該冷却器は5℃に冷却した。
この実験を手がかりにして、アセトンを発酵槽からガスによってストリッピング除去できることを示し得た。5.5時間後には、僅かに1.0質量%までのアセトン(出発アセトン量の50%まで)が、23時間後には、僅かに0.1質量%までのアセトン(出発アセトン量の5%まで)が発酵槽水溶液中にあった。しかしながら、ストリッピング除去されたアセトンの冷却受け器中での回収率は、23時間後、<40%に過ぎず、すなわち、ストリッピングされたアセトンの60%超は、この手法では捕集及び単離することはできなかった。
【0029】
比較例2、本発明によらない:
アセトン0.5質量%の有機割合を有する1.4リットルの水溶液を、2リットルの発酵槽に入れた。該発酵槽を500rpmで攪拌し、かつ1分間における反応器体積1当たりのストリッピングガス体積0.2(vvm)をガス供給した。ストリッピングガスとして窒素を使用し、かつ発酵槽溶液の温度を30℃に調節した。冷却容器を下流で連結する代わりに、ガス流を、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒が入れられた6つの連続してつなげた洗瓶−該洗瓶は発酵槽の下流に連結している−に、DMSO中でガス状のアセトンを吸収するために通した。最初の5つの洗瓶には200gのDMSOを入れており、6つ目の洗瓶には500gのDMSOを入れていた。より少ないガス供給率と、より少ない出発アセトン量に基づき、アセトンのストリッピング除去は、予期した通り、より緩慢に行われ、23時間後には、なお0.28質量%までのアセトン(出発アセトン量の55%まで)が、48時間後には、僅かに0.13質量%までのアセトン(出発アセトン量の27%まで)が発酵槽水溶液中にあった。連続してつなげたDMSO溶液によって、アセトン回収率は改善されたが、しかし、これは依然として明らかに低過ぎた。23時間後、ストリッピングされたアセトンの回収率は90%を下回っており、48時間後、僅かに74%に過ぎなかった。
【0030】
したがって、発酵槽水溶液からのアセトンのガスストリッピングには成功したが、しかし、DMSO溶媒中でのガス状のアセトン吸収、ひいては該アセトンの単離は十分ではなかった。
【0031】
例1、本発明による:
アセトン5質量%、エタノール5質量%及び1−ブタノール5質量%の有機割合を有する0.3リットルの水溶液を、1リットルの発酵槽に入れた。該発酵槽を200rpmで攪拌し、かつ1分間における反応器体積1当たりのストリッピングガス体積0.1(vvm)をガス供給した。ストリッピングガスとして窒素を使用し、かつ発酵槽溶液の温度を30℃に調節した。冷却容器を下流で連結する代わりに、ガス流を、イソホロン溶媒が入れられた4つの連続してつなげた洗瓶−該洗瓶は発酵槽の下流に連結している−に、イソホロン中でガス状のアセトン、エタノール及びブタノールを吸収するために通した。洗瓶には、それぞれ300gのイソホロンを入れていた。28時間後には、なお2.50質量%までのアセトン(出発アセトン量の50%まで)、なお4.50質量%までのエタノール(出発エタノール量の90%まで)及び、なお4.60質量%までの1−ブタノール(出発ブタノール量の92%まで)が発酵槽水溶液中にあった。68時間後には、なお0.76質量%までのアセトン(出発アセトン量の15%まで)、なお4.03質量%までのエタノール(出発エタノール量の80%まで)及び、なお3.83質量%までの1−ブタノール(出発ブタノール量の76%まで)が発酵槽水溶液中にあった。連続してつなげたイソホロン溶液によって、アセトンの明らかな回収率の改善が見られ、それにエタノール及び1−ブタノールの回収率も、明らかに90%を上回っていた。28時間後には、ストリッピングされたアセトンの回収率は93%を上回り、ストリッピングされたエタノールの回収率は95%を上回り、ストリッピングされた1−ブタノールの回収率は96%を上回っていた。68時間後には、ストリッピングされたアセトンの回収率は92%を上回り、ストリッピングされたエタノールの回収率は93%を上回り、ストリッピングされた1−ブタノールの回収率は94%を上回っていた。
【0032】
したがって、発酵槽水溶液からのアセトン、エタノール及びブタノールのガスストリッピングに成功した。イソホロン溶媒中での吸収による有機構成成分(アセトン、エタノール、1−ブタノール)の単離に成功した。したがって、ほぼ定量的な回収率を得ることができた。
【0033】
例2、本発明による:
イソホロンに溶解したアセトン、エタノール及びブタノールを純物質として得るために、係る混合物を蒸留分離した。そのために、イソホロンに溶解したアセトン−エタノール−ブタノールの混合物(それぞれ5質量%)5リットルをしかけて常圧で蒸留により分離し、その際、塔の還流比は8:1であった。常圧での沸点は、アセトンについては56℃、エタノールについては78℃、1−ブタノールについては118℃であり、かつイソホロンについては215℃であった。ここで、ほぼ純粋なアセトン相だけでなく、純粋なエタノール相及びブタノール相が得られた。その際、個々の単離された相の純度分は、99%を超えるまでの純度であった。
【0034】
つまり、発酵槽中で生産されたアセトン/エタノール/ブタノールを、インサイチューで発酵槽からガスストリッピングによって排出し、このガス状のアセトン/エタノール/ブタノール(被吸収体)を液体イソホロン(吸収剤)に溶解して、最後にこのアセトン/エタノール/ブタノールを蒸留分離によって取得することが可能である。