(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、市販されている固化材の種類、用途、および固化処理の対象となる土(以下「対象土」という。)は多岐にわたる。例えば、固化材の種類は、主成分としてセメント、石膏、マグネシアおよび石灰をそれぞれに含む、セメント系、石膏系、マグネシア系および石灰系等の各種固化材があり、これらの用途として、浅層改良、宅盤改良、ヘドロ固化、深層改良、発生土改良等があり、これらの対象土として、砂質土、シルト、粘土、火山灰質粘性土、有機質土、高有機質土等がある。また、同種類の対象土であっても、その産地や成因等により、有機物や水の含有量、粒度および化学組成等の物理的・化学的性質は大きく異なる。
したがって、対象土の特性に応じて固化材の配合を適切に選ぶためには、試行錯誤を伴う配合試験を実施しなければならず、固化材の配合設計は手間がかかっていた。
【0003】
さらに、セメント系固化材の配合設計では、該固化材を用いて処理した土(以下「改良土」という。)からの6価クロムの溶出への対応が必要となる。該溶出した6価クロムの起源は、セメント系固化材中のポルトランドセメントクリンカが含有していたものと、もともと改良土に含まれていてセメント系固化材の水和によるアルカリ環境下で溶出が促されたものに大別される。
そのため、最近では、高炉スラグ等の、6価クロムを還元する効果を有するセメント混合材を固化材に混合して使用することによって、固化材に含まれるポルトランドセメントクリンカを希釈し減量することと、溶出クロムを還元することの2つの効果により、溶出する6価クロム量を抑制する方法が多く用いられている。
しかしながら、一般に、高炉スラグ等の還元効果を有するセメント混合材は、使用量が増えるほど、改良土の強度は低下してしまう。
したがって、セメント系固化材の配合設計では、強度発現性と6価クロムの溶出抑制効果を両立させることが重要になる。
【0004】
ところで、以前から、対象土に応じたセメント系固化材の配合方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、対象土に応じて石膏量を求め、該石膏量を配合するセメント系固化材の配合方法(請求項1)が提案されている。また、対象土からアルカリ水溶液に溶出するアルミ量に基づき、特定の式を用いて前記石膏の配合量を算出する配合方法(請求項2)や、さらに、該アルミ量に基づき別の式を用いてセメントの配合量を算出する配合方法(請求項3)が提案されている。
しかし、前記配合方法が課題とする改良土の特性は、強度発現性のみのため、配合調整成分は石膏とセメントだけであって高炉スラグは対象外である。
また、非特許文献1には、セメント系固化材の強度発現性に影響する土壌成分が記載されている。該文献によれば、土壌(火山灰質粘性土)中のアロフェンはセメント系固化材の強度発現性を低下させるとされている。
しかし、アロフェンが固化材の強度発現性を低下させるといっても、後掲の表2のNo.2とNo.3の強度を比べて分かるように、アロフェンの含有率が低い対象土を用いた改良土(No.2において、P
1は8.1kN/m
2、P
2は7.9kN/m
2)の方が、該含有率が高い対象土を用いた改良土(No.3において、P
1は954.5kN/m
2、P
2は1875.4kN/m
2)よりも強度が低くなる場合がある。
また、表2において、前記P
1は高炉スラグを含有するセメント(以下「高炉スラグ含有セメント」という。)を固化材に用いた改良土の強度であり、前記P
2は普通ポルトランドセメント(基準セメント)を固化材に用いた改良土の強度であるが、高炉スラグの使用が強度に及ぼす影響は、P
1とP
2を比べて分かるように単純ではない。
このように、改良土の強度発現性の予測は困難なため、所定の強度発現性を確保し、かつ6価クロムの溶出量を抑制するために固化材への高炉スラグの使用量を最大化できる配合設計は、困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、高炉スラグを含み、かつ強度発現性と6価クロムの溶出抑制効果が高いセメント系固化材(以下「固化材」という。)
の、対象土に応じた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、対象土の成分と、セメントを用いた改良土の強度との関係について検討したところ、以下の(i)〜(iii)の知見等に基づき、強度発現性と6価クロムの溶出抑制効果のいずれも高い固化材を容易に製造する方法を見い出し、本発明を完成させた。
(i)対象土中のアロフェンおよび非晶質無機成分(以下「アロフェン類」という。)の含有率と、固化材として高炉スラグ含有セメントを用いた改良土の強度(P
1)および改良土の強度に関する実績などから選定される基準セメントを用いた改良土の強度(P
2)の強度比(P
1/P
2)との間に、下記の直線関係式(1)が成立する(例えば、後掲の
図2を参照)。そして、
(ii)該直線関係式(1)の両辺に、前記高炉スラグ含有セメント中の高炉スラグの含有率を乗じれば、対象土中のアロフェン類の含有率と、基準セメントを用いた場合と同じ改良土の強度が得られる(すなわち、P
1/P
2=1を満足する)石膏量決定用基材(下記(C)工程において用いる、セメントと高炉スラグからなる混合物)中の高炉スラグの含有率との関係を示す直線関係式(2)が得られる(例えば、後掲の
図3を参照)。したがって、
(iii)直線関係式(2)を用いれば、対象土中のアロフェン類の含有率から、所定の改良土の強度(基準セメントによる改良土の強度)を得ることができる石膏量決定用基材中の高炉スラグの最大の含有率が求まり、さらに下記(D)工程と(E)工程を経て固化材中の石膏、高炉スラグ、およびセメントの配合量を求めることができる。
【0009】
すなわち、本発明は下記の配合設計に特徴を有する固化材の製造方
法である。
[1]下記(A)〜(E)工程を経て決定した配合量のセメント、高炉スラグおよび石膏を計量して混合する、固化材の製造方法。
(A)下記の強度P
1およびP
2を測定して、土中のアロフェン類の含有率と強度比(P
1/P
2)との間の下記関係式(1)を求める、関係式(1)の誘導工程
P
1/P
2=ax+b ……(1)
ただし、P
1は高炉スラグ含有セメントを用いた改良土の強度、P
2は基準セメントを用いた改良土の強度、xは対象土中のアロフェン類の含有率(質量%)、aおよびbは定数を表す。
(B)前記関係式(1)の両辺に、前記高炉スラグ含有セメント中の高炉スラグの含有率(s
1)(質量%)を乗じて下記関係式(2)を求める、関係式(2)の誘導工程
s
2=cx+d ……(2)
ただし、s
2は強度比が1となる石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(質量%)、xは対象土中のアロフェン類の含有率(質量%)、cはa×s
1、dはb×s
1を表す。
(C)強度比が1以下となる対象土に対しては、該対象土中のアロフェン類の含有率に基づき、前記関係式(2)を用いて石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(s
2と同じ)を決定し、一方、強度比が1を超える対象土に対しては、前記高炉スラグ含有セメント中の高炉スラグの含有率(s
1)を石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(s
1と同じ)として決定するとともに、該高炉スラグの含有率と下記(3)式を用いて石膏量決定用基材中のセメントの含有率を決定する、石膏量決定用基材中の高炉スラグおよびセメントの含有率決定工程
石膏量決定用基材中のセメントの含有率(質量%)=100−石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(質量%) ……(3)
(D)前記決定した含有率の高炉スラグおよびセメントを含む石膏量決定用基材と複数の水準の量の石膏を混合してなる石膏量決定用組成物と、対象土とを混合して作製した改良土の強度を測定して、目標強度を発現する改良土を選択し、該改良土に用いた石膏量決定用組成物中の石膏の含有率(質量%)を固化材中の石膏の配合量(質量%)として決定する、固化材中の石膏の配合量決定工程
(E)100質量%から、前記(D)工程において決定した固化材中の石膏の配合量(質量%)を差し引いた残りの値に対し、前記(C)工程において決定した石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(質量%×0.01の値)およびセメントの含有率(質量%×0.01の値)をそれぞれ乗じて得た値を、それぞれ、固化材中の高炉スラグの配合量(質量%)およびセメントの配合量(質量%)として決定する、固化材中の高炉スラグおよびセメントの配合量決定工程
【発明の効果】
【0011】
本発明の固化材の製造方法によれば、対象土に応じてセメント、高炉スラグおよび石膏の最適な配合量を容易に決定することができる。また、本発明の固化材
の製造方法を用いて製造した固化材は、強度発現性および6価クロムの溶出抑制効果がいずれも高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の固化材の製造方法および固化材について説明する。
1.固化材の製造方法
該方法は、前記のとおり、(A)関係式(1)の誘導工程、(B)関係式(2)の誘導工程、(C)石膏量決定用基材中の高炉スラグとセメントの含有率決定工程、(D)固化材中の石膏の配合量決定工程、および(E)固化材中の高炉スラグとセメントの配合量決定工程を経て決定した配合量のセメント、高炉スラグおよび石膏を計量して混合する、固化材の製造方法である。以下、各工程に分けて説明する。
【0014】
(A)関係式(1)の誘導工程
該工程は、下記の強度P
1およびP
2を測定して、土中のアロフェン類の含有率と下記の強度比(P
1/P
2)との間の前記関係式(1)を求める工程である。ただし、P
1は高炉スラグ含有セメントを用いた改良土の強度であり、P
2は改良土の強度に関する実績などから選定される基準セメントを用いた改良土の強度である。
ここで、アロフェン類とは、アロフェンおよび非晶質無機成分の総称であり、非晶質無機成分とは、下記文献(i)の3頁の右欄6〜12行に記載のとおり、アロフェン類似のアルミニウムや鉄などのケイ酸塩鉱物、土壌中に存在するX線に対して非晶質であるケイ酸、アルミナ、酸化鉄などの風化した無機ゲル、さらに厳密には非晶質とは言い難いが低結晶のゲータイトなどの鉄鉱物をも含めた鉱物をいう。
【0015】
また、前記アロフェン類の定量方法は、例えば、下記文献(i)に記載の「酸−アルカリ交互溶解法」、下記文献(ii)に記載の「200℃加熱溶解減量法」、下記文献(iii)に記載の「簡易型200℃加熱溶解減量法」、および下記文献(iv)に記載の「XRD−リートベルト法」等が挙げられる。
また、土中のアロフェン類の含有率と強度比(P
1/P
2)との間の関係式は、最小二乗法を用いて回帰分析により求めることができる。
[文献一覧]
(i)北川靖夫「土壌中のアロフェンおよび非晶質無機成分の定量に関する研究」、農業技術研究所報告 B 第29号、1〜48頁(1977)
(ii)北川靖夫、「土壌中のアロフェンおよび非晶質無機成分の迅速定量法」、日本土壌肥料科学雑誌、第48巻、第4号、124〜129頁(1977)
(iii)奥村良介ほか、「セメントによる関東ロームの改良(その1:土中のアロフェンおよび非晶質無機成分の簡易定量法)」、第41回 地盤工学研究発表会、767〜768頁(2006年7月)
(iv)星野清一ほか、「非晶質混和材を含むセメント鉱物の定量におけるX線回折/リートベルト法の適用」、セメント・コンクリート論文集、No.59、14〜21頁(2005)
【0016】
前記基準セメントは、任意のセメントを用いることができ、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、および耐硫酸塩ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉スラグ含有セメント(高炉セメントを含む。)およびシリカセメント等の混合セメント、並びに、エコセメント等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0017】
(B)関係式(2)の誘導工程
該工程は、前記関係式(1)の両辺に、前記高炉スラグ含有セメント中の高炉スラグの含有率(質量%)を乗じて前記関係式(2)を求める工程である。
図1(特開2006−219312号公報に記載の表4中の比較例4、6、7、および実施例11のデータを基にして作成した図)に示すように、経験的に高炉スラグの配合量と改良土の強度の間に直線関係があるとして差し支えないため、関係式(2)の変数s
2は、強度比が1になる石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率を表す。これを後掲の
図2と
図3を用いて説明すると、
図2の関係式(1)の両辺に、使用した高炉スラグ含有セメント中の高炉スラグの含有率である40(質量%)を乗じると、関係式(1)の変数P
1/P
2(強度比)は変数変換されて変数s
2(強度比が1になる石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率)になる。
【0018】
(C)石膏量決定用基材中の高炉スラグおよびセメントの含有率決定工程
該工程は、
(i)強度比が1以下となる対象土に対しては、該対象土中のアロフェン類の含有率に基づき、前記関係式(2)を用いて石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(s
2と同じ)を決定し、
(ii)強度比が1を超える対象土に対しては、前記高炉スラグ含有セメント中の高炉スラグの含有率(s
1)を石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(s
1と同じ)として決定するとともに、
(iii)該高炉スラグの含有率と前記(3)式を用いて石膏量決定用基材中のセメントの含有率を決定する工程である。
ここで、前記石膏量決定用基材とは、セメントと高炉スラグからなる混合物であって、下記(D)に記載の石膏量決定用組成物において、石膏を混合する前の状態の組成物である。
【0019】
(D)固化材中の石膏の配合量決定工程
該工程は、前記石膏量決定用基材および複数の水準の量の石膏を混合してなる石膏量決定用組成物と、対象土とを、混合して作製した改良土の強度を測定して、目標強度を発現する改良土を選択し、該改良土に用いた石膏量決定用組成物中の石膏の含有率(質量%)を固化材中の石膏の配合量(質量%)として決定する工程である。
前記改良土の強度測定方法は、例えば、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」等が挙げられる。
【0020】
(E)固化材中の高炉スラグおよびセメントの配合量決定工程
該工程は、100質量%から、前記(D)工程において決定した固化材中の石膏の配合量(質量%)を差し引いた残りの値に対し、前記(C)工程において決定した石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(質量%×0.01の値)およびセメントの含有率(質量%×0.01の値)をそれぞれ乗じて得た値を、それぞれ、固化材中の高炉スラグの配合量(質量%)およびセメントの配合量(質量%)として決定する工程である。
すなわち、該工程は、高炉スラグとセメントの2成分の合計量を100質量%として表示された、石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率(質量%)とセメントの含有率(質量%)を、高炉スラグ、セメント、および石膏の3成分の合計量を100質量%として表示される、固化材中の高炉スラグの配合量(質量%)とセメントの配合量(質量%)に換算するための工程である。
なお、固化材中の高炉スラグの配合量は、少なくとも6価クロムの溶出を抑制するに足る量以上が必要であり、この量は経験上15質量%以上と見積もられる。
以上の工程を経て決定した配合量の石膏、セメント、および高炉スラグを計量して混合することにより
、固化材を製造することができる。なお、前記計量および混合は、通常の計量装置および混合装置を用いて行なうことができる。
【0021】
2.固化材
本発明の
製造方法を用いて製造した固化材は、前記のとおり、前記製造方法により決定した配合量のセメント、高炉スラグおよび石膏を必須の構成成分として含むものである。以下、前記構成成分等に分けて説明する。
【0022】
(1)セメント
前記セメントは特に制限されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、および耐硫酸塩ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメントおよびシリカセメント等の混合セメント、並びに、エコセメント等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0023】
(2)高炉スラグ
前記高炉スラグは、高炉で銑鉄を製造する際に副生する溶融状態のスラグを、水で急冷し破砕して得られる水砕スラグの粉砕物や、徐冷し破砕して得られる徐冷スラグの粉砕物が挙げられる。これらの中でも、潜在水硬性に優れることから、好ましくは水砕スラグの粉砕物であり、より好ましくはJIS A 6206に規定する高炉水砕スラグである。
前記高炉スラグのブレーン比表面積は、好ましくは3000cm
2/g以上、より好ましく3500cm
2/g以上、さらに好ましくは4000cm
2/g以上である。該値が3000cm
2/g未満では、固化材の初期の強度発現性が低い。また、該値の上限は、粉砕コストの観点から、好ましくは15000cm
2/gである。
また、該高炉スラグ粉末の塩基度は、好ましくは1.7以上、より好ましくは1.8以上、さらに好ましくは1.9以上である。該値が1.7未満では、固化材の強度発現性が低下する場合がある。また、該値の上限は入手の容易性から3.0である。なお、塩基度は下記(4)式を用いて算出する。
塩基度=〔(CaO+MgO+Al
2O
3)/SiO
2〕 ……(4)
ただし、式中の化学式は、高炉スラグ粉末中の該化学式が表す化合物の含有率(質量%)を表す。
【0024】
(3)石膏
前記石膏は特に制限されず、例えば、二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、精錬石膏、半水石膏、および無水石膏等から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、強度発現性が高い点で好ましくは無水石膏であり、石膏廃材から回収した二水石膏を加熱して得られる無水石膏も使用できる。
また、前記石膏のブレーン比表面積は、好ましくは2000〜12000cm
2/g、より好ましくは3000〜8000cm
2/g、さらに好ましくは4000〜6000cm
2/g、特に好ましくは4500〜5500cm
2/gである。該値が2000〜12000cm
2/gの範囲を外れると、固化材の強度発現性が低下するおそれがある。
【0025】
(4)その他の任意の構成成分等
本発明の
製造方法を用いて製造した固化材は、任意の構成成分として、シリカフューム、シリカ粉末、製鋼スラグ粉末、クリンカダスト等を、固化材の強度発現性や6価クロムの溶出抑制効果が損なわれない範囲で含んでもよい。ここでクリンカダストとは、セメントキルンのキルン尻からボトムサイクロンに至るまでのキルン排ガス流路から、燃焼ガスの一部を抽気し、この抽気した燃焼ガスを冷却して生成したダストであり、該ダストには、セメントキルンに付設した塩素バイパス装置により前記燃焼ガス中から回収された塩素バイパスダストも含まれる。クリンカダストは固化材の早期強度発現性を向上させる効果を有する。
本発明の
製造方法を用いて製造した固化材の粉末度はブレーン比表面積で、好ましくは2000〜10000cm
2/g、より好ましくは2500〜8000cm
2/g、さらに好ましくは3000〜6000cm
2/gである。該値が2000〜10000cm
2/gの範囲にあれば、固化材は強度発現性と作業性に優れる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の製造方法における固化材の配合設計の一例を説明するが、本発明はこの例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント
表1に示す普通ポルトランドセメント(基準セメント)、および高炉スラグを40質量%含む高炉セメントB種(高炉スラグ含有セメント)を使用した。なお、いずれのセメントも太平洋セメント社製である。
【0027】
【表1】
【0028】
(2)石膏
密度2.85g/cm
3の無水石膏(天然品)を使用した。
(3)高炉スラグ微粉末、
密度2.89g/cm
3、ブレーン比表面積4380cm
2/gの高炉スラグ微粉末(エスメント関東社製)を使用した。
(4)対象土
表2に示すNo.1〜5の対象土を使用した。これらの中で、No.1〜4の対象土は、対象土中のアロフェン類の含有率と改良土の強度比(P
1/P
2)との直線関係を求めるために使用した。また、No.5の対象土は、固化処理の現場において3つの異なる地点から採取した土を混合したものであり、該現場の土壌の固化処理に用いる固化材の配合を、本発明で用いる配合設計により決定するために使用した。
なお、表2中の対象土の含水率はJIS A 1203「土の含水比試験方法」に準拠し、強熱減量はJIS A 1226「土の強熱減量試験方法」に準拠し、また、湿潤密度はJIS A 1210「突固めによる土の締固め試験方法」に準拠して測定した。
【0029】
2.固化材の配合設計例
下記(1)〜(5)の手順に従い、普通ポルトランドセメントと同程度の強度発現性を有し、かつ6価クロムの溶出抑制効果が高い固化材の配合設計を行った。
(1)対象土中のアロフェン類の含有率の測定
前記文献(i)に記載の「酸−アルカリ交互溶解法」に準拠して、表2に示す5種類の対象土中のアロフェン類の含有率を測定した。その結果を表2に示す。
【0030】
(2)改良土の強度の測定
表1に示す普通ポルトランドセメント(基準セメント)および高炉セメントB種(高炉スラグ含有セメント)をそれぞれ、No.1〜4の対象土1m
3に対し100kg粉体で混合し改良土を作製した。次に、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠して、前記改良土の一軸圧縮強さ(以下「強度」という。)を測定し、普通ポルトランドセメントを用いた改良土の強度(P
2)に対する高炉セメントB種を用いた改良土の強度(P
1)の強度比(P
1/P
2)を求めた。材齢7日における改良土の強度の測定結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
(3)関係式(1)の誘導
表2に示すNo.1〜4の対象土中のアロフェン類の含有率(質量%)を説明変数(x)、表2に示すNo.1〜4の材齢7日の強度比(P
1/P
2)を目的変数として回帰分析により、
図1に示す関係式(1)を得た。
P
1/P
2=−0.05x+1.85 …(1)
図1に示すように、アロフェン類の含有率と強度比との間に高い相関(決定係数R
2が0.9669)の直線関係が成立している。
また、
図1に示すように、材齢7日(白丸)と同様に材齢28日(黒丸)においても直線関係が成立することから、本発明における直線関係は材齢に依らず成立することが分かる。
【0033】
(4)関係式(2)の誘導
改良土の強度と高炉スラグの含有率の間に直線関係が成立するため、前記関係式(1)の両辺に、使用した高炉セメントB種中の高炉スラグの含有率である40(質量%)を乗じて得た値が、強度比が1になる固化材中の高炉スラグの配合量になる。下記式は、前記関係式(1)の左辺に40を乗じて得た関係式(2)である。
s
2=−2.0x+74 …(2)
【0034】
(5)石膏量決定用基材中の高炉スラグおよびセメントの含有率の決定
さらに、固化処理の現場において3つの異なる地点から採取した土を混合した対象土(No.5)中のアロフェン類の含有率(28.0質量%)を、関係式(1)中のxに代入すると強度比(P
1/P
2)は0.45となり1以下であるから、該含有率(28.0質量%)を関係式(2)中のxに代入して石膏量決定用基材中の高炉スラグの含有率は18質量%に決定した。したがって、石膏量決定用基材中のセメントの含有率は、100から18を引いて、82質量%に決定した。
【0035】
(6)固化材中の石膏の配合量の決定
前記決定に従い、高炉スラグを18質量%、普通ポルトランドセメント(石膏の含有率はSO
3換算で2質量%)を82質量%含む石膏量決定用基材を調製した。次に、該石膏量決定用基材と石膏の混合物である石膏量決定用組成物中のSO
3の含有率が、該組成物の合計を100質量%として、それぞれ4質量%、6質量%、8質量%、および10質量%になるように混合して該組成物を製造した。なお、該組成物中のSO
3の配合量とは、普通ポルトランドセメントに元々含まれている石膏、および固化材を製造するために混合する石膏から由来するSO
3の合計量である。
次に、該組成物を、No.5の対象土1m
3に対し100kg粉体で混合して改良土を作製した後、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験方法」に準拠して、該改良土の材齢7日の強度を測定した。その結果を表3に示す。
そして、表3に示す強度の値および材料コストを勘案して、固化材中の石膏の配合量はSO
3換算で6質量%(この6質量%から普通ポルトランドセメントに由来する石膏(SO
3換算)の2質量%を差し引くと、無水石膏はSO
3換算で4質量%であるから、無水石膏自体としては7質量%)に決定した。次に、固化材中の石膏量決定用基材の配合量は、前記無水石膏の配合量(7質量%)を、100質量%から引いて93質量%となる。
そして、石膏量決定用基材の配合量(93質量%)に、前記普通ポルトランドセメントの含有率82質量%(0.82)、前記高炉スラグの含有率18質量%(0.18)を乗じて、固化材中のセメントの配合量を76質量%、高炉スラグの含有量を17質量%に決定した。
【0036】
【表3】
【0037】
(7)固化材の添加量の決定
前記決定した前記配合量に基づき、普通ポルトランドセメント、高炉スラグおよび無水石膏を計量して混合し固化材を製造した。
次に、固化処理の現場の土であるNo.5の対象土1m
3に対し、該固化材をそれぞれ50kg、100kg、150kgおよび200kg粉体で混合して改良土を作製し、JIS A 1216の規定に準拠して材齢7日の該改良土の強度を測定した。その結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
さらに、表4に基づき固化材の添加量(kg/m
3)を説明変数(h)、改良土の強度(kN/m
2)を目的変数(s)として回帰分析により下記(5)式を求めた。
s=9.18h−267.6 …(5)
そして、No.5の対象土を採取した現場において、必要とされた改良土の強度は1000kN/m
2であったから、該値を前記(5)式中のsに代入して固化材の添加量は140kg/m
3に決定した。
【0040】
(8)現場の対象土を用いた改良土の材齢28日の強度と6価クロムの溶出量
以上の決定に基づき、普通ポルトランドセメントを76質量%、高炉スラグを17質量%、および無水石膏を7質量%含む固化材(実施例1)を製造して、該固化材をNo.5の対象土1m
3に対し140kg粉体で混合して改良土を作製し、前記JISの規定に準拠して材齢28日の該改良土の強度を測定した。また、該材齢の改良土からの6価クロムの溶出量を、環境庁告示第46号に準拠して測定した。
また、比較のために、普通ポルトランドセメントに無水石膏を添加して、石膏の含有率がSO
3換算で実施例1と同じ6質量%にしたセメント組成物(比較例1)、および高炉スラグの含有率が40質量%の高炉セメントB種に無水石膏を添加して、石膏の含有率がSO
3換算で実施例1と同じ6質量%にした高炉スラグ含有セメント(比較例2)を用いて、前記と同様にして改良土を作製し、該改良土の強度と該改良土からの6価クロムの溶出量を測定した。その結果を表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
表5に示すように、比較例1は強度が高いが6価クロムの溶出がみられ、比較例2は6価クロムの溶出はないが強度が低く前記目標強度(1000kN/m
2)を下回っている。これに対し、実施例1では強度が高く前記目標強度を上回り、6価クロムの溶出はない。
なお、以上の良好な結果に基づけば、前記関係式(2)の誘導方法は妥当であると結論付けることができる。
【0043】
したがって、本発明の固化材の製造方法によれば、現場の対象土に適した固化材を容易に製造できる。また、本発明の製造方法により製造した本固化材は、強度発現性および6価クロムの溶出抑制効果のいずれも高い。