特許第5996044号(P5996044)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5996044-スパークプラグ 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5996044
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20160908BHJP
【FI】
   H01T13/20 C
【請求項の数】5
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-123301(P2015-123301)
(22)【出願日】2015年6月18日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】特許業務法人鳳国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 和浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岡 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦治
(72)【発明者】
【氏名】上垣 裕則
(72)【発明者】
【氏名】黒野 啓一
(72)【発明者】
【氏名】本田 稔貴
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−150681(JP,A)
【文献】 特開昭61−039385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線の方向に延びる貫通孔を有する絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入された中心電極と、
前記貫通孔の後端側に少なくとも一部が挿入された端子金具と、
前記貫通孔内で、前記中心電極と前記端子金具とを接続する接続部と、
を備えるスパークプラグであって、
前記接続部は、
磁性物質である鉄含有酸化物の複数の1次粒子によって形成された複数の2次粒子と、
前記複数の2次粒子のそれぞれを被覆する導電性物質と、
を含む複合部を備え、
前記鉄含有酸化物は、
1+AOFe2−A(-0.5≦A≦0.5。Mは、Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Mg, Zn, Caのうちの少なくとも1種)と、
Fe12(Qは、Y, Lu, Yb, Tm, Er, Ho, Dy, Tb, Gd, Smのうちの少なくとも1種)と、
の少なくとも一方を含み、
前記複合部の前記軸線を含む断面において、
前記1次粒子の平均粒径は、0.5μm以上、100μm以下であり、
前記2次粒子の平均粒径は、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記2次粒子の内部の気孔率は、5%以下である、
スパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
前記鉄含有酸化物は、NiZnFe(0.3≦X≦0.8、 0.2≦Y≦0.7、 1.5≦Z≦2.5、X+Y+Z=3)を含む、スパークプラグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパークプラグであって、
前記断面において、
前記2次粒子の内部のうち、前記2次粒子の表面からの距離が100μm以上である部分を内部分とし、前記表面からの距離が50μm以下である部分を縁部分とする場合に、
前記内部分での鉄の酸化物換算による含有率と、前記縁部分での鉄の酸化物換算による含有率と、の間の差分は、5.0wt%以下である、
スパークプラグ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記複合部は、
珪素(Si)とホウ素(B)とリン(P)とのうちの少なくとも1つを含むセラミックと、
アルカリ金属成分と、
を含む、スパークプラグ。
【請求項5】
請求項4に記載のスパークプラグであって、
前記複合部において、前記アルカリ金属成分の含有率は、酸化物換算した値で、0.5wt%以上、6.5wt%以下である、スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関に、スパークプラグが用いられている。また、点火によって発生する電波ノイズを抑制するために、絶縁体の貫通孔内に抵抗体を設ける技術が提案されている。また、絶縁体の貫通孔内に磁性体を設ける技術も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−284374号公報
【特許文献2】特開昭62−150681号公報
【特許文献3】特開昭61−230281号公報
【特許文献4】特開昭54−151736号公報
【特許文献5】特開昭61−135079号公報
【特許文献6】特開昭61−104580号公報
【特許文献7】特開昭61−208768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、磁性体を用いて電波ノイズを抑制する点については、十分な工夫がなされていないのが実情であった。
【0005】
本開示は、磁性体を用いて電波ノイズを抑制できる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、例えば、以下の適用例を開示する。
【0007】
[適用例1]
軸線の方向に延びる貫通孔を有する絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に少なくとも一部が挿入された中心電極と、
前記貫通孔の後端側に少なくとも一部が挿入された端子金具と、
前記貫通孔内で、前記中心電極と前記端子金具とを接続する接続部と、
を備えるスパークプラグであって、
前記接続部は、
磁性物質である鉄含有酸化物の複数の1次粒子によって形成された複数の2次粒子と、
前記複数の2次粒子のそれぞれを被覆する導電性物質と、
を含む複合部を備え、
前記鉄含有酸化物は、
1+AOFe2−A(-0.5≦A≦0.5。Mは、Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Mg, Zn, Caのうちの少なくとも1種)と、
Fe12(Qは、Y, Lu, Yb, Tm, Er, Ho, Dy, Tb, Gd, Smのうちの少なくとも1種)と、
の少なくとも一方を含み、
前記複合部の前記軸線を含む断面において、
前記1次粒子の平均粒径は、0.5μm以上、100μm以下であり、
前記2次粒子の平均粒径は、0.5mm以上、2mm以下であり、
前記2次粒子の内部の気孔率は、5%以下である、
スパークプラグ。
【0008】
この構成によれば、電波ノイズを適切に抑制できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグであって、
前記鉄含有酸化物は、NiZnFe(0.3≦X≦0.8、 0.2≦Y≦0.7、 1.5≦Z≦2.5、X+Y+Z=3)を含む、スパークプラグ。
【0010】
この構成によれば、電波ノイズをさらに適切に抑制できる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または2に記載のスパークプラグであって、
前記断面において、
前記2次粒子の内部のうち、前記2次粒子の表面からの距離が100μm以上である部分を内部分とし、前記表面からの距離が50μm以下である部分を縁部分とする場合に、
前記内部分での鉄の酸化物換算による含有率と、前記縁部分での鉄の酸化物換算による含有率と、の間の差分は、5.0wt%以下である、
スパークプラグ。
【0012】
この構成によれば、2次粒子の内部における磁性体の偏りが抑制されるので、安定的に電波ノイズを抑制できる。
【0013】
[適用例4]
適用例1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記複合部は、
珪素(Si)とホウ素(B)とリン(P)とのうちの少なくとも1つを含むセラミックと、
アルカリ金属成分と、
を含む、スパークプラグ。
【0014】
この構成によれば、複合部の耐久性を向上できる。
【0015】
[適用例5]
適用例4に記載のスパークプラグであって、
前記複合部において、前記アルカリ金属成分の含有率は、酸化物換算した値で、0.5wt%以上、6.5wt%以下である、スパークプラグ。
【0016】
この構成によれば、電波ノイズをさらに適切に抑制できる。
【0017】
なお、本明細書に開示の技術は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグ、そのスパークプラグを搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】スパークプラグの一実施形態の断面図である。
図2】複合部200の説明図である。
図3】平均粒径の算出方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.実施形態:
A−1.スパークプラグの構成:
図1は、スパークプラグの一実施形態の断面図である。図中には、スパークプラグ100の中心軸CLが示されている(「軸線CL」とも呼ぶ)。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLに平行な方向を「軸線CLの方向」、または、単に「軸線方向」または「前後方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLに平行な方向のうち、図1における下方向を先端方向Df、または、前方向Dfと呼び、上方向を後端方向Dfr、または、後方向Dfrとも呼ぶ。先端方向Dfは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、図1における先端方向Df側をスパークプラグ100の先端側と呼び、図1における後端方向Dfr側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0020】
スパークプラグ100は、軸線CLに沿って延びる貫通孔12(以下「軸孔12」とも呼ぶ)を有する略円筒状の絶縁体10と、軸孔12の先端側で保持される中心電極20と、軸孔12の後端側で保持される端子金具40と、軸孔12内で中心電極20と端子金具40とを電気的に接続する接続部300と、絶縁体10の外周側に固定された主体金具50と、一端が主体金具50の先端面に接合されるとともに他端が中心電極20とギャップgを介して対向するように配置された接地電極30と、を有している。
【0021】
絶縁体10は、最大外径を有する大径部19を有している。大径部19の先端側には、先端側胴部17、第1縮外径部15、脚部13が、先端側に向かってこの順に接続されている。第1縮外径部15の外径は、先端側に向かって徐々に小さくなる。大径部19の後端側には、第2縮外径部11、後端側胴部18が、後端側に向かってこの順に接続されている。第2縮外径部11の外径は、後端側に向かって徐々に小さくなる。第1縮外径部15の近傍(図1の例では、先端側胴部17)には、先端側に向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。絶縁体10は、機械的強度と、熱的強度と、電気的強度とを考慮して形成されることが好ましく、例えば、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。
【0022】
中心電極20は、中心軸CLに沿って延びる棒状の軸部27と、軸部27の先端に接合された第1チップ29と、を有している。第1チップ29は、例えば、レーザ溶接によって、軸部27に固定されている。軸部27の後端側には、外径が大きいフランジ部28が形成されている。フランジ部28の前方向Df側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。中心電極20の先端部は、絶縁体10の先端よりも前方向Dfに突出している。
【0023】
軸部27は、外層21と芯部22とを有している。外層21は、芯部22よりも耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルを含む合金)で形成されている。芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅合金、等)で形成されている。第1チップ29は、軸部27よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。
【0024】
端子金具40は、鍔部42と、鍔部42より後端側の部分であるキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の部分である脚部43と、を有している。脚部43は、絶縁体10の貫通孔12に挿入されている。キャップ装着部41は、絶縁体10の後端側で、貫通孔12の外に露出している。端子金具40は、導電材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。端子金具40の表面には、防食のための金属層が形成され得る。例えば、Ni層がメッキで形成される。
【0025】
接続部300は、軸孔12内で中心電極20と端子金具40との間に配置され、中心電極20と端子金具40とを電気的に接続している。接続部300は、磁性体と導電体とを含む複合部200を有している。複合部200は、電波ノイズを抑制する。接続部300は、さらに、中心電極20と複合部200とに接触する第1シール部60と、複合部200と端子金具40とに接触する第2シール部80と、を有している。シール部60、80は、例えば、ガラス粒子(例えば、B23−SiO2系のガラス)と、金属粒子(Cu、Feなど)と、を用いて形成されている。
【0026】
主体金具50は、軸線CLに沿って延びる貫通孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入され、主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。絶縁体10の先端側の一部は、貫通孔59の外に露出している。絶縁体10の後端側の一部は、貫通孔59の外に露出している。主体金具50は、導電材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。
【0027】
主体金具50は、内燃機関(例えば、ガソリンエンジン)の取付孔に螺合するためのネジ部52が外周面に形成されている胴部55を有している。胴部55の後端側には、座部54が接続されている。座部54とネジ部52との間には、環状のガスケット5が嵌め込まれている。座部54の後端側には、変形部58、工具係合部51、加締部53が、後端側に向かってこの順に接続されている。変形部58は、径方向の外側(中心軸CLから離れる方向)に向かって中央部が突出するように、変形している。工具係合部51の形状は、スパークプラグレンチが係合する形状(例えば、六角柱)である。加締部53は、絶縁体10の第2縮外径部11よりも後端側に配置され、径方向の内側に向かって屈曲されている。
【0028】
主体金具50の加締部53と絶縁体10の第2縮外径部11との間には、主体金具50の内周面と絶縁体10の外周面とに挟まれた空間SPが形成されている。空間SP内には、第1後端側パッキン6、タルク(滑石)9、第2後端側パッキン7が、先端側に向かってこの順に配置されている。本実施形態では、これらの後端側パッキン6、7は、鉄製のCリングである(他の材料も採用可能である)。
【0029】
主体金具50の胴部55には、先端側に向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部56が形成されている。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の第1縮外径部15と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。本実施形態では、先端側パッキン8は、鉄製のOリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。
【0030】
スパークプラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端方向Df側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。先端側パッキン8は、第1縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁体10との間を通って外に漏れることが、抑制される。また、主体金具50が、絶縁体10に、固定される。
【0031】
接地電極30は、棒状の軸部37と、軸部37の先端部31に接合された第2チップ39と、を有している。軸部37の一端は、主体金具50の先端面に接合されている(例えば、抵抗溶接)。軸部37は、主体金具50から先端方向Dfに向かって延び、中心軸CLに向かって曲がって、先端部31に至る。先端部31の後端側の面には、第2チップ39が固定されている(例えば、レーザ溶接)。接地電極30の第2チップ39と、中心電極20の第1チップ29とは、ギャップgを形成している。
【0032】
軸部37は、軸部37の表面を形成する母材35と、母材35内に埋設された芯部36と、を有している。接地電極30の母材35と芯部36と第2チップ39とは、中心電極20の外層21と芯部22と第1チップ29と、それぞれ同様の材料を用いて形成されている。なお、第1チップ29と第2チップ39との少なくとも一方を省略してもよい。
【0033】
図2は、複合部200の説明図である。図2の左上部には、複合部200の斜視図が示されている。この斜視図は、一部分が切断された複合部200を示している。図中の断面900は、中心軸CLを含む平面による複合部200の断面である。図2の中央上部には、断面900上の一部分800を拡大した模式図が示されている(以下、「対象領域800」と呼ぶ)。対象領域800は、中心軸CLを中心線とする矩形領域であり、その矩形状は、中心軸CLに平行な2辺と、中心軸CLに垂直な2辺と、で構成されている。対象領域800の形状は、中心軸CLを対称軸とする線対称である。図中の第1長Laは、対象領域800の中心軸CLに垂直な方向の長さであり、第2長Lbは、対象領域800の中心軸CLに平行な方向の長さである。ここで、第1長Laは、2mmであり、第2長Lbは、3mmである。
【0034】
図示するように、対象領域800(すなわち、複合部200の断面900)は、セラミック領域810と、導電領域820と、磁性領域830と、を含んでいる。磁性領域830は、複数の粒状の領域835で構成されている(以下、「磁性粒領域835」または、単に「粒領域835」とも呼ぶ)。磁性領域830は、磁性体としての鉄含有酸化物で形成されている。鉄含有酸化物としては、例えば、スピネルフェライトである(Ni,Zn)Feや、ガーネットフェライトであるYFe12などを採用可能である。複数の磁性粒領域835は、複合部200の材料として鉄含有酸化物の粉末を用いることによって、形成される。本実施形態では、材料の粉末に含まれる鉄含有酸化物の複数の粒子が互いにくっついて1つの粒子状の構造物を形成し、形成された1つの粒子状の構造物が1つの磁性粒領域835を形成する。粒子状の構造物は、例えば、鉄含有酸化物の材料粉末にバインダ等の液体を添加して混合することによって、形成される。鉄含有酸化物の複数の粒子は、凝集によって、大きな径を有する粒子状の構造物を形成し得る。また、鉄含有酸化物の複数の粒子は、バインダを介して互いにくっつくことによって、大きな径を有する粒子状の構造物を形成し得る。以下、粒子状の構造物を形成する複数の粒子を「1次粒子」とも呼び、複数の1次粒子で形成される粒子状の構造物を「2次粒子」と呼ぶ。断面900上の1つの磁性粒領域835は、1つの2次粒子の断面を示している。
【0035】
図示を省略するが、複数の磁性粒領域835を形成する複数の2次粒子のそれぞれの表面は、導電性物質の被覆層に被覆されている。導電性物質としては、例えば、金属(Ni、Cuなど)、ペロブスカイト型酸化物(SrTiO、SrCrOなど)、炭素(C)、炭素化合物(Cr、TiCなど)を採用可能である。
【0036】
図2の導電領域820は、2次粒子の表面に形成された導電性物質の被覆層の断面を示している。図示するように、導電領域820は、磁性粒領域835の縁を被覆している。導電領域820は、複数の磁性粒領域835を被覆する複数の被覆領域825で構成されている。1つの磁性粒領域835を被覆する部分が、1つの被覆領域825に対応する。1つの磁性粒領域835と、その磁性粒領域835を被覆する1つの被覆領域825とは、粒子状の領域840を形成する(「複合粒領域840」と呼ぶ)。図示するように、複数の複合粒領域840は、互いに被覆領域825が接するように、配置されている。互いに接する複数の被覆領域825は、後端方向Dfr側から先端方向Df側へ延びる電流の経路を形成している。電流の経路を形成する導電領域820が磁性領域830の近傍を通るので、複合部200は、電波ノイズを抑制できる。
【0037】
図示を省略するが、対象領域800(すなわち、断面900)上には、2つの複合粒領域840が離れて配置され得る。このように対象領域800上では互いに離れた2つの複合粒領域840は、対象領域800よりも奥、または、手前の位置で、互いに接する2つの立体的な粒子状の部分の断面を表している場合がある。このように、対象領域800上で、互いに接する、または、互いに離れた、複数の複合粒領域840は、後端方向Dfr側から先端方向Df側へ延びる電流の経路を形成可能である。放電時には、電流が、複数の複合粒領域840の複数の被覆領域825(すなわち、導電領域820)を通じて、複合部200を流れる。
【0038】
上述のように、導電領域820は、磁性領域830を被覆している。すなわち、電流の経路は、磁性体を囲むように構成されている。磁性体が導電経路の近傍に配置されると、放電によって生じる電波ノイズが抑制される。例えば、導電経路がインダクタンス素子として機能することによって、電波ノイズが抑制される。また、導電経路のインピーダンスが大きくなることによって、電波ノイズが抑制される。
【0039】
図2の左下部には、磁性粒領域835の拡大図が示されている。図示するように、磁性粒領域835内には、複数の気孔832が生じている。複数の気孔832は、複数の1次粒子837の間の隙間を示している。スパークプラグ100の放電時には、気孔832内においても部分的な放電が生じ得る。気孔832内で部分放電が生じることによって、複合部200が劣化し得、また、電波ノイズが生じ得る。従って、磁性粒領域835に対する気孔832の割合(例えば、磁性粒領域835の面積に対する気孔832の面積の割合)が小さいことが好ましい。
【0040】
セラミック領域810は、セラミックで形成されている。セラミックとしては、例えば、珪素(Si)とホウ素(B)とリン(P)とのうちの少なくとも1つを含むセラミックを採用可能である。このようなセラミックとしては、例えば、ガラスを採用可能である。ガラスとしては、例えば、シリカ(SiO)とホウ酸(B)とリン酸(P)とから任意に選択された1つ以上の酸化物を含む物質を採用してもよい。また、Si、B、Pを含まないセラミック(例えば、Al、BeFなどを含む材料)を採用してもよい。図示するように、複数の複合粒領域840(すなわち、複数の磁性粒領域835と、複数の磁性粒領域835を被覆する複数の被覆領域825)は、セラミック領域810に囲まれている。すなわち、複数の複合粒領域840(導電領域820と磁性領域830)は、セラミック領域810によって支持されている。
【0041】
図2の中央下部には、複合部200の断面上の1つの粒領域835と、1つの円835cとが示されている。円835cは、粒領域835の面積と同じ面積を有する仮想円である(以下「仮想円835c」と呼ぶ)。図中の直径Dcは、仮想円835cの直径である。この直径Dcは、粒領域835を円で近似して得られる直径である(以下「近似径Dc」とも呼ぶ)。近似径Dcは、粒領域835が大きいほど、大きい。
【0042】
A−2.製造方法:
第1実施形態のスパークプラグ100の製造方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、以下の製造方法を採用可能である。まず、絶縁体10と、中心電極20と、端子金具40と、導電性シール部60、80のそれぞれの材料粉末と、複合部200の材料粉末と、を準備する。
【0043】
複合部200の材料粉末は、例えば、以下のように準備される。鉄含有酸化物の材料粉末(1次粒子の粉末)にバインダなどの液体を添加して混合することによって、2次粒子を形成する。例えば、1次粒子の凝集によって、2次粒子が形成される。得られた2次粒子に、例えば、無電解メッキによって、2次粒子の表面を覆う導電性物質の被覆層を形成する。被覆層で覆われた2次粒子の粉末と、セラミックの粉末とを、混合することによって、複合部200の材料粉末を準備する。なお、複合部200の材料粉末には、さらに、アルカリ金属を含む物質(例えば、アルカリ金属の酸化物)が添加され得る。なお、アルカリ金属は、周期律表第1族元素のうちの金属元素であり、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)が挙げられる。また、メッキに代えて、2次粒子の粉末の表面にバインダを塗布し、導電性物質の粒子を2次粒子の表面に付着させることによって、被覆層を形成してもよい。そして、被覆層に覆われた2次粒子の粉末と、セラミックの粉末とを、混合することによって、複合部200の材料粉末を準備してもよい。
【0044】
次に、絶縁体10(図1)の貫通孔12の後端方向Dfr側の開口(以下、「後開口14」と呼ぶ)から、中心電極20を挿入する。図1で説明したように、中心電極20は、絶縁体10の縮内径部16によって支持されることによって、貫通孔12内の所定位置に配置される。
【0045】
次に、第1シール部60、複合部200、第2シール部80のそれそれの材料粉末の投入と投入された粉末材料の成形とが、部材60、200、80の順番に、行われる。粉末材料の投入は、貫通孔12の後開口14から、行われる。投入された粉末材料の成形は、後開口14から挿入した棒を用いて、行われる。材料粉末は、対応する部材の形状と略同じ形状に、成形される。
【0046】
次に、絶縁体10を、各材料粉末に含まれるガラス成分の軟化点よりも高い所定温度まで加熱し、所定温度に加熱した状態で、貫通孔12の後開口14から、端子金具40を貫通孔12に挿入する。この結果、各材料粉末が圧縮および焼結されて、シール部60、80と、複合部200と、のそれぞれが形成される。
【0047】
次に、絶縁体10の外周に主体金具50を組み付け、主体金具50に、接地電極30を固定する。次に、接地電極30を屈曲して、スパークプラグを完成させる。
【0048】
B.評価試験:
図1のスパークプラグ100の複数種類のサンプルを用いた評価試験について説明する。以下に示す表1〜表5は、各サンプルのそれぞれの構成と、評価試験の結果と、を示している。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
この評価試験では、A−1番からA−53番と、B−1番からB−31番と、の84種類のサンプルが評価された。後述する複数のパラメータと複数の試験結果との関係を特定するために、同じ条件下で製造された複数のサンプルが、同じ種類のサンプルとして用いられた。表1〜表5は、サンプルの番号と、サンプルの複合部200の構成と、評価試験の結果と、を示している。サンプルの構成としては、磁性領域830の構成と、導電物(導電領域820)の組成と、鉄の含有率差と、Si、B、Pのうちセラミック領域810に含まれる元素と、複合部200に含まれるアルカリ金属の元素とその含有率と、が示されている。磁性領域830の構成としては、磁性領域830に含まれる鉄含有酸化物の組成と、1次粒径(1次粒子の平均粒径)と、気孔率(2次粒子(磁性粒領域835)の気孔率)と、2次粒径(2次粒子の平均粒径)と、が示されている。評価試験の結果としては、ノイズ評価試験の結果と、振動試験の結果とが、示されている。
【0055】
鉄含有酸化物の組成は、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析とX線回折(XRD:X-ray diffraction)とEPMA(Electron Probe Micro Analyser)によって、特定された。なお、表中には、鉄含有酸化物の組成のみが示されている。実際には、磁性領域830には、製造工程で混入する微量(例えば、1ppm程度)の種々の不純物が含まれ得る。
【0056】
1次粒径(1次粒子の平均粒径)は、以下のようにして算出した。サンプルの複合部200を、図2で説明したように、中心軸CLを含む平面で切断し、複合部200の断面を、鏡面研磨し、その後に、熱エッチング処理を行った。熱エッチング処理の代わりに、化学エッチング処理を行ってもよい。このように処理された複合部200の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)で観察した。ここで、SEMの加速電圧は、15kVに設定され、作動距離(working distance)は、10mm以上12mm以下の範囲内に設定された。そして、SEM画像を以下に説明する方法に従って解析することによって、1次粒子の平均粒径が算出された。
【0057】
図3は、平均粒径の算出方法を示す説明図である。上記の断面に関して、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて200μm×200μmの矩形領域の画像を10視野で撮影した。図3(A)は、SEM画像で観察される結晶粒子の様子を示す模式図である。SEM画像は、画像解析ソフト(Soft Imaging System GmbH社製のAnalysis Five)を用いて2値化した。2値化の閾値は、以下のように設定した。
(1)SEM画像のうちの二次電子像及び反射電子像を確認し、反射電子像における濃色の境界(結晶粒界に相当する)にラインを引き、結晶粒界の位置を明確にした。
(2)反射電子像の画像を改善するため、結晶粒界のエッジを保ちながら反射電子像の画像を滑らかにした。
(3)反射電子像の画像から、横軸に明るさ、縦軸に頻度をとったグラフを作成した。得られるグラフは二山状のグラフになるため、二つの山の中間点の明るさを2値化の閾値に設定した。
【0058】
SEM画像における1次粒子の領域と他の領域との区別は、EPMAにより行った。そして、1次粒子のみなし粒径Da(i)を、下記のインターセプト法により求めた。
【0059】
インターセプト法では、まず、SEM画像の2つの対角線DG1,DG2(図3(A))の少なくとも一方と交差する1次粒子を選択した。そして、選択された個々の1次粒子CG(図3(B))について、その最大径Dmaxを求めてこれを長径D1とした。最大径Dmaxは、その1次粒子CGの外径をあらゆる方向で測定したときの最大値である。そして、この長径D1の中点を通り長径D1と直交する直線上における1次粒子CGの外径を短径D2とした。また、長径D1と短径D2の平均値(D1+D2)/2を、対象粒子CGのみなし粒径Da(i)とした。ここで、「(i)」は、i番目の1次粒子CGの値であることを意味している。平均粒径Daveは、対角線DG1,DG2の少なくとも一方と交差するn個の1次粒子CGのみなし粒径Da(i)の平均値である。インターセプト法で得られる平均粒径Daveの値は、SEM画像によって多少の差が発生するため、10枚のSEM画像における平均値を使用した。
【0060】
2次粒径(2次粒子の平均粒径)は、以下のようにして算出した。図2で説明した複合部200の断面上の2mm×3mmの対象領域800を含む領域を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した。そして、1次粒径の算出と同様の方法に従って、SEM画像の2値化を行い、2次粒子の領域と他の領域とを区別した。ここで、導電領域820に囲まれている1つの連続な領域が、1つの2次粒子(すなわち、磁性粒領域835)として、特定された。そして、2mm×3mmの対象領域800内の複数の2次粒子のそれぞれの面積を算出した。算出された面積を用いて、複数の2次粒子(すなわち、磁性粒領域835)のそれぞれの近似径Dc(図2)が算出された。2次粒径は、複数の2次粒子の近似径Dcの平均値である。
【0061】
気孔率は、2次粒子の面積(気孔832(図2)の面積を含む)に対する気孔832の面積の割合である。2次粒子の面積は、2次粒径の算出で説明した方法で算出された。気孔832の面積は、1次粒径の算出で説明した方法に従って、断面上の磁性粒領域835内の気孔832の領域(すなわち、複数の1次粒子の隙間の領域)を特定し、特定された気孔832の領域の面積を算出した。気孔率としては、断面上の200μm×200μmの領域に含まれる複数の2次粒子の気孔率の平均値を、採用した。
【0062】
導電物(導電領域820の組成)は、複合部200の材料に含まれる導電性物質を示している。なお、導電物の組成は、微小X線回折法などの分析によって、特定されてもよい。
【0063】
鉄の含有率差は、2次粒子の内部分と縁部分との間の鉄の含有率の差である。図2の右下部には、内部分と縁部分との説明図が示されている。図中には、複合部200の断面上の1つの2次粒子(磁性粒領域835)の拡大図が示されている。内部分835iは、複合部200の断面上において、2次粒子の内部のうち、2次粒子の表面835sからの距離が第1距離dti以上である部分である。ここで、dti=100μmとする。縁部分835oは、複合部200の断面上において、2次粒子の内部のうち、2次粒子の表面835sからの距離が第2距離dto以下である部分である。ここで、dto=50μmとする。磁性粒領域835の表面835sは、磁性粒領域835と被覆領域825との境界、すなわち、磁性領域830と導電領域820との境界である。
【0064】
鉄の含有率差は、図2で説明した複合部200の断面上において、内部分835iにおける鉄の含有率と、縁部分835oにおける鉄の含有率と、の間の差の絶対値である。鉄の含有率は、鉄成分の量を鉄の酸化物(ここでは、Fe)に換算して得られる含有率である。鉄成分の量の割合は、EPMAによって特定された。含有率の単位は、重量パーセントである。表中の鉄の含有率差は、10個の2次粒子から得られる10個の含有率差の平均値である。1つの2次粒子の含有率の差としては、内部分835iの内の5個の位置から得られる5個の含有率の平均値と、縁部分835oの内の5個の位置から得られる5個の含有率の平均値と、の差の絶対値を採用した。
【0065】
表中の「Si(珪素)、B(ホウ素)、P(リン)」の欄は、Si、B、Pのうちのセラミック領域810に含まれる元素を示している。セラミック領域810がSi、B、Pのいずれも含んでいない場合、「Si、B、P」の欄には、「X」印が記されている。Si、B、Pのうちセラミック領域810に含まれる元素は、セラミック領域810の粉末材料の成分から、特定された。この代わりに、EPMAなどの分析によってセラミック領域810に含まれる元素を特定してもよい。
【0066】
表中の「アルカリ」の「元素」の欄は、複合部200に含まれるアルカリ金属の元素を示している。複合部200がアルカリ金属を含んでいない場合、元素の欄は、空欄である。複合部200に含まれるアルカリ金属の元素は、複合部200の材料に含まれるアルカリ金属の成分から、特定された。なお、ICP分析、X線回折、EPMAなどの分析によって複合部200に含まれるアルカリ金属の元素を特定してもよい。
【0067】
表中の「アルカリ」の「含有率」の欄は、複合部200におけるアルカリ金属の含有率を示している。この含有率は、アルカリ金属の量をアルカリ金属の酸化物(JO(Jは、アルカリ金属元素))に換算して得られる含有率である。この含有率の単位は、重量パーセントである。複合部200が、複数種類のアルカリ金属を含む場合、表中の含有率は、各アルカリ金属の含有率の合計値である。なお、複合部200における各アルカリ金属の量の割合は、ICP分析によって特定された。
【0068】
ノイズ評価試験では、JASO D002−2(日本自動車技術会伝送規格D−002−2)の「自動車−電波雑音特性−第2部:防止器の測定方法 電流法」に従って、ノイズの強度が測定された。具体的には、スパークプラグのサンプルのギャップgの距離を0.9mm±0.01mmに調整し、13kVから16kVの範囲内の電圧をサンプルに印加して放電させた。そして、放電時に、電流プローブを用いて端子金具40を流れる電流を測定し、測定された値を、比較のためにdBに換算した。ノイズとしては、30MHz、100MHz、300MHzの3種類の周波数のノイズが測定された。表中の数値は、所定の基準に対するノイズの強度を示しており、5回の測定の平均値である。数値が大きいほど、ノイズが強い。表中の「ノイズバラツキ」は、100MHzのノイズを10個のサンプルについて測定した場合の、最大値と最小値との差分である。この差分(すなわち、バラツキ)が小さいほど、ノイズ抑制の効果が安定している。
【0069】
振動試験は、JIS B 8031の7.4項の「耐衝撃試験」に準じて行われた。本評価試験では、サンプルを耐衝撃性試験装置に取り付け、衝呈を22mmとして毎分400回の割合で60分間衝撃を加えた。そして、衝撃試験後に、中心電極20と端子金具40との間の電気的な導通を確認した。このような試験を、20個のサンプルについて、行った。表中のNG率(単位は、%)は、20個のサンプルのうち、導通を確認できなかったサンプル(すなわち、断線したサンプル)の割合を示している。NG率が小さいほど、耐衝撃性能が良い。
【0070】
B−1.各サンプルの構成について:
表1、表2、表3に示すように、A−1番からA−53番において、鉄含有酸化物の組成は、以下の組成のいずれかであった。
[第1種鉄含有酸化物]MnFe、NiFe、CuFe、ZnFe、CoFe、FeFe、MgFe、Cu0.5Fe2.5、Mg0.8Fe2.2、Mn0.6Zn0.3Fe2.1、Co1.5Fe1.5、Ni0.25Zn0.75Fe、Ni0.7Zn0.8Fe1.5、Ni0.8Zn0.2Fe、Ni0.3Zn0.7Fe、Ni0.8Zn0.7Fe1.5、Ni0.3Zn0.2Fe2.5、Ni0.4Zn0.4Fe2.2、Ni0.5Zn0.4Fe2.1、Ni0.6Zn0.3Fe2.1
[第2種鉄含有酸化物]YFe12、DyFe12、LuFe12、YbFe12、TmFe12、ErFe12、HoFe12、TbFe12、GdFe12、SmFe12
上記のような第1種鉄含有酸化物は、スピネルフェライトと呼ばれる場合がある。また、上記のような第2種鉄含有酸化物は、ガーネットフェライトと呼ばれる場合がある。
【0071】
第1種鉄含有酸化物の組成を「M1+AOFe2−A」で表す場合、A−1番からA−53番においては、「M」は、Mn、Ni、Cu、Zn、Co、Fe、Mgのうちの1種または2種であった。また、値「A」は、−0.5、−0.2、−0.1、0、+0.5のいずれかであった。値「A」の分布範囲は、−0.5以上、0.5以下であった。
【0072】
第2種鉄含有酸化物の組成を「QFe12」で表す場合、A−1番からA−53番においては、「Q」は、Y、Dy、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Tb、Gd、Smのうちのいずれか1種であった。
【0073】
A−18番からA−23番の組成は、第1種鉄含有酸化物の組成であり、酸素(O)以外の複数の元素のうち少なくとも2個の元素のそれぞれの比率が、整数ではない組成であった。A−24番からA−35番の組成は、NiFeであった。A−36番からA−40番の組成は、NiとZnとFeを含む第1種鉄含有酸化物の組成であった。
【0074】
以上のように、鉄含有酸化物の組成としては、「M1+AOFe2−A」で表される種々の第1種鉄含有酸化物と、「QFe12」で表される種々の第2種鉄含有酸化物と、が用いられた。
【0075】
A−1番からA−53番の他のパラメータの分布範囲は、以下の通りであった。
0.5μm ≦1次粒径 ≦100μm
0.8% ≦気孔率 ≦5.0%
0.5mm ≦2次粒径 ≦2.0mm
0.5wt%≦鉄の含有率差≦8.1wt%
導電領域820の組成は、Ni、C、Cu、LaMnO、TiC、インコネル(「INCONEL」は、登録商標)、パーマロイのいずれかであった。
【0076】
表4、表5に示すように、B−1番からB−31番において、鉄含有酸化物の組成は、以下の組成のいずれかであった。
[酸化鉄]FeO、Fe
[第1種鉄含有酸化物]MgFe、Mg0.7Zn0.2Fe2.1、MnFe、CuFe、Cu0.8Zn0.3Fe1.9、Mg0.8Zn0.8Fe1.4、Mg0.8Zn0.1Fe2.1、CoFe、Ni0.8Zn0.8Fe1.4、Co0.6Zn0.4Fe、Ni0.8Zn0.3Fe1.9、Ni0.9Zn0.8Fe1.3
[第2種鉄含有酸化物]YFe12、DyFe12
[第3種鉄含有酸化物]BaFe1219、SrFe1219、PbFe1219
上記のような第3種鉄含有酸化物は、六方晶フェライトと呼ばれる場合がある。
【0077】
B−2.1次粒子の粒径について:
A−1番からA−35番(表1、表2)の1次粒径の分布範囲は、0.5μm以上、100μm以下の範囲であった。このようなA−1番からA−35番は、全ての周波数において70dB以下という十分に小さいノイズ強度を実現できた。なお、A−1番からA−35番の他のパラメータの分布範囲は、以下の通りであった。
0.8% ≦気孔率 ≦5.0%
5.1wt%≦鉄の含有率差 ≦8.1wt%
ノイズのバラツキ≦13dB
NG率 ≦30%
導電領域820の組成は、Ni、インコネル、Cu、LaMnO、C、TiCのいずれかであった。また、複合部200は、Si、B、P、アルカリ金属のいずれも含んでいなかった。
【0078】
表4のB−1番の1次粒径は、A−1番からA−35番の1次粒径よりも小さい0.4μmである。B−1番のノイズ強度は、84dB(30MHz)、81dB(100MHz)、79dB(300MHz)であり、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。表4に示すように、B−1番の他の構成は、A−1番からA−35番の構成と同様であったので、両者の間のノイズ強度の違いは、1次粒径の影響であると推定される。1次粒径が小さい場合、1次粒子の磁区構造が単磁区構造になり易い。単磁区構造の磁性体では、磁壁移動によるエネルギーロスがなくなるので、ノイズ減衰の効果が弱くなる。
【0079】
また、表4、表5に示すように、1次粒径がA−1番からA−35番の1次粒径よりも小さいサンプルは、B−1番に加えて、B−10番、B−12番、B−14番、B−23番、B−24番、B−26番、B−30番を含んでいた(1次粒径が0.4μm以下)。そして、これらのサンプルのノイズ強度も、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。このように、複数種類のサンプルが、1次粒径がA−1番からA−35番の1次粒径よりも小さい場合にノイズが強くなることを、示した。
【0080】
表4のB−2番の1次粒径は、A−1番からA−35番の1次粒径よりも大きい110μmであった。B−2番のノイズ強度は、80dB(30MHz)、79dB(100MHz)、79dB(300MHz)であり、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。表4にも示すように、B−2番の他の構成は、A−1番からA−35番の構成と同様であったので、両者の間のノイズ強度の違いは、1次粒径の影響であると推定される。1次粒径が大きい場合にノイズが強くなる理由は、1次粒径が大きいことによって気孔率が大きくなり、この結果、部分的な放電が生じやすくなるからだと、推定される。
【0081】
また、表4、表5に示すように、1次粒径がA−1番からA−35番の1次粒径よりも大きいサンプルは、B−2番に加えて、B−11番、B−13番、B−15番、B−22番、B−25番、B−27番、B−31番を含んでいた(1次粒径が100μmを超える)。そして、これらのサンプルのノイズ強度も、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。このように、複数種類のサンプルが、1次粒径がA−1番からA−35番の1次粒径よりも大きい場合にノイズが強くなることを、示した。
【0082】
良好なノイズ強度を実現したA−1番からA−35番の1次粒径は、0.5、10、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、45、46、50、100(μm)であった。1次粒径の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)を、上記の19個の値を用いて定めてもよい。具体的には、上記の19個の値のうちの任意の値を、1次粒径の好ましい範囲の下限として採用してもよい。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用してもよい。例えば、1次粒径の好ましい範囲として、0.5μm以上、100μm以下の範囲を採用してもよい。なお、1次粒径を調整する方法としては、任意の方法を採用可能であり、例えば、鉄含有酸化物の材料粉末の粒径を調整する方法を採用可能である。
【0083】
B−3.気孔率について:
A−1番からA−35番(表1、表2)の気孔率の分布範囲は、0.8%以上、5.0%以下の範囲であった。一方、表4、表5のB−3番、B−16番、B−17番、B−18番、B−19番の気孔率は、A−1番からA−35番の気孔率よりも大きく、5.0%を超えていた。大きい気孔率を有する5種類のサンプルのノイズ強度は、全ての周波数で81dB以上であり、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。表4、表5に示すように、B−3番、B−16番、B−17番、B−18番、B−19番の他の構成は、A−1番からA−35番の構成と同様であったので、両者の間のノイズ強度の違いは、気孔率の影響であると推定される。気孔率が大きい場合にノイズが強くなる理由は、部分的な放電が生じやすいからだと、推定される。
【0084】
良好なノイズ強度を実現したA−1番からA−35番の気孔率は、0.8、1.5、2.0、2.1、2.5、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.5、5.0(%)であった。気孔率の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)を、上記の15個の値を用いて定めてもよい。具体的には、上記の15個の値のうちの任意の値を、気孔率の好ましい範囲の下限として採用してもよい。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用してもよい。例えば、気孔率の好ましい範囲として、0.8%以上、5.0%以下の範囲を採用してもよい。なお、気孔率が小さいほど、部分放電は生じにくいので、気孔率がゼロ%であってもよい。従って、気孔率の好ましい範囲として、ゼロ%以上、5.0%以下の範囲を採用してもよい。なお、気孔率を調整する方法としては、任意の方法を採用可能であり、例えば、1次粒径を調整する方法(1次粒径が大きいほど、気孔率が大きくなる)、複合部200の成形時に材料粉末に印加される力を調整する方法(力が強いほど、気孔率が小さくなる)などを、採用可能である。
【0085】
B−4.2次粒子の粒径について:
A−1番からA−35番(表1、表2)の2次粒径は、0.5、1.5、2(mm)のいずれかであった。一方、表4のB−4番の2次粒径は、A−1番からA−35番の2次粒径よりも小さい0.1mmであった。B−4番のノイズ強度は、80dB(30MHz)、80dB(100MHz)、76dB(300MHz)であり、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。表4に示すように、B−4番の他の構成は、A−1番からA−35番の構成と同様であったので、両者の間のノイズ強度の違いは、2次粒径の影響であると推定される。2次粒径が小さい場合にノイズが強くなる理由は、以下のように推定される。2次粒径が小さい場合には、複合部200内により多くの2次粒子が充填される。従って、2次粒子(磁性粒領域835)の表面を覆う導電領域820を通る導電経路が増えるので、電流は、複合部200内を分散して流れる。この結果、電流密度が小さくなり、磁性粒領域835によるノイズ減衰の効果が小さくなる、と推定される。
【0086】
また、表4、表5に示すように、2次粒径がA−1番からA−35番の2次粒径よりも小さいサンプルは、B−4番に加えて、B−12番、B−16番、B−20番、B−23番、B−26番、B−28番、B−30番を含んでいた(2次粒径が0.4mm以下)。そして、これらのサンプルのノイズ強度も、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。このように、複数種類のサンプルが、2次粒径がA−1番からA−35番の2次粒径よりも小さい場合にノイズが強くなることを、示した。
【0087】
表4のB−5番の2次粒径は、A−1番からA−35番の2次粒径よりも大きい2.1mmであった。B−5番のノイズ強度は、70dB(30MHz)、68dB(100MHz)、69dB(300MHz)であり、A−1番からA−35番のノイズ強度と同程度であった。このように、2次粒径が2mmよりも大きい場合であっても、良好なノイズ強度を実現できた。
【0088】
なお、2次粒径が大きい場合には、軸孔12(図1)内に複合部200の材料粉末を充填する場合の充填性が低下する。例えば、図2に示す複数の複合粒領域840の間の隙間の一部に、セラミック領域810の材料が充填されない場合があり得る。従って、スパークプラグの生産性を向上するという観点からは、2次粒径が小さいことが好ましく、例えば、A−1番からA−35番のうちの最大の2次粒径である2mm以下であることが好ましい。
【0089】
良好なノイズ強度を実現したA−1番からA−35番の2次粒径は、0.5、1.5、2(mm)であった。2次粒径の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)を、上記の3個の値を用いて定めてもよい。具体的には、上記の3個の値のうちの任意の値を、2次粒径の好ましい範囲の下限として採用してもよい。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用してもよい。例えば、2次粒径の好ましい範囲として、0.5mm以上、2mm以下の範囲を採用してもよい。なお、2次粒径を調整する方法としては、任意の方法を採用可能であり、例えば、鉄含有酸化物の材料粉末の粒径を調整する方法(材料粉末の粒径が大きいほど、2次粒径が大きくなる)、鉄含有酸化物の材料粉末とバインダとの混合時間を調整する方法(混合時間が長いと、2次粒径が大きくなる)などを、採用可能である。
【0090】
B−5.鉄含有酸化物の組成について:
上述したように、良好なノイズ強度を実現したA−1番からA−35番の鉄含有酸化物の組成は、「M1+AOFe2−A」または「QFe12」で表される種々の鉄含有酸化物であった。ここで、「M」は、Mn、Ni、Cu、Zn、Co、Fe、Mgのうちの1種または2種であった。値「A」は、−0.5以上、0.5以下であった。「Q」は、Y、Dy、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Tb、Gd、Smのうちのいずれか1種であった。
【0091】
また、表3のA−36番からA−40番は、鉄含有酸化物の組成として、他の種々のNiとZnとFeを含む酸化物を採用したサンプルである。表3に示すように、A−36番からA−40番は、全ての周波数において55dB以下という小さいノイズ強度を実現できた。
【0092】
表3に示すように、A−36番からA−40番の他の構成は、A−1番からA−35番の構成と同様であったので、両者の間のノイズ強度の違いは、鉄含有酸化物の組成の違いによると推定される。具体的には、A−36番からA−40番の鉄含有酸化物の組成は、Ni0.8Zn0.2Fe、Ni0.3Zn0.7Fe、Ni0.8Zn0.7Fe1.5、Ni0.3Zn0.2Fe2.5、Ni0.4Zn0.4Fe2.2であった。これらの組成を「NiZnFe」で表す場合、「X、Y、Z」の組み合わせは、「0.8、0.2、2」、「0.3、0.7、2」、「0.8、0.7、1.5」、「0.3、0.2、2.5」、「0.4、0.4、2.2」であった。XとYとZのそれぞれの分布範囲は、以下の通りであった。
0.3≦X≦0.8
0.2≦Y≦0.7
1.5≦Z≦2.5
(ただし、X+Y+Z=3)
【0093】
一般的に、「NiZnFe」で表される複数種類の酸化物は、NiとZnとFeとの比率が近い場合に、同様のノイズ抑制の効果を奏すると、推定される。従って、X、Y、Zのそれぞれが、上記の対応する分布範囲内であれば、A−36番からA−40番と同様に、小さいノイズ強度を実現できると推定される。
【0094】
このように、鉄含有酸化物の組成としては、「M1+AOFe2−A」と「QFe12」とを用いて上述した組成が好ましく、「NiZnFe」を用いて上述した組成が、さらに好ましい。
【0095】
表4のB−6番からB−9番は、鉄含有酸化物の組成として、さらに他の組成を採用したサンプルである。具体的には、各サンプルの組成は、Mg0.8Zn0.8Fe1.4、FeO、Fe、BaFe1219であった。これらのサンプルのノイズ強度は、任意の周波数で87dB以上であり、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。これらのサンプルの組成は、「M1+AOFe2−A」と「QFe12」と「NiZnFe」とを用いて上述した好ましい組成とは異なっていた。例えば、B−6番の組成(Mg0.8Zn0.8Fe1.4)は、「M1+AOFe2−A」で表すと、「M」は「Mg」であるが、値「A」は、上記の好ましい範囲(−0.5以上、0.5以下)の上限である0.5よりも大きな0.6である。このように、値「A」が上記の好ましい外である場合には、磁性領域830に、磁性体の相に加えて、別の相が形成された。この結果、ノイズ減衰の効果が低下する、と推定される。
【0096】
また、B−14番、B−15番、B−18番からB−21番、B−24番からB−31番の鉄含有酸化物の組成も、上記の好ましい組成とは異なっており、それらのサンプルのノイズ強度は、任意の周波数で86dB以上であり、A−1番からA−35番のうちの任意のサンプルの同じ周波数のノイズ強度よりも大きかった。
【0097】
このように、上記の好ましい組成は、他の組成を用いる場合と比べて、良好なノイズ強度を実現できた。なお、鉄含有酸化物の組成を調整する方法としては、任意の方法を採用可能であり、例えば、鉄含有酸化物の材料粉末の組成を調整する方法を採用可能である。
【0098】
B−6.鉄の含有率差について:
A−41番からA−45番(表3)の鉄の含有率差の分布範囲は、1.6wt%以上、5.0wt%以下であり、A−1番からA−35番の鉄の含有率差よりも小さかった。そして、A−41番からA−45番は、3dB以下というA−1番からA−35番と比べて小さいノイズバラツキを実現できた。
【0099】
表3に示すように、A−41番からA−45番の他の構成は、A−1番からA−35番の構成と同様であったので、両者の間のノイズバラツキの違いは、鉄の含有率差の影響であると推定される。鉄の含有率差が小さい場合にノイズバラツキが小さくなる理由は、以下のように推定される。鉄の含有率差が小さい、すなわち、2次粒子(磁性粒領域835(図2))の内部での鉄の分布の偏りが小さい場合には、2次粒子の内部での磁性体の偏りが小さい。従って、2次粒子を覆う被覆領域825を通る複数の導電経路の間で、磁性体によるノイズ減衰の効果の差が抑制される。この結果、ノイズバラツキが小さくなる、と推定される。
【0100】
良好なノイズバラツキを実現したA−41番からA−45番の鉄の含有率差は、1.6、2.4、3.5、4.1、5.0(wt%)であった。鉄の含有率差の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)を、上記の5個の値を用いて定めてもよい。具体的には、上記の5個の値のうちの任意の値を、鉄の含有率差の好ましい範囲の下限として採用してもよい。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用してもよい。例えば、鉄の含有率差の好ましい範囲として、1.6wt%以上、5.0wt%以下の範囲を採用してもよい。なお、鉄の含有率差が小さいほど、複数の導電経路の間で磁性体によるノイズ減衰の効果の差が小さくなると推定され、そして、ノイズバラツキが小さくなると推定される。従って、鉄の含有率差が小さいことが好ましく、鉄の含有率差がゼロwt%であってもよい。鉄の含有率差の好ましい範囲として、ゼロwt%以上、5.0wt%以下の範囲を採用してもよい。なお、A−41番からA−45番では、導電領域820の組成として、Niとパーマロイ(A−44番)とが評価された。これらの導電性物質に限らず、A−31番からA−35番が示すように、他の種々の導電性物質(例えば、インコネル、Cu、LaMnO、C、TiC)を採用可能と、推定される。
【0101】
なお、表3に示すように、A−46番からA−53番も、3dB以下のノイズバラツキを実現した。これらのサンプルの鉄の含有率差は、0.5、0.9、1.5、1.9(wt%)のいずれかであった。このように、複数種類のサンプルが、鉄の含有率差が上記の好ましい範囲内である場合にノイズバラツキが小さくなることを示した。
【0102】
なお、鉄の含有率差を調整する方法としては、任意の方法を採用可能である。例えば、1次粒径を小さくすることによって、鉄の含有率差を小さくできる。また、2次粒子の形成を、少しずつゆっくり進行させることによって、鉄の含有率差を小さくできる。
【0103】
B−7.Si、B、P、アルカリ金属について:
表3のA−46番からA−53番は、複合部200に、Si、B、Pのいずれかと、アルカリ金属と、が含まれるサンプルである。各サンプルに含まれる元素の組み合わせは、以下の通りである。
A−46番:Si :Na
A−47番:Si、P :Mg、Ca
A−48番:Si、B :Ca、K
A−49番:Si、B、P:K
A−50番:Si :Na
A−51番:Si、P :Mg、Ca
A−52番:Si、B :Ca、K
A−53番:Si、B、P:K
これらのサンプルは、5%以下というA−1番からA−35番と比べて小さいNG率を実現できた。また、これらのサンプルは、全ての周波数において67dB以下のノイズ強度を実現できた。
【0104】
表3に示すように、A−46番からA−53番の他の構成は、A−1番からA−35番の構成と同様であったので、両者の間のNG率の違いは、複合部200に含まれる元素の違いによると推定される。Si、B、Pのいずれかと、アルカリ金属とが、複合部200に含まれる場合、複合部200の焼成時に低融点相が形成されるので、複合部200が緻密化される。この結果、複合部200の耐久性(具体的には、耐衝撃性能)が向上する。また、焼成された複合部200内に微少な気孔が残ることが抑制される。この結果、微少な気孔に起因する容量成分が小さくなるので、ノイズ減衰の効果を向上できる。また、微少な気孔での部分的な放電が抑制されるので、ノイズを抑制できる。
【0105】
なお、耐衝撃性の向上は、Si、B、Pのいずれかと、アルカリ金属との、上記の組み合わせに限らず、他の種々の組み合わせを採用可能と推定される。一般的には、セラミック領域810が、Si、B、Pのうちの少なくとも1つを含み、複合部200が、アルカリ金属成分の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0106】
B−8.アルカリ金属の含有率について:
A−50番からA−53番(表3)のアルカリ金属の含有率は、0.5、2.1、4.6、6.5(wt%)のいずれかであった。これらの含有率は、A−46番、A−49番の含有率(0.1wt%、0.4wt%)よりも大きく、かつ、A−47番、A−48番の含有率(7.2wt%、8.6wt%)よりも小さかった。
【0107】
A−50番とA−46番とを比較すると、アルカリ金属の含有率が0.5wt%から0.4wt%に減少することによって、ノイズ強度が以下のように増大した。すなわち、30MHzでは、48dBから55dBに、100MHzでは、45dBから53dBに、300MHzでは、41dBから50dBからに、ノイズ強度が増大した。アルカリ金属の含有率が過度に小さい場合、焼成された複合部200内に微少な気孔が残りやすいので、ノイズ減衰の効果が弱くなると推定される。
【0108】
A−53番とA−48番とを比較すると、アルカリ金属の含有率が6.5wt%から8.6wt%に増大することによって、ノイズ強度が以下のように増大した。すなわち、30MHzでは、56dBから64dBに、100MHzでは、54dBから62dBに、300MHzでは、53dBから63dBに、ノイズ強度が増大した。アルカリ金属の含有率が過度に大きい場合、複合部200の焼成時にアルカリ金属と鉄含有酸化物とが反応相を形成するので、ノイズ減衰の効果が弱くなると推定される。
【0109】
アルカリ金属の含有率が0.5wt%以上、6.5wt%以下であるA−50番からA−53番においては、良好なノイズ強度を実現できた。このように、良好なノイズ強度を実現したA−50番からA−53番のアルカリ金属の含有率は、0.5、2.1、4.6、6.5(wt%)であった。アルカリ金属の含有率の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)を、上記の4個の値を用いて定めてもよい。具体的には、上記の4個の値のうちの任意の値を、含有率の好ましい範囲の下限として採用してもよい。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用してもよい。例えば、アルカリ金属の含有率の好ましい範囲として、0.5wt%以上、6.5wt%以下の範囲を採用してもよい。なお、アルカリ金属の含有率を調整する方法としては、任意の方法を採用可能であり、例えば、複合部200の材料粉末に添加されるアルカリ金属を含む物質の量を調整する方法を採用可能である。
【0110】
以上、「1次粒径」と「気孔率」と「2次粒径」と「鉄含有酸化物の組成」と「鉄の含有率差」と「Si、B、P、アルカリ金属」と「アルカリ金属の含有率」との好ましい構成について説明した。これらの7種類の好ましい構成は、互いに共存可能な構成である。従って、複合部200の構成としては、これらの7種類の好ましい構成から任意に選択された1種類以上の好ましい構成を適用して得られる構成を、採用可能である。
【0111】
C.変形例:
(1)磁性領域830に含まれる鉄含有酸化物の組成が、「M1+AOFe2−A」で表される場合、元素「M」と値「A」との組み合わせとしては、上記のサンプルの組み合わせに代えて、他の種々の組み合わせを採用可能である。例えば、元素「M」としては、上記のサンプルの元素に限らず、Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Mg, Zn, Caのうちの少なくとも1種を採用可能と推定される。元素「M」として2種以上の元素が用いられる場合、それらの元素の合計比率が「1+A」であればよい。また値「A」としては、−0.5以上、0.5以下の任意の値を採用可能である。
【0112】
(2)磁性領域830に含まれる鉄含有酸化物の組成が、「QFe12」で表される場合、元素「Q」としては、Y, Lu, Yb, Tm, Er, Ho, Dy, Tb, Gd, Smのうちの2種以上を採用してもよい。いずれの場合も、元素「Q」に対応する全ての元素の合計比率が「3」であればよい。
【0113】
(3)磁性領域830に含まれる鉄含有酸化物は、「M1+AOFe2−A」で表される上記の好ましい鉄含有酸化物と、「QFe12」で表される上記の好ましい鉄含有酸化物と、の少なくとも一方を含むことが好ましい。さらに、磁性領域830に含まれる鉄含有酸化物は、NiZnFe(0.3≦X≦0.8、 0.2≦Y≦0.7、 1.5≦Z≦2.5、X+Y+Z=3)で表される鉄含有酸化物を含むことが、特に好ましい。なお、磁性領域830には、2種類以上の鉄含有酸化物が含まれてもよい。例えば、「M1+AOFe2−A」で表される鉄含有酸化物と、「QFe12」で表される鉄含有酸化物とが、磁性領域830に含まれていてもよい。
【0114】
(4)複合部200の導電領域820を形成する導電性物質としては、良好なノイズ強度を実現したA−1番からA−53番の導電性物質(例えば、Ni、インコネル、Cu、LaMnO、C、TiC、パーマロイ)から任意に選択された導電性物質を採用可能と推定される。また、これらの導電性物質に限らず、他の種々の導電性物質を採用可能と推定される。例えば、導電領域820の材料としては、金属と、炭素と、炭素化合物と、ペロブスカイト型酸化物と、のうちの少なくとも1つを含む材料を採用してもよい。金属としては、例えば、Ag、Cu、Ni、Sn、Fe、Cr、インコネル、センダスト、パーマロイから任意に選択された1以上の金属を採用可能である。炭素化合物としては、例えば、Cr、TiCから任意に選択された1以上の化合物を採用可能である。ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、LaMnO、SrTiO、SrCrOから任意に選択された1以上の化合物を採用可能である。また、導電領域820を形成する導電性物質は、複数種類の導電性物質を含んでもよい。一般的には、電気抵抗率が50Ω・m以下の導電性物質を採用すれば、大電流が流れた場合の発熱による劣化を抑制できる。
【0115】
(5)複合部200に含まれるセラミックは、導電性物質と磁性体(ここでは、鉄含有酸化物)とを支持している。このように導電性物質と磁性体とを支持するセラミックとしては、種々のセラミックを採用可能である。例えば、非晶質のセラミックを採用してもよい。非晶質のセラミックとしては、例えば、SiO、B、Pから任意に選択された1以上の成分を含むガラスを採用可能である。これに代えて、結晶性のセラミックを採用してもよい。結晶性のセラミックとしては、例えば、LiO−Al−SiO系ガラスなどの結晶化ガラス(ガラスセラミックとも呼ばれる)を採用してもよい。また、Si、B、Pを含まないセラミックを採用してもよい。
【0116】
(6)複合部200の製造方法としては、絶縁体10の貫通孔12の内に複合部200の材料を配置して焼成する方法に代えて、他の任意の方法を採用可能である。例えば、成形型を用いて複合部200の材料を円柱状に成形し、成形体を焼成することによって円柱状の焼成済の複合部200を形成してもよい。そして、絶縁体10の貫通孔12内に接続部300の材料を投入するときに、第1シール部60の材料粉末と、複合部200の材料粉末の代わりの焼成済の複合部200と、第2シール部80の材料粉末とを、貫通孔12内に挿入すればよい。そして、絶縁体10を加熱した状態で端子金具40を後開口14から貫通孔12に挿入することによって、接続部(例えば、図1の接続部300)を形成できる。
【0117】
(7)スパークプラグの構成としては、図1で説明した構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、第1チップ29と第2チップ39との少なくとも一方を省略してもよい。また、接地電極30の先端部が、中心電極20の外周面と対向して、ギャップを形成してもよい。
【0118】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0119】
5...ガスケット、6...第1後端側パッキン、7...第2後端側パッキン、8...先端側パッキン、9...タルク、10...絶縁体、11...第2縮外径部、12...貫通孔(軸孔)、13...脚部、14...後開口、15...第1縮外径部、16...縮内径部、17...先端側胴部、18...後端側胴部、19...大径部、20...中心電極、21...外層、22...芯部、27...軸部、28...フランジ部、29...第1チップ、30...接地電極、31...先端部、35...母材、36...芯部、37...軸部、39...第2チップ、40...端子金具、41...キャップ装着部、42...鍔部、43...脚部、50...主体金具、51...工具係合部、52...ネジ部、53...加締部、54...座部、55...胴部、56...縮内径部、58...変形部、59...貫通孔、60...第1シール部、80...第2シール部、100...スパークプラグ、200...複合部、300...接続部、800...対象領域、810...セラミック領域、820...導電領域、825...被覆領域、830...磁性領域、832...気孔、835...粒領域(磁性粒領域)、835c...仮想円、835i...内部分、835o...縁部分、835s...表面、840...複合粒領域、900...断面、g...ギャップ、SP...空間、CL...中心軸(軸線)、Df...先端方向(前方向)、Dfr...後端方向(後方向)、Dc...直径(近似径)、D1...長径、D2...短径、CG...対象粒子、Da...粒径、DG1、DG2...対角線
【要約】
【課題】 磁性体を用いて電波ノイズを抑制する。
【解決手段】
スパークプラグは、絶縁体の貫通孔内で、中心電極と端子金具とを接続する接続部を備える。接続部は、複合部を備える。複合部は、磁性物質である鉄含有酸化物の複数の1次粒子によって形成された複数の2次粒子と、複数の2次粒子のそれぞれを被覆する導電性物質と、を含む。鉄含有酸化物は、M1+AOFe2−A(-0.5≦A≦0.5。Mは、Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Mg, Zn, Caのうちの少なくとも1種)と、QFe12(Qは、Y, Lu, Yb, Tm, Er, Ho, Dy, Tb, Gd, Smのうちの少なくとも1種)と、の少なくとも一方を含む。複合部の軸線を含む断面において、1次粒子の平均粒径は、0.5μm以上、100μm以下であり、2次粒子の平均粒径は、0.5mm以上、2mm以下であり、2次粒子の内部の気孔率は、5%以下である。
【選択図】 図1
図1
図2
図3