(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0010】
本発明のセルロースナノファイバーは以下の条件を満たす。
【0011】
(A)数平均繊維径
上記セルロースナノファイバーの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であるが、好ましくは2nm以上150nm以下であり、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、特に好ましくは2nm以上80nm以下である。上記数平均繊維径が2nm未満であると、セルロースナノファイバーが溶解することにより、皮膜にした際の弾性率が低下するおそれがあり、上記数平均繊維径が500nmを超える場合、皮膜にした際のセルロースナノファイバー同士のネットワーク形成が困難となり、弾性率が低下するおそれがある。
【0012】
上記セルロースナノファイバーの最大繊維径は、セルロースナノファイバーの分散性の点で、1000nm以下であることが好ましく、特に好ましくは500nm以下である。
上記セルロースナノファイバーの数平均繊維径および最大繊維径は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、最大繊維径および数平均繊維径を算出する。
【0013】
(B)平均アスペクト比
上記セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は50以上1000以下であるが、好ましくは100以上1000以下より好ましくは200以上1000以下である。平均アスペクト比が50未満であると皮膜にした際の弾性率が低下するおそれがある。
【0014】
上記セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、例えば以下の方法で測定することが出来る、すなわち、セルロースナノファイバーを親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、セルロースナノファイバーの数平均繊維径、および繊維長を観察した。すなわち、各先に述べた方法に従い、数平均繊維径、および繊維長を算出し、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記の式(1)に従い算出した。
【0015】
【数1】
(C)セルロースI型結晶構造
上記セルロースナノファイバーは、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース原料を微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成する。
上記セルロースナノファイバーを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0016】
(D)アニオン性官能基
上記セルロースナノファイバーはアニオン性官能基を有する。
【0017】
本発明のアニオン性官能基としては特に制限されないが具体的には、カルボキシル基、ホスホニウム基、スルホニウム基が挙げられるが、これらの内、
セルロースへのアニオン性官能基の導入の容易さという理由からカルボキシル基が好ましい。
【0018】
セルロースにカルボキシルを導入する方法としては、セルロースの水酸基にカルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法、セルロースの水酸基を酸化する事によりカルボキル基に変換する方法が挙げられる。
【0019】
上記カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、具体的にはハロゲン化酢酸が挙げられ、ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸等が挙げられる。
【0020】
上記カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0021】
上記カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。
【0022】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0023】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されないが、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0024】
上記セルロースの水酸基を酸化する方法としては特に制限されないが具体的には、N−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させる方法が挙げられる。
本発明において、セルロースにカルボキシル基を導入する方法としては、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかであることから、セルロースの水酸基を酸化する方法が好ましい。以下、水酸基の酸化によりカルボキシル基が導入されたセルロースを酸化セルロースという。
【0025】
上記酸化セルロースは、天然セルロースを原料とし、水中においてN − オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、および水を含浸させた反応物繊維を溶媒に分散させる分散工程を含む製造方法により得ることができる。
【0026】
本発明のセルロースナノファイバーのセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、またはカルボキシル基のいずれかとなっていることが好ましい。カルボキシル基の含量(カルボキシル基量)はセルロースナノファイバーを皮膜にした際の弾性率と耐水性向上の点から0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは1.5mmol/g以上2.0mmol/g以下の範囲である。
【0027】
上記酸化セルロースのカルボキシル基量の測定は、例えば、乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式(2)に従いカルボキシル基量を求めることができる。
【0028】
【数2】
なお、カルボキシル基量の調整は、後述するように、セルロースナノファイバーの酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより行うことができる。
【0029】
上記酸化セルロースは、上記酸化変性後、還元剤により還元させることが好ましい。これにより、アルデヒド基およびケトン基の一部ないし全部が還元され、水酸基に戻る。なお、カルボキシル基は還元されない。そして、上記還元により、上記セルロースナノファイバーの、セミカルバジド法による測定でのアルデヒド基とケトン基の合計含量を、0.3mmol/g以下とすることが好ましく、特に好ましくは0〜0.1mmol/gの範囲、最も好ましくは実質的に0mmol/gである。これにより、セルロースナノファイバーの分子量低下が抑制され、皮膜の高湿度下での高い耐水性および高弾性率を長期間維持することができる。
【0030】
上記酸化セルロースが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMPO)等のN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであり、上記酸化反応により生じたアルデヒド基およびケトン基が、還元剤により還元されたものであると、上記セルロースナノファイバーを容易に得ることができるようになるため好ましい。また、上記還元剤による還元が、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)によるものであると、上記観点からより好ましい。
【0031】
セミカルバジド法による、アルデヒド基とケトン基との合計含量の測定は、例えば、つぎのようにして行われる。すなわち、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうする。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌する。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えて、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式(3)に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応しシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシル基とは反応しないことから、上記測定により、アルデヒド基とケトン基のみを定量できると考えられる。
【0032】
【数3】
上記酸化セルロースは、繊維表面上のセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化変性されてアルデヒド基、またはカルボキシル基のいずれかとなっている。このセルロースナノファイバー表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されているかどうかは、例えば、
13C−NMRチャートにより確認することができる。すなわち、酸化前のセルロースの
13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりにカルボキシル基等に由来するピーク(178ppmのピークはカルボキシル基に由来するピーク)が現れる。このようにして、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることを確認することができる。
【0033】
また、上記酸化セルロースにおけるアルデヒド基の検出は、例えば、フェーリング試薬により行うこともできる。すなわち、例えば、乾燥させた試料に、フェーリング試薬(酒石酸ナトリウムカリウムと水酸化ナトリウムとの混合溶液と、硫酸銅五水和物水溶液)を加えた後、80℃で1時間加熱したとき、上澄みが青色、セルロースナノファイバー部分が紺色を呈するものは、アルデヒド基は検出されなかったと判断することができ、上澄みが黄色、セルロース繊維部分が赤色を呈するものは、アルデヒド基は検出されたと判断することができる。
【0034】
(E)一般式(1)で表される化合物
本発明のセルロースナノファイバーはアニオン性官能基と下記一般式(1)で表される化合物(以下、アミノシラン基を有する化合物ということもある。)がイオン結合で結合しているものである。
【0035】
【化3】
ただし、R
1は水素原子、炭素数1以上10以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アルキレン基、アリール基、もしくはアミノアルキル基を有する1級、2級、もしくは3級アミノ基、またはウレイド基を示し、Xは炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキレン基もしくはフェニレン基を示し、R
2、R
3、およびR
4はそれぞれ、ヒドロキシル基、炭素数1以上10以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基もしくはアルコキシル基、またはアリール基を示し、R
2、R
3、およびR
4は同一であっても異なっていてもよい。
【0036】
これは、セルロースナノファイバーのアニオン性官能基とイオン結合した上記アミノシラン基を有する化合物が、更に、セルロースナノファイバーのヒドロキシル基とシロキサン結合を形成しセルロースナノファイバー間を架橋する事により、高湿度下でも高い耐水性および高い弾性率を有するセルロースナノファイバーの皮膜を得ることができ、更に、高い弾性率を有する樹脂組成物を得ることができると推測される。
【0037】
上記一般式(1)で表される化合物としては特に制限されないが具体的には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルジエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−メチルジメトキシシラン、2−アミノエチル−メチルジエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、4−アミノブチル−メチルジメトキシシラン、4−アミノブチル−メチルジエトキシシラン、6−アミノヘキシルトリメトキシシラン、6−アミノヘキシルトリエトキシシラン、6−アミノヘキシル−メチルジメトキシシラン、6−アミノヘキシル−メチルジエトキシシラン、8−アミノオクチルトリメトキシシラン、8−アミノオクチルトリエトキシシラン、8−アミノオクチル−メチルジメトキシシラン、8−アミノオクチル−メチルジエトキシシラン、4−アミノフェニルトリメトキシシラン、4−アミノフェニルトリエトキシシラン、4−アミノフェニル−メチルジメトキシシラン、4−アミノフェニル−メチルジエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルメチルジメトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルメチルジエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルメチルジエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン等が挙げられる。これらは1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0038】
上記化合物のうち、R
2、R
3、およびR
4が全て炭素数1以上10以下の直鎖もしくは分岐のアルコキシル基であれば、上記化合物とセルロースナノファイバーのヒドロキシル基のシロキサン結合が容易に形成さやすいため、好ましい。
【0039】
上記R
2、R
3、およびR
4が全て炭素数1以上10以下の直鎖もしくは分岐のアルコキシル基である化合物としては、特に制限されないが具体的には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N−メチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、(N,N’−ジメチル−2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、6−アミノヘキシルトリメトキシシラン、6−アミノヘキシルトリエトキシシラン、8−アミノオクチルトリメトキシシラン、8−アミノオクチルトリエトキシシラン、4−アミノフェニルトリメトキシシラン、4−アミノフェニルトリエトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンが挙げられる。これらは1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。これらのうち、3-アミノプロピルトリメトキシシラン, 3-アミノプロピルトリメトキシシラン, 3-アミノプロピルトリメトキシシラン, 3-アミノプロピルトリエトキシシラン, N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランはよりシロキサン結合形成が容易なために特に好ましい。
【0040】
本発明のセルロースナノファイバーは、(I)セルロースを酸化する酸化工程、(II)酸化セルロース分散体のpHを2以下に調整して精製する精製工程、(III)精製したセルロースを上記アミノシラン基を有する化合物で中和する中和工程、(IV)中和したセルロースを水等の分散媒の存在下で分散する分散工程、を備えることが好ましく、具体的には以下の各工程により製造することが好ましい。
【0041】
(I)酸化工程
天然セルロースとN−オキシル化合物とを水(分散媒体)に分散させた後、共酸化剤を添加して、反応を開始する。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なす。ここで、共酸化剤とは、直接的にセルロース水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN−オキシル化合物を酸化する物質のことである。
【0042】
上記天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等をあげることができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプが好ましい。上記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。また、上記天然セルロースとして、単離、精製の後、乾燥させない(ネバードライ)で保存していたものを使用すると、ミクロフィブリルの集束体が膨潤しやすい状態であるため、反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができるため好ましい。
【0043】
上記反応における天然セルロースの分散媒体は水であり、反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(天然セルロース)の充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。通常は、反応水溶液の重量に対して約5%以下であるが、機械的撹拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
【0044】
また、上記N−オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物があげられる。上記N−オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルが好ましく、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4−アセトアミド−TEMPOが好ましい。上記N−オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0045】
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、反応速度の点から、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0046】
上記反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。所望のカルボキシル基量等を得るためには、共酸化剤の添加量と反応時間により、酸化の程度を制御する。通常、反応時間は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
【0047】
(II)精製工程
つぎに、未反応の共酸化剤(次亜塩素酸等)や、各種副生成物等を除く目的で精製を行う。具体的には、各種の酸により反応混合物のpHを約2に調整し、精製水をふりかけながら遠心分離機で固液分離を行い、ケーキ状の酸化セルロースを得る。固液分離は濾液の電気伝導度が5mS/m以下となるまで行う。
【0048】
上記精製工程における精製方法は、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどのような装置を利用しても差し支えない。このようにして得られる酸化セルロースの水分散体は、絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10質量%〜50質量%の範囲にある。この後の分散工程を考慮すると、50質量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0049】
(III)中和工程
つぎに、精製した酸化セルロースを上記アミノシラン基を有する化合物で中和を行う。具体的には、酸化セルロースの水分散体に水等の分散媒を加え所定の酸化セルロースの固形分濃度に調整し、アミノシラン基を有する化合物を添加し攪拌することにより行うことができる。この場合の分散体のpHは5〜10の範囲(好ましくは6〜8の範囲)であることが好ましい。pHが上記範囲未満であると、酸により酸化セルロース繊維同士がからまって、ほぐれにくく、後の分散工程にて高圧分散できないからであり、逆に、pHが上記範囲を超えると、アルカリの作用により粘度が下がるからである。アミノシラン基を有する化合物は水等の分散媒で希釈して酸化セルロースの水分散体に添加しても良い。
【0050】
酸化セルロースの固形分濃度は、酸化セルロースの水分散体が攪拌可能な粘度であれば特に制限はされないが、具体的には0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.2質量%以上5質量%以下である。酸化セルロースの固形分濃度が上記範囲内であれば、アミノシラン基を有する化合物を均一に混合することが可能であるため好ましい。上記攪拌時間はアミノシラン基を有する化合物が酸化セルロースの水分散体中に均一に分散できる時間であれば特に制限されない。
【0051】
(IV)分散工程
上記中和工程にて得られた酸化セルロースの水分散体を、水または水と上記有機溶媒の混合溶媒に分散させ分散処理を行う。処理に伴って粘度が上昇し、微細化処理されたセルロースナノファイバーの分散体を得ることができる。
【0052】
上記分散工程で使用する分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、経済的に有利に粘性水系組成物を得ることが出来る点で好ましい。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機等を用いても差し支えない。また、2種類以上の分散機を組み合わせて用いても差し支えない。
【0053】
本発明のホモジナイザーによる処理条件としては、特に限定されるものではないが、圧力条件としては、30MPa以上、好ましくは100MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、酸化セルロースに予備処理を施すことも可能である。(V)還元工程
上記酸化セルロースの製造において、上記(I)酸化工程後に、さらに還元反応を行うことが好ましい。具体的には、酸化反応後の反応物繊維を精製水に分散し、水分散体のpHを約10に調整し、各種還元剤により還元反応を行う。 本発明に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することが可能であるが、好ましくは、LiBH
4、NaBH
3CN、NaBH
4等があげられる。なかでも、コストや利用可能性の点から、NaBH
4が好ましい。
【0054】
還元剤の量は、酸化セルロースを基準として、0.1〜4質量%の範囲が好ましく、特に好ましくは1〜3質量%の範囲である。反応は、室温または室温より若干高い温度で、通常、10分〜10時間、好ましくは30分〜2時間行う。
【0055】
本発明の樹脂組成物は上記セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂を含有するものである。
【0056】
上記熱可塑性樹脂は本発明の技術分野で一般的に使用できるものが使用できる。特に限定するものではないが具体的には、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレンメチルメタクリレートコポリマー、スチレンアクリロニトリルコポリマー、およびポリエチレンテレフタラート(PET)等が挙げられる。
【0057】
上記アクリル酸エステル樹脂とは、アクリル酸エステル単量体からなるポリマーである。上述したメタクリル酸エステル樹脂とは、メタクリル酸エステル単量体とアクリル酸エステル単量体とからなるポリマーであり、例えばポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate、略称PMMA)である。
【0058】
上述したアクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピルなどの単量体が選ばれる。
【0059】
これらの内、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、及びメタクリル樹脂から選択された1種又は2種以上が好ましい。
【0060】
本発明の樹脂組成物におけるセルロースナノファイバーの含有量は0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上20質量%以下がより好ましい。セルロースナノファイバーの含有量が0.1質量%未満の場合、樹脂組成物の硬化物の耐久力と弾性率の向上が見られないおそれがあり、50質量%を超える場合は、樹脂自体の特性が失われるおそれがある。
【0061】
本発明の樹脂組成物には本発明の効果を妨げない範囲で他の任意成分を添加してもよい。任意成分としては本発明の技術分野で使用されるものを添加することができ、特に制限されないが具体的には界面活性剤、でんぷん類、アルギン酸等の多糖類、ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質、タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物、着色剤、可塑剤、香料、顔料、流動調整剤、レベリング剤、導電剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、紫外線分散剤、消臭剤の添加剤を配合することができる。
本発明の樹脂組成物は、例えば、セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂とを混合して均一混合物を得、該均一混合物を任意の形状に成形する工程を有する製造方法によって製造することができる。
【0062】
本発明の樹脂組成物の原料として用いるセルロースナノファイバーの形態としては、セルロースナノファイバーと共に併用される熱可塑性樹脂や混錬に用いる装置等を考慮し、粉末状(但し、セルロースナノファイバーが凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)、懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)などから任意に選択できる。
【0063】
粉末状のセルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロースナノファイバーの水分散液をそのまま乾燥させた乾燥物;該乾燥物を機械処理で粉末化したもの;セルロースナノファイバーの水分散液をアルコール等の非水系溶媒と混合させてセルロースナノファイバーを凝集させ、その凝集物を乾燥させたもの;該凝集物の未乾燥物;セルロースナノファイバーの水分散液を公知のスプレードライ法により粉末化したもの;セルロースナノファイバーの水分散液を公知のフリーズドライ法により粉末化したもの等が挙げられる。上記スプレードライ法は、上記セルロースナノファイバーの水分散液を気中で噴霧し乾燥させる方法である。
【0064】
また、懸濁液状のセルロースナノファイバーとしては、セルロースナノファイバーの水分散液をそのまま使用することもできるし、あるいは粉末状のセルロースナノファイバーを任意の媒体に分散させたものを使用することもできる。かかる媒体は、混合される樹脂や後述する混合、成形の方法によって適宜選択され、例えば、水、アルコール等を用いることができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、加熱されて溶融状態の熱可塑性樹脂にセルロースナノファイバーを添加し、該樹脂が溶融状態を維持しているうちにこれらを混錬し、こうして得られた均一混合物を成形する方法(以下、溶融混錬法ともいう)により製造することができる。
【0066】
その場合、混練装置としては、例えば単軸軸混練押出機、二軸混練押出機、加圧ニーダー等の公知の装置が使用できる。例えば、粉末状のセルロースナノファイバーを溶融状態の熱可塑性樹脂中に添加した後、二軸混錬機を用いてこれらを混練して樹脂ペレットを得、該樹脂ペレットを加熱圧縮することにより、シート状の親水性樹脂組成物が得られる。あるいは、公知のプラスチック成形法、具体的には射出成形、注形成形、押出成形、ブロー成形、延伸成形、発泡成形等を利用して、ブロック状その他の立体形状を有する樹脂組成物の硬化物を得ることができる。
【0067】
また、本発明のセルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂の均一混合物は、水等の溶媒中に本発明のセルロースナノファイバーを分散させてスラリーを得、該スラリーに、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂を適当な溶媒に溶解もしくは分散させた液を添加する方法によっても得られる。この均一混合物(スラリー)における溶媒としては、通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用しても良く、これらの溶媒の混合物も好適に使用できる。また、均一混合物の固形分濃度は、分散を容易にする観点から、2質量%以下が好ましい。また、スラリーの調製に使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。
【0068】
本発明の樹脂組成物硬化物は任意の形状に成形可能であり、例えばフィルムやシート等の薄状物、直方体や立方体等のブロック状その他の立体形状として提供される。
【実施例】
【0069】
つぎに、実施例について比較例とあわせて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
【0070】
[セルロース繊維の製造]
〔製造例1:セルロース繊維A1(実施例用)の調製〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維A1を調製した。
【0071】
〔製造例2:セルロース繊維A2(実施例用)の調製〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して6.5mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じて、セルロース繊維A2を調製した。
【0072】
〔製造例3:セルロース繊維A3(実施例用)の調製〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して12.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じて、セルロース繊維A3を調製した。
【0073】
〔セルロース繊維A’1(比較例用)の調製〕
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)50gをエタノール4950gに分散させ、パルプ濃度1%の分散液を調製した。この分散液をセレンディピターMKCA6−3(増幸産業社製)で30回処理し、セルロース繊維A’1を得た。
【0074】
〔セルロース繊維A’2(比較例用)の調製〕
原料の針葉樹パルプに替えて再生セルロースを使用するとともに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、再生セルロース1.0gに対して27.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法に準じて、セルロース繊維A’2を調製した。
【0075】
上記のようにして得られたセルロース繊維A1〜A3,A’1,A’2について、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、下記の表1に示した。
【0076】
<結晶構造>
X線回折装置(リガク社製、RINT−Ultima3)を用いて、セルロース繊維の回折プロファイルを測定し、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「有」と評価し、ピークが見られない場合は「無」と評価した。
【0077】
<数平均繊維径、平均アスペクト比の測定>
セルロース繊維に純水を加えて1%に希釈し、高圧ホモジナイザー(H11、三和エンジニアリング社製)を用いて圧力100MPaで1回処理した。そのときのセルロース繊維の数平均繊維径、および繊維長を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子社製JEM−1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、数平均繊維径、および繊維長を算出した。さらに、これらの値を用いて平均アスペクト比を下記の式(1)に従い算出した。
【0078】
【数4】
<カルボキシル基量の測定>
セルロース繊維0.25gを水に分散させたセルロース水分散体60mlを調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行った。測定はpHが11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式(2)に従いカルボキシル基量を求めた。
【0079】
【数5】
<カルボニル基量の測定(セミカルバジド法)>
セルロース繊維を約0.2g精秤し、これに、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうした。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌した。その後、5%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加え、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記の式(3)に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めた。
【0080】
【数6】
【0081】
【表1】
N.D.:検出せず
【0082】
上記のように、セルロース繊維A’1は、繊維表面の水酸基が酸化されておらず、セルロース繊維A’2は、セルロースI型結晶構造を有していない。なお、上記セルロース繊維A1〜A3に関し、セルロース繊維表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基等に酸化されているかどうかについて、
13C−NMRチャートで確認した結果、酸化前のセルロースの
13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れていた。このことから、セルロース繊維A1〜A6は、いずれもグルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基等に酸化されていることが確認された。
【0083】
[セルロースナノファイバー皮膜の調整]
〔実施例1〕
上記セルロース繊維A1に、水と上記セルロース繊維A1のカルボキシル基量と等量の3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM−903、信越化学社製)を加えて、0.5%に希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、0.5%変性セルロースナノファイバー水分散溶液を調製した。上記0.5%変性セルロースナノファイバー水分散溶液を縦15cm×横15cmに区切ったガラス板上に流し込み、60℃で一晩、120℃で30分間乾燥させることでセルロースナノファイバー皮膜を調整した。
【0084】
〔実施例2〕
セルロース繊維A1を、セルロース繊維A2とした以外は実施例1の調製法に準じて、セルロースナノファイバー皮膜を調製した。
【0085】
〔実施例3〕
セルロース繊維A1を、セルロース繊維A3とした以外は実施例1の調製法に準じて、セルロースナノファイバー皮膜を調製した。
【0086】
〔実施例4〕
3−アミノプロピルトリメトキシシランを、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)とした以外は実施例1の調製法に準じて、セルロースナノファイバー皮膜を調製した。
【0087】
〔実施例5〕
3−アミノプロピルトリメトキシシランを、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)とした以外は実施例1の調製法に準じて、セルロースナノファイバー皮膜を調製した。
【0088】
〔比較例1〕
3−アミノプロピルトリメトキシシランを、24%NaOH水溶液とした以外は実施例3の調製法に準じて、セルロースナノファイバー皮膜を調製した。
【0089】
〔比較例2〕
3−アミノプロピルトリメトキシシランを、トリエチルアミンとした以外は実施例3の調製法に準じて、セルロースナノファイバー皮膜を調製した。
【0090】
〔比較例3〕
上記セルロース繊維A’1に、水を加えて0.5%に希釈し、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理し、0.5%変性セルロースナノファイバー水分散ゲルを調製した。上記0.5%変性セルロースナノファイバー水分散溶液を縦15cm×横15cmに区切ったガラス板上に流し込み、60℃で一晩、120℃で30分間乾燥させることでセルロースナノファイバー皮膜を作製した。その後0.5mmol/Lに調整した3−アミノプロピルトリエトキシシランのエタノール/水(4:1)溶液500mLに上記セルロースナノファイバー皮膜100mgを二時間浸した。二時間後に取り出して、室温で二日間、120℃で二時間乾燥させた後、ソックスレー抽出器を用いて一晩エタノール洗浄し、シラン化合物処理セルロースナノファイバー皮膜を得た。シラン化合物処理後の皮膜の重量とシラン化合物処理前の皮膜の重量から重量増加率を求め、重量増加率を皮膜に固定化されたシラン化合物量とした。固定化されたシラン化合物量は7.5%であった。
【0091】
〔比較例4〕
0.5mmol/L上記3−アミノプロピルトリエトキシシランのエタノール/水(4:1)溶液を、から1mmol/Lにした以外は比較例3の調製法に準じて、シラン化合物処理セルロースナノファイバー皮膜を得た。固定化されたシラン化合物量は15%であった。
【0092】
〔比較例5〕
セルロース繊維A1を、セルロース繊維A’2とした以外は実施例4の調製法に準じて、セルロースナノファイバー皮膜を調製した。
【0093】
[セルロースナノファイバー皮膜の評価]
上記セルロースナノファイバー皮膜に対して、以下の手法を用いて、耐水性と弾性率の評価を行った。その結果を、下記の表2に示す。
【0094】
<耐水性の評価方法>
バーコーター(24μm)を用いて、上記0.5%変性セルロースナノファイバー水分散溶液からスライドガラス上にフィルムを敷き、60℃で1時間、120℃で5分間乾燥させることでテストサンプルを作製した。自動接触角計「DM−500」(協和界面科学株式会社製)を用いて、テストサンプルの表面のイオン交換水(10μL)に対する添加0.1秒後と60秒後の静止接触角を測定した。得られた添加0.1秒後と60秒後の静止接触角を式(4)に代入し、接触角の変化率を求めた。
【0095】
【数7】
接触角の変化率が20%以上なら耐水性は「×」と評価し、20%未満なら耐水性は「○」と評価した。
【0096】
<弾性率の評価方法>
得られた皮膜から短冊型(縦:30mm、横:5mm)に切りとったサンプルについて、引張試験機(ORIENTEC社製、テンシロンRTC−1225A)を用い、試験温度20℃、引張速度5mm/minの条件で引張試験を行い、引張弾性率を測定した。
【0097】
【表2】
上記表2の結果から、実施例の変性セルロースナノファイバー皮膜は、耐水性と引張弾性率の点で良好な結果が得られた。これに対し、比較例1と2の変性セルロースナノファイバー皮膜は、アミノシラン基を有さないため、耐水性と弾性率の点で良好な結果が得られなかった。比較例3と4のシラン化合物処理セルロースナノファイバー皮膜は、アミノシラン基が物理的に固定化されているのみで、弾性率の点で良好な結果が得られなかった。また比較例5の変性セルロースナノファイバー皮膜は、結晶構造をもたないため、弾性率の点で良好な結果が得られなかった。
【0098】
[樹脂組成物硬化物の製造]
〔実施例6〕
ウレタン樹脂エマルジョン水溶液(スーパーフレックス470、第一工業製薬(株)製)13.03g(固形分:4.95g)に、上記実施例3の2%変性セルロースナノファイバーを2.5g(固形分:0.05g)添加し、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)で8000rpm×10分間攪拌することで樹脂組成物を作製した。その後、バッカーで縦15cm×横10cmに区切ったフッ素樹脂加工フライパン上に上記混合溶液を流し込み、室温で一晩、80℃で6時間、120℃で20分間乾燥させることで、樹脂組成物硬化物を調整した。
【0099】
〔実施例7〕
ウレタン樹脂エマルジョン水溶液の量を12.24gに、変性セルロースナノファイバーの量を12.5gとした以外は、実施例6の調製法に準じて、樹脂組成物硬化物を調製した。
【0100】
〔実施例8〕
ウレタン樹脂エマルジョン水溶液の量を11.84gに、変性セルロースナノファイバーの量を25gとした以外は、実施例6の調製法に準じて、樹脂組成物硬化物を調製した。
【0101】
〔実施例9〕
PVA0.99gに、水50gと上記実施例4の2%変性セルロースナノファイバーを0.5g(固形分:0.01g)添加し、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)で8000rpm×10分間攪拌することで樹脂組成物を作製した。その後、バッカーで縦15cm×横10cmに区切ったフッ素樹脂加工フライパン上に上記混合溶液を流し込み、室温で一晩、80℃で6時間、120℃で20分間乾燥させることで、樹脂組成物硬化物を調整した。
【0102】
〔実施例10〕
PVAの量を0.95gに、変性セルロースナノファイバーの量を2.5gとした以外は、実施例9の調製法に準じて、樹脂組成物を調製した。
【0103】
〔実施例11〕
PVAの量を0.9gに、変性セルロースナノファイバーの量を5.0gとした以外は、実施例9の調製法に準じて、樹脂組成物硬化物を調製した。
【0104】
[樹脂組成物硬化物の評価]
上記樹脂組成物硬化物に対して、以下の手法を用いて、弾性率の評価を行った。その結果を、後記の表3に示す。
【0105】
<弾性率の評価方法>
樹脂組成物硬化物から短冊型(縦:30mm、横:5mm)に切りとったサンプルについて、引張試験機(ORIENTEC社製、テンシロンRTC−1225A)を用い、試験温度20℃、引張速度5mm/minの条件で引張試験を行い、引張弾性率を測定した。
【0106】
【表3】
比較例7のウレタン樹脂エマルジョン水溶液単体よりも、実施例6ないし8の樹脂組成物硬化物は弾性率の点で良好な結果が得られた。またPVAの場合も同様に、比較例8のPVA単体よりも、実施例9ないし11の樹脂組成物硬化物は弾性率の点で良好な結果が得られた。
【解決手段】下記条件を満たすセルロースナノファイバー。(A)数平均繊維径が2〜500nm、(B)平均アスペクト比が50〜1000、(C)セルロースI型結晶構造を有する、(D)アニオン性官能基を有する、(E)(D)アニオン性官能基と、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン等様な式(1)で表される、アミノシラン化合物とがイオン結合で結合している